ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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クラディールさん退場。



キリトとアスナ

目の前に立っていたのはかつてアスナの護衛を務め、俺が打ち負かし、そして姿をくらませていた男だった。

そいつは実は殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の一員で、タナトスが取り逃がしてしまった相手。

 

「クラディール……」

 

長髪をなびかせた男の口元は醜く三日月型に歪み、その目は爛々と光っていた。

俺はその顔に嫌悪感を抱きながら本能的に恐怖を感じていた。

 

その顔は、狂気。

 

俺を殺すことにためらいがなく、またそれを楽しもうと言う意思がありありと感じ取れる。

奴はゆっくりこちらに歩み寄って来て囁くようにしゃがみ込んで言う。

 

「よぉ、おめぇみたいなのを殺すためにゴドフリー死んじまったなあ?」

 

キャハハハハ!と気色の悪い声で笑うクラディールに俺は顔をしかめつつも、打開策を見出すべく掠れた声で時間稼ぎを敢行する。

 

「これは、復讐なのか?」

 

「いんやぁ?確かに俺は去年のクリスマスにはいたが復讐なんでだせぇ真似するかよ」

 

「去年のクリスマス……?」

 

「そう言えばあん時初めてあの兄弟には会ったっけか」

 

そう言えば、おにーさんが本格的に自警活動を始めたきっかけになった戦い、俺たちが背教者ニコラスと戦った裏であった戦いで追い詰めたはいいが最後に3人目の男によって逃げられたと言うラフコフのジョニー・ブラックたちとの初戦。

 

「お前があの時の……‼︎」

 

「まああのPoHですら見抜けなかったんだから俺のあの時の変装もなかなかってことだろ?……とと、おしゃべりはこんくらいにしてぇ」

 

と、クラディールが両手剣を振りかぶり、

 

 

飛んで来たナイフを撃ち落とした。

 

 

「んなっ⁉︎」

 

もう1人のラフコフが驚きの声をあげるがクラディールはさらにどう猛な笑みを浮かべて、

 

「待ってたぜぇ、《暗殺者》!」

 

「念のためアスナとモニターしてたら、まさかこんな事態になってるとはな」

 

そう俺の前に立ち言ったのは、ジーパンにTシャツと言った軽装も軽装な男、タナトスだった。

 

メニューを操作して胸あてを装着してナイフを1本補充するがそれでも明らかに軽装すぎるその姿に目を剥く俺含めた3人。

 

「てめぇ、なめてんのか」

 

「お前らが1時間で踏破した距離を3分で来るにゃ、装備を限りなく無くすに限るだろ?」

 

地面に落ちた投げナイフを拾って二刀流の構えを取るタナトスに、目を吊り上げるラフコフ残党の2人。

 

「……ふう。一応言っとくが、降参するなら今のうちだぞ」

 

「ほざけぇ!」

 

戦闘が幕を開けた。

流石のタナトスといえど、ナイフ2本と体ひとつは苦戦を余儀なくされるかと思いきやタナトスの目的は初めから時間稼ぎ。

 

クラディールたちの攻撃を寸前で避けるとわずかにできた隙に針の穴を通すかのような反撃を加える。

背後から切りかかってきた男の攻撃は地面に手をつき、ブレイクダンスのウインドミルのような動きをして蹴り飛ばす。そのまま起き上がり、隙を攻撃してこようとしたクラディールに裏拳を入れる。

 

そして2分後、白い閃光がこの場に到着した。

 

「間に合った……間に合ったよ……ありがとうタナトスくん……生きてる……生きてるよね、キリトくん」

 

震えるその声は、タナトスが来た時よりも俺に安心感を与え、天使の羽音にも勝るほど美しく響いた。

 

「………生きてるよ、アスナ」

 

自分でも驚くほどに弱々しかった自分の声に大きく頷くとアスナは俺の横にかがみ込み、「ヒール!」と叫ぶ。アスナの手に持った回復結晶が砕け、俺の体力が全快する。

 

「アスナ、やるか」

 

ニヤリ、とレッドプレイヤーにも勝るとも劣らない獰猛な笑みを浮かべたタナトスは、まるで瞬間移動したかのように男の懐に潜り込み、その拳を思い切り振り抜いた。

 

