もし遺伝子検査技術が進んだ未来で、唐突に「あなたは戦闘の適性があります。」て言われたらと想像すると…
もしあなたがそうだったら言わせてください。
ねえ、どんな気持ち?(ゲス顔かつ地味に知りたがる桜エビ
一人でいるには少し大きい部屋に、朝日が差し込む。
ベットでもぞもぞとした紫蘭は少しけだるそうな声とともに瞼を開いた。
時計は七時過ぎ、時差があるとはいえ昔、五・六時に起きていた彼女にとっては少し遅めの時間だ。
「れん~。起きてるぅ?」
間延びした声で隣のベットに呼びかける。
しかし、返事はない。
まだ寝ているのだろうか、と紫蘭は寝ぼけ気味でふらつく足取りで練のベットまで行った。
「…あれ?」
枕の上という頭があるべき場所に、彼の頭はなかった。
布団をめくるがそこには誰もいない。
段々と頭が冴えてきた。
「どこに行ったの、練。」
◇
練はいまだに納得していなかった。
彼女の隣にいることがとても後ろめたく感じていることは、みんな分かっているはずなのに。
わざわざくっつけてきた見た目年齢詐欺軍団に悪態をつく。
翌日、一人になりたくてアナトリアに設けられたガレージで一人作業風景を眺めていた。
(俺は何をしてるんだ。)
やりたいことをした、欲しい結果を得た、臨んだ結末の中で最良のものになったはずだ。
なのに、なぜこう、釈然としないんだ。
彼女は許してくれるといったのに、なぜ後ろめたいんだ。
(昨日気づいただろ。)
もう一人の自分が呟いた気がした。
そんなとき、ガレージに声が響く。
「坊主、どうしたんだ、そんな浮かない顔して。」
オヤジさんだ。
おれのACに関することがあったので、彼もここにいる。
「自分にもわからないんですよ、現状に納得してないんです。」
「カノジョ救って、許してもらってもか?何が気に入らないのか…喜んでいい事だけどな…」
そういって腕を組むオヤジさん。いや、オヤジさん大丈夫ですって、俺が解決しなきゃいけない問題なんですから。
「まあ、じっくり悩めや。若いやつはそうやって成長してくんだからよ。」
そういって手を振り去っていった。
何がしたかったんだろう。
そのまま立ち上がり目の前のガラス窓に手を置く。
その窓の向こう側に、
既に修理不能と判断され、機体の解析作業へと移っている
ケイローンは、今の実戦では滅多に無いくらいに限界まで酷使され、自壊した。
ACはこの戦争の開戦理由により、AP等各種リミッターをかけたまま戦う。リミッターカットなんて滅多に行われない。
そんな状況の中、リミッターカットをしたケイローンは、ACの耐久性を確認できる貴重な資料となったのだ。
特に脚部はブーストドライブによって通常かからない負荷がかかった上、爆発したコアからすぐに脱落したため損傷もすくない。メインはここだろう。
FGWは人手が足りない上に表だった資料を作れないため、アナトリアが名乗りをあげた。
目の前にあるのは耐熱限界を超えた結果爆発し、無惨に裂け目だらけになったコアとそれに辛うじてついている頭部。
正面から見いているため今は見えていないが、OB基部を中心に破裂したかのように中身をさらけ出し、それ以外にも至る所で装甲が欠損していた。
俺の無茶に付き合わせたのだ。
見送りはしたい。
そのまましばらく眺めていたら、唐突に聞き覚えのある声がガレージに響いた。
「練、こんなところにいたの。」
「…お前まで来たのか。」
こっちは一人になりたいのに次々と人が訪れるのはなんでだろうか。
しかもおそらくは悩みのもとの一つと思われる紫蘭本人である。
「朝起きたら練がいなくてびっくりしたよ。練のこと知ってる人に聞き込みしちゃった。」
「そこまでしたのか。大げさだな。」
そうすると紫蘭は唇を尖らせ、ジト目でこちらを見る。
「勝手にAC盗んで戦闘に出ていくんじゃないかって思っちゃって。」
「俺、そこまで信用無いのか…」
正直悲しい。
「そりゃあ。」
そういうと俺の後ろに回り込む。
そして、その腕をやさしく俺の腰に回してきた。
「こうしないとどっか行っちゃうって思うくらい。」
その行動に俺は驚いた。背中に冷や汗が流れる。
「おいおい、いいのか。俺は殺人鬼だぞ。」
確かに俺は嬉しい。だが、俺はこいつとの距離を考えていた最中なのだ。
ここまで近くなってほしいとは思ってない。
「また嘘ツイてたの?殺人鬼にならないって。」
だが、そういって離してくれそうにない。
俺は少し辛かった。
紫蘭を血で汚してしまいそうで。
俺はもうあの日常には帰れそうにないイレギュラーなのに、彼女はついて来そうで怖かった。
「確かに戦いは楽しいが、まだ殺しは楽しんでない。だが殺してきたのは事実だ。」
突き放したいのに、出来ない。
あの時頭掴んでビルに叩き衝け散々罵ったのに、ここでは突き放す事すら出来ないなんて。
「私はね。練がどれだけ殺したかなんてどうだっていいの。」
紫蘭は腰に回していた手を解き、俺の肩を掴むと、そのまま俺を無理矢理振り向かせた。
「あの戦いで、練が
目は潤んでいて、それに俺は面食らう。
「だから、私の知ってる練が消えていないなら、もうなんだっていいよ。」
「お前…」
こんな距離感は初めてだ。
お互いに壊れてしまいそうなほどお互いが近く感じられて。
