日常(?)パート難しいです。
何があったのかわからないが、検診中止になってしまいホテルに向かう私達。運転手は博士の知り合いらしい。
予定は3泊4日、ホテルはそこそこのところを取ってあるらしくその4日間が苦痛になることはなさそうだ。
「もうすぐ到着だから用意しておいてね。」
目の前に近づいてくるのはとても豪華な建物で…あれ?違いますよね、そこそこのホテルって言ってませんでした?
ウィンカーもそっちに出してませんか…駐車場入っちゃった、これ二十階くらいあるけどこれがフランさんが言うそこそこなんですか?
「ほら、行くわよ。」
「え…ちょっと待ってください!」
慌てて車から降りてフランさんを追いかける。だが、私はロビーに入るととても豪華な飾りつけを見て足を止めてしまった。こんなところにいて私はいいのだろうか…
しばらくして我に返った。フランさんはどこだろう、とあたりを見渡すとグランドピアノの向こうで手を振るフランさんが。あそこが受付か。
「すいません遅くなって。」
「大丈夫よ。もうチェックインは終わったから部屋に向かいましょう。」
と、エレベーターに向かっていく。その所作が余りにもお嬢様らしくて、私の場違い感は強まった。
9階でエレベーターは停まった。
フランさんも降りて行ったからここなのだろう。
左に曲がって少ししたところでフランさんが立ち止まる。
「そこがあなたの部屋、私は隣だから何かあったら呼んでね。はい、これが鍵。」
「ありがとうございます。では、また。」
私は戸を開ける。
中は落ち着いた雰囲気で、場違い感をそこまで感じなかった。配慮してくれたのだろうか。
鍵をかけ、部屋の中に入っていく。
広い部屋に大きなテレビ(といっても家庭用の範囲内ではある)、そしてベッドが二つ。
「…あれ?」
ベットが2つ、つまり二人部屋である。
「あれれ?」
鍵は開いた、ということは部屋は間違って無い。
取る部屋を間違ってしまったのだろうか。
そういえば
(付き添いは二人だったよね、もう一人の付き添いが一緒の部屋で泊まるんだ。…多分。)
そういって自らを納得させる。っていうかそれ以外だと何があるんだろう。あ、さっきの間違えた説だ。
そんなことは置いといてといわんばかりにベットに腰掛ける。夕ご飯まで何してよう。
トルコは日が出ているうちは日本より熱い。日が沈んだ後で寒くなるだろうが肌着になってベットで横になる。スマホもゲームの類もないため、夕飯前後はテレビを見るぐらいしか娯楽がない。
そうしてそのままうとうとし始めた、その時だった。
「ブラックバードさん、鍵持ってかなくてもいいじゃないですか。」
男が戸口を開いて部屋に入って来た。だが、その声ですでに誰だか察していた私は愕然として動けない。
「聞こえてま…なんで紫蘭がここにいるんだ!?しかもの恰好は…」
アキレス、練である。
驚愕した私は声を上げる。
「こっちのセリフだよ!なんで入院患者の練がこっちにいるの?」
リハビリでまだ日本にいなければならないはずだ。主治医の警告を無視して依頼を受けに来たのなら帰国させねばならない。
「アナトリアに招待されたんだよ。歩き回るくらいならOKっていうから。そういうお前は?」
「イフェルネフェルト博士に義手を診てもらいに来たの。」
とりあえず問題はなさそう…いや、大きな問題が今目の前にあった。
「どうして私の部屋に練が…」
「二人部屋って事は…まさかな。ブラックバード…いや、小学校中学年ぐらいで金髪の女の子知らない?」
フランさんの事だろうか。
「それなら部屋から出て左隣りだけど…」
結構不機嫌な顔で、私の手を握った。
「一緒に行こう。予想はついた。」
それに私は躊躇いもなく頷く。
◇
俺は、フランさんの部屋の戸をノックする。
「ブラックバードさん!アキレスです。ちょっといいですか。」
「あら、何の用かしら?」
戸を開けるフランさん。少し意地悪そうな笑みで出迎えてくれた、いや、くれやがった。この見た目詐欺軍団め。
