[AP残り10%、危険です]
『あとちょっとだ!逃げきれ!』
『逃がさない。例外は消去する。』
「しつこいんだよ!」
洞窟の中で激しい、だが一方的なチェイスが行われていた・
振り返りマシンガンをばらまくように放つが、淡い光の膜に阻まれ貫通した弾はない。
攻撃に臆せずまっすぐこちらに突き進む機影、その右手にある大きめのライフルから光が漏れだす。
次の瞬間、銃身から紫色のプラズマ塊が吐き出され、俺はそれをぎりぎりで回避した。
そのカウンターとして散布型ミサイルを撒くが、そのすべてがその道半ばで迎撃装置により火を噴いて消える。こいつにミサイルが効かないのは知っていた。
俺が欲したのは、それによって生まれる煙幕。奴がまっすぐにこっちに向かっているなら煙幕でブレード不意打ち。嫌がって避けていったのなら後ろを取る。一歩引いてこっちが突っ切るのを待つようならそのまま逃げる。
レーダーの赤い点はまっすぐこっちに突っ切ってきた。
すぐさまダークスレイヤーを展開しつつ旋回し、擦れ違いざまを狙う。
奴が煙幕を出る直前に斬りかかれるように速度を調節。
そして、その時は来た。
煙の中から青い光が漏れ出る。奴もまた、レーダーブレードを発振しこちらを叩き切ろうとしているのだろう。
だが俺はかまわず、今の機体に残された力をすべて叩きつけるようにダークスレイヤーを振り抜く。
激しいスパークとともに二つの刀がぶつかり合う。
ことはなかった
吹き飛ぶ、いや、消し飛ぶダークスレイヤーの刀身。
まるでダークスレイヤーなどそこに存在しなかったかのように、俺の愛機のコアに美しい蒼い輝きが食い込む。
そのまま奴は容赦なく振り抜き、俺を吹き飛ばした。
◇
数日前___
「そうか、新入りは死んだか。」
捕虜として営倉に入れられたネスタは、事の顛末を知った。
奴は、俺らの仇を取るとトップランカーに挑み、散っていったそうだ。
ネスタは一つ気になることがあり、目の前にいたストレイドに問いかける。
「たしか、アキレスとか言ったか。あいつは何をしている?」
「あいつか?今はお前の相棒さんにぼっこぼこにされた機体を見ているはずだ。呼んでくるか?」
「出来るなら話がしたいんでな。頼む。」
おうよ、と気の抜けた声を発して彼女は去っていく。
そして10分とちょっとで帰ってきた。
「俺と話がしたい、でしたっけ。」
その先にいたのは、新入りと大して変わらない歳であろう少年の姿だった。
ネスタの脳裏に真っ先に出てきたのは人違いという言葉だった。
「アリーナで戦っただけで、お互い顔を見てませんでしたね。ネスタさん。」
「…お前がアキレスなのか。」
「そうですが…」
少し困惑した表情で返される。
ネスタの中に強烈な拒否感が生まれ、それが目の前の少年をアキレスと認めたくないと叫んでいる。
「それにしても、あのフォーメーションすごかったです。抜け出すのに紫蘭の力を借りずにはいられませんでしたから。あ、紫蘭はあのアリーヤのリンクスです。」
この、普通で礼儀正しい少年があの戦闘で戦ったレイヴンなのか。
「君は…」
「なんですか?」
「最後に残っていたハイエンドが君のような歳の人間だったとしたら、どうするのかい?」
その質問で彼があのレイヴンだったかどうかが分かるとは思っていない。
だが、レイヴンかそうでないかは確認できると彼は考えた。
「…依頼内容はあなたたちの排除。生死なんて関係ありませんしそいつが誰であろうと知ったことではありません。」
唐突に突き放すような冷たさにレイヴンではあるような実感を得て、胸の中の拒絶反応が収まりつつあるのを感じた。
「すまん。無粋だったな。お前があまりにレイヴンらしくなくてつい、な。今の反応で確信が持てたさ。」
「まあ、この年でレイヴンやってる人間なんてなかなか見かけませんからね。」
だが、こいつがネクストを実質単騎で行動不能まで陥らせたとは思えないのが実際のところだ。
戦いには慣れているようだが、戦闘時間の面では彼はあまり多くないはずなのだから。
だが、彼が本物のアキレスなら聞きたいことは別にある。
「なあ、それであいつの最期はどうだったんだ?」
「ああ、そういうことだったんですか。」
そういうと、彼は納得し言葉を続ける。
「二人が撃墜された後、彼は一直線に俺のほうに向かってきました。おそらく俺だけでもという考えだったんでしょう。射撃戦の後接近してコックピットをブレードで一突きし決着。ですが、彼の動きは自分と同じくらいの歳なのにかなりいい動きでした少し惜しいです。」
