ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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少し早足ですがクラディール登場までいきます。



キリトと敗北と移籍

 

 

新たに現れた第75層の主街区は古代ローマ風の造りで《コリニア》というらしい。今日の戦いもその施設のひとつであるコロッセオもどきで戦う。

すでに多くの剣士や商人プレイヤー、そして多くの観光客で大いに賑わっている。

 

加えて今日は無理やり組まされたとはいえ稀に見る大イベントということもあって転移門からはひっきりなしに人がなだれ込む。

そんな人ごみを見ながら俺は呆然と呟く。

 

「……勘弁してくれ……」

 

俺はただの廃ゲーマーだぞ。注目されるのは慣れてないんだよ。

……はぁ、逃げたい。

 

「一応言っとくけど、ここで逃げたらすっっっごい悪名がついてまわるからね」

 

「俺の思考を読むなよ“元”副団長様……」

 

アスナはすでに移籍を済ませ、現在は《ファミリー》の人間となっている。

《ファミリー》には特に制服はないのでアスナの格好は血盟騎士団の制服とよく似ているが赤の代わりに灰色が入ったやや地味な格好になっている。

ちなみにこのアインクラッドで初めて裁縫スキルをマスターしたアシュレイなるプレイヤーの力作で防御力は折り紙つきだ。

 

「いい、キリトくん。ワンヒット勝負でも強攻撃をクリティカルでもらうと危ないからね。危険だと思ったらすぐリザインすること」

 

「お前は俺の母さんかよ。俺よりヒースクリフの心配しな」

 

俺はニヤリと笑って見せると一瞬逡巡してからアスナの肩をぽん、と叩いた。

なんだか最近アスナが綺麗に見えてきたからか、いやもともと綺麗だけどもなんとも形容しがたい思いを抱える俺は仲間であるアスナの肩を叩くことも一瞬逡巡するようになってしまった。

 

少し気恥ずかしい気持ちになった俺は遠雷ような歓声と試合開始のアナウンスが聞こえたのでアスナから目をそらし、戦いの場であるコロッセオのフィールドへ出た。

 

「大変なことになってるなキリト君」

 

「超満員ですね。なんでもアルゴが宣伝したらしいんで」

 

「ああ、《鼠》の」

 

苦笑したヒースクリフだったが俺と共にすぐに戦闘へ意識を切り替える。

ヒースクリフはメニュータブを一切見ないで操作してデュエルメッセージを表示させる。

もちろん受諾してカウントダウンが始まった。

 

2振りの愛剣を抜き放ち、静かに意識を集中の海に潜らせていく。

タナトスのシステムアシストなしでも正確無比な投剣を可能とする集中力の秘訣を聞いたところ、イメージとしては深い海に沈んでいくような感覚だそうだ。

 

必要な情報だけ見て。

 

必要な情報だけ聞く。

 

もう自分の中では何もない真っ暗な空間の中にヒースクリフが1人佇んでいるようにしか捉えていない。

彼がどう動くのか、俺がどう動けばいいのか、冷静に考えていく。

 

そして、カウントがゼロとなると同時に俺たちは全力でぶつかりあった。

 

 

***

 

 

「あー、くそっ」

 

「惜しかったね、キリトくん」

 

結論から言うと、俺は負けた。

途中までは最高剣技で27連撃の《ジ・エクリプス》などで完全に押していたのだが、最後の最後でヒースクリフにものすごい勢いで攻撃を当てられ、そのまま敗北してしまったのだ。

 

しかし、ヒースクリフの攻撃は明らかにシステムを超越した速さだったと思う。あまりの速さにあいつを構成するポリゴンがぶれたほどだ。

あとでおにーさんと話す必要がありそうだが、今から俺は一時的に血盟騎士団副団長代理という仰々しい役職が与えられた。

なんでも、アスナの後任が見つかるまで血盟騎士団にいて欲しいそうだ。

流石にそれで見つかっているのに虚偽を言う可能性もないわけではないので75層の攻略が終わるまでならいいと言っておいた。

 

それもだいぶサービスした方だ。

 

1層限定とだけ言えば聞こえは悪いかもしれないがこの第75層は『クウォーターポイント』と呼ばれる25層ごとにボスの難易度が跳ね上がるSAOの仕様の対象となっていて、かつ《ファミリー》は治安維持の関係上攻略に参加しないことも多い。事実第50層の攻略にはラフコフが事件を起こしたために俺以外参加していなかったし、66層などラフコフ掃討戦で俺たちはおろかヒースクリフすら参加していなかった。尤も、それは聖龍連合と血盟騎士団の一部が独断で行動した結果だったので、途中まではアスナも参加していなかったのだが。

 

「で、でもこれで、キリトくんはあの制服着るんだよね……くっ」

 

笑いこらえきれてませんよアスナさん。

ヒースクリフに地味なやつを頼むと送りながら俺はそう思うのであった。

 

 

***

 

