巻き込まれた少年は烏になった   作:桜エビ

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望まれない力

練が意識を取り戻してから6日

 

大分動けるようになった練は、今精密検査を受けている。これで区切りがつけば予定を前倒しにしてリハビリに移行するとのことだ。

練の傷が治るのは素直に嬉しい。だが、もしこの傷が癒えたときにまだ戦争が続いていたとしたらまだ戦い続けそうで、もう少し治るのが遅れてほしいとも思ってしまう。

練が検査室から出てくる。

 

「リハビリはあと1、2日見てからだそうだ。ただ、こうやって歩き回るくらいはOKだって。」

 

「そう、良かった。」

 

ダメだ、今の言葉に安堵してしまう。

あと長くて2か月の平穏を祈ることは罪なのだろうか?だって練はもともと普通の男の子なのに、彼と前みたいに過ごすことも駄目。

人の怪我にかこつけて理不尽を罵倒する。

 

「練はこの戦争にまだ参加するの?」

 

その思いを素直に口にする。答は分かりきってるのに。

 

「ああ、ここでやめるのはキリが悪いし、戦争を終わらせられるならこの手で終わらせる。」

 

練を戦わなくていいような方法はあるのだろうか?彼の望みを無視する事とは知っていても、考えてしまう。

 

「紫蘭、お前も一応検査だろ。」

 

「ああ、そうだったね。行ってくる。」

 

リンクスになったこの身体が実際どうなっているのか、自分でもしらない。

そこまで考えて少し怖くなる。私がどんな処置を受けたか後で博士にも聞いておこう。

診察室の戸を開け、医師さんに対面する。

 

「さて、あなたの診察が遅くなっていたわね。手始めに義肢の接続部から。といっても、専門外だから余り期待しないでね。」

 

「はい、お願いします。」

 

私はそう言って袖を捲る。

 

「なるほど、左腕は二の腕の真ん中当たりから…脚は太ももからね。凍傷、化膿、金属アレルギーの傾向無し。大丈夫そうね。」

 

まず、義手周りの心配はなさそうだ。

その時

 

「これは………」

 

義手の接続部を見ていた彼女の息を呑む声が聞こえた。だがすぐ、「何でもないわ。」と首を振る。

 

 

そのことに一抹の不安を覚えてしまうのは仕方の無い事だと思う。後は義肢を外してレントゲンやなど身体の中身の検査。

それも終わり、元の診察室へと戻ってきた。

 

「処置のカルテがないし施術方法が知っているのとは少し違うから断言はできないんだけど、異常らしい異常は無かったわ。」

 

「ひとまず安心って事ですか?」

 

その結果に安堵する。

 

「とは言っても、やっぱり主治医に診断してもらった方がいいわね。アナトリアに行けるよう手配して置こうかしら。」

 

「一人でですか…少し心細いですね。」

 

「こっちから同行者を出すから、心配しないで。」

 

そのあと彼女は顎に手を置いた。悩むような様子だったが、少しした後微笑んで口を開く。

 

「じゃあ、数日後にしましょう。ピザ関係はこちらでやっておくから。今日はこれで大丈夫よ。」

 

「ありがとうございました。」

 

同行者ってシャルさんかな?頭をひねりつつ診察室を後にする。

 

 

 

 

「血液から割り出すとはいえ、こんなものが外の世界の人間が分かる時代なんて…嫌になりそう。」

 

 

彼女の机に放り投げられたカルテ。その内容は彼女が紫蘭の扱いを悩ませるに十分なものだった。彼女は端末とカルテを手に立ち上がると部屋を出る。

 

「例のリンクスの扱いだけど…」

 

彼女の目線の先に書かれる字。

 

 

 

動体視力 A

 

AMS適正 S

 

潜在人格戦闘適性 A

 

総合戦闘適性 S

 

備考:ドミナント因子保持の可能性あり

 

 

(信じたくないけれど…世の中分からないものね。)

 

その字から浮かび上がる、この世界のイレギュラーと対をなすという事実に対して、彼女は紫蘭の扱いを一人で決めることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

アナトリアに行くための飛行機は空港ではなく、山の中の倉庫にあった。

見た目はごつごつで私一人を運ぶには大きくて物騒だった。ただ、中身はそうでもなく、ドラマとかで見る普通の旅客機みたいで安心する。

 

「そう言えば、付き添いって結局どなたなんですか。」

 

ここまで連れてきてくれた蒼髪の同い年ぐらいの見た目の女の子、河城にとりさんに聞く。ちなみに彼女は付き添いではないらしい。

 

「一人はあっちに着いてる。もう一人はこれから来るところだって。」

 

あ、二人なんだ。

 

「もう座ってても大丈夫だよ。顔合わせは機内でも大丈夫じゃないかな。」

 

