結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
無垢なる少女達が辿る結末や如何に……。
勇者並びに武神の合宿から数日が経った。神樹に選ばれた6人も普段の学生生活へと戻り、比較的平和なひと時を過ごしていた。
とはいえ気を緩めてばかりもいられない。神託によれば、警戒期間に突入した事でいつ敵が来てもおかしくないのだそうだ。各自、即時対応できるようにと念を押されながら、スクールライフを満喫していた。
そんなある日の事だった。
「話って何だ?」
授業の合間の休み時間。リラックスしていた晴人は、隣に座っている須美から、大事な話があると言われて、聞く耳を立てた。
「えぇ。実は、三ノ輪さんの事でちょっと確かめたい事があるの」
「銀がどうかしたのか?」
小声でそう呟きながら、晴人は視線を逸らす。
現在、話題の中心人物である少女は別のクラスメイトとおしゃべりをしている為、晴人の視線に気づいていない。少し目線を外せば、巧は読書、園子はいつも通りの睡眠といった光景が見られる。昴は図書室に出かけている為、この場にはいない。
須美は会話を続けた。
「市川君も気づいてるかもしれないけど、三ノ輪さんって頻繁に遅刻する事があるでしょ?」
「遅刻……? あぁ、言われてみれば……。今朝もそうだったし、昨日もだったな。合宿初日も1人だけ来るの遅かったし」
「訓練の時だって、3回に一回ぐらいは遅刻してたわ。でも何を言っても理由を話そうとはしてくれないし……」
「そっか。そういや昨日は銀のランドセルから猫が顔を出してたし。あれが関係してるのか?」
「それはないと思うわ。さすがにアレは驚いたけど……」
須美がさも困ったようにため息をつく。
「市川君は知らないと思うけど、三ノ輪さんは勇者になる前から度々遅刻してたの」
「へぇ。元からそんな感じなんだ」
「だから私、こっちから探りに行こうと思ってるの。調査して原因があるなら元から絶たないと意味がないから。何か理由があるとは思うんだけど、向こうがそれを言ってくれないなら、こっちからって事よ。それを、市川君達にも手伝ってもらいたいの。協力してくれる?」
「お、俺も……? うぅん……」
須美からの提案に悩む晴人。
銀に隠された秘密を探ろうという事は、私生活を観察するという事で、必然的に内緒で偵察をする事となる。同じ仲間であるが故に躊躇う気持ちもあるが、須美の言うようにこのまま放っておくのも気が引ける。
自分自身、銀の事をまだよく知らないので、これを機に調べてみるのもありかもしれない。バレたらその時はその時だ。そう腹を括り、晴人は返事をした。
「オッケー。俺もついてく」
「! ありがとう、市川君。他の3人には後で伝えておくわ。決行は早めの方が良いから明後日の日曜日にしましょう。その方がみんなの予定も合うだろうから」
「おう」
こうして晴人からの了承を得て、その後は時間を見つけて、須美は巧、昴、園子にも同じ話をして同行してもらう事が決まった。(ただし、園子は寝ぼけ眼で返答していた為、真意を理解しているかは定かではない)
そして迎えた決行日。青空が広がっており、散歩日和に相応しい天候である。
銀の家は学校から歩いて15分ほどの位置にある為、それほど遠い距離ではない。
「ったく。何で俺まで付き合わされる事に……」
「どうせ暇だったんだし、断る理由もなかったんだろ?」
「それは、そうだがな……」
そうボヤく巧だったが、須美が銀の名を呟いた時には、少しばかり興味を示したのか、結果的に承諾して、こうして晴人達と同行しているのだ。
「そろそろね。三ノ輪さんの家に到着するわ、乃木さん……ってあれ⁉︎ いない⁉︎」
事前に調べておいた、三ノ輪家までの道のりを確認しながら園子に声をかける須美だったが、振り返ってみれば、彼女の影が見当たらない。
「あ、園子ちゃんならあそこに……」
幼馴染みである昴が指差した先には、確かに園子がいた。しゃがんでいる園子の目線の先には、アリの行列が。
「アリさんだ〜。へいへい、元気〜?」
「フラフラしないの!」
「しょぼ〜ん……」
須美に服の首元を掴まれ、ひきづられる園子。その後ろを3人が先ほどのアリのように列になってついていくという、なんともシュールな光景がそこにあった。ひきづられる園子が気になりつつも、昴は須美に問いかけた。
「あ、あの……。今更かもしれないですけど、こんな事して良いんでしょうか……? さすがにこれはやりすぎなような気がしてきて……」
「私だって、本音ではやりたくないわ。でも、三ノ輪さんに何か問題があるなら、私達が力にならないと」
育ちの良い彼女からすれば、行儀の悪い行動だという自覚はあるようだが、それでも実行に移すのは、昔から思い込んだら突っ走る傾向にある須美ならではの選択だった。