「何の用、じゃないですよ!何で俺と紫蘭が一緒の部屋何です!?この年の男女を一緒にするって何してるんですか!?」
「おや、そういう関係じゃ無かったかしら?」
「俺らそんな爛れた関係に思われてたんですか?!少なくとも俺はそんなつもり無いですけど!」
声を荒らげてしまう。幸い部屋に入っていたのと壁の防音性のおかげで周囲の迷惑にはならなそうだ。
俺の発言に対してブラックバードさんはニヤリと意地悪な笑みを更に深める。
「自分の彼女をそんな格好で連れて来たあなたのその発言に、どれ程の説得力があるかしら。」
そこではっとした。紫蘭は肌着だった。
二人揃って赤面する。急いで謝罪せねば。
「紫蘭、済まない!頭に血が上ってつい…」
「え、わ、私も何も言わなかったし、そんな…ね」
紫蘭もそんな気にしてなかった…いや忘れてたか、たどたどしい返事が返ってきた。
「それはそれとして、部屋の交換をお願いします。俺が一人部屋にいるので。」
すでに一度あったこととはいえ、まだその関係にまで至っていない俺ら。部屋の交換を要求した
「へえ~。一度休んだ女の子の部屋に泊まりたいんだぁ。新手のセクハラかしら。」
「俺、そんな人間だと思われてるんですか…」
とんでもない言われようである。そのまま玄関まで連れられる。
「まあ、私は今回部外者だし、二人で今回は楽しみなさい。私は寝るわ。」
そういうとブラックバードさんは扉を閉めてしまった。
紫蘭をこのままの格好で廊下に立たせるのも難なので部屋に戻らざるを得ない。
「とういうわけだ、しばらくお邪魔する。」
「どっきりにも程があるよ…まあ、よろしく。」
部屋に戻ろうとする二人の背中は疲れて見えた。
部屋に戻り、服装を整えた紫蘭。そういえば思い出した事があったので言っておこう。
「俺、ユーリックさんとフィオナさんに夕食を誘われてたんだ。お前が着替えてる間に電話したらお前も来ていいって言われた。来るか?」
「本当!?行く行く!」
紫蘭は目を輝かせ、はしゃぐ。
ホテルのレストランなので、時間は余っている。
俺も服装を整えよう。
◇
ユーリックは自室であの日を思い返していた。
彼は紫蘭の横で戦うことすらも許されなかった。純粋についていけない、次元の違う戦いを目の前にして。ここまで自分を無力だと思ったのは初めてだった。
俺は同レベルの奴と戦うことに逃げた。
その挙句シャルとの戦闘に夢中になりすぎて、無意味な戦闘行為と知ったのは紫蘭の通信で事実を知ったフィオナに止められた時だ。
あいつは勝利条件が時間稼ぎだったとはいうものの、真っ向から立ち向かって行った。
俺は同じことをできたのだろうか。
「そろそろ行かないと遅れちゃうよ。父さんのせいで準備する時間なかったよ…。」
フィオナに呼ばれて思考の海から自らを引き上げた。
「ああ、準備は終わっている。行こうか。」
「そうそう、紫蘭ちゃんもくるって。」
本当ならでっかいパーティーなんかを開いてやりたいんだが、立場もろもろを考えると大っぴらなことはできない。
お互いこれで我慢だ。
◇
「イフェルネフェルト教授、わかっていたのに言わないというのは考え物ですよ。あまり好きな言われ方ではないでしょうが、あなたはアナトリアに必要な人間なのですから。」
「すいませんあまり騒ぎにしたくなかったので。」
下の階の内科に彼はいた。
フィオナに連れられたイフェルネフェルト教授は内科の受診させられていたのだ。
「あからさまな青酸カリによる毒殺未遂だからですか。あなたの命が狙われているという事実はアナトリアにとって重大な案件なんですから、素直に申し出てきてほしいですね。」
気づいたのはフィオナだ。
一口味見に口に含んで即吐き出したため治療はほとんどすぐ終わった。
だが教授は飲もうと思い切り呷ったため念入りに治療が行われた。といってもフィオナと同様でほとんど実害はなかった。
