巻き込まれた少年は烏になった   作:桜エビ

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重い話ではない…はず。




紅葉に染まる神社。

その手前で話す影がある。黒白の服に金髪、もう一人は紅白の服に黒髪だ。

 

「アナトリアには監視をつけるのは決定だな。あそこのデリケートさは見過ごせん。」

 

「全く手間をかけさせてくれるわね。多分今までで二番目くらいに歴史変わるポイントじゃない?」

 

Unknownは溜息を吐いた。

ストレイドはそれをまあまあ、と宥める

 

先日、アナトリアに出向いた二人は【厄災】がアナトリアを壊滅させるために用意したと思われる兵器群を殲滅。ネクストという反則を使ったが、【厄災】が何を用意しているか分からないのでやむをえなかった。

そして、紫蘭はその後何とか保護した。

 

「で、今回の第二の目標であった紫蘭ていうリンクスは今どうしてるの?」

 

自分の仕事の結果を確認するのは当然のことである。

それにストレイドは答える。

 

「紫蘭なら、あいつのところにいるはずだ。心配で仕方ないらしい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

規則的な電子音が部屋に響く。

ここはFGWの医療施設。

そこの一室にある椅子に紫蘭は腰を掛けていた。

 

目の前にいるのはアキレスこと、練。

 

意識はなく、静かに呼吸をする。

それを眺める紫蘭の顔は晴れない。

 

 

 

彼はきりもみ回転する機体から強引に脱出した。だが、回転の影響でまともにパラシュートが機能する訳がなく、意識を手放したアキレスは落下し続ける。

それを紫蘭が何とか回収できたのだ。

 

 

だが、負っていた傷は深い。

全身のいたるところ骨に罅が入り、内臓も多くが負荷を受け機能が低下していた。コジマ汚染も受けていた彼はここに運ばれ、集中治療を受けている。

 

「1週間絶対安静、それと二か月はACおよびGのかかる兵器への搭乗禁止。

激しい運動も控えて。コジマによる内部汚染はもう少ししないと消えない。」

 

と、主治医は言っていた。

これでも最新鋭の医療技術を使っているとのことだ。寧ろ、こんなに早く治るものなのかと訝しむレベルのスピードであることはつっこまないでおこう。

 

 

 

既に三日が経とうとしているがそれでも目覚める気配がない。

 

「ごめん、練。」

 

 

そんなことで済まされることをしたとは思ってない。

かっこ悪いとは分かっているけど、自分で選択した結果なのに罪を背負う感覚にずっと苛まれてしまう。そして、彼の目覚めをここでずっと待ち続けていることを心の中で嘲った。

 

きっと彼が気づいてくれなかったら自分もアナトリアも、今頃はもうなかったんだなと思ってしまう。彼が悪役を演じてなければ、まともに戦うことすらできなかったかもしれない。

 

 

そんな彼を憎もうする自分が嫌いで――。

 

 

そこまで思考したとき、後ろの戸が開く。

 

「あ、シャルさん。こんにちは。」

 

入って来たのは、何回かお世話になっているシャルさんだった。

その表情は暗い。

 

「紫蘭さん、私がうかつだったばっかりにあなたを【厄災】に渡し、挙句の果て戦場へ駆り出させてしまったこと、本当に申し訳ございませんでした!」

 

突然頭を下げられる。

全く予想していなかった謝罪に困惑してしまう。

 

「いや、私は貴方に謝罪なんて求めてませんよ…頭を上げてください。」

 

彼女は頭を上げるも、その顔は晴れない。

 

「しかし、あなたの体は、もう…」

 

そう言ってより顔を曇らせる。

 

 

 

私はリンクスになってしまった。

 

リンクスはネクストを操縦するために様々な処置を施されている。

2つに分けると、AMS施術と肉体強化措置だ。

 

肉体強化措置

それは薬物や医療工学により様々な負荷に耐えられるように身体をいじられること。

 

左手足を失っただけでも、まだ競技人生は歩めた。

義手義足でもスポーツ選手を続ける人は世界に数え切れないほどいる。

だが、今の私は常時ドーピング状態だ。筋力は常人の比ではないし、反応速度は置き替えられた光ファイバー製の人工神経によってヒトのそれを越える。

 

公式大会の出場は認めれるはずがない。

もう、かつての夢の欠片すらつかめないのだ。

 

 

「…でも私は生きてる。彼も生きてる。今はそれだけでいいんです。」

 

「…そうですか。少し羨ましいです。いや、嫉妬でしょうか。」

 

「まさか、あなたも練を!?」

 

思わず椅子から立ち上がる。

 

「いやそうじゃないですって」

 

苦笑いしつつシャルさんは首を振った。

その顔和どこが悲しげで、私の勢いもすぐにそがれてしまった。

 

「私は昔に恋人を亡くしてしまいました。でも、あなたには命をかけて想ってくれる人がまだいる。」

 

