ソードアート・オンライン〜戦闘狂兄弟が行く〜   作:赤茶犬

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どんどんPoHおにーさんがいい人になっていく。


赤鼻のトナカイ編
棚坂兄弟とキリトと黒猫団


 

 

昼下がり。暖かい陽の光が窓から差し込む。

外はチュンチュン、と鳥の鳴き声がする。ああ、とても素晴らしい天気だ。美しい陽気に心も晴れやかに–––「はぁ……」–––ならなかった。

 

第1層クリアからしばらくして。

 

ここは第22層の湖畔に立つ家。そこに俺たち兄弟とキリトはいた。

今現在キリト、そして俺は今までで最も精神が削られていると自信を持って言えるだろう。

 

何をしているか。

 

勉強である。

 

兄は教師志望で塾の講師もやっていた。その変に真面目な兄が言い出したのは、クリアしても社会復帰が楽になるよう、勉強しようと言い出したのである。

 

教え方が途轍もなくうまいこともあって楽に解けはするものの、どうしてゲームの世界で勉強しなきゃならんのだという思いが俺たちの心を占めている。

 

と言うかどこで教材見つけてきた。

 

「第一さ、俺はお前たちのギルドに入ってないんだし、やる必要ないんじゃ……」

 

キリトが言うが、それを言ったら、と兄が苦笑しながら反論する。

 

「そしたらタナトスとマンツーマンになるんだがな」

 

俺と兄はギルドを作った。

名前は《ファミリー》。とある暗部みたいなネーミングだが、別にレッドギルドでもオレンジギルドでも統括理事会所属でもない。

てかあれは総文字数が四文字か。まぁそれはどうでもいいから捨て置いて。

最初は俺の意見がオリンポスファミリア、兄の意見がSpirits of Solomonだったのだが、あまりに厨二病臭かったためか名乗るのが恥ずかしいとアルゴに却下された。そのため、仕方なく覚えやすい名前にした。

 

アルゴはこれにも「いや、もう少し凝ってもいいんじゃないカ……?」と難色を示していたが黙殺した。

もう一つの案として笑う棺桶(ラフィン・コフィン)があった。結構語呂も良く、これを考えた俺たち兄弟はもちろん、アルゴもラフィン・コフィンの意味を知らないなりにそれなりに気に入っていたのだが、エギルやディアベル、あとは街行く人達に聞いてみたら名前が恐ろしいとあまり評判が良く無かったのでそれはボツとなった。

 

エンブレムはポンチョを着た猫で背景に本がある。

ポンチョ=兄、本(情報)=アルゴ、猫=俺と行った具合である。

 

メンバーはエンブレムからお察しの通り、俺と兄、そしてアルゴの3人である。

別にギルドを作ったからどう、と言うわけではない。

もともと3人しかいなく、作った目的も情報屋アルゴの後ろには攻略組の中でもトップクラスの俺と兄がいるんだぞ、と言う思いを抱かせ、アルゴの安全を確保するために作った節もある。

 

と、いうかただ身内の拠り所を作っただけである。

 

「兄貴ー。ここどうやんの?」

 

「そこはこの公式を応用して……」

 

「成る程」

 

元々はアスナもいたのだが(エンブレムのアスナ要素は猫が白猫だった。アスナ脱退後は黒猫になっている)、最近力をつけてきたギルド、血盟騎士団に入ってもらった。

というかそこの団長のヒースクリフという男にギルドを立ち上げる際の相談を持ちかけられ、そのままギルドの運営を勉強していたアスナを引き抜かれたといった次第である。

 

たまに勉強を教わりにこちらに戻ってくるのを見るからに、あいつも兄と同じタイプのクソ真面目で出世するタイプらしい。

 

取り敢えず話を勉強からそらしたくなったので俺はキリトにお決まりの文句を問いかける。

 

「キリトも入りなよ、うちに。なんのために黒猫にしたと思ってんのさ」

 

