結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

本日はゆゆゆいCS版の下巻発売となりました! 個人的にはサウンドトラックの内容が気になる所ですが、それは後でじっくりと聞いてみようと思います!

今回は、ゆゆゆい随一(?)とも言えるミステリー感溢れるイベントストーリーを軸に進めていきます。

P.S 結城友奈ちゃん、ハッピーバースデー!


EV11:血吸い紅葉殺人事件 〜惨劇の始まり〜

 

事の発端は、数日前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ東郷さん!見てみて!紅葉の葉っぱで押し花作ったの!」

「まぁ、綺麗。さすが友奈ちゃん」

「……そっか。もうそんな季節か」

 

新作の押し花を見せる友奈を視界に捉えながら、栗饅頭を口にしていた照彦が、ぼんやりと呟く。

占領された土地の奪還作戦に一区切り付き、勇者達はようやく腰を下ろせる……訳もなく、相変わらず依頼を分担してこなす日々が続いていた。

園子ズが「しみじみ〜」と口に出しながら普段通りのスローライフを送る中、愚痴を溢す者もしばしば。

 

「もうそんな時期ですかー。偶にはゆっくり休みが欲しー」

「まさか現代の勇者部がここまでブラックだったなんてなぁ」

「私も、流石にブレイクタイムが欲しいわね」

 

農作業と同時並行で依頼をこなしている諏訪組も、終わりの見えない勇者部活動に根を上げそうだ。

そこへ、勇者部の苦労を誰よりも知っている彼女が口を開く。

 

「部長が部長だからね。部員は来る日も来る日も馬車馬のように働かされるのよ」

「え⁉︎アタシのせいだっての⁉︎悪いのはバーテックスでしょーが!」

「敵が来ない日でも、色んな依頼を持ち込んで押し付けてくるのは誰よ」

「そ、それ、は……」

 

ぐうの音も出ない部長を他所に、球子はダメ元でひなたに提案する。

 

「なぁ、ひなた。神樹様に休みくれって、電波飛ばしてくれよ……」

「神樹様というか……、この場合交渉するなら、大赦でしょうね」

「えっ……。あの仮面の人達、何だか怖いし、物申すなんてとても……」

「でも、心身を休めないとお役目にも支障が……。偶には英気を養う事も必要かと……」

 

水都が恐れ慄くのも無理はない。元の時代では、そういった人物とは一切やり取りがなかったからだ。

と、ここで腰を上げたのは、今現在大赦と関わりのあるこの少年だった。

 

「それなら、俺から大赦に話をつけるってのはどうだ?先日香川を奪還できたのはみんなのお陰だし、それを引き合いに、休暇をもらうようにすれば問題ない」

「良いんですか遊月君?」

「まぁやれるだけやってみるさ。一応、みんなの希望を聞いてからって事にするけど、何かリクエストは?」

 

遊月が皆に問いかける中、目を輝かせて第一声を発したのは、彼女だった。

 

「はいはーい!いつかみたいに、温泉宿でカニの食べ放題したいでーす!」

「「「「「カニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ⁉︎」」」」」

 

これを聞いた、数多くの大食感系勇者達の目の色が変わるまで、さほど時間はかからなかった。

 

「勇者部では、過去にそんな催しが?」

「そう!私達が12体いたバーテックスを全部倒した時、大赦がご褒美に大盤振る舞いしてくれたの!」

「(まぁ、実際には、ご褒美というよりかは、祀られていたが故の、食事の質の向上、というのが正しいんですけどね)」

 

隣で昴(中)が苦笑するように、合宿先の宿で出された豪勢な料理の数々は、その身を神樹に供物として捧げたが故の対価として出されたものであり、なけなしに喜べるものでは結果としてなかった訳だが、友奈にとっては些細な事だったに違いない。思い返せば、当時の友奈は銀(中)と同様に、散華した事によって味覚を失っていた為、カニの味を堪能できていない。つまりは、あの時のリベンジをしたい、という解釈も出来るだろう。

そんな事情があったなど露知らず、球子は2人に詰め寄る。

 

