「遠くから痛い攻撃ばっかり!卑怯者!」
「戦いの基本だな。」
その頃ヤンと美紀との戦いは割とワンサイドゲームだった。
ヤンの遠距離からのレーザーライフルの攻撃を躱し続けるしかない美紀のアリーヤ。
対ネクスト経験が皆無に等しい美紀は思うように距離を詰められず、ロックすらできなかった。
とっくにAPもかなり差が付き美紀はかなり焦ってる。
戦いが全くの安定性を持たず、拍子抜けする弱さだ。
極めつけにはうまく通信機器が扱えなかったためなのかなぜか回線がオープンチャンネルになっており、周囲の兵に失笑をばらまいていた。
逆に言えば機械音痴にも機動兵器が扱えると考えられるので、笑いごとでもないのだが。
ヤンも余裕しゃくしゃくであしらっており、APを削り切った後鹵獲でもするかと呑気な考えが浮かぶほどだった。
その時、その声が響いた。
◇
『嫌いやいやいやイやいやイヤいやいやいいあいあやややああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
その声はオープンチャンネルで戦場に流されていた。
つまり、電波を拾うことができたACなどがその声を受け取ていた。
「なんだ!!この声は!」
離れていたホワイトグリントやアリシアにもそれは届いていた。
「サラ!?何があった!…おい、応えろ!!…クソっ!」
アリシアのリンクス___オッツダルヴァはレーザーキャノンをホワイトグリントに撃ち込むと、背を向けて巡行モードのOBでその場を離脱し始める。
「おい、待て!…こちらホワイトグリント、アリシアタイプが戦闘を放棄し北上、追撃する!アキレス気をつけろ!」
そういって彼も巡行モードのOBでアリシアを追い始めた。
だが、先程の通信に司令部の応答はあったがアキレスからの返信が来ない。
「おい、アキレス。何があった!何か答えてくれ!」
スピーカーからは激しいノイズと衝撃音だけが響き、アキレスからの応答は来なかった。
ジョジュアは知らない。
通信の向こうでアキレスがまた修羅場に差し掛かっていることを。
「なんだ!なにが…」
アキレスは目の前でもがき苦しむように蠢くネクストと少女の絶叫に気圧された。その通信は完全なオープンチャンネル。よって電波の届いた全ての通信機器で彼女の絶叫が吐き出される。つまりオペレーター方面にも届いていた。
「アキレス!逃げろ!」
「ストレイドさん?これはいったい何ですか?」
そしてサラの声をリンクスであるストレイドも聞いていた。
アキレスは焦燥にまみれた助言に従い、彼は蠢くネクストからOBで離れた。
「精神汚染だ。あれになったリンクスはただの獣、加減も枷もない。」
斬り伏せたときにサードフェイズ・オーバードは切ってあったので、起動後一分だけはサードフェイズでの機動ができる。だが、あれがそんなものでどうにかなるものでもないことは彼も肌で感じていた。
「あの状態のネクストは通常よりも性能が高い、というかリンクスの負担を無視してるだけなんだがな。リンクス側があれを受け入れて性能の底上げしていた事例もあるぐらいだ。」
つまり、あのネクストは…
アキレスはそう思い後ろの状況をウインドウで表示する。
ユラリ、と緩慢な動きでアリーヤが立ち上がる姿がそこに映っていた。
その姿は幽霊とか、鬼だとかと表現できる人外じみた、獣じみた佇まい。
そして次の瞬間。カメラアイが赤い光の残像の尾を引いてOBによって一瞬のうちに背後に迫ってきていた。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!」
振り返りつつダークスレイヤーを振るうが、左腕が相手の右腕にあるライフルで殴りつけられ姿勢が崩れた。
そのまま、うつ伏せに地面に激突し地面を大きく削る。寝返りのように仰向けに向き直りリニアライフルを向けた。
だがアリーヤはその銃身を左手でつかみ取る。そして右手でチェインドの頭部を鷲掴みにし、握りこんだ。
ミシミシと頭部をつかむ力が強くなり機体COMが【頭部損傷】と声を吐く。
リニアライフルを手放し、右ひじをアリーヤのコアに叩き込んだ。
それと時を同じくして頭部の一部分がもがれるが、その代償として機体が自由に。
