因みにこの小説では、個人の実力では
対雑魚最強 タナトス
対人最強 PoH
単体最強 ヒースクリフ
コンビ(対ボス)最強 キリアス
コンビ(対人)最強 棚坂兄弟
と言った感じです。
戦いは1時間にも及んだ。
この死神が本当は80層クラス、いや70層後半クラスくらいなのではと思わせられるような強さだ。
「っ!いけるよキリトくん、2人なら!」
「──よし、頼む!」
「……」
戦いの最中でも惚気全開のキリトとアスナのコンビと寡黙なヒースクリフのパリィによって鎌による攻撃は封殺された。
しかし、ムカデのようなその体の先についた長い槍状の骨に数人が薙ぎ払われてしまう。
「黒猫!」
俺の号令とともにサチたちがボスのヘイトを引きつける。
「──短剣、展開」
身体中に巻きつけたナイフホルダーから大量のナイフを展開し、その柄を体術スキルコネクトによって次々に打ち出していく。
コネクトの限界になり、硬直すると攻撃が来るがサチ、そしてノーチラスによって弾き返される。
その隙をついてシリカによって回復が、ユナによってバフがかけられる。
この展開だけで既に《ファミリー》がいかにバランスの良いチームかが見てとれるだろう。
あの死神に勝てた要因は金にモノを言わせただけでなくシリカの回復やユナのバフ的にもあの人数が限界にして最適なのだろう。
そもそも《ファミリー》がバファーやらヒーラーやらデコイやらジャストガード名人やらと生き残ることと時間稼ぎにおいては長けすぎたチームだ。
それに
しかし、誰も歓声をあげるものはいない。
皆、倒れるように黒曜石の床に座り込み、あるいは仰向きに転がって荒い息を繰り返している。
俺は手元からポーションを取り出す。
暗い顔でそれを手で弄びながらクラインに聞いた。
「何人やられた?」
「……10人だ」
トップレベルのプレイヤーが10人も犠牲になった。
エギルやユナやシリカは信じられないと息を呑む。
「…………そっか」
──正直。計算内であるのだろう、あの兄にとっては。
誤解しないでほしいのが、あの兄は身内にはとことん甘いし、なんならたとえ自分を殺そうとする暗殺者でも自分の家に引き入れたら俺たちに迷惑がかからないように気をつけながら全力で庇護し、もてなすような男だということだ。
逆説的にそれは他者にはとことん厳しいということでもあり。
だから、次のことも予測していたのだろう。
***
キリトにとって、それは本当は信じがたいことなのだろう。
かつてキリトと戦った際にヒースクリフが見せた超反応。
普段から大量の物事を理解していながら兄のように動くことのなく、
そして、戦いにおいて一度たりともイエローゾーンに入ることのなかったこと(尤も、これはユナとシリカをうまく動かすことで地味にノーチラスあたりがやっているのだが)。
そこから導き出される結論、それは──。
キィイイイイイイン。
キリトの放ったソードスキルは紫の障壁によって阻まれた。
【Immortal Object】。
破壊不能オブジェクトに表示されるそれが表すは、不死存在。
ヒースクリフの見せた超反応の正体は、これが露見することを恐れたシステムアシストだったのだ。
「システム的不死……?って、どういうことですか……団長……?」
アスナの言葉にヒースクリフは答えない。
こういった時に真っ先に教えてくれる兄も口を開かない。
答えたのは、床に座り込んでいるノーチラスだった。
「つまりこれが伝説の正体ということか、ヒースクリフ。あなたのHPはどう足掻こうがイエローに落ちないように保護されている。……あなたはカーディナルのNPCでなければシステム管理者以外ありえない」
キリトがそれを引き継ぐ。紅の聖騎士をまっすぐに見据えながら。
「そう。だが、この世界においてシステム管理者など1人しか存在しない。……ただ1人を除いて」
ゲーム実況じゃあるまいし、とキリトはこぼし、言い切った。
「《他人のやってるゲームを傍から眺めるほど詰まらないものはない》……そうだろ?茅場晶彦」
「え、えー君……本当なの……?」
ユナが信じられないような目でヒースクリフを見る。
「ユナ。本当なんだろうな、この状況なら」