「そうか。」
あいつがどう死んでいったか、それだけが心残りだった。
それが聞けただけでも彼と話した甲斐はあっただろう。
そして、ネスタが告げるのはレイヴンとしてのプライド。
「次は勝つ。覚悟しておけ。」
アキレスは目を見開いた。だがその次の瞬間には口角を僅かに上げ、僅かに歓喜に染まる瞳でこちらを見つめかえす。
「何を言っている。次も俺が勝つ。簡単に仇は取らるわけがない。」
その豹変に今度はネスタが目を剥いた。そして、違和感が完全に消し飛ぶ。
目の前にいるのは間違いなく戦いを生きるレイヴンだったから。
「なら、次も圧倒して見せてくれ。こちらもただ黙っているつもりはないからな。」
レイヴンである二人は、互いに宣戦布告をし別れた。
互いのプライドと感情をぶつけるため。
◇
『ミッションを説明する。』
『今回はFGWの本拠地付近の調査、および不審物発見時はその調査も含める。』
『目的は前回襲撃を受けた原因の解明だ。これが分かれば【乱入者】の居所が分かるはずだ。』
『一応ネクスト組がスタンバってる。やばくなったらすぐさま呼んで逃げとけ。』
『いい返事を待ってる。』
そこで俺は端末の画面を消した。
壁に身を預け、この戦いの後どうするのかもう一度思い描く。
父さんも、母さんも、帰ってくることはないだろう。
ACに襲われ消息不明。結果は見えている。
それでも、【人なみの幸せ】とかいうやつに未練があるらしい。
今思い返すだけで、あのオニキスとかいうACに襲われるまでのあの日常の有難さが身に染みる。
なんで、泣かないかって。
辛くないなんて思っちゃいない。
むしろ、心がねじ切れて折れ曲がって朽ち崩れ落ちそうだった。
けれど、泣くなんていつできる。そうするべき時に思いっきり泣けばいい。
だからこそ、今は前向きに考えていきたい。
金銭で困る要素などない。今までの依頼で得た金だけで遊んで暮らせるほどなのだから。
決めるべきは進路、ただその一点。
…
「やっぱり、すぐには決められないかぁ。」
そういって勢いをつけて壁から離れる。
正直、戦場に身を置いている現状から日常に戻った後の生活が思い描けない。
まあ、猶予はある。
そう思考を締めくくって、依頼の用意のために部屋を出る。
偶然だろうか、通りかかろうとしていた紫蘭と鉢合わせになる。
「練、これからどうする予定?」
「ああ、ミッション受けたからACの調整に。」
「私もガレージに用があるから一緒に行こうか。」
そういって俺の隣にすっと入ってくる。
正直な話、紫蘭が歩いていた方向とガレージのある方向は正反対なのだが、俺はそれを指摘しなかった。
紫蘭は俺といたいからついてきたのであって、わざわざ雰囲気をぶち壊しにするほど朴念仁ではない。
紫蘭は既に多くのものを失っている。
自らの身体、将来の夢、自らの肉親、その傷は計り知れない。彼女にとってはもしかしたらこの時間が、戦いを除いた最後の楽しみなのかもしれないのだから。
それはそれとして、俺は別の点で紫蘭に聞きたいことがあった。
だが、気まずいことを聞くので第一声はそっぽを向いて発される。
「あー…あまり聞かれたくないことかもしれないが、いいか?」
「断られたらどうするの?取り敢えず聞くけど。」
意地悪そうな顔でこちらを覗き込んだあと、進行方向に顔を向けなおす紫蘭。
取り敢えず了承を得たので問いを口にした。
「なんか、親御さんの死から立ち直るのが妙に早かった気がしてな。下に見てるつもりはないが気になって。」
「ああ…それね。逆に気になっちゃうのか。」
彼女の顔に影が差し、地雷を踏んだかもしれないと彼の中に焦燥感が生まれた。
「なんかすまないな。せっかく乗り越えたであろうことを掘り出して。だが、ある日突然壊れてしまうなら…」
「大丈夫だよ、ちゃんと整理ついてるから。それに壊れちゃうような状態で戦場についていったら練の足手纏いだし。」
「本当に大丈夫なんだな。」
それでも、彼の不安が消えることはない。
身近な者の死は、人に大きな傷跡を残す。デリケートな部分に足を踏み入れることを覚悟してはいたが、いざ実際となると後悔してしまう。
「うん、慰めて…っていう言い方は語弊があるかな。取り敢えず気にかけてくれた人がいるの。」
「そうなのか。」