その隙にアリーヤの下から抜け出し、睨みつける。
一拍を置き、アリーヤはひしゃげたリニアライフル持っている左手を振りかぶると猛スピードでチェインドに迫る。
「二段QBとか冗談じゃない!サードフェイズでも無理だっての!」
アキレスの悲鳴が暴走状態のリンクスに届くはずがない。
チェインドがこれといった行動をとる間もなく、アリーヤはチェインドの懐に飛び込む。
そのままチェインドにリニアライフルを叩きつける。
ネクストが出せる限界のスピードと楔の外れた腕力によって生み出された破壊力は、容易くチェインドのコアの装甲を食いちぎった。
「タダで帰すか!」
だが、フルスイングをしたアリーヤの胴体はがら空き。
そこにノーロックの散布型ミサイルを撃ち込んだ。
爆風によって両者は吹き飛ばされ、距離が離れる。
アリーヤは手足を使ってしなやかに着地した。その姿はオオカミのような獣。
そうやって生まれた時間にアキレスは落ちていたダークスレイヤーを右手で拾い上げる。
アキレスの狙いは決まっていた。
(コックピットに刃を叩き込む。APも機体状況も関係なく屠れるから。)
アリーヤのコアはダークスレイヤーとPAの内側から受けたミサイルによって穴だらけになっていた。
今なら、ダークスレイヤーを全力で突き刺せば貫通してくれる。
アキレスは次に相手が襲い掛かってくる、その時にとどめを刺す気だった。
真正面からとびかかってくるだけならいくら速くても当てることができる。
チェインドは姿勢を低くし打突の構えで獣と化したネクストを迎え撃った。
『やめろぉぉぉぉぉぉォぉォぉ!!!!!!』
サラとアキレスの間に黒い影が割り込んだ。
「サラ!もういい止まるんだ」
オッツダルヴァは背中にいるチェインドに構わずサラの目の前に立つ。
無残な姿のサラの機体を見て彼は戦いを止めることを促した。
だが全く速度を落とすことはない。
そしてまるでアリシアすらも敵のようだと言わんばかりに跳ね飛ばした。
「ぐおぉ!サラ、どうしたんだ!」
オッツダルヴァは困惑した。彼女はキレていたとしても敵味方の見境が分からなくなるような人間でなかったはずだと。
サラはアリシアを吹き飛ばしたのち、チェインドに掴みかかる。コアの正面装甲を引きちぎろうとするその姿に、オッツダルヴァは畏怖を覚えた。
必死に抵抗するアキレスだが万力のように押さえつけられ全く離れることができない。
コアに真っ直ぐ伸びてくる右手を見つめることしかできなかった。
その右腕に横合いから弾丸が突き刺さり、弾かれたようにアリーヤはチェインドから離れる。
「すまない、遅くなったな。大丈夫か?」
「機体はだいぶやられたが俺は無事だ。助かった、礼を言う。」
ホワイトグリントによる援護射撃がアキレスを救った。
そのまま、チェインドとアリーヤの間に割り込み、向き合ったままお互いに動かない。
アリシアはというとサラの豹変ぶりに一時的な自失状態になっていたため、今立ち上がったところだ。
そのリンクスであるオッツダルヴァが叫んだ。
「待ってくれ!話をさせてくれ!…っ!」
話を続けようとした彼のネクストのその足元に、散布型ミサイルが炸裂した。
彼の目の前にミサイルを撃ったチェインドが立つ。
チェインドはブレードをアリシアにつきつけるように佇み、パイロットのアキレスが口を開いた。。
「敵の言葉を聞く馬鹿かがいるか。少なくとも今はあいつもお前も敵だ。」
「だからって、いくら何でも…!」
多少傷を負っているとはいえまだ充分に戦闘続行可能なネクストを中破しているオーダーが足止めしているという、傍から見ればかなりおかしい構図なのだがオッツダルヴァはアキレスと問答を続ける。
「ああ、安心しろ。あのネクストは止める。手段は選ばないけどな。」
「お前!ふざけているのか!」
明らかに助けたくて行動しているオッツダルヴァに対し、暗に殺して止めるという明らかに彼の逆鱗に触れる宣言をするアキレス。
オッツダルヴァはその思考自体にも激昂し、アリシアは一歩踏み出した。
その一瞬でチェインドはHBをし、アリシアの喉元に切っ先を突き付ける。
「お前は立場と依頼上敵だ。そして俺は立場を変えるつもりはない。」