それよりもその事実に気づいておきながら誰にも言わなかったことが問題だった。
イフェルネフェルト教授は重々しく口を開く。
「コロニー内外によく思ってない人がいるのは分かっています。」
うつむき気味で語る彼の目、そこには力を感じられない
「でも、もう疑うことに疲れました。AMSなんてものを手にした後、企業がすり寄ってきたあたりでどうだってよくなってきましたよ。」
「…精神科に行くことをお勧めします。先程のいい方はすいませんでした、あなたはよく頑張った。」
すっかり疲れ切った顔をした教授を見て、内科医はそれ以上強く言えなかった。企業や『厄災』などを相手にしなければならなかった教授の心を癒す自信は、彼には無かった。
◇
「さて、アキレスこと練にアナトリアを救ってくれた感謝パーティーだ。好きなだけ食っていってくれ。」
「なんかありがとうございます。こういう会を開いていただいて。」
ホテルから徒歩で数分のところにあるレストランの一室を貸し切って催されたささやかなパーティー。
アナトリアを救ったって言われても正直なところ紫蘭に死んでほしくなかっただけなのだから、そんな風に言われるのに罪悪感を持ってしまう。
「遠慮するな。俺はレイヴンなんだからこんな程度で金に困ることはない。」
「…じゃあありがたく。いただきます。」
俺は手を合わせる。
「えっ…ああ、ニホン文化ってやつか。」
「いただきます、は確かにそうですね。トルコだと食事前は相手に向かって言うんですっけ。」
「英語だと直訳不能でしたね。」
※今更ですが、海外などでは練も紫蘭も英語を使ってます。未来なので外国語教育が進んでいることを前提で書いています。
「ま、異文化交流と洒落こもうか。」
といいつつ目の前にあるのがトルコ料理ではなく普通の洋食なのだが…まあ、いっか。
「まぁ、紫蘭ちゃんは結構こっちの文化慣れてきてたよね。一か月もこっちにいたし。」
「そうですね。ある意味第二の我が家状態でしたし。」
「そういってくれると嬉しいな。」
そういって各々が料理に手を付け始めたころ、オーエンさんの携帯端末が着信を知らせた。
すまん、と声をかけて席を外し、個室の外へ出ていく。
数分ののちに戻ってきた。
「仕事の話だったの?ユーリック。」
「いや、ジョジュアからだ。あいつ、リンクスになることにしたらしい。」
フィオナさんの表情が少し陰のあるものにへと変わっていく。
「そう……。止めるのは野暮、だよね。」
空気が悪くなってしまった。悪化するかもしれないが、気になってしまったので聞いてみる。
「そのジョジュアさんっていうのはどなたなんです。二人の友達とか。」
「ああ、その通りだ。友で、レイヴン仲間だったやつだ。だが、リンクスに転向することになったらしくてな。アスピナの都合らしい。」
一度リンクスになれば、レイヴン内での扱いはプラスと同じだ。それに、リンクスではレイヴンほど自由はないだろう。友が別の道を進む事に彼は悲しんでいたように、俺は見えた。
次に口を開いたのは紫蘭だった。
「そのジョジュアさんって人は都合があったのだとしても選んだんですよね。なら、見送ってあげるべきです。」
俺は思わず紫蘭を振り返った。
「そりゃ置いていかれる側は辛いですよ。だけどそんなんだとその人の決意が揺らいじゃう。もしその人の意見を尊重するんだったら、背中、押してあげるべきです。」
いつも以上にはっきりとモノを言う紫蘭は少し新鮮で驚いていた。するとオーエンさんは頭を搔きつつ座る。
「まあ、そうだな。ありがとう、大の大人が中学生に諭されるとはな。」
だが、その顔にある迷いの色は消えていない。他にも原因はあるんだろうが、これ以上はフォローできそうに無いのでやめておこう。
「そういえば、紫蘭ちゃん。身体は大丈夫そう?幻肢痛とかは?」
フィオナさんが話題を変えてきた。正直ありがたい。
「そういうAMS由来の障害は今のところ無いです。適性高かったですし。」