 

「知ってたよ。この制服も、お前らがいるのも。釈然としない顔なのは触れないけど」

 

俺が着せられた血盟騎士団の制服は目に悪い純白に両襟に小さく2個、背中に大きくひとつ真紅の十字模様が染められた派手なものだった。

そして俺の目の前にはどこか憮然とした顔で俺の姿をスクリーンショットしているクライン、アルゴ、タナトスがいた。

 

「お前ら俺が負けるってわかってたろ」

 

「んなわきゃねぇだろ!」

 

クラインである。

 

「「大儲け」」

 

下衆どもである。

ご丁寧にコル金貨の袋を見せながら言う2人にその釈然としないような表情について聞くと、

 

「似合ってるから腹立つ」

 

とのコメントが。素直に賛辞と受け取ろう。

アスナは愉快そうではあるがどこか残念そうだ。理由はなんとなくわかる。

つくづく彼女とは別のギルドに行く運命らしい。

そして控室で泣く泣くファッションショーをさせられた挙句、ヒースクリフ直々に(状況を把握しているのか半笑いで)お出ましで2日後から血盟騎士団に来てくれとのことだった。

 

タナトスやアルゴは何やら聞きたそうだったがそそくさと彼はいなくなってしまった。

 

 

***

 

 

今日から血盟騎士団。いや、後悔はしていない。していないとも。

ただ、ガチガチのギルドというものは同時に居心地の悪さも感じるわけで、ゴドフリーなる男らとともに3人パーティーを組んで第55層の迷宮区を踏破して見せろと言われた時には思わずアスナを呼び戻してやろうかと思ったくらいだ。

 

どうやらこいつらは俺が元《ファミリー》であり、それゆえ常にレッドプレイヤーに狙われていてもおかしくないと言うことに気がつかないようだ。

ゴドフリーにそれを言っても聞き入れられず、加えて結晶アイテムまで奪われた。

 

ヒースクリフをこれから殴りに行こうか。

 

頭の中でタナトスが口ずさんでいたチャゲアスの曲が流れ始めた頃、ようやく迷宮区が見えてきた。

ここまでのモンスターは弱すぎたので昔買うだけ買ってそのままにしていた弱い剣を使いつぶしながら戦っていた。

 

「よし、ここで休憩とする!」

 

尊大な態度でにこやかに言うゴドフリーにきっと良かれと思って墓穴掘るタイプなんだろうなと思いつつ渡された食料を食べる。

正直物足りないが我慢しつつ食べているその時。

 

突然体から力が抜け、俺たち2人は地面に伏した。

 

「な……にが……」

 

体力が緑に変わっている。麻痺毒だ。

結晶に手を伸ばそうとしたがないことに気がつき、戦慄する。

 

「ど、どう言うことだ……。何が……この水は……」

 

「ゴドフリー、結晶使え!」

 

俺の声に麻痺のせいでのろのろとした動作でバックを探るゴドフリー。しかしその腕は切り落とされた。

 

「ぐああああ⁉︎」

 

「ヒャハハハハハハ‼︎」

 

奇声をあげたのは俺たちの他のパーティーメンバーだった。

そいつがゴドフリーの腕を落とした張本人で、今もまた、ゴドフリーの頭を蹴っ飛ばしている。

 

「ゴドフリーさんよぉ、バカだとは思っていたがここまでとはなぁ⁉︎黒の剣士も、なぜ血盟騎士団にまだ()()()()()()って思わないのかねえ⁉︎」

 

なんども、なんども、なんども。

ゴドフリーに剣を叩き込むその男。

ゴドフリーは途中から悲鳴をあげていたが時すでに遅し。残りHPがわずかになるとさらなる絶望を与えるために腕を捲り上げる。

そこには漆黒の棺桶が描かれていた。

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)……」

 

ゴドフリーはその言葉を最期に無数の破片となって消え去った。

嘘だろ、と掠れた声を出す俺。

かつてラフコフはリーダーであるジョニー・ブラックとザザを捕らえたのちに《ファミリー》とヒースクリフの連合で壊滅させたはずだ。

当時は月夜の黒猫団の連中が危機に瀕した俺は半ば錯乱して2人の命を奪うこととなった。残った多くの人間もおにーさんとタナトスによって殲滅、ヒースクリフたちによって捕縛された。

 

「お前……ラフコフの生き残りだったのか?」

 

「ああ、俺は最近入ったばかりだぜ?あの人に入れてもらったんだよ」

 

男は首をくいっと後ろにそらす。

そこには長髪の男が気味の悪い顔を浮かべて立っていた。

 

 

「クラ、ディール…………」

 

 

「よう、黒の剣士さぁん?」

 

 

 

あとがき

 





このラフコフの団員は原作だとクラディールに殺害されていますが本作ではラフコフの1人となっています。
アスナの服装はフェイタルバレット参照です。

感想、評価、アドバイス等頂ければ幸いです。
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