狼狽するオッツダルヴァにアキレスは言葉をつづけた。だが、その内容はオッツダルヴァの予想していた殺害予告や拒絶の言葉ではなかった。
「だが、お前には選択肢がある。俺や周りの立ち位置を利用すればお前は望みを達成できる。」
「選択肢だと?なにを言っている。」
「お前が俺に依頼内容と報酬を追加すればいい。あいつを生きたまま止めろってな。」
オッツダルヴァは目を見開く。彼の言葉を信じれば彼はサラを助けるというのだ。
だが、彼は信用できなかった。
「報酬など用意できるか。その時点で無理だろ!」
依頼主とレイヴンの唯一の信頼である報酬が用意できなければ、信頼など皆無だ。
そして彼は現状無一文といっていい。ネクストを売り払えばあるいはではあるが。
「なら、こちらから条件を提示させてもらおう。」
「どうせろくでもないもんだろ。」
「そうかもな。報酬はお前たち自身でどうだ。」
は?とオッツダルヴァの口から小さい声が漏れる。
「こちらは優秀なリンクスが不足している。お前たちのような存在がのどから手が出るほどなんだ。そちらが白旗を上げ停戦するなら、一時的な味方ということであそこで暴走しているネクストを生かしたまま止めることにも意味ができる。」
「いや、俺…達?」
予想外の答えにタジタジのオッツダルヴァは回答を渋る。
時間をかけていると、サラが殺されてしまう。なりふり構っていられないと答えようとして声を詰まらせた。
「家族が…人質なんだ、クソ!こんな時に!」
彼の提案は要するに〔こっち側になれば仲間も助けてやる〕ということ。つまり裏切れと言われているのだ。
裏切れば家族の命はない。
「お前もそういう質か。」
アキレスはしばし唸った後、告げる。
それはかなり身勝手で、呆れかえるものだった。
「ならお前ら自身で助け出せ。機会はこっちで作る、でいいですよねストレイドさん。」
『…ええい!勝手にしろ!こっちの負担考えやがれ!』
「てことだ、あとはお前が依頼をするか。そして俺がそれを達成できるかだ。」
オッツダルヴァはハッとした。こいつは状況を把握したあたりでこうするつもりだったのかもしれないと。
アキレスはストレイドの真似事をしたつもりだった。かなり悪辣な言葉遣いだが、それは状況が状況だからである。そしてそれはオッツダルヴァも理解したようだ。
彼にとってFGWの皆が憧れだった。
自らに無いものを持つかつての例外達の背中を見続けたからこそ、今の彼は例外達が伸ばせなかった手を差し伸べる。
人が持つ可能性の一つ。
「分かった。お前に依頼する。〔俺と協働してあのネクストを止めてくれ。〕」
「いい答えだ。」
二人の口角は吊り上がった。
◇
ぼうっと、幕を張ったような、テレビ越しに何かを見ているような浮遊感と非現実感に捕らわれる。
意識が水の中にあるような感触に包まれ、いろんな光景を映し出す。
エレメンタリースクールの時のお遊戯会は確か悪い妖精役だっけ。確かくじ引きで負けちゃったんだ。
それでも、不貞腐れずやったことは覚えてる。
意識の外ではチェインドを悪魔のように握りつけていた。
ジュニアハイスクールじゃソフトボールやってたなぁ。肩が自慢で私は外野。
外野から私が送ったボールでアウトがとれるのは爽快だった。
奪ったリニアライフルで思い切りチェインドを殴りつける。
押し倒されるような間隔に、犬のラックを思い出した。
私が生まれてすぐに飼い始めた犬。だいぶ年寄りだから今でも元気にしてるかな。
四つ足でネクストを立ち上がらせた。
ああ、目の前で女性のカバンを奪っていったひったくり犯を追っかけて殴ったんだっけか。
その時に指の骨にひび入れちゃって病院行ったな。慣れてないことするものじゃないね。
アキレスに掴みかかり、装甲を引きはがそうとする。
それから私の人生は…
◇
「意気込んで来たはいいものの…」
「さっきからこんな調子なんだ。手を出していいものなのかどうなのか…」
アキレスとジョジュアはそろってアリーヤのほうを向く。
体を震わせ、時に身をよじり、時に宙を仰ぐ。
何かに苦しめられているようなその動きに二人は判断に困った。
「手を出していいものなのかどうか…」
「攻撃してトドメ刺せちゃったら刺せちゃったで今回の場合問題があったので、多分よかったと。」
