結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

124 / 150
お待たせしました。

先日、20年目という節目も相まって、プリキュアの映画を久々に劇場で鑑賞したのですが、もう言葉に表せないぐらいに胸熱な展開でした!
内容的に、特撮ファンなら割とハマるような気がするので、まだ観てないという方は、この機会に是非ともその勇姿を見届けていただけたらと思います。


24:白菊(後編)〜過去からの挑戦〜

「……須美のやつ、相当ヤベェかもな。もう全然見てねぇし」

「うーん……。須美ってば、向こうじゃ優等生で通ってますからね……。自分で言ってて、キツい部分もあったんしょ」

 

誰ともなしにボソリと呟く紅希。隣にいた銀(小)も、後ろで腕を組みながら、眉間に皺を寄せている。

大橋市奪還を目前に控え、遊月らによって、小学生達がこれから先に辿るであろう未来を知り、癇癪を起こした須美の後ろ姿が見えなくなってから、数日が経とうとしていた。

あの日以来、須美は部室に顔を出す事はなかった。授業が終わっても、1人で教室を後にし、部員達の前に姿を現す事さえなくなった。見兼ねた晴人達が強引に誘おうとしても、いつの間にかいなくなっており、頭を抱える始末。今しばらく様子を見守ろうとしていた上級生達も、迫る戦いの刻限が近づいている事も相まってか、不安が募りつつあった。

 

「ううむ……。自分の失言で落ち込む気持ちは分からなくもないが、良い加減立ち直ってくれなければ、こちらとしても気が滅入る。どうにかして、こちらに引き込まなければなるまい。……園子は何か名案でもあるか?」

 

唸る若葉が子孫に尋ねるが……。

 

「そうだね〜。わっしーはリトルわっしーの頃から、メンタルがお豆腐みたいなんよ〜」

「うぉい。少しは遠慮ってものをなぁ……」

 

園子(中)のあんまりな発言に、兎角もここぞとばかりにツッコミを入れる。

 

「どうにかして、須美ちゃんを元気付けてあげないと」

「けどさぁ、杏。具体的に何をすれば良いんだ?」

 

杏や球子が首を捻りながら思考を回しているが、これといった妙案が思い浮かばない。

 

「いっその事、本人に聞いてみるのもアリなんよ〜」

「そっかぁ?なんか須美の事だから、『私はもう平気です』的な感じで処理されそー」

「イネスが解放されてない以上、行ける場所も限られるだろうしな」

「どっかでストレス発散できる場所があればイチコロなんだけどなぁ。ひなたよぉ、どっかおすすめスポットとかリサーチしてたりしないか?もしアレだったら、その場所が奴らに占領されてても、俺達で一丸となって戦えばすぐに……」

「ですが司さん。土地を解放するにも手順が必要なので、無理に戦っても、すぐに取り戻されるのがオチなんですよ」

「な、なるへそ……」

 

と、その時。

ひなたの発言を聞いて何かを閃いたのか、壁掛けのカレンダーに目をやる若葉。

 

「ひなた」

「?はい」

「仮に非正規のやり方で未解放地域を奪還したとして、どれくらいで取り戻されるかは分からないか?」

「えっ?そ、そうですね……。程度にもよりますが、もって、1日が限界かと……」

「……そうか」

 

その答えが聞けただけで、若葉も安心したのか、少し表情を緩めながら、突然ひなたに近づいた。

 

「ひなた、ちょっといいか。ゴニョゴニョ……」

「あっ……、アフゥ……。耳に、若葉ちゃんの吐息が……。くすぐったいですぅ……」

「……如何わしい」

「何してんだ?」

「けしからんですな」

 

調と司、銀(小)がジト目で呟く中、ひなたの目が見開かれるのを見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハァァァァァァァ……」

 

自室のベッドの上でただ1人、豆腐メンタルの少女は寝転んだままため息をついていた。日課の一つである滝行をしていればシャキッとするのだが、この地域にはそれらしいスポットもない。

 

「(結局あれから、みんなと顔を合わせれなかった……)」

 

学校にいる間も、皆と食堂でご飯を食べている時も、須美はずっと沈み込んでいた。席から一歩も動かず、時折ため息をつきながらも、誰とも会話をする事なく、数日が経過しようとしていた。

 

『ダメだありゃ、完全に魂抜けてんな』

『わっしーがゾンビになっちゃう〜……』

『今回の件、かなり堪えてるな』

『晴人君、どうにかして話しかけた方が宜しいのでは……』

『そうしたいけどよぉ……。話しかけるなオーラがプンプン漂っててさぁ』

 

