ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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時系列的には朝露の少女編の少し前くらいに改変しました。
だから今回樹は出ません。アルゴはサボりです。



ヴァサゴとニシダ

 

 

第22層は、アインクラッドで最も人口の多いフロアの一つだ。

低層であるが故の広さに加え、最強ギルド《ファミリー》のお膝元。

 

ここに住む人たちは安定した暮らしを提供してくれる《ファミリー》へ自治への協力という形で恩返しをしているため、一種の御恩と奉公が成り立っている場所でもある。

 

《ファミリー》が人数が著しく少ないのにもかかわらず中層の自治が成り立っているのはそのためだ。

《軍》のように支配するのではなく、共同体としてそれぞれの生活を守る。まさに自治体といったところか。

 

のどかな風景は攻略で荒んだ人々の心を癒し、子供達はのんびりと《ファミリー》が経営する学習塾で学ぶ。

 

決して観光地ではないのだが、ここに住むという人は少なくない。

 

今日もまた、人々は穏やかに暮らしている。

 

 

***

 

 

今日は日曜日。

塾は休みでPoHは久しぶりの休暇を満喫しようと決めていた。

 

「きょーじゅー!」

 

笑顔で手を振ってくる子供達に手を振り返すPoH。

 

「あまり危険なとこには行くなよー!」

 

「はーい!」

 

キリトとアスナが結婚してから数日。

彼らは小さなログハウスを購入し、そこで暮らしている。

彼らがログハウスを買う際にはなぜかシリカやサチが狭すぎると抗議したりアルゴが情報として扱おうとしたり、実際タナトスが風林火山の連中に売ったりとドタバタしたものの、結局みんなで仲良く迷宮区に潜って金を工面することができた。

 

おそらくあの2人も今日はゆっくり休日を楽しんでいることだろう、PoHは気を利かせて2人の元へ遊びに行くのは止すことにした。

 

それにしても、自分も偉くなったものだ。PoHは自らのことを振り返る。

 

それはアインクラッドの新聞記事であった。

 

『──棚坂ヴァサゴ。

中層の自治と警察を担当する攻略ギルド《ファミリー》の若き指導者。

 

その溢れんばかりの才能は攻略にも当然発揮されるがその真髄は予知にある。

 

ヴァサゴの脳内には既にこの事件に巻き込まれた人々の平均年齢とそこから考えられる事件収束後の警察の対応、そしてプレイヤー達の社会復帰についての対策がある程度まとめられているらしい。

 

その中でも力を入れていたのはSAOに存在する多くの学生プレイヤーへの学業指導だ。

これはヴァサゴが最も最初に着手したことだ。

 

はじまりの街へ赴き、何人かの子供やたまたま面識のあった講師らを22層へ招待。学習塾を建て指導。実際それは成功し、現在は自らは教鞭をとらずに攻略組へ復帰。

 

塾は募集したリアルでは大学生だったもの、教師だったものに教鞭をとらせている。

 

この世界において英雄と呼ばれる人間は“神聖剣”や“黒の剣士”、“閃光”のアスナなどをはじめとするものを指すだろうが筆者はこの“教授”、PoHを推薦したいと思う』

 

「…………」

 

背中がむず痒くなる。

実際、これは100%善意でないことは確かだ。

ある程度アインクラッドで実績を残すことはのちに関わるであろう政府との交渉に大きく役立つものである。

 

加えて、クラインやエギルといった社会人連中にとって、この2年間というものは大きいはずだ。

学生ならばPoHや他のプレイヤー達でなんとかできるものの、彼らの社会復帰をもPoHはある程度考えるべきだろう。

 

それは政府の領分だとしても、このように周りに恩を売ることは重要でもある。

 

おそらく、このゲーム攻略において重要なファクターとなるキリトは所謂『英雄』と持て囃されることはほぼ確定だろう。

そしてアインクラッドにおける犯罪防止などに一役買った自らも。

 

そこから導き出される結論は、『VR犯罪対処を任される可能性がある』だ。

 

ヒースクリフなども駆り出されるだろうが、どうにも奴は()()()()

というか、もしシロだったとしても奴は間違いなくそういったことに関わらない。

 

「……流石にそれは後ででいいか」

 

ストレージを操作し、PoHは釣竿を手にした。

 

 

***

 

 

「……意外と釣れないものだな……」

 

神奈川に住んでいたPoH達兄弟はたまに電車を乗り継いで釣り堀や川釣りなどを嗜んだ経験がある。

 

しかし湖水に垂れたいとの先に漂うウキは全く動かない。

 

PoHは大きく欠伸をする。

 

「場所が悪いのか、熟練度500程度では足りんのか……」

 

なにせ休日しかやらない趣味程度のもの。それも大体アルゴなりノーチラスなりタナトスなりに邪魔されてろくにできていないものだ。

 

手製のサンドイッチをむしゃりと食べながら竿を引き上げる。

もちろん釣れていない。

 

確か近くに他の湖があったはずだ。ここまで馬鹿でかい湖なら釣れやすいのだろうと思っていたのだが逆なのか。

 

「ヴァサゴさん、釣れますか」

 

「……西田さん、俺はここではPoH、ですよ?」

 

「はっはっは、これは失礼しましたな」

 

サンドイッチを食べるのを中断し、顔を向けるとそこには初老の男性が立っていた。

重装備の厚着に釣竿を携えたその人は間違いなくこのアインクラッド最高齢。

 

名前をニシダ。

かつてPoHがアーガスを訪ねた際に何度か顔を合わせた東都高速線という会社の保安部長だ。

 

この人も釣り好きということで意気投合し、詩乃も交えて何度か釣りに行った仲でもある。

もちろんこのアインクラッドでも何度か釣りをしたことがあるが、それは大体PoHが護衛を務めて他の層に行くくらいでこうやって22そう出会うのは意外と久しぶりだったりするのだ。

