アリシアの手からアサルトライフルが弾かれ、激しい音を立て地面に転がった。
その視線の先には右手のライフルを向けたホワイトグリントがいる。
発砲音はジョジュアのライフルからだ。
「…ジョジュア、これは俺なりのケリのつけ方なんだ。邪魔はしないでもらいたい。」
苛立ちをを隠せない声で言い放つ。
だが、ジョジュアはそれを聞かなかったといわんばかりの口調で返した。
「二人とも早とちりするな。そのネクスト、よく調べたのか?俺のセンサーには生体反応があるが。」
二人が、は?と声を漏らすと同時にヘリのローター音が響いた。
「…この頭部は積んでないんだ…そうか、生きていたか。」
アキレスは安堵し、声を漏らす。オッツダルヴァは腰が抜けたかのようにアリシアに尻餅をつかせていた。
二人はヘリに乗ってきた衛生兵の邪魔にならないようにアリーヤから離れる。
「で、依頼は達成したわけだ、オッツダルヴァ。君は味方に銃を向けただけだ。それでいいか。」
ジョジュアがアリシアに声をかける。
その声を聴いてその時までへたり込んで動かなかったアリシアの肩がびくりと跳ねた。
そのままぎこちない動作でアリシアを立ち上がらせるとジョジュアのほうを向き、そしてゆっくりと歩み寄る。
「どこに、行けばいいですか。サラの付き添いがしたいです。」
「いったんこちらの基地で機体を洗浄してからだ。マップに位置を送る。後はひとりで行けるな。」
「はい。」
そういうとOBで基地の方角に飛び去って行った。
雨は少しづつ弱くなり、雲の色も薄くなってきた。この分だとそんなせず止むだろう。
そんな思考をアキレスがするなか、紫蘭とストレイドを乗せたヘリが降りてきた。俺のACを運搬するヘリも来ている。
紫蘭もストレイドも何も話さない。
アキレスも何も言わずヘリに機体を固定した。
機体が浮き上がり、どんどん地面にあるものが小さくなっていく。ゆっくりと基地に向け進路を取り始めたころ、ようやく紫蘭が口を開いた。
「練、どうしてなの。」
「…何がだ?」
紫蘭が怒りのにじむ声で尋ね、それを何故?といわんばかりにアキレスは聞き返す。
「あんな関係ない奴のために死ぬことないよ。あいつらが止められなかった、運がなかった。それでよかったじゃない。」
普通のレイヴンだったら何も言わずその場を去るだろう。だが彼は自らに銃を向けさせた。
憎き敵として。
それを紫蘭は理解出来なかった。
「どうしてか。どうしてだろうな。ああしなきゃいけないと思った。」
「死ななきゃいけないなんてことあるわけないじゃん!!簡単に命を投げ捨てないでよ…レイヴンなんでしょ。…」
声がしぼんでいく。かなり心配をかけたようだ。
「…すまなかった。だが、あのままあいつを放置してもいいことは無い。」
「どうしてなの?」
「復讐っていうのは判断力と価値観を壊す。意味の無い戦いを続けられて被害が増えるより、ここで終わらせた方が全体の被害は減る。理屈はな。」
感情とは別問題だ。俺はどうしてか感情的にもこうするべきだと思ったんだ。
「ただ、単純に人であって欲しかったのかもしれない。復讐心すらないロボットみたいな人間のためにあそこまでやったとは思いたくない。」
通信越しに聞こえるのは紫蘭のため息。
「仲間を救いたいと思う気持ちで十分だったんじゃない?さっき言ったけど命を放り投げないで。じゃないと私が復讐鬼になるよ。」
それを聞いて俺は額に手を当ててコックピットの天井のモニターから空を仰ぐ。
一度自らが起点になれば復讐の連鎖は止まらない。たとえそれをこの身に受けても俺以外の誰かにそれは繋がっていく。
俺の性を考えるともっと増えるであろうそれには防ぎ方がない。
なら、来るものをすべて焼くしかないだろうな。
願わくは俺以外に飛び火しないことを祈るしかない。
定番の悩みに嵌り、結論は【来るなら殺す】それだけだ。別に何とも思わない。ただ自分が何者なのか見失いかける俺がいた。
◇
廊下に夕日が差す。そこをオッツダルヴァは駆け足で進んでいた。
向かっていたのはサラの病室。
既にあの戦闘から二日、サラが意識を回復させたと聞いてすっ飛んできた。
お目当ての部屋にたどり着いて、戸をノックする。
どうぞ、と扉の向こうから返事が来た。どうやら声を出せるぐらいには元気らしい。
ゆっくりと戸を開ければその窓際のベットに彼女は身を預けていた。
「サラ…良かった。あの時はどうなるかと思ったからな。」
自然と頬が緩むのが彼にも分かった。
「その声はオッツ?来てくれたのね。」
そうやって微笑む彼女。
だが彼女の目は固く閉じたままだ。それに動きもぎこちなく、右腕はだらりと垂れ下がっている。
事前に医者に状況を聞いていたがいざ見ると心がきつく縛られる。
五感:味覚 嗅覚 視覚を喪失、回復の見込みは不明
右腕不随、回復するかは不明。
