校舎の屋上に佇む紫蘭。
多分、私は泣きそうな顔をしてるんだろうな。
練はもしかしたら気づいてくれる、なんて甘い空想だった
練は変わりきっていた。
あの頃のまだ私を見ていてくれていた彼ではない。レイヴンになり、戦いに魅了されきっちゃったんだ。
私なんかに興味はないんだろうな。
だって、そうじゃなきゃ、私をアナトリアに送ったりしない。
(悲しいな。)
その時、彼女の目の前に巨人が現れる。
TYPE-HOGIREベースのネクスト。
ブレティア。
あの後、遊園地であったあの男の人から渡された機体。
前のACをくれたところが私のために用意したらしい。
機体、装備はそのままだが、塗装はとっくに紫と黒に変わっていた。
コックピットでパイロットスーツに着替える。
終わると対Gジェルでコックピットが満たされ、準備が完了する。
『立上さん、準備は。』
「はい、いつでも行けます。博士。」
通信の先はイフェルネフェルト博士だ。
その博士の声は弱弱しい。
『君をこんなことに巻き込んだこと。本当に申し訳ない。』
「なにを言ってるんです、これは私の望んだことです。博士が謝ることでは…」
『君も知ってるだよね。この戦いで君が彼を殺せなかったら。』
彼は声を絞る。
『…もういいんだ。』
◇
紫蘭の機体が浮上する。
彼女がレーダを確認すると、反応は後ろの少し離れたビル街からだった。
PAを展開し、そのままOBを起動。
数キロを一瞬で詰める。
そこで見えたACを即座に散布型ミサイルで空中から追撃する。
AC、サルタクロスは振り向いてマシンガンでミサイルを撃ち落としつつ左のビルの陰に隠れた。
OBの余韻に機体を任せつつ旋回、曲がり角に差し掛かる。
が、その直後彼女に襲いかかる激しい衝撃。
正面にいるのはサルタクロスではない別のAC。
紺と黒のコントラスト。
練のAC、ケイローンだ。
あの日とアセンブルは違うが、間違いない。
「紫蘭、機体もろとも本気か?」
「じゃなきゃ何なの?遊びでACを持ってくる?」
「違いないな。」
紫蘭はブレードを展開しつつQBで練に襲いかかる。
咄嗟に展開が間に合ったケイローンの月光と衝突。
激しいスパークが発生したのち、彼を吹き飛ばした。
スピードも、重量もブレティアの方が上だ。
そのままQBを使い再び肉薄する
「なめるな。」
吹き飛ばされた先にあったビルを蹴り飛ばし、ブレティアの上を越える。
QTで振り返るものの、ケイローンはそのまま旋回しつつ回し蹴り。
「きゃぁぁっ。」
そのまま、ケイローンが叩きつけられらるはずだったビルに彼女が叩きつけられる。
そこにケイローンはOBと同時に散布型ミサイルを撃ちこむ。
咄嗟に左に跳躍しミサイルを躱すと同時にライフルを構えるブレティア。
しかし、曲がり角を
OBの勢いを保ったまま、左右のビルを蹴り飛ばしジグザグした機動でこちらに迫ってくる。
ブーストドライブ。
VACが行っていた機動を無理矢理オーダーで行っていた。
ライフルの弾は左右に逸れ、彼を捉えられない。
そのままその光景に圧倒され、通常ブーストしかしていなかったブレティアは追いつかれた。
そのまま練はマシンガンの雨を浴びせる。
負けじと紫蘭は散布型ミサイルを放つが直前でマシンガンが当たり爆発、逆に自らのAP、PAを削ってしまう。
(…押されてる?性能はこっちが上で、私も本気のはずなのに?)
圧倒的性能差にもかかわらず押されているのは紫蘭。
再びOBするケイローンに負けじとOBで追随するブレティア。
最高速度の差は歴然でブレティアがすぐさま追い抜いた後旋回、ライフルを乱射しつつ距離を詰めてブレードを起動する。
それをケイローンはビルの上を飛び移る様な小ジャンプとブーストドライブで被弾を数発に抑える。
そして、真っ直ぐ迫り来るブレティアに対して散布型ミサイルを撃ち放つ。
咄嗟に左にQBする紫蘭。
だが、その軌道を読まれ、ケイローンが直角に近い角度に無理矢理壁を蹴って迫る。
そして、
ガアァァアン!!