彼女の提案の通り右奥の座席に座る。座り心地は良く、見た目があの厳つい飛行機なのが嘘のようだ。それから数分、することもなく座席で窓の外を見ながらボーっと周囲の作業員の動きを目で追っていた。

だが、それは幼い声で中断させられたる。

 

「あなたが立上紫蘭?」

 

左を振り向くとそこには自分より幼く見える子が立っていた。

 

「はい、そうですが…あなたは?」

 

そうすると、お嬢様のような所作で頭を下げる

 

「私、あなたの付き添いをする。フランシスカ・レッドナイト。以後御見知りおきを。」

 

「こちらも、よろしくお願いします…。」

 

見た目と動きのギャップに戸惑う。ここでは見た目で騙されてはいけないとは言われたが、これは付き添いとしてはどうなのだろうか。

 

「見た目が頼りなかったかしら?」

 

「あ、すいません、つい。」

 

図星とまでは言わないが思考を見透かされた。

 

「見た目はカモフラージュに使うのよ。」

 

「と、言いますと。」

 

話の先を促す。

 

「あたかも無防備な姉妹見みたいにしてあなたが重要人物だって思わせないようにするため。周りの目がある間は見た目相応に振る舞うの。」

 

「でも、狙われやすくなりませんか?誘拐犯とかに。」

 

「まあ、その時は本気出すから。」

 

前から思うけど、ここの人達たまに怖いんだよね。急に話が物騒になる。

 

『間もなく離陸する。総員配置。』

 

「なんか怖いです。」

 

「ごめんなさい。パイロットとかも軍用機から連れてきたから物騒なのよ。」

 

慢性的な人員不足でね。と、付け足すとシートベルトを着けた。私も急いでベルトをロックする。少しして機体が動きだし、ぐんぐん加速。ゲートをくぐり空へと飛び立った。

 

 

 

 

着陸は普通の空港だった。

ここでむしろ基地のほうに着陸したら余計怪しまれるのかな。周りを見てもこういう機体はあるみたいだし、そんなに気にしなくてもいいのかな。

時差ボケ対策に寝ていたために機内での出来事は覚えていない。だが、途中でフランシスカさんが「フランって呼んで」って言っていたのは記憶に残ったいる。

 

「紫蘭ちゃん!久しぶり!」

 

空港のゲートでフィオナさんが出迎えてくれた。

 

「お久しぶりです。フィオナさん。」

 

と私も笑顔で返す。再会は私もうれしくて、フィオナさんのもとに駆け寄る。

 

「元気にしてた?あれからこっちに来ないから心配しちゃって。…私たちのせいでなんだけど。」

 

「私だってそれを選んだんですし、フィオナさんたちのせいじゃないですって。」

 

やっぱり、アナトリアが私を戦わせるための人質にされたことがいまだに尾を引いているみたいだ。結果的に私もみんなも救われたのだからいいじゃないか、と思ってしまう。だけれども、フィオナさんはそれではきっと納得してくれないだろう。

 

「ありがとう…ええっと、紫蘭ちゃんは父さんに診察してもらいに来たんだったね。車を用意しておいたから、ついてきて。そういえばその子は?」

 

フランさんに気付き、フィオナさんは問いかける。一瞬付き添いですと言いかけたが見た目が見た目なので信じてもらえないことに気付いて口を閉じてしまった。どうすればいいか思案したら、フランさんが

 

「紫蘭についてきたフランです。私は観光しについてきたようなものです。」

 

と見た目相応の声としぐさで話す。

 

「そっか、でもこれから行くのは病院だからつまんないかな。」

 

「それは大丈夫です。そのあとの余った時間で回るのでそれまでは待合室とかで待ってますから。」

 

それに納得したのか一緒に連れていくことになった。演技力は納得の一言である。背の縮んだ高校生探偵を思い出したのはきっと私のせいじゃない。

フィオナさんについていく私とフランさん。

車に乗り込むとき私が乗ってきたと思われる飛行機の貨物部がゆっくりと開かれるところを見た。私たち以外にも目的があったからこその日時指定だったのかもしれない。深追いすると怒られそうなので、見るのはそこまでにして車に乗り込んだ。

 

 

 背の高い建物もぽつぽつあるが、栄えているはずのコロニーなのに基本的に田舎に分類されてもおかしくない街並みがアナトリアの特徴で、一か月ぐらいお世話になった私もこの街並みが好きだ。

 その中心地へと車は進んでいる。アナトリアの産業の中心、義肢技術の第一人者であるイフェルネフェルト博士が務めている病院はそこにある。

 フランさんは終始、窓の外の様子に目を輝かせるなど子供らしく振舞った。…演技ですよね?

