巻き込まれた少年は烏になった   作:桜エビ

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しばらくは一万字以上かける気がしない


腹探る者と競うもの

「紅茶、飲むか?」

 

「うん。ミルクもお願い。」

 

アナトリア内乱から一夜明けた朝。

二人はホテルの部屋で朝を過ごしていた。

 

俺は先に起きて紅茶を入れていたので、紫蘭にそれを勧めた。

 

「気分は?」

 

「大丈夫。昨日あれだけ泣いたんだもの。」

 

それで心の傷が癒えるわけがなく、その顔から悲しみは消えない。

俺は紅茶を渡すと、ベットで座ってる紫蘭の隣にゆっくりと腰かけた。

 

「くまなく調べたが博士の技術が漏れた形跡はない。最低限の目的は達したよ。」

 

「また救えたんだね、アナトリアを。」

 

「ああ。」

 

どうにかアナトリア崩壊の危機から救うことはできたのだ。

払った犠牲は目も当てられないのだが。

 

俺の手にはオヤジさんが遺したリボルバーがあった。周りに聞いたのだがオヤジさんの手製のものらしい。

この世界に一つしかない、オヤジさん自慢の品だったそうだ。

 

受けとったはいいものの、現実を生きる俺に幻想の力を使う事前提のこの銃は扱えないのだが。

 

それでも形見だ、異常が無いかよく確認する。

そんな俺を、紫蘭は紅茶片手に眺めていた。

 

「練、いやアキレスとしての君と話がしたい。」

 

紅茶をを一啜りした後、紫蘭はゆっくりと口を開いた。

 

「アキレスとして?」

 

「うん、私と同じ根っこを持ってる人と話がしたくて。」

 

「自分の本性の話か。」

 

きっと先日の戦闘で自分がしたことの話だろう。

 

「私、練からアキレスになったみたいに、私も別のワタシになっちゃうなんて全然考えたことなかった。」

 

「俺も半年前までネクストなんて未知の兵器に従来機で挑むなんて思ってなかったからな。」

 

っていうか昨日の戦闘の立場って完全少年兵だったよな。

予想外にFGWの印象が悪くなる状況だった事に気づき、思わず顔を顰めてしまった。

 

「正直、もう人殺しに抵抗なんてなくなっちゃった。いや、元からなかったのかな?」

 

その顔には思ったより陰りがない。

一応フォローを入れる。

 

「そういう風に自虐するのはよくないと思うが。」

 

「いや、自虐してるつもりないけどね。ただ、思うところがあってね。」

 

そういうと、過去を振り返るような目つきで天井を見上げる。

 

「結局私が練とアナトリアで、アナトリアを取ったのって、私が[一般人]であるための線引きに引っかかっただけだったんだなって。特別な感情を持った個人より、大勢の人を取ることが[正しいこと]だと思ってたから。」

 

「[一般人]であるための線引き、か。俺も越えつつあるからな。昨日俺も数十人撃ち殺してる。虐殺者って言っても反論できんからな。」

 

普通という概念がここ数か月で崩れてしまった二人組。

ふとそういう発想が思い浮かぶ。

世間に戻っても犯罪者扱いか?

 

「私もうちに眠ってるのは戦闘狂としての自分。どう向き合っていくかだよね。」

 

「ああ。俺はいったん休業ののちに、他の道が見つからなかったらレイヴン再開の予定だけどね。紫蘭は何か決めてあるか?」

 

紫蘭のそれはまだ目覚め切ってない。

戦場に出なければまだ十分に社会復帰は可能なのではないだろうか。

 

「練は反対するだろうけど、何回かネクストで出撃しようかって思うんだ。」

 

「…ああ反対さ。どうしてなんだ。」

 

そんな俺の期待を他所に、紫蘭は戦闘に参加するといってきた。

思わず俺の声は荒くなる。

 

「今の私にはこれといってやりたいことが無いんだ。選手人生は終わっちゃってるわけだし。」

 

そういうと、彼女はゆっくりと左手に手をかける。

まだ、以前の義手が治ってないので先日の件で手に入れた義手のままだ。

黒みががったカーボン製の義手は、先日の戦闘がなかったかのように傷一つない。

 

「…俺が言える立場じゃないが目標を立てないとな。これから進む道について。」

 