などと、周りから声は拾っているものの、須美は無視し続ける事に。

 

「(……仕方ないじゃない。今更私が絡んだ所で、未来が変わるわけでもない。晴人君達を危険に晒し、私達はその繋がりを断ち切られる。それは、避けては通れない未来。……もう分からない。私は、この世界で何をすれば良いの……?きっと未来の私や遊月さんも、愛想尽きてる筈。自分勝手に我儘を押し付けて、挙句迷ってばかりの私なんて……。私の価値なんて……)」

 

ますますネガティブに陥り、その度に顔色が悪くなっていく須美。園子の言う、豆腐メンタルというのもあながち間違いではないようだ。

 

「(もう、どんな処罰を受けたって、仕方な)」

「すぅ〜みちゃ〜ん!」

 

不意に玄関から聞こえてきた、如何にも能天気な声色。思い当たる節がありながらも、重い腰を上げて、返事をする事なく扉を開ける。

 

「あ!いたいた!須美ちゃん、元気なさそうだったから、心配になって見にきちゃった!」

「友奈、さん……」

 

扉を開けた先に待っていたのは、予想通り、満開の笑みを浮かべた少女……結城友奈である。相変わらずのアプローチに内心苦笑いしつつも、何の様だ、と尋ねると、彼女は一も二もなくこう告げる。

 

「ちょっと、お願いしたい事があるの!公園でゴミ拾いをするんだけど、手伝ってほしいな!」

 

具体的な意図は分からなかったが、友奈からの頼みとあっては無碍に断れないので、準備をした後、友奈と共に外へ出る須美。

やって来たのは、寮から少し離れた所にある、少し広めの公園。蒸し暑さが気になる中、公園には見知った顔ぶれの面々が、軍手やゴミ袋を持って待っていた。

 

「お、来てくれはったで!」

「おっつー」

「須美ちゃん!手伝いに来てくれてありがとう!」

「!皆さん……」

 

汗を拭いながら待っていたのは、誠也に美羽、雪花、奏太の4人。何れも友奈に誘われてゴミ拾いにやってきたのだろう。

だが、来て早々に友奈が首を傾げる。

 

「……あれ?棗さんは?」

「それが、いくらコールしても全然出なくて……」

「?棗さんもご一緒なんですか?」

「う、うん!昨日連絡した時は、来てくれるって返事があったんだけど……」

「……もしかしたら、海に出かけてるのかもしれません。棗さんが電話に出ない時は、大抵海の中に潜ってる時だと思うんです」

「そっか!それじゃあ、ゴミ拾いの前に、棗さんを迎えに行ってくるね!」

 

そう言って、友奈は須美と共に、堤防沿いの海岸を目指して駆け出す。棗が素潜りの拠点としている場所をある程度把握していた須美は、海岸に着くが早いか、ものの5分もしないうちに、棗が持ち歩いているバケツやスコップなどの道具一式を発見し、棗が海面に上がってきた所で、大きな声で呼びかけた。

 

「……そうか。まだ集合時間まで猶予があると思って、土産を獲りに潜っていたんだが、逆に待たせてしまった。失念していたな」

「お土産、ですか……?」

「あぁ。須美に、これをあげようと思ってな。この辺りでは大ぶりの貝だ」

 

そう言って服を着たまま潜っていた棗が手に持っていた貝は、確かに市場で出回るものよりは大きい。しかし何故これを須美にプレゼントしようとしたのか。

 

「須美。最近元気がないように見えたからな。少しでも栄養を補えればと思って、少し粘ってみたんだ。これを火で炙って食べれば、少しは体力も回復するだろう」

「は、はぁ……」

 

ダイレクトに手渡されても、持ち運びに困る食材ではあったが、受け取らないわけにもいかない為、お礼を言って袋に入れると、早速本来の目的である公園に戻っていく。

棗と合流した事で、7人がかりでの作業に入ろうとする友奈達であったが、早速問題が発生した。

 

「あぁ⁉︎ゴミ袋忘れちゃった!」

「なはは。結城っちらしい」

「発起人が何しに来たんだよ……」

「あの、予備は持って来てますから」

「あ、ありがとう須美ちゃん!よぉし!須美ちゃんを元気付けよう作戦!はっじまっるよ〜!」

「いきなり大元バラしてどないすんねん⁉︎」

「(えっ。私の、為に……?)」

 

