ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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なんの因果か、シノンの誕生日にこうやって最終話、エピローグを投稿できて嬉しく思います。

今回は2話同時投稿しています。ぜひこちらからお読みください。



棚坂樹と終焉

 

 

「な、に……⁉︎」

 

突き立てられたナイフを見ながら一歩、二歩と後退するヒースクリフに俺は言い放つ。

 

「『大嘘憑き(オールフィクション)!』『俺の死を』『無かったことにした!』」

 

「そういうのいいから」

 

兄に頭を叩かれる。やって見たかったから仕方ない。

 

「残念だったな、ヒースクリフ。『モンスターが死んだら結晶禁止エリアが解除される』なんて仕様にしたお前が悪い。……そう、『僕は悪くない』」

 

「いい加減シリアスぶち壊すのやめロ」

 

むふーと鼻から息を吐きながらドヤ顔かます俺に膝カックンするアルゴ。

そんな姿を見てヒースクリフが納得した声をあげる。

 

「ふっ、成る程……。蘇生結晶か……」

 

その通りだ。

去年のクリスマスに起きたあのボス戦。

俺はキリトたちが背教者ニコラスを倒したことにより手に入れ、そしてこちらに横流ししてきた蘇生結晶をここで使用した。

 

我ながら物持ちがいいというか、なんというか。

きっとお人好しのキリトやアスナが持っていたら誰かが目の前で死んだ時に使っていただろう。

 

が、俺は詩乃に会うまでは死なないと決めた。ならばフェニックスの尾は取っておくしかなかったのだ。

 

しかしその考えが功を奏したか、無事、こうやって25層も早くラスボスを打倒してみせた。

 

「成る程な……あくまでシステムの範囲内で倒してみせたか……私としては、システムの範疇を超えたものを見て見たかったんだがな……」

 

ヒースクリフ(システム作った人)の言い出した訳のわからない理論に顔をしかめる。

 

「なんだ、それ。んなこと言ったらキリトはどうなる。こいつ、俺たちの動きを完成(ジ・エンド)もかくや、って具合に完全にトレースしてたぞ」

 

あの10秒間の攻防の間のキリトは一体なんだったというのか。

振り返って本人に聞いてみようとしたところ、いくつかの拳が迫ってくるのが見えた。

 

「あっっっぶねぇ⁉︎」

 

即座に思い切りのけぞり、そのままバク転で回避する。

 

「ちっ」

 

拳を振り抜いたノーチラス、キリト、クラインがそれぞれ舌打ちをする。

クラインが舌打ちをしたところとか地味に初めて見た気がする。

 

「てめぇら、黄泉上がりになんてことしやがる⁉︎」

 

「病み上がりみたいに言うんじゃない。タナトス、お前自分の命を俺はに何も言わず一度投げ出した訳だが」

 

ノーチラスの言葉にぐっと詰まる俺。

確かにそれは事実だ。──しかし。

 

「お前らが口軽すぎなのと彼女の尻に敷かれすぎなのが問題なんじゃあーりませんかねぇ⁉︎」

 

そう、それがこちらとしてもネックになっていたのだ。

こちらとしてもキリトたちがもう少し演技が上手くて、口の軽い、あるいは演技がど下手くそな恋人たちにも嘘を突き通せるくらいの器用さを持っていれば援軍を喜んで申し出たものを。

 

「おかげさまデェ?作戦が露見する可能性のある君らには協力が仰げずゥ?どこぞのコンテニュー神か過負荷のように死ぬ羽目になったんですけどわかる?手元が冷えてってちゃんとアイテム使えてっかわからないこの恐怖感!こちとら向こうに詩乃が居んだよ!それにまだ積みゲー消化しきってないの!面白そうだと思った海外ドラマもファーストシーズンまでしか観れてないんだよ!この2年間の間にどれだけ面白いアニメがあったと思う⁉︎絶対名作あったよリアタイで観れなくてなんかテンション下がるよ……あーもう!」

 

ものすごい勢いでまくし立てる俺にすっかりたじたじになったキリトたちに、俺はさらに逆ギレして飛びかかっていく。

するとキリトとノーチラスはクラインを盾にして逃走を開始。俺はクラインを吹っ飛ばしてから追いかける。

 

《ゲームはクリアされました──ゲームはクリアされました──》

 

そんなアナウンスを耳にしながら──。

 

顔に満面の笑みを浮かべながら──。

 

 

***

 

 

「はぁ……やれやれ、もう少し英雄様とお話ししたかったんだがな……」

 

ヒースクリフはそうこぼし、粒子化が始まっている自らの死を受け入れようとする。

 

「ヒー……いえ、茅場さん」

 

「……ヴァサゴ君か」

 

隣にいつの間にやら立っていたのはかつて彼の助手をわずかな期間だが務めた青年、棚坂ヴァサゴであった。

 

