スキルコネクト万能説
《アインクラッド解放軍》、通称《軍》。
このSAOにおいて最大の勢力を誇るとともに第22層以下の下層の警察、自治を行なっているギルドだ。
元々は《アインクラッド解放隊》を名乗り、攻略にも参戦していた。しかしシンカーという有名なブロガーが作った互助ギルド《MTD》を吸収合併したことで名前がアインクラッド解放軍に変わり、そして第25層、初のクウォーターポイントのボス戦においてジョニー・ブラック等ラフコフの策略により壊滅。現在ははじまりの街を拠点として引きこもっている。
レベル自体はそこまで高くないのにプレイヤーの中には高圧的な者も多くいて、その割に仕事量は少数精鋭の《ファミリー》に劣る。
数だけ立派なうちの下位互換だの何だの言われているギルドで、俺たちプレイヤーの共通認識は『軍には極力近づくな』である。
最近では《軍》の穏健派代表であったシンカーと連絡がつがないことが多くなっていることもあり、調査に乗り出そうとしていた矢先の出来事に俺は戸惑いを隠せない。
俺は最前線第74層迷宮区へ転移すると走った。
途中に出てくるモンスターに見向きもせず隠蔽スキルも併用してできる限りヘイトを集めないようにして走る。
そしてボス部屋の少し手前でキリト達と合流した。
「おう!久しぶりだな、タナトス」
「おークライン、1、2ヶ月ぶりくらいか?それよか、軍の連中は?」
久しぶりに会う攻略ギルド《風林火山》の気のいいリーダーである野武士面の刀使いクラインに軽く挨拶するとキリトに向かい合う。
キリトによると少し前に《軍》のメンバーがいることをアスナと隠れながら確認して俺に連絡、ボス部屋の偵察後クライン達と昼食を取った後合流。
そして俺がくる数分前にコーバッツと名乗る男にマップ情報の提供を要求されたので快諾したとのこと。
「いや快諾するなよ。お前ソロじゃないんだから。情報関係はまずアルゴに聞けよ」
「あ」
完全に失念していた様子のキリトに思わずため息をついてしまう俺。
「バカ……。まぁマップデータくらいならいいか。こっちも主にアスナに言わなきゃいけないことがある。軍の連中を一応追いかけながら話すぞ」
運悪くモンスターの群れとかち合ってしまい、俺がクラディールのことをアスナに話し終え、今後のことを後で協議することを約束して迷宮区最上部のボス部屋近くにたどり着いた時は既に30分経過していた。
軍のパーティーはいまだに現れていない。
ムードメーカーのクラインがおどけたように帰ったのではないか、と言ったが間違いなくそれはないだろう。クラインも本気では言っていない。
「なにせ軍の強硬派のトップはキバオウだ」
「「ああ……」」
キリトとアスナの頭に甦るのは第1層攻略の“何でや”事件。そういえばあれ以降ディアベルは小さな互助ギルドを立ち上げて中層プレイヤーの資金運用を手助けしているという話だ。確か黒猫団の料亭やリズベット武具店もお世話になったとか。
ボス部屋に近づくとともにそんな軽口も減って、自然と足取りも速くなる。
もう少しでボス部屋というところで不安的中を知らせる音が耳に届いた。
間違い無く、それは悲鳴だった。
「アスナ!」
「うん!」
敏捷パラメータの攻略組トップ2(アルゴを除く)である俺とアスナが駆け出した。やや遅れてキリトもついてくる。クライン達を引き離してしまうが仕方ない。
ボス部屋の大扉は開いている。内部に青い炎と蠢く影が見えた。俺は即座にアイテム欄を操作して小さな投槍を出すとその影に向かって思い切り投擲する。投剣スキルの応用だ。
そのままさらにスピードを上げてボス部屋に飛び込む。アスナとキリトは軍のメンバーの安全を確かめるために火花を撒き散らしながら止まるが俺はその勢いのまま飛び上がる。
青く金属質に輝く巨体に禍々しいヤギの頭部を持つのは青い悪魔にしてこのフロアのボス、ザ・グリームアイズだ。
「よっ!」