「あ、一応ネクスト乗るのは戦いたいからだけじゃないよ。今、リンクスとしてまともに籍持ってるの、FGW内じゃ私だけでしょ。扱いやすいネクスト戦力として必要とされてるかなって思って。」

 

「あまり戦ってほしくはないんだがな。」

 

正直、彼女の推理は正しい。

FGWは慢性的な人手不足。こちら側の人員を欲している

状況だ。

必ず彼女をに声を掛け、そして彼女は応えるだろう。

 

「これも道を探る一貫。これでいいならこれでいいって諦めつくし。」

 

「そうか…」

 

俺が彼女の意思を遮るほうが野暮なのは分かっている。

だが、俺はどうしても彼女に戦いの道を歩んで欲しくないと望んでしまうのはどうしてなのだろう。

 

「そろそろ朝食の時間だよ。行こう。」

 

そうやって手を引いていく紫蘭。

昨日の件があったのに朝食を食べる食欲が湧くあたりに、俺と同じ素養があると痛感させられた。

 

 

 

FGWとやらはまだ私の居場所を捉えてないのは確実。

だけど、こっちはそっちの本拠地の場所を押さえている。

それにこちらの根回しはもう完了。

 

問題はFGWの目的。

それによって対処を考え直す必要がある。

 

ただ、私の前に立とうと言うなら

 

 

 

 

 

「排除する。」

 

「いきなり、恐ろしい事を言わないで下さい。」

 

 

暗い部屋に光が差し込む。

スーツに身を包んだ男が革靴の足音を響かせて部屋に入ってきた。

 

「あなたですか、何のようです?」

 

「アナトリア襲撃、その細部の報告をしに参りました。」

 

営業スマイルで男は話しかける。

 

「そのような報告はサーバー上に上げておけばいい事を知らないはずがありません。一体何を考えているのです?」

 

「例の集団の戦闘データはさすがに社内ネットワークには流せないと判断したまでです。機密にしろと伺っていたもので。」

 

なかなか食えない奴だ、と私は思考する。

確かに、私が秘密裏に処理しようと考えている相手を、レイレナード社に知られるのは面白くない。

 

彼が持ってきたスタンドアローンPCが近くの端子に接続される。

 

「レイレナード側には敵戦力等を改竄して現実的な数値にしてあります。ですがこれは…」

 

「GAのように時代に取り残された化け物たち、と言えばいいでしょう。ですが、敵の制約を知れただけよかったかもしれません。」

 

やはり、並の存在ではないことは分かっていたが、突きつけられると認めがたい。

 

だが、手の出し方はいくらでもある。

 

 

例えば先日のように。

 

 

「やっぱり、おかしいな。」

 

「ああ。今回の襲撃、どう考えても起きるはずが無い。」

 

その一室にUnknownとストレイドは厚めの資料に目を通しつつ呟く。

そこそこ柔らかいソファーに腰掛ける二人。

テーブルを挟んだその向こう側には、臨時行政担当のエミールがいた。

彼は口を開いた。

 

「確かにくまなく調べたが、アナトリア内に研究者Aと関わったレイレナード関係者はいない。まず、彼に関わっていたのはオーメル、及びローゼンタールだ。企業同士で固まっているとは言え、ローゼンタール陣営の人間をこんな短期間で信用するはずが無い。」

 

「と、なると考えられるのは…。」

 

「内通者、それもフリーか、たちの悪い他企業の人間。」

 

オーメル筋の情報をレイレナードが信じる訳が無いし、レイレナード関係者なら政治的手段で一回は要求して来るはずだ。

なにせ、元々商売相手なのだ。あのレイレナードでも、いきなり武力行使に出るとは考えづらい。

 

Unknownは資料をテーブルに置き、腕を組む。

情報線で負けつつあるのは見過ごせない事態だ。

つねに後だしジャンケンとなるこの状態では、勝てる戦いも勝てない。

 

「なあ、思ったんだけど。」

 

ストレイドは資料から目を離さないまま話しかける。

 

「アイザックと一緒にいたあいつらの所属が不明瞭だ。どうなってる?」

 

「それなのだが…おそらく無名のフリー傭兵、それも工作特化。全く出身情報が出てこないんだ。」

 

エミールは申し訳なさそうに頭をかく。

 

「企業内で育て上げた人間…いや、なら回収するはず。オーメル筋の人間じゃない、のに機密であるAMS技術奪取の任務に就いていた?」

 