AMS負荷で脳が多大なダメージを受けてしまい、彼女の多くを奪って行った。AMSから離れた生活をすれば治る場合がある、とは言われたがケースバイケースのためあまり期待はするなとのことだ。
「ああ、俺であってる。今日はあまり時間はないけど、少し話していこうか。」
声で認識するしかない彼女に、俺はしっかりと肯定する。そうしないと、彼女は誰と話しているか分からない不安な状況に置かれてしまうから。
「体の具合はどうだ。苦しいとか、痛いとか。」
「そういうのはないよ。ただ失っただけで、それ以外は何も。」
その声に思わず拳を強く握る。悔しかった、腹立たしかった、何もできずじまいだった自分が。結局その場の流れで馬の骨もわからないレイヴンなんかに任せてしまったことが。
「済まない。力を持っていながら俺は何もできなかった。」
声が震え、そのことにすら怒りを感じて歯を食いしばる。
「オッツ、君のせいじゃないよ。私が怒りに身を任せて無茶しちゃっただけ。」
「だがそんなにしたレイヴンを俺は止めなかった!」
思わず大きな声が出てしまい、すまないと小さな声で返した。
「別にあのレイヴンを許したつもりはないよ。酷いの、蹴りするためにAMSのリンク強めたタイミングでミサイルを撃ち込んだもの。さっき聞いたけどワザとだって。」
「起きてからそんな経ってないよな。そんなこと誰から聞いたんだ?」
「本人。」
思わず立ち上がる。自分より先にあいつが来ていることが信じられなかった。
自分で散々傷つけといて、それでどんな顔して見舞いしに来たんだ。
「ほんと何なんだ、アキレスとかいうあのクソガラス!」
「まぁまぁ落ち着いて。理由があるのよ。」
その声を聴いて、取り合えず座りなおそうと椅子に腰を落とす。
「私が起きるまで、あなたがいない時間帯にずっといたのよ。」
そして椅子に座り損ねた。
「な、なんだって?」
「だから、あなたが夜帰った後にあの人が来てたの。それから伝言あったんだ。」
どうせろくなもんじゃないだろ。
「許しは請わない。好きなだけ恨め。だってさ。」
ほらな。
◇
「さて、最優先はオッツダルヴァの母親の確保だ。」
「見事にヒットね。いま彼女を失えばエーレンベルクは完成しない。手持ちにアサルトセルの対抗策がいくらか用意があるとはいえ、出来れば外の奴らが片をつけるほうが望ましい。」
予想外の方面から悩みの種が飛んできて、ストレイドは痛みに揺れる頭を抑えつつ会議する。
オッツダルヴァの母親はレイレナードにおいてリンクス戦争終結時に使用するエーレンベルクの開発責任者であった。
今回の件で人質に取られているのだが、レイレナードからアクションがない。おそらく【いつでも殺せる状態】にしてあるはずだ。そして、オッツダルヴァの離反によって実行される可能性がある。
「レイレナードに潜入し、彼女の護衛につくのが適切だ。が相手は、侵入はおろか正規手段以外でのアクセスが絶望的な立地である本社エクザウィルだ。」
「正式に入社する以外での方法が無いのよね…いくら戦時中でも戸籍くらいは調べるでしょうし潜入は絶望的。」
unknowの言葉にため息交じりにシャルが付け足す。
「妥協して本人に状況を伝えるってだけでも高難易度ミッションだぞ。」
なにせほ他の世界ではアナトリアのネクストによる強襲で陥落した場所。
逆に言えばネクストで強行突破するしか方法がなかった場所ともいえる。
周囲を海で囲まれ、そこに艦隊を配置。本社へのアクセスは船と空輸のみで陸から繋がる橋はない。
社員は基本住み込みで働き、休暇に自宅へ帰るようなスタイルだ。
オッツダルヴァの母親はそういった社員の一人で、かつては宇宙開発部門の責任者だった。アサルトセルがばら撒かれた際に対策チームを立ち上げエーレンベルク計画を立ち上げたのも彼女らしい。
FGWにとっても、今後を考えればアサルトセルはないほうがいい。地上に閉じこもり、滅ぼされてはたまったものではないからだ。
「正直、オーメルに警戒心を持たせるだけでも大分マシになる。」
「自社の要の計画、その責任者の暗殺を計画しているなんて噂があれば誰だって警戒するわよ。」
皆が唸る中、部屋の扉が唐突に開かれた。
その先には悩みの種がいた。
「俺にいい考えがある。」
オッツダルヴァは真剣なまなざしで会議の面々を見回す。
「コン〇イ司令官?」
「俺は超ロボット生命体ではない。」
◇
「んで、使い心地はどうだった?」
「かなりいいです。つい無茶ぶりしてネクストに食らいついて返り討ちにされるになるくらいには。」
ガレージでにとりとアキレスが今回の結果を話し合っている。
サードフェイズ・オーバードの実装、それに伴う各種変更について意見を聞いていた。
「それほどか、気に入ってくれてか?」
「まあ、そうですね。ただ性能を過信してこのざまですが。見事な赤字です。」
