巻き込まれた少年は烏になった   作:桜エビ

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はっちゃけ気味です。
クロス先の要素が少し多めに出てきます。


裏切るのは傭兵だけじゃない

彼を失って、世界の境界を漂った。

二回目だからか今は周囲の状況を見渡せる。

 

11次元空間。

まだ人々が宇宙の神秘を解き明かそうとした時の説だ。

私はここで何ができるか確かめた。

 

まず、この状態でも自由に移動できる。

お母さんは私に世界を渡る術を身につけさせてくれていた。

そして、時間が2種類あることにも気付いた。

一つはこうやって私が体感している時間。

もう一つはそれぞれの世界に流れる時間だ。

そして後者はこの状態なら移動できる。

つまり11方向中10方向は自在に動けるのだ。

 

だから私は彼を失う過去を変えようと試みた。

だが、出来なかった。

一度その世界で過ごすとそれ以前の過去には行けないようだ。

絶望した。

 

 

 

 

腹いせに他の世界を覗き見た。

ここからなら世界に干渉せずにその世界の出来事を見ることも出来るらしい。

あとで気付いたが、覗いた世界もそれ以前の時間から干渉することは出来ないようだが。

 

そして私が以前居た世界や、それに似た世界の結末を見た。

 

荒廃した地球にしがみつき、そして様々な寿命により滅んだ。

 

資源。

文化。

遺伝子。

 

だが、一番換えようがないのは太陽の寿命だ。

灼熱の大地に生きられるものなど居ない。

 

人はこの星から飛び立つことは叶わず、太陽が尽きるまで争い続けた。

 

私は絶句した。

ここまで人間は愚かなのか。

救いの手を払い除け続け、挙句宇宙への道を閉ざし、地球という釜で蒸し焼きにされるほどに。

 

私の手も払い除けられてしまうのだろうか。

 

 

なら、従わせればいいのではないか?

人類を救うためなら、私は憎まれてでも絶対的な力で人類を引きずってやる。

私は行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

邪魔など絶対に許さない。

人の為にと創ってくれたお母さんの為にも。

 

 

 

 

 

「そうか、潮時か。」

「国連側の心境を考えるに、ちんたらしてると受け入れてくれない可能性がある。GAとしても今までの敵の側につくんだ。傷の浅いうちにやらないと士気の低下が激しくなっちまう。」

 

とある部屋でストレイドと宇佐見は向き合ってソファーに腰を下ろしていた。

 

「でもいいのか?戦力差をひっくり返す為に、とネクスト開発の速度は上がる。それこそ避けたい事だと思うが。」

 

コジマは世界を滅ぼしかねない危険な品物だ。

触れればその物質を容易く変化、もしくは劣化させる。

それをばら撒くネクストは存在しない方がいいはずだ。

だがストレイドは首を横に振った。

 

「どちらにしろ、もう種は撒かれ、拾い上げるのは不可能だ。例えネクストが生まれる前に戦争を終わらせても、いずれコジマ兵器は生まれる。アレサが証明しちまった。しかも企業の方にデータがばらまかれてる。正直国家がネクストを作るのは厳しい。」

「東京を使って、企業に対し次世代のデモンストレーションか。厄介な事だ。」

 

彼女たちが今、望む終わり方は[痛み分け]だ。

 

企業が勝つと国家は消える。

それが一番マズイ。

国家は自らの国民の為に存在し、単純な利益に縛られない動きが出来る。

条約が効力を発揮するのもデカい。

 

だが、今支援してもらっているGAもまた巨大企業だ。

それに、巨大企業が解体された場合の経済への打撃は計り知れない。

泥沼の紛争時代突入は免れないだろう。

そこでコジマを使われる事も。

 

そもそも、どの世界でも国家解体戦争で国家は経済崩壊を恐れ企業を消滅させる気はなかった筈だ。

あるのは賠償金とペナルティだっただろう。

 

ただ拮抗させるためにコジマを渡したところで、それを原因とした全面戦争による敗者の消滅が目に見えていたことだろう。

 

 

 

だから企業という火種に目を瞑ってでも、引き分けにして両方に残ってもらいたい。

だが、国連軍は無人機による蹂躙で大打撃を受けた。

そのための戦力分配を考えると、これが一番戦況を膠着させやすいという考えにたどり着いたのだ。

 

「それでは表向きの言い訳は前言ったとおり、『以前から国連軍との繋がりがあり、スパイ同然だった。そして巨大企業として唯一生き残って、市場の独占を企む。』としとけばいいか。」

「それで大丈夫だろう。だが、社内の反対意見はどうする。勝利時の独占から来る利益(撒き餌)はデカイが全員ついて来るとは限らんだろ。」

 

いきなりの陣営転換で、反対する者が居ない筈がない。

その対策を考えなければ、空中分解して意味を成さない。

 

