巻き込まれた少年は烏になった   作:桜エビ

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鮮血の海〜who hurt her〜

条約という楔は破られた。

 

 

何者かによって作られた均衡が両者に闘争心を与える。

 

 

気づかない企業と国家は踊り狂う。

 

 

誰のためでもなく。

 

 

ただその者の為に。

 

 

戦況は混迷に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は雨が降っていた。

シャルさんが珍しく焦って二階から降りてくる。

 

「アキレス!急いでACのセットアップして!ブリーフィングは後!私も出る。」

「緊急事態?分かりました。」

 

こういうことはたまにある。

時間が無い緊急事態の依頼はどんな類のミッションを何処が出したかだけ確認して、移動中のAC内でブリーフィングを行う。

 

「どんなミッションですか?」

「有澤の工場を視察してたレイレナードと自衛隊で戦闘が発生。もっともレイレナードはこれ狙いだったみたいだけど。」

 

 

俺にとって認めたくない、最悪な状況が待ち受けているなんて知らなかった。

 

「どの辺りですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞きたくない地名だった。

よりによってなんで、と頭を抱えたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルさんの口から発せられたそこは。

 

「紫蘭の合宿してるところじゃねぇか!クソッ」

 

最悪だ。

無事でいてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらです!落ち着いて避難してください!」

「焦らないで、冷静に!!」

 

急ぐ人混みにもまれ、私は避難誘導を手伝っていた。

自分から申し出た。

後悔はしてない。

多くの困っている人を無視は出来ない。

だから何かできることをして無いと気が済まない。

 

向こうで砲撃音がする。

ACが銃撃戦をしてるんだ。

日本でこんなことが起こるなんて思ってなかった。

 

「すいません!!私の子供が見つからないんです!」

 

向こうで女性が避難誘導の男性に訴えるように叫ぶ。

自分の子供が心配で今にも泣き崩れそうだ。

彼が手を離せないのなら、

 

「私が行きます。」

「何言ってるんだ!危険だろう。」

「大丈夫です。私、人探しは得意なんで。」

 

そう言って許可も得ず走り出した。

自分がそうすべきだと思ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【戦闘システム、起動。】

 

『敵はノーマルしかいません。迅速に撃破してください。』

 

俺は誰もいないところに着地した。

その近くにオーメル製ノーマルが一機。

 

『レイヴンか!それなら早く。』

 

()()()を全滅させなきゃなぁ。」

 

腹の底から声が出た。

敵の方を向いて、俺に横っ腹を見せているそいつは、今まで企業側のレイヴンだった俺を味方と勘違いしていた。

そいつをダークスレイヤーで左脇腹から右肩までをバッサリ斬り、APを奪い切る。

 

そして、右手のリニアで奥にいる自衛隊のアルドラのノーマルを撃ちまくった。

片膝を付き停止。

 

隣に居た奴にも同様に弾丸を浴びせてやる。

 

【両者条約違反のため、双方にGAの制裁として武力行使を行う。】

 

そうシャルさんから伝えられていた。

 

 

一気に上昇し、お互いに敵しか目に入ってない有澤と自衛隊のノーマル計4機に散布型ミサイルを2トリガー分撃ち込んだ。

 

 

着地したとき、後ろから迫る機体が一機いることに気付く。

 

「わかりやすいんだよ。」

 

後ろからオーメルのノーマルがブレードで斬りかかる。

 

それに対し俺はダークスレイヤーをマニピュレータ保持に持ち替える。

あの時のヤンを思い出す。

 

 

そして、振り向きざまに

 

一太刀で右手を斬り飛ばし。

 

ニ太刀でコアを裂き。

 

三太刀で足を払った。

最後の衝撃で敵機体が浮き上がり、俺の頭上を超えてアスファルトを抉って胴体着陸した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「息子をありがとうございます‼」

「いえ、見つかって良かったです。早く避難してください。」

 

ビルで1人泣いていた子供を連れてきたら、やっぱり彼女の子供だった。

なんとか彼女のいる川沿いに連れて来れて一安心。

彼女は子供を連れて去っていった。

後は私が避難するだけ。

 

そこで気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

向こうの方。

川の中に佇んでいる青と白のACがいた。

練のACだ。

 

 

こちらを見た。

 

 

 

 

 

すると私に気付いたように急にこっちに向かってきた。

少し嬉しいけど、申し訳ない。

練、怒るだろうな。

そう思って、待っていた。

だけど。

 

 

 