今回の依頼は彼にとって赤字だった。
修理費と弾薬費が自分持ちで別個に出なかったので、報酬を上回ってしまったのだ。
何しろ武器は使い果たし、機体もボロボロになったのだ。請求された金額は高いに違いない。
「アキレス、ちょっといいかい?」
「なんですか?」
心配な声でにとりはアキレスに尋ねる。
「次に最近の任務って確か紫蘭救出だよな。」
「はいそうですが。」
「確かあれ、全額自費で出撃したんだよね。お前、所持金まで赤く表示されてないよな?」
総資産的に赤字にまでなっていたらそれは不味いのだ。
下手したらナニカサレルかもしれない。
「幸い持ち合わせはあったので何とか借金はしてないですよ。痛手ですが…」
そういって彼は俯いた。おそらく彼の人生で見たことのない金額が吹き飛んだに違いない。
金銭感覚がまだ一般人の彼にとってレイヴンになってから見る金額は目が飛び出そうなものだろう。
「そうか…次は黒字になるといいな。」
すっかり小さくなった彼の肩をポンポンと叩くにとり。
その時あまり聞きなれな声がガレージに響いた。
「アキレスはここにいるか?」
その声の主は、先日の件で捕虜という名目で保護されたオッツダルヴァ。
練より若干年上であるが子供であることには変わりない。敵対グループでもある彼がFGWのガレージにいることは色々問題があるが、ある意味個人ガレージになりつつあるここに突っ込む者はいなかった。
「いるぞ。何か用か?」
そう聞くと、オッツダルヴはずんずんとアキレスの目の前まで迫る。
不満で眉間にしわを寄せた顔をまじまじと見つめていたアキレス。
「なん、グフゥッ!!」
そして次の瞬間にはアキレスは殴り飛ばされいた。
リンクス処理を受けていたオッツダルヴの一撃は、本気でなくてもアキレスに深刻なダメージを負わせた。
「っ…俺、変なことしたか?」
「余計なことをした。」
胸倉をつかみ手すりにアキレスを叩きつけ、オッツダルヴァは睨みつける。
「お前は何がしたい。お前は俺達を何だと思っている。」
「お前達だと思っている。オッツダルヴァはオッツダルヴァ、それだけだ。」
アキレスはどこか冷めたような目でオッツダルヴァの瞳を覗き返す。
年上のはずのオッツダルヴァが掴まれている年下のアキレスに下に見下されている、そうにとりは思った。
彼女は敢えて止めに入らない。ここで止めても問題は解決しないから。
「どういうことだ。」
「お前たちが敵対するなら殺す。組するものなら助ける。それだけだ。少なくとも俺は今のお前たちを味方だと思っている。」
オッツダルヴァは声が詰まる。単純で当たり前のことだ。
少しの沈黙ののちに彼は問う。
「たとえお前の大切なものを奪われてもか?」
「…それは分からない。奪ったときに俺はそいつを殺す。味方になる前に俺は始末をつけてしまうだろうな。」
「そうか…」
そういうとオッツダルヴァはアキレスの胸倉を放した。
アキレスはいまだに冷えた目を彼に向けたまま放さない。
「俺は感情の矛先をお前に向けた。だが、違うな。これでは…。」
「サラを傷つけたのは間違いなく俺だ。その感情は間違っていない。」
「彼女は言っていたぞ。お前は敵を倒すことに余念がなかっただけだと、生き残ろうと足掻くことが間違いであるはずがないとな。」
「なるべくしたなったとしても、その不条理さに怒れるお前は正しいよ。オッツダルヴァ。」
ふっ、と軽く微笑むアキレス。
その笑みはどこか自嘲じみた物含んでいた。
「俺がレイヴンにされたのはたった半年前、半年だ。それで俺は理不尽を受け入れるようになった。何にも感じないわけじゃないが受け流すようになったんだ。だからお前のような奴が少し羨ましい。」
目を伏せたアキレスは心の内を吐き出すように呟いた。
「だから、お前の感情の矛先になることに抵抗がなかった。その一撃で、俺も何か取り戻せそうな気がしたんだ。それがお前らを傷つけたことは、申し訳ないな。すまない」
オッツダルヴァはアキレスの言葉に一気に気まずさを増す。目のやり場に困ったように俯き、こぶしを握り締めた。
「そうか、お前も同じだったか。そうだよな、その年では…俺もすまなかった。」
「気にするな。今の俺は好きでやっている。他のレイヴンと変わらないさ。」
オッツダルヴァは思い出したかのように切り出す。
「そうだ。親の救出作戦、俺も出る。さっき思いっきり殴ってしまったが、援護頼めるか?」
「あんまりいい気はしないが…まあ、愛機が壊された後にその相手のレイヴンと協働するとかあるんだ。依頼と報酬によるが俺に来たら受けるよ。」
そういってアキレスはガレージを後にする。
その背中はどこかどこか不格好で不吊りあいだったが、不思議と広く感じた。
エクザウィルの立地って攻めるに易し、帰りずらしだと思います。会社のオフィスなのに。