隊長が死んだ。
目の前で、無残に。
それに怒りを感じないはずがない。
「殺す気で行くぞ。お前達に死ぬ気があるのか?」
ふざけるな。俺達はただ黙って殺される人形じゃない。れっきとした生きてる人間なんだぞ。
「ぁぁぁあああああ!!!」
ブレードを振りかざし、構えもしていないACに突っ込む。
感情のままに横に薙いだその一撃。それを一歩引いて間合いぎりぎりで躱される。
隊長への攻撃をまねて肩の散布型ミサイルを至近距離で打ち込んでも、右に短いブーストであしらわれる。
左手のアサルトライフルで弾幕を張ってようやく数発の被弾が出せるだけ。
その弾幕の切れ目に放たれたマシンガンの牽制がとても煩わしい。
APが半分を切った、そのCOMボイスすらただ奴を倒すための妨害でしかなかった。
「お前も手伝えよ!!隊長がやられたなら俺らがやるしかないだろ!!」
動きを見せなかった味方にも呼び掛ける。
このままじゃやられるだけだ。
ようやく増援としてきた散布型ミサイルを追いかけるようにあのレイヴンに迫る。
そのミサイルが一つずつ破壊され、爆炎が機体を撫でた。
そして、相手が目と鼻の先に奴を捉えた時、奴がブレードを構える姿を…
「喰らうか!!」
振り払う直前、俺は急減速し後退して躱す。
そのままアサルトライフルを感情任せにトリガー。
連続して弾丸が奴の装甲に突き刺さり、その直後援護射撃の散布型ミサイルが命中する。確かな手ごたえを感じ
た。いける、いけるぞ。
「見くびっていたか。」
その次の瞬間、被弾を無視した直線軌道で俺の左手のアサルトライフルを切り裂いて通り過ぎていく。
そのまま、俺を置き去りにして行くのはなぜか。
「い、嫌ぁぁ!!来ないで!!」
「クソ、待ちやがれ!!」
アサルトライフルをレイヴン向かって乱射する彼女。
その被弾ををもろともせずアプローチ、マシンガンで彼女のカメラをいくつも潰しその脇を過ぎて背後に回る。
その間も追いかけ続けたが、間に合わない。
放たれる袈裟斬り、右薙ぎが背部装甲を削ぎ内部機関を露出させる。
次の一撃は見えていた。当たれば確実に相手を戦闘不能にするトドメの一撃が。
激しい金属音が周囲に響き、突き出される刀がコアを背中から貫いた。
その胸から突き立ったそれから、ぽたり、ポタリと赤い雫が目の前で零れ落ちる。
『あ………ぁ…』
彼女の喘ぎがあまりにも痛々しかった。
咄嗟に彼女の通信をウィンドウで開くが、後悔するはめになる。
あの位置は紛れもなくコックピットなのだ。彼女は今、あの刀に貫かれて命を散らそうとしているのに俺は、開いてしまった。
彼女は下腹部を刃で貫かれ、絶望と苦悶に顔を歪ませていた。
画面に映るその光景は、紅に塗れている。
そして、こちらの方にゆっくりと手を伸ばし呟く。
『いや…こんな…わた…し。』
その声と共にがくりと手も首も力なく重力に引かれていく。
一拍おいて引き抜かれる黒刀。支えを失った機体がぐらりと傾き、地へ伏した。
死んだ。
殺された。
また、あいつに。
その言葉が頭を埋め尽くす。
それが逆に俺の中のナニカを目覚めさせた。
フットペダルを蹴り飛ばしつつミサイルのトリガーを引く。
そのミサイルの影で姿勢を低くとり、細かく、激しくブースターを吹かして加速する。
次の瞬間にはミサイルが悉く撃ち落とされるが、正面から接近し左薙ぎを一閃。
レイヴンはそれを右薙ぎでぶつけてきた。
そのまま流れで出される袈裟が、躱し損ねたレイヴンの右手にあったマシンガンを真っ二つにした。
「やるなぁ。だが!」
だが、レイヴンはそのマシンガンの残った部分でストレートを打ち付けたのち、マシンガンを横なぎに殴りつけて側頭部の装甲を捥いだ。
「チぃ!!」
殴られた事によってできた体の回転、それを利用し放つ右薙ぎがレイヴンを吹き飛ばす。
すかさず、ブーストを吹かし追撃のために再度接近。
ミサイルだけが飛び道具の現状では、必然的にクロスレンジになる。
その時にブレードを右手に持ち替えたのに気づけたのは幸運だった。
それで不意打ちを喰らってはたまったものでは無い
俺の袈裟斬りが奴の袈裟と交錯し雷を散らす。
奴がそれを払って唐竹割を振りかざし、俺は左薙ぎで流すと、奴は返す刀で刺突を繰り出してきた。
俺はそれを身を逸らして躱し、ブレードを刀に沿わせて斬りかかる。
だが直前で切っ先を下に回して抑え込まれ、今度は奴が刃先を回りこむようにしてやり過ごし、一回転して右薙ぎ。
それが俺のコアを掠めていく。
明らかに腕は相手のほうが上だが、倒れるつもりはない。
仰け反った機体を立て直し、コアに向けた突きを放つ。
その一撃は跳躍によって躱された。
奴は空中でコマのように回転し俺の機体の左肩を斬りつけて後ろへ回る。
(だが今の体勢はかなり崩れているはず!)
