物語も終盤、あえて謎を残しつつ行きます。
『今回の作戦を再確認するぞ。』
ストレイドさんの声がスピーカーから流れる。
『今回の名義は国連だが、運が良ければ戦闘ナシの護衛任務だ。アリシア改めアンサングとそのリンクスのオッツダルヴァを護送する。』
『レイレナードに対してオーメルを警戒してもらう狙いだ。彼と彼の母親との再会の場、邪魔する奴は野暮ったい奴に違いないがオーメルならそうすると判断する。』
『どうせ同盟関係にある企業の本社が襲撃されたとかいちゃもんをつけるに違いない。各員、警戒を怠るなよ。』
「大分派手な作戦だなオッツダルヴァ。」
ヘリにぶら下げられたACのコックピットで腕を組んで待機しているアキレスはオッツダルヴァに声をかけた。
「これぐらい派手にやればオーメルも動きずらくなるだろう。ところでほかの奴の人質はどうなってる。」
「いま国連特殊部隊が動いてる。俺らカラードは国連でも大分問題になっているらしいからな。レッカー本人は紫蘭が基地に攻撃をかけて基地ごともらっていくらしい。こっちの名義はGA、独断専行ってことにしてる。」
俺らのように人質を取られ企業のいいように扱われている、もしくはいた人間__通称カラードは、国連側からすると把握しきれていないところが多い。
オッツダルヴァ達に関してもFGW側から申し出るまで把握できていなかったようだ。
件数は医療レベルが高いオーメルがトップを走る形であり、ケガや病気を偽って伝え標的を掻っ攫うのが常套手段なのもうなずける。
「これでレイレナードが落ち着いてくれれば戦争が楽になるんだがな。」
「…一ついいか?」
オッツダルヴァは画面越しに問いを投げかける。
「FGWの目的が分からん。GAと組んでいるのは分かるが、わざわざこんな事せずにネクストで本社を消してしまえばいいだろう。いったい何を目論んでいる。」
一瞬、アキレスは考え込んだが分かっていることを一応答えておく。
「俺の聞いた話だと、FGWは自らの存続が大きな目的である利己的な組織。下らない俺らの戦争で滅ぼされたくないから後ろで終末戦争にならないように介入してるんだと。アサルトセルって知っているか?」
「知ってるも何もそれの排除が母さんの研究目標だ。FGW側もあれが邪魔なのか。」
「地球の表面で争い続けるよりも宇宙開発してもらったほうが滅びは遠ざかるってことだろな。FGWも排除を望んでいる。」
それを聞いてオッツダルヴァはヘルメットで覆われた顎に左手を置き、考え込んだ。
「ならなんで、レイレナードとFGWは敵対関係にあるんだろうな。」
「え?」
その声に反応するまでもなく、作戦時間になったオッツダルヴァは無武装のアンサングのOBでエクザウィルへと飛んでいった。
「そちらに母親のいるオッツダルヴァだ。こちらに戦闘の意思はない。繰り返す、こちらに戦闘の意思はない。」
OBを切ってゆっくりとエクザウィルへと向かっている。PAもはじめから展開していないため、コジマ汚染もほとんどない筈だ。
『そちらの停戦の意思は確認した。誘導に従い空母に着艦せよ。』
意外と簡単に停戦を受け入れてくれた。目の前のヘリに従い、ゆっくりと指定された空母に向かう。
既に周囲にはネクスト数機が取り囲んでおり、抵抗でもすれば一瞬で鎮圧されるだろう。
できるだけ静かに、しなやかに、空母を傷つけないように着艦した。
コックピットハッチを開放し外気に触れて、母親との久しぶりの再会が近いことに胸が高鳴った。
◇
そこから2Km離れた山の影からその様子を眺めている影があった。
オーメルのノーマル。その右手に大型のスナイパーライフルが握られ、山の影にバイポットで固定されている。
BFFノーマルから奪った肩のキャノンを改造した高精度のものだ。
スコープ越しにそのパイロットは再会を待ちわびるオッツダルヴァの空母を見る。
「悪いが、死んでくれ。」
彼はそう呟きながら指をトリガーにかけた。
彼にもこんな子供を手にかけるのに躊躇いはある。
だが、射撃命令はすでに出ていた。
自分以外にも何人かいるのだからサボってもいいのではないかと頭をよぎるが、あとで何と言われるかと思うとそれもできなかった。既に自分はスナイパーとしてそれなりの実績を持っている。だからこそここに呼ばれたのだから。