「羨まけしからーん!風、遊月!タマにもカニ!タマにもカニ!」

「……カニタマ」

「?調君、何か言った?」

「……何でも、ない」

 

元々低身長な彼の体が更に縮こまる中、球子に続くように、他の面々も己が欲望を曝け出す。

 

「あたしも食べ放題したーい!」

「食いてぇ!カニだけで満腹になりてぇ!」

「「「カーニ!カーニ!カーニ!」」

「「カ〜ニ、カ〜ニ、カ〜ニ!」」

「いやカニ蟹かにkaniうるせぇな!」

「これぞまさしく、カーニバル!」

「うたのんは口挟まない方がいいよ……」

 

便乗を阻止しようとする水都がため息をつく中、収拾がつかなくなった現場に頭を抱える部長、副部長、そして遊月の3人。

一先ず、『リラックスできて、且つご馳走が沢山食べられる温泉宿』を目標に、その場は解散し、数日かけて、遊月の仲介のもと、風と藤四郎はようやっと、それらしい場所を見繕う事に成功したのである。

これまで多くの困難に立ち向かってきた勇者部が、かつてないほどミステリアスな事件に片足を踏み入れているなど、知る由もなく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた、旅行当日。

大赦が手配したバスに数時間揺られながらも降りたったそこは、山深い温泉宿だった。

 

「まさか本当に実現するとは……」

「何でも言ってみるものですね。凄く良い旅館で、ビックリしました」

「大赦まで動かせるとは、流石と云うべきか」

「いやー、それほどでも、あるけど!」

 

風は鼻高々としているが、実際は遊月による支援が大きい所もあり、その事情を知っている藤四郎は、やれやれといった表情を浮かべている。

そんな彼を遊月が宥めながらも、一向は宿にチェックインし、各部屋に荷物を置いてから、風が集合をかけた。

 

「それでね、この宿の説明だけど……」

「よーしお前達!早速山へ探検に行くぞ!ついてこい!」

「「「アイアイサー!」」」

「人の話を聞けーい!」

 

……が、そこは勇者部。完璧な団体行動など出来るはずもなく、球子の号令でダブル銀、晴人は彼女の後を追うように部屋を飛び出していった。因みに2人の顧問は、用事もあって参加を見送っている。

早くも団体行動を無視している様子にワナワナと風が震える中、美羽が窓の外に広がる光景に、目が釘付けになっていた。秋の山の中という事もあり、紅葉に囲まれているのだが、それにしても、今時見かけないぐらい、木々が生い茂っている。遊月曰く、この紅葉の絶景が、宿の注目ポイントであり、今の時期が見頃なのだとか。故に予約を取るのも随分と難航したのはここだけの話。

 

「それにしても、凄く綺麗な所だね、誠也」

「紅葉の名所って訳か。……にしては、やけに赤っぽいのばっかりが目立つような」

 

誠也が、窓際に落ちていた葉を手に持って眺めていると、杏がふと思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、この山って確か、ロマンチックな伝説がありましたよね?園子先生」

「そ〜そ〜」

「……伝説って?」

「あぁ〜、それはね〜」

 

事前に宿泊先をリサーチしていたであろう、園子ズと杏の口から、この地に伝わる伝説が語られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その昔、この地は手入れもされていない木々が生い茂るだけの、他には何の取り柄もない、村外れに位置する場所だった。

その村は他の土地と比べても広く、小作人の家に生まれた男と、庄屋の家に生まれた女がいたのだが、歳が近い事もあってか、ふとした出会いをきっかけに、親交を深め、村外れの山奥で密会を続けるうちに、遂には愛し合うまでに至ったのだという。

しかし、身分の差がそれを許すはずもなく、秋も深まる夜、村の住人の密偵により、密会の件が双方の家にバレた事をキッカケに、2人は隔離され、女に至っては毎日のように虐げられていたのだという。加えて、庄屋は娘に手を出した男を、人柱として密かに葬る計画を企てたのだという。これを耳にした女は、家を抜け出し、牢に捕まっていた男を助け、役人に追われながらも、駆け落ちを企てた。