振り返りざまの右薙ぎが奴のコアを__掠めもしなかった。
奴は仰向けで倒れかけたまま、時が止まったように固まっている。
その一瞬で、すべてが決まった。
爆音を響かせて起き上がると同時に、放たれる散布型のミサイル。
そのすべてが俺の機体に突き刺さり、装甲を喰らいつくした。
【防御力低下、作戦行動を中断します。】
APがなくなり、仰向けのまま動かなくなる機体。
「動けよ!!この!!」
奴に負けるわけにはいかない、二人の仇なのだから。
何度もスロットルふ動かし、フットペダルを踏みつけた。それでもアラートをまき散らすこの機体はピクリとも動かない。
そうしているうちに、奴の影が遠くへと離れていく。
興味がなくなったといわんばかりのその後ろ姿に、噛み締めた唇から滲む血を涙と共に味わった。
◇
『大丈夫ですか?』
「ああ、だが、いい腕だった。生き残れば期待できる」
自らもまだレイヴンになって一年もたっていない俺が言うことではないのだが、口を突いて出てきた。
「周辺を探索する。」
『何もない筈なのでは?周囲には何も映っていませんが。』
APを半分近く失いながらも勝利したアキレス。
だが、彼にはこのまま撤退できなくさせるような仮説が胸の中にあった。
「今の部隊が単に俺の討伐のためだけに来たとは思えなくて。少なくとも何か都合の悪いものがあるはず。」
マップを開き、今まで探索に通ったルートを確認する。
(ばれそうになければ戦力をよこそうとしないはずだ。なら、何度も視界に入ってなおかつ怪しいものは…)
目に入るのは、何の変哲もない大岩だった。
それは自然の中に紛れて、昔からあったようにそこに佇んでいる。
だが、ここぐらいだ。
足下から高レベルの金属反応が出ているのは。
「ここだ。破壊する。」
散布型ミサイルをロケット代わりに岩に打ち込んだ。
一瞬にして爆薬が岩を爆砕し、下の素地をあらわにする。
金属製の扉、それが日の下に晒された。
これだ、本拠地を襲いった奴らが利用したのはここだ。
「すまない、補給を要請してくれ。このまま突入するにはダメージを受けすぎた。」
『まだ続行しますか?十分目標は…』
「心配はありがたいけど、任務は不審なオブジェクトの調査も含んでる。今のうちにやれるとこまでやっておきたい。」
『分かりました。補給物資を要請します。』
◇
30分でできるだけのことがなされた。
今の機体状況は
・AP7000ちょっと
・弾薬補充
・ダークスレイヤーのナノマシン補充
・マシンガンを再度用意
といったところか。
装甲面は回復が難しいから応急処置なところもあり、完全には修復できないが仕方ない。
「これより、敵拠点と思われる施設に侵入する。」
『了解、バックアップに
扉は補給中に出来た時間で、すでにクラッキングでロックが解除されている。
アクセスと同時に解放され、そこからはかなり埃っぽい空気が吹き上げられてきた。
そこを景気よく飛び込んでいく。
レーダーで底がどれほどのところにあるか確認しつつブースターで少しずつ減速していった。
高度計はマイナスをとうに振り切っている。
そのことを確認したあたりで底にたどり着いた。
暗視カメラが映し出す無機質な廊下。そこをブースターに火を燈して突き進む。
廊下自体はかなり未来的な造りでありながら、長い間使われてなかったかのように埃に満ちていた。暗視カメラすらぼやけている。
少しして、僅かな明かりが奥の方に灯っていた。
開閉可能な生きている扉が、この使われていなさそうな空間に存在したようだ。
アクセスはあっけないほど簡単に済み、扉が開く。
『罠かもしれません警戒を。』
「了解」
そのころには扉が開き、薄暗いながら暗視カメラに頼らなくても済む空間に出た。
金属に覆われていない、剥き出しの岩壁に照明が取り付けられている。
そんな炭鉱の一角のような、アリーナ一つ入りそうな空間だ。