「その点についてだが、私は鉄拳制裁を考えておる。もともと私側の人間にはこのことは伝えてあるから、私を気に食わんと思っている奴が炙り出されるだろう。」

「…文字通りの?」

「無論、人間だからと侮るな。私はまだ動ける。」

「…知ってる、程々にしろよ。」

 

ストレイドは反対派の冥福を祈った。

 

冥福、である。

 

(確かに人間だし改造もねえけどよ。真人間とは言い切れんだろ、お前は。)

 

そう、口に出さず呟くストレイドであった。

 

 

 

 

 

 

「しっかし、大丈夫ですかね。敵を作りに行ってますもん。」

 

テレビを見つつ事の経緯をシャルさんから伝えられた。

FGWのスポンサー、GAの離反。

つまり、FGWも国家側に移動することになる。

企業内で暗殺されたりしないだろうか。

その心配をシャルさんに伝えたら

 

「多分、彼女なら大丈夫だと思う。」

「宇佐見さんって確か人間ですよね。いくら何でも限界があるんじゃ。失礼ですが歳が歳ですし。」

 

実際、宇佐見さんは戸籍が正しければもうもうすぐ50になる。

体力的には大分きついところがある年齢だ。

 

「いや、ある意味人間だから、というのもあるかな。」

 

その自信は何処から来るのだろうか……。

 

 

 

先程の会話から3日前

 

『社長、お話があります。』

 

そうアポを取ってきた幹部の一人が、社長室に入ってきた。

 

彼女の社長室は幾つかおかしな点がある。

大きな物は多くなく小物が大量に置いてあり、風景の一部を切り取れば骨董屋にも見えなくない。

数少ない大きな物はソファーと執務用の机と椅子、あとは異様な空気を漂わせる鎧だろうか。

 

入ってきたのは中年の男であった。

彼は優秀で彼女も一目置いていた。

彼女に不満を持っている者の一人であることを除けば。

 

男は執務机の前に立ち、宇佐見に向かって言葉を発してきた。

 

「単刀直入に言います。今すぐ陣営移動を取り止めて頂けませんか。」

 

早速本題を切り出してきた。

やはり、敵対派閥からはこの件は口撃材料のようだ。

男からは冷え切った目線を向けられる。

貴女は愚かだ、と言わんばかりに。

 

「決定したことだが、理由だけでも聞こう。」

 

その言葉と目線に対し、どうでもいいかのように(実際どうでもいい)彼女は言い放った。

 

「まず、移動先の戦力が激減した今になって陣営転換することです。以前の物量で勝っていた頃なら理解できない事もありませんが、今移動しては負けに行くようなものです。」

 

「第二に、先程の裏返しになりますが、企業側でも圧倒的勝利を収める事が可能だからです。例えあの物量が息を吹き返そうと、手に入ったコジマ技術で蹂躙できる。コジマ技術では明らかに私達がリードしています。」

 

「第三に今までの企業間での恩に仇で返す事です。我々は巨大企業です。孤立するべきではありません。あちらに尻尾を振った傘下企業のような弱小ではないのです。負ければ、いやどうなろうと我が社に最大の汚点を残す事になります。」

 

恐らく、第三の理由が本音だろうと彼女は思った。

彼は他企業にコネがあり、それで立ち回って今の地位にいる。

もしこのまま国連側に移れば地位を失いかねない。

更に他所(他企業)から突き上げも来ているのだろう。

 

だからこそ無慈悲に突き放す。

 

「勝算がなければそもそもこんなことはせん。他企業も我々が勝てば問題ない。」

 

何も問題ないと平然と述べる宇佐見。

だが彼は食らいつく。

 

「その勝算はどれほど小さいと思っているのですか!それに勝ったとしても国家から疎まれるに違いありません。得られる物がどれだけあるのですか!もっと先を見据えてくださいよ、宇佐見社長!」

 

彼は感情を露わにし、怒鳴り散らしす。

その際、彼女の持っていた細いペンが彼の振り回した手に当たり吹き飛ぶ。

対して宇佐見は呆れ、ため息を吐いてしまう。

 

(交渉で感情を、それも熱意ではなく怒りを露わにしてしまうとは。買いかぶり過ぎたかの)

 

そう声に出さずつぶやき、口を開く。

 

「国家とは予め共謀関係にあったと言ったろ。封じ込めにはそれなりの報復を、とも伝えてある。」

 

まるで、お前は何を聞いていたのか、と問いかけるような彼女の言動に男は顔を歪める。

だが、彼女は止まらない。

 

「それに、先を見据えてないのはどちらだ?この戦争で企業側で生き残るにしても、その後の競走に勝てるか。お前は我が社のコジマ技術の開発がどれほどなのか知らんのか?」

「ジェネレータが完成をしましたが…。」

「ほう、では他社がどれほど進んでるか知っているか。…知らんのか。オーメルはな、先日オーダーACにコジマ技術を投入した技術実験部隊[サフィラスフォース]の実戦配備が決定した。遅れているのだよ、完全にな。」