「お前は臨床試験同然なんだ。変なところから障害出てもおかしく無いんだからな。」
「どこかの誰かさんみたいに黙ってるつもりはありませーん。」
「俺なのか?何か隠し事してたか?」
不当な扱いだと俺は顔をしかめた。俺が大ウソつきみたいになってるじゃないか。
「思いっきりレイヴンだって事黙ってたじゃん。最近も私を騙してばっかり。」
「いや、確かに、レイヴンだってこと黙ってたのは悪かったよ。でもそんなしょっちゅう隠し事してるって…」
「じゃあ前のアナトリア襲撃阻止の事はなていうつもりなのかな~。いくらしょうがないとはいえあれは隠し事でしょ~。」
「うぐっ。っていや、しょうがないからだよ!」
最近紫蘭が意地悪だ。事あるごとにからかってくるから紫蘭と話すときはいつも押され気味かつタジタジになってしまう。
本当、こんな関係でいてくれていいのか、ってくらいに。
「本当に仲がいいんだね。」
「なんだ、お前ら。付き合ってんのか?」
「「ええ、付き合ってますが…」」
「な、いや…そうか。っておい!!」
「そうだったの!?紫蘭ちゃん!!」
紫蘭とハモる。いや、知ってるって思ったんだけど。紫蘭のやつ俺らの関係しっかり言ってなかったのか。
「お前ら恋人同士で殺し合いしてたのか!」
「なんで断らなったの!!練君もアキレス君でどうして受けちゃうの!」
もしかしたら教えてたらこの二人に止められてたのかもしれないのか。考えたな紫蘭。
当然恋人同士が戦闘するなんて一般的な考えからすればおかしい。まあ、俺は救うために戦ったけど手段がおかしいのは事実だ。
「俺は…戦場に慣れが来て、手段がそっちに傾きました。それだけです。」
「…まあ、俺もフィオナを救うためならなんだってするからな。お前と同じことを企んだかもしれんな。」
さらっと惚気られた気がするが気にしない。
さて、紫蘭だが俺は察しがついてる。
「私は…とても悩みました。天秤にかければ明らかにアナトリアが傾くべきなのに、練をどうしても捨てられませんでした。」
「感情が振り切れるわけないよ。でも、結果あなたは戦った。結果的に丸く収まったけど、それに私は納得できない。」
フィオナさんの厳しい視線が紫蘭に向かう。
「ここにも守りたいと思える人がいた。力を与えられて、それを守る義務と責任があると思って私は私の感情を振り切ってあそこに立った。私は練より義務を取りました。」
フィオナさんをまっすぐ見つめ、堂々と言った。
「あれは私の決意です。間違いで後悔をしても、罪や自らの行いを背負っていきますよ。実際後悔しましたし、練を傷つけた事実は消えません。」
「…強いんだね。納得したわけじゃないけど、あなたの決意を貶そうとは思わないよ。」
ようやく落ち着いたと、俺は一息ついた。
女性組で話が弾み始めた。そこでオーエンさんが俺に話しかけてくる。
「お前はいいのか?アナトリアに負けて。」
「いいんです、あいつらしい選択ですから。顔を知っていようがいまいが助けようとするあいつがいいんです。自分がいたせいで万単位で人が死んだら後味悪すぎます。」
「そいつが自分を取ってくれたんだろ。そいつにとって一万人より価値があるってうれしいことじゃないか。」
それに俺は首を振る。
「一万人殺させたようなものですよ、恋人に。あなたはフィオナさんに大量殺人の罪を着せたいですか。」
「…そう考えるか。確かにあいつにそんなことはさせたくないな。」
楽しそうに話している二人の横顔を眺める。
彼女の明るい笑顔がが血に濡れる、そう思うだけで言い知れぬ不快感を覚えた。
俺の手はいくら汚れても構わない。だが、彼女には…
そこまで考えた俺は口を開いた。
「俺はここにいていいんだろうか。」
多くを殺したこの手を眺めながら。
悩みすぎかもしれませんが、彼のコンセプトは「平和ボケした日本にいたパンピー潜りドミナント」です。
一般人からレイヴンになるのはきっと簡単ではないはずですから。