「すでにログアウトは始まっている。──ここではなんだ、場所を変えよう」

 

ヒースクリフが粒子になると同時に、ヴァサゴ、キリト、アスナ、タナトスの意識が一瞬途絶え、再び目を開けると──。

 

足元は水晶の板でそこから燃える夕焼けと崩れゆく浮遊城の姿が見える。

 

「ここは……」

 

「なかなかに絶景だろう」

 

気がつけばヒースクリフの体は変化していた。

 

白いシャツにネクタイを締め、長い白衣を纏い、鋭角的な顔立ちに金属的な瞳が穏やかに光る、そんな男。

 

茅場晶彦の本来の姿であった。

 

茅場晶彦が4人に話しかける。

 

「あれは、どうなっているんだ?」

 

キリトは浮遊城を指差し問う。

 

「比喩的表現というべきだろうな。……現在、アーガス本社地下5階に設置されたSAOメインフレームからデータの完全消去作業を行なっている。後10分もすればこの世界の何もかもが消滅し、タナトス君──樹君は件の愛しの彼女と会えるだろう」

 

「まだ彼女じゃないんだよなぁ……」

 

「団長。生き残ったプレイヤーは」

 

「問題ない。生き残った全プレイヤー、6957人のログアウトが完了した」

 

アスナの言葉を遮って茅場は言う。そして、ヴァサゴの目を見ながら続ける。

 

「ヴァサゴ君。君には、感謝している」

 

「な、」

 

突然何を言いだすのだろうか。ヴァサゴは驚いて茅場をまじまじと見る。

 

「君には、子供になにか夢想した経験はあるか?私には、空に浮かぶ鉄の城の空想が頭から離れなかった。歳を重ねるにつれ、だんだんとリアルになるその光景に、私はフルダイブ環境システムの開発を始めようと決心したのだ」

 

少し吹いた風が茅場たちの髪をわずかに揺らす。

 

「SAOの開発は、私に満足のいくものと言えるだろう。それの一助となったのは、君のおかげだ。感謝しよう」

 

「──3000人もの人を殺した大量殺人鬼に感謝されても嬉しかないさ」

 

ひどく静謐な光を持つ茅場の瞳と反対にヴァサゴの瞳は夕焼けを映し出し、真っ赤に燃えていた。

 

それはまるで、冷たい水面と燃ゆる焔。

恋人や後輩を置いて死を受け入れた夢想家と生をもがきながらつかんだある日の少年の生き様そのものを表しているように思えた。

 

「なぁ、茅場。あんたは、なにがしたかったんだ?──あ、──いや、まて、うん。なんとなくわかるよ」

 

アスナとキリトがタナトスの言動に目を見張る。

 

「俺も、結構子供の頃はいろんなことを思い浮かべてたんだ。悪を倒す正義のヒーロー、剣と魔法の異世界。そして、まだ誰も知らない秘境。そんなものが、本当にあって欲しかったんだよなぁ、懐かし」

 

「俺と同じであんたも、1人の少年だった。でも周りの誰よりも才能があって、誰よりもみんなの色んな夢に近くて。でも自分の夢にはどうあがいても届かなくて」

 

「でも信じたかった。自分の夢を。──あんたは確かに、3000人もの人間を死に追いやった。それは許されることじゃない」

 

茅場は目を瞑る。

自らの妄想の実現という哀れな動機のままに大量の人間を殺した夢想家の断罪を待つ。

 

「けどさ」

 

「?」

 

「──俺さ、たまに夢で見てたんだよ。俺がある浮遊する世界に生まれて、剣士──または拳士──を夢見て育って。少し暗いけど弓の扱いがすっごいうまい眼鏡の女の子と恋に落ちて、そんで尊敬する兄貴と、その女の子と。最っ高の親友たちと暮らす、そんな夢を」

 

茅場は目を見開く。

樹はニヤリと笑う。ずびし、と茅場を指差す。

 

「茅場晶彦。俺が保証する。あんたの思った世界は、必ず存在する。どこか、遠い遠いどこかで。そこはきっと、あんたのその想像を大きく超えるとこだ」

 

顔には思いっきりにやけ顔を浮かべて、いたずら好きの少年のような顔をして科学の常識なんぞ知らんと両手を広げ、夕日をバックに高らかに宣言した。

 

2年前のゲーム開発者の最高峰に立っていた男の想像を鼻で笑うような、そんな異世界の存在を夢想した男は、笑った。

 

 

 

「──ああ、そいつは、いいなぁ──」

 

 

 

かつて鉄の城を夢見た、少年のように。

 

朗らかに、

 

幸せそうに──。

 

光に包まれ、本当のアインクラッドへと、旅立っていった──。

 





というわけで次回がエピローグとなります。
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