座標データだが、この部屋に入るか入らないかのところで激しくジャミングが入り、掴めない。
通信が繋がるのは不幸中の幸いだった。
奥に見える扉のロックが外れ、開く。
照明に照らされる黒い機影が徐々に見えてくる。
『ここまで来てしまいましたか…』
「その声はセレ・クロワール。」
ゆっくりと滑るように扉から出てきたのは、すらりとした手足に大きな翼を付けた人型だった。
『あなたのおかげで大分計画が狂いました…』
「そりゃ、俺は依頼上は敵対勢力だ。うざがることをして当然だと思うが?」
『まぁ、レイヴンとして当然でしょう。ですが、それ以上に…』
背中の羽が展開し、蝶のようなシルエットを照明のもとに晒した。
その羽のそれぞれが陽炎で揺らぎ、熱を帯び始める。
『あなたは危険すぎる。』
その声と同時にX字の輝きを背中から放ち、音速に達する速度で向かってくる。
コンマ数秒の間に懐に入ってくる相手に、事前に察していた俺はミサイルを障害物にして右に飛ぶ。
〔規格外兵器を確認。メインシステム、サードフェイズ・オーバード。3、2、1、GO〕
「すまない、増援を要請…!」
その一瞬で目の前に映し出される黒い機影。
左腕に現れる蒼い輝きを持つ刃が、美しい半円を描いて襲い掛かる。
身を屈めて躱す。
その際、頭部をわずかに掠めて機体温度が上昇した。想像を絶する熱量があの刀身から放たれているのだ。
後ろにHBし距離を取る。
欲しいのは空間ではなく、一息つくための一瞬だ。
だがその一瞬、その刹那で攻めてくる。
後ろにQBすることでマシンガンの射程から離れると、右手のライフルから紫電と共に
回避が間に合わず、コアに直撃を受けた。
装甲表面の蒸発と急激に加熱され膨張した大気によって、機体が仰け反る。
「ぐぉおっ!!」
『そこッ!!』
再度放たれるプラズマ弾を何とか右にHBすることで避けるものの、削れたAPを無視できるはずがない。
(残りAP、5800か。)
悪化する状況に普段しないような舌打ちが漏れた。
その間に距離を取り続ける敵影から、何かが放たれる。
それは周囲を飛び回ったのちに空中で静止。
直後、それぞれからか細いレーザーが機体の各部を焼き始めた。
「イクシードオービットかよ!!」
マシンガンを目の前に浮いていたEOにばらまき、撃ち落とす。ミサイル迎撃装置も一定の熱量があれば発射するよう設定を変え、EOの迎撃に回した。
『小さいものに目を奪われすぎですよ。』
目の前に現れる黒い翼の機体が、右手のライフルを向けた。
細めのプラズマ弾が連続で放たれ、それが機体の各所に突き刺さる。
機体の各所に穴が開き、APが見る見るうちに減少していった。
しかし、その距離の近さなら
「喰らいやがれ!!」
散布型ミサイルを至近距離で撃ち放つ。この距離ならQBでも避けきれないという自信があった。
だが、放った直後。それらは奴に届くことなく迎撃装置らしきものですべて撃ち落とされる。
『逃がしません。』
爆炎を割って出てきた斬撃がコアの先端を掠め、蒼い閃光が視界を遮った。
◇
〔防御力低下、機能停止します。〕
目が覚める。
アラートが響き続けているコックピットの中で、腕を動かす気力も起きない。
月光のようなレーザーブレードで吹き飛ばされた後、意識が飛んでいたようだ。
全身が鈍い痛みを訴え、身動きすら苦痛だった。
(あぁ。なんでこんなになってるんだろうなぁ…)
何度も傷だらけになって。
何人も傷つけて。
何を得られた。
何を失った。
(なんか、もういいかなぁ)
せまる黒い影に対して、何もアクションを起こさない。
『おい、脱出しろ、練!』
(機動兵器が目の前にいるのに、逃げられるわけがないだろ。)
何処か諦めた目で、その影を見上げていた。
(ああ、報いが来たんだな。今までやり過ぎたその報いが…。)
