ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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久しぶりのタナトス視点です。

タナトス、ブチギレる。


棚坂樹とグリムロック

 

 

「さてと、役者も揃ったし、推理ショーと洒落込もう。……おいノーチラス。そこのグリムロック(それ)が無駄口挟まないようしとけよ」

 

死んだと思っていたヨルコさんに会えて嬉しそうなノーチラスにあらかじめ釘を刺し、俺は喋り始めた。

 

「さて、グリムロックがどうしてここにいるか、だが。彼、君たちの案に反対してなかったか?」

 

初対面ではあるが、ヨルコさんは普通に頷いてくれた。俺は話を続ける。

 

「うん、だろうな。けど、グリムロックが君たちの計画に反対したのは、あることが見抜かれることを恐れたからだ。別にグリセルダさんのことを思ってたとか、そう言うわけじゃあないんだよな」

 

「え……?」

 

意味がわからない、と言った様子のヨルコさんたち。無理もない、このアインクラッドではいくら仲が良くても結婚まで至るカップルはごく稀だ。離婚するのはさらに少数だろうし。

このことも、全てはヒースクリフから聞いたことだ。

 

兄やアルゴも知らないことを知っている生き字引の博識っぷりに心の中で素直に賛辞を送りつつ、続ける。

 

「結婚すると、ストレージは共有される。グリセルダさんのストレージは、同時にグリムロックのものでもあった。つまり、グリセルダさんを殺したところで、指輪は奪えない。なぜか?グリムロックの手元に転送されるのだから、当然だろう?シュミット、あんたは確かに金を受け取ったんだろ」

 

俺の問いに麻痺から治った大男はあぐらを書いて呆然と首を縦に振った。

 

「中層プレイヤーを攻略組まで引き上げる大金なんざ、指輪を売却するっきゃない。それができるのはグリムロックだけだからな」

 

「そんな……」

 

ヨルコさんが口を抑える。嘘だ、と叫びたいのを必死にこらえているようだった。

 

「おそらく、彼自身は顔が割れてるし、殺人の実行はレッド、ラフコフの誰かに任せたんだろ。睡眠PKは、ポータルで圏外に運び出してやるものだし。あとは共犯のシュミット、そして解決に動く3人を抹殺。……俺たちの目もあるし、本当はもっと計画的に殺すはずだったろうが、君らが動いたからグリムロックも動かざるを得なくなったようだがね」

 

そこでついにノーチラスの剣も恐れていられなくなったのか、グリムロックが口を挟んだ。

その銀縁の丸メガネの下にある、どこか不安を掻き立てられるような柔和な目。例えるなら小物になった本性を現す前の藍染惣右介といったところか、そんな男は、俺の発言に非常に遺憾だ、という表情だった。

 

「タナトス君、それは誤解だ。私がここにいたのは、事の顛末を見届ける責任があると思ってこの場所にいたんだ。そこの怖いお兄さんとお姉さんに従ったのも、そもそもやましいことがなかったからだ」

 

「《隠蔽》スキル使っていてよく言うヨ。俺っちに見つからなかったら動く気なかったロ?」

 

あきれた様子のアルゴにグリムロックは穏やかな表情で返した。

 

「仕方がないでしょう、私はしがない鍛冶屋。この通り丸腰なのにあんなレッドプレイヤーの前に飛び出せると?」

 

シュミット、カインズさん、ヨルコさんの方を見るとやはり半信半疑なのが見て取れる。

再度言い返そうとするアルゴを制すると兄に任せることにした。

 

「初めまして、グリムロックさん。俺はPoH。攻略兼自治ギルド、《ファミリー》のギルドリーダーだ。……さて、本題に入るが、少なくともあんたが《黄金林檎》解散の要因となった指輪事件の主導者はあんたと言う証拠は先程、タナトスが提示した通りだ。ここから、今回の事件もあんたが指輪事件に関わる3人の口を塞ぎ、闇に葬ることが目的ということになる」

 

それを聞いて、グリムロックの口元が歪み、兄の推理の穴をつく。

 

 

 

ことはなかった。

 

 

 

「とはまだ言い切れない。まだ証拠が一つ足りないからな」

 

ここで兄はヨルコさんに向き直る。

 

「この推理には一つだけ穴があってね。もしあの指輪が、たまたまグリセルダが装備していたら、指輪はそこにドロップされてしまうのだが」

 

……盲点だった。

 

「さて、ヨルコさん。俺はグリセルダさんがグリムロックのことを愛していたと信じる上で問おう。彼女は指輪をつけていたと言えるか?」

 

兄はヨルコさんに聞く。ヨルコさんは、その目に烈しい何かを秘めながら首を振る。

 

「リーダーは、笑いながら言ったわ。『SAOでは、指輪は片手に一つずつしか装備できない。右手にギルドリーダーの印章、そして……左手の結婚指輪は外せないなら、私には使えない』って。だから、PoHさん。それは絶対にありえません!」

 

「ふむ。確かに君の言い分は正しそうだが、それだけでは証拠としてはまだ弱い。その言葉の根拠はあるかい?」

 

兄の言葉に強く頷いたヨルコさんは振り向き、すぐそばの小さな墓標に跪くと、そこからあるものを掘り出し、差し出した。

それは小さな箱。

 

《永久保存トリンケット》。

 

ヨルコさんのもつそれはマスタークラスの細工師のみが作成可能な、耐久値無限の保存箱。

大きさはごく小さく、最大でも10センチ四方程度しかないためにアクセサリーくらいしか入れられないが、たとえフィールドに放置していてもこれが自然消滅することはない。

 

