クラディールのブチギレ具合からこんな展開でもいいかな、と思って書いてみました。
『すまないナ。どうやらあのアスナの護衛は人脈が著しく狭いらしく、情報が入って来ないんダ……本人に会うわけにもいかないシ』
アルゴからの連絡にやや肩を落としつつも、とりあえずありがとう、といった返信を送る。鼠のアルゴですらわからないとは、恐るべきボッチである。
「はぁ……」
ため息をつくと俺は今度はキリトへ連絡する。
当然、今日のことについてである。
昨日キリトはラグーラビットの肉をアスナに調理してもらったそうなのだが、なんでもパーティを久しぶりに組むことになったという。
二人きりのパーティはエルフのキャンペーンクエスト以来であろうか。もっとも、一応当時はNPCのキズメルや別行動とはいえパーティメンバーに俺たち兄弟がいたが。
……そう考えてみると意外とキリトとアスナに接点がなくてやや驚きを隠せない。
一応序盤の頃は一緒に戦うことも多かったが基本的にキリトは俺と、アスナは兄と組むことが多かったし、ヒースクリフにアスナが引き抜かれてからはめっきり二人で戦うことはなくなった。
そんなことを考える片手間に聞き出した情報によると最前線の迷宮区で戦闘するそうなのでどうせなら面白いネタ探し、もとい安全を確認するための監視を行うことにした。
現在はキリトの待ち合わせ場所と思われるゲート広場において近場の家屋の屋根に座ってサンドイッチ(自家製)を堪能している。
キリトから聞かされた待ち合わせ時間から10分過ぎた頃、突如宙に現れたアスナに吹き飛ばされたキリトは下敷きになり、その柔らかいマシュマロを堪能。殴り飛ばされていた。
リトかよ。
そう言いたいのをぐっとこらえてサンドイッチの最後の一口を口に放り込んで立ち上がろうとしたら再びゲートから人がやってくる。今度は昨日アスナの護衛にいた長髪の男だ。俺はおちゃらけモードをやや解除して静かに相手を観察する。
聞き耳スキルを発動してみると、アスナの家に張り付いてアスナの“護衛”をしていたらしい。
正直言って気持ち悪い。
が、流石にその後のキリトの発言には拍手を送ろう。
キリトはアスナの手が無理やり帰らせるためクラディールに掴まれた瞬間、クラディールの腕を掴み、一言。
「悪いな、お前さんのトコの副団長は、今日は俺の貸切なんだ」
凄まじくカッコいい、でもクサイ。前々から思ってはいたが、キリトは中二病を発症していると思う。
どうやらそこからアスナを巡って決闘する流れになっているようだ。
とりあえずふざけたメッセージをキリトに送る。
『意味なき私闘は兄貴から禁止されてるゾ★』
飛んできたメッセージを二人で覗き込んでいたキリトとアスナは俺の場所を瞬く間に見つけ、驚きに目を見開いた。
『いや、今回はアスナが可哀想だったし、許してくれよ!』
『まぁ話は見てたし……そうだな、お前決闘先に挑まれた?』
『?ああ』
『ふーむ、りょーかい。戦っていいよ、なんとかしてみるから』
何しにきたんだ……といった視線が刺さるがキリトの発言は結構重要だったりする。
俺はヒースクリフにメッセージを送った。
『おたくのアスナの護衛がうちのキリトにケンカふっかけてるんですけど』
このように言ったもん勝ちでこちらを完全な被害者にすることができる。
『すまない。クラディールと言うのだが、いささかやりすぎるところがあってね。監視、もしくはアスナくんと協力して鎮圧してもらえると助かる。しっかりこちらも対応するから』
返信までに5秒とかかっていなかったことに思わず驚きの声を上げかけながらも目はしっかりキリト達の方を見据える。
クラディールと言う男は剣を中段やや担ぎ気味に構え、前傾姿勢で腰を落としていた。つまりこれは突進系の上段攻撃が仕掛けられる構えだ。
それに対してキリトは下段に構えて緩めに立ち、下方向の小攻撃を……いや、これはおそらくブラフで、本命は別に考えていると思っていいだろう。
このように決闘や対人戦闘に関してはいかに読み合いに長けているかがこの決闘のルール、初撃決着モードの決め手になる。
おそらく何度もオレンジ、レッドと戦ったキリトに経験値の軍配は上がる。
これをいかにひっくり返せるかがクラディールの勝負の分け目となるが……。
デュエル開始とともにキリトは受け身気配を見せていたキリトが突進。一瞬驚愕で遅れてクラディールも突進。
