巻き込まれた少年は烏になった   作:桜エビ

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苦戦してものすごく遅れてしまいました。


例外と判断するのは、いつだって世界だ

「待ち伏せの一人や二人は居そうなんだけど…」

 

ブレティアに牽引されているチェインド。そのコックピットでアキレスはつぶやく。

薄暗く、僅かな照明しか生きてない回廊を進み続けるが敵どころかネズミ一匹すらいない…まあ生き残れるような環境ではないが。

 

レーダーの電波が正面から反射され、壁となってモニターに映りこんだ。

 

「行き…止まり?」

 

「まさか、壊せるような壁を探すぞ。」

 

怪しげな壁やシャッターにC4を仕掛けて爆破するが、何もなかったり今回の作戦には必要ない部屋ばかりだった。

 

「クソッ、外れだ。」

 

「引き返そう。HQ!こちらチーム4は外れ。遊撃に回る。」

 

通信機越しの声は酷く焦燥に染まっていた。

 

『チーム4もか!クソ!全部ハズレだ!』

 

「ほかのチームもダメだったんですか!?」

 

『ああ。体勢を立て直すため一時撤退するぞ。』

 

つまり、誰も中枢に辿り着く道を見つけられなかったのだ。

作戦は中断、もう一度突入ポイントを探す羽目になる。

 

「無駄骨、か…練?」

 

紫蘭の呼びかけに一拍遅れて、練が反応した。

 

「ああ、すまない。一か所見ておきたいところがあるんだ。」

 

「見ておきたい場所?」

 

「さっきACが道路に開けた穴。どこにつながってるかって。」

 

紫蘭はハッとした。自分たちが一番近いのに、あの穴を下から覗くことはなかったからだ。

_もしかしたら、中枢に繋がっているのでは。

 

紫蘭は咄嗟にHQに連絡を入れる。

 

「こちらチーム4。一か所候補地があります、今から探査に行ってもいいですか。」

 

『こちらHQ、探査を許可する。座標データを送ってくれ。』

 

出入り口のACは護衛が排除してくれていたので、そのまま例の穴へと向かう。

 

薄暗い穴の中に通路が左右に伸びている。

もともと通路だった部分に強引に穴をあけたのだろう。

 

「手分けするぞ。紫蘭は右、俺は左だ。」

 

「分かった、何かあったら呼んで。」

 

二人は同時に飛び降り、反対方向に向かって走り出す。

 

 

 

 

「さて、上手くいったか。」

 

俺は思わず声に出して呟いていた。

何故なら、紫蘭が行った方はかなり高い確率で出口だからだ。

左はこのエリアから離れていくような方角、ゆえに中枢があるであろう中央から離れていくはずだ。

 

もし、中枢が中心から外れた位置にあったり、最終的に中枢にたどり着くルートなら己の思慮の浅さを恨むだけだ。

 

何故かって?

紫蘭は俺に追いつけるが、俺は紫蘭に追いつけないからだ。

何かあったら、間に合うのはこっちの方だから。

 

 

何回かカーブを挟んでいるが、方角を見る限り全体的に見て中央に進んでいることを確認し、ブースターを再度点火する。

下り坂が続き、ぐんぐんと高度計の数値は地下へと向かっていることを示している。

 

そろそろ何か見えてもおかしくはない筈だが、と俺は目を凝らした。

やがて見えてくるのは、ある程度使われているのか錆や埃が少なく見える扉だった。

 

それをあらかじめ渡されていたクラッキングプログラムでロックを解除する。

 

ゆっくりと左右に開き、まぶしい明りが目の前に広がる。

 

 

その直後あのAC、通称デブヴィクセンがグレネードを撃ちこんできた。

 

それを俺は寸でのところで部屋に飛び込むようにして躱す。

着地の後に即刻ブースターを吹かして距離を取った。

 

その隙に奴は右手に持ったプラズマキャノンのチャージを終えていた。

一気に左ブースト、右に流れていくプラズマ塊を横目にリニアライフルを連射することで装甲を削る。

 

奴もバックブーストし、ツインミサイル。

それに対し機体を突っ込ませることでその間を抜けた俺は射撃を絶やすことなく続け、やがては奴の装甲を剥ぎ、破壊した。

 

 

「さてと、行き止まりだとは思いたくはないがな…。」

 