しかしその時点で深手を負っていた男は、密会に使っていた場所に辿り着くと、力尽きて倒れ込み、息も絶え絶えに、女と共に心中する事を決意。女もそれに同意し、来世で幸せになれる事を祈りながら、涙ながらに互いの首に懐剣を当てて……。

役人が駆けつけた時には、事切れた2人を中心に、地面だけでなく、辺りに生い茂っていた木々の根本まで真っ赤に染まっていたのだとか。

それから1年の時が経ち、驚くべき現象が起きた。2人が心中した場所を中心に、木々に付いていた全ての葉が、2人の血を吸ったかのように紅色に染め上げられていたのだ。まるで血の海に覆われているかのような光景に、村の者達は畏怖していた。更にその年を境に、村では飢饉や伝染病など、立て続けに不幸が続き、1人またひとりと死ぬ度に、紅色の葉は広がり続け、やがて村人が全滅した頃には、村を覆うように山全体が紅色に染め上げられたのだという。

この一件以来、人々はこの地に紅々と生い茂る木々の事を、人の血を吸って色をつける『血吸い紅葉』と呼ぶようになり、血の味をしめたであろう木々は、今尚人の血を求めて、新たな生贄を待ち望んでいるのだという……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フワァ〜。な、なんてロマンチック……」

「……どこが?」

「や、あのさ。口を挟む気はないけど、それどう聞いてもただのホラーだわ」

「そんな事ないです!紅葉の赤い色は、2人の迸る血……愛の血飛沫なんです!」

 

雪花からのツッコミに、珍しく荒ぶる杏だったが、この時彼女の理性は限界値を超えていた。

 

「血、血が、染め……!葉っぱの赤いのが、血ィ……⁉︎う、うぁ、アァ、ァァァァァァァァァァァァ……ッ!」

「お、お姉ちゃん!」

「!ダメだ想像するな!」

 

樹と藤四郎のフォローも虚しく、風は膝から崩れ落ち、畳の上に横たわってしまった。

 

「あ、倒れた。んじゃ、話も一区切りついたし、私はせっかくだから、山で走り込みしてくるわね」

「え?1人でいくの夏凜ちゃん?」

「本当は銀も誘いたい所だけど、先にもういっちゃってるし。ってか、何でそんな顔してんのよ?」

「そ、それ、は……。だってここ、知らない土地だし、夏凜ちゃん1人で、大丈夫かな、って……」

「な、何でそんな不安そうな顔してんのよ!」

「なら、オイラも付いてって良いッスか?オイラも探検したかったんスけど、行きそびれちゃって。2人いれば問題ないッスから!」

「良いわよ。てな訳で、後よろしく」

「分かった、気をつけてね!」

「いってらー」

「あ、夏凜ちゃん……!」

 

漠然とした不安を胸に抱えながら、夏凜と冬弥を見送る真琴。

一方、他の面々は風の介抱にあたっていた。

 

「こんなにロマンチックなお話なのに、どうして気絶なんか……」

「風先輩は、恋バナは好きでもホラーが苦手だしな。ま、辛い所だな」

 

やれやれといった表情を浮かべる巧(中)。そんな中、兎角は改めて窓の外に広がる紅葉に目を向ける。

 

「血吸い紅葉……か」

 

この地に伝わる、血生臭い伝説。迷信だと自分に言い聞かせつつも、何故か頭の中からその内容が離れない事に、ある種の不安を覚える、スズランスイレンの武神であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風が正気を取り戻したのは、それから10分もかからなかった。

 

「うぅ……。せっかく疲れを取るためにここに来たのに、どうして怪談話を聞かなきゃいけないわけ……」

「私が代わりに謝る。子孫と後輩が、すまない……」

 

代表して頭を下げる若葉。因みに風が気絶している間に、やんわりとではあるが、園子ズと杏には説教済みだ。

 

