既にAPが3桁になった愛機から、火花が散る。
ペイントし直してもらった機体を早速中破させてしまい申し訳ない気分になった。
手を伸ばしコックピットハッチを開けようとしたとき、声がスピーカーから響く。
『総員ACから降りるな!汚染の恐れがある。』
ストレイドさんはいきなりオープンチャンネルで叫んだ。
汚染?何のだ?
『いきなりなんだ?説明を要求する。』
自衛隊の方々も困惑している。
俺だってそうだ。
それに対しunknownが答える。
『奴の使っていた左手のキャノンと防御兵装、最後の爆発攻撃には毒性の強い粒子が使われている。ここら辺一帯はもう生身で出られる空間ではない。』
自衛隊が騒めく中、隊長機から通信が入った。
『そのような兵装聞いたことが無い。それにずっと気になっていたが、何故お前たちがあの兵器の事を知っている。』
二人は言葉を詰まらせる。
別世界で戦ったことがあります、なんて言ったら脳みそを疑われる羽目になる。
どうすればいいのか。
『……かつてコジマ研究所という素材工学の研究所があったのを知ってる?』
『?それと何か関係があるのか?』
その場にいる者たちにデータファイルが渡される
コジマ研究所。
10年前に襲撃を受け壊滅している場所、か。
『そこを襲撃したのが私達。目的はとある筋から齎された情報、つまりその粒子を世に出さない事だ。』
「そんな事をしてたんですね。」
『で、そこまでしてこの粒子の存在を消した理由が、その毒性か。』
そうか、彼女達が言ってた汚染ってこの事だったんだ。
搭載兵器が素通りするだけで地域が汚染されるこれを見逃せるわけがないか。
そして、きっとこれも向こう側で見た技術の一つなのだろう。
『だが信じきれん。マッチポンプをしたとも取れる。』
「そんな…。」
『それで国民を脅かし、都心を汚染した。許せるものではない。』
まずい。
他世界の情報の類は使えない
信用を得るための証拠の大半に信用がないと言うおかしな状況に陥る。
『その粒子に関する詳細なデータを要求する。作業や避難の為に粒子の性質を知っておきたい。』
「それで信用してくれるんですか?」
意外と要求が少ない気がして安心した。
しかし、二人は躊躇っている。
既に使われた粒子を隠すだけ無駄なのに、それで尚隠している二人に理解が出来なかった。
『知っても使えることはない。防護服を着こんで作業すれば問題ないからな。』
「ストレイドさん!!」
『そこまでして技術を独占したいか。迷子が。』
一触即発の空気になる。
何故そこまでデータの流出を嫌うのか分からなかった。
既に相手はこちらを疑ってかかっている。
最悪の事態を考慮しなければならなかった。
その時。
『隊長!例の機体から謎のデータファイルがばらまかれています。』
インターネット上に拡散されるデータファイルの様子を自分のACのコンピューターでも確認できた。
『これは…。クソッ、最初からそのつもりかよ。』
『[厄災]は初めからコジマの流出が目当てだった。そして私たちへの牽制も。』
コジマに関する詳細な性質のデータ。
性質。
毒性。
致死量。
対策。
制御。
生成方法。
一通り書かれていた。
少ない手札を失った。
万事休す。
『…命を賭してまで渡したくない物ということは理解できた。お前たちの手を煩わせるつもりはない。騒がれたくないなら、早く帰るんだな。』
あれ?
疑いは?
『一番危ない囮を引き受け、機体をそこまで傷つけて、挙句、初めの段階から撃墜は俺らの手柄にする作戦を立てたんだ。最初から疑ってなどない。ついでにと汚染について鎌をかけたにすぎんよ。』
俺はそう言ってアレサに向かうACの後ろ姿を眺めることしかできなかった。
『行くぞ。見逃してくれてるんだ。』
呼びかけに答え、俺もヘリに向かう。
「おい、一つ渡しておきたいモンがある。」
自衛隊の隊長に声を掛ける。
『なんだ。あんだけ渋って結局渡すのか。』
「ちげーよ。粒子の危険性が分かる資料だ。」
そう言って私はつい先日のカルテを送った。
『これは…プライバシーが無いのか?』
「今はどうでもいい。読んでみろ。」
しばらくして、男が息をのむ音が聞こえた。
『なんだこれは…これが汚染の影響なのか?』
「あー。私のケースはちょいとレアなんでな。だが、長時間曝されるとそうなるからから、部下にそうなってほしくなけりゃとっとと交代するんだな。」
そう言って私も二人の後を追う。
『最後にいいか。』
「なんだ?手短に頼むぞ。」
呼び止められACごと人間のように振りむく。
『何故、周りに止められない?話してないのか?』
少し震えた声が聞こえる。
もったいないな、男前の声が台無しだ。
「主治医以外にはな。あいつの隣に居るためにも、立ち止まってられないんだ。」
だから、そんなみっともない声出すんじゃないよ。
帰ってきたら見たこともない機械がガレージの前にあった。
「坊主!コックピットから出んなよ。」
「何でです?」
「これから機体の除染をする。それが終わるまで待ってろ。」
そうすると、機械の扉が開く。
洗車機みたいだ、というかそのものだな。
機体の除染が終わりACから降りる。
今度は車に乗せられた。
「すいません。どこ行くんですか。」
「ああ、俺達の住処に来てもらう。」
「……っはあ?いきなりどうしたんですか!出来る限り干渉は避けた方がいいって話じゃ…。」
関係が深くなれば、切れなくなる。
知りすぎれば無視できなくなる。
そう言ってそっちに行かない方がいいって話したのはそっちじゃないですか。
しかし、車は走り出した。
「どうしたもこうしたもねぇ。おめえの体を精査しに行くんだ。」
「たっ、確かにすごい衝撃受けましたけど普通の病院でいいんじゃないですか。」
それならこっちの病院でもいいんじゃないですか。
「ストレイド達の話聞いてたか?おめえはな、深刻なコジマ汚染の疑いがある。その知識もないところに預けても意味はねえ。」
「深刻な?」
コジマ…汚染?
