ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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最終章です。
なんだか久しぶりのタナトス視点。



最終章 帰還編
棚坂樹と第75層攻略戦


 

 

「偵察隊が、全滅だと?」

 

「ああ」

 

久しぶりに最前線に顔を出したキリトたちが75層のボスについての情報を聞いてきたので衝撃的な知らせから言った。

ここは第74層にあった神殿のひとつ。古代ローマ風な街の作りのくせにここだけギリシア風だ。

そこに今回参加する《ファミリー》の全員が集まっていた。

 

《ファミリー》に説明するためにヒースクリフも来てくれた。

 

続きはヒースクリフが引き継いだ。

 

「昨日のことだ。75層迷宮区のマッピング自体は、タナトス君とアルゴ君のおかげで犠牲者が出ることなく無事終わった。だがやはり、ボス戦はかなりの苦戦が予想されるのは承知だと思う」

 

これにはしっかりとした理由があり、《ファミリー》の面子も頷いていた。

 

「どうしてですか?」

 

と、そこで考えてみればクウォーターポイントは初めてのシリカがいたのを忘れていた。

 

「いままで、25層ごとのボスモンスターの強さが異常だったんだよ。第25層の双頭巨人型の奴には先走った軍の連中が壊滅させられた。レベルは高い奴だと俺とどっこいくらいのやつもいたのにもかかわらずだ」

 

シリカが唾を飲み込む。

 

「50層の奴は、そこのキリトが持ってる黒い方の剣、《エリュシデータ》がドロップした敵、と言えばなんとなく強さは伝わるか?」

 

キリトの魔剣の強さは異常であることはメンバーであるシリカもよく理解している。そもそも25層も健在で武器マニアキリトのお気に入りという点でその強さはわかるだろう。

シリカはこくこくと頷く。

 

「クウォーターポイントがあるなら同様に異常なレベルなのは確かだろうな。それこそ、あの死神レベルには」

 

「おいやめろ」

 

兄がブルリと体を震わせる。

よほど奴との戦闘が応えたらしい、珍しいことにかなりのトラウマにはなっているようだ。

 

「……話を戻そう。そこで我々はタナトス君に指揮を依頼して5ギルド合同のパーティ20人を偵察隊として送り込んだ」

 

ヒースクリフが抑揚のない声で続ける。

 

「偵察は慎重を期して行われた。タナトス君、アルゴ君が指揮をとる半分が後衛として待機、残りの10人が部屋の中央に到達し、ボスが現れた瞬間、入り口が閉じたのだ。扉は五分以上開かず、アルゴ君の鍵開けスキルやタナトス君の直接打撃でも無駄だったらしい」

 

「まぁ俺はSTRがキリトやノーチラスほどじゃないからもしかしたら……」

 

「自己嫌悪はやめたまえ」

 

ヒースクリフが俺を諌める。

わかってはいるが、俺の指揮のもとで犠牲者が出た。

たらればを考えてしまうのは仕方ない。

 

「……悪い」

 

指揮すればわかるのだ、ヒースクリフや兄(上に立つもの)の偉大さというものが。

よくもまあこんなものを背負っていけるものだ。自分にはとても耐えられない。

 

目を閉じ、自分の罪悪感をねじ伏せる。口元を固く結び、そして続きは自らの口から紡ぐ。

 

「扉が開いた時……部屋の中には、何もなかった。10人の姿も、ボスも。……正直に言おう。今回の難易度は難しすぎる。下手すれば、うちからも死者が出かねない」

 

今回は、少しの慢心が命取りになる。レベル的に最も不安要素はサチを除く元月夜の黒猫団、そしてシリカだ。

リズの装備を身にまとい万全の状態を保ってはいるが安心はできない。

 

「いよいよ本格的なデスゲームになって来たわけだ……」

 

「けどまぁ、その程度で攻略は諦められん。……俺たちがもつ『可能性』とやらを、見せてやろうか」

 

兄の言葉にヒースクリフの眉がかすかに動いた気がした。

しかし、その言葉に《ファミリー》は意を決した。

 

「よし。とりあえずはキリト、わかってると思うだろうけどアスナを死なせるんじゃないぞ。ノーチラスもだ。攻略開始は3時間後に。遅れて来るなよ」

 

俺はそう言うとその場を後にした。

 

兄の指示のもとに。

 

 

***

 

 

「お、エギル!お前も参加するのか」

 

キリトがエギルに話しかけているのを横目に見ながら、俺はアルゴに話しかけに行く。

 

「よっす。今大丈夫か?」

 

「ン?ああ、大丈夫だヨ」

 

ストレージをいじっていたアルゴに話しかけると、暇つぶし程度のものだったのか中断してこちらに向き合った。

 

「兄貴から()()()()は?」

 

俺の言葉に目を一瞬丸くした後に意味を理解したアルゴは頷く。

 

「あア。貰ったヨ。何するつもりなんだろうナ」

 

「だなぁ」

 

