新しくなったコックピットを再度確認する。
もともとHMDでヘルメットのバイザーに投影されていた情報自体はあまり変わってないが、表示ホログラム状になり、AP等についていた枠は無くなった。
前と上、そして左右に配置されていた予備のメインモニターは、球面として完全に一体に。
カプセル状という前のメインモニターが目前に配置されていた物より少し開放感を感じる作り。
周囲には万が一のための(これからその万が一に飛び込むのは目を瞑って欲しい)からくりが配置されている。これで改造はACの武器並というのが驚きだ。
レイヴンにとってはという感覚であり、一般人がこの金額を見れば卒倒ものであるのはご愛敬。
余裕のあるレイヴンはこれがスタンダードになるのではと思う。
実際、戦後に特許を取り、企業を立ち上げるべくにとりさんが修正と書類整理をしてた。
流石本物の河童、金に糸目がない。
良心的の部類のにとりさんがあれだと思うとかなりの金が動くことになるのだろう。
【おはようございます。メインシステム、ファーストフェイズ・ノーマル、作戦行動のため待機状態です。】
流暢に話すようになったCOMボイスが起動したことを伝える。前のやつもありだが、ここまでくると好感を持ててしまう。前は大破させてしまったのでこいつは壊さないようにしたい。
『今のところネクストどころかレイヴンすら発見されていません。もう少し待機していてください。』
「了解、こっちはいつでも出れる。」
『ネクストが出てくるのでもう少し緊張してもいいと思います。』
オペレーターから拗ねたような声で返された。
紫蘭救出作戦は完全に置いてけぼりだったし、それで大怪我して帰ってきたのだからまあ、当然か。
何か謝罪の意を述べようと言葉を考えたが、そうしているうちに通信を切られてしまった。
さて、それは今度伝えるとして今回は前回同様ネクストの足止めだ。
前回と違うのは、後方にネクストのバックアップ、それが敵ネクスト出現時に増援として短時間で来てくれることだ。
前みたいに、地獄のような十分間を単独で戦う事はなさそうだし、それに機能追加のおかげで前みたいに数分でボロ雑巾みたいになることもないだろう。
(うん、前よりかは何倍も楽なミッションだな。)
完全に感覚がマヒしている事からは目を背けた。
いくら改造を受けたところで、ネクストと戦うことは地獄に違いない事は変わらないのだ。
◇
「で、紫蘭。バックアップに入ることには関心するが、それなりの難度を初めてのミッションにして大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「見事なフラグだな。それに古い。何処でそんなの知ったんだ?」
「ネットで見ました。」
ネクスト輸送ヘリの中で交わされる会話。
完全な軽口だが、これが紫蘭の初陣になるかもしれないのだから軽すぎるかもしれない。
紫蘭はすでにネクストで待機している。
機体はフルでは用意できていなかったが、腕だけ取り寄せられた。
この前に話した内容から武装をアサルトライフルとマシンガン、格納にブレードと変えて肩は相変わらずマイクロミサイル。
ミドルレンジで様子を見つつ、隙を見せれば接近してマシンガンで一気に食い破る算段である。
ただ、機体バランスが悪いのであくまでお試しだ。ジュリープなど強敵にあったら即逃げを選択するよう紫蘭はしつこく言われた。
「いいか、雑魚はいくら狩っても構わん。ただ、ネクストは相手の強さを見極めろよ。APの減りが目安だ。」
「何度目ですか…それだけこのミッションはまずいんですか?」
「状況次第だが、しょっぱなから負けイベみたいな戦闘になるくせに負けたらゲームオーバーのクソゲー。」
「辛辣ですね…。」
それだけ不吊りあいのミッションだということを紫蘭は心に留める。