やれやれと思いつつも、予備のゴミ袋を友奈に手渡した後、園内のゴミ拾いが始まった。友奈からのいきなりのカミングアウトには驚いたものの、何かと真面目な須美は、テキパキとこなしていたが、不意に思う事があった。

 

「(どうして友奈さんは、銀じゃなくて私を誘ったのでしょうか……?)」

 

須美自身も嫌ではないが、こういった作業は銀の方が性に合ってる気がしてならない。それとなく聞こうとはしたものの、本人はやる気MAXといった感じで隙がない。

結局真意を聞けぬまま、ゴミ拾いは終了。パンパンに詰まったゴミ袋は、所定の場所に集められ、後は管理人であろう老夫婦に任せるのみとなった。

 

「いやぁ助かったのぉ。これだけ広いと、ワシらでは時間もかかるわ腰を痛めるやら、何かと大変じゃからのぉ。若い子らに手伝ってもらって、ホントにありがとなぁ」

「お嬢ちゃんも、よく頑張ってくれたねぇ。偉いえらい」

「い、いえ、私は、そんな……」

 

とりわけ小学生である須美の頑張りに一目置かれたのか、婆さんに頭を撫でられて、少し顔を紅らめる少女。

休憩を挟んだ後、特に予定のない須美は帰ろうかと思ったが、今度は雪花に呼び止められ、近くの商店街に連れてこられたかと思えば、雪花と美羽を中心に、須美に次々と服を着させられ始めた。

 

「お、良いね〜。これなんか、お出かけにバッチこいな感じじゃない?」

「この服も似合うと思うよ。ちょっと、クルッて回ってもらえるかな?」

「こ、こうですか?(こういうのは、そのっちにやらせた方が良さそうなのに……)」

 

唐突なファッションショーに困惑する須美。止めようにも、友奈達のはしゃぐ姿に歯止めが効かず、流れるままに色々な服を試着するハメに。

その後もうどん屋に寄ってうどんトークに花を咲かせたり、食後の運動も兼ねて、誠也と奏太の紹介でバッティングセンターで体を動かしたりと、須美にとって、ここ最近で一番体を動かしたようにも感じられた。

 

「どうして……ですか」

「へっ?」

 

須美の口からようやく切り出せたのは、バッティングセンターを出て、すぐ近くの海岸線に腰を下ろした時だった。

 

「確かに、今日一日で色んな事を経験させてもらいましたが、その……。どうして、私ばかりがこんなに……。別に、嫌というわけではありませんが、私を元気付ける為に、その……。こんなにも楽しい思いをさせて貰えるなんて、その……。よく、分かりません」

「?それは、どういう」

 

棗が問いかけるよりも早く、須美が矢継ぎ早に喚き立てる。

 

「私には、そんな風に優しくしてもらう資格なんてないんです……!相手の気持ちなんてこれっぽっちも考えずに、自分の考えだけを押し付けて、困らせて、傷つけて……!そんな私に、勇者を名乗る資格なんてない!友達でなんて、いられない……!それなのに、どうして……⁉︎どうして、皆さんは勇者失格である私に構おうとするんですか!私に、そんな価値なんて」

 

そこから先は続かなかった。友奈の唐突なバグに遮られてしまったからだ。

 

「あのね、須美ちゃん」

 

そう呟く友奈の顔を見上げた須美が見たものは、何処となく哀しげな表情をした、それでもニッコリと微笑む、太陽のような勇者の勇姿。

 

「友達に、失格も合格も、ないんだよ」

「……え」

「分かるよ、その気持ち。私も、前に東郷さんを止められなかった時、友達失格だって思っちゃった。でもね!夏凜ちゃんと真琴君が、必死に頑張って私に教えてくれたんだ。一緒にゴミ拾いをして、オシャレをしたり、うどんを食べたり、体を動かすだけで、私達はもう、友達なんだって!」

「そ、そんな屁理屈」

 

それにね、と、須美の反論を遮るかのように、やや興奮気味にトークを止めない友奈。

 

「勇者ってね、『みんなの為になる事を勇んでやる人』の事なんだよ。今日の須美ちゃん、ゴミ拾いいっぱい頑張って、褒められてたでしょ?だったら、須美ちゃんはもう、立派な勇者だよ!そんな頑張り屋さんの須美ちゃんが、私は大好きだよ!」

「ふぇ⁉︎ゆ、友奈さんそれって……⁉︎」

「またどえらい告白かましおったなぁ!」

「だが、友奈らしい」

「須美ちゃんもだけど、結城っちも大概よねー」

 

茹でダコのように赤面する須美を他所に、外野は口々とそう呟く。

 