やがてたどり着いた先には、品の良い日本家屋が佇んでいた。『三ノ輪』というネームプレートがあるので、間違いないだろう。
「へぇ、ここが銀の家かぁ。さすがに俺の家よりはデカイな」
晴人は知る由も無いが、三ノ輪家は須美、園子、巧、昴が住む家よりは豪邸とは言えない。発言権こそあるが、家自体はさほど裕福ではないのだ。そのどちらもない市川家からしてみれば、三ノ輪家も豪邸にほど近いようだ。
「……で、どうするつもりだ?」
「近くには他の人は見当たらないし、早速様子を……」
「ピンポンダッシュ〜?」
「マジで⁉︎ そんな事する気か⁉︎」
「そんな恐ろしい事はダメよ! 市川君も間に受けないで!」
こっちにしましょう、と言って須美が取り出したのは、ド○キ・ホーテで売っているような機材だった。縦に伸ばす事で、高い塀からも望遠レンズで観察できる優れ物である。
「こんな事もあろうかと持ってきておいたの」
「おぉ、本格的〜」
園子ならともかく、須美が一体いつそんなものを購入したのか気になる巧だったが、ツッコむだけ野暮なので、黙っておく事にした。そして、須美以外の4人は茂みの隙間から中庭を覗き込んだ。
やがて、こんな光景が一同の目に飛び込んできた。
「おい泣くなって。お前この銀様の弟だろ?」
そう言って中庭に姿を見せた、普段着の銀の両手に抱えられているのは、まだ歯も生えていない歳頃の赤ん坊だった。目尻に涙を浮かべている赤ん坊を、銀はどうにかして戯けながらあやしているようだ。
「ほら泣くなって。泣いていいのは、母ちゃんに預けたお年玉が、返ってこないと悟った時だけだぞ」
そう呟く銀の言葉の意味を、生まれたばかりであろう幼児が理解できるわけもなく、遂には声に出して泣きだそうとしている。
「あぁ、ぐずり泣きが始まってしまった……。ミルクやオシメじゃないだろうし……」
赤ん坊は特に不快な事がなくても泣いたりする時がある事を知っていたのだろう。慣れた手つきですぐに膝の上に乗せると、予め用意していた、ガラガラと鳴るオモチャを振って鳴らす。途端に赤ん坊はキャッキャッと笑い出し、ゴキゲンとなった。
「お、泣き止んだ。偉いぞマイブラザー!」
泣き止むと銀は赤ん坊を褒めて抱きつく。それにつられて赤ん坊も更に笑顔を見せる。
「まったく、甘えん坊の弟だよな〜。大きくなったら舎弟にしてこき使おっと」
ニヒヒと笑いながら将来の展望を語る銀。そんな彼女の近くに猫がやってきた。晴人も見覚えがある。昨日ランドセルから顔を覗かせていた野良猫だ。
「お、お前は家に慣れたか?」
銀が問いかけると、代わりに返ってきたのは家の奥から響いてきた、少年の声だった。
「姉ちゃん買い物は〜?」
「は〜い。ちょっと待ってね」
どうやらもう1人弟がいるようだ。銀は赤ん坊を抱き抱えたまま、奥へと下がっていった。一部始終を目撃した5人の反応は様々だった。
「わぁ〜。ミノさんワンダフル! 子守とかお手伝いしてるよ〜。私、ああいうのした事ないな〜」
「一人っ子だから子守はないけど、家の手伝いぐらいは俺もしてるぞ? 婆ちゃんに頼まれて買い物にも行ってるし」
「そうなんだ〜。イッチーも凄いね〜」
乃木家は発言力だけでなく財力も絶大である為、家事をこなしていくクラスメイト達は斬新に見えるようだ。
「働き者ですね」
「お手伝いさんは、いないのかしら?」
「三ノ輪家では使用人は雇っていないようですね」
「でも、俺の家はともかくとして、銀の家って大赦の中でも偉い方なんだろ? 何でこんなにも昴とかと差があるんだ?」
「発言力はあっても、裕福かどうかは別問題ですよ。晴人君の家も、今後次第では発言権もそれなりに持てるかもしれませんよ」
なるほど、とボヤく晴人。
「合宿の時に、家族構成で弟がいるとは聞いてたけど、あんなに小さな弟達がいたのね……。世話が大変という事なのかしら?」
「まぁでも、これで原因はハッキリとしたな。銀が遅刻する理由」
「うぅ〜ん……」
巧はそう結論づけるが、須美の中ではまだ納得がいっていないらしい。もうしばらく観察を続けようと、4人を引き連れて、買い物に出かける銀の後をつけた。
……だが、この道中でも5人は目が点になるほどの光景を目の当たりにする。
杖をついた老人に尋ねられたのか、銀はすぐさま老人の手を引っ張って、イネスとは真反対の所へと歩いていく。たどり着いた先で、再び買い物帰りの主婦から道を尋ねられて、丁寧に説明をする。それが済むと、今度は近くにある自転車置き場にて、倒れていた自転車を一つ残らず立て直した。そして近くを通った、自転車に乗っていた子供が倒れたのを見て、すぐに助けに入った。その後、今度はお婆さんが腰痛だといって銀の前で座り込み、銀はその人を家まで送り届けた。
