ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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誤字報告ありがとうございます。
今回から74層攻略編となります。


棚坂樹とキリトと兎

第74層、迷宮区。

剣戟の音が響き渡る。相対する敵の剣が俺の肩を浅く抉る。ちらりとHPバーを見るとまだまだ余裕があり、9割は残っている。

隣に立つ黒ずくめの相棒にアイコンタクトをしたのち、前方にいる敵に両手に持つ何本かナイフを投げ、さっくりその敵を倒すと素手でまた別の敵に向かって走り出す。

 

「っよっと!」

 

敵の攻撃を前方に転がることによって危なげなく避け、何も持たない両手で体をはね上げさせると同時に体術スキルを使用し、敵の顔面を蹴り上げる。

 

相手が人型のリザードマンであってよかった。非常にやりやすい。

 

「ッ!」

 

跳ね上がった体でそのまま宙返りし、鞘から片手剣を抜き、がら空きになった敵の体を貫く。

 

相棒を見ると冷静に敵のAIモーションを読みきりこれまた一切危なげなく倒していた。

一応最前線とはいえ、攻略に参加している俺やキリト、最近復帰した兄のレベル帯は平均しても並みの攻略組よりは余裕で高い。この程度なら朝飯前である。

 

ポリゴンとなり消滅するリザードマンを見送ったのち、時刻表示を見て呟く。

 

「今日はこのくらいにして、帰ろっか」

 

相棒、キリトはそれに頷いた。

 

迷宮区を抜け、現在の拠点に戻るべくうっそうと茂る森を歩いているとかさり、という音がした。

敵モンスター、あるいは犯罪者プレイヤーをやや警戒してゆっくりと目線を合わせると、超レアモンスター、ラグーラビットがいた。

その肉は希少性が非常に高く、美味い。

 

「タナトス」

 

キリトがこちらに話しかけてくる。

目は口ほどに物を言うというが、今回は逆であろう。

目は、と言うより口以外の表情は攻略会議でも見せないようなキリッとした表情なのだが口が雄弁に語っている。

『俺に調理しろ』、と。

 

「涎垂れてんぞ」

 

「失礼」

 

俺の調理スキルは自炊できるときは自炊して美味いものを食べたい主義なので大体800ほど。マスターにはまだ遠いとはいえ、それなりに美味いのは作れるとは思うが。

 

「ま、あまり期待はしないでくれ。……ほいっと」

 

熟練度MAXまで持っていった投剣スキルで寸分の狂いもなくラグーラビットを仕留めると拠点に帰還することにした。

 

「……サチに頼めば?あいつ攻略組最近引退して中層で『月夜の黒猫亭』開いてたよな?」

 

「あいつさ、いくら俺が大食いだからって頭おかしい量持ってくんのさ。別に俺は腹ペコ王ではないのにさ」

 

そんな会話が、あったようななかったような。

 

 

***

 

 

第50層、アルゲード。

猥雑さ溢れるこの層の質屋の一つに現在俺とキリトは居候させてもらっている。

普通に22層のホームにいてもいいのだが、もともと騒がしいのが苦手なのが俺とキリトで、それにあのホームにいると勉強に力を入れさせられるので居づらいのだ。

 

正直、22層のホームが完全に学校と化しているから入りづらいと言うのももちろんある。

 

と言うわけでついたのは転移門の中央広場から西に伸びた通りを数分歩いたところにある小さな店。

5人ほど入ればいっぱいになってしまうような店内には店の主人である現在商談中の黒人の男性がいた。

男性プレイヤーがなんとかすこしでも高く売ろうとしているがあの巨漢にはどうやっても通じないのだ。

結局最安値で押し通し、肩を落として帰る男性プレイヤーを見て苦笑するキリト。

 

「ようエギル。また阿漕な商売してるな」

 

「よぉ、キリトにタナトスじゃねぇか。安く仕入れて安く提供するのがうちのモットーだからな」

 

こう嘯く店の主人の名前はエギル。

第1層攻略から馴染みのある男性で最初はアニキ軍団なるもの(俺とキリトが勝手にそう呼んでいただけだが)を率いていた頼り甲斐のあるタンクだったのだがいつの間にやらお店を構えていたのには驚いた。もしかしたらそれもキリトが一枚噛んでいるのかもしれない。聞いていないから知らんが。

 

今でも攻略組を代表するタンクの1人ではあるが、兄もそうだがよくもまぁ副業と両立できるものだ。

 

本人たち曰く「メリハリ」なのだが、いかんせん戦闘をいかに楽しむかにリソースが振られがちな俺にはやや厳しいものがあるので素直にこう言う連中は口には出さないが尊敬しているのだ。

 

話が脱線してしまったが、そのエギルにドロップアイテムを換金してもらおうと思ったのだが、

 

「おいおい、S級レアアイテム……ラグーラビットの肉……だと……⁉︎」

 

「あ、間違えました」

 

一斉に選択したので間違えて押してしまったようだ。

取り下げるとエギルが俺の肩を掴む。

 

「おい、どうせお前が作るんだろ⁉︎俺にも食わせてくれ!家賃代わりだと思って!」

 

近い近い近い。顔が怖いから顔の圧がすごい!