周囲を見回してみるが、何の変哲もないドーム状の部屋だ。

上の排気ダクトの網が目についたのでリニアライフルで破壊してみる。

発砲音の直後、軽い金属音と共にフェンスが崩れ落ちたので下からのぞき込んだ。

届きそうなところで直角に曲がっているから、いけそうだ。

 

フットペダルを踏みこみ機体を上昇させる。

頂上付近で前進させ、機体を乗っけることに成功した。

ENの回復を待って一気に前進、先を急ぐ。

 

薄暗いダクトの向こうには明かりが見える。

どこかにつながっているのは明白だ。

 

ダクトの終わりにあるフェンスを体当たりで破壊し、外に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の視線を白い花びらが横切る。

 

「なんだ…これ。」

 

 

青い空に、一面に広がる鮮やかな色彩。

紛れもない美しい花畑がここには広がっていた。

地上に出てしまったのか、と確認するが高度計は相変わらずマイナスを示している上に位置情報は確実に地下都市の範囲内だ。

 

「環境が維持されている空間が残っていたのか…。」

 

美しい花畑ををわざわざ汚すほど堕ちたつもりはないので、出来るだけ空中浮遊で移動すする。

二回ほど心を痛めつつ着地したとき、AC一機が通れるぐらいの道があることに気づいた。

そこまで何とか飛行してたどり着きあたりを見回す。

片方は空と地上の境界に存在する扉まで続いていた。

それを確認した俺は、もう片方を見据える。

 

「AC…の、残骸か?」

 

気になった上、そこまで遠くないので近づいてみる

OBを重視した機体構成に近距離型の武装選択。

それなりに腕の立つレイヴンだったのだろう。

ただ、左腕の武装はブレードすら排除されていることから、誰かに持っていかれたであろうことは予想がついた。

 

右胸に大穴が開き、パイロットも運命を共にしたであろうその機体に、俺は機体をゆっくりとひざまずかせる。

 

その足元に石碑と花があることに気が付いたから。

 

「墓なんだな。」

 

一瞬の黙禱を残して俺は去った。

これ以上の行為は必要とは思えなかったから。

己のために戦い、殉じたレイヴンにはこれで十分なはずだ。

 

 

白い花びらが一斉に風に舞う。

 

「カミツレ、か」

 

花屋に寄ったとき、名前を呼ばれたと勘違いしたのがこの花を知ったきっかけだ。

花言葉は『逆境に耐える』とか『逆境の中の力』だったか。

 

「さてと、行くか。」

 

ゆっくりと歩を進めていく。

目指すはセレ・クロワールの元。

開いた扉は先程のように僅かに薄暗く、俺を呑み込みかかるようだった。

 

 

 

「こちらブレティア。こっちには何もなかった。これよりチェインド方面への援護に向かう。」

 

『了解…だけど、河城にとりとしてちょっと頼みがある。』

 

例の穴まで戻ってきた私は、穴を介して武装面の補充を行っていた。

練からの連絡がないことを考えると、あっちが正解なんだろう。

 

何もなかったといったが、一応敵ACと遭遇しているので弾薬は大分使った。

だからこその補給だが、にとりさんから何かあるらしい。

 

「ちょっと持っていって欲しいものがあるんだ。」

 

クレーンで自分が装備してない、だけれども見慣れたものが自分のもとに下された。

 

「ダークスレイヤー…ですか。」

 

『グリップは元から共通して使えるように設計してあるから、君でも使える。それに少し小細工もしたんだ』

 

拾い上げ、その基部の刀身を見つめた。

その刃には、反射したブレティアの姿がきれいなまでに写されている。

 

『今、格納用のブレードも降ろしてるから、万が一弾切れを起こしてたら渡してやって。』

 

「…分かりました。ありがとうございます。」

 

もう一度練が接近戦に持ち込むのは気が引けるけど、共通して使える武装といったらこれぐらいしか存在しないはずだ。

 

なら、どう転んでも使える可能性を持つこれを持って行った方がいいだろう。

 

『いま、前線維持のためにほかの突撃チームも出払ってる。君にあとは任せた。頼むよ。』

 

「はい。行ってきます。」

 

また、いつものごとく一人で死地に向かう彼の背中を追いかけて。

音速に迫る速度で彼女は彼を猛追し始めた。

 

 

 

上から日が差すような明かりが、その空間を満たしていた。

上を見上げると、足場と扉が見える。

 

