今回はPoh兄貴の代名詞とも言えるセリフが登場します。
今日でこのデスゲームが始まってから早4週間。
ディアベルさんをはじめとする面々には緊張が走っているが。
「今日はいい天気だなー兄貴?」
「I know.まさに攻略日和といったところだな」
いつも通りにこやかに会話しながら進む俺たち兄弟を見て、アスナがこっそりキリトに耳打ちしているのに俺は気づいた。
会話は聞こえなかったが、おおよそ、こんなに和やかに進むものなのかとか聞いていたのだろう。
チッ、キリトのやつ青春しやがって。
……クリア早くしてぇな……。
「どうした?なんか黒いオーラが見えるんだけど」
キリトが問いかけてくるので、俺は恨みがましい目を向けながら答える。
「いや、イケメン死ねって思ってね?」
「自殺願望か」
「ぶん殴るぞ」
軽いやりとりをしつつ、ふと自分の容姿について振り返る。
確かに顔が整っている自覚はある。
いや、ナルシストとかではなく、自分はそれなりにモテる、らしいという話をいつだったか小耳に挟んだことがあったからだ。
あと一度だけなのだが、街を歩いていたらスカウトとかほざく男にあったこともある。ほざく、などと乱暴な言葉遣いなのは単純にそいつが詩乃を舐め回すような視線をしていたので激怒しかけたからだ。
ああ、思い出しただけでもまた腹が立ってきた。
という具合に俺が思考を変な方向に脱線させていると手に硬いものが当たった。それで俺はあることを思い出した。
「二人とも、これちゃんと読んどけよ?とくにアスナ」
俺はその硬いものこととある冊子を取り出しアスナとキリトに見せ、背表紙を指でとんとん、としながら言う。
それは一応もう一度確認しておこうと思い、取り出してポケットに入れておいたアルゴがまとめた刀スキルの一覧表である。
昨日の今日で作ってくるあたりアルゴは尊敬に値する人物だろう。
恥ずかしいから本人には絶対に言わないが。
それが配られた時、あのキバオウを論破したエギル始めとする何人かは熱心に読み込んでいたが、キバオウを始めとする連中は鼻で笑っていた。
ディアベルさんもこれに気を取られすぎないように、と注意していた。いや気を取られておけよ少しくらいは。
「仕様、変わってると思う?」
アスナが俺に聞く。俺は首をすくめながら答えた。
「さあな。ま、俺的には十中八九変わってるだろうな。そうしなきゃゲームとして面白くないだろう?」
俺はあくまでこの世界をゲームとして話す。アスナはそれに若干嫌悪感を示しているがあくまで俺が開発者の目線で話していることがわかっているから何も言わない。
正直、というか普通に茅場明彦のことは理解に苦しむ。戦いとは痛みと共にあるから面白いと言うのに……おっと、素が出た。
ゲフンゲフン。
「この世界はおそらく茅場にとって理想郷に等しいんだろう。それをあっさり攻略されるなんざ、あいつも望まないんじゃないか?巻き込まれた俺たちはいい迷惑だがな」
詩乃にも会えないし。詩乃にも会えないし。
強いていうなら音楽スキルがあるのが救いか。
「それに今回は、
二人は俺の言葉に首を傾げた。
ボス部屋に着くと、剣を地面に突き立て注目を集めさせたディアベルさんが話し始めた。
「みんな……俺から言うことはたった一つだ!」
ニッ、と笑みを浮かべると一言。
「…………勝とうぜ!」
おおおおおおお!