「はっはっは!あんな作り話に卒倒するなんざ、風も意外と子供っぽいなぁ!」

「女らしいって言いなさいよ!そこがあたしを女子力クイーンたらしめてる所なんだから!」

「……で、話を戻しますけど、風先輩が先ほど言い掛けてた宿の説明なんですけど、今お聞きしても?」

「あぁ、そうだったわね。この旅館は温泉宿としても有名でね。露天風呂に浸かりながらの紅葉は……」

 

と、風が意気揚々に説明していると、全員の端末から、聞き慣れたアラーム音が鳴り響いた。

 

「な⁉︎樹海化警報⁉︎」

「こんな時にも出るのかよ⁉︎」

「皆の衆!構えよ!」

「ぬぁぁぁぁぁぁぁんでよぉ!バーテックスまでどーして空気読まないかねー!」

「落ち着け、風。とにかく迎え撃つぞ」

「油断してました。こんな知らない土地で大丈夫でしょうか?」

「この感じ……。どうやらこの宿を狙っての襲撃という予感がします」

 

巫女であるひなたは冷静に、現状を把握する。

 

「わざわざ俺達をお出迎えってか?律儀なヤローだぜ」

「場所は関係ない。どこであろうと戦う」

 

と、そこへ探検に出かけていた球子、ダブル銀、晴人が姿を見せた。警報に気付き、合流する為に戻ってきたのだろう。

……が、ここでメンバーが欠けている事に気づく友奈。

 

「夏凜ちゃんは?冬弥君も戻ってきてない?」

「!風先輩!」

「あの子達の事だから、きっと我先に飛び出してるに違いないわ。現地で合流しましょう」

「敵の総数が分からないからな……。少し急いだ方が良いかもしれん」

 

そうして、先に戦っているであろう2人に追いつくべく、勇者達は装束を纏い、宿の外に出て紅葉に囲まれた樹海を駆け抜けていく。

……結論から言えば、2人と合流する事なく、戦闘はあっさりと終わりを告げた。先の2人が数を減らしてくれたのだろうか?それとも、こちらの対応が早かったが故に、敵も焦ったのだろうか?

理由もハッキリしないまま、引き続き前衛メンバーで2人を捜索するが、手がかり一つ掴めていない。

 

「変じゃのぉ。いつもなら人を掻き分けてでも前に出たがるじゃろうに」

「間に合わなかったから、決まりが悪くてどっかに隠れてるとか?」

「夏凜ならまだしも、冬弥はそういうのは気にしないはずだ」

「トレーニングのしすぎで昼寝しちゃってるとか?」

「まさか……。そのっちならあり得ますけど」

「てへへ〜」

「そのポジティブさが羨ましい……」

「にしても……、本当にどこ行ったんだ?」

「大丈夫だって!腹が減ったら戻ってくるさ!」

「今夜は食べ放題だしな!」

「カニですか⁉︎」

 

目を輝かせながら、遊月に尋ねる銀(小)。

 

「どうだろうな……。山の中だから、海の幸にありつけられるかは分からないが、それなりに豪勢なご飯は用意されてると思うぞ?」

「「「やったぁ!」」」

 

思わずハイタッチする3人。ともあれ先ずは2人を見つける事が最優先である為、一同は手分けして捜索する事に。

樹海化が解けた後と、さほど変わり映えしない、赤々とした木々のトンネルを潜りながら、2人の名前を連呼する面々。

 

「おーい!夏凜ちゃーん!」

「冬弥ー!返事しろー!」

「かりーん!冬弥ー!」

 

が、友奈、紅希、兎角が大声を出しても、返ってくるのは反響した自分達の声だけ。

 

「おっかしーなー。2人とも、どこまで行っちゃったんだろ?」

「電話にも出ないし……。電波が悪いわけじゃないから、変だな……」

「2人とも、大丈夫かなぁ……?」

「……ダメだ、全く手がかりもねぇ。なぁ千景、こういう時どうすりゃ」

「……」

「千景?」

「!ご、ごめんなさい。……早く部屋に戻って、暖をとりながらゲームをしたいものね」

「?ぐんちゃん、どうし」

 