 

そう言って再び練に視線を向ける。

私もそれに倣うように練を見た。

今まで通りとはいかなくとも、[日常]を取り戻すことが叶うなら、それでいい。

 

開けていた窓から、夏の暑さを残した風がカーテンを揺らした。

 

 

 

 

ガレージに面した部屋でオーエンは愛機の整備を眺めていた。

隣にはフィオナがいる。

今回の件についての謝罪の意として【FGW】とかいう組織から修理を受け持ってくれた。

シャルや練、他にも何人かのレイヴンが秘密裏に所属する、得体の知れない組織。

アナトリアを救ってくれたのには感謝をしているが、気を許すつもりは一切ない。俺の心配は、恩を売りつけて何か企んでないかということだ。アナトリアを狙う輩がすり替わっただけだとしたら、俺は容赦なく銃を向け、恩を仇で返すつもりだ。

 

今のところその兆候はないが。

 

 

「あなたがオーエン?」

 

そういって、誰かがすぐそばまでやってきた。

 

「そうだが、お前は?」

「わたしは道戒 緋芽。FGWでエージェントをやってる。よろしく。」

 

そういって屈託のない笑顔で右手を差し出してきた。それを見て、俺も「お、おう。」と握手に応じる。

その時、となりにある気配が淀んだのに気づいた。

振り向くと、ジト目でこちらを見つめるフィオナ。

 

「なに、今のリアクションは?」

「あ、いや、これその、いまのあの子の笑顔が眩しかったとか、そういうのじゃないんだ…」

 

しどろもどろしてしまう俺を見て、緋芽は笑う。

 

「あははは、お熱なことで。」

 

「からかっているのか、お前!」

 

思いっきり弄ばれてしまった。

 

「で、何の用だ。ただの挨拶か。」

 

それに対し事無げに言う。

 

「いや、シャルのライバルって聞いてね。どんな人か見てみたくなったんだ。」

 

「ユーリック、貴方まだ親しくしてる女がいるの?!」

 

「だからそんなのじゃないぞ!」

 

再度疑いの目を向けられる。

その疑いを晴らすべく必死に弁解しようと試みた。

 

「ほら、三日前俺と戦ってたあのレイヴンだよ!」

 

「ああ、あの黒いAC…あなたのACも黒よね。」

 

そこ気にするか!

二股疑惑は止まらない。フィオナが纏う疑念の黒雲は次第に濃くなり、今にも雷鳴を轟かせんばかりに大きくなってきた。

さすがに見てられなくなったのか、そこで道海は口を挟む。

 

「大丈夫だよ、シャルは恋する相手なんていないって堂々といってたもの。嘘だったらスクープにしてやるんだから。」

 

「お、おう。そうか。」

 

「ユーリック…」

 

「あははははははははっ。ほんとに、もう。」

 

そういって胸を張る少女のおかげで話は落ち着いた。

まだ、フィオナの冷たい目は続いているが。

その様子に彼女は再び笑う。

 

「確かに、失うには惜しい人たちかもね。」

 

そういうと、彼女は窓枠に腰を掛ける。

 

「実はね、今回アナトリアを護衛した件についてなんだけど、全部アキレス君が立案したんだよね。」

 

「なに!あいつが!?」

 

その事に驚きを隠せない。

 

「あの子がストレイドに頼み込んだんだってさ。紫蘭を相手するからアナトリアを頼むって。」

 

「じゃあ、あの子がいなければ、今頃私達は…」

 

壊滅していたかもしれない。

アキレスはアナトリアを救った恩人になったのだ。

 

その事に思わず笑みがこぼれる。あの少年が、ずいぶんとデカくなったものだ。

 

「お礼なら練君に言ってね。それじゃあ。」

 

そう言って去って行く彼女の背を見送る。

戸が閉まった後、フィオナが口を開いた。

 

「なんか、彼にお世話になっちゃったね。」

 

「そうだな。」

 

そうして、彼に何かできないか話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

「一本取られたな。」

 

これっといって利益を得ることが出来ず、全部あいつらに持っていかれた。

この事実が僕を苛立出せる。例外という存在のうっとおしさは毎度のことだが、先読みされてこちらの計画は総崩れだよ。

 

「いったんこの戦争からは身を引くか。」

 

ここでムキになって無駄に戦力を失ってしまえば、次の機会が回った時に何も出来ない。

引き際は大事だ。まあ、後は【乱入者】がどう動いてくれるかに期待だね。

彼女一体どう動くのか。

 

 

 

【厄災】はすぐには動けない。

今気にするべきはイレギュラー要素のみ、それも少なからず消耗してきてる。きっと今は意識が外に向いているはず。

仕掛けるかはあと少しだけ様子は見るけど、時間はかけられない。この機に私の邪魔になるものは抹消する。

 

お母さんのため。

 

人類の存続のため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――どうだ、恋人と本気で戦った感想は。

 

うるさいな、別にどうだって。

 

――正直に答えろよ。

 

ああ、もうわかったよ。楽しかったさ。満足か?