と沸き立つプレイヤーたち。しかし俺は、心の何処かで何かに警鐘を鳴らし続けていたのに気がついていた。
***
攻略は順調に進む。
「A班!下がって回復!B班!スイッチ!」
ディアベルさんの冷静な指示のもと、次々にボスにダメージを与えていく。
俺たちの班は平均レベルの高さから遊撃だ。
「キリト、アスナ。D班の援護。瓦解しないようにスイッチ、30秒相手したら戻ってこい。タナトス、センチネルの討ち漏らしを徹底的にやれ」
「うい」
ゆるい返事をしつつ、兄の指示のもと敵を殲滅する。
兄の作戦は芸術的と行っても過言ではない。よく状況を見ていて的確な判断を下せる。
ぶっちゃけディアベルさんよりリーダーしてんだよね。
冷静な頭で敵を殲滅しつつ、あくびが出そうなほどのんびり考え事をする俺。
ボスのHPバーも大分少なくなってきていた。
……そろそろ来るか。
ボスが武器を持ち替えるその時、飛び出して来る影があった。
「下がれ、俺が出る!」
ディアベルさんだった。キリトは驚いていた。まぁ、定石とはいかない采配だな。
……と、いうことは。
「兄貴。あいつ、
「……だな」
そこで懸念が現実となった。
ボスが取り出したのは、野太刀だった。
「‼︎」
ディアベルさんが驚いて身動きが取れないその隙にディアベルさんにボスのソードスキルが命中–––
「キリト」
「はああああああ‼︎」
ガキン‼︎
–––することはなかった。
「アスナ」
「やあああああああ‼︎」
兄が指示し、キリトがパリィしたボスにアスナのソードスキルが命中する。
「な、何が……⁉︎」
ディアベルさんは理解できない様子だったので俺が説明することにした。
「ディアベルさん、あんたがベータテスターであることはわかっていた。いや、予想していた、か」
「っ⁉︎」
ディアベルさんの顔が驚愕に染まる。
兄と俺はディアベルさんはベータテスターではないのか、という点を疑っていた。このデスゲームが始まるまで俺と兄は真の意味で信頼しているのは詩乃だけだったために、他者を勘ぐりすぎる癖があった。
キリトやアルゴ、アスナはこの世界では最も信頼できる3人だが、ディアベルさんは評価こそすれど別段信用していない。
だから、
ゲーマーの本能のまま動くのかどうか。
まぁ、普通のベータテスターなら、動くだろう。
何せ、この中にはベータテストにおいて、
それは必ずこの世界にただ一つしかないレアドロップアイテムで、入手すれば大幅に戦力アップが期待できる。
この事実を知っているもの、すなわちベータテスターなら、絶対に動く。確信していた。
尤も、まさか刀スキルへの注意を喚起していたのにもかかわらず死にかけるのは呆れるの一言だったが。
「まぁ、いい。キリト、アスナ、援護」
兄は指示を終えると俺と二人、並んでボスの前に立つ。
そしてその整った顔を楽しそうに歪め、目を爛々と光らせると、同時に言い放った。
「「It's show time.」」
戦いは一方的なものだった。俺がヘイトを集め、兄が耐久に極振りしたアニールブレードでパリィ。そしてキリトとアスナが攻撃をする。
ボスのHPはぐんぐん削られていく。
「ほらほらほらほら!当たらないよ‼︎」
ボスの周りをうろちょろしながら投剣スキル《シングルシュート》を当てていく。
目の前で羽虫が飛ぶレベルの嫌がらせだが、効果はてきめんだ。
いや、目の前に羽虫が飛ぶのはかなりうざいか。
ともかく、戦闘中に詩乃の貴重な笑顔を思い出してニヤニヤするくらいの余裕はあった。
本当に戦闘は煽りに限る。最高。
人としては最低だけど。自覚あるけどやめない。
すると兄が俺に向かって怒鳴る。
「おい、あんま動くな!ある程度そっちが調整してても無理あんだぞ!……エギル!パリィ手伝ってくれ!」
「!わかった‼︎」
タンクを担当していたエギル–––会議後に話しかけたらタメ語でいいと言われた–––は俺を見て顔を引きつらせて硬直していたのだが、兄の言葉にすぐに持ち直し、雄叫びをあげながら斧で武器を弾く。妙に様になってて格好いい。
「そろそろか……。キリト、アスナ!さっさと片付けてくれ!俺ちゃん疲れたぜい‼︎」
「はいはいっと!」
「あなたそんなキャラだったかしら?」
ふと二人の方を見るといつの間にかアスナのフード取れていた。かなりの美人だ。キリトもかなりの美形男子だが彼女はまさに絶世、とつくのではないのだろうか。美男美女カップルか。非リアの敵じゃないか。
まぁ、美人っていっても詩乃には負けるけどな!
「……?」
俺がそんなことを考えたからなのか、アスナに怪訝な顔で睨まれた。俺は全力で目をそらした。
あいつ心読めんのか。いやどちらかといえば感情受信体質だな。あいつサイドエフェクト持ちだったのか。
「アスナ!」
「‼︎、スイッチ‼︎はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ‼︎‼︎」
ボスの体力が残りわずかとなった。兄の指示のもと、キリトとアスナが特攻をかける。
まずアスナのソードスキル《リニアー》が命中。ポケモンで言えばモンスターボールを投げたくなるくらいの僅かなHPが残った。
「うおおおおおおおァァァァア‼︎‼︎」
そしてキリトの二連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》が命中する。
「‼︎」
ボスが目をかっと見開き、爆散する。
数瞬おいて。
congratulation!