 

歯切れの悪い部下。

恐らくそのようなことを伝えられず、狐につままれたような状態なのだろう。

 

「そのような最先端技術に遅れたものが企業側で生き残ろうが、他企業の後塵を拝すだけとなる。まあ、対策として、国家側に回っているアクアビットに目を付けておる。国連に渡った僅かなデータだけで奮闘しているらしい。あそこならGAEの人脈を使えばどうにかなる。」

 

そう言って男の方を見る。

男は手を頭に当てていた。

 

「仕方ないですね。というか、こちらの方が都合がいい。これならあの方々(他企業の上層部)に持っていく手土産にはなる。」

 

そうして持ち上げた手にはリボルバーが握られていた。

既に撃鉄は上げられ、引き金に指がかかっている。

 

「いや、初めからこうすればよかったですね。」

 

この至近距離、外れるはずがない。

その銃口を宇佐見は睨む。

勝ちを確信した男はその表情や仕草を気にすることはなかった。

指が引き絞られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その部屋に銃声は無く、静かなままだった。

サプレッサーはついていない。

つまり、銃が発砲されなかった。

では、何故?

 

男の目が見開かれる。

 

引き金を引いても発砲しなかった上に、その理由があまりにも衝撃的だったからだ。

現実離れしている。

 

 

 

 

 

撃鉄と本体の間に先程己が弾き飛ばしたペンが挟まっていたのだ。

それが撃鉄の動きを妨げた。

 

男には疑問しかなかった。

引き金を引く前はペンなど挟まっていなかった。

それが、このありさまだ。

しかもペンはかなり遠くまで飛んで行ったはずだ。

 

「どうした。それで終わりか。」

「!!…貴様!」

 

挑発的な笑顔を浮かべた初老の女はそう嘲笑うように言い放った。

その彼女の右手の指は、男から見て右を指さしている。

男は撃鉄を上げなおし、ペンを取り除いて再度引き金を引いた。

 

(今度こそ邪魔は入るまい。)

 

炸裂音が部屋に響く。

だけだった。

 

彼女は傷一つない上に、その周りや後ろにすら弾丸が当たった様子が無い。

やけくそに2発、3発、4発、5発、と撃ち続けてもどこにも弾丸が当たった様子がない。

そして6発目の引き金を引いた。

 

カチンと音を発した後、また静寂が訪れる。

 

(不発だと!!こんな時に。)

 

急いで排莢しようとしたその時、コト、コト、と薬莢にしては重い物が落ちる音がした。

男は思わず下を見る。

 

(…弾丸が、ここに残っている!?何故だ?銃は事前によく整備したはずだ。どうなっている?)

 

薬莢とともに落ちる鉛玉が煤焦げて、黒く、鈍く光る。

 

 

弾丸は撃ち出されていなかった。

余りにも突拍子も無い事に、銃も自分も疑った。

そして、男はその光景にもう一つの違和感を覚える。

 

(1、2、3、4、5…発足りない!?)

 

6発が弾丸どころか薬莢すら見つからない。

単なる不発なのかと思っていたが。

 

「お探しの物はこちらかね?」

 

男が顔をあげると、握り拳をこちらに向けた彼女の姿が目に入った。

その手を開く。

掌の上にあったのは、差し込む光を鈍く反射する拳銃弾だった。

 

「いつ、どうやって。」

「ちょっとした手品だよ。種なしのな。」

 

 

種なしの手品。つまりは本物の怪奇。

その事に気づき、自然と「ば、化け物……。」と言葉が零れた。

 

「む、少し傷つくな。」

「く、来るな!」

 

立ち上がり、こちらに向かってくる宇佐見。

マントがなびき、見たこともない文字がマントを埋め尽くしている。

 

恐れをなし、逃げるために男は必死に扉に向かった。

しかし、たどり着きドアノブを一心不乱に回してもびくともしない。

そして男のすぐ近くで足音がする。

背後に立たれた。

 

「ひぃ!!」

「そんな情けない声を出すな、メリーに会ったわけでもあるまいし。そこまで悪いようにはせんよ。せいぜい左遷だ。」

 

しかし完全に怯えてしまっている彼にその言葉は届かなかった。

仕方ないと言わんばかりに溜息を吐いた後、手を下に振る。

その途端、どこからともなく金盥が現れ男の頭を打ち据えた。

 

 

気絶しその場で倒れこむ男を見て、彼女やれやれ、とこの件の事後処理のために端末で人を呼ぶのだった。




【宇佐見菫子】と検索すると彼女の若き日の姿が見れます。
歴史の流れに本格的に(元からですが)介入し始めました。
彼等は、アキレスはどうなっていくのでしょうかね。

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