前回のあらすじ
タナトスが行方不明になった。
タナトスが行方不明になってから一ヶ月半たった。
さすがに失踪1日目から数日間は探し回っていたが見つからないし、ここ最近《猫耳の剣士》なる噂がアルゴの情報網に引っかかったらしく元気らしいからPoHたちは放っておいている。もちろん不安ではあるが、新しい黒歴史を作ってしまった身としては会いたくないのが現状だろう。
今日も黒猫団、そして新しく《ファミリー》に入団したユナとノーチラスの戦闘訓練とレベリングを終え、血盟騎士団の仕事を終えたアスナと合流した一行(タナトス除く)はホームで食事会をしていた。
PoHはいい加減キリトにもはっきりして欲しいのでいつも通りキリトに聞く。
「キリト、この際だからお前も入れば?まじで」
「うーん、正直入っても入らなくても関係ない気がするんだが……」
キリトはまだ渋っている。彼は正直入ろうが入るまいが今の関係は崩れないだろうと思っているのだが。
「地味にお前入れたいギルド結構多いんだぞ?攻略組ギルドはキバオウのとこ以外はみんな欲しがってるし」
「キバオウ……嫌われてるなぁ、俺」
「私的にはキリト君がヴァサゴさんとかと一緒にいてくれるとこちらの心労も減るんだけどね」
横からアスナが言う。
やはり第1層から一緒に攻略してきて、最近になって別のギルドに所属することとなったために別行動を余儀なくされているアスナとしては、キリトの安全は第一に考えているのだろう。
「心配してくれるのはありがたいんだが……うーん、
さすがは上条さんレベルの朴念仁。黒猫団とPoHの間で彼のあだ名は核弾頭先輩に決定した。
そして案の定アスナは絶句。サチは今にも飛び上がりそうだ。
ユナとノーチラスはその光景を見て全てを察したようだ。
二人はPoHに視線でどうにかしろと訴えかけてみる。PoHはその視線にやるだけやってみるか、とキリト、そして黒猫団のリーダー、ケイタに《ある提案》をしてみる。
それは驚きのものだった。
***
夜の闇を切り裂くように、片手直剣ソードスキル《ヴォーパルストライク》がモンスターを貫く。
モンスターがポリゴン片になり四散するのを横目に、俺はひたすらモンスターを狩り続けた。
ほんの数日ほど前に片手直剣スキルが950に達すると同時に剣技リストに現れたこの技はかなり使い勝手が良かったためにたった一時間ちょっとで使いこなし、重宝していた。
俺のレベルは間違いなく攻略組の中でトップだろう。
あの《最強ぼっち》の名を冠するキリトですら俺のレベルまであと半月は少なくともかかるだろう。
どうしてここまで俺がレベルを上げているのか。
そう、理由はただ一つだ。
「俺は利己主義者俺は利己主義者超絶エゴイスト兄貴のことなんてどうでもいいしあの人働きすぎてちょっと不安になってたなんて思ってないし別にユナとノーチラス助けようと思ったのもあいつら戦力にして利用すれば詩乃の元に早く帰れるって思っただけだしアスナを血盟騎士団に送ったのも別にオレンジ狩りをしている俺たち《ファミリー》に入っていたらアスナも狙われる可能性があって危ないなんて思ってないしアルゴの情報収集能力なんて尊敬してないし一切合切感謝してないしキリトなんて爆発すればいいし」
俺は一ヶ月半前のあの血迷った結果を忘れたいだけなのだ。
完全に黒歴史一直線のアレを比較的良心のあるアスナやいざとなれば同じレベルの黒歴史を流出させることの可能な兄だけならまだしもまさかアルゴとキリトに見せてしまったのは実にまずい。
アルゴは問答無用でいじってくるし、キリトも最近人のことをなめてかかっている節がある気がする。
事実アルゴはあの事件から2日後にキバオウたちのギルド、軍に匿ってもらっていたのだが(そのことはキバオウとそしてもう一人のリーダーシンカーしか知らない)、どこから嗅ぎつけてきたのか乗り込んできていじり倒してきた。
危うく高校生にもなってガチ泣きするとこだった。
それはともかく、あと一ヶ月くらいは会いたくない。ほんとにもう恥ずかしい。
そこに。
「なぁタナ吉、おめぇさんどうしたってんだ?なんかあったのか?」
俺がそこの狩場の制限時間が終了し、休んでいるとクラインがやってきた。彼とは第1層からの付き合いだからそれなりに仲がいい。本気で俺のことを心配してくれるまじでいいやつであり、第二の兄貴分といっても過言ではない。
「あぁ、気にしないでくれ」
素っ気なく返すと再び列に並ぼうとする。それをクラインが腕を掴んで止める。彼のまなざしは真剣そのものだ。黒歴史を消すためだけにいるからなんか気まずい。
「聞いたぞ、おめぇさんずっとこの狩場に一日中いるらしいな。何があった?まさかおめぇさんもあの
は?
