ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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おにーさんちょい闇見せる回。

後キリトとおにーさんバーサークします。



キリトとPoHとユリエール

 

謎の発作を起こしたユイは幸い数分で目を覚ました。

しかし心配なのは変わらず、俺たちはおにーさんにまだ来ていなかった(予定を見返して見ると1時間早かった)ユリエールさんに断りを入れてもらい、誠に勝手ながらまたあしたに来て欲しいと送った。

 

そしてサーシャの誘いを受けて一晩、教会に泊まらせてもらったのだ。

 

今朝からはユイの調子も良さげなのだが、気がかりなことが一つ。

 

「おにーさん、戦争でも起こす気か?」

 

「what?」

 

「あ、キリト。おかわりいる?」

 

「あ、ありがとお願い……どうしてサチたちまで呼んでるんだ?」

 

そう、おにーさんは昨夜の間に元月夜の黒猫団御一行を呼び寄せたのだ。

彼らはレストランでの経験を生かして子供達に朝ごはんを振舞っている。たったいまおかわりが来たが非常に美味しい。和食ならアスナに勝るとも劣らない美味しさだ。

 

これで《ファミリー》は最上層にいるタナトス、アルゴとレベリング中のシリカといつの間にか居座ってるせいでうちのメンバーになりつつあるリズを除けば全員メンバーが揃ったことになる。

 

「これだけいればグリームアイズ余裕で殺せるぞ……?」

 

決して74層のボスが弱かったのではない。うちのメンバーがおかしいのだ。

これでタナトスとアルゴとシリカが加わればもう1回はいける。

 

「そういえばサーシャさん。《軍》は、いつからこんなことに?シンカー氏から、権力争いのようなものがあったのは聞き及んでいるんだが」

 

おにーさんがサーシャに聞く。

 

「だいたい半年くらい前でしょうか。徴税と称した恐喝をしてくる人たちと、それを取り締まる人たちに対立している感じでした」

 

「おにーさん、このことは知ってたのか?」

 

ノーチラスの問いにおにーさんは首を振る。

 

「シンカー氏からは自分でなんとかしてみせるの一点張りでな。アルゴを向かわせようにもあいつは攻略とレッド狩りで忙しい。血盟騎士団も聖龍連合も下層には興味ないし。だからこの俺たちが休めるチャンスに乗り込んで真実を暴いてやろうと思ってたんだが」

 

思っていたよりもひどかったな。とこめかみをトントン叩きながら締めくくるおにーさんを見て俺は複雑な気分だった。

 

やはりいつも通りの優しいおにーさんだ。

でも、昨日のユイを見る目は、まるで……。

そう、()()()N()P()C()()()()()()()()()()()()

おにーさんは比較的NPCには温情を持たないタイプで作戦でもNPCを囮にすることに抵抗がない。

もちろん、俺が抗議すればちゃんと考えてはくれるものの、普段はなんの感情も抱いていないと言う。タナトスはそれをどうしてもぬぐいきれない兄貴の闇と評していたが……。

 

なら、どうしてユイをそんな目で──。

 

その時、教会に近寄ってくる1人の人間を感じ取った。

 

 

ノックとともに現れた銀髪の長身の女性は怜悧という言葉がよく似合う、整った顔立ちの人だった。

 

「ユリエールさん。お久しぶりです」

 

おにーさんは右手を出してユリエールと呼ばれた女性と握手する。

ユリエールもまっすぐおにーさんを見ながら微笑み、握手に応じる。

 

「お久しぶりです、PoHさん」

 

PoH(プー)さん、と言う単語を聞くと同時にノーチラスと俺は吹き出さないように必死に堪える。

 

いやだってワイルドでイケメンな男性の名前がプーさんは笑う。

ノーチラスが黙ってストレージから蜂蜜取り出しておにーさんの手元に置いたところで完全に決壊した。

 

俺たちはそれぞれユナとアスナに頭をひっぱたかれながら真面目な顔を取り繕う。

 

「今笑ってるバカ2人のうちくいしんぼうの方がキリト、意志弱そうなのがノーチラスだ」

 

「もう少し他に特徴あったろ!」

 