「ハッ」
俺は薄く笑う。
これはクラディールの負けだと俺は確信した。
キリトと戦闘するにあたって最もやってはいけないのはハイスピードの勝負に持ち込むことだ。
キリトは先天的におそらくフルダイブとの脳の信号伝達親和性が高く、加えて幼い頃からVRゲームに慣れ親しんできたのだろう。そのせいか、キリトの反応速度は他者とは明らかに頭一つ違う。
余談だが、俺と兄はそれが要因で
耳をつんざくような金属音がした。
クラディールの剣先が折れ、そして破壊された。キリトと兄のお家芸、《武器破壊》である。
キリトの反応速度の恐ろしいところは計算の上で『見えてはいないけどこのあたりに当てれば折れるはず』と言う考えの兄に対して『この部分に当てれば折れる』と言うことをわかり、知覚していると言う点である。
ヒースクリフの異常な堅守や兄の知略策略に長けた戦術もさることながら、火力的な攻撃面ではおそらく攻略組最強であることには間違いない。
投げナイフと体術を主とする俺は長期戦での地力が見える戦いでは不良とのリアル戦闘経験のある俺に軍配があがるが、流石にそうなるまで生き残ることに俺は長けていない。あくまで俺はアサシンでセイバーではないのだ。悔しいことに。
そして見るとどうやらクラディールが降参したようだ。
俺は降り立つと、態とらしく拍手を送りながら姿をあらわす。
決闘を見ていた野次馬達は俺の姿を見てざわつく。ここ一週間ほどレベリングばかりで攻略に顔だしていなかったし、当然か。
キリトと軽くハイタッチしてからギルドの意向を伝える。
「お疲れ、キリト。今回のことに関して、《ファミリー》は不問にする。背景話せば兄貴も許すだろ。実際面白……こほん、何の実害もないしね。さて、俺と同じ副団長様?こいつはどうするつもりだい?ヒースクリフによると、鎮圧はお前に任せるそうだが」
それを聞くとすっ、と感情を消したアスナが歩み出る。
「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日をもって護衛役を解任。別名あるまでギルド本部にて待機。タナトスくん、送ってって。以上」
よりにもよってあんた本人じゃなく他のギルドの副リーダーに送らせるとかあんた完全に鬼だよ。と言った視線をアスナに送ろうとしたが緊張がほぐれたのか、よろめいてキリトに軽くもたれかかっていたので何も言えなかった。
「うい、クラディールさん、立て」
百の呪詛を口の中でつぶやくクラディールをやや正気に戻させつつ、ポーチの中から転移結晶を取り出し、口に出す。
「転移、グランザム」
***
血盟騎士団のギルド本部は聖龍連合の本部ほど豪華ではないがどこか無機質なものを感じさせる。
この第55層は鉄の町と呼ばれていることもあり、22層の牧歌的な街並みに慣れた俺にはいささか寂しく感じてしまう。
クラディールはまだ怒り心頭なようでイライラが隠しきれていない。
加えて周りも見えていないようでさっきから人とよくぶつかっている。道の端を歩いているのに。
大抵のプレイヤーはクラディールの漏れ出る殺気に身を竦ませてしまうが例外のプレイヤーがいた。
「おいテメェ、どこに目つけてるんだ!」
後ろから肩を掴まれる。俺が仲裁するよりも前にクラディールが反応してしまう。
「うるさい!」
クラディールはそれを思い切り振り払うがあまりにも勢いが強すぎてつかんだ相手の握力がそれなりに強かったこともあって袖がまくれた。
黒の、棺桶。
「…………は?」
「っ!」
クラディールは俺や掴んでいたプレイヤーが反応するより先に逃走した。
「っクラディール、お前ラフコフの残党なのか⁉︎」
追いかけたがやはりこちらには地の利がなく、見失ってしまった。
「……くそっ。おいあんた、大丈夫か」
後からついてきたガラの悪いプレイヤーが話しかけてきたため俺はそれを聞いてそのプレイヤーにクラディールの情報を渡し、アルゴやその他情報屋に教えるように頼んだ。
その後俺はヒースクリフや兄をはじめとする攻略組の重役連中にメッセージを送っているとキリトから驚きのメッセージがとどいた。
『最前線に《軍》が現れた』
今回はいくら常人離れたタナトスでも唐突な事態には反応しきれないという人間っぽい致命的なミスを書いてみました。
感想、評価、アドバイス等頂ければ幸いです。