「須美ちゃんが頑張ってくれたから、今の東郷さんがいる。辛い事もいっぱいあったけど、楽しかった事もいっぱいあったはずだから、今の勇者部がある。だったら、今はそれで良いんじゃないかな?」

「友奈、さん……」

「東郷さんと遊月君に怒った事、謝りたいんだよね?だったら大丈夫!須美ちゃんならきっと許してもらえるよ!もしダメだったら、その時は、私も一緒にごめんなさいするから!」

「……ず、ずるいです友奈さん。そんな顔されたら、後に引けないじゃ、ないですか(もしかして、雪花さん達も私の為に……)」

 

苦笑いを浮かべながらも、少しずつではあるが、後ろめたい気持ちが薄れている事に気づく須美。

 

「あ、それと私からもごめんね!今日のゴミ袋の事とか、いつもフォローしてくれて、助かってるんだ!お礼がしたいから、何かしてほしい事があったら言ってほしいな!」

「私からも、是非」

 

そう言って友奈だけでなく、棗も前に出て、提案を試みる。対する須美は、悩む素振りを見せる事なく……。

 

「してほしい事というよりは要望になりますが、お二人とも、もう少ししっかりしていただけると」

「「どストレート⁉︎」」

「……にべもねぇ」

「ブフッ⁉︎須美ちゃんらしい毒舌だねぇ」

「これでよかった……のかな?」

 

最初は固まっていた友奈と棗だったが、次第に笑い声に包まれて、自然と全員が笑みをこぼしている。

須美は思う。こんなにも自分に優しくしてくれる人達に囲まれている自分は、とても幸福な事なのだろう、と。頑なだった自分に、晴人は分け隔てなく話しかけてくれて、同じ勇者である園子達とも友達になれて、そしてこの世界では未来の自分達や、歴代の勇者に支えてもらい、今を生きている。

ようやくだが、自分がこの世界で成すべき事が見つかったかもしれない。須美の中で決意が固まりつつあった、その時だった。

美羽が持つ端末に連絡が入った。電話の相手は、同じ巫女であるひなた。緊急招集らしく、急ぎ若葉達と合流してほしい、との内容だった。

 

「ひなたからの催促って事は、大橋市の解放……だけど、まだ次の満月まで日にちはあった筈だけど」

「何かあったのだろうか」

 

皆が首を傾げていると、ドタドタと足音が迫ってきた。

 

「何してんのよあんた達!メール届いてたでしょ!ボケッとしてないで、さっさと向かうわよ!」

「ちょ、ちょっと待って夏凜ちゃん!」

 

怒鳴るように詰め寄ってきた夏凜と、その後ろから追いついた真琴の顔を見た時、すぐに違和感に気づく友奈。

 

「あれ、夏凜ちゃん?顔真っ赤っかだよ?真琴君も。それに、どうしてここに?」

「な、ばっ……⁉︎こ、これは、そう!は、走って来たんだから、当然でしょ⁉︎そ、それに私達はトレーニングでここを通りかかっただけで、別に、あんた達をつけてた訳じゃないから!ね、ねぇ真琴!」

「えっ、あ、はい!み、皆さん、急いで合流しましょう!(それもう殆ど尾行してた事バラしちゃってるよ夏凜ちゃん⁉︎)」

「はは〜ん。ま、そゆことにしときますか」

 

どうやら須美を心配して、支えになろうとしていたのは、雪花達だけではなかったようだ。依然として頭に『?』を浮かべている友奈は、連絡を受けた直後なのに、何故この場に夏凜と真琴がいるのか、不思議で仕方ない様子だ。そんな友奈を無視し、素直ではない夏凜を意地悪く見つめながら、一同は若葉と合流するべく、地図に示された場所に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一旦美羽と別れた誠也達が、樹海化された未解放地域にて、若葉達と合流したのは、それから5分後の事だった。その群れの中には、東郷と遊月、巧(中)、そして晴人の姿もあった。

 

「みんな、よく来てくれた。……それに、須美も」

「あ、はい!この間はご迷惑をおかけしました!未熟者ですが、勇者として、精一杯頑張ります!」

「あ、相変わらず真面目だなぁ。けどま、頼りにしてるぜ!」

 

晴人に背中を叩かれながら檄を入れてもらった事に戸惑いつつも、一つ気合を入れる須美。

 

「それで若葉。何でまたこんな所に俺達を呼んだんだ?ここは確か……」

「あぁ。今回はある目的の為、強引ではあるが、この土地の解放を目指す事になる。数日で奪い返されるだろうから、全勢力を投入する訳にはいかない。だから最低限の人員で、事を済ませたい」