思考が纏まらずたどたどしくつぶやくUnknownの言葉に、ストレイドは首を横に振る。

 

「いや、もしオーメルだったとしたら、AMSの為だけに配置した人員じゃない。アナトリアに入った人間はだいたい2から3年前に集中してる。アイザックが謀反を考え始めたのは国家解体戦争が始まった時だ。」 

 

「国家解体戦争以前に、アナトリアに目をつけていたっていうのか?」

 

国家解体戦争が始まる以前、アナトリアは何の変哲も無いコロニーだった。

民族浄化戦争の影響によるトルコ崩壊、その後にまともに残った政権であり義肢技術という持ち味を押し出す典型的なコロニー。

 

それを事前に戦争の要と見る人間がいたという事。

 

「アナトリアの先を見据えた存在…。私はな、こいつらを【乱入者】の手持ちと考えてる。」

 

「【乱入者】!?何でだ?」

 

ストレイドの意見に思わずUnknownは聞き返す。

 

「一体何の話何なんだ?」

 

「エミール、しばらくこっちの話になるが許してくれ。…アナトリアが戦争において重要なファクターを握るなんて誰も予測できるはずが無い。それこそ『未来を知らなければ』な。」

 

「未来が分かる存在…俺達や【厄災】?」

 

「【乱入者】もまた、別世界から来たはずだ。この未来を知っていた可能性は十分ある。」

 

「じゃあ、一体どうして【厄災】じゃないんだ?あいつだって十分やりうることだろ。」

 

「あいつなら確実に私達を出し抜いてアイザックをアナトリアから逃がすはずだ。あいつは私達の戦力をある程度把握しているはず。」

 

そういうと、ストレイドは資料のあるページを開き、指差す。

AIRについての報告だ。

 

「そんなやつが私達のガレージに直接こんなものを配置するとは考えづらい。」

 

「戦力が分かっているなら、アナトリアの軍勢とまとめて足止めをすればいい。というかあいつなら人の前で俺達が本気を出せない事を知っている、か。なるほど。」

 

資料から顔を上げるストレイド。

その眼光は朝日に照らされいつも以上に輝いているようにも見える。

 

「AIR配備の目的は私達の戦力評価。わざわざそんなことするなら…」

 

「白兵戦も考慮にいれた、殴り込みのためのデータとりなわけか。」

 

二人の頭にあるのは同じ言葉だった。

 

 

 

 

FGW本拠地の襲撃。

 

 

 

「奴の居場所と目的を割り出さないとな。」

 

もしかしたら、意味の無い潰し合いかも知れないのだから。

 

私達は奴の事を知らな過ぎる。

 

 

「フィオナさん、まだ部屋から出てこないんですか?」

 

「ああ。あいつ、昨夜俺が見たことも無いぐらい泣きつづけていたからな。泣き疲れたんだろう。」

 

ユーリックさんからの電話で呼び出され、俺と紫蘭はホテル近くの公園までやってきた。

 

フィオナさんに見せる顔が無いと拒否していた紫蘭だが、俺が、今後そんな調子で話さない訳にはいかないだろう、と説得して、どうにか連れてきた。

 

だが、肝心のフィオナさんはショックでまだ立ち直れていないようだ。

 

「教授の葬儀は明日だ。間に合うなら来てくれると嬉しい。」

 

「そのつもりです。便は夜中なので最初の方には出れるかと。」

 

紫蘭の命の恩人で、自らが関わった人間なのだ。葬儀にちっとも出ないような薄情な人間のつもりは無い。

 

「また、助けられたな。」

 

「教授を助けられてません。紫蘭の恩人を守れなかった…俺の力不足です。」

 

その言葉に、紫蘭はビクッと肩を跳ね上げた。

 

あの事を紫蘭はまだ気にしているらしい。

いくら元の手先が器用でも、初めてで、義手が半壊しているのに止血帯がうまく巻ける訳が無いのだ。

むしろ、初めてなのにあそこまで冷静に処置していたのを褒められていいぐらいなんだが。

 

「それを言うなら、俺もだ。たかがノーマルと通常兵器に足止めを喰らって、ヘリの降下を許したんだ。」

 

そういうとユーリックさんは言葉を区切り、あらためて切り出してきた。

 