「意志弱くない!ちゃんと自分の意見言えるわ!」

 

すぐさまおにーさんの意趣返しに抗議する俺とノーチラス。

おにーさんはそれをスルーしてユナとアスナに自己紹介させた。

 

「さて、改めて紹介しよう。ギルド《アインクラッド解放軍》のメンバーでシンカー氏が最も信頼している女性、ユリエールさんだ」

 

その紹介にユリエールは少しはにかむとすぐに真面目な顔に戻して本題を話し始めた。

 

「今回の依頼についてまずは最初から説明したいと思います。軍というのは、昔からそんな名前だったんじゃないんです。元々はギルドMTDという名前のギルドだったんですが……ご存知ないでしょうか?」

 

アスナやユナ、ノーチラスは聞いたことがない様子だったが俺は即答した。

 

「《MMOトゥデイ》の略だろ?SAO開始当時の日本最大のネットゲームの総合情報サイト。そういえばシンカーさんが作ったんだよな?いつの間に軍に組み込まれてたんだ?」

 

シンカー、という名前を耳にした時、ユリエールの顔がわずかに歪んだ。

 

「彼は……決して今のような、独善的な組織を作ろうとしたんじゃないんです。ただ、情報や食料といった資源をなるべく多くのプレイヤーに均等に分かち合おうとしただけで……」

 

そこまで話した時、おにーさんが苦い顔をしていた。

そういえばおにーさんはあまりそう言ったことに着手しようとしていなかったが、それが関係しているのだろうか。

 

「それは難しいことだろうな。ただシンカー氏のような優しい人間だけではそれは成り立たない。それを実現するにはそれこそカリスマスキルCくらいは必要だろうな」

 

「カリスマ?」

 

「こっちの話だ、気にしないでくれ」

 

おにーさんの漏らした言葉にアスナが首をかしげる。

アスナ、Fateも知らないのか……。もしかして、結構な家柄の方だったりするのか?

 

「続けてよろしいですか?……ありがとうございます。そして、そんな時に台頭してきたのがキバオウという男です」

 

ユリエールが苦々しい口調で言った。

 

キバオウはそれまでアインクラッド解放隊というギルドを率いていたがギルドの勢いが劣ってきた際にMTDに目をつけ、統合した。

 

「彼は、シンカーな放任主義なのをいいことに、同調する幹部プレイヤーたちと体制強化を打ち出し、名前をアインクラッド解放軍に変更させました。さらに公認の方針として犯罪者狩りと効率の良いフィールドの独占を行ったのです」

 

「……だから下層でのトラブルがうちに来なかったのか。犯罪者を相手取るのは意外と大変だぞ……」

 

「それまで他のギルドとの友好を考え、マナーは守ってきたのですがキバオウたちは数の力で言うことを聞かせ、さらに強力な力をつけていきました。しかし、攻略をおろそかにしすぎて不満が出た彼は博打を打ってハイレベルプレイヤーたちを最前線に送り込んだのです」

 

思わずアスナと顔を見合わせた。74層のコーバッツの一件だ。

 

「それを失敗したキバオウは、後一歩で失脚まで追い詰めたのですが、3日前、彼はシンカーを罠にかけると言う強攻策に出ました。丸腰で話し合おうと持ちかけ、ダンジョンの最奥に回廊結晶でシンカーを放逐したのです」

 

「3日前⁉︎」

 

「それで、シンカーさんは……?」

 

ユナが叫び声をあげ、ノーチラスは思わず尋ねる。

そういえばあの2人はタナトスの地獄の特訓のせいでモンスターの恐ろしさを見をもって味わっていた。驚くのは当然だろう。

 

「まだ生きているようです。幸い、安全地帯まで逃れられたようですが、場所が場所で身動きが取れず……そこで《ファミリー》の皆さんにお願いしたいことがあるんです」

 

「皆まで言うな。予想はついていた。そのために俺たちはこの面子を集めたんだからな。中層の自治はシリカとかアスナとかのファンクラブの連中に任せてるから大丈夫だし」

 

「え⁉︎」

 

アスナが驚きの声をあげる。いやそれは本当に大丈夫なのか。

 