「次から次ですね」
「結局家を出てから1時間も経ってるし……」
飼い主の手元から離れたリードを掴み、犬が逃げないようにしている銀を遠目で見て、各々が感想を述べる。
「ミノさんって、事件とかに巻き込まれやすい体質なんだね〜」
「それってあれか? いわゆるトラブル体質ってやつか」
「そうみたいですね」
「これも、勇者だからかしら……?」
「それは関係ないだろ、多分」
などと言い合っているうちに、ようやく銀は目的地であるイネスに到着する。5人も慌ててその後を追った。
イネスに入ってからも、銀の人助けは続いた。迷子になった子供を母親の元へと送り届けたり、喧嘩している子供達の仲裁に入ったり、重そうな買い物袋を入り口まで運んであげたりetc……。
さすがの晴人も、開いた口が塞がらない。
「……なぁ、これってさ」
「はい……。もう単なるトラブル体質を超えてますよ……」
「巻き込まれてるっていうより……。放っておけないのね」
そうこう呟いているうちに、またしてもトラブル体質が発動したのか、目の前で女性客の手提げ袋から転がり落ちた、大量のリンゴやミカンを拾う銀の姿が。
これを見て、ずっと観察していた巧が手を額に当てて、呆れたように呟く。
「見ちゃおれんな……」
そう言って、巧は渋々と晴人達から離れて、銀の所へ向かった。どうやら拾うのを手伝いに行くようだ。
「俺達も行こうぜ」
晴人がそう呟き、他の面々も巧の後に続く。
不意に近寄ってきた集団を見て、その全員が顔見知りである事を悟った銀は慌てた。
「えっ、巧⁉︎」
「園子もいるんだぜ〜」
「手伝うわ」
「みんなでやれば早いですからね」
「……そういう事だ。さっさと済ませるぞ」
「えっ、ちょ……。何だよお前ら……⁉︎」
突然姿を見せた、今日は会う予定もなかった仲間達の登場は、普段はどっしりとしている少女を大変慌てさせた。
「えぇっ⁉︎ じゃあみんな、家の前からずっと見てたって事か⁉︎ うわぁ、恥ずかしいなそれ……」
人助けを終えた一同はそのまま上の階のフードコートに直行し、腹ごしらえを始めた。銀はさも恥ずかしそうに顔を赤くしながら、鉄板焼きのチキンを口にした。因みに須美と園子はうどん(園子は+おでんの大根)、晴人はお好み焼き(チーズ味)、巧はハンバーガー、昴はたこ焼きを食している。
「恥ずかしくなんかないよ。偉いよ〜。ね〜、すばるん」
「そうですね。僕にも歳の離れた兄がいるんですけど、きっと兄さんも僕が赤ん坊の頃は苦労してたんだなって、改めて思いましたよ」
「いつも遅れる理由は、これだったのね。やっと納得したわ」
「けど、言ってくれりゃあこっちだって少しは善処したんだぜ。何で言わなかったのさ?」
晴人が内緒にしていた理由を尋ねると、銀はしどろもどろに答える。
「そ、それはさ。なんか、他の人のせいにしてるみたいで……、何があろうと、遅れたのは自分の責任なわけだしさ」
「まぁ、それもそうね」
銀の言葉に納得する須美。
「ミノさん、昔からそういう体質なの〜?」
「ツイてない事が多いんだ。ビンゴとか当たった事ないもん。トホホ〜」
「それくらい普通だって。俺も当たった事ないし。みんなもそうだろ?」
「まぁ、ビンゴとかやる機会もなかったので、上手くは言えませんけど……。でも、これからきっといい事ありますよ」
「そう言ってくれるだけ助かるなぁ」
銀が感謝の言葉を述べていると、巧がやれやれといった表情で銀を見つめる。
「人助けか……。何でそこまで赤の他人に付き合えるのかが俺にはさっぱり……」
不意に巧の言葉が詰まる。何かを察知したようだ。そしてそれは、他の面々も同様だった。周りを見渡せば、ちらほらと見える客は止まっており、空気も動いていない。完全に時が止まったような感覚が6人を襲う。
そして遠くの地から、鈴の音が鳴り響いてきたのを耳にして、今度は銀がやれやれといった表情を見せる。
「ほ〜らな。日曜台無し」
「よりによってこんな時に来やがったか……」
「ボヤくな。準備するぞ」
そう言って一同は、食べかけの料理に別れを告げて、外に出てお役目の準備を始める。
「(今度こそ私が……!)」
3度失敗は許されない。前回の反省を活かして、迅速にお役目を果たす。そう決意する須美は、晴人達と共に端末をタップして勇者、武神に変身。
樹海化した世界の中で、人類の敵との、3度めの戦いが幕を開けた。
『ゆゆゆい』では、今日限定で銀のピックアップガチャが出てますね。あの花嫁衣装の銀が可愛すぎて……。もうその時点で尊い……。
〜次回予告〜
「じ、地震⁉︎」
「根性見せろぉ!」
「行くぞ、須美!」
「耐えて、みせます……!」
「ここから……! 出て行けぇ!」
「先生方は、見抜いていらしたんだ……」
「やっと、友達になれたって感じだな」
〜信用しているから〜