巻き込まれた少年は烏になった   作:桜エビ

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鴉と山猫の幻影

森の中、その家は建っている。

家の一部屋、よく分からない大量の実験機材に囲まれ、ストレイドは寝ていた。

 

「朝か、寝ちゃうなんて疲れてるのか。」

 

今は余裕がないので、時間を惜しんでいる。

コッチに帰ってきたのは持っていく物があったからだ。

 

「あった、これが無いとな。」

 

取り出したのは小箱。

柄はない。

それを鞄に放り、玄関を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪趣味ともとれる赤い館。

その地下に彼女はいた。

ブラックバードはかつての愛機を使用できず、バックアップメンバーになっている。

ここではVACと呼ばれる機種。

あまりの共通点の無さに彼女の強さはオーダーでは発揮できない。

故に、退屈である。

その姿を利用した情報集めがせいぜいだ。

 

「フラン。貴方は今の私をどう見る?」

 

己と同じ愛称で呼ばれた者に想いを馳せる。

もういないのは分かっているけども。

 

「むくれてんのか?黒い鳥。」

「失礼ね迷子。黄昏てたの。」

 

ストレイドがそれを邪魔する

一層不機嫌になったブラックバードは、退屈しのぎに付き合ってもらおうと思った。

 

「ちょっと付き合いなさい。今退屈で仕方ないの。」

「お、やるか。」

「ここはダメ。思い切りできないもの。」

「とっとと外出るか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の仮の家の玄関。

 

「久しぶり、シャル。」

 

道戒 緋芽

メイプル D ラン

 

 

彼女たちはかつて別世界探査の時の同行者だ。

昨日日本に帰ってくるとの連絡で、私のところに寄っていくとも言った。

 

「あまり良い物ないけど、上がって。」

 

元々何人か泊まる事を前提に建ててるので問題無い。

そうやって上がるよう促す。

しかし、二人共玄関から動かない。

 

『近年、東京周辺のフライングヒューマノイドの目撃件数が増えています。専門家によると…………』

 

つけっぱなしのテレビから、あまりにも場違いな話題が飛び出す。

 

「シャル。」

「どうしたの?早く。」

「どうした、緋芽殿。」

 

とても深刻な顔つきでこちらを見つめる緋芽。

メイプルにすら心配されている。

緋芽は口を開いた。

 

「何かあったの?辛そうだよ。」

 

彼女は何かがあった事に勘付いていた。

私、誤魔化すのに自信あったのにな。

 

 

 

 

「そっか、それで落ち込んでたんだ…。」

 

あれから、私は何があったかを話した。

自分の失敗を。

アキレスに託された者を護れなかった悔いがまた滲む。

 

「確かに、護衛対象をやすやす敵に渡すのは大失態だな。」

「メイプル!」

 

そう、大失態だ。

よりによって財団だ。

無事かどうかすら怪しい。

私のせいだ。

 

「お前の目を欺く程の偽装だったんだろ。お前が引っかかったんだ。私も引っかかっただろうな。」

「メイプル…貴女は…。」

 

予想外の言葉に目を見開く。

 

「初見で失敗しないほうが少ない。気負うな。奴がその手を使うことが分かったんだ。次でしなければいい。」

「そうだよ、シャル。そのままだとアキレスが心配するよ。」

 

そうだ、立ち止まって居られない。

あの時のように挫けそうになっていた。

 

どうせ出来る事をやるしかない、と開き直る事の重要性を学んだのに。

 

出来る事と言ったら紫蘭を探し出すことだ。

絶対に見つけ出して、財団を叩き潰してやる。

 

「良い目になった。じゃあ、景気づけにシミュレータで対戦でもしよっか。」

 

緋芽に手を引っ張られて行く。

こういうのも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「坊主。良いのか?レイヴンが機体のカラーリングを変えるってのは自分を変える、悪く言えば今までの自分を捨てるって事だぞ。」

 

ガレージで、俺はオヤジさんと話していた。

俺がACのカラーリングを変えたいと申し込んだからだ。

そしてそれは自分の個性を変え、今までの自分と違う事の証明でもある。

 

「はい。元々綺麗すぎたんです。昔の自分と同じで。」

 

平和の中で生き、何も知らない無垢の時の俺。

今も抜けきってはないが、確実に俺は変わった。

もう俺は何の為に戦おうが戦争屋なんだ。

恋人の夢奪っといてヒーローぶるなんて滑稽にも程がある。

 

「そうかい…で、これが案か。悪くねえじゃねえか。今までと真逆だけどよ。」

 

紺と灰色で染め上げた機体は、子供が夢見るヒーローとは真逆だ。

 

「でも、鴉の羽根は暗いでしょう。」

「…そうだな。レイヴンらしくなったじゃねえか。いっちょやってやるか!」

「ありがとうございます。」

 

あとはもう一つやっておきたいことがある。

 

「ダークスレイヤー。アレの代わりにムーンライトを使います。」

「どうしてだ?今まで使いこなしてただろうに。」

「斬れ過ぎるんです。じゃじゃ馬ですよ。」

 

ムーンライトへの換装。

それは俺自身への自制の意味もあった。

 

フライハイを感情に任せて斬ったとき、俺はある衝動に駆られた。

 

(あの時、俺は何太刀入れれば気が済んだんだろうな)

 

俺は更に斬ろうとしていたのだ。

コアと右手だけになったあのACに。

 

ENの消費がないということは制限なく斬れるということ。

それは同時に歯止めが利かないことも意味する。

 

思い返して、恐ろしくなった。

殺人鬼だけにはならない。

そう決めていたのに。

 

だからこそ封じた。

 

「分かった。よこした奴にも言っとくよ。」

「重ね重ねすいません。」

「お前が生き残れば文句は無いさ。」

 

そう言ってオヤジさんはACに歩んでいった。

 

 

 

 

 

「そろそろ動くのか。騒がしくなるな、ここも、世界も。」

 

傭兵姿のunknownは宇佐見に語りかける。

初老の顔に笑みが浮かぶ。

 

「何人が予測出来ているだろうな?40年ぶりにヤンチャするのも楽しいものだ。」

「俺にとっては迷惑でしか無かったけどな。」

「暴れるのはそういうものだろう?今度は企業が犠牲になる。」

 

二人共、物騒な話に花を咲かせる。

 

「ああ、そういえばもう一つ。今回の手柄、そっちが持ってけ。」

 

いきなりとんでも無いことを言い出す宇佐見。

 

「いきなりどうした。手柄を貰ってもこちらには得も何も無いぞ。」

 

それにunknownは待ったをかける。

手柄を持っても何も出来ないし、まず自分たちの行動が表沙汰になることも無い。

それに宇佐見が首を横に振る。

 

「その手柄を持って国連総会に乗り込め。元の非公開自治体として貴女たちを認めてもらうよう持ちかける話の足しにはなる。計画済みの戸籍すらない現状の改善どころか、上手く行けばお前たちに都合の悪い事に意見出来る環境を作り上げられるやもしれん。」

 

unknownは黙って聞いていた。

 

「お膳立てはこちらでしておく。貴女達はこの混沌とした今に力で訴えればいい。私達はここにいるのだぞ、とな。」

 

そして、静かに声を発した。

 

「礼を言う。この恩は忘れない。」

「此方としては借りを返しただけだ。そう重く捉えんでいい。」

 

二人の密談は続いた。




各所の50年という数字を40年に改めました。
時系列関係に問題があったのでそれの改善のためです。
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