「成る程、風の姿が見えないのは、それが理由か」

「須美も力を貸してくれ。ひなたからの許可も出ている。思う存分戦ってくれ。我々も援護する!」

「!はい!」

「やってやるぜ!」

 

現在、この場にいる最年少2人も俄然やる気になった所で、真琴が敵の進軍を確認した。

 

「お、来たわね!完成型勇者様に釣られて、細かいヤツらがワラワラと!」

「……にしたって、数多くねぇか?」

「確かに、これは骨が折れそうにゃ〜。夏凜ってば、煮干しの香り漂わせすぎじゃない?」

「なぁ⁉︎煮干しじゃなくてあたしの闘志に誘われて出て来たんでしょ⁉︎」

「か、夏凜ちゃんその位で……」

「みんな!行くぞ!」

「おうよ!この三ノ輪紅希様が、暴れまくるせぇ!」

「ついて行きますよご先祖様!」

 

若葉に続き、2人の三ノ輪が並走して星屑に特攻を仕掛けた。友奈達もそれに続く。

 

「せやぁ!」

 

勢いよく薙刀を振るう晴人。死角から星屑が噛みつこうとするが、須美の一射でそれら全てが薙ぎ払われる。いつにも増して、精度が上がっているように見受けられる。

 

「順調ね、遊月君」

「だが、肝心の親玉の姿が見えない。それを倒さないうちは、目的は果たせない。……若葉とひなたの提案に応える為にも、もう一踏ん張りだ」

「?若葉さんとひなたさんの……?」

 

それってどういう、と須美が尋ねるよりも早く、『ソレ』は天から降り注いできた。

 

「楽勝だぜ!このまま押し切って……ってわぁ⁉︎」

 

先頭を駆け抜けていた紅希が、精霊バリアに守られながらも突然吹き飛ばされた。遠距離からの、針による攻撃だ。そう認識した司の頭上から、何かが振り下ろされた。

 

「司さん!」

「……!」

 

いち早く杏のボーガンと調のヨーヨーが、敵の攻撃を逸らした。その隙に距離を置いた司は、その物体が鋭い針のついた尾である事を確認する。

 

「!」

 

その一方で、真琴の放った攻撃が、盾のようなもので弾き飛ばされる。それが視認できるだけでも、6つほど存在している。

 

「!そ、そんな……!」

「まさか、こいつらがこの地域を陣取っていたのか……!」

 

後方で、東郷と遊月が目を見開く。

 

「何の因果が働いてこんな……!」

 

巧(中)の、傷がついて開いていない左目が疼き、思わず手を置いた。そうなってしまうのも無理はない。

彼らの前に立ち塞がった敵は、かつて遊月……基晴人の腹に穴を開け、巧の左目を抉り、この場にはいないが、昴の右腕を切断した元凶であり、その異様な存在感に、あの若葉でさえ、立ち止まってしまう。

 

「これは……!星座級のバーテックスが、3体……!」

「間違いない、ヤツらだ……!」

 

その姿を、遊月や東郷らが忘れるはずもない。

長く鋭い尾をウネウネと動かす『蠍型』、6つの盾を持ち、ハサミのような尾を持つ『蟹型』、そして2つの口から針を飛ばす『射手型』。神世紀298年を戦ってきた勇者、武神にとって、まさに『因縁』と言わざるを得ない敵……造反神が模したであろう宿敵が、今再び、遊月達の行く手を阻もうとしているのだ。

 

「!3体の連携に気をつけろ!俺達はそいつらの連携にやられたんだ!」

「!じゃあ、これが遊月さん達に重傷を負わせた……!」

「なんちゅータイミングで出て来たんや⁉︎」

「だが、臆してばかりもいられない!こいつらを倒せば、目的を達成できる!もう一踏ん張りだ!」

 

射手型が針を飛ばしてきて、回避に専念する一同。だが、敵も3体のバーテックスの登場に鼓舞されたのか、突然大量の星屑が波のように進軍し、射手型の針に続くように、勇者達に襲いかかる。

その対応に追われていたが故に、気づくのが遅れてしまったのだろう。高台から須美が確認した時には、パーティーが分断されていたのだ。何よりもマズいのは、晴人1人が独立していて、誰も助けに行けない状況に陥っている事だ。

 

「!いけない!」

 

このままでは、晴人が危ない。須美の判断は自分でも恐ろしいくらい早く、足に力を込めて飛び降りていた。

 