そうでなきゃアリシアのリンクスをこっち側に引き込めなかった、とアキレスは頭の中で付け加える。
だが、実際これで攻撃して手が付けられなくなるかもしれない。
かといって放置すればAMSによる負荷が重なっていく。
一か八か、彼にかけてみることにした。
「試しに呼びかけてくれ。暴れだしたらこっちで押さえる。」
オッツダルヴァにアキレスは声をかける。
親しくしていた仲なら何かあるかもしれない。
「…それで何かあっても責任取れませんよ。」
そう言って彼はアリーヤに向き合った。
彼も通じるとは思っていなかったため、ダメもとである。
「サラ、聞こえるなら返事をしてくれ。」
『…ッ…!…ザッ…』
「…!サラ!聞こえたのか!」
だが、ノイズだけの音声だが向こうからも回線を繋げてきた。
そのことに歓喜し、オッツダルヴァは前かがみになり通信を続ける。
「今回はここまでで大丈夫だ。お前は俺が運んでいくから、お前は休んでてくれ。」
『オッツ、ダルヴァ?』
「ああ、俺だ。オッツダルヴァだ。もういいんだ。」
アリーヤは抱えていた頭をゆっくりと持ち上げた。
その視界の先にオッツダルヴァのアリシアを捉える。彼女は彼の言葉を噛み締めているかのようにも見えた。
『さっきの、奴は?』
「俺が来たら逃げていったよ。だから帰ろう。」
『どこに行くの…オッツダルヴァ…』
アリーヤの右手がアリシアに伸びる。だが、その右手は何処かアリシアではなく見えない何かに向けられたようにも思えた。
手はアリシアに届くことなく握りこまれる。
『戦わなきゃ。みんなのためにも…』
その瞬間、二段クイックブーストでオッツダルヴァの真横を素通りしていった。
その先にいたのはアキレスのチェインド。
「たまたま会話が成立してただけかよ!」
アリーヤの右の拳によって放たれた突きを身をずらして回避する。
【サードフェイズ、オーバード。リミット1分】
「オッツダルヴァとやら!悪いが力ずくになる。無傷で助け出せる保証がない!」
「クソッ。最善を尽くしてくれるんだな!」
そのまま放たれた右足の回し蹴りをチェインドの左手で受け止めつつ答えた。
「ああ、依頼なら尽くしてやるさ。インファイトになる。ホワイトグリント、援護射撃は大丈夫。おそらくこいつは俺目当てだ。」
「分かった、お前がやられた時のフォローは任せろ。」
そのままダークスレイヤーをコアの左側めがけて突き立てようとするが、アリーヤが右にQBし黒い刀は宙を突いた。
「縁起でもないことを!」
ドリフトターンによってアキレスを捉え続けるアリーヤは再度QBで接近してくる。
ダークスレイヤーを正眼に構えたアキレスに真正面から突っ込んでいくアリーヤ。袈裟斬りに振られる刀に対し身を沈めて回避。そのまま繰り出されたアッパーカットがチェインドのコアを吹き飛ばした。
だが同時にアリーヤの右マニピュレーターが歪に歪み火花が散る。
吹き飛ばされたチェインドは背を大地に打ち付けた。だが、このままでは追撃されると思い機体を地面に擦り付けながらもブーストで後退する。
距離を取ったことを確認し、機体を起こす。
機体を自分で壊しているあたり、時間をかけると負荷でサラとかいうリンクスは死にかねない。
アキレスは自分の残り時間も考え、次の交錯で決めると決意した。
二段QBによって生まれる異常なまでの速度でアリーヤはアキレスに襲いかかる。
瞬きする間に目と鼻の先にまで詰めたアリーヤにアキレスは刀の切っ先を向けた。
狙いはコアの右側、中央からコックピットを避ける形で背中に抜けていくコース。
アリーヤはアキレスが反応できない速度で迫ったのだが、そのせいで自分も行動が制限されてしまい先読みしていたアキレスの攻撃を避けられない体勢だった。
だからだろうか。
アキレスのダークスレイヤーの一撃を右腕で受け止めたのは。
右腕を貫通した刃は上に逸れコア上面に切り傷を作っていくだけに終わった。
「ちぃい!」
『ま、だぁ!』
ノイズ交じりの声で放たれた左の拳が刀身を殴りたたき折る。ばらばらと散る破片が霧散していった。
右手と引き換えに相手の武器を奪った、そう思い込んだサラは壊れかけた右腕でラリアットを仕掛け、チェインドの散布型ミサイルを捥ぎ取っていく。
『これで!』