その時だった。

遥か前方で、つんざくような悲鳴が聞こえてきたのは。

少女の悲鳴だ。只事ではないと思った6人は、目を合わせるとすぐに駆け出す。しばらく進むと、前方に数人の人影が見えた。別の捜索隊のメンバー、誠也と美羽、童山、歌野、水都だ。水都は地面に座り込んでおり、恐らく悲鳴を上げたのは彼女のようだ。他の4人は呆然と前方の地面を見つめているようだ。

一体何を見ているのか、と尋ねるよりも早く、先頭にいた照彦が、何かを視界に捉えた。

 

「あの靴って……!」

 

人だ。人が倒れている。それも2体。その人物のうちの1人の足元に脱げ落ちている靴に、見覚えがあった。バスに乗り込む前、せっかくの旅行だからと、新しく買ってもらった靴だと自慢していた少年がいたからだ。

そして6人は、歌野達の前に出て、改めてその光景を確認した事を後悔する。

唖然とする中、後方から、同じく悲鳴を聞きつけてやってきたであろう若葉、流星、ひなた、雪花、杏、司が、足を止めてその光景を目の当たりにする。

 

「ど、どしたの今の悲鳴……っえ、ぁ、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ⁉︎」

「と、冬弥⁉︎か、夏凜⁉︎マジかこれって……⁉︎」

「し、死んでるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ⁉︎」

 

あのひなたでさえ、言葉を失い動揺する光景。それら全てを、雪花、司、杏の発した言葉が全てを物語っている。

周りと比べると一際太い、紅葉が生い茂る木の真下。そこには……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を閉じて不自然な格好で地面に横たわる、三好夏凜と日村冬弥の全身を、赤い紅葉が包み込み、まるで2人から溢れ出た血溜まりのように、赤々と、禍々しい美しさを表現していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち、血吸い紅葉……⁉︎」

 

今尚上から落ちてくる紅葉が、血溜まりが広がるような光景を作り出す様子に、兎角は思わず口に出してしまう。伝説の再現と言わんばかりの情景に、他の面々が後方から駆け寄ってくる足音が聞こえてくるまで、兎角らは、足を動かす余裕すらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻った後も、収拾がつかない状態だった。

男手で、倒れていた2人を部屋に運び込み、用意した布団に横たわらせたのだが、2人は一向に目を覚ます気配がない。ひなたと美羽に代表して診てもらってもらったのだが、少々の擦り傷こそあれど、ちゃんと呼吸はしているし、目立った外傷は見当たらない、との事。

つまるところ、目を覚さない原因が分からないのだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!2人とも目を覚ましてぇ!」

「友奈!気持ちは分かるが、それ以上ゆすらない方が良い!頭を打ってるかもしれないんだぞ!」

 

泣きじゃくる友奈を引き離そうとする兎角。その一方で、友奈ほどではないにしろ、愕然とした表情の者が2人。

 

「夏凜、ちゃん……!どう、してぇ……」

「冬弥君……!うぅ……!」

 

思わぬ形での再会となり、感情が上手くコントロールできていない様子の、真琴と樹。

兄貴分の藤四郎も、やるせない結末に唇を噛み締めながらも、上級生よろしく、気を落ち着かせながら、状況を確認する。

 

「……最初に発見したのは、童山達だったな。一体、何があったんだ?」

「……正直、ワシらにも分からん。歩いとる途中で急に立ち止まった水都にぶつかって、それでワシも気づいたんじゃ」

「う、うん……。変に埋もれている紅葉が目について、それで、発見した時には、もう……」

「手遅れだった、ってわけか」

 

今だに泣き喚く友奈を見据える藤四郎。これだけ大声が室内に響きながらも、倒れている2人の表情は変わらない。

そんな中、誰よりも青ざめている風が口を開いた。

 

「ま、まさ、か……!この山の、の、呪いが……!」

「ば、バカ言ってんじゃねぇ!んなのあるわけねぇだろ!」

「何かに、襲われたのだろうか……」

「何かって何よ!『誰か』じゃなくて、『何か』って何よぉ!」

「お、落ち着いてください先輩!」

 