行く先といったら、あそこぐらいしかない。

ここまでくる間に何機か相手したが、。大半がミサイルで簡単に破壊できた

 

扉を開放し、様子を見る。

 

壁、天井、床に至るまで透明な素材で構成された、不思議な廊下。

気になるのは、壁や天井に配置された砲台がことごとく破壊されている点だ。

 

「昔、誰かここを攻略したのか。」

 

そのまま進み、奥にあった扉を開く。

 

「っ!!」

 

ACのような影が見えたので、咄嗟に銃を向ける。

だが、それは壁にもたれかかるように擱座し、いたるところの装甲が欠損していた。

残骸だ

 

 

それを横目に、同じような廊下を抜けてホールに出る。

そこは床に大穴が開き下に降りてくださいと言わんばかりの造形だ。

穴の向こうには先程と同じような残骸が倒れこんでいる。

 

道が見つからないので、大穴へと身を躍らせた。

深いといえば深いが、ACなら問題ない程度の高さ。

念のためブースターを吹かして減速し着地。あたりを見回す。

 

見つかるのはAC一機が通れるほどの大きさを持つ扉。

解放されたその扉の奥に見える、チューブ状の部屋。

そこまでの間をつなぐ回廊は、左右の壁から見るに、元は大量の扉でふさがれていたようだ。

 

『流石ですね。やはり、あなたは彼と同じ。』

 

「セレ・クロワールか。本当に苦労させられたよ。」

 

唐突に繋がれた通信は彼女だという確信があった。

なぜならここは彼女が管理していた土地だからだ。

 

 

セレ・クロワールは他の世界でコード=IBISという人格保持型の管理AIとして存在していた、という記録がある。

つまり彼女はここの主で、『乱入者』の正体。

 

『あなたに質問があります。答えてくれると助かります。』

 

「答えられるのなら、な」

 

目の前に降りてくるリフトが、俺を誘うかのように停止する。

その誘いを、俺は受けてリフトの中央に歩を進めた。

 

『あなたはこの世界はどれほど続くと思いますか?』

 

「終わることが前提か…」

 

『すべての物ごとには終わりがあります。その終わりをどう定義するかもあなたに任せます。』

 

リフトの中央に到着するまで、ただ自分のACの足音だけが響く。

そして立ち止まり、IBISがいるであろう上層を見上げて返答した。

 

「2つある。主観だけ考えるなら、【俺が死ぬまでだ。】。どう足搔いたって、俺は俺が死んだ後の世界を見ることは叶わない。それは俺から見た世界の終わりだろ。」

 

『極限まで主観にこだわった考えですね。』

 

「まあ、言いたいことは分かる。で、もう一つは似たような答えだ。【世界を見ることができる意識を持つ存在の全滅】…見る者がいなければ、その世界はたた物理法則に則って動くだけのからくり箱だ。」

 

リフトがゆっくりと上昇を始めた。

 

『たとえ時間や空間が消えることが無くても?』

 

「『世界そのものは意味を持たない』ってどこかで聞いた覚えがある。無意味に続くそれを『滅んでいない』と言い張る感性を、俺は持ってない」

 

徐々に大きくなるリフトの終着点であろう個所が大きくなっていく。

彼女との対面も近いだろう。

 

『もし、外界を観測可能な意識を持つ存在がこの地球にしか存在しないと仮定したとしても、私は世界の滅びを防ぐ存在でいなければならない。』

 

リフトが床と一体化し、動きを止める。

目の前には、この前交戦した規格外機が佇みこちらを見つめている。

 

『たとえ『あなたの世界』を終わらせてでも』

 

静かに告げられる殺害予告は、既にこの場にその機体を持ち込んでいる時点で明白だった。

機体から漏れ出す殺気は、人間のものといっても過言ではないほどに鋭くこちらに突き刺さる。

 

「話を捻じ曲げて悪いが、どうして自ら出てきたんだ?最後の廊下でも何機か用意できたはずだが。」

 

セレ・クロワールの声に、後ろから別の男性の声が重なり始めた。

 

『万全を期すため、当機で当たる方がよいと判断しました。無為に消耗するほど、私に余裕はありません。』

 

それ以上の会話はいらないと、俺は思った。

今目の前にいるのは、俺を問答無用で排除しようとする敵の大将だ。

なら、討ち取ればいい。

 