練__いや、アキレスについてきたのだ。そういうことは覚悟している。
「相手がネクストを投入しなければ待機しただけで終わりだ。まあ、何もないならそれでいいだろ。」
「思いっきりフラグ立てましたけどね。」
そうして、時間は過ぎていった。
◇
『出撃の指示が出ました。戦場で暴れて、ネクストを出すよう揺すりをかけるとのことです。』
「陽動か。了解。アキレス、出るぞ。」
【メインシステム、セカンドフェイズ・コンバット。戦闘に突入します。】
暗雲立ち込める大雨の中、ヘリから切り離され、空中で戦闘モードに切り替える。
ブースターで位置を調整し、敵陣のど真ん中に着地した。
「まず、三機!」
ダークスレイヤーを展開して一回転、三機のノーマルが上半身を失った。
いや、パイロットから見れば下半身を失ったのか。
そこから一気にバックブーストしてマルチロックした散布型ミサイルを正面にいた敵部隊に叩き込んで離脱、そのまま乱戦に入る。
フレンドリーファイアを恐れ、散発的になる攻撃をくぐってダークスレイヤーを振り回した。
近くの敵を次々とスクラップにしつつ敵陣を食い破りつつアキレスは思考した。
こうすれば敵もこの損害を無視は出来ないだろうという打算。
ブレードを当てようと飛び掛かってきたオーメルのノーマル。
そいつのコックピットにダークスレイヤーを突き立て、払う。それは遠くまで飛んで行き、岩に背中を激しく打ち付けて爆ぜた。
ダークスレイヤーをマニピュレータで持ち、正面にいる敵の群れに突きつける。
「来るなら来い。前座にはちょうどいい。」
だが、敵は後退を始めた。
この状態的には、明らかに考えられるのは一つ。
「おいおい、お出ましが早すぎるんじゃないか?俺が来てから決断までが早いなおい。」
適度な運動で少し興奮し、口調が軽くなっていた。
だが、状況はかなり悪い。
ネクストは基本決戦兵器に分類できるほど強力で希少なので、そうホイホイ使えるものではない。投入するタイミングと場所を間違えれば、不在という隙に敵のネクストに重要拠点が叩き潰される。
敵対ネクストがない他の世界とやらの国家解体戦争ならともかく、今の国連にはそれなりにネクストがあるのだ。
この情勢下、かなり考えて運用しなければならない機動戦略兵器、それを少し暴れたオーダーに対し簡単にぶつけるか?
だが、オペレーターによって送られてきた広域レーダーの画面にある亜音速で接近して来る赤い点が、その戦略兵器の接近を告げていた。
そして
その点は三つだった。
『ネクスト接近!!!数は三、北、中央、南に散開します!!!』
「直近の機体は!」
『北側、到達まであと5分!』
『ウソでしょ!』
『後のは中央、南の順に4分、1分。』
『クソッ!!!この戦線を押し潰しに来たか。』
『考察は後だヤン。ジョジュア・O・ブライエン、ホワイトグリント、中央のネクストを排除する。アキレス、間に合わんかもしれん。持ちこたえてくれ。』
『こちらヤン、ブラインドボルド。南を叩く。気張ってくれ、アキレス!』
『私も!』
「お前は予備戦力だ、ジョジュアに任せろ。」
『何言ってるの!あなたはネクストじゃないのよ』
「相手が4、5機がかりだったらどうする!俺たちを信じろ。」
『ッつ!…ジョジュアさん、ヤンさん、アキレスを頼みます!』
この報告は後方の戦闘司令部、そこを訪れていたGAの社長まで伝わっていた
「どうなっている!この戦線に派遣されたネクストは2機だって聞いていたが、ふたを開けてみろ!3機ではないか!」
宇佐見菫子は部下を怒鳴りつける。
敵の、それもネクストの保有数を間違えるという致命的な間違いを犯したのだ。
パワーバランスの均衡がとれないのでは戦いにならない。
予備戦力の紫蘭とアキレスがいなければ今頃は帰り支度で大忙しだっただろう。
「申し訳ありません!エンブレム、およびアセンブルの同一性から所持ネクスト数を誤認しました!」