___この年の恋愛なんだ、硬くならず行こうか。
___さすがにそこまで悲観しなくてもいいじゃん。
「だけど、俺といたら…」
その直後、端末が激しく鳴り響いた。
◇
「状況、どうなっている!」
サイレンが鳴り響く中、アナトリア自衛軍の司令は指令室に入る。
「一部の兵が兵器を持ち去り逃走、
「細かいことは言わん!脱走者の出なかった部隊を使って追撃しろ。避難誘導をしつつ脱走兵を見つけ次第発砲してかまわん。」
目の前のマップにはかつて仲間だったはずの自軍機が映し出される。
司令官はこんなバカを考えるやつが身内にいたことが苛立たしかった。
「近くにいるレイヴンに依頼を送り付けろ!報酬を忘れるな!」
※IFV、歩兵戦闘車
歩兵を輸送することを目的としながら、積極的に戦闘に参加することを目指した車両。
戦車に近い走破性と馬力、でありながら半分から一個分隊を運ぶ能力がある。
AC脳で言うとMBTから戦車から火力を少し引いてそのぶんの積載を輸送能力に割り振った感覚。
本来は戦車に随伴して、戦車が制圧したところを占領するために必要な歩兵の運搬に使う。
やり方次第で戦車もギリギリ倒せる。
◇
「でもそれ、僕何もできませんよ。」
『だから、そこに籠ってなさい。そこなら武器はあるしうちのスタッフも数人いるから。』
「分かりました。切りますね。」
端末をズボンのポケットに突っ込み、ため息をつく。ひと段落ついたと思えたアナトリアでまた事件なのだから。
「どうしたの?」
「フランさんから、アナトリア自衛軍から離反した奴らが暴れてるって。」
紫蘭がそれを聞いて顔を顰める。
昨日、ここを第二の故郷だと言っていたのだ。その矢先に反乱じみた騒ぎだ不快に違いない。。
そう思っていたが、紫蘭の考えていたことは違った。
「そいつら、どこに向かっているって言ってた?」
「え?確かアナトリアの中央方面だって聞いてるけど。」
紫蘭の顔がより険しくなる。
「練、もしかしたらの話だよ。」
「いきなりなんだ?」
「そいつらの目的は教授なんじゃないかな。」
「へ?」
「暇な日は煎餅とお茶に限るわ~」
ところ変わって日本の某所。
神社の軒先でUnknownはお茶を啜り、煎餅にかじりつく。
パリッと音を立て、醤油で焦げ目のついた少し硬めのそれは割れた。
咀嚼し、再び湯呑に手を付けようとしたその時、端末の着信音が鳴り響く。
「…いきなりどうしたの、練。こっちは休日をまったり過ごしていたっていうのに。」
『すいません、ですが確認したいことがあって。』
電話の向こうの練の声は真剣そのものだったので、不満は後にしよう。
「で、なによ。」
『Aと呼ばれたアナトリアの研究者を知ってますか?』
ミシィ!!
『今変な音しませんでしたか?』
「気にしないで。でAのことね。知ってるわ。」
思わず端末を握りつぶしてしまうところだった。だってあいつは…
「私は別の世界の立ち位置的にはユーリックに近い位置、アナトリアの傭兵だったから。」
『そいつは何をしたか、それが知りたいです。』
なぜそんなことを知りたがる。
言う分には大丈夫か。
「時期的に今年の春にイフェルネフェルト教授が亡くなった後、AMS技術を持ち出してアナトリアに経済危機をもたらした男よ。」
相手はだんまりだ。
それをあいつが話を促していると考え、私はあいつに対する不満をぶつける。
「というか、おそらくそいつが教授を殺したと思うのよ。だってあいつずっと教授に不満を持ってたし『すいません、急用ができました。切ります。』…ちょっと!」
いきなり通話が切られた。いったい何だったのよ。
◇
「司令、緊急事態です!」
「今度はなんだ!」
「中央大学病院にて正体不明の部隊が発砲、周辺の避難が進められません!」
「ええい、次から次へと!」
敵の目的が達成されたとき、それは自分達の敗北を意味する。
内乱部隊が今現れた所属不明部隊と関わりがあるかは分からない。
だが、うちの売りである義肢技術の中枢である大学病院を襲ったということは…
「司令!反乱を起こした人員の事ですが…聞かれますか?」
目の前の戦況に関係なさそうだと考えたのか、遠慮をする下士官。
だが、今はすこしでも情報が欲しい。
「かまわん、話せ。」
「出身はコロニー内外様々。ここ数年で志願し、ぎりぎりで採用された実力の低い兵達のようです。」
あらかじめ侵入させていたスパイか。
実力を隠して入隊したのなら、特殊部隊とグルの可能性は高い。
特殊部隊の配置、及び反乱軍の方向からして、目的はアナトリアの生命線、義肢技術の中心である大学病院と行政機関への攻撃。
だが、戦力的に足りない。
いくら身分を偽った兵とは言え、義肢技術を復旧させないレベルの破壊工作をするには人員も装備も足りないはずだ。
ACがあるとは言え、建物を破壊するには効率が悪い。
工作用爆薬も持ち出された量を見るに不足している。
まず、うちの技術は独自の端末を有線ネットワークでつないで各所のサーバーにお互いがバックアップを取り、外部には漏れず、かといって一か所破壊されようがデータが残る特殊なシステムで守られている。
だから今まで専門性を保ってきたのだ。
コロニー内出身の兵が混じっているのも気掛かりだ。
それ以前に、これで得をするのは誰だ?
