これで心の温度編は完結。
この小説とも、SAOそのものとも一切関係ありませんが、バンドリ5thlive、お疲れ様でした。自分はRoseliaの方のみ見に行ったのですが、格付けクイズで笑って、BLACK SHOUTのダブルベースで鳥肌立って、陽だまりロードナイトで泣きました。
遠藤ゆりかさん、今までありがとうございました。
アスナとタナトスは俺のことを心配してグランザムの宿屋の一室でずっと俺の位置をモニタリングしていたそうだ。
ゴドフリーの反応が消失した時点でタナトスが持ち物を全て宿屋に備え付けのアイテムボックスに放り込み、必要最低限の装備を5秒で整えてから飛び出して先に出たアスナを追い越したそうなのだから、タナトスの元々頭のおかしい敏捷値に磨きがかかっている。
アスナは「愛のなせるわざだよ」などと言っていたがそれより早いタナトスはなんだというのか。
それに対してタナトスは真顔で「ステータスのなせる技だよ」と言ってアスナにしばかれていた。
俺たち3人は血盟騎士団ギルド本部に戻った。
「ヒースクリフ。今回のことに関しては本気で擁護できんぞ。クラディールに続きまたラフコフの残党が出た。75層クリアまで待てない。てめーらは信用できねぇ。キリトはこちらに戻してもらう」
タナトスが青筋を浮かべながら事の顛末をヒースクリフに説明し、そう締めると流石に幹部連中も何も言えない。
最強ギルドのひとつと言われていた血盟騎士団も、2人もレッドの潜入を許したとあっては流石にこれでは信用がガタ落ちだ。
ヒースクリフは暫しの黙考の後、退団を了承した。
「あと、キリトとアスナはしばらく攻略には参加しない。血盟騎士団主導である75層は、ボスまでは《ファミリー》からは俺とアルゴしか出さない。つまり、戦闘要員は俺しか出ない」
タナトスの言葉にざわつく室内。
ユニークスキル持ちの俺に攻略組ナンバー2の俊足の持ち主であるアスナを一挙両得した《ファミリー》は、出し惜しみをするのかという糾弾に対し、タナトスは冷たく返した。
「俺目的は攻略よりもみんなを無事に現実に返すことだ。仲間をいたずらに危険に晒すような連中に、うちの大事な仲間を傷つけさせてたまるか」
不覚にも、惚れそうになったと後にアスナと俺は語った。
***
その後、おにーさんと合流したタナトスは妙にニヤニヤしながら後は俺と兄貴に任せろと血盟騎士団本部から俺たちの背中を押して追い出した。
アスナの家にでも行こうかという話になり、俺とアスナは手を繋いで歩き出した。
町はすでに夕刻で、浮遊城外周から覗くオレンジの光を背景にして歩く俺たちに近づいてくるひとつの影。
頰に書かれた3本ヒゲがトレードマークの情報屋、アルゴだ。
「よオ、お二人さん。ついにくっついたカ?」
アルゴはニヤニヤしながら俺の胸を肘でつついてくる。顔が赤くなるのがわかるが彼女の額を指で押しのけるとそれを肯定した。
「そうカそうカ。じゃあキー坊、ちょっとこっち来イ」
悪いなアーちゃん、とアスナに断りを入れ、俺たちの返事も聞かず俺の首根っこをひっつかんで走り出すアルゴ。
当然ながら俺は抗議するが彼女は取り合わない。
「な、なんだよアルゴ!」
「いいからいいから」
路地に入るとそこにはノーチラスとクラインが仁王立ちしていた。
「……えっと?」
状況が飲み込めない。
困惑する俺を無視して3人は俺をある店に押し込んだ。
「なんなんだ、よ……」
そこで俺は言葉を失った。
きらびやかな内装が眩しい。店内には多くのガラスケースが置かれ、中には多くの金属でできたものが展示されている。
そこはアクセサリーショップ。
つまるところ、売られているわけだ。ネックレスやブレスレット……指輪とかが。
「いやいやいやいやいや……え⁉︎」
慌てて後ろを振り向くと、涙を流すクラインが。その後ろではノーチラスや、アルゴですら涙を浮かべている。