その文字が空中に映し出される。ようやく俺たちに実感が湧いてきた。
クリアした。第一層を。漸くだ。これで、詩乃の元へ一歩–––「なんでや!」おぉう。せっかく締めようとしてんのに邪魔すんなや。
見ると、叫び声をあげたのはキバオウだった。
「なんでディアベルはんを危険に晒したんや‼︎」
「いや危険ておま……ちゃんと冊子配ったろ?あの刀スキルだって見たことくらいはあったろうに、危険な目にあったのを俺たちのせいにすんなよ。バカはおぼっちゃマンボでも歌っとけ」
さすがに今のはこちらに不備はなく、ただの言いがかりだったので沸点の低い俺はイライラしながら答えてしまった。
「なっ⁉︎」
キバオウが完全に切れた様子で拳を振り上げる。どうやら俺と同類だったようだ。
「キバオウさん、いいよ!」
ディアベルがそれを制す。
彼は俺たちにまっすぐ向き直ると、俺たちに頭を下げた。しっかり90度、誠心誠意込めた全力の謝罪だ。
「すまなかった。君達に迷惑をかけた!」
「いや、迷惑も何も……ねぇ?」
キリトがLAボーナスで手に入った装具、《コートオブミッドナイト》を装備しながら俺たちを見る。
とりあえず兄が前に出る。
「ん、迷惑かけたと思うんならこれから巻き返していけばいい。キバオウ」
「……なんや!」
「お前は少々嫉妬しすぎだ。なぜベータテスター達に追いつく努力をしようとしない」
兄はそうある程度思いやりを込めて諭すが、キバオウは頑として聞き入れない。
「なんやと……あんたらのそんな戦闘能力、そんなんチートや、チーターや!」
すると、キバオウの取り巻きも乗っかってくる。
「そうだそうだ!ベータ上がりのチーター、ビーターだ!」
う、うわぁ、見苦しい……。
思わずたじろいでしまう俺。
横を見るとキリトは『まぁそうなるよね』と言わんばかりの顔。ネットゲーマーは嫉妬深いのを知っているようだ。
アスナとエギルは……ドン引きだ。特にアスナはひどい。まぁあまりネトゲはやらない人だったらしいし、当然の反応か、と俺は納得する。
因みにドン引き具合からいえばアスナは俺がかつて詩乃にメイド服買ってきた時くらいにドン引きしている。
あ、いや違うんです詩乃さん。あれ実はドンキに行った時女友達が俺に着せようと持ってきたやつなんです。詩乃に矛先向けることで難を逃れようとしたんです。
誰に弁解しているんだ俺は。
……好きな子をスケープゴートに使うって俺本当に救いようがないな。
「ハァ……」
「なんやそのため息は‼︎」
あ、と自虐の溜息が口に出てたことに俺は気がついた。キバオウ達は馬鹿にされたとでも思ったようだ。話は聞いていないし、今のは全然違う溜息だが聞いていれば当然馬鹿にするだろう。
さっきからキバオウ御一行のかわいそうな演説は止まらない。
なぜか賠償金の話になっていたのはもはや笑うことすらできない。どうしてそうなった。兄の顔も引き攣っている。ポンチョを着たイケメン大学生。心なしか、ボス戦よりも疲れて見える。
そろそろ耐え切れなかったらしく、俺に二人に指示を送れとアイコンタクトをしてくる。
「キリト〜。第二層のアクティベートやっといて」
「ん」
キリトは欠伸を噛み殺しながら返事をする。
「あ、そうだ。アスナ、アルゴと一緒にお風呂ある宿探しに行けば?」
「いいわね、それ」
アスナはアルゴにメッセージを送る。
そしてバイバーイ、と手を振り第二層に向かう二人。
俺も少し遅れて付いていく。兄から見捨てるなよ、と言ったベクトルの視線を背中に受けた気もするが気のせいだろう、きっと。
仲睦まじげに会話するキリトとアスナに俺は詩乃と自分を重ね、願望まじりにしみじみとこう感想を残した。
……お似合いだなぁ。
その後キバオウ達は兄がガチ切れする寸前に空気を察したディアベルがぶん殴って止めるまで延々と喋り続けたという。
書き始めた時にはディアベルさんが死に、なかなかの思い展開になっていたのにもかかわらず、手直しするうちにディアベルさんが死なず、キリトとアスナも仲睦まじい優しい世界に変わってしまっていた。
なんでだろ?
感想、評価等頂ければ幸いです。