うちの技術は門外不出で、教授以上の天才かうちの技術者でもいなければ利用するための時間は膨大になるはず。
後一歩足りない。
最後のピースが欠けたパズルが浮かぶ。
苛立ちは加速し、歯を食いしばる。
私が欲しがっていた情報は数分後、レイヴンから齎される事になる。
◇
「紫蘭、ビンゴだ。」
「フランさんには私が連絡しとくから、練はここのトップに伝えて!」
私は端末を取りだし、練は内線を引ったくるように掴む。
『何かあったのかしら?』
「あいつらの目的が教授と、あの人の技術かもしれないと話になったので。」
『なるほど…筋は?』
「Unknownさんからの情報から容疑者をあぶりだして…」
そこから経緯を説明した。
『確かにこれは厄介になるわね。そっちから兵を出せるよう画策しないと。ありがとう。』
「こっちは終わったよ、練…」
振り向くと練の姿はそこに無かった。
「…ジッとしてるのが苦手なのかなぁ、もう!」
紫蘭は新品同然のレディ・スミスを懐に放り込むと、内線で確認を急ぐ。
その時、奥の方から破裂音がする。
壁に身を寄せて様子を伺うと、途切れ途切れの閃光が廊下を照らしていた。
照らし出されるのは、無骨な機械だ。
「なによ、あれ…」
対歩兵ロボット。
通称AIR
条約上使用が禁止され、表向きには生産されてないものだ。
そのカメラが、紫蘭を捉えた。
◇
「IFVとヘリを病院に近づけるな!なんとしても止めろ!」
まさか、前の作戦の失敗から、技術者が保身と私怨でコロニーを潰しにかかるとは。
いや、技術者の中にスパイがいることを意識から外したのは愚かだった。
なんとしてもイフェルネフェルト教授の殺害と、研究者Aの国外逃亡を阻止せねばならない。
阻止できなければ、アナトリアは経済危機に陥る。
「U.N.オーエン!前に出過ぎだ!IFVが抜けたぞ!」
「敵MBT、ノーマル部隊に砲撃開始!身動き取れません!」
「所属不明部隊鎮圧!」
「よし、そのまま周辺を警戒!気を抜くな!」
目まぐるしく変わる戦況、それに必死に食らいつく。
あとはIFVとヘリを潰せば一安心だ。
しかし、現実は甘くなかった。
「コロニー外よりヘリ多数接近!」
「※SAM、AA、起動!叩き落せ!」
「やってます!数が多すぎて間に合いません!」
「機種はなんだ?!攻撃ヘリなら無視しても構わん!」
この際なりふり構ってられないのだが、突き付けられた事実は変えようがなく、
「6割がレイレナードの兵員輸送ヘリなんですよ!優先して落としてる最中です!」
「ハイエンド、敵ハイエンドと接敵。交戦開始!」
「自軍ノーマルがIFVを撃破、ですが先程現れたヘリは4割が対空網を突破、中央区に接近中。」
後援者はレイレナードか。
だが、私達はレイレナードとAMS技術、それ以前も義肢技術を取引をしていた仲だ。
何故、彼らは急にAMSを欲する?
確かに金は取っていた、だが格安だったはずだ。
そうして思考を巡らせるが、刻々と変化していく状況は長い思考を許さない。
戦況は苦しさを増していく。
※SAM、AA
それぞれ【Surface-to-Air Missile】(地対空ミサイル)、【Anti aircraft gun】(対空砲)の略。
両者とも対空兵器。
茹でられて桃色になった桜エビが皿に乗せられている。
近くには大きな鍋と火炎放射器を持ったケイローンの姿があった。
茶番はこれまでにして。
注釈という新しい試みを始めました。
ACなんて専門用語オンパレードの元ネタなので元から必要だったと今後悔しています。
今までの話の加筆修正も検討中。
こうしたほうがいいこうしたほうがいいんじゃない?って意見も募集しています。