「編成はどうなっている。」
見事に罠に嵌ったのは仕方ない。今すべきは現状の打破だ。
彼女はそう思考を切り替える。
部下が端末を操作し、菫子の目の前にホログラムディスプレイを表示する。
「同一構成のアリーヤタイプ2が両翼から、アリシアタイプ1が中央です。」
その報告を聞きつつ、彼女は部下の集めていたデータに目を通す。
出撃頻度は同一と記載されているが、それをアリーヤタイプが二分の一と脳内で修正する。
それぞれ戦闘記録を見たジョジュアの話では、アリーヤタイプの方が動きが悪かったそうだ。
ローテーションを考慮すると、このネクスト3機は入れ代わり立ち代わりして負担を分け戦闘頻度を増やした。
そして、アリーヤタイプがそのローテーションを二分の一にしたと仮定し、逆関節が二脚よりも高い適性を要求すること、そしてジョジュアの話と合わせると、アリーヤタイプのリンクス二人は恐らくAMS適正低い。
「だとしてもこの戦闘頻度は異常だ。…レイレナード、いやこのやり口はオーメルか。酷なことをする。」
五感を保ててはいないだろうな、と独り言ちる。
アリーヤとアリシアなのはレイレナードから同盟関係の証として研究用機体の貸与なりがあったのだろう。もしこれでリンクス酷使の事実が発覚すれば、最初に機体からレイレナードが疑われる。機体を貸し出していた事実を表に出すころにはオーメル側で資料は処分されてるという算段だろう。
話を戻すが、アリーヤタイプの二人に比べ二倍の戦闘頻度だったと思われるリンクスはAMS適正が高いのだろう。戦果という名の被害は、時間で割ってもこちらのほうが高い。
まだこいつが一人だと決まったわけではないが、この戦線に4機も置いている余裕はあちらにもないはずだ。
「通常兵器とノーマル、ハイエンドを下げろ。部隊への被害を削れ!特に中央だ!」
「了解。」
◇
「いい腕だ、だが青いな。」
「クソッ!避けるな!」
至近距離に迫ったホワイトグリントにマシンガンをばらまくが、命中することはなく彼はマシンガンの有効射程から離れていく。
ジョジュアはアリシアタイプ相手に善戦していた。
といっても、お互い決定打は出ていない。
だが、アリシアの強固なはずのプライマルアーマーは常に半分を超えて回復することはなく、抵抗力の減ったプライマルアーマーを弾丸が貫通してAPがじりじりと削られている。
対してジョジュアは攻撃を圧倒的な機動性で避け続け、主導権を渡さない。
戦い方を考えると装甲と機動力の差が一時的に出ているだけでありジョジュアが一概に有利とは言えないのだが、アリシアのリンクスは焦り攻撃が当てられない。
「すばしっこいな!煩わしい!」
「遅い!」
そういっているうちに、ジョジュアがブレードで迫る。
それをかろうじてアリシアは右手の短いブレードで受け止めた。
ネクストになっても相も変わらす装備されている磁器反発器が干渉しあい、薄暗い風景を荒れ狂うスパークが明るく染め上げる。
「舐めるな!ホワイトグリントォ!」
スパーク越しに複眼が目を細めるように輝く。
ブレードを振り払うと、逆関節の跳躍力を使い、QBを併用してそのまま斬りかかる。
それを悠々と右にQBすることでジョジュアはその斬撃を躱した。
その動きに、アリシアのリンクスは疑問を持つ。
(やっぱり機体の性能以上に速い気がずる。どんなからくりだ?)
あいつが機体に細工したのか、それとも自分が機体の性能を引き出せてないのか。
彼は一瞬にして逡巡する。
しかし、その一瞬のうちに50メートル先にいたホワイトグリントが視界から消えた。
リンクスになって上がった動体視力がQBの光の尾を捉え、それを追って右を向く。さらにQBを吹かし距離を取ったホワイトグリントからライフルが放たれ、それがアリシアを装甲をPA越しに削り始めた。
(もう一回QBを見れたら分かるか?)