午後1時ちょうどに兄がヒースクリフと血盟騎士団の精鋭たちを伴って転移ゲートから現れた。

ヒースクリフは自分の団員に話しかけに行くが兄はただ、こちらにニヤッと笑いかけてここまでオレンジプレイヤー相手にしか使ってこなかった対プレイヤー魔剣、《友切包丁》の姿を見るだけだ。

 

この武器はモンスターを攻撃すると攻撃力が落ちるという特性があるが初撃だけは今まで犯罪者たちと戦い高めていた攻撃力をフルに発動できる。

 

兄がこれを持ち出したということは、本気で奴と戦うという意思の表れなのだろう。

 

「……始まるな」

 

ヒースクリフは話しかけ終えたのか、再び集団を振り返り、軽く片手を上げた。

それを見て俺は腰のパックから回廊結晶を取り出し、掲げる。

 

「それじゃ、ボス前の場所までコリドーを開くぞ。着いてきてくれ」

 

コリドー・オープン。

 

発声した俺の後ろに歴戦の勇者たちが控える。

 

「よし、行くぞ!」

 

 

***

 

 

軽いめまいのような転移感覚の後に目を開けるとすでにそこはボスの扉の前。

 

偵察隊半壊滅という嫌なトラウマが蘇るが自らを奮い立たせ、ナイフの柄を握る。

 

「……なんか……嫌な感じ……」

 

サチが寒気を感じたように両腕を体に回し、言った。

ケイタたちも硬い表情だ。

ノーチラスはユナの肩に手をおき、彼女を勇気づける。

 

あの2人はいつになったら結婚するのだろうか。

 

「皆、準備はいいか。今回に関してはボスの攻撃パターンに関して情報は皆無だ。《ファミリー》がかつて戦った90層クラスのボスモンスターはしっかり攻撃を受け流さないと一撃が致死になったことは間違いなかった」

 

兄がポンチョをはためかせ、言った。

 

「だから、決して油断はするな。敵がどこからポップするかもわからない。上か、下か。真ん中に普通にポップするかもしれないが致死の攻撃を不意打ちして来る可能性もないわけじゃない」

 

剣士たちが無言で頷く。

兄は無造作に黒曜石の大扉に歩み寄り、そこに手をかける。

そして、高らかに叫ぶ。

 

「そして──。必ず、生きて、攻略してやろう。茅場晶彦に、目にものを見せてやろう!さぁ、戦いの時だ!蹂躙するぞ、歴戦の戦士たちよ!」

 

「「うおおおおおおおお‼︎‼︎」」

 

兄の演説に全員の士気が高まる。

 

扉が重々しい響きを立てながらゆっくりと開く。

プレイヤーたちが一斉に抜刀する。

 

ナイフを抜き放ち、静かに戦意を高める。

 

「戦闘、開始!」

 

開ききった扉に、兄を先頭に走り出す。

ヒースクリフは並び、キリトとアスナが左を、ノーチラスと俺が右を固める。

後方にいるユナやアルゴを守るは黒猫団組。

 

攻略に参加する全員が部屋に走り込み、自然な陣形を作り上げ、そして全員が床以外の、すべての空間に意識を向ける。

 

1秒、2秒──。

 

「……上ダ!」

 

索敵スキルの最も高いアルゴがまずそれに反応した。

 

それは、10メートルはあるだろうか。

 

ムカデを彷彿とさせるそのフォルムは、しかし見るものに人間の背骨を思い起こさせた。

骨むき出しの鋭い脚が胴体から伸び、徐々に太くなるその先端に巨大で、凶悪な形をした頭蓋骨がある。

 

しかしそれは人のものではなく、完全なる異形。眼窩の奥には青い炎が瞬き、頭蓋の横からは鎌状の骨の腕が突き出している。

 

それの名前は──《The Skullreaper(骸骨の刈り手)

 

そしてそれはパーティの真上に落下してきた。

それにヒースクリフでさえ動きを一瞬止め、しかしすぐに再起動したヒースクリフは指示を出す。

 

「固まるな!距離を取れ!」

 

しかしちょうど真下にいた3人が遅れてしまった。

アスナ、俺、アルゴが同時に動き出す。

 

床全体が震えたその瞬間、俺たちは逃げ遅れた3人を庇い、その攻撃を受けた。

 

リズ謹製の片手剣が軋む。アルゴ、アスナとともに受けてこの重さだ。

恐らくはキリトとアスナならば受け切れる。しかし、俺はともかくアルゴの筋力が足りない。

 

それ故──。

 

「っぐああ!」

 

3人が逃げ切れたのを見る暇もなく、俺たちは吹き飛ばされる。

 

無様に床を転がる。

 

一撃を受け流しきれなかっただけでHPの4分の1が持ってかれた。

 

「こんなの……めちゃくちゃすぎるだろ……⁉︎」

 

俺に駆け寄り、回復のポーションを飲ませたノーチラスがかすれた声を出した。

 

 

戦いが、幕を開けた。





まずは犠牲になる3人を救出。
ここの描写、ヒースクリフは敢えて全方位への警戒を言っていなかったように感じたので攻略前の演説をおにーさんに行ってもらいました。
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