半狂乱になっている風を、どうにかして押さえつけるダブル昴。

救急車を呼ぶべきか、大赦に連絡を入れるべきか。このままでは埒があかないという事で、皆の意見を聞こうとする藤四郎だったが、そこへ更なる事態が彼らを襲う。

 

「……タマ、どこ?」

「あ、あのさ……。みんな、球子さんって、見なかったか?」

「え〜?見てないよ〜?」

「一緒に捜索してたんじゃないの?」

「そ、それがさ……。冬弥さん達を探してる途中で分かれたんだよな……」

 

樹海化が解けてすぐの時は、球子、銀(小)、晴人、調の4人は固まって捜索していたのだが、道中で、球子から食後のデザートを賭けて、どちらが先に夏凜達を見つけるか勝負する事になり、調の制止も無視して、点々バラバラの方角に分かれてしまったのだという。それからしばらくして、2人が見つかったとの報告を受けて、球子以外の3人は宿に引き返したのである。

何とも呆れた理由だが、見知らぬ土地で、しかも先の2人の件の事も考えると、早々に球子を探し出さなければならない。

 

「ど、どうしよう……!ひょっとして、球子さんも夏凜さんみたいに……!」

「銀ちゃん、なんて事言うの……!」

「と、兎に角2人はこのまま安静にさせた方が良い。ひなた、水都、美羽さん。2人を頼みます。他のみんなで、球子を」

 

若葉が腰を上げたその時、皆の端末から本日2度目となる警報が。

 

「このタイミングで敵襲⁉︎」

「くっ……!こっから球子を探さなきゃならねぇってのに!」

「よりにもよって……!速攻で倒すわよ!……樹、真琴!2人も準備して……、樹?」

「……んで」

「?」

「何で、夏凜ちゃんの眠りを、妨げるんだ……!」

「冬弥君がこんなに、なってるのに……!どうして、いっつも……!邪魔ばかりして……!」

「いやあの、受け取り方によっては酷い事言ってるみたいに聞こえ」

「「ッッッッ!!アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!」」

 

雪花のツッコミを遮るように、部屋中に轟く、嘆きに満ちた咆哮。鳴子百合とオシロイバナの花弁が、2人の感情に呼応するかのように、勢いよく包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」

 

今回の戦闘においては、敵影の大半を壊滅させたのは、樹と真琴による乱撃だったと言えるだろう。

いつもは冷静な雰囲気の真琴も、鬼気迫る表情で、銃弾を撃ち込み、巨体相手には、ゼロ距離で乱射し、原型を留めなくなるまで引き金を引き続けた。

樹も、軽くリミッターを外しているのか、普段とは打って変わってワイヤーを巡らせ、近づいてくる敵を一瞬にして引き裂いている。

どちらも荒々しく、それでいて味方を巻き込まないように戦っており、犬吠埼姉も、妹の、怒りに満ちた雰囲気を目の当たりにして、声をかけづらい様子だ。

いつもと違う光景に、戸惑いを隠せない一同。否、この2人は違う意味で冷静さを保っていなかった。

 

「タマっち先輩来てない……!ど、どうしよう……」

「タマ……!どこ……!」

 

未だに姿を見せていない勇者の安否に気を取られてしまっているのか、背後から近づいてくる敵に気付いていない様子だ。

 

「危ねぇ!」

 

危険を感じた司が、鉄扇を広げて攻撃をガードする。

 

「大丈夫か⁉︎」

「気を抜くな2人とも!今は目の前の事に集中するんだ!」

「でも……!」

 

心の拠り所でもある球子が、いつも側で励ましてくれる人がいない状態で、上手く戦える自信がないのか、調は不安そうな表情を浮かべている。そんな彼を安心させようと、晴人が一旦後退し、調の手を掴む。

 