彼の動きを見たくなり、肩にあったフラッシュロケットを直接ホワイトグリントに撃ち込んだ。さすがの彼もカメラにダメージは受けたくないのか、左にQBして大きめに回避をした。そのQBを凝視していたアリシアのリンクスはその仕組みを見ることができた。
「一瞬のうちに二回噴射しているのか!できるのか、俺に。」
両者の視界が真っ白に染まる。
QBで乱数機動をしてホワイトグリントがいたところから距離を取り、彼は思考した。
そんなものは仕様書にもシミュレーションにもなかった。あいつ限定の機能ということも疑ったが、そんな奴に負けること考えるとやっていられない。
視界が回復する。
奴はかなり遠くいて、肩のミサイルをこちらに向けて開け放っていた。
アリシアはOBを起動して駆け出す。淡い光を吐き出した瞬間、彼は音の壁に近づく速度でミサイルの束に突っ込んだ。
もし、あのQBがこの機体でも出来るのなら、それができないと俺は勝てそうにない。
なら、やれるようになればいい。
機体の各所に神経を通すようなイメージをする。本来ならば人体に存在しないはずのブースターなども自らの体に初めからあったような錯覚に陥る。だが、すでに何回もやってきたことなので今更どうとは思わない。そして、今まで以上に自分の体にないはずの部分を自分として受け入れた。
その時、彼の頭の中に今まで以上の情報が入ったせいで彼は吐き気に襲われ、OBをしたまま体勢を崩しそうになる。
だが彼は
(肩の力をぎりぎりまで入れて、破裂する寸前にいつも通りにQBをするイメージ。)
彼が正面を向き直るころにはミサイルが正面に迫り、今にも彼に突き刺さり食い破ろうとしていた。
そして、ミサイルの近接信管が作動したその瞬間。彼はいつも以上の速度で左に吹っ飛ぶ。
そのまま視界に捉えたホワイトグリントに対して左肩のレーザーキャノンと右手のマシンガンを同時に撃ちはなった。
「…!!その動き…だが、負けるわけにはいかんな。」
それをホワイトグリントはぎりぎりでQBによって避ける。
二人の戦いはヒートアップしていった。
◇
さてと、久しぶりの実戦でネクストに対して時間稼ぎしなきゃいけなくなったわけだが、追加された例のシステムはまともに動いてくれるのか。
まずコックピット周りの機能を確認。
何回もテストして確認されてるから誤作動や働かないっていうことはないだろうが、これがお披露目なので心配は残る。
それに、制限時間はネクストが到達するであろうと設定された5分。
もし、到達しなければ素の性能で対応せねばならない。
遅れることが確定なら序盤はシステムを起動させないほうが得策だと思うが、今回は2機が前線に出ている上にバックアップに紫蘭が入ってるから最初っから全開でも問題ないだろう。
そうしていると、視界端で何か光った気がした。
「おでましか、山猫。」
巡行モードのOBで迫ってくる人型の影を睨みつけた。
どんどん大きくなるそれに、機体COMが反応した。
【敵性次世代規格機を確認】
それと同時に目の前の表示が目まぐるしく変化する。
FCSの処理が変化し、本来右手のトリガーで扱う左肩の武装の火器管制が左手武器のトリガーに移行。ジェネレーターの出力が向上し機体にいつもより甲高い駆動音が響き莫大なエネルギーが機体に供給される。
敵ネクストが、眼前に降り立った。
レイレナード社製ネクスト、03-AALIYAHベース。
手にライフルとアサルトライフル、肩はプラズマキャノンのその構成に中距離戦機体と考察する。
だが、前に見たデータから、アリーヤタイプの機体は基本的にミドルレンジでの牽制から一気にショートレンジに仕掛け、高火力武器を至近距離で当てるコンセプトなので油断ならない。
『あなた、レイヴンなのね。あんまり暴れないでよ。』
あまり元気のない英語がスピーカーから流れてきた。相当ひどい扱いを受けているようだが、レイヴン相手に言うことじゃない。
「無茶言うな、こちとら対化け物専用装備なんだ。」
それと同時に機体各所から白煙を噴出した。ジェネレーターのリミットを一段階切ったため発熱量も膨大になったため、機体各所の新型冷却装置が莫大な熱を機外に放出し始めたのだ。
敢えて余剰に白煙をばらまくことによって俺の視界が真っ白になった。
恐らく俺のACも相手からは見えてないだろう。
『返事が来たのは初めて。でもね、負けられないの。』
「戦場に来てる大半のやつは負けられないっての。」
【メインシステム、
彼女はそれ以降何も言わず左肩のプラズマキャノンを起動しこちらをロックする。
既に銃口から光が漏れだし、今のも俺を撃ち抜こうとしている。
【セット、3,2,1、GO】
◇
閃光の塊がアリーヤの肩から吐き出された。
しかし、穿ったのはアキレスがばらまいた白煙だけ。
「あれ?」
咄嗟にサラは周囲を見回す。
「こういう時にはレーダーを確認するほうがいいぞ。」
アリーヤの右に白煙の尾を引いたチェインドが現れた。
その右手に持つリニアライフルが高速の弾丸を撃ちだし、PAを貫通してアリーヤの脇腹に突き刺さった。
「!!…いつの間に!」
アリーヤが両手に持つライフルが連続して火を噴き、アキレスに襲い掛かる。
アキレスはそれを後ろに引きつつ、横に吹っ飛ぶような動きを断続的に繰り返すことで躱した
「その動き、まさかクイックブースト!?」
「いや、ハイブースト。それの下位互換だ。」
サードフェイズ・オーバードはエネルギー出力を上昇させ、あらかじめ手を加えてあったブースターによってなんとかネクストに一矢報いる機動ができるモード。
だが、そのために発生する熱は機内の冷却剤を放出することで棄てている。
だから使えるのは補給なしで累計五分。
その間、ここに引き付ける。
「だが、舐めていると痛い目見るぞ。」
そんなつまらないことするか!