指に力とスナイパーとしてのプライドを込め発砲に備える。
次の瞬間、自らの発砲とは全く違う衝撃に襲わ彼の意識はそこで途切れた。
「命中、次。」
そこからまたさらに西に1㎞。アキレスはFGWによって支給された、大型化したVAC用のスナイパーキャノンを使い、オーメルのスナイパーを撃ち抜いていた。
スコープに、未だ状況を把握できないまま匍匐状態でいるノーマルを捉えた。
距離を確認し、それを入力して着弾点を調整。
発砲、ガァキイィィンと爆発音と金属音の混じった音が山間部に響き渡る。
放たれた弾丸は僅かに山なりの軌道を描き、ノーマルのコックピット付近に着弾した。
『そのまま続けてください。次は一時の方角、一機目と同様山陰に隠れています。こっちは機体が見えないからライフルだけでも撃ち抜いてください。』
「難易度高いですね。」
『だが、敵さんもこっちを見始めた。音に気付いたレイレナードからもネクストも来てる。もう少しの辛抱だ。』
オペレーターとストレイドの会話の最中にもアキレスはスコープに敵を捉え、照準を合わせた。
そして放たれた一射がスナイパーライフルの銃身を横から殴りつけ、ライフルを壊す。
次の相手を探す四脚に換装したチェインド、その右前足の近くに弾丸が着弾した。
『こっち撃ってきやがった。』
『2時の方角のスナイパーです!』
「優先すべきはオッツダルヴァ狙ってる機体だ!早く教えろ!」
『ッ!確認できる機体はあと三機、うち目標を狙っているのは11時の機体!急がないと…!』
「そこかぁ!!!」
碌に調整もなしに放った射撃は、ノーマルの右肩を撃ち抜いた。
直後、発砲。
着弾の衝撃によって逸れたその弾丸は、数秒後空母の横10ḿの海面に着弾し巻き上げられた海水が空母に降りそそいだ。
『アキレス、レイレナードからのネクストが来ました。撤退して下さい。』
「了解。アキレス、撤退する。」
その時、そのネクストだと思われるアリーヤが頭上を飛んで行った。
相手に気づかれなかったのか、そのままオーメルのノーマルの方へ向かっていく。
「あれは…」
『ジュリープス。最強クラスのリンクスだ。早く逃げとけ。勝ち目無いぞ。』
その忠告に従うように、アキレスは戦場を後にした。
たとえオーバードが使用できるチェインドでも、トップクラスのリンクスの相手などできない。
無謀に突っ込んで瞬殺など、される気はなかった。
そのころ、ようやく母親と再会したオッツダルヴァというと。
(守ってくれてのは感謝しよう。だがな、守り切れよ!)
びしょ濡れの締まらない再会になっていた。
◇
だがそれでめでたしめでたし、とそうは問屋が卸さなかった。
『おい!!どういうことだ!』
ストレイドの焦燥感漂う声がスピーカーから吐き出される。
倉庫までたどり着いたアキレスはヘルメットを片手に声をかけた。
「いったいどうしたんです?」
平常心を保ったような声を出して、パニックを広げないように努めようとする。
だが、その努力は脆く崩れた。
『本拠地が何者かに襲われてるって話だ!!このままじゃ保護してる奴らまで被害が出る!』
「ちょっと待ってください!なんでそんな奴が中に入ってるんですか!?あそこってそうそう出入りできませんよね!」
『こっちだってそんな奴らが中にいるのかわからねぇんだ!どうやって場所分かったってんだ!』
間に合うかどうかなど火を見るより明らかだ。
本拠地は日本、現在地であるレイレナード本社エクザウィルはカナダ。
輸送機を使っても数時間はかかる。その間は元からいる戦力で対応するしかない。
『くそっ!ネクスト戦力のいくらかが外出してることを見越してのか?こっちの情報は筒抜けなのかよ!』
「もしかしたら、単純に今回のレイレナード拠点同時攻撃で【乱入者】刺激しちゃったんじゃないですか?」
そうすれば、相手がこちらの本拠地が手薄だということは想像できる。
どちらにしろ、こちらの本拠地を攻めに来ないという前提で行った今回の戦闘が完全に裏目に出た。
相手はこちらに手出しができたのだから。
『とりあえず、急いで日本に帰るぞ!一か八かだ。』
◇