俺はナイフを5本取り出し、投げる。投剣スキルは使えない。2本以上の剣でソードスキルを発動するとファンブルしてしまうのだ。
なんの補正もされていない武器は当然、弾かれる。しかし注意を向けることには成功した。着地と同時に撹乱のために走り出す。
「へいヤギっころ!僕ジンギスカン食べたいなぁ!」
「それ羊!」
「おいっ!速く退却しろ!」
俺とアスナの漫才を放ってキリトが軍に呼びかける。
「何を言うかっ!我々解放軍に撤退の二文字はあり得ない!戦え!戦うんだ!」
「バカが!戦っても生き残れねぇぞ!」
あのクソ偉そうなのがコーバッツか。キリトから聞いていた人数よりも2人少ない。ただ退却しただけならいいがここはアルゴの情報によれば確か結晶無効化空間。転移結晶は使えない。おそらくは……。
もともと俺のスキル構成は大型の敵と戦うことには長けていない。基本的に多対一の雑魚処理と一対一の対人戦に特化している。しかしそれでも注意を引きつけ、そして隙あらばダメージを与えることなど容易い。
バカさえいなければ。
「全員……突撃……!」
見ると軍の10人のうち2人はHPバーは既に限界だ。キリトとアスナは止めるために動き出したが俺たちがいる場所は部屋の端。間に合わない。
やっとクライン達が追いついたが状況を理解していない。俺も回避のためにジャンプしたばかりだ。
「やめろぉおおおお!」
キリトの悲痛な叫びも届かない。彼はこの攻略において目の前で仲間を失う機会はそこまでなかったがそれでも失わなかったわけではない。故にキリトは理解していた。
あまりに無謀だと。
そもそもがたった12人で攻略できるわけがない。できるとすれば後方でユナがバフをかけ、ヒースクリフとエギルらタンクチームやパリィ化け物こと兄でタゲどり。そしてキリト、アスナ、ノーチラス、そして俺でそれぞれ遊撃を担当しないと無理だろう。キリトがあのスキルを使えば楽勝な気もするが死ぬリスクが大きすぎる。
俺の陽動も意味をなさず、コーバッツは斬り飛ばされ、キリトの眼前の床に叩きつけられる。
「有り得ない……」
コーバッツの体は爆砕した。アスナが短い悲鳴を上げる。
ここはもう引くしかないのだろう。しかしそれでは……!
「ああもうクソっ!キリト!
「‼︎……10秒頼む!」
その瞬間俺は自分の持つナイフの全てを把握し、次々に展開していく。
その総数20。
「うおおおあああああああああああああっっっっ‼︎‼︎」
投剣スキルではなく、体術スキルを用いてそれらを全て打ち出していく。理由は単純にコネクトのしやすさだ。
ナイフをばらまいたその位置に体術スキルの手足の軌道がくるように計算する。
振り下ろした腕で、横に回転して勢いをつけた手で。
宙返りした足で、時には踏ん張った頭で。
体のあちこちから射出される勢いのついたリズベット武具店謹製のナイフはグリームアイズの硬い装甲をも打ち破り、突き刺さる。
アスナとクラインは俺の戦いを見て触発され、敵の攻撃をいなすだけでなく攻撃していく。
その間にソードスキルを使用した硬直から抜け出した俺は片手剣を引き抜き、体術スキルのスキルコネクトを併用しながらダメージを削る。完全に防御を捨てたその戦い方はあまりに無謀。しかしグリームアイズが攻撃を1発入れる間に俺は5発入れる。
リアルなら完全に身体中がひねり壊れていてもおかしくはないくらい無理やり体をねじり、ソードスキルをつなげていく。
そろそろスキルコネクトの限界が近づいてきた時、全力で突進する。ソードスキル、《ヴォーパルストライク》だ。
そしてその一撃はHPを半分ほどまで減らしたグリームアイズを吹き飛ばし、
「「スイッチ!」」
黒と白。
黒の暗殺者から黒の剣士へと、バトンが渡された。
「……《スターバースト・ストリーム》‼︎‼︎」
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