タナトスは通常ではアスナの五分ですらあり得ない距離、すなわち約5キロメートルを3分で踏破するほどの敏捷を持っている。その速さはアルゴをも超越し、このアインクラッドでも神域に達するほどだった。

その勢いに身を任せた拳はそのSTR値の低い彼のステータスを補って余りある威力を発揮した。

 

吹き飛ぶ男を横目に、アスナはクラディールに突貫する。

タナトスがまるで竜巻のように神速の攻撃を繰り出して行くのと同じようにアスナの剣戟は空中に無数の剣閃を描いていく。

 

タナトスの打撃と手数を減らすことのできない都合上投げられないナイフの浅い攻撃と違ってアスナの刺突はクラディールの体力をみるみる削っていく。

 

HPがレッドゾーンに差し掛かった頃、クラディールは惨めに地面を這いつくばって命乞いを始めた。

アスナの剣戟はそこで止まってしまう。

 

《ファミリー》の上層部、すなわち俺やタナトス、おにーさんやノーチラスはレッドとの戦いでPKを経験してしまっているがアスナは違う。

 

それは真に殺人行為で、君が背負うべきじゃない。

 

しかし俺のレッド狩りで培われた本能は別のことを叫んでいた。

 

奴はそれこそが狙いだ!

 

タナトスと俺はそれに気づき、しかしタナトスは相手のガードを崩し、トドメをさしていたために出遅れて。

俺は麻痺の抜けきっていないのか若干痺れの残るその体を無理やり起こして。

 

ガキィイイン。

 

金属音とともにアスナの手からレイピアが弾き飛ばされ、

 

「アアアアアア甘ェエエエエんだよ!副団長様ああああ‼︎」

 

赤いエフェクトが目の前に広がった。

 

 

ぼとり、と落ちる()()()()

 

俺は右腕でアスナを突き飛ばし、自らの腕でクラディールの剣を受けたのだ。

驚く奴の鎧の継ぎ目を狙って俺は右手の五指を揃える。

 

「う……らああああああああああああ‼︎」

 

体術スキル《エンブレイサー》。

 

オレンジの光をまとった一撃はクラディールの腹部を貫き、その残った2割のHPを削りきった。

 

「……この、人殺しが……」

 

そう嗤ったクラディールはその言葉を最後に砕け散った。

俺はその冷たい圧力に押され、仰向けに倒れこんだ。

少し離れたところでドシャ、という音がしたのでタナトスも座り込んだのだろう。

あいつの戦い方は肝が冷える。ギリギリで避けて紙一重を当てる。99%失敗するようなことの1%を引き寄せるあいつの技量には舌を巻く。

 

どのくらいそうしていたのだろう、その空間には風のことだけが響いていた。

 

やがて、砂利を踏む足音が生まれ、視線を向けると虚ろな表情を浮かべたアスナが歩み寄って来ていた。

彼女は俺の傍に糸の切れた人形のように膝をつくと悲痛な表情で涙を流しながら何度もこちらに謝ってきた。

 

ごめんね……私のせいだね、と。

 

その言葉に俺はようやく痺れが消えてきた体を必死に起こし、アスナを抱きしめそのままその唇を自分の唇で塞ぐ。

近くで何やら物音が聞こえたがそんなことは気にしていられない。

間違いなくハラスメント防止コードに抵触する行為だ。アスナの視界には今コード発動へのシステムメッセージが表示されているはずで、了承すれば即座に俺は監獄エリアに転送されるだろう。

しかし俺は暴れるアスナを抑え、やがてアスナの唇から頰をなぞり、その首筋に顔を埋めた。

 

「俺の命は君のものだ、アスナ。だから君のために使う。最後の瞬間まで一緒にいる」

 

3分間戻らないままの左腕で一層強く背中を引き寄せるとアスナは震える吐息を漏らし、囁きを返した。

 

「……わたしも。わたしも、君を絶対に守る。これから永遠に守り続けるから。だから…………」

 

その先は言葉にならなかった。

固く抱き合ったまま、いつまでもそうしていた。

 

 

かったのだが。

 

 

「………………」

 

流石にあれをどうにかしないといけなさそうだ。

落ち着いたアスナとうなずき合い、間近でキスシーン&告白を見せつけられたタナトスの解凍に移るのだった。

 




やばいステータスのタナトスくん。
GGO行ったらペイルライダーさんみたいなことできそう。

感想、評価、アドバイス等頂ければ幸いです。
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