ヒースクリフが無機質な表情を動かし、ほのかに苦笑した。
「予定では95層まで明かさないつもりだったんだがな……」
笑みの色合いを超然的なものに変えたヒースクリフは、自らの正体を明かした。
「私は確かに茅場晶彦だ。……それにしてもキリト君、君には驚かされた。勿論その洞察力にもだが。全10種あるユニークスキルのうち、《二刀流》を持つのはタナトス君だと思っていたのだからね」
「……やはり反応速度の問題か」
確かに俺の反応速度は喧嘩によって鍛えられ、かなり高い。たしかに現実ならば俺が一番あるだろう。喧嘩は殴り飛ばすよりも相手の急所をついて沈める方が得意だったし、テレビゲームやアーケードゲームでも兄とのワンフレームの戦いは大体俺が制していた。
それでもキリトはそれ以上に天才だった、それだけの話だ。
そもそも俺には二刀流のような超高火力で敵を蹴散らすなんてものは向かない。
せいぜい暗殺剣なんてものがあればそのあたりがちょうどいいんではないだろうか。
つまりとことん俺は正面切っての戦闘に向いてないのだ。ぶっちゃけこのステータス構成ならワンチャン現実の方が正面戦闘は強いくらいだし。
そんなヒースクリフの言い草が気に食わなかったのか、血盟騎士団の1人がヒースクリフに怒りのまま斬りかかった。
ヒースクリフは通常とは逆の──
斬りかかろうとした血盟騎士団の男は盛大に倒れ、次々にここにいる全員が倒れていく。
そして何やらウインドウを操作する。
「さぁキリト君。私の正体を見破った褒美を与え……っ⁉︎」
ヒースクリフが余裕の笑みを浮かべた瞬間。
ガガガガガガガガッ!
ヒースクリフは本能のまま盾を上に向けるとそこに大量のナイフが降り注ぐ。
驚愕のままヒースクリフがナイフを盾で弾きとばし、目を上に向けると、
「ハァイ」
片手を上げた俺と目が合う。キリトに目がいっているうちに俺がちょうど反対側の壁を駆け上がり、跳躍。
そして無理やり体制を整えてソードスキルを発動。大量のナイフを打ち出したのだ。
俺に意識を取られた瞬間に、アルゴがはじき返された俺のナイフを回収、離脱する。
「おらあああああああっ‼︎」
「なにっ⁉︎」
そして死角から兄が斬りかかる。
友切包丁はプレイヤーの生き血を啜る魔剣。その強さはすでにキリトのエリュシデータ、ダークリパルサーを凌駕する。
「やはりキリトとデュエルでもする気だったか?不死が切れてるぞ」
兄の言葉を聞いて、なるほど確かに理不尽な障壁は消えていた。
しかしヒースクリフに攻撃は通らない。
「硬っ……HA,HA、難攻不落……さしずめイージスの盾といったところか」
兄が友切包丁を繰り出す。ヒースクリフが弾き返したその瞬間を狙い、俺がナイフを投擲する。
「本当に……君らは鬱陶しいな!」
「悪いが不良少年たちなんでねぇ!ルールなんてF●●kなもんでねぇ!」
「口が悪いぞ、樹」
「兄貴も素に戻ってんぞ!きぃつけろ!」
片手剣に持ち替え、時に拳を、時にナイフをと次々に戦法を変える俺。
ヒースクリフもだんだん俺の攻撃に翻弄され始める。
しかし、それには誤算があった。
アルゴの存在である。
彼女は非戦闘要員である。しかしその足の速さに関しては閃光のアスナも霞むというもの。
その速さで俺のナイフの回収を行ってくれていたのだが、運が悪かった。
長時間の戦いのせいか、疲労があらわれたアルゴは足を縺れさせてしまう。
そして転んだ先は、ヒースクリフが刃を下ろす先──。
「しま──」
ヒースクリフは目を見開き、手を止めようとする。
彼の流儀に、たとえ攻略組であろうと非戦闘要員を殺すことは含まれていない。
しかしさらに運が悪いことに、それはソードスキル。
兄の友切包丁を弾き返すためのものだった。
そしてその切っ先は──。
「あ────」
「っちゃあ……こりゃ、詩乃に怒られっちまうなぁ…………」
彼女と同等以上の俊敏を誇る、飛び込んできた俺を切り裂いた。
ただでさえ球磨川先輩のような紙装甲に加えてこちらのHPはイエロー。
容易く吹き飛ばされ、その右手をなんとか振り回しながら受け身を取るも、そのHPは赤に、そして──。
いとも容易く、そのゲージをゼロにした。