今まで身に受けてきた理不尽をぶつける為に。

 

『データ、XA-26483、ロード。戦闘モード起動。』

 

〔メインシステム、サードフェイズ・オーバード。リミット5分。GO〕

 

 

 

仕掛けたのは奴から。

 

プラズマをマシンガンモードで連射しつつ右に旋回を始める。

 

俺はそれに合わせるように右旋回をしつつ、アサルトライフルを連射する。

だが、俺は1マガジン撃ち切ると、そこですぐにHBで左旋回に切り替えた。

 

一瞬出来たIBISの隙を見てリニアライフルを三発。

 

初弾は命中したが、あとの二つは見切られてQBでやすやすと回避された。

その直後、IBISは後ろにQBで離れつつイクシードオービットをばら撒く。

 

機体から分離したそれは一瞬宙を舞ったのちに跳ね上がり、一斉に俺を包囲するために飛び立った。

アサルトライフルでそれらを迎撃に回しつつ、リニアライフルをIBISに向ける。

その瞬間に視界外に飛び去ったのを確認し、一機も撃ち落とせなかったオービットに視線を移す。

 

その瞬間にオービット群は散開し、俺を包囲した。

散開タイミングに合わせ、俺は右HBで包囲網から一瞬だが出る。

 

その逃げた先に、本体が待ち構えていた。

 

「チっ!!」

 

咄嗟にロケットをパージし、前にHBを利用して姿勢を低くしつつ通り抜ける。

 

姿勢を低くする前にコアがあったその場所を、蒼い光が薙いだ。

ロケットはそれに斬られることなく、地へと落下する。

 

振り向こうとするときには、オービットは再度俺を取り囲もうとこちらに殺到していた。

そこで散布型ミサイルをIBISに放つ。

無論、奴の迎撃装置で無効化されるのは織り込み済みだ。

 

『っ!!しまった!』

 

俺の狙いは、射線上にあるオービットだ。

 

迎撃装置はオートで接近するミサイルを迎撃半径内で無力化する。

例えAIだろうと、そこはいちいち管理していないだろう。

 

迎撃装置で破壊されたミサイルの爆炎がちょうどそこに存在したオービットを巻き込む。

だが直前で気づいたため、半数のオービットが被害を免れた。

 

逆に言えば、それだけのオービットを無力化出来たのだ。

正直言って上出来である。

 

だが、爆炎の膜を貫いてきた太めのプラズマ弾が足下に着弾し、爆風が機体を傷めつけ、プラズマの残滓が機体を熱する。

さらにこれに続くように残ったオービットがこちらへと向かってきた。

 

俺はあえて突撃し、オービットとすれ違った。

一機のEOが肩の装甲と接触して、金属音をたてながら制御を失い墜落する。

 

そのまま爆炎越しにロックしたセレ・クロワールの機体にリニアライフルをトリガー。

高速で撃ちだされた弾丸が煙を裂いてセレ・クロワールに迫る。

 

だが、セレ・クロワールはその弾丸を敢えて受けながら最短ルートで俺に接近。

QBによる接近に反応が追い付く訳がなく、俺はそのブレードの一閃を左手のアサルトライフルで防ぐほかなかった。

 

マガジンに刃が当たり異常なほどの熱量に当てられた炸薬が破裂、両者に爆炎と金属片を吹き付ける。

その中、防御をPAに任せてIBISは俺のACの胴体に蹴りを突き刺した。

 

「ぐうおっ!!」

 

一気に開く距離。

勢いを殺すころには、奴のプラズマキャノンはチャージを終えていた。

HBで右に飛ぶが、放たれたエネルギーの塊は左肩を掠め装甲を捥ぎ取り内部を露出させ、APをごっそり持っていく。

 

[左腕部損傷]

「チイィ!」

 

その直後、それなりの大きさの物体がこちらに向かっているのに気づき回避する。

すれ違うとき、それが何か分かった。

自分がパージしたロケット、それをIBISが蹴り飛ばしたのだ。

 

そしてそれをEOのか細いレーザーが貫き、強烈な爆発が俺を襲った。

 

[AP50%。損傷が増加しています。]

 

小型とはいえ高い威力を持った弾頭の爆発は、俺の機体を吹き飛ばすに足る威力を持っている。煤だらけになった機体に、追撃のプラズマの弾丸が容赦無く殺到し、回避行動を余儀なくされた。