「第三、第四砲塔開け。目標、所属不明AC5機。迎撃展開、ち、り、ぬ小隊は発進急げ。繰り返す…」
FGW本拠地は大騒ぎになっていた。本来侵入などほとんど不可能なこの土地に正体不明機体が忽然と現れたのだから。
幸いといえば、リンクスの一人であるUknownがまだそこにいたということだ。
この土地に侵入する方法の一つは所定の出入り口を使う。だが、そこからは侵入したものは無いという報告がすでに上がっている。
他の方法といえば現実離れした存在になってこの世界に受け入れてもらうくらいだ。
「光学センサーの情報出ます!!」
映し出されるのはいくらかの人型。
OBでまっすぐに山の方向へ進むそれすべてが真っ黒に塗られていた。
「コジマ反応、中央の機体から!!PA展開されていないようですが…」
「unknow、優先撃破対象はその機体だ。確実に撃破し、被害を抑えろ。」
「了解。Uknown、二色蝶、出るぞ。」
赤、白、黒に彩られたホワイトグリントベースのネクストが宙へと舞い踊る。
PA制限のかかったここではOBすら使用できない。まっすぐ向かってくるその機影に目を凝らす。
「ほかの機体は任せて大丈夫か?相手が厄介すぎて正直真ん中の奴に集中したいのが本音なんだが。」
「数で押す。そいつを確実に沈めればあとはこっちでどうにかするからまかせろ。」
中央の機体が急加速し、黒い影を引いて二色蝶へと迫る。
その姿は、かつて練が戦った機体に酷似していた。
「さあ、お手並み拝見と行こうか。BLACK ONE。」
黒いナインボールセラフ・ライザーがブレードを二色蝶へと振りかぶる。
それをバックQBで回避し、両手に持つライフルを連射した。
ブレードの硬直が明けたBLACK ONEは数発の被弾の後、右にQBして弾幕から逃れる。
距離を取ったBLACK ONEだが、二色蝶はそのまま分裂ミサイルで面攻撃。
BLACK ONEミサイルに対してチェーンガンで迎撃、反撃に垂直ミサイルを放ちつつ変形して距離を詰める。
「AAが使えないここでできる、この機体の穴を突くってか!!」
ベースとなっているホワイトグリントは全距離対応型だが、近距離はアサルトアーマーで対応する機体だ。
そしてこの機体でも同じ設計になっている。
だが、ここではアサルトアーマーは使用できない。自然に甚大な爪痕を残し、自分たちの最後の砦を壊すわけにはいかないから。
そのためのチューンやブースターを変えることで距離を取り続けるように変更したのがこの二色蝶である。
その上昇したブースター出力で、左にQBしてミサイルと突進を躱す。
そのままドリフトターンでBLACKONEを視界に捉えライフルを再度撃ち放つ。
速度でその弾丸を振り切ると、パルスガンとチェーンガンを連射して射撃戦に移行した。
正確な射撃を的確な回避で躱し、互いに決定打が出ない。
動いたのは二色蝶、若干の被弾の後バックブーストを連発して距離を離し始める。
〔距離を離し、ミサイル戦に切り替える〕、Uknownの行動をそう解釈したBLACKONEは絶えず距離を維持しようと一気にQBで前進を始めた。
「だよなぁ!!カラクリ人形!」
だが、罠である。
逆に前へ二段QBし、一気に目前に迫ったホワイトグリントはその分裂ミサイルの親機を直接ぶつけた。
8発分のミサイルの炸薬が装甲の薄い胴体で炸裂する。
だが、破壊には至らない。
吹き飛んだBLACKONEはそのまま変形し飛び去る。
そして大きく旋回した後に二色蝶へと突っ込んできた。
「一撃離脱に切り替えるか。」
そして射程距離に入った二色蝶にミサイルを連射する。
それをアサルトライフルで撃ち落として高度と位置を調整。そうして放たれたミサイルはBLACKONEの進行軸上に乗っかった。
意味もなく放たれたミサイルならば速度で振り切るのは容易だった。だが、自分のする先に、しかもこちらにまっすぐに向かってくるミサイルの回避は難しい。
だが、BLACKONEは躊躇なく突進。分裂する直前で近接信管の働いてないミサイルとすれすれで擦れ違う。
そして、パルスキャノンとチェーンガンで二色蝶を撃ち落とさんと迫った。
二色蝶はそこに容赦なく両肩のミサイルを撃ち込みBLACKONEはその衝撃に身動きが止まる。