とアキレスは獰猛な笑みで機体を加速させる。
全身にかかるGをコックピット中に膨れ上がった対Gジェルバックが吸収し、チェインドはオーダーらしからぬ速度でアリーヤへと距離を詰めていった。
一直線に突き進むチェインドに自らも正面にQB、両者の距離が迫りアリーヤはプラズマキャノンを真正面に撃ち込む。
「あっぶな!」
「そこっ!」
それをぎりぎりで右にHBすることで躱すが、それを読んでいた彼女は左にQB、アキレスの正面を通り過ぎながら旋回。側面を捉える。ライフルの弾幕をチェインドに浴びせた。
負けじとリニアライフルで撃ち返すが片手と両手での手数は覆せない。
数発の被弾にアキレスは舌打ちする。
「ネクストは伊達じゃないか。相手はステップありきの戦い方に慣れてるなら…」
幾らノーマル相手だったとはいえ場慣れはしているようだ。とアキレスは相手への認識を一段階引き上げた。
その思考ののち、何を考えたかライフル弾幕の中で後ろにHBしつつ散布型ミサイルを放つ。
散布ミサイルはライフルの弾丸によって砕かれ爆散。チェインドとアリーヤの間に生まれる濃密な爆炎が、両者の視界をふさいだ。
距離が離れていなかったので、アリーヤはそこに躊躇なくQBで突っ込みプラズマキャノンのトリガーに指を掛ける。
「ただ目くらまし…きゃぁ!」
だが、爆炎の中で機体は激しい衝撃に襲われ、その直後後方に吹き飛ばされた。
なんとか地面に大きな傷を二つ作りつつ止まったサラ。彼女は爆炎のほうを見つめようとして、その視界いっぱいに映るチェインドに驚愕する。
その直後左手が振るわれ、展開していたプラズマキャノンの前半分が斬り落とされた。
「いったい何が!」
後ろにQBし目一杯距離を取る。
APはごっそりと削れていて、PAに至っては一瞬で1割近くにまで剥がされていた。
その事実を確認したサラは目の前のオーダーを睨みつける。
彼としては【なんていうことはしていなかった。】
ネクストの機動性を使って、そのまま至近での発射を強行してくるだろうと予想したアキレス。彼もまた爆炎に突っ込み、リニアで足を止めたのちにダークスレイヤーで切りつけたのだ。
そして、ダークスレイヤーを振る直前に起動したOBで再度接近しただけの事。
多大なGが彼を襲ったが、碌な対G装備なしにネクストと戦った彼にとっては大したことではない。
その事実を知らないサラだが、とりあえずオーダーだからと気軽に接近してはいけないと気を引き締めていた。
そのまま中距離戦に徹するため、プラズマキャノンを切り離した直後に右QB。ライフルを連射しつつ旋回戦を仕掛ける。
それに乗ってやるといわんばかりにアキレスも左旋回。
だが、リニアライフルを見て躱すサラと当たらないように小ジャンプし続けるしかないアキレスとでは命中率は雲泥の差だった。
チェインドのリニアライフルは当たらず、アリーヤのライフルが着々とチェインドに傷をつけていく。
「なに?所詮はオーダーだったってわけ?」
「…ノーコメント」
余裕ができたサラは通信越しにアキレスを挑発、それに対し悔しそうな声をアキレスは出した。
リニアの発射間隔に慣れてきたサラはいつも通りの、肩の力を抜いた戦い方になっていた。
それは明らかに油断だった。
突如としてリニアライフルの発射リズムが崩れる。
今までの発射はアキレスが敢えて遅いリズムでトリガーをしていたのだが、そこから一気にリニアライフルのトリガーを引きっぱなしにしたのだ。
「チョット、え!?」