「!須美ちゃん!」

「俺達も続け……っぶない!」

 

須美の後を追おうとする2人だが、星屑の波に阻まれてしまい、遊月は薙刀に武器を切り替えて、東郷を守る事に。

 

「くぅ……!」

 

一方、孤立した晴人は、早くも蠍型の標的にされていた。射手型と蟹型が他の勇者達を妨害しており、戦況は悪化の一途を辿っている。

尾を弾くだけが精一杯の晴人が息を荒げていたその時、蠍型の胴体が横からの攻撃で傾き、そのまま倒れ込んだ。

 

「晴人君!」

「須美⁉︎お前何でここに⁉︎」

「話は後!来るわよ!」

 

後衛にいた筈の須美が上がって来た事に驚く間も無く、蠍型が反撃に転じる。

 

「っ!今だ……!」

 

尾をかわし、それを踏み台にして、高く飛び上がる晴人。薙刀の刃先を蠍型の顔に向ける。尾は地面に突き刺さっており、蠍型は対応できない。命中すれば、勝負がつく。

 

「!」

 

だが、須美は気づいてしまった。いつの間にか晴人の背後に回り込んでいた射手型が、下の口を開けて、発射口を彼に向けている事に。

 

「っ!ダメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」

 

刹那、須美は反射的に飛び上がり、晴人の背後に回り込むのと、射手型から太い矢が発射されたのはほぼ同時だった。

激しく脳が揺さぶられ、背中に痛みを感じた所で、意識を取り戻す須美。矢は晴人に直撃する事なく、須美が庇う形で受け止められたようだ。精霊バリアのお陰で須美の体は貫かれはしなかったようだが、衝撃までは抑えきれずに、背中から地面に叩きつけられ、意識が依然として朦朧としているようだ。ぼんやりとだが、晴人の叫び声が聞こえる。

 

「……ミィ!須美ぃ!」

「……っ!晴人、君……!」

「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」

「だ、大丈夫……!」

「……クッソォやってくれたなぁ!須美は危ないから下がってろ!ここは俺が」

「……させない」

「えっ」

 

驚く晴人を尻目に、立ちあがろうとする須美は、気合いと根性だけを頼りに、足を震わせている。

 

「もう……晴人君を……1人で、戦わせたりなんて……しない!晴人君が、傷つくのは、もう……!だから……!」

 

息を荒げながらも、普段からは想像もつかないほど、目を鋭くする須美から漂うオーラに、晴人は一瞬呆けてしまう。

 

「私は……!私は!勇者、鷲尾須美!この美しい御国を守る為……!大切な人達を守る為……!私は、戦う!私が……!守る!」

 

そんな彼女に脅威を感じたのか、蠍型が尾を振り下ろす。反射的にダッシュした須美が矢を装填し、近づいた所で思いっきり解き放つ。効果はあったようで、蠍型はバランスを崩し、音を立てて地面に横たわる。そこへ素早く射手型が針を飛ばし、須美は転げ回る。再び立ちあがろうとした須美は、ハッとなって上を見上げる。いつの間にか蟹型が支配しており、盾を使って押し潰そうとしていた。

 

「須美ぃ!」

「グゥ……!アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……!」

 

弓を盾代わりにして押し潰されないように踏ん張っているが、筋力がそれほどついていない須美は、身体中で悲鳴をあげていた。晴人が駆け寄ろうとするが、またしても射手型の射撃に遮られてしまう。

 

「負け……ない!負ける……もの、かぁ……!みんなが、私の為に、頑張ってくれた、から、今の、私が……!私は……私はぁ!」

 

歯を食いしばる須美。その間も、懸命に攻撃をいなす晴人。

 

「もう……!1人なんかじゃ……!ないんだからァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

あらん限りの咆哮が、樹海に響き渡る。その声に引き寄せられたのかは定かではないが、不意に頭上からの圧迫がなくなったかと思えば、蟹型の巨体は、似たような形状の槍を持つ2人の勇者の一突きで、地面に押し付けられていた。

 

「よくぞ言ったよわっしー!」

「その、っち……!」

「独りぼっちには、させないからね〜!」

「園子……さん……!」

 

膝をついて倒れ込む須美の両脇を、新たに現れた2人が支えた。

 

「須美ちゃん!」

「大丈夫ですか⁉︎」

「昴君……!昴さん、も……!」

「「「ウォォォォォォォォォ!」」」

 