クラインは俺の肩をがっしり掴むと、くしゃくしゃの顔のまま、俺に言った。
「キリの字よう。俺は嬉しいぜ!お前は俺の、俺たちのだいっじなダチだ!そんなお前がこうやって幸せになれて……」
「俺もキリトが幸せになってくれると本当に心の底から嬉しいよ」
「ウンウン」
穏やかな笑みを浮かべる彼らの姿を見て、俺はハッとした。
………そうか。
思えば自分は今まで人に迷惑をかけてばかりだったように思える。
第1層の一件からも、タナトスたちがいなければディアベルは死んでいただろう。
もしかしたら月夜の黒猫団は壊滅して、クラディールに俺は殺されていたかもしれない。
きっと最後までソロを貫いて、クラインやアルゴに迷惑かけて、ノーチラスとは友人にすらなれなかっただろう。
俺はこの長いようで2年にも満たないこの生活で、多くの人間に支えられていたことに気がついた。
おにーさんやサチたち黒猫団、キズメル、エギル、クライン、シリカ、リズ、アルゴ、ノーチラス、ユナ。
そしてタナトスに、アスナ。
多くの人の助けで俺は今、ここに立っている。
そして今、こうして俺のことを思ってくれる大切な仲間たちがいるのだと。
「……ありがとう」
目頭が熱くなるが我慢して、目一杯の笑顔で俺はアクセサリーショップへ足を踏み出した。
***
「キリトくん、結局アルゴさんとは何だったの?」
「え?ああ……連れ込まれた先にノーチラスとクラインがいてな」
「ああ……大変だったね」
そこまで言ったらアスナは俺がてっきりいじり倒されたのだと勘違いして俺を軽く慰める。
日頃の行いって怖いと思う。
二度目に来たセルムブルグにあるアスナの部屋は相変わらず女の子らしい小物が効果的に配置された可愛らしい部屋だと感じたが当のアスナはしばらく帰ってなかったから散らかっているねと笑って片付けを始めた。
そういうものかとアスナが武装解除してエプロン姿になったのを見て俺も武装を解除してラフな格好になるとそばに置いてあった新聞を手に取る。
新聞といってもそこいらの情報屋たちが適当な与太話をまとめた4ページほどのもので、アルゴのまとめた攻略本にははるかに不正確で、今回の見出しは『《ファミリー》のユニークスキル持ち、血盟騎士団団長を一時追い詰めるも、あっけなく敗北』とある。
事実だって?やかましいわ。
そう俺が自問自答型ツッコミをしているのにはもちろん理由がある。決してボッチ拗らせたわけではないのだ。
その理由はストレージ内にあるある指輪のせいだ。
《マリッジリング》
婚儀を交わしたプレイヤー同士がつける指輪。
先程から心臓がばくばくなっているのはこいつのせいだ。
アスナの家に行く途中にもタナトスからサムズアップの絵文字のみがメッセージで送られて来たことから察するに、これを買ったことは《ファミリー》のメンバー──少なくとも男性プレイヤー──には知れ渡っていると思っていいだろう。
つまりヘタれることは許されないと言うことだ。たぶんヘタレたら俺はこの短い人生に幕を下すことになる。
俺がこうやってやっている間にもアスナは俺のために料理を作ってくれている。
俺は静かに覚悟を決めた。
***
アスナの絶品料理を堪能した俺は覚悟を決めて立ち上がった。
「キリトくん……?」
「アスナ」
冷や汗が流れる。嫌なifが頭をよぎるがそれを考えないように頭の外へ追い出す。
今まで俺のことを支えてくれた戦友たちに感謝を込めて。
今まで俺のことを想ってくれた大切な人をまっすぐと見据えて。
そしてゆっくりとストレージを開いて小さな箱を取り出す。
「結婚してくれ」
飾り気のない、だからこそ真摯でまっすぐで大きな意味を持つ言葉を紡ぐ。
アスナの目に一筋、涙が流れた。
「……はい」
震える声で、彼女はそれを絞り出した。
来週は諸事情により投稿ができません。申し訳ありません。
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