それにサラは見事に引っ掛かった。
リニアライフルをサラは避け損ね、アリーヤのPAが剝がれた。それに遅れるように左にQBが発動した結果、必要以上に接近した状態になる。
しかも、敵の背中からは光が漏れている。つまりOBによる接近。
「しまった!」
避けてアサルトライフルのラッシュを考えていたが、安定性能の低いアリーヤはリニアライフルで若干仰け反り照準が合わない。
(格闘戦、嫌だけどやるしかない。)
AMS適正が低い彼女にとって、近距離での蹴りなどの格闘戦は多大な苦痛を伴う諸刃の剣だった。
この機体にはブレードが装備されていないため、接近戦の対処がそれしかないのだ。ブレードも苦痛には変わらないが。
OSでインストールされてるものとは少し違う姿勢で接近に備える。
それだけで軽い吐き気を催したが、この一撃で決めるなら些細な犠牲だ。
それに相手の一撃が決まろうと、こっちのAPには余裕がある。さっきの攻撃は痛かったが、致命傷には至らない。
そうして目と鼻の先にきたチェインドの脇腹に鋭い回し蹴りが突き刺さる。
自らの負担がダメージに変化したことに歓喜するサラ。
だが、それは長く続かない。
吹き飛びつつも、チェインドはアリーヤにロックし続けていた。
崩れた体勢の中、放たれたリニアライフルと散布型ミサイルすべてがアリーヤを喰らいつくす。
「ぅああぁア゛、ぁ!」
機体制御とダメージのフィードバックで頭が割れるような痛みに襲われ、サラはコックピットの中で頭を抱え暴れる。
アキレスはそこに容赦なくダークスレイヤーを一閃。
アリーヤのコアの左胸あたりに大きな刀傷が刻み込まれ、そのフィードバックにサラ再度苛まれる。格闘戦を挑むために機体とのリンクが仇となり、いつも以上の情報が頭に流れ込んだ。
「があああぁぁぁああ!」
「おかしいと思っていたんだ。」
アキレスのその声と同時に返す刃が真一文字に振るわれ、コア正面を切り裂く。
ゆっくりと仰向けに倒れるアリーヤを見下ろし、呟くように口を開いた。
「雑魚掃討をメインとするお前たちがブレードを装備してないことに。」
AMSのことを事前に聞いていた彼は、装備でサラのAMS適正が低いと気づく。彼は中のリンクスを潰すことを考えた。
その結果が、ここにある
アリーヤのAPの残りは1万後半。元が3万と考えると、オーダーから受けたダメージとしては破格の数値だ。それでも残り1分後半の彼には削り切れる数値ではない。しかもそのうちの3割ほどが最後の斬撃によるものと考えると彼の判断はベターだっただろう。
ネクストの持つ潜在的危険性を除けば。
◇
ガンガンと響く頭の痛みに一瞬離しかけた意識をつかみ取る。
それでもまだもうろうとした意識の中、私を見下ろす影が見えた。
(…私、負けたの…?)
APの表示を見ることが叶わない彼女は、ネクストがまだ戦えることに気づかない。
まともに声を出せない。手が動かナい。足ガ言うこトを聞カない。
こノ手はダレも守れなイ。
父さンも、かあさんも、ミきモ、レッかーも
おチこぼレのワタしたチのためにがンバってクれた、おッツ・ダルヴぁも
「い…ァあ…うぁ…いゔぁぁ」
マモれナい?
ホンとウに?何もかモ失ウの?
こんナわタシよリ弱いはズの、こイつのせいデ。
いやだ
いヤだ
嫌だ
「嫌いやいやいやイやいやイヤいやいやいいあいあやややああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」