 

流れを掴まれ、一方的な戦闘になりつつある。性能差は歴然とそこにあり、超えることができていない。

 

「俺じゃ、厳しいか?」

 

弱音が口を突いて出る。

俺の見たところでは、こいつはネクストのその上を行く性能を持っている。

ネクスト相手に善戦が限界の俺では勝てない相手。

 

その思考が、動きを鈍らせた。

直撃コースのプラズマ弾に反応できなかった。

 

「しまっ…!!」

 

 

 

その瞬間、黒い影が俺の目の前に現れる。

それはプラズマと俺の間に割り込むような位置で、衝突したプラズマを拡散させかき消した。

 

その形は俺が見慣れた刀だった。

闇そのものにも思える黒い刀身が、地面に突き刺さりそれを支えている。

 

「ダーク…スレイヤー…」

 

「練!…間に合ってよかった。」

 

そして、遅れて紫蘭のブレティアがダークスレイヤーの更に前に降り立った。

彼女はコアからレーザーブレードを引き抜き、それを構える。

俺は目の前にあるダークスレイヤーのグリップに左手を添える。

刀身が霧散し、それが俺の機体の周囲を取り巻いた。

 

「まだいけそう?」

 

「もちろん。」

 

その一言共に、俺達はIBISに向かい飛び立つ。

IBISのプラズマキャノンを散開して躱すと、紫蘭がグレネードキャノンを撃ち放った。

それを奴はQBで右に飛び回避、周囲に配置したEOで牽制射を放ちつつ距離を取り始める。

 

その様子を見て、紫蘭はOBを展開。

吸気音が響いた後、一瞬で音速を突破した機体は弾丸のようにIBISへと向かった。

対応するかのようにIBISも両羽の輝きを増し、音速で紫蘭に向かう。

両機はすれ違いざまにブレードを薙ぐが、空振りに終わった。

そのままOB(と思われるブースト)を継続して、IBISは俺に接近。

上から下に振り下ろされる蒼い輝きを左に身を逸らすことで避け、俺は左薙ぎにダークスレイヤーを振るう。

奴は当然左手のブレードで防ぎにかかった。

以前の通りなら、刀身がこの高出力レーザーに蒸発させられていただろう。

 

だが、にとりさんがそれで諦めるはずがないのは、とっくに分かっていた。

 

ダークスレイヤーは蒼いレーザーの中をすり抜け、IBISの頭部を掠めた。

装甲パネルの一部が吹き飛び、内部機構が露出する。

 

『っ!?』

 

「うちのメカニックは変態が多いんでね!」

 

もう一閃、IBIS同様に縦に俺はダークスレイヤーを振るう。

その斬撃はIBISの機体に届くことはなく、その手前にあるブレードによって防がれた。

 

「…ちゃんと反発器仕込んでんなら使えよ。反則だぞ。」

 

『ルールに則るような場ではないことを理解しているはずだ。アキレス。』

 

恐らくONとOFFを切り替えていたのだろう。

 

そんなふうに思考している間に、俺は強引に吹き飛ばされた。PAでずっとAPが削れていたので逆に助かったのだが。

だが、俺が体勢を立て直している間にプラズマライフルの銃口がこちらを覗く。

 

そこでブレティアのグレネードキャノンが横槍として入り、IBISは回避を選んだ。

その隙に俺はミサイルを撃ちきり、パージする。連動ミサイルをも含めたそれは迎撃され大量の煙幕を生成した。

 

ブレティアとIBISはその中に入っていく。

その間俺は何をしていたかというと、EOの対応だ。

執拗に俺を追い続けるそれを、リニアライフルで撃ち落とすのはかなりの手間だった。

APは残り30%、EOは残り1。

その時、轟音と共に煙幕は吹き飛ばされた。

音からして睨み合いをしていたであろう2機は即座にバックQB。

 

煙幕の中心だったところには大きな焦げ跡が残っている。

恐らく、IBISがキャノンモードで放ったプラズマが煙幕を吹き飛ばしたのだろう。

 

即座にグレネードキャノンの撃ち放った紫蘭。

それに呼応するようにプラズマライフルを撃ち込むIBIS。

 

紫蘭の放ったグレネードはIBISの足元で炸裂し、PAに甚大なダメージを入れる。

 

プラズマライフルはブレティアの右腕に着弾し、ブレティアを大きく吹き飛ばした。

 