「アキレス、頼みがある。」

 

「急にどうしたんですか?僕にできることなら、何でも。」

 

それは、俺にとっては予想外の言葉だった。

 

「俺とエキシビションマッチしてくれないか。」

 

周りの木々なさざめきが遠くなって気がした。

 

「そんな、エキシビションマッチって…俺ランク36ですよ。いくら何でも…」

 

「待って、どういうこと?」

 

アリーナのシステムを知らない紫蘭はキョトンとしている。

それにこたえるユーリックさん。

 

「アリーナっていうのは基本的に一つ上の、もしくは同ランク帯のレイヴンに対して挑戦し、勝利して順位を上げていくものだ。だが、上位のレイヴンは下位のレイヴンに対してこうやって対戦を申し込める。」

 

予想外な発言に俺はタジタジになってしまった。

だって今まで憧れというか、目標だった人に唐突にマッチングを要求されたのだ。

誰だって焦るだろう。

 

「36か、十分だ。しばらくアリーナ行ってなかった分を含めれば不足も不満も出ないはずだ。」

 

「待ってください、心の準備が全然できません!!っていうか俺のACは今なくて…」

 

「何もすぐにやろうというわけじゃない、6日後、東京の有沢アリーナあたりでどうだ?別に何か取ろうってわけじゃない。ACも四日あれば用意できるだろ。」

 

確かに悪くない。

今の自分の腕を確かめるのにいい機会だ。

ACの問題を除けば特に問題はない

 

「ACはまだわかりませんがそのエキシビジョンマッチ、受けさせていただきます。」

 

俺は力強く宣言する。

その答えにユーリックさんは挑発的な笑みを浮かべてこちらを見る。

 

「全力で来てくれ。こちらも手加減はしない。」

 

「望むところです。」

 

そのあと、世間話をいくらかはさみユーリックさんと別れた。

 

紫蘭は終始ハラハラしていたが、恐らくこれから対戦する二人が普通に会話していたのが気が気でなかったんだろう。

 

 

「日本に帰ったらACを組みなおすの?」

 

「まあな。商売道具をいつまでも壊れてままっていうのも問題だからな。」

 

私と練は帰るための荷造りをしていた。

博士の葬儀に出るのだから余裕をもっていかなければならない。

 

「でさ、一つ大きな問題を忘れてない?」

 

「ン?なんだ?」

 

「お医者さんの言葉忘れてたの?」

 

「…あ、あぁぁぁ!!!俺一応リハビリ期間だったぁ!」

 

頭を抱えてベットに頭を突っ込んだ。

思ったよりリアクションが大きい。

 

「全然動けてて問題なかったから忘れてたぁ…せっかくのエキシビションマッチなのにぃ。」

 

そして落ち込んでる。

実は先日そのお医者さんと連絡を取っていたのだが、いつ話そうか。

当の練は練は頭をベットに擦り付けてブツブツ呟いている。

 

「こっそりやるか?…いやあの人たちの目をかいくぐれるわけないし。ええっと。」

 

これは早く言っておかないとまずい事になりそうだ。

しかし、いいものが見れた。

 

「いや、ごめんね。そのお医者さんから電話が来てさ。」

 

「ゑ?」

 

練は跳ねるようにベットから頭を離した。

 

「ざっくり言うと『先日の件で気づいてたかもしれないけど、一か月は嘘。だけど簡単に治るからって前みたいな無茶は許さないって』さ。」

 

「それさぁ…早く言ってよぉ。」

 

崩れ落ちる練。

 

「ふっふっふ。お医者さんの言葉を思い出して慌てふためく姿はお笑いだったよ。」

 

某野菜人の声真似をしつつ、胸を張って見せる。

最近こういうの風にいじくるのが楽しくて仕方ない。やりすぎて嫌われないように気を付けないと。

 

「まあ、それは置いといてさ。機体はどうするの?」

 

実際問題、機体が無ければエキシビションマッチどころかレイヴンとして戦うことすらできない。

それについては練があっさり答えた。

 

「ああ、使わなかったパーツがいくらかあるから大丈夫だ。最悪必要だったら買えばいいし。」

 

「フーン、そうなんだ。なんかつまんないな。」

 

「つまんないとはなんだ!そんなトラブって欲しいのか、俺に。」

 

むすっとした顔で練は「俺が先でいいよな。」っと言ってシャワールームに入っていった。

ちょっと意地悪すぎたかな。

そういって私も荷造りに戻ろうとして、カバンを開いて中身を確認する。

 

そして、ふと左手が目線の先に来た。

 

 

 

____これは…

 

FGWのお医者さんは何を見てつぶやいたのだろう

 

 

____君の義肢はその光ファイバーの信号を利用しているから回線の一部が少し特殊なんだ。

 

特殊…何かあったとき私の体は誰が直してくれるの?