「うん。レイナって人なんだけど、その人も昔父親を殺されちゃったらしくてさ。親身に接してくれたんだ。」
俺の胸に続いて訪れるのは、悔しさ。
そっとしておくべきといって寄り添ってやれなかった。
「そうか。よかった。」
俺はそうとしか言えなかった。
薄情だった自分が許せなくて、話題を変えた。
「さっき、この戦争が終わったらどうしようかってのを考えてたんだ。なんか紫蘭は考えてるか?」
「うーん…まあ、学校に通うっていう以前の生活に戻るのは変わらないかな。問題は生活面だけど。」
「まあ、そこは頑張っていくしかないな。少し早い一人立ちだと思うしかない。」
どうあがいたって「以前」がそっくりそのまま戻るのはあり得ない。俺らはこれから「取り戻す」のではなく「手に入れる」事しかできないのだから。
「幸い金銭面はどうにかなりそうなんだ。落ち着いたらゆっくり考えよう。」
そういっている間に、ガレージにたどり着いた。
扉を開けたのち、用がない筈のネクストに向かっていく紫蘭。
「あとでな。」
その背中に声をかけた。
彼女は振り返り「うん!」と大きくうなずいて去っていった。
その様子に俺は胸のつっかえがとれたような感覚を憶えながら、愛機へと向かう。
◇
『ミッション開始。指定エリアを探索してください。』
ヘリから解き放たれ、地へと足をつける。
今回は探索任務だが、一切気が抜けない。
もしかしたら、このような調査任務をレイヴンに行わせるのは不適当というやつがいるかもしれない。
だが、調査はデータを持ち帰らねば意味がないのだ。
次世代規格が出る可能性がある戦場にMTだけで調査任務したら、[全滅して何の収穫も得られませんでした]などただの損失でしかない。
なら、相応の戦力を持つものが調査するのが道理というものだ。
「…いまだ怪しいオブジェクトは見つけられない。さらに西部を確認する。」
右も左も前も後ろも、葉を落とし寂しくなった木ばかりが視界を埋める。
その中に人工物は紛れていない。
そのまま十分ほどさまよったが怪しい物体は出てこなかった。
『…絞り込んだとの話でしたが、予想が外れてしまったのでしょうか?』
「【乱入者】探しは振出か…もうちょっと見たら…」
その時アラートが鳴り響く。
反射的に機体を左に飛びのかせた。元居たところにアサルトライフルらしき弾丸が地面を穿つ。
それと同時に4つの影が上から降り立った。
「烏一羽を倒すだけ。だいぶ楽なミッションね。」
「気を抜くな。ネクストを中破させた例の化け物なんだからな。」
「油断大敵ってやつっすね。」
「じゃ、いこうか!」
左から発言し、その順にα、β、γ、δと相手の機体コードがオートで割り振られていく。
二番目の声以外は大人の声ではない気がしたが、気にしている場合では無い。
レイレナード製ハイエンド4機が目の前にいるのだ。
オーダーと同等の性能を持つ機体が4機、苦戦は免れない。
その四機が正面から飛び込んでくる。そのうち中央の二機がアサルトライフルを撃ち放ち、両端の二機はミサイルという濃密な弾幕が出合い頭に放たれた。
その弾幕に対し、俺は左右に機体を揺らして弾丸をすり抜けつつミサイルを迎撃。コア正面につけられた迎撃装置が大量のか細いレーザーとマシンガンの弾丸がミサイルを撃ち落としていく。
「今のを凌いだ!?」
δに割り振られたパイロットが動揺の声を漏らす。
他にもβを除いた機体挙動に隙ができていた。
それを見て、俺は中央右に構えていたγにアプローチしミサイル、その後αにマシンガンを撃ちつつαから距離を取るように動く。
「背中、もらった♪」
そして敢えて背中をδに譲っていた。
だが、そこまでは織り込み済み。先程の動きから決して戦い慣れてはいないことを掴んでいたからこそ。
俺は振り返りつつダークスレイヤーを振り抜いた。
激しいスパークの後、δをよろけさせる。
「ウソ!?」
「単純で分かりやすかったぞ。」
そのままδを蹴り飛ばし、背中から袈裟に斬りかかってきたβと鍔競り合いに持ち込んだ。
「やっぱりお前はれっきとしたパイロットか。」
「そういうお前はレイヴンか。その年で!」
隊長機はやはり経験のあるものでなければ務まらない。
そしてこいつが一番厄介だ。
βがブレードを振り抜き、それを受け流すように俺はバックした。
その直後、フレンドリーファイアの心配がなくなった他の二機が、左右の
の視界の端からアサルトライフルを撃ち始めた。