「うわっ!」

 

小さな悲鳴と共に、紫蘭のブレティアは壁に叩きつけられた。

衝撃から体勢を立て直したIBISは再度照準を付ける。

トドメといわんばかりにチャージされるプラズマライフル。

 

「させるかよぉ!!」

 

俺はIBISの横からHBで速度の乗った蹴りを脇腹に叩き込んだ。

お互いの間合いから外れ、仕切り直し同然までもっていく。

 

『どこまでも邪魔をしますか!例外…』

 

そこでIBISが動きを止めた。

その時、オープンチャンネルで通信が入る。

 

『アキレス、紫蘭。本命と遭遇したのね。』

 

「シャルさん!?どうしたんです?」

 

唐突な通信、しかもオープンチャンネルと意図が読めない状況だった。

その時、IBISが声を上げる。

 

『馬鹿な!何故こんなことが!』

 

「シャルさん早めに要件を。」

 

紫蘭が先を急かす。

今がチャンスだと踏んだ紫蘭は今にもIBISに飛び掛かりそうだ。

 

 

 

 

 

『落ち着いて、もう勝ったんだから』

 

「「は?」」

 

『レイレナードが国連との講和会談で終戦することを表明したわ。戦争はもう終わりよ。』

 

『なぜ…終戦を受け入れた?お前たちと終戦出来る条件などお前たちが持っているはずがないはず!』

 

IBISは取り乱し、その挙動が機体にも反映されていた。

狼狽したIBISは通信回線を開き、架空上の人物モデルを画面上に映し出す。

 

『いったいどんな手品を使った!あなたたちがレイレナードと講和など!』

 

『元からお互いに戦う理由なんてなかった。それだけだ。』

 

あっけらかんとシャルさんは言い放った。

俺達は話に追いつけず呆然とするばかりだ。確かに途中で戦闘が終るかもとは言ったが、ここまで中途半端な状態でなるとは思ってなかった。

 

『レイレナードにエーレンベルクの予備機と動力源を取引として渡したの。私達に宇宙への道を閉ざす意思はない、ただその言葉と一緒にね。』

 

『え?あなた達は、そんな世界の変化に耐えられない…筈じゃ…』

 

『だから籠ったの。外の世界が進めばその逆転でここは栄えていく。』

 

IBISはただ、困惑の声を漏らすだけだ。

確かに彼女たちは彼女たちへの畏怖の念で存在する。文明が栄え、人がその存在を忘れていくたびにその存続は苦しくなっていく。

 

 

ここでなければ。

 

『あなたは気づいてなかっただろうけども、ここはその常識認識が逆転する。外が私達を忘れるほどに、忘れなかった少数が流れ着いてくる。そうやって外が忘れていくほどに好都合なの。』

 

 

『じゃあ、今までの戦いは…』

 

『無意味ね。ただ、世界を乗っ取る手段に私たちが不都合な点があっただけ。そこさえ気にしてくれれば、私達はむしろ協力してたの。』

 

目の前で、戦争が終わっていく様子を目の当たりにしていた。

ただ、お互いが擦り合わせをすれば長期化しなかった戦争。お互いが隠匿性を気にしていたが故に話す事すらままならなかったから。

 

『なにを気にすればよかったのよ…』

 

『地下世界に住まなければいけないほどに世界を汚染しない。ただそれだけ。』

 

きっと、FGWも誤解はあったのだろう。

IBISはどこまでやるのか、その点が不明瞭だったが故に戦争に介入せざるを得なかった。

 

IBISの目的、それは戦争で疲弊させた世界で再度管理者として君臨することだとその後のやり取りでなんとなくわかった。

 

戦う理由を失い、構えをすっかり解いているIBIS。

もう戦いは終わり。

 

 

 

 

 

 

 

「満足できるか…」

 

『アキレス?』

 

俺の口から言葉が漏れる。

そうだ、満足できていない。こんな不完全燃焼で俺は終わることはできない。

 

闘争を求めてここまで来たのだから。

目の前に強大な敵がいてさっきまで戦ってたのに、戦争が終わったから仲良く解散?