 

 

思い返して、急に義手の繋ぎ目が気になり始めた。

そしてだんだんリンクスになったこの身が怖くなりだした。

 

担当していた教授はこの世にいない。私が守り切れなかったのだから。

 

本当にこの体について理解してる人間がいない。

そう思うと今まで何とも思ってこなかった事が恐ろしく感じられた。

不思議と私の手がシャツの裾に伸びていく。

 

 

真っ暗な空が空港の外に広がっていた。

 

最終便で、このアナトリアを離れる。

しばらくはFGWのレイヴンがアナトリアに駐留するそうなのでどこかが本腰入れて潰しに来ない限りは大丈夫だろう。

 

「しかし、途中なのに見送りありがとうございます。」

 

「大丈夫だ。…だが、本当に何があったんだ?フィオナがあんな機嫌悪いところ初めて見たぞ。」

 

「それは…いろいろありまして…。」

 

紫蘭が咄嗟に顔を背けた。

昨夜、気を取り直したフィオナさんが元の人工皮膚付きの義手を渡しに来てくれたのだが、そこでちょっとトラブルが発生したのだ。

まあ、それは省かせていただく。

 

「そういうのなら聞かないでおこう…。二度目になるがエキシビションマッチ、手を抜くつもりはない。」

 

「その全力に応えるべく、こちらも全力で行きます。手を抜かれたら逆に困りますよ。」

 

その時、乗機のアナウンスが空港に流れた。

紫蘭が切り出す。

 

「時間みたいです。では、また。」

 

「ああ、アリーナで会おう。」

 

そうして、俺たち二人はアナトリアを離れた。

 

 

 

 

「で、これはどういうことですか?川城主任。」

 

「何も、先日送られてきた設計図をもとに組んだ機体だよ。アキレス。」

 

「設計図を送った記憶はないですし、カラーリングも変えろといった記憶はありませんが。」

 

帰国し、呼び出された自分のガレージにはすでに新しいACが組まれていた。

 

「改造してませんよね。」

 

「何を言う。設計図を組んだというのはそういうことだろう。」

 

思わず頭を抱える。

なんだかんだ言ってこの人も技術者なのだ。こういうところで齟齬が起こってしまうと非常につらい。

 

「安心しろ、戦闘モードの性能は何もなければ変化していない。普通に使う分にはこれといって何の変哲のないオーダーだ。パーツの性能も変わっていないぞ。」

 

「その何かが起こったらどうするんです。」

 

「安心しろ。少なくとも四日後の試合では起きない。乱入者が無ければな。」

 

その条件を聞かないと安心できないのは俺だけでないはず。

本当に何してくださったんですか。

 

「ちなみに、この設計図はあのオヤジから死ぬ前日に送られたものだ。」

 

「それ、先に言ってくださいよ!!!」

 

なんですか、言い返せなくなるじゃないですか。

 

「あとカラーリングだが、おたくの彼女が考案したものだ。」

 

何やってんだ!紫蘭ーー!

まあ、そこまで変わってないから文句もつけづらいんだけどさ。

 

「彼女曰く、一番最初のカラーリングもよかったけど今のもありだから混ぜてしまおう、とのことだ。」

 

全く、あいつは。

 

「で、その機体で行くの?」

 

シャルさんが俺の横まで歩いてきていた。

 

「ええ、ここまでお膳立てされて首横には触れませんから。」

 

俺は機体に目を向けたまま答える。

流石に今から変えろとは言えない。

 

「じゃあ、機体に慣れなきゃ。シミュレーション、付き合うよ。」

 

「お言葉に甘えて。」

 

改造パーツということは対応パーツが出来上がるまでアセンができない。

ならこの機体構成で戦うしかないのだ。

 

俺とシャルさんは部屋の奥へと歩みを進めていく。

 

 




二人の例外が、次回、衝突する
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