 

――へえ、恋人に殺されかけるのを楽しむのか。

 

別に殺されたかったんじゃなくて、戦ってるのが楽しかったんだって。

あいつと競う機会もあんまりなかったし。

 

――殺しあいを?また滑稽な話だ。

 

レイヴンになってからそう言うのよく聞くし、別にどうだっていいよ。

 

――彼女が聞いたらどう言うんだろうな。

 

まあ、あいつが分かれたいならならそれで構わない。縛られていたあいつを自由にしたんだ。

恨もうが、愛そうが、殺意を持とうが、好意を持とうがあいつにその権利はあるだろ。

それを尊重したい。

 

 

――なら…

 

 

 

 

いや、そろそろ俺の一面に乗り移るのやめてください。

 

 

Unknownさん。

 

 

 

 

「なんだ、いつからわかっていたんだ?」

 

暗かった視界が一気に美しい光に満たされる。

虹色の光に満たされたそこはなんだか暖かくて、包まれているような錯覚に陥る。

 

「割と途中から。それにしてもここはどこなんです?俺は気を失ってるんですよね。」

 

あまりの幻想的な光景に、一瞬死んで昇天でもしたかと疑った。目の前に女性の姿のUnknownさんを見てそうではなさそうと思ったが、少なくともここが現実でもないとも思う。

 

「あんまりはっきりは言えないな。いい表現が見つからなくて。しいて言うなら私そのものとかかな。」

「そのもの、ですか。」

 

あんまりはっきりしない言い方で、俺ももやもやしてしまう。

 

「まあ、あなたの精神に直接介入したくてね。メンタル面が少し心配だったから。」

 

一般的な価値観なら、助けるために自分の恋人に散々暴言吐いて傷つけて、平然としていられる人は少ない。

だが、

 

「もうあいつは俺のことを想ってないでしょう。夢叩き壊し、恐怖のどん底に叩きつけられて、好きでい続けてくれるとは思えませんからね。」

 

そう平然と言い放つ。

もう半ば諦めている。

あれだけのことをしたのだ。あいつから憎しみを向けられようがそれで構わない。

彼女が無事で、その事を祈り続けられるだけで俺は満足だ。それ以上何を望めというのだろうか。

 

「結構悲観的だね、もっと一方的に求めてもいいと思うのだけど。」

 

「そうですか?これでも欲張りな方だと思うのですけど。」

 

彼女は少し不服そうにこっちを見つめる。別に俺の人間関係くらい自分で調整してもそれはそれである種の自己責任じゃないか。

彼女は何か言いたいのだろうか。

 

「なんですか。不味い事言いました?」

 

「いや、ね。彼女からなんで距離を取ろうとするのかなーって。」

 

やっぱり、そういうの気になってしまうんだろうなぁ。やっぱり失礼だがそう言うところは見た目以上に年を取って言うというか…。

無論紫蘭との距離を取るのには理由はある。

 

「きっと、あいつがどう思おうとうまくいきませんよ。俺はレイヴン、あいつは一般人の感覚なんですから。」

 

俺はこの生活にもう慣れつつある。それに今更戻ろうなんて思ってもいない。

もしかしたらこの戦いが終わった後もレイヴンを続けるかもしれない。付き合い続けるのは難しいだろう。きっと遺伝子レベルで戦うことが植え付けられてる。

 

「それにこれは俺のエゴですが、どんどん汚れていく俺の道連れにしたくはありませんし、なるって言ったら止めますよ。」

 

彼女まで戦いにおぼれていく姿を見たくはない。今回みたいなことはなおさらだ。

俺の思いを押し付けて悪いが、来たらもう戻れない後悔を紫蘭に背負って欲しくない。

これ以上俺は変化することはないだろう。戦いの快楽に浸った俺はもうみんなの中には帰れないから、その道連れはいらない。

 

Unknownさんは溜息をひとつつく。

 

「別にその歳なんだからわがままもっと言っていいのに。」

 

「現実見たら悪いですか。」

 

 

それに、俺の切な願いなんですけど、と付け加えて愚痴った。

彼女は苦笑いして続ける。

 

「悪いとは言わないけど、彼女の思いもしっかり聞いてあげなさい。あなたのエゴと彼女のエゴの押し問答になったときは考えるのよ。どっちが正しかったなんて結果論なんだから。」

 

その声とともに、水中から水面へ浮上するような感覚が俺を襲う。目覚める時がきたのだろうか。

 

「時間みたいね。また現実で会いましょう。」

 

その声とともに俺の視界は真っ白な光で塗りつぶされていく。

 

(紫蘭に最初なんて言おうかな。)

 

そんな呑気なことを考えつつ、俺の意識は現実へと引き戻されていった。

 

 




今は時間があるので執筆速度高めです。
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