「コジマはな、強力な万能触媒みたいなもんだ。本来起きるはずのない反応を引き起こしたり、錆びない金属ですら酸化させる。それが身体に入ったらどうなるか分かるか?」
「体で作られるはずのない物質ができてしまう?」
じゃあ…。
「ほかの人はどうなるんです!…いや、全ての人を救うなんて綺麗事は言いませんが…。」
無論全てを救うなんてことは出来ないのはとっくに分かっている。
ただ、特別扱いに不安を覚えた。
「あいつらは長い間あそこに居なきゃ大丈夫だよ。ノーマルでも気密性はある程度あるからな。損傷機なかったろ。」
その言葉を聞いて一安心するあたり、まだ甘いなとは思う。
あの人達はきっと、ふーん、ぐらいで済ませてしまうのだろう。
「というか、お前が一番不味い事なってんのまだ分からんのか。」
え。
一番まずい?
「お前は汚染の発生源に密着した後アサルトアーマー、あの爆発攻撃をもろに食らって、ダメージがある状態でコジマキャノンぶった切っただろう。一番気密性に不安があるACで一番コジマを浴びたんだよ、お前は。」
何も言えない。
汚染を、一番機体状況の悪い時に浴びて心配されない筈がない。
素直に従うしかない。
「それから、データを渡さなかった事だが、責めてやるな。」
既に汚染の疑いがある身で汚染物質の発生方法を渡せとは強く言えない。
黙って聞く。
「あいつらは後ろに俺達の明日まで背負い込んでる。レイヴンなのに、縛っちまったんだ。苦しいんだよ、あいつらも。若いのにな。」
オヤジさんは親が子の身を案じるような、静かな口調だった。
「自分の行動で守りたいものを全部失う奴が、簡単に世界滅亡の原因を敵に渡せないのさ。」
今度は黙ったのでは無く、何も言えなくなった。
今まで周りの利益の為に振り回される側に居たせいで勘違いしたらしい。
今回自分勝手だったのは、俺の方だ。
「東京は一日にして汚染区域になってしまったか。」
『ああ、残念ながらな。東京での首都機能の回復は難しいだろう。』
帰って来たストレイドはその後の顛末をGAのトップである宇佐見に聞いた。
やはり、東京は既に麻痺しているらしい。
コロニー一つを駄目にする機体だ。
飛散した粒子でいずれ東京の中央はダメになるだろう。
『運搬経路は空輸。自衛隊がお前らに気が行って手薄になった防衛網を強行突破したようだ。』
依頼その物も奴の手だった。
私達とアキレスが別途の依頼だったのは、相互に連携を取れるアセンにしない為だったんだろう。
タンクと主砲の組み合わせはできれば避けたいからな。
「そうか。流れた技術はどうなってる。」
『完全にアウトだ。驚くほどの量のデータがばらまかれた。この時代に出来る筈のネクストを月単位で造れてしまう程のな。』
「待て!月単位でネクストだぁ!?どういうことだよ!」
明らかにおかしい数字が出てきた。
そんな一朝一夕で作れる兵器じゃない。
それが一年もかからずに?
『図面が入っておったんだよ。親切にジェネレータの構造から、ネジの一本まで正確にわかるな。』
「…なんてこった。本気みたいだな、[厄災]も。」
一騎当千の力、ネクスト。
次世代の名に相応しいその力が解き放たれたら、パワーバランスが崩れる。
『幸い、こちらにも図面が来ておる。もし、ほかの企業が現状に焦り力を使うようなら…』
「抑止力になる、か。頼むぞ。そうならないことを祈るが。」
『ああ、切るぞ。』
通話の終わったストレイドは壁に寄りかかる
少しして身体に違和感。
次の瞬間には体の奥底で苦しみが蠢くような感覚に襲われる。
こうなったら耐えるしかない。
「ウガァっ、アァ。」
しばらくして、それが収まる。
長寿の代償で、未だに汚染の抜けきっていない身体を引きずって医務室に向かった。
「粒子、碌に浴びて、ないんだけど、なぁ。でも、もし、ネクストが出てきたら。」
乗るしかない。
彼女の決意は硬かった。
このせいで東京は首都ではなくなってしまいます。
(遷都しました。)
戦後は京都が首都になります。