そのAC()がすぐ目の前に来たとき。

 

 

轟音と暴風が私を襲う。

 

何かが頭に強く当った。

 

 

そして意識が遠のいていく。

練も。

 

左半身の感覚とともに。

 

「練…どうして…」

 

何故か、口からそう漏れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は驚かざるをえなかった。

まだ紫蘭が戦闘エリアに居たんだ。

思わず俺は駆け寄り呼びかけようとした。

 

 

 

 

 

 

だが、それは間違いだった。

 

 

紫蘭の近くに来たとき。

画面端に【LOCK ON】の文字が浮かぶ。

 

 

 

 

初っ端で斬り捨て、APを0にした筈のノーマルが右で動いてた。

咄嗟にEOを起動する。

 

 

 

 

「紫蘭逃げ」『調子に乗るなぁ!』

 

バズーカ弾が目の前で光の花を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【右腕部破損】

 

【Destroy】

 

バズーカは肘に当たった。

 

 

EOの攻撃が敵のコアに命中したのか、敵機撃墜の文字がコックピットに灯る。

 

だが、そんな物はどうでも良かった。

 

目の前の光景を認めたくなかった。

自分のミスを認めたくなかった。

自分の愚かさを認めたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

紫蘭は()()()()()()

 

 

 

それでも

 

 

「ああ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もげた右腕が、紫蘭の左半身を押し潰している光景から目が離せなかった。

 

 

 

 

 

「あ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

紫蘭の、鮮血の海に浮かぶその姿。

 

 

 

主の意思が伝わらないはずの右手の小指が、その少女の頭を優しく撫ででいた。

 

 

 

 

 

 

 

そこから目が、離せなかった。

 

 

「ぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァぁ…ヴぁあ嗚呼あああ啞ああ阿ああああAあああaあああ亞椏あああ阿あああAあッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ……ハァ……」

 

『アキレス!どうしたの?』

 

シャルさんの声で我に返る。

 

「シャル…さん。お願いが、あります。」

『どうしたの。』

 

シャルさんは紫蘭にまだ気付いてない。

俺は行かなきゃいけない。

だから、辛くても言わなきゃ。

 

「紫蘭に応急処置、それと救護ヘリを、呼んでください。」

 

そして半歩ずれて光景を見せる。

 

『っ!!!あなたは何を!』

「これからヘリが降りれるよう、脅威を排除します。シャルさんは彼女を守って、ください。」

『守るのが貴方の役割でしょうが!!』

 

堪らない、とシャルさんからの罵声。

だけど。

 

 

 

 

 

 

俺は彼女の夢を潰した。

オリンピックの為の足を潰した。

既に守れてない。

 

 

 

 

プツリと何かが切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺にその資格、は、無い。今の俺は、壊さずには居られない。故に彼女を守る権利が、ない。」

 

機体の左手がグリップを握り込む。

何処からともなく黒い霧が機体の周りに現れて、それが集まり刀身を形成する。

 

『それは何も生み出さない!良く考えてアキレス。』

 

敬語が抜け落ちる。

それで俺が正常ではないと判断したに違いない。

そう言いつつもシャルさんはコックピットから降り、紫蘭の応急処置処置を進めている。

 

 

「なんも生産性も無いのは、分かっている。だが、気が済まないんだ。」

 

 

シャルさんが口を噤む。

もし今抑えても、いつかは抑えられなくなる感情だ。

 

だから。

 

「今だけは、この激情に身を任せたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各所でAPが0になったACが動き出す。

制限を解除した機体だ。

 

「なら…死んでも文句はないよな。」

 

まずは、国連軍のアルドラのACを蹴り飛ばす。

プログラミングされた硬い動きでも、リニアでボロボロになっていた装甲を砕くには十分だった。

上半身と下半身が別れる。

もう一機のノーマルがパルスで迎撃するつもりらしいが、散布型ミサイルがその前に機体に突き刺さり、機体を爆砕する。

 

『満身創痍のくせに、舐めんじゃないよ!』

 

有澤のノーマルがグレネードを乱射してくる。

それに対し俺は、左の建物を蹴り飛ばし右に飛んだ。

三角飛びとか言うやつだ。

それで、ノーマルの左に回った。

そして、真左に着地。

旋回しきれてないそいつを蹴り飛ばす。

 

敵はビルにぶつかり、もたれ掛かる。

俺は追い付き、そのキャタピラに足をかけ、キャタピラを壊す。

めきゃ、と音を立て機体が軋む。

 