「…後方注意だ。」
その一瞬の硬直の間に、分裂の後旋回して戻ってきた子機のミサイルがBLACKONEに突き刺さった。
だが、BLACKONEはまだ堕ちない。
爆風の反動を利用してQBし、二色蝶へ再度接近。そのスピードに反応できなかったUknownの懐に入り込む。
「チぃ!!」
瞬時に展開し振られた右手のレーザーブレードは、左手のアサルトライフルを前後に両断。
咄嗟に左にQBした二色蝶を、逃がすかといわんばかりに右にQBして張り付き続けた。
今度は左腕のレーザーブレードが発振し、コアめがけて振られる。その一撃で二色蝶のコアの前面の装甲が消し飛んだ。
「噂通りのバカげた威力だ、が!!」
ライフルをミサイルでできたボディの穴に突っ込みトリガーを引き続ける。
盾として存在する装甲を無視した攻撃で複雑な機構を持つ内部が食い破られた。
そのまま煙を上げ動きを止める。
「セラフタイプ沈黙。他は?」
「あとひと踏ん張りだが…非難が遅れた人間が何人か襲われた。後で被害報告しなければな。その機体状況だ、帰還しろ。」
「了解。」
再度BLACKONEを見やる。
全く動かなくなったそれを見つめったのち、そこから飛び去っていった。
この戦いが引き起こしたものは誰も予想できなかった。
何故なら、その少ない犠牲が…
◇
「おい、どういうことだ。」
練が敬語をかなぐり捨ててUknownに詰め寄った。
その瞳は戦闘している時のそれより遥かに鋭く、そして怒りに染まっている。
畳みかけるようにまくし立てた。
「ああ、想定外だったのは仕方ないさ。そりゃこんなとこに来れるなんて思わない。だけどよぉ。」
「なんで俺たちの人質を優先しなかった。リスクマネジメントとして失敗じゃねぇのか?」
そういって後ろを指さす。
二つの大きな袋の前で紫蘭が跪いていた。
虚ろな表情のまま、涙を瞳から延々と流し続ける彼女は見ているだけで痛ましい。
再会すら果たす暇もなく、彼女の前から両親は失われた。
そして彼自身の両親も行方不明である。
「確かにそう取れるな。ただ、俺達は本心から保護という扱いをしていたつもりだ。そういう問題ではないのは分かっているがな。」
「なら再度聞く。どうして『数少ない被害者』にあの二人が含まれてるんだ。そちらに悪意が無いのは分かるが明らかにおかしいだろ。」
本来保護という名目あるなら出来る限り安全を確保するのが当たり前だ。紫蘭の肉親である上に、そこすらできていなかった事というそれ以前の問題に激しく怒る。
「そのことに関してだが…ちょっとまずい事があってな。まぁそれでもこのことが許されることじゃないんだが。」
声の主は階段を下ってきたストレイド。
アキレスは向き直り、鋭い眼光の先にストレイドを捉える。
「どういうことか、教えてもらおうか。」
それに全く動じず肩を竦めて見せ、ストレイドは口を開いた。
「避難中、運悪く遭遇してしまったらしい。そこまでなら近隣の機体が妨害するし、実際そこから引き剥がそうとうちの連中も動いたらしいんだが…」
練は少し察しがついたのか眉が少し動く。それだけだったが。
「紫蘭の両親を発見した途端、手にあったパルスガンを直近に放ったんだ。奴ら無人機で、優先順位が人間の方が上だったらしい。先に脅威である機動兵器を叩くAI、そう予想して動いたこちら側の動きが完全に裏目に出た。」
要するにソフトキルを想定したAI設定であったがため、隔離気味にされていて避難が遅れた彼らの両親がその犠牲になったのだ。
確かに、FGW側の対策は不十分であっただろう。
侵入を想定してなかったこと。
それを前提にしたため要人の警護が甘かったこと。
護衛任務に失敗していること。
「分かった。もういい。」
だが、そういうとアキレス___練の目に籠っていた力が抜けていく。
「この件はこれで終わりにしましょう、ストレイドさん。Uknownさん。ようやく頭が冷えました。」
「弁解しといて言うのもあれだが、明らかに悪いのはこっちだ。」
急変ぶりにストレイドは少し心配そうに声をかける。
「だとしても、これ以上やっても意味ないですから。」
今更嘆いても仕方ない。そう彼は独り言ちた。
後で書き直すかも。満足いっておりません。