ヨルコさんはそれをそっ、と開けると二つの指輪がキラリと輝いた。

まず取り出したのは銀の指輪。

《黄金林檎》の印章であるそれはヨルコがまだ同じものを持っているために別のものである可能は否定され。

 

そして取り出した黄金の細身のリング。

 

「そしてこれは、いつだって彼女が左手の薬指に嵌めてた、あなたとの結婚指輪よ、グリムロック!内側にあなたの名前もある!これでもあなたは言い逃れできる⁉︎」

 

語尾は、涙まじりだった。

 

「どうしてなの、グリムロック…………なんでグリセルダさんを、…………私たちのリーダーを……奥さんを殺してまで、お金が欲しかったの」

 

ろくに抗弁もできずに完全に退路を絶たれたグリムロックは、その言葉を

 

 

 

笑った。

 

 

 

「これは、あの指輪を処分した時の金、シュミットに渡していない分、すなわち私の取り分というやつだ。金貨一枚だって減っちゃいない」

 

「え……?」

 

戸惑う俺たちを尻目に、グリムロックは独白を続けた。

 

曰く、彼女とは現実でも夫婦である。

彼にとってグリセルダとは、一切の不満のない理想的な妻であった。

しかし、この世界に囚われてからはグリセルダ……否、《ユウコ》は変わってしまったのだと。

強く、今までの従順さはかけらも見えないほどに。

 

「私は、弱かった。だから、ユウコに現実世界に戻った時、離婚でも切り出されたら耐えられない。なら、なら!合法的殺人が可能なこの世界なら。ユウコを、永遠の思い出の中に封じてしまいたいと願った私を、誰が責められ……」

 

 

言葉は最後まで紡がれることはなかった。

 

 

「ざっけんじゃねぇぞ、このクソ野郎がぁっ!」

 

 

思い切りグリムロックを殴り飛ばす俺。

カーソルがグリーンからイエローに変わるが、御構い無しに。

 

「てめぇは、グリセルダさんを愛してたんだろうが!たとえ愛した人間に、辛い未来が待ってようと、隠したい過去があろうと、変わらず好きでいてやるのが(てめえ)の役目だろうが!」

 

胸ぐらをつかみ、高いとは言えないが攻略組の1人らしい筋力値に物言わせ、持ち上げる。苦しそうな呻き声を出すグリムロックに、俺は叫ぶ。

 

「てめえのことを愛してたグリセルダさんは、こんな苦しみじゃすまねぇよ!俺はグリセルダさんがどんな人かは知らない!それでも!あんたらは夫婦だろ⁉︎家族だろ⁉︎家族なら、どんなに相容れない部分があろうと!殺そうなんて思っちゃいけねぇ!家族は、てめえだけのものじゃねぇんだ!どんなものだろうと、受け入れ、いい音楽でも聞いたり、ゲームでもして笑いあって、悲しいことがあったら一緒に泣いて!でも時には喧嘩して、殴り合ってでも最後には仲直りして、美味い飯を食う!それが家族、愛し、愛される関係だろうが!」

 

タナトスの脳裏には、ある男との日々、ある女の子との日々がよぎっていた。

 

貧民街暮らしで、誰も信じれなかった年上の少年。彼と思いっきりぶつかり合ったことで、二人は分かり合えた。

 

人を殺してしまった過去を持つ年下の少女。彼女のどんな過去も受け入れ、愛せたから今の自分が、彼女がいる。

 

 

「あんたの身勝手な理想で、掛け替えのない存在を汚してんじゃねぇよ!」

 

 

グリムロックの肩が小さく震えた。

シュミットの声が俺の鼓膜を刺激する。

 

「……タナトス。この男の処遇は、これたちに任せてもらえないか。もちろん、私刑にかけたりはしない。しかし罪は必ず償わせる」

 

その落ち着いた声に、俺の頭は冷えていく。

胸ぐらを掴んでいた手を離し、がしゃりと鎧を鳴らして立ち上がった大男を見上げ、俺は小さく頷いた。

 

「…………任せた」

 

シュミットはグリムロックを立たせ、一言「世話になったな」とだけ言って丘を降りていく。

それにヨルコさんとカインズさんも続く。

 

「ノーチラスさん。キリトさん。本当に、なんとお詫びして……いえ、なんとお礼を言っていいのか。……あ。いえ……それはともかく、二人とも、死なないでくださいね」

 

不吉な言葉を残し、去っていくヨルコさん。

その瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 

「キリトくん…………‼︎」

 

「ノーくん…………‼︎」

 

そこに立つは2人の般若。ドス黒いオーラを体に纏いつつ、キリトとノーチラスを見据えている。

 

「「よくも置いて行ったなぁ‼︎」」

 

ひっ!と短く悲鳴を上げて逃げ出すノーチラスとキリト。

彼らの命は、きっと長くないだろう。

 

合掌。

 

 

***

 

 

そして騒がしいのがいなくなり、場は静寂に満たされる。

 

「──兄貴、アルゴ。帰るか」

 

「──ああ」

 

「──そうだナ」

 

夜は、まだ明けない。

 

しかし、明けない夜はないのだ。

 

二人の兄弟の歩く道に、朝日を幻視した鼠の少女は、にひっと笑い、二人と肩を組む。

 

「よーし!ラフコフもこれで実質壊滅ダ!今日は打ち上げだゾ!」

 

陽気なそのアルゴの様子に面食らった兄弟だったが、微笑むと、返事をした。

 

「「そうだな」」

 

そしてそれにボソッと付け加えるオレンジカーソルの猫耳少年。

 

 

「……まずは、グリーンカーソルに戻さないとね」

 

 

 

宴会は、二日後に延期された。

 




これで圏内事件編は終了となります。

次回は間章です。

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