 病院の駐車場で車から降り、気持ちを引き締めて正面玄関へ向かう。

 

イフェルネフェルト博士には事前にアポを取ってあるので受付の方の案内通りに廊下を進んでいく。そしてイフェルネフェルト博士の部屋の扉の前に立った。博士には色々聞かねばならない。この体の事も、あの戦いの結果がアナトリアに何をもたらしたかも。

 

フィオナさんが扉をノックし「私だよ、入るね父さん。」と声をかけると、少し間を開けて「ああ、フィオナか。少し待ってくれ。」と、扉の向こうから声をかけてきた。待っている間に再度心の準備を整える。

さらに2,3分してから「もう大丈夫だ。」との声。

 

「失礼します。お久しぶりです、博士」

 

椅子に座り、少し疲れた様子のイフェルネフェルト博士。

 

「君に再び会えてうれしいですよ、紫蘭さん。君にはなんと謝ればいいのか、お詫びをしたらいいのかで…。」

 

「そんな…大丈夫ですよ博士。私は選んだんです。」

 

それでもやはり罪悪感は残り続けてしまうだろう。私はもう大丈夫なのに。

 

「…今日は私が受けた処置について説明してほしいのと、義肢などの検診をしてほしくて来ました。」

 

話題を変えて、しんみりした空気を変えようと試みる。どっちの話題も彼にとっては後ろめたい話題であることが悔しい。

 

「そうか、一応FGW所属の医者にはカルテが回らないのか。あとでそれも手配しておこう。君のも当然知る権利はある。」

 

そういうと彼は私のカルテらしきものを引出しから探し出して机の上に置いた。

 

「まずは君も知っているだろうが、筋肉や臓器の薬理的強化。主に高Gの中で機体を操作したり、Gそのものに耐えるためにする処理だ。」

 

一つ一つの説明は避けるけどね、と付け加える。

 

「それと、ナノマシンによる神経の光ファイバー置換。神経細胞を投与したシリコン製ナノマシンによって光ファイバーに置き換えてしまう作業だ。コネクターは首筋にある。そしてこの二つの行程がリンクスを不可逆なものにしている。」

 

私の夢が完全に砕かれた原因をしっかりと知る。そのことで諦めがついた気がした。

 

「君の義肢はその光ファイバーの信号を利用しているから回線の一部が少し特殊なんだ。少し知識があるだろうその人も、手を出すのためらったのはそこが原因だろうね。」

 

そして義肢の点検と私の検診が始まろとした。

 

その時、

 

「ねえ、お父さん。なんであんなところにシミがあるの?前はなかったよね。」

 

フィオナさんが指し示す先には、茶色のシミがあった。薬品を余り取り扱わないここでできる物には思えない。それに前は無かったもの。

怪しむのは当然だった。

 

「…いや、淹れたコーヒーが余りにも不味くて吹き出してしまったんだ。」

 

「そんなに?」

 

「どこをどう間違えたかさっぱりで困ってるんだ。今度フィオナが淹れてくれないか。」

 

「今淹れてみる。ちょっと待ってて。」

 

そういうとフィオナさんは部屋を出て行った。私はかなり気まずそうな顔をしている博士に問い掛ける。

 

「どうまずかったんですか?コーヒー飲んだこと無いですけど。」

 

「ああ、明らかにコーヒーでは無い苦みを感じてね。想像を絶するくらいの。」

 

そういうと彼はシミを見つめた。かなり思い詰めた顔に私は不安を覚える。

彼は何を考えているのだろう。

 

「君を診た医者、信用できそうだったかい。」

 

「はい、そうですね。会ってそんな経ってないんで全面的にというわけではないですが。」

 

なぜそんなことを聞くんだろう。私は頭を捻った。

その時、走るような足音が部屋に近いてくる。

 

「父さん!なんで言わなかったの!?」

 

そのフィオナさんの顔は見たことないほど怒りに染まっている。あまりの剣幕に私は気圧されてしまい一歩後ずさる。

 

「早く一緒に内科に行くわよ!父さん!」

 

それに対し天を仰ぎ額に手を当てる博士。何をやらかしたのかな。手を引かれていく博士を見送った私は、部屋にポツンと取り残された。

移動するのもまずい気がしてそのまま椅子に座って待った。

 

「…何をしているのかしら?」

 

「ここを動いちゃいけない気がして。」

 

フランちゃん…いやフランさんが扉を開けて声をかけたきた。その目には呆れの色が映る。

 

「フィオナさんが今日はこれまでだからホテルに行っててだそうよ。車も用意してあるとも。」

 

何があったのかは明日問いただそう。ゆっくりと椅子から立ち上がり、今や本物と変わらない動きをしてくれる機械仕掛けの左の足と腕を動かした。

ふと見た窓の夕日に染まった赤い空が不思議と胸の中にすとんと落ちてくる。私はここで生まれたわけでもないのに納得というか、よくわからない感情が湧く。

 

「どうしたの?行くわよ?」

 

その声に現実に引き戻され、その場を後にする。

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