 

 

「なあ、セレ・クロワール。」

 

『なんです?もう、戦う必要は…』

 

戦意喪失気味のセレ・クロワールの声は、すっかり疲れ果てたようにくたびれていた。

だが

 

「もう少し付き合ってくれよ。これで最後なんだ…。フィナーレには物足りないんだよ。」

 

『理由なく戦いますか…イレギュラー。』

 

「感情の動きに理由がいるか?もしいるってんなら…」

 

深く息を吸う。

その息と一緒に言葉と感情が頭の中を満たしていった。

そして、

 

「ここでお前倒すぐらいしないと、今まで捨ててきた常識とか人間性とか、諸々へのつり合いがとれねえんだよぉぉぉぉ!!!」

 

『!!?』

 

「練!?」

 

感情に任せ、言葉の濁流を吐き出させてもらった。

 

「こちとら中1のガキだぞ!なんで傭兵やったり人殺しになったり戦争したりしなきゃなんねーんだよ!おかげさまで青春の1ページが灰色染めだ!むせるわこんな人生!」

 

荒れる息のままIBISを睨みつける。

おれは、今までため込んだ感情全てを、目の前にいるAIにぶつけた。

 

「要するに、八つ当たりだ。お前らが生んだ戦争、そこから来た理不尽に対して抱いた怒り、悲しみ含めた全部の感情の行き先が欲しいんだよ。」

 

左手に持ったダークスレイヤーをIBIS向かって突き付けた。

俺は立派な人間だとはこれっぽっちも思っちゃいない。

今まさに理不尽由来の怒りを、ちょうどいい標的に向かってがむしゃらにぶつけようとしてるんだから。

 

「じゃあ、練に便乗しちゃおうかな~。私なんて人生計画完全にお釈迦だし、その理不尽ぶつけたって罰当たらないよね。首謀者だし。」

 

紫蘭も意地悪そうな、そして奥に苛立ちを抱えてそうな笑みでIBISに言い放った。

2機のACが敵意を完全にむき出しにし、IBISにその視線を突き刺す。

 

『…あなた達は、私が手を出さなければこうならずに済んだと。』

 

「「そこには興味ない」」

 

二人そろって、その言葉を容赦なく叩きつける。

 

『……アハハハハ!こりゃ傑作ね。』

 

シャルさんが通信越しからその笑い声を響かせた。

 

『セレ、ここまで来た人間は理屈じゃないよ。そこにいるのは、戦争で運命を完全に狂わされた二人。戦争の原因の一端でも見つけたらそりゃそうなるって。』

 

『…どうしろと。』

 

『相手してやってくれ。』

 

 

『相手、か…。』

 

外部に漏らしてもいいと思った情報が、合成音声として他の存在へと伝わっていく。

データ上の存在でしかない私は、直接音声を伝える術はない。

 

機体に指令を送り、私に敵意を送る二機のACを眺めた。

戦争の歪みに巻き込まれた二人だ。

 

託すべき人と見定めた彼と、同じ資質を持つ者も目の前の二人。

私に残された根幹のプログラムが、彼らは合格と勝手に判定を下す。

 

これ以上の戦闘行為は無意味。私の役割は最初からこの世界に無かったのだから。左手のmoon lightを切り離そうとした。

 

 

 

___なんだよ、もっと楽しめばいいじゃないか

 

 

 

ハッとして切り離そうとした月光を見やる。

そこから彼の声が聞こえた気がしたのだ。それもかなりはっきりと。

 

(もしかして、彼との戦闘データを読み込んだせいかしら。)

 

彼ならこの状況を見てそう言うかもしれない。

機械に向かって生きろといった彼なら。その上彼のデータのせいで、僅かながら「戦いに対する悦び」の感情があるのだ。

 

(最期ぐらい、楽しんでもいいよね)

 

私は二人に向かって、音声データを送信した

 

『いいでしょう、余興としてこれ以上の物は用意できそうにありませんし。』

 

「…割とやる気ありそうだな。」

 

「じゃあ、遠慮はいらないね」

 

「彼」との戦闘データを再度解析し、最適化していく。

 

ここで手を抜くのは彼らのような人間に対し失礼に値する。

この機体の、私の全力を持って殺す機で行かねばならない。たとえそれが無益な殺生であっても。

 

ただ、

 

『磁器反発器はちゃんと使います。』

 

「なんでだよ、本気で来い。」

 

『あれはある種の反則だと思うので。それ以外は…殺す気で行かせていただきます』

 

「いいね、それじゃあ行こうか。」

 

全員が弾かれたかのように動き出す。

 




次回、決着
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