ケイローンの右足がブレティアの鳩尾あたりにめり込み、巨大な金属音とともに吹き飛ばした。
結果、ブレティアはまたもビルに叩きつけられる。
思わず機体に膝を付かせた。
(なんで?何で勝てないの?あいつに負ける要素なんてないはず。)
その心の声にこ答える者はいない。
ふと、前を見ると、ケイローンがいて。
頭部を掴まれビルに押さえつけられる。
「あアアッ!!」
自らの頭にも不快感が走る。
痛覚までリンクしてないが、触覚は繋がっているのだ。
それが強引に掴まれている感触をありありと伝えてくる。
「なあ、この程度なのか。」
「!?」
突如開かれる回線。
紫蘭にとって、その声は挑発的にも思えたし、呆れたようにも思えた。
「ネクストのアドバンテージも、お前の抱いている感情も、その程度かと聞いている。」
「なっ!!」
ネクストに関しては何も言えない。
だが、感情の話は心当たりがあった。
思わず黙りこくる。
「ならこれで終わりにするか。」
ケイローンはブレティアの胴体のあたりにマシンガンを突き付ける。
紫蘭の下腹部にも同じように金属が触れたような感覚に襲われ、背筋が凍った。
練の声は徐々に黒くドスの聞いた汚いものに変わっていく。
「お前ならもう少し楽しませてくれると思たんだがな。」
「か、変わったにもほどがあるでしょう。そんな感じだっけ?」
少なくとも紫蘭は知らない練だった。
その次の声はかつての面影すら感じなかった。
「前の俺なんてどうだっていいだろ。死ねよ。」
その直後、激しい衝撃が紫蘭を襲う。
下腹部の不快感は言い表しづらいものにまで達した。
紫蘭は理解する。
彼は本気で彼女を殺す気なのだと。
彼女の五感から訴えられる警告が明確に死が迫るのを伝える。
恐怖が紫蘭を支配する。
しかし、後悔はすでに遅かった。
揺れの中、APは確実に減少し既に弾丸が彼女を砕こうとせまる。
それを止めるすべなどない。
彼女に出来ることはあと数秒の生にしがみつくだけ。
だった。
カチン
「ちいぃ、弾切れ!」
マシンガンのマガジンの中の弾丸が尽きたのだ。
つまり、マグチェンジを行わなければ再度発射はできない。
「あぁ、はあ、ああ。」
実際撃ちこまれたのは8発。
だが、紫蘭に死の恐怖を植え付けるには十分だった。
死の瞬間が遠のいたが、まだそこにある。
だがマグチェンジが終われば同じなのだ。
シャル・マメイヤーにかつて抱いた恐怖が蘇る。
「ぁ…らぁああああぁぁ!」
ケイローンがマグチェンジがを完了し再度マシンガンを構えるその一瞬前に、ブレティアは力任せにケイローンを蹴り飛ばす。
そのまま散布型ミサイルを発射。
ロックはしていなかったが、三分の一が命中する。
そのままQBで肉薄しブレードを一閃。
ケイローンはぎりぎり身をかがめるが散布型ミサイルが両断され爆発する。
爆風に煽られるケイローンに左足で回し蹴りを叩き込む。
紫蘭は恐怖の中、五感が逆に鋭くなる。
それと同時にネクストから送られて来る情報も増大した。
そこに不快感はない。
ネクストが、動かしかたを教えてくれる。
後で思うに、私は半ば思考停止していたかもしれない。
地面を削りながらも踏み止まるケイローン。
しかし、
正面にブレティアの姿は無い。
直後、ケイローンの後ろに弾丸が直撃する。
振り向けどもそこにもブレティアの姿は無い。
ドドドヒャァ、と音が回り込むように響く。
気付けば左にブレティアがいた。
そのレーザーブレードがまっすぐに振り切られる。
その様子を見て、練は口角を吊り上げる。
そこからは血が流れ出ていた。
「それでいい!紫蘭!」
月光を真一文字に振る。
2機は、二人は再び切り結ぶ。
◇
「ちぃ!しつこい!」
シャルは舌打ちする。
紫蘭と練からそう遠く離れていない中層ビル区を駆け抜けるサルタクロス。
その左手前にあるビルに高速の弾丸が着弾する。
『お前をあの娘のところに行かせはせん。』
通信から響く声は何回も聞いた声。
U,Nオーエン操るAC・ローレンスがビルの上からサルタクロスを見下ろしていた。
事は、練がブレティアと接触した時まで遡る。
そのまま練を援護しようとしたとき、横合いからマイクロミサイルが襲い掛かって来た。
回避し、発射した相手を見た時は驚いた。
この世界のイレギュラーが唐突に攻撃を仕掛けて来たのだから。