「もちろん大丈夫だ。選りすぐりの精鋭たちをシリカに任せてるから1日2日あけても大丈夫だよ」

 

ファンクラブの選りすぐりの精鋭っていうワードが不安要素しかないんだが。

ユリエールは目を丸くして驚いていた。おそらく、ここまでしてくれることに驚いていたのだろう。

 

「ま、おにーさんはこういうことは大っ嫌いなタチだからね」

 

サチが微笑む。

 

「俺たち月夜の黒猫団に任せな!」

 

「おいテツオ、俺たちは《ファミリー》だぞ!」

 

テツオの宣言と、それを茶化すノーチラス。

ドッと笑いが起きるこの空間の中、アスナと俺はユイの頭をくしゃくしゃ撫でた。

 

「ごめんな、ユイ。お友達探し、一日遅れるけど許してくれよ?」

 

「明日にはきっと、ね?」

 

言葉の意味を理解したかはわからないが、ユイは大きな笑みとともに頷いた。

 

 

***

 

 

「……まさか黒鉄宮の下にこんなダンジョンがあるなんてな……」

 

第1層の下、しかもはじまりの街最大の施設、全プレイヤーの名簿である《生命の碑》が置かれる黒鉄宮の下にそのダンジョンはあった。

おにーさんの予想だとそれは何らかの条件を俺たちが上でクリアしたことによって現れたサブダンジョンだと言う。

 

そのせいか敵のレベルは大体60層くらいの難易度。つまり余裕というわけだ。

 

「……」

 

ユリエールさんはずっと無言だ。

 

まぁ当然か。

 

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA‼︎」

 

「ぬおおおおおお‼︎りゃあああああああ‼︎」

 

おにーさんが高笑いをあげながら素手でモンスターを蹂躙し、俺が雄叫びをあげながら爆発でも起こしているのかと言わんばかりに二刀流で敵を吹き飛ばしているのだから。

 

ぶっちゃけ俺たちはバーサーカーだ。

なのに休暇とか中層の自治とかやらされてればエネルギーはたまるたまる。

それを一気に放出すればこの通り。

60層くらいの難易度なら2人で十分オーバーキルなのだ。

おかげでごねたユイも無事連れてこれている。現在は無邪気に声援をこちらに送ってくれている。

 

その後、俺が丹精を込めてとったスカベンジトードの肉×30がアスナの手によってゴミ箱に捨てられたり、それを見たユリエールが俺たちの前で初めて笑ったりとあったが1時間もすればダンジョンの最深部についてしまった。

 

「ありえない……えぇ……?なんか、えぇ……?」

 

どうやらアインクラッド三大バーサーカーのうち2人の活躍を見て常識が完全に崩壊しているようだ。非常に心外である。

 

「そろそろ安全地帯か……全員、戦闘態勢を取れ」

 

おにーさんの号令とともに、若干の疑問はあれど全員が武器を手に取る。

完全に理解しえなかったのはユリエールとユイだけだ。

 

「どういうことですか?」

 

「冷静に考えて、そろそろ来るだろう……あ」

 

小さく漏らしたそのおにーさんの視線の先には小さな小部屋があった。

 

そこには1人の男が立っていた。

 

それを見た瞬間、ユリエールが猛スピードで走り出した。

 

「シンカー‼︎」

 

「ユリエール!来ちゃダメだーっ!その通路は‼︎」

 

「っ、不味い!」

 

おにーさんが慌ててユリエールの後を追った、その時だった。

 

不意に黄色いカーソルが表示される。名を、《The Fatal-scythe》──。

定冠詞がついたそれはボスモンスターだ。

 

「っ!」

 

「ササマル!ユリエールさんを連れて安全地帯へ!ユナ!バフ!」

 

走り出したユリエールの襟をつかみ、後ろに放った後即座に指示を出すおにーさん。

 

「おにーさん!」

 

 

「はは……やべえ、あいつ間違いなく強いぞキリト!……It's show time……‼︎」

 

「ああ、そうだな!」

 

 

俺とおにーさんはどう猛な笑みを浮かべて突貫した。

 

 





来週はお休みします。すみません。
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