ペンから手を離し、メニューを操作してギターを取り出し、じゃかじゃか鳴らしつつ聞く。俺はリアルでもよく勉強のリフレッシュにギターを弾いていた。兄も黙認している。

それがこのゲームの世界でも可能なのは第一層攻略からそれほどおかずにとったスキル、《音楽》スキルによるものだ。

 

さて、質問の内容に戻ると、なぜかキリトはうちに入りたがらない。本人は色々とぼかすがなんだかんだでソロでやっていた方が気が楽なのだろうと俺は見当をつけている。

確かにアイテム配分とかなかなかに面倒なことになることが多いものの、結局のところ染み付いたぼっち気質とはなかなか抜けないものだ。

 

「んー、まぁまだいいかな。そのうち入るとは思うけど、なんと言うか、こう……どうしても最近は攻略組がギスギスしすぎていて攻略から少しの間身を置きたいって考えていたし」

 

「分かる。最近は特に酷い時の桃鉄くらいギスギスしてきてたよな」

 

最初はギターを適当に鳴らしていただけだったがそのうちにメロディーとなる。俺の好きな曲の1つだ。詩乃によく弾き語りをしていたのを思い出す。

俺がしみじみと詩乃に想いを馳せていると今までメロディーを口ずさんでいた兄がふと思いついたかのように言った。

 

「そうだ、攻略から身を置きたいってんなら、ちょっと手伝ってくれるか?」

 

兄のその一言で俺たちは地獄から解放された。

 

***

 

ここは前線から10層以上も下の迷宮フロア。俺たちは兄の短剣の素材となるアイテムの収集を目的にそこに潜っていた。

 

俺と兄はフードを被りながら戦う。

兄の一層から変わらないポンチョのフードはともかく、俺が度々強化、または新たなクエストをこなして手に入れているお気に入りの猫耳付きパーカーはフードを被ることによって敏捷値がそれなりに上がり、ダメージ軽減のバフも少しつく。

 

普通男が猫耳付きパーカーなんぞ着ても似合わないだけだが、俺の中性的な外見のお陰でかなり似合っている。らしい。

アルゴ曰く、たまに『猫耳美少女狂戦士』の噂が流れているらしい。確かに中性的な顔立ちなのは自覚するが、キリトほどは俺は女顔ではないと言うのに。

 

「ヒュッときて……そぉらっ……と!」

 

俺が投剣スキルで敵の目を潰し、肉薄して体術スキルでぶちのめすというとても実用的な戦法を取り、周りの敵を蹴散らす。

 

相手が弱いからメイン以外のスキルのレベル上げを兼ねて行っていた俺たち一行は、モンスターに追われながら撤退してくるパーティと出会った。

 

ろくにパーティを組まず、兄かキリトとコンビかスリーマンセルしかしない俺から見てもバランスの悪いメンバーのそれは余裕こそまだギリギリ残ってはいたが彼らを助けることにした。

 

「キリト、ゴー」

 

「俺かよ」

 

溜息をつきつつも当然かな、といった目を俺に向けた後、キリトは攻略組の中でも間違いなくトップレベルのその実力を発揮し、一撃で吹っ飛ばした。

彼は吹っ飛ばしてから一瞬、しまった、という顔をしたが後の祭り。自称ぼっちを名乗るあの男にとって、最も慣れないであろう経験をする羽目になった。

 

まずは「すげぇ!」といった類の歓声。その次に次々とハイタッチ&握手。予想よりも遥かに相手のコミュ力が高かったため–––どちらかといえばウェーイ系のテンション–––に俺は救援をとりあえず断念した。あのテンションには巻き込まれたくないのだ。

キリトは戸惑いつつも笑みを浮かべ、差し出された手を握り返していた。

かなり神経を使って噛んだり挙動不審にならないように気をつけているのがわかる。

 

俺と兄は腹が痛かった。

 

極め付けはそのパーティ紅一点の黒髪の結構可愛い槍使いが涙を浮かべながらキリトの手を握っていた。顔も若干赤くなっていた。

キリトもどこかまんざらではない様子だ。

 