追撃とばかりに射手型と蠍型を吹き飛ばしたのは、2人の銀と、小学生の巧。3体のバーテックスが倒れた所で、星屑を退けながらも前進した遊月や東郷、巧(中)が合流を果たす。これで同一人物を含め、12人の勇者、武神がバーテックスの前に集結した事になる。

 

「た、助かった……!」

「晴人もそうだが、須美まで無茶するとは思わなくて、ヒヤヒヤしたぞ」

「ごめんなさい、援護が遅れてしまって……!2人とも大丈夫だった⁉︎」

「十分間に合ってますので大丈夫です!でも、そのっち達までどうしてここに?」

「ひなた先輩に誘われて、来てみたんよ〜。ここを解放したら、見せたいものがあるんだって〜」

「見せたいもの……?ひょっとしてそれが目的で、若葉さんが招集を……?」

「それは分かんないけど、取り敢えず先ずは、こいつらからだな!」

 

銀(小)の睨む先で、3体のバーテックスが体勢を整えている。依然として友奈達が星屑の群れに手を焼いている以上、この場にいる12人で、決着をつけるしかないようだ。

 

「上等だ!今のあたしらなら、どうって事ないよな、巧!」

「あぁ。あの時とは、もう違う」

「きっとこれは、造反神が僕達に与えた試練なのかもしれません。だけど、今の僕達なら!」

「いきましょう、皆さん!」

 

並び立つ一同。不意に須美が、未来の自分や、その隣にいた未来の晴人に顔を向ける。

 

「東郷さん、遊月さん。この間は言い過ぎました。ごめんなさい」

「須美……」

「須美ちゃん?」

「……精一杯、援護させてください!」

 

その力強い言葉に、2人の頷きも、自然と力強くなる。

対峙する敵は、彼らにトラウマを植え付けた星座級のバーテックス。だが、震える事はなかった。心強い仲間が、隣にいるから。負けない自信があるから。

 

「……ケジメをつけるぜ!」

 

過去を乗り越えて、未来を取り戻す。

遊月ら12人の勇者、武神の覚悟の表れは、それぞれのモチーフとなっている花の紋章を光らせ、樹海を通じて光を集約させていく。

 

『満開!』

 

計12輪の花が咲き誇る姿は、星屑と戦っていた面々の注目の的となり、神々しい装束に包まれた東郷達は、土地を解放するべく、攻勢に出た。

勢いに乗った晴人達の攻撃に、3体のバーテックスも対応しきれていない様子だ。

 

「お前らなんかに、あたしらを止められるわけないだろうよ!」

「そうさ!これこそが、人間の……!」

 

晴人と遊月の一突きで体勢を崩すと、それを取り囲むかのように、前進する一同。

 

「「「「気合いとぉ!」」」」

 

昴ズが蟹型を挟み込んだ所に、園子ズが頭上から押し潰し、

 

「「「「根性とぉ!」」」」

 

巧ズが蠍型を吹き飛ばし、待ち構えていた銀ズがそれをスライスし、

 

「「「「魂ってヤツだァァァァァァァァァァァァ!」」」」

 

晴人と遊月がクロス状に射手型を引き裂き、そこへ間髪入れずに須美と東郷の砲撃で跡形もなく粉砕する。

まさに圧巻ともいうべき一撃を目の当たりにして、友奈達はしばらくの間、その光景に目が奪われてしまっていて、危うく本来の目的を忘れる所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぅ……、な、何も見えん」

「ど、どうして僕達だけ、目隠しされてるのでしょうか……?」

「スヤァ……」

「目元が暗いからといって、何故寝れるのかが未だに分からない……」

「流石に寝るのは予想外だったけど、心配しないで。こうしないとネタバレになるから」

「私達が手を引いて連れてくから大丈夫だよ!」

 

大規模な戦闘が終わった翌日。

夕方に呼び出された小学生達は、何故か浴衣に着替えさせられた挙句、目隠しをされ、源道が運転するジープに乗せられて、外に連れ出されたのだ。友奈と風、藤四郎が手を繋いでくれており、真っ暗な視界の中、虫の鳴き声だけがやたら耳にこびりつく。

 

「もう少しの辛抱よ。ひなたさん達が待っててくれてるから」

「?ひなたさんが?安芸先生、それってどういう……」

「お、見えて来たぞ。流星!そっちはどうだ?」

「うむ!実に綺麗な光景だ!さぁ園子!起きたまえ!」

「んん〜?あれれ〜?目が覚めたら真っ暗だよ〜」

「……マジで寝てたんだ」

「それより、この先がスッゲェ気になるんだけど!」

「よし、ここならもう良いだろう」

「では、目隠しを外しますね」

 