「なにそれkwsk」
「お、おう」
クラインから聞き出したところによるとクリスマスにどこかのモミの木の下に特別なボスがやってきてそのボスが落とすレアアイテムが蘇生アイテムらしいのだ。
「なんだ、知らなかったのか?じゃあなんで……」
少し恥ずかしくなってきたのでほおを掻きつつ答える。
「あー、ちょっと黒歴史ができちまってな、それを忘れようと……」
要領を得たようにぽん、と手を鳴らすクライン。
「ああ、攻略組でおめぇさん有名だぞ?『速報!猫耳死神タナトス、デレる!』って」
「ゥンニャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ‼︎⁉︎」
頭を抱えて思わずしゃがみこむ俺。なんだなんだとこちらを向く連中もいるが気にならない。
「どこだ、どこでそんな情報……!」
「え、キリの字が」
「あいつかあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ‼︎」
俺は走り出した。
***
次の日の朝、キリトは黒い流星を見た。
「死に晒せこの腐れタラシがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ‼︎」
「がっふっ⁉︎」
ごろごろごろごろっ!
と優に10メートルは転がったあと、やっと彼は襲撃者を見ることができた。
「キィィィリトくゥゥゥゥゥゥゥゥン!!こっから先は一方通行だァ‼︎地獄への片道切符握りしめる準備はできたかァ⁉︎」
「なになになになに⁉︎」
一応ホームの敷地内とはいえ、問答無用で切り掛かってくる俺にキリトは困惑を隠せない。
「ここ一ヶ月俺を噂のタネにして生きてきたんだ、死ぬ覚悟くらいしてんだろうな⁉︎」
キリトは俺のセリフに驚いたように目を見開き叫んだ。
「ば、バカな、あれは風林火山と聖龍連合と血盟騎士団にしかいってないはず–––!」
「どこをどうしたら俺の耳に入らないんだと思うんですかねぇ‼︎」
「わわっ!シャレになってないぞ、剣を振り回すな‼︎」
「It's show time!」
俺はボスと相対するときの装備をフル活用してキリトを潰しにかかる。
ここでやっと他のメンバーが出てくる。
「なんだ、っておいタナトス、君は一体何してる⁉︎」
「止めるなノーチラス、これは俺の沽券にかかわるんだ!」
「そっちはキリト君の命に関わるでしょ⁉︎」
ノーチラスとアスナが止めに入るが俺は止まらない。着実に圏外まで吹っ飛ばそうとして攻撃を加える。
「ハッハァ‼︎
投げナイフを存分に使用しあと少しでキリトを圏外に–––
「それ以上やったらリアルに戻った時お前のスマホかち割る」
兄の言葉で俺は固まった。
あまりゲーマーの部類に入らないアスナなどはピンとこないような顔をしているがキリトとかは被害者なのに「なんて酷い脅しを……」なんて呟いている。
「確保ォ‼︎」
俺はファミリーの面々に取り押さえられた。
***
「……んで?俺のいない間に大分メンツが増えたみたいだけど?」
「あ、そうだった。月夜の黒猫団の面々とユナアンドノーチラス」
「「人をお笑いコンビ名みたいに言わないで」」
「そしてキリトが入った」
「このブラッキーがか?あのぼっちゲーマーがか?そのゲーム内の方がリア充してそうな奴がか?」
「他にどのキリトがいる」
俺と兄がこそあど言葉をフル活用して現状確認をしている時、キリトはなかなかに心外だなといった顔をしていた。
「どうした【漆黒に包まれし遊戯に愛された少年】よ?」
「タナトス、次その呼び方したら本気でぶん殴る。体術スキル使ってでも」
どうやらキリトは俺の新しいあだ名が気に食わなかったようだ。
しかし、と俺は同時に思う。
キリトが見せる反射神経は異常なまでに鋭い。例えば先ほどの投げナイフの弾幕もほとんどに反応できていたのがいい例だろう。
「わかった、なら【闇を纏いし総てを斬りふせし少ね」
俺は言い終わる前に殴り飛ばされる。キリトの宣告通り体術スキルによって、だ。
「ったく……」
キリトがため息を一つつく。
「まぁ何であれ、元気そうでよかったぜ」
兄がはは、と笑いながら俺に手を差し伸べる。
疑問符を浮かべていると兄がイケメン笑顔を浮かべつつ。
「おかえり、タナトス」
……やっぱ兄貴イケメンだわ。
黒猫団、ユナ救済完了。キリトもぼっち脱却しました。
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