かつて財団と呼ばれた者はこの世界に来ていた。
そして、人間の可能性とも言える怪奇の存在を知った。
財団は思う。
これもまた、滅ぶべきだと。
人間に可能性など存在しない。
その事を証明するために。
男の手には怪しげな装置が収まっていた。
「ごめんなさい‼私のせいで紫蘭さんを、やつの手に……私がよく確認してれば!」
「シャルさん、落ち着いてください。仕方ないですよ。謀略なんて。」
ガレージは、最初予測していた風景とは全く異なっていた。
膝から崩れ落ちたシャルさんを、アキレスがなだめていた。
「でも、私のせいで…………彼女は。」
泣きかけている彼女に面喰ってしまう。
だが、そのおかげで自分がしっかりしなければという思いから、絶望に砕かれる手前で踏みとどまれたともいえる。
今、思ったより上向きな思考ができるのは運が良かったかもしれない。
「奴は素質を欲してた。なら殺しはしない筈です。まだ希望はある。」
もう俺は彼女の夢を奪った。
なんと罵倒されても仕方のない立場でもある。
[厄災]に誘拐されたのは悔しくて仕方ないが、シャルさんを傷つけても意味はない。
そう開き直れた。
それに、
「俺が貴女に怒りをぶつけることを紫蘭は望んでない筈ですから。」
シャルさんが落ち着いたところで話を再開する。
「[厄災]の目的は割れてる。『人は人によって滅びる』。彼は人間でありながら人間を恨み、人を辞めて、それを滅ぼそうとしている人外の存在。」
まるで、質の悪いアニメの悪役だ。
そこに至るまでに何があったんだろうか。
「彼は彼女を利用する。恐らく狙いは貴方。素質もきっと綺麗な目的の為に使われそうにない。」
まあそんな奴だ。
紫蘭をろくな目的で使うなんて考えられない。
「もしかしたら、まともな人間であるかどうかも…。」
「どういうことですか!?」
「奴は人間を戦闘ユニットにしてしまうようなやつよ。彼女に何を求めているのか、それによるわ。」
抑えていた感情が吹き出す。
シャルさんがああなるわけだ。
居場所が分かれば今すぐ殴り込んでしまいたい。
そこでさっき駆けつけたストレイドさんが口を開く
「なあ、アキレス。いや、神津 練。」
「!何ですか?」
本名で呼ばれ、ただことではないと察する。
レイヴンではなく、俺個人に用があるのだ。
「お前はもし紫蘭が眼の前に立ちはだかったら撃てるか?」
それが
俺はハッキリと言った
「いいえ、撃てません。」
「馬鹿が。」
「アイタッ!叩くことないじゃないですか。」
「はぁ。そこまでハッキリ言いきらんでも…。だが、その清々しい顔で撃てるって言うよりかはいい返事だ。」
じゃあなんで叩いたんです。
理不尽です。
「私達は、撃って後悔した奴もいれば撃たなくて後悔した奴もいる。その瞬間に後悔しない選択はなかなかできないし、どう足掻いても悔いが残る時だってある。」
ストレイドさんは昔を思い返すように語る。
彼女はどっちだったんだろうか。
「だからこそ足掻け。泣き崩れてもいい。他人の足に縋り付いてもいい。己のあるべきと望んだ結末を引きずり出せ。」
彼女のポリシーなんだろう。
言葉とは裏腹にすがすがしい笑顔で言い放った。
少しして、何かに気付いたように彼女は懐から何か取り出した。
煙管と小箱。
「ガレージは禁煙ですよ。」
「おっと…、済まない。」
煙管なんて使ってるんですね。
「それにその見た目で喫煙なんて犯罪にしか見えませんよ。二十歳越えてるように見えませんから。気を付けてください。」
「分かった分かった。ベランダで吸って来る。」
俺と同い年の見た目で喫煙なんて捕まりそうだ。
実際はかなり年上なんだろうが。
しかも戸籍がないので年齢も証明できない。
今まで、GAの支援があったんだろうけども、大変だったんだろうな。とも思った。
「流石に…難しいな。このやり方やめようかな。」
ベランダに出たストレイドは苦しそうに言葉を吐き出した。
既に右手にはべったりと血がついている。
ゆっくりと煙管と小箱を取り出す。
小箱から出てくるのは刻んだ葉ではなく、コルクを小さくしたような塊だった。
それを煙管に詰め、火をつける。
ゆっくりと吐き出される煙は、上ではなく下に落ちていく。
「まだ、20年くらい戦わなきゃいけないんだ。もってくれよ。」
その声は、星空に消えていった。
私の知らないところで何か動いてる。
計画と違う何かがずっと前から見えないところで蠢いてる。
アキレス。
あなた達は何?
もう一人の[厄災]呼ばれたあなたは誰?
計画に修正が必要。
どうする。
目が覚めると眼の前には知らない天井があった。
「目が覚めたのね。お父さんに知らせなきゃ!」
女性の声がして、足音が遠ざかる。
恐らくここは病院だ。
何があったかを思い返そうとする。
合宿地にACが現れて、避難誘導して、迷子を探して、それから…
ハッとして左腕を見た。
見てしまった。
あったのは無機質な腕。
この様子だと足もなのだろうか。
愕然とする。
夢の舞台が目の前で崩れ落ちていく。
夢が焼け落ちていく。
ただ、絶望があった。
悪魔が囁くような声が聞こえる。
子供を気にしなければ、こんなことにならなかったかも知れない。
助けなくても無事に生き延びてたかもしれないじゃないか。
早く避難すれば良かったのに。
振り払った。
きっと次も放っておけない筈だ。《/color》
なら誰が悪いんだ。
誰が夢を奪った。
あの時、アキレスは傍に居たのに。
守ってくれなかった。
なんで。
私の夢を知っていたはずなのに。
なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。
なんで!
違う!
練は私のいた所が危ないから近寄ってきたのに。
あんな時に敵から目を離すなんて危ない事してまで来てくれたのに。
それは酷いよ。
才能があっても、完璧なんて無いんだから。
そうしているうちに、扉が開く。
医者の姿の男性が入って来た。
「初めまして。私はメスィフ・イフェルネフェルト。君の主治医になる。よろしく。」
「娘のフィオナです。よろしくね。」
じゃあ、義手も彼が作ってくれたのか。
私も自己紹介しないと。
「私、立上紫蘭です。よろしくお願いします。」
首元に刻まれた傷跡にこの時は気づけなかった。
義肢以外にも私はナニカサレテいることに気づけなかった。
これで良いはずだ。
そう男は呟いた。
装置は暗示による思考誘導をする物だ。
予定では、これで彼女に彼への憎悪を持ってもらい、ぶつけるつもりだ。
他人に罪をなすりつける事に抵抗があるかもしれない。
故に、まだ成功したとは限らない。
だが、次善の策はある。
彼女とイフェルネフェルト、オーエンには苦しんでもらうけどね。
ニヤリと意地汚い笑みを浮かべ、彼は扉へ向かった。