そして、ゆっくりとした動きで左手を引き。

 

ダークスレイヤーを突き立てた。

 

 

 

 

 

 

どこか、あの日のオニキスに似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、やってる。俺も混ぜろよ。」

 

俺はランク92のフライハイ。

破竹の勢いで依頼遂行する期待の新人だ。

 

依頼じゃノーマルだけと聞いていたが、オーダーがいる代わりに満身創痍だ。

 

(楽勝だな、こりゃ。)

 

そうしてそいつの左からライフルを撃ちつつ接近して行く。

 

するとそいつは、手前にあった建物を蹴って急に後退しやがった。

 

「ならこれでどうよ!」

 

奴と同じ通りに出て、7連マイクロミサイルを後退して行くやつに放つ。

奴は避ける素振りもなく、爆炎が奴の目の前に現れる。

 

しかし少し手前でだ。

見ると刃が折れた剣を振り切った姿が確認できる。

 

(ミサイルを斬りやがった⁉だが、奴にろくな武装はない。もらった!)

 

刀折れ、矢尽きるとはこの事。

一気にレーザーブレードでトドメを刺そうとして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【頭部破損】

【脚部破損】

【AP残り50%。回避してください。】

【左腕部破損】

【AP残り10%。危険で…】ブツッ

「がハッ‼」

 

地面に打ち付けられた。

機体を確認するとコアに右手が付いただけの悲惨な状況だ。

 

 

 

 

 

 

やつは何をした。

 

 

 

 

 

 

それに答えるはずはなく。

折れた筈の剣が鈍く光る。

黒い霧を纏って去っていく満身創痍の後ろ姿は、禍々しく彼の目に映った。

 

 

 

 

 

 

恐怖が彼を支配した。

 

 

かつての存在した、怪奇を目の当たりにしたかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくヘリが来た。

 

私は既に彼女を運ぶ準備を終えているのに。

 

彼のACの腕は完全に彼女を押し潰してはおらず、手足に留まっていた。

銃を握っていた余韻で頭を撫でていただけの事はある。

 

出来る限りのことをした。

今なら十分間に合う。

 

ヘリは着陸し、隊員が彼女を運び込んでいく。

 

 

 

 

飛び立つ間、私はACに乗り周囲を警戒していた。

そしてからヘリは誰にも妨害されず領域を離脱。

 

直後、コールが掛かる。

私はアキレスだと思って出た。

 

「こちらシャル。今ヘリが領域を離脱した。」

『知ってるよ。』

 

通信越しでも明らかに彼とは高さが違う声がコックピットに響く。

 

「……貴方は誰ですか。」

 

かつてのよそ行きの口調が出る。

 

『嫌だなぁ、君たちが追っている存在を忘れたのかい。』

「[厄災]、いや財団…あなたですか!」

 

コード[厄災]は彼、財団の事だ。

気付いてはいたが、確証が取れるまで言いたくは無い名前だ。

 

「このタイミングでなんの用です?」

『いや、良い物を拾ってね。君達に見せたかったんだ。』

 

良い物?

ロクなことなさそうだ。

ん?…このタイミングで拾い物?

 

『彼女、いわゆる天才って奴だね。逸材だ。』

「彼女…、まさか…。」

 

このタイミングで[彼女]なんていうのは…

間違いない。

騙された!

 

『立上紫蘭、。そっちのケモノと同等の素質があるんだよ。本当興味深いねぇ』

「どうやってそれを!」

『病院のサーバーをクラッキングして、血液検査の結果を手にいれてね。遺伝子から割り出したんだよ。そして、検査用ナノマシンを仕込んでその結果間違いないと分かった。』

 

狼狽するしか無い。

あのヘリはきっと奴のヘリだったんだ。

完全にこっちのヘリと外も中も一緒の。

記憶力に自信がある私の目すら欺く完成度のヘリ。

 

そして、素質とやらの確認もこの前接触した時だ。

やられた。

 

 

 

『誰かさんが護衛してたお陰で無事手に入れられた。例を言うよ。』

「ふざけるな!」

 

ウィンドウを叩き割る。

既に通信は切られていて、ACの駆動音以外の音は聞こえない。

 

 

 

 

そんな中、上空からバタバタバタ、と音が聞こえる。

今度こそ本当に味方のヘリが来たのだ。

 

 

 

私のミスだ。

 

 

悔しさに顔を歪ませた彼女の唇からは、血が滲んでいた。

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