それを俺はβを跳び越す形で飛んで避けると、そのままαに唐竹割を見舞った。
その一閃でαの左手が宙を舞う。
そのまま俺はαの背中に回り、右腕を抱え込みダークスレイヤーをナイフサイズまで格納してコアに突き付けた。
「た、隊長!!」
通信越しに伝わるのは下手をすれば俺より年下の女子の声。
それは既に震えており、初陣か今まで勝ち戦だったことを想像させる。
「さて、隊長殿。こっちはただの探索任務だったんだ。なぜ襲ってきたか答えてもらおうか。」
所謂人質というやつだ。
レイレナードは【乱入者】とつながりがあるのか。これで分かるはず。
「…ただ、任務でお前の討伐が命じられたにすぎん。これといった理由を聞かされてはいない。」
レイレナードがここにいる俺に直接討伐しに来るとは考えづらい。
そうか、もう命令系統まで掌握しているわけか。
「なるほど。つまり、何があろうと俺を殺そうとするわけか。」
「ヒィッ!!」
冷水をかけられたような悲鳴が接触回線越しに伝わってくる。
他の3機も身構えた。
「安心しろ。さすがにこいつを惨殺するほど人間をやめてるつもりはない。」
俺はそいつに残された左腕を切り裂き、足を裂く。
ごとんと大きな音を立てて胴体だけになったハイエンドが落ちた。
そうしてそいつの戦闘力を奪うと、俺は残りの三機に歩み寄る。
「だが、戦いの中で手を抜けるほど俺は強くない。覚悟しろ。」
言い終えると同時に、相手の三機が散布型ミサイルを俺めがけて放った。
そのミサイルに対し右に機体を動かした後、前進してそれらの旋回半径の内側に入り込む。
そのまま散布型ミサイルをマルチロック、3機に撃ち放ちつつアプローチした。
「このっ!!」
一人あたりの数が減ったため、迎撃されて命中したものはなかった。
だが、ターゲットが外れている間に俺はγの懐まで入り込み、マシンガンのトリガーを引き絞る。
至近距離で放たれる大量の鉛玉が軽量化した装甲を削り取り、剥いだ。
「ってーな!!」
煩わしいハエを払うかのように乱雑に振るわれたブレード。それを姿勢を沈み込ませてやり過ごし、一歩引いてマシンガンを再度撃とうとする。
がその直前レーダーに背中から迫る機影が映り咄嗟に機体を左に滑らせる。案の定βの袈裟斬りが直前まで俺がいた空間を薙いだ。
「大丈夫か!」
隊長として部下の心配をするのは結構だが。
「何とか…隊長、チェックナイン!」
「余裕だな!おい」
部下を見た隙にダークスレイヤーをβに振り下ろす。βはそれを間一髪で右手に持ったブレードを掲げることで抑えた。
磁力反発器が干渉し、紫電が冬の日差しに照らされた枯れ木の森をより一層明るく照らす。
「人の良心に付け込む下劣な攻撃だな!カラスがッ!」
「死にたくないんでね、煽っても何も出ないぞ。」
クッっと小さの声とともに、振りほどかれるようにブレードが弾かれ、袈裟、一文字と放たれる斬撃を、俺はそれぞれ受け流すように防いだ。
そのまま放たれる唐竹割を鍔迫り合いに持ち込む。
右肩の武装を切り替え、散布型ミサイルをロックオンする前に打ち込んだ。
もちろんβは避けることもできずに被弾する。
何回か地面を転がり、木をなぎ倒す。
立ち上がろうとするβ。その目の前に黒い陰が映った。
急いで視線を上げたβが見たのは、カバーに入ったδを吹き飛ばし、一直線に刺突を繰り出そうとするチェインド。
その刹那の後に、コアに深々と黒い刀身がめり込んでいった。
そして、そのまま左に薙ぎ払う。
その時、練は確かに見た。
オイルに紛れて紅い液体が飛び散り、バイザーに罅が入ったヘルメットが宙を舞うのを。
「隊長ぉぉぉ!!」
「い、イヤぁぁぁ!!!」
それが周りにも見えたのか、悲鳴も聞こえる。
何度も見てきた彼にとっては、当たり前の光景でしかなかったために反応は薄い。
(AR機能は普通、こういうのをシャットアウト出来るんだよな)
だが、周りは違う。
今まで見ることもなかった血が、目の前にいる頼ってきた隊長の機体から溢れ出たのだから。
おそらく、認識装置がオイルと血の判別をミスってしまったのだろう。
崩れ落ちる隊長機であるβ。
振り返れば、体勢を立て直したものの腰が引けているδ。右を向けば、怒りが機体にも表れているようなほどに殺気立ったγ。
「まだやる気があるようだな。言っておくが…」
一呼吸置き、自らの中にあるソレを切り替える。
「殺す気で行くぞ。お前達に死ぬ気があるのか?」