遂に、俺の番が来た。
ただそれだけのことだと思えたのは何故だろうか。
【今まで殺ってきたように、自分も死ぬだけ。】
ただそれだけの事実を今まで必死に避けてきたことが、急に馬鹿馬鹿しく思えて仕方なかった。
戦場で好きに戦って、死ぬ時が来たんだ。
__おお!おめでと!オリンピック合宿参加状だなんて凄いな。
__これで夢に一歩近づいた!
__そ、じゃあ試験は4日後になったから、早速特訓しよっか。
__はい!
__俺は絶対曲げない一つの信念がある。
__私はランク45、ストレイド。シャルの友人だと思ってくれ。
__それでも知りたい?この世界の裏側を。
__ナインで良いって、アキレス。
__だからこそ足掻け。泣き崩れてもいい。他人の足に縋り付いてもいい。己のあるべきと望んだ結末を引きずり出せ。
__へえ、面白い奴だな。だけど依頼だから消えろ。
__うん、そうだね。ただいま。
__おかえり、紫蘭。
__だから、私の知ってる練が消えていないなら、もうなんだっていいよ。
__ああ、しくじった、なぁ…。川城主任に、どやされる…。
__悪いな…せめて、こいつ、受け取ってくれ。
__自らの望みのために、いくらでも手を伸ばせばいいのか!
__分かった。お前に依頼する。〔俺と協働してあのネクストを止めてくれ。〕
__オッツダルヴァ、お前は俺を撃つ権利がある。
__俺は感情の矛先をお前に向けた。だが、違うな。これでは…。
__あとでな。
__うん!
微睡みの中、意識が光に包まれて__
「だから簡単に命を捨てないでよ!!レアキレス、練!!」
その一言で目が覚めた。
刹那の間の、長い夢から。
奴がコックピットめがけて放った突きを、リッミトカットの後に身をよじらせてすれすれで躱す。
右脇に突き立った光の剣を横目に、ブースターを最大まで吹かして背を引きずりつつ離れた。
俺を目で追いかけ、今にも再度とびかかろうとしていたセレ・クロワールの背にグレネードが突き刺さる。
「すまん。助かったよ、紫蘭。」
『ぼさっとしてないで逃げる!まーた無茶して!』
その会話の間に二人は全速力で扉に向かった。
追いすがるセレ・クロワールに向かって、牽制のマシンガン弾幕を紫蘭が放つ。
効き目は薄いが何もないよりかはいい。
『廊下は抱えてオバブするからこっちに来て。』
扉を蹴破り、輝かしい光を背中に集めたブレティアは音速にも迫る速度で廊下を駆ける。
これ以上追ってこないと思った俺は、念のために振り返る。
だが、そこにはプラズマをフルチャージしている奴の姿。
「紫蘭!!まずい!!」
『まだ追ってきてたの…』
紫蘭がQTで奴の方を向く。
その時には、チャージは終わっていた。
(諦めるな…足掻け!)
プラズマライフル…いや、キャノンに相対する。
「おらあァァァァァ!!」
紫蘭の機体制御も計算に入れ、右手を振るう。
手に握られたダークスレイヤー、その基部にあるナイフ状の刃にプラズマの弾丸が衝突した。
ダークスレイヤーの磁場とプラズマが生む電磁場が干渉し、激しい閃光が視界を染めていく。
「今のうちに一気に離脱だ!」
『う、うん!』
再度OBを点火、巡航モードに切り替え長時間OB、出入り口までたどり着いた。
上昇し始めてからも俺は警戒したが折ってくる様子はない。
「何とかなった…助かった、紫蘭。」
『どういたしまして。にしても相変わらずボロボロ。何とかならないの?』
「【虎穴に入らずんば虎子を得ず】、といいたいが毎度バッタリなんだ。俺もこういうのは嫌なんだが…」
今回も機体を大破させて、少し落ち込んでるんだ。
手加減願いたい。
◇
「おい!この情報、本当なのか!?」
「あのアキレスがこんなつまらない噓をつくとは思えない。でもこれは…」
「見つからないわけだ…こんなところにあるなんて誰も思わないからな。」
アキレスが提示したデータ。
穴の位置と、そこから進んだ距離。そしてGPSがダウンしたポイント。
それが示すものは彼女たちが驚愕するのに十分すぎるものだった
その足元で、事態は急展開を迎える。
◇
都の灯りが遠くに見える岩壁に空を覆われた、そんな薄暗い世界。
そこに二人の影がぼんやりと水面に映し出されていた
「よう萃香、どうしたんだ?こんなところまで降りてきて。」
「いやぁ、久々にお前の顔が見たかったんだよ。勇儀。」
「まあ、やることは決まってるよな。」
二人は同時に構え、笑みを深めていく。
そして、瞬きもせぬ間に二人の正拳突きは衝突する。
激しい轟音と共に周囲の空気と大地を大きく揺らし。
「ん?」
「どうした?喧嘩の最中によそ見なんて。」
萃香と呼ばれた少女が、勇儀と呼ばれ少女の視線を追う。
「…勇儀、ここはこんな大穴があって、そこから別世界が見えるような場所だったか?」
「いいや。多分今、そうなった。」
二人が見たのは、岩壁に開いた大穴から覗く