そうして6人は、目隠しを外された当初は、真っ暗闇に光が点々としているようにしか見えていなかったが、次第に目が慣れて来た時、眼前に広がる景色に驚愕する事となる。思わず息をするのを忘れる程の光景が、そこに広がっていたのだ。

 

「オォ!これって……!」

「これは……」

「凄いねすばるん!ホタルがいっぱいだよ〜!」

「うん!」

「うっひゃあ!」

「綺麗……!」

 

緩く流れる川沿いに群がる、大量の蛍。街中では先ず見られない光景が広がっており、幻想的な空間が須美達の表情を思わず緩める。初めて見る、蛍の大群に目が奪われているようだ。

 

「ムフフ。蛍の光、窓の雪ってか」

「あっ!もしかして、これを見せる為にこの地域を……?」

「大正解!」

「ひなたに頼んで、蛍が見れる場所をリサーチしてもらった結果、未解放地域ではあったが、この場所がオススメだと分かってな」

「それにここは、こないだゴミ拾いをした公園の管理人の夫婦が、昔デートでよく来てたらしくてな。この蛍の大群が見せてくれる光景が、今でも忘れられないって話だ」

「そうだったんですか……!とても綺麗です!若葉さん、ひなたさん、ありがとうございます!」

「礼には及ばない。須美達の頑張りがあって、この光景が見られたんだ。もっと自分に自信を持ってくれれば、それで良い」

「どうですか須美さん。元気は出ましたか?」

「はい!」

 

そう返事する須美の表情は、この場にいる誰よりもにこやかなものであった。

その後も美しい光景を堪能するべく、足元に注意しながら、川沿いを歩く一同。小学生達の無邪気な反応に、改めてここに来れて良かったと実感する面々であった。

 

「楽しかったね〜、蛍狩り〜」

「えぇ。心が洗われる美しさだったわ」

「でもさぁ、蛍狩りってくらいだから、一匹くらい捕まえときたかったかなぁ」

「少しは情緒の心を持ってもらいたいものだな……」

「はい?じょうちょって?」

「蛍狩りは、読んで字の如く狩るわけじゃありませんからね。触れたりせずに眺めて楽しむものなんですよ」

 

21時を回った所で、見物はお開きとなり、一同帰路に着く中、話題は幻想的な光を見せてくれた昆虫に関するものとなった。

 

「それに、蛍さんって、光って飛び始めると1週間くらいしか生きられないんだって〜」

「そ、そっか……」

「んじゃ、今度俺達が来る時には、もう……」

「そんな儚さがあるからこそ、あの光がより輝いて見えるものなのよ」

「うむ!全力で今を生きる。命を燃やして、俺達に最高の輝きを見せる。彼らも立派なお役目を果たしている証拠だ」

「成る程、師匠の言う通りだな!」

 

しみじみとそう語る安芸と源道。小さい体でも眩い光を放ち、短い時間を力一杯生きる蛍の凄さを改めて実感する小学生達。

 

「蛍の命……」

「東郷、どうした?」

「……そうね。全力で命を燃やす覚悟で頑張ってきたから、結果的に今の私達がいる。今回の件で、改めて分かった気がするの」

 

そう呟く目線の先には、歩きながら寝そうになる園子(小)に注意する、須美の後ろ姿が。

 

「楽しい事も、辛い事も、全部ひっくるめて、今がある。……造反神がそれを否定しようと、この土地や他の県を侵食しようとしている。私達も、精進しなきゃならないわね。須美ちゃん達が、安心して未来に向かえるように」

「そうだな(もうすぐ大橋市奪還の戦いが始まる。真実を話す事には不安もあったけど、結果的に良かったのかもしれない。……晴人、須美。この世界にいる間は、一緒に頑張れるよう、よろしく頼むぜ)」

 

市川晴人と鷲尾須美。

小川遊月と東郷美森。

2組の手は、自然な形で絡み合い、未来へと繋がる道を、着実に歩み始めている。

 

 

 




久々の長文でした……。
とりあえずこの章でやるべき事は一つ消化できたので、ホッとしております。

次回はいよいよ香川編、クライマックス回となります。


〜次回予告〜


「いよいよ……!」

「ベストを、尽くせぇぇぇぇぇ!」

「何事も段取りが大切ですよ」

「スゲェ事になってんなぁ」

「不謹慎ではあるが……」

「タマげたぞ!」

「ドーン!と打ち込むよぉ!」


〜香川全域ヲ奪還セヨ〜

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。