武器がなくなった機体に渾身の左ストレートを繰り出しチェインドの頭部を殴り飛ばした。首関節の耐久限界を超えた負荷によって頭部が関節部から千切れて宙を舞う。
このまま一方的にやられるとサラは考えたに違いない。反撃手段のほとんどない機体相手故に隙の多い渾身ストレートを放っているのだから。
「だまして悪いが、まだ壊れてないんだなぁ!」
黒い霧が右腕の刀に集まる。
薄暗い空間から闇を取り込んだように生み出された刃がアリーヤのコアめがけて突き出された。
それは右胸に突き刺さる。
筈だった。
『ッ…あぁぁぁぁ!!!』
「おい!!馬鹿!」
直前にアリーヤがそれから見て右にQBしなければ。
戦闘機の先端のように張り出した中央のユニット、その付け根のすぐ右に刃が刺さった。
そしてアキレスを引き摺るようにQBし、お互いが地面を転がった。
『練!!応答して!練!』
「っててて…紫蘭か。こっちは大丈夫だ。APはもう300だけれどな。」
『こちらにとり。もう少し機体は大事に扱ってくれ。ネクスト相手だからと言い訳するには無謀が過ぎるよ。」
「ネクスト…。あいつはどうなった。」
機体を立ち上がらせる。その際右腕のダークスレイヤーが折れていたことに気づいた。
周囲を見回すと、すぐ横に黒い影が横たわっていた。
機体を近づけその姿を確認する。
「アキレス。サラはどうなった!おい!」
オッツダルヴァのアリシアが歩いて近寄ってくる。
逆関節の機体を器用に操り駆け足する姿は、彼のAMS適性の高さを証明している。
だがアキレス___練にはその姿は見えてない。足下を凝視したままだ。
「おい、何か言えよ。」
その言葉を聞いたのか、アキレスは機体をアリシアのほうに向き直した。
練は口を開いた。その声は自嘲じみた、どこか物悲しい気もする。紫蘭はそう思った。
「オッツダルヴァ、お前は俺を撃つ権利がある。」
「は?」
『ちょっと待って!何を言ってるの、練!』
「ミッション失敗。俺は恐らくアリーヤのパイロットを殺した。こちら側に来る必要もない。敵として俺を殺しても何も問題は起きやしないさ。」
その声を聴いたオッツダルヴァは震える手で機体を操作し、目の前に転がっていたアリーヤを見る。
折れた黒い刃がコアを右から中央にかけてを移動し、そこが薄暗い空間になっている。
中央、つまりコックピットまで刃が達していることを示す。
右腕は脱落し、そこから刃先が覗いていた。
その様子をまじまじと見つめたオッツダルヴァは震える声でアキレスに話しかける。
「お前…言ったよな…。最善を尽くすって、よ。」
「ああ、俺が弱かった。これが最善だった。だから言っただろう、お前は俺を撃つ権利がある。」
「…お前!」
そういってアサルトライフルをチェインドのコア、コックピットにつきつける。
だが、その銃身はカタカタと震え、彼の感情を反映しているようだった。いや、実際反映しているのだろう。
「言い訳も、逃げもしない。俺は失敗した。…いや、言い訳はしていたな。俺が弱かったと。」
「そういって許してもらおうって魂胆か?それで気が済むわけが、ないだろ。」
オッツダルヴァは静かに、だが怒りをぶつけるようにアキレスに言葉を発した。
それを見てアキレスは聞く耳を持たないのを分かっていたが、言わずにいられなかった。
「遺言代わりの忠告だと思って聞いておけ。」
オッツダルヴァのアリシアは銃を向けたまま黙っていたが、そのままアキレスは続けた。
「お前が感じてるそれは、今までお前たちがばら撒いていたものだって理解しているか?」
「言うに事欠いてそんな説教じみたことを言うのか。いいご身分だな。知ってはいたさ、共感しないように目を背けていたがな。ようやくそいつらの気持ちが分かったさ。」
皮肉交じりの回答に、アキレスは安堵する。
まだ、徴兵された一般人のような価値観。これなら日常への回帰もある程度できるだろう。
「そうか。なら言うことはない。」
雨の音の中、それを切り裂くように銃声が響いた。
ヤンのネクストの事ですがアルドラが国連陣営、レオーネ・メリエス(のちのインテリオル)がパックス陣営なのでコアは強奪品です。
パイロットとして腕が立つので鹵獲品で解析が終わったものの中で性能がいいものは彼のもとに送られてきます。