 

彼がSAOに囚われていることを知ったのはPoHが頭角をこのアインクラッドで表した第1層攻略戦以後、ニシダ本人が訪ねてきたのが始まりである。

 

「そうだ、PoHさん。ここには主がいる、って話聞いたことありますかな?」

 

「ほう。ヌシ、ですか」

 

「村の道具屋にある、やけに値の張る釣り餌があるでしょう?あれが、ここで使えましてな。私も使ってみたんですがいかんせん筋力パラメータが足りない。そこで!」

 

「攻略組の俺に頼みたいと?」

 

「その通りです!」

 

なるほど釣竿のスイッチか。やったことはないが面白そうだ。

 

PoHは二つ返事で引き受けると、明日の塾を他の人に任せ、明日決行することが決まった。

 

 

***

 

 

「昨日の今日で意外とギャラリー集まるもんですねぇ」

 

「はは、そうですなぁ。釣り仲間に声をかけたら以外と集まりました」

 

「うちの教え子に、ギルドメンバーもいるし……」

 

ギャラリーは30人強といったところ。

ちらりとみたがキリトやアスナ、アルゴにノーチラス、ユナがいた。5人ともワクワク顔である。

 

ニシダは釣竿に大人の二の腕ほどの巨大なトカゲをつけ(ユナが短く悲鳴をあげた)、気合一発、ぶんと音を鳴らしながらトカゲが弧を描いて飛んでいき、着水した。

 

SAOにおける釣りは待ち時間が異常に短縮されており、長くても数十秒で片がつく。

待ち時間も楽しむタイプのPoHやニシダはやや物足りない様子だがあまりじっとしていることが好きではないタナトスは諸手を挙げて喜んでいた。

 

そして、釣竿の先がピクピク揺れる。

 

キリトが何かを言いたそうだがまだだ。

 

眼鏡の奥を爛々と輝かせるニシダに普段の好々爺とした様子はない。

 

そして──。

 

「いまだっ!」

 

ひときわ大きく穂先が揺れた瞬間、西田が大きく体を反らせ、竿をあおる。

 

「PoHさん、あとはお願いしますよ!」

 

いささか“プーさん”は力が抜けるのでやめてほしいがそこは自業自得。

PoHはニシダから手渡された釣竿を引く。

 

「おぉっもぉ……⁉︎」

 

PoH自身、攻略組では一応筋力に振っているため力はかなりある。

しかしそれでもこの綱引きはなかなかに重く、思い切りPoHは足を踏ん張った。

 

「あっ、見えたよ!」

 

アスナの声に見物客はどよめくと、我先にと水辺に駆け寄って湖水を覗き込む。

 

 

そこでPoHはあることを思いついた。

 

 

「そらどうした、もっと覗き込んできな!」

 

PoHの煽りに皆が主を見ようと身を乗り出す。

その瞬間。

 

「ソイヤッ‼︎」

 

掛け声とともに思い切り竿を引き上げ、そして全力で逃走する。

 

「へ──」

 

キリトが間抜けな声をあげる。

盛大な水音とともに、その姿があらわになる。

シーラカンスによく似たそれは盛大に空に舞い上がると、群衆の下に落ちて行く。

 

偶然か必然か、《ファミリー》組の元へ。

 

「「「「「はああああああああ⁉︎」」」」」

 

珍しくアルゴも悲鳴をあげ、5人は敏捷度全開で特に極ぶりのアルゴとアスナはマーベルヒーロー、クイックシルバーばりのスピードでPoHの逃げた場所に戻ってきた。

 

「なんてことするんダ、おにーさん!」

 

「クッソウケる」

 

「この人でなし!」

 

アルゴとノーチラスに非難されるものの、PoHは爆笑中だ。

 

「ちょ、3人とも、それどころじゃないぞ!」

 

キリトの声に3人が目を戻すと主がこちらに鈍いもののこちらに駆け寄りつつあった。

 

「うわァ、陸走ってル。肺魚か何かかナ?」

 

「そだなぁ。見た目シーラカンスだし、そうなんじゃないか?」

 

「ヴァサゴさん、呑気なこと言っとる場合じゃないですよ!早く逃げんと!」

 

ニシダが腰を抜かさんばかりに驚いているがこの場にいるのは攻略組の中でも指折りの実力者6人。

 

「俺、『マギ』のシャルルカンの初登場のアレ、憧れてたんだよねぇ……」

 

「ああ、『解体完了!』ってやつ?」

 

PoHの独り言に反応するノーチラス。

ストレージをいじってフォルムが似ていると言えなくもない剣を取り出す。

 

「使う?」

 

「お、使う使う」

 

 

このあとめちゃくちゃ解体した。

 

 

***

 

 

「いやぁ、一時はどうなるかと思いましたが、もらっちゃってもいいんですか、こんな貴重なもの!」

 

「ええ。もうすぐ攻略に戻るでしょうし、無用の長物です」

 

PoHはにこやかに応じる。

視線の端にはアスナが元血盟騎士団副団長の“閃光”であること、そして“歌姫”ユナの存在がバレて大騒ぎになっている。

 

「そうですか。では、今度釣りするときは」

 

「リアルで」

 

「……ええ、リアルで」

 

ニシダは顔をくしゃくしゃにすると大きくうなずき、PoHと固く握手を交わした。

 

 





ヴァサゴがアーガス関係者という設定を考えついてからずっと書きたかったニシダさんとの絡み。
詩乃もニシダさんとは面識があります。樹たち3人は休日はニシダさんの家にお邪魔したりとニシダさんの家族とも仲がよろしい様子。

ちなみにこのあとアルゴはタナトスにサボりがバレて大目玉を食らいます。
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