……ふむ、面白くない。

 

俺はその姿をスクリーンショットを収めると、兄をちらりと見る。兄の親指を立てたGOサインの元、アスナにそれを送った。

 

十数秒後、顔を真っ青にしたキリトが俺にドロップキックをかましてきた。

こいつ、オレンジプレイヤーになりかねないことをあっさりやってくるな、とある意味関心しているとキリトが切羽詰まった声で問い詰めてきた。

 

「何したんだよ⁉︎唐突にアスナから一言『殺す』って殺害予告届いたんですけど⁉︎」

 

「あ、ちゃんとアスナに届いたんだ?この写真送った」

 

「……?なんで俺がこの写真で殺されなきゃいけないんだ?い、いやなんでこんなもの撮るんだよ⁉︎」

 

本気でキリトは戸惑っているようだ。

まじか、マジかこいつ。ラノベ主人公だったのかこいつ。

兄も信じられないような目をキリトに向けている。

 

すると、先ほどのパーティがこちらに近寄ってきた。

 

「さっきはありがとう。よかったら、街に戻った時に何か奢らせていただけませんか?そちらのお連れさんも一緒に!」

 

彼らは自己紹介をするとケイタと名乗った彼らのリーダーがそう持ちかけてきた。

 

「OK、まずは敬語は無しにしよう。俺はPoH。仲間からはおにーさんと呼ばれているからプーさんと呼ぶよりはそっちで呼んでくれ。俺は蜂蜜はそこまで好きじゃない」

 

兄の自己紹介はスベった。体育座りしている兄をキリトが隣で励ましている。ウケを狙おうだなんて、慣れないことをするからだ。

そんな兄を横目に俺が自己紹介をする。

 

「……えと、俺はPoHの弟のタナトス。食事の件だが、ぜひご一緒させてくれ。

よろしくな、えーと、月夜の黒猫団のみんな!」

 

えーとが多かったかもしれないがリアルで友達のいなかった俺からすればかなりの高得点だろう。

 

「元気出しておくれ、兄貴」

 

「……そだね」

 

その後、主街区に戻った俺たちは酒場で打ち上げをした。

支払いは兄がすることになった。ケイタたちは渋ったものの、俺が『メニューのここからここまでよろしくね』と言ってからは大人しくなった。

兄には殴られた。もちろんケイタ達に奢らせないための嘘だったので取り消した。

取り消せないかも、って一瞬自分の持ち金を思い出そうとしたのは秘密。

 

「へぇ、3人とも攻略組なのか!」

 

ケイタが興味津々に聞いてくる。兄はにこにこ笑いながらながらそれに答える。

どうやらトッププレイヤーに嫉妬するタイプではなかったようだ。

 

「ああ、今日はたまたま通りかかってよかったよ。今の間くらいぜひ俺たちを頼ってくれ……って、そうだキリト」

 

相手が思ったより柔和な態度を取ってくれたことに安堵した様子の兄がキリトの方を向いた。

 

「お前、ここ入りなよ。お前攻略からちょっと身を置きたいって言ってたろ。たまには中層プレイヤーの育成を手伝えよ。いいかな、みんなは」

 

月夜の黒猫団のみんなは驚きつつも快諾してくれた。

紅一点の槍使いのサチはとても喜んでいた。さすがはイケメン。とあるツンツン頭を彷彿とさせるフラグメイカーっぷりだ。だがサチ、ごめんな。俺はキリアス派なんだ。君の幻想はぶち壊させてもらう。

 

「ちょっと人に教えるのは苦手なんだけど」

 

「じゃあ俺が残ってやる。タナトス、帰れ」

 

「え⁉︎」

 

文字通り首根っこ掴まれて放り出された。

 




タナトスとPoHのギルド名の元となったのは二人の名前です。
タナトスはギリシャ神話の死神で、そこからオリンポスの神々、オリンポスファミリア。
PoHのは本名のヴァサゴがソロモン七十二柱に出てくる悪魔の名前だったので、ソロモン七十二柱の英名から。
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