「何であなたが邪魔をするのか理解できないんだけど。」
思わず通信で問い掛ける。
返事は一言。
『依頼だ。』
それだけで充分だった。
恐らく、紫蘭の援護を引き受けたのだろう。
気になるのは【厄災】の依頼を受けた理由くらいか。
そして時は戻る。
シャルは更なるリニアライフルの攻撃をいなしつつ、マイクロミサイルを発射。
それに対してオーエンはOBで右に飛びマイクロミサイルを回避した後接近。
ショットガンをすれ違いざまに叩き込む。
シャルもその機を逃すまいと両手のマシンガンを連射。
ショットガンをまともに喰らったシャルはのけ反るものの、マシンガンはしっかり当たっていたのでイーブンと思考を切り替える。
オーエンを再補足すべく索敵。
振り返るものの視界内にいないので即座にレーダーに切り替える。
(突き当たりの交差点を右にすぐ、か)
恐らく耐熱限界までOBをして離脱、待ち伏せか。
待ち伏せへの対応を考えつつ前進。
とれるコースは2つ。
道に沿って進んで待ち伏せに真っ向勝負か、ビルを越えて上空から攻めるか。
彼女はビルを越えて進む事にする。
元より相手の後手にまわるならせめて上をとろうと判断。
しかし。
ビルに着地した途端、唐突に足元が爆発した。
「っつ!?吸着地雷!」
先を読んだトラップに戸惑う。
オーエンは交差点を曲がったのではなく、ビルをわずかに越えて地雷を撒いた後にポジションを取ったのだ。
さらに脚の鈍ったサルタクロスにリニアライフル弾が突き刺さる。
ビルを飛び移り迫るローレンス。
「ご馳走はいただいたわ!」
シャルはそれを見てOBを起動。
耐熱限界を無視してローレンスに肉薄する。
余りの無茶な動きに不意を突かれるオーエン。
『なんとぉ!?』
「だからお返し、受け取りなさい!」
左手のマシンガンを放り投げローレンスを掴むと、そのまま引き寄せ、サルタクロスの右手のマシンガンが、ローレンスの左腕に押し付けられる。
トリガーが引かれ、鉛玉がローレンスの左腕を食い破り破壊する。
[左腕破損]
『この程度では退けん!』
ローレンスは無理矢理サルタクロスを振り払う。
接近戦の要を失った彼は、吸着地雷を直撃させようと発射。
それを読んでいたシャルは後退し回避する。
冷却にENが持って行かれ、余裕がないシャルはマイクロミサイルで牽制。
『負ける訳にはいかないんだよ!』
それを一発の被弾で抑えたオーエンはリニアライフルで追撃する。
そのうちの一発がシャルの左腕をへし折った。
さすがのシャルもこの必死さに疑問を持たずにはいられなかった。
練からもちゃんと話して貰えなかった故に状況を理解しきれないシャルは、置いて行かれたような錯覚に陥った。
◇
ビル街に唐突にいくつもの爆発が起こる。
その爆発の内の一つから、ケイローンが吹き飛ばされて現れる。
その機内に、ストレイドからの通信。
『後3分もかからない。もちこたえてくれ、アキレス!』
「りょう、かい!」
返事を返すも、既に装甲も罅や煤にまみれている。
機体損傷、60%。
正直、勝ち目はほとんどない。
それでも彼は足掻いていた。
ライフルをブーストドライブで無理矢理躱し北へと進んでいく。
「それでいいんだ、紫蘭。」
既に彼の口元は血にまみれていた。
オーダーがブーストドライブを利用しても、ネクストに勝つのは初めから無理に等しい。
まず、ブーストドライブだが。
オーダーはVACと違い全長が大きく、一見同じような動きをしていても、最高速・移動距離の違いから、かかるGの大きさがまるで違う。
それでネクストに追従しようとすれば、かかるGの大きさは想像を超える。
それに加えて、アキレス―練―はまだ13歳でしかない成長途上の体で行っている。
むしろここまで持ち堪えている方がおかしいのだ。
その上、Gによる負荷は機体にも蓄積。
脚部はもうすぐ破損判定を出してもおかしくないぐらい疲弊していた。
◇
序盤ブレティアを追い詰められたのは、紫蘭の心の隙を突き、ネクストらしい動きを制限したからだ。
QB、QTの使用頻度の少なさとAMSに対する不慣れにつけこんだに過ぎない。
だが、それでは目的を果たせないのだ。
紫蘭にはそれらしい戦いをしてもらわなければならなかった。
だから、焚き付けた。
理性まで吹き飛ばしてしまうのは想定外だったが。