 

「家賃はきっちり色をつけて払ってるだろ!とーにーかーく!離れろっ!」

 

デコピンで強制的に離れさせると店に誰か入ってきた。

見ると栗色の髪を持つ美少女。そのそばには黒髪の長髪の男を置いていた。

 

……?

あれ、いま頭に何かよぎったような……?

 

「あ、タナトスくん、キリトくん。こんにちは」

 

栗色の髪の少女、アスナはそんな俺に気付かず話しかけてくる。

 

「おーアスナ。珍しいな。こんなゴミだめに顔出すなんて」

 

「喧嘩売ってるのかキリト」

 

「ああ、そういえばキリトくんとタナトスくんはここに居候してるんだっけ?」

 

アスナの言葉に首肯する。

 

「そういうアスナは、……あ、そうだアスナ。お前料理スキルどこまでいった?」

 

「ふっふーん。聞いて驚きなさい!この前、マスターまでいったわ!」

 

「まじか⁉︎」

 

熟練度は、スキルを使用するたびに少しずつ溜まるもので、熟練度の限界は1000となり、そこで完全習得となる。

俺も攻略メインとはいえ、第1層にいた時から料理スキルを取っていたのにもかかわらず、200近く差をつけられるとは。

ちなみに俺が完全習得に至っているのは体術、索敵、投剣の3つである。

 

どやあああ、という一種の神々しさすら感じさせるオーラを漂わせながら言うアスナに俺は黙って自分の持ち物を操作する。

 

トレード。

 

選択、《ラグーラビットの肉》。

 

完了。

 

「あ、あれ?タナトスくんなに……を⁉︎これ、S級食材じゃない!どこで」

 

俺は驚愕に目を丸くするアスナと何やってんだと別の意味の驚愕に目を丸くするキリトに顎でしゃくってみせる。

 

さすがは食い意地張った相棒なだけあり、俺の考えを瞬時に理解すると、

 

「シェフ捕獲」

 

「え、うぇえええ⁉︎」

 

がっしりアスナの手を捕獲するキリト。アスナは全力で赤面していた。キリトも彼女の後ろで殺意を丸出しにしている護衛役の男を見て正気に戻り、慌てて手を離すがその顔はやや赤くなっていた。

 

男の赤面とか誰得。

 

話を戻すと誰だって4つ星シェフと5つ星シェフ、どちらもいて好きな方を選べと言われたら多少の差しかなくとも5つ星を選ぶは必然であろう。

 

「じゃ、俺ヒースクリフと兄貴と会議あるから、お前ら2人は仲良くな!感想は800字以内で、エギルと俺にちゃあんと送れよ!」

 

「え、な、おい!」

 

そして、誰だって最近ようやくアスナのことを意識し始めた朴念仁の背中を押してやるのは友人として当然だろう?

 

 

***

 

 

第22層にある《ファミリー》の本部にやってきた俺は、事前に連絡しておいたアルゴと合流する。

人払いを済ませたのち、まずは挨拶から始める。

 

「タナ坊、どうしたんダ?こんな日に呼び出しなんて」

 

「まずは情報な。今日キリトはアスナの家で飯食って来る。ラグーラビットの肉だ」

 

「おーけイ。サーちゃんとシリカちゃんにしっかり売らせてもらうヨ」

 

流れるように個人情報を無断で売買するロクでもない年上連中。キリトは何度これで痛い目を見たか。

俺はヘラヘラした笑いを収め、真剣な表情で本題に入る。

 

「血盟騎士団の顔写真付きの名簿を用意してほしい。あと、アスナの護衛役のプレイヤー、名前は知らんがそいつについて調べて欲しい。報酬は10万コルでどうだ?」

 

「……毎度。でも聞かせてくレ。どうしてダ?」

 

アルゴの問いに俺は顎に手を当て、はるか昔にすら感じられる記憶を遡っていく。

 

 

 

「攻略以外のどこかで、アスナの護衛役のプレイヤーを見た気がするんだよ」

 

 




さらっと月夜の黒猫団のその後が明かされました。なんとなく戦闘に向いてなくてキリトが食べるのが好きなら“帰る場所”を作りそうだな、と思ったので料理店を開いていただきました。
ただしキリトは帰る場所よりもどちらかといえばおばあちゃん家くらいの認識というもの悲しい現実なのです。

感想、評価、アドバイス等頂ければ幸いです。
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