あいつは体で理解するタイプだから、一度必死に戦わせた方がいいと判断したのだ。
実際、それは正しかったようだ。
ストレイドさんに聞いたネクストの戦闘テクニック。
目の前でその多くを目の当たりにすることになり、一瞬で逆転され追い込まれている。
あんなことをしたのだから、もう、元の関係には戻れないことも理解している。
これは俺のエゴでしか…
思考が混濁し始めた。
壁を蹴ったあたりから一瞬視界が黒く染まり、意識が遠のく。
しかし、地面に機体を叩きつけてしまう前に何とか立て直し後ろを向く。
そこにはすでにブレティアが迫っていた。
マシンガンのトリガーを引くが、その時には視界内にはいない。
ドドヒャァ、という音だけを残して、ブレティアは右の大通りに移動したのだ。
そして、しばらくするとまた同じような音がして、俺の頭上に現れた。
上空からライフルを連射。
俺はOBを起動して一気に
ライフル弾も、ロックオンも振り切って真っすぐに向かう。
しかし、足元にノーロックで撃ちこまれたミサイルで体勢を崩しOBが切れた。
それでも、進み続ける。
「この、ままじゃ…ジリ貧、か。」
振り返りマシンガンを放つ。
だが、紫蘭は恐ろしい程の左右運動を織り交ぜて迫ってくる。
二段多重クイックブースト。
それをオーダーACが捉えられるはずもなく。
ブレティアは接近しブレードで袈裟斬りを繰りだしてきた。
必死に後退をかける。
だが、完全には避けきれず、構えていたマシンガンの前半分が斬りおとされた。
残る武装は、月光一つ。
絶望的状況。
「ま、だだ。」
だが、ブレティアの勢いはまだ残っていた。
それを見た俺は鈍る思考の中、画策してする。
あと、数十秒持てばいい。
俺は、ブレティアに背を向けた。
同時にOBを起動。
ブレードを振りきったせいでがら空きになったブレティアの胴体に蹴りを入れ。
反作用で一気に加速した。
一瞬意識が飛ぶ。
気が付いたのは目的のコンテナの真ん前だった。
解放されたコンテナから、すれ違いざまに中身を持ちだす。
ここまで来てしまっては、気休め程度の品物だが。
空になった散布型ミサイルをパージしつつ、背中から迫るブレティア。
それを振りきるように必死に加速をかけるケイローン。
そのケイローンの進む先には、この街最大の高さを誇るビルがあった。
それに向かって速度を緩めることなく進み、跳躍してビルを駆けのぼった。
『ネクストで、まだ機動力の低い方向?ブースターのもよるが、それは縦だな。』
ストレイドさんから聞いた話で組み立てた、悪足掻きの策。
これで無理矢理距離を離し、時間を稼ぐ。
◇
私は頭が練を倒すことだけでいっぱいになっていた。
OBで前を駆ける練にライフルを向ける。
だが不思議なことに照準が合わない。
いくらマニュアルで狙いをつけようとしても逸れていく。
ふと、練のACを見つめてみる。
OBで発生する光が翼のように見える
それはその紺と灰ので彩られ、さらに傷だらけの機体に似合わないかもしれないけれど。
私は、綺麗と思えた。
そして、その機体がビルを駆けあがるとき、脳裏に浮かんだのは―――
―――これでいい?
―――お姉さんありがとう!!
―――あの子と練の笑顔で…
身体も心も現実に引き戻されるような感覚とともにもう一度ケイローンを見上げる。
気づかない内に自分も上昇し、決してオーダーでも詰められない間合いではなくなっていた。
そしてENは切れかかっており、即座にQBもできない。
やってしまった。
今の練は本気だ。
このままじゃ…
『紫蘭危ない!』
あのどす黒い声ではない、私の知ってる練の声が通信越しに響く。
そして、OBを再度吹かし、こちらに向かって大の字で向かってくる。
ブレードを構えず、大の字で。
――ああ、練は完全に染まってはいなかったんだ。
―――さっきのはなんだったの?
二つの感情がせめぎ合う
だが、前者の方が大きい気がする。
きっと都合のいい解釈だけれども。
きっとまた。
そう夢心地に浸っていた。
勢いよくこちらを抱き留めてきたケイローンを受け止め。
ケイローンの背中が爆ぜるまでは。
練の目的は。
紫蘭が戦わなければならなかった理由とは。
現時点では最高文字数かも。
追記
2018年3月23日
多機能フォームを利用した作業を忘れていたので編集しました。