「大丈夫ですよ調さん!球子さんが呪いなんかに負けるわけないですよ!球子さんの強さ、俺知ってるから!」

「晴人」

「だから、ここで挫けちゃ試合終了ですよ!だから先ずは!」

「……うん。やってみる。頑張る」

 

いつの間にか震えが止まっている事に気づき、調と杏は気合いを入れ直す。これ以上、後輩に格好悪い所は見せられない。一刻も早く球子を見つけ出すべく、2人は同時に頷き、同時に前へ駆け出す。樹と真琴の妨げにならないよう、的確に敵を攻撃する様子を見て、千景が呟く。

 

「伊予島さんと鳴沢君が、無理をして前衛に……。一ノ瀬君達も含めて、痛ましいわね」

「だが、みんな同じだ」

「?」

「誰だって、大切な仲間の事を想えば、必死に頑張ってしまうものだ……」

「……そうね」

 

棗の言葉に、何処となく納得する千景。そこへ、紅希が駆け寄ってきた。

 

「敵の数も少なくなってるし、ここいらで一掃しようぜ千景!」

「えぇ、やりましょう三ノ輪君!」

 

そうして2人も調達に続き、ものの数分もしないうちに、敵影の消滅を確認する昴(小)。

 

「目標、全て消失!」

「こ、これで……、全部、かな……?」

「やったわね!ナイスよ樹!ちょっと怖かったけど、無事で何より!」

「真琴君もお疲れ様!」

「どえらい攻め込んだなぁ!」

「か、夏凜ちゃんの、分まで、頑張らないと、って、思うと……!」

 

ずっと前衛にいた樹と真琴は、息絶え絶えだ。同じく息が上がっていた調と杏も、息を整えてから、球子を探すべく、足の震えを止めた。

 

「晴人、銀、調。球子と分かれたのは、どの辺りか覚えてるか?」

「えっと……、晴人、覚えてる?」

「いや、森の中だったから、さっぱり……。あ、でも!」

「何か心当たりでも?」

「球子さん、ずっとお腹減ったって言いながら歩いてたんだよな……」

「……つくづく呆れた人」

「取り敢えず、厨房辺りを捜索してみるか」

「名案ですな〜。つまみ食いしてるかもだし〜」

「有り得ない……とも言い切れないのが、球子の恐ろしい所だな」

「これ以上分かれて散策しても、球子の二の舞だ。一先ずは、全員で固まって動くぞ」

 

そうして樹海化が解けて、一同は真っ直ぐ、厨房裏口まで足を運んだ。

 

「あの角を曲がった先が裏口だな」

「ゴミ捨て場は何処かな〜?」

「い、幾ら球子の食い意地が張っていても、生ゴミは漁らないだろう……」

「だ、だな……。そこまでしたら、流石に人としてどうかと思うぞ……」

 

若葉だけでなく、照彦も顔を軽く引き攣らせている。空腹に耐えかねないからといって、一応人としての理性はあると信じたいのが、正直な意見だ。

そんな会話もあってか、少しだけ張っていた気も緩み、先頭を歩いていた調は、躊躇なく角を曲がる。

不意に、何かに蹴躓いて、地面に倒れる調。幸い地面は紅葉に覆われているからか柔らかく、倒れてもすぐに立ちあがろうとしながら、彼は足元に目をやる。

一陣の冷たい秋風が、一同の肌を撫でた。調が、後方にいた面々が、蹴躓いた原因を悟ってしまったのだ。

調が引っ掛けたのは、石段でも、木の棒でも、ゴミ箱でもなく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絨毯のように広がる、新たな血吸いの生贄を祝福するかのような、綺麗な色艶の紅葉の上に、口元から赤い液体を垂らしている、小柄な少女……ずっと探していたターゲット(土居球子)が、静かに横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!た、タマがァ、タマが死んでるぅ⁉︎」

 

風の悲鳴で我に返った一同。杏を初め、数人が駆け寄る者もいれば、無惨な光景に唖然とする者も。

 

「た、球子さん!ウソだ、球子さんが、球子さんがぁ……!」

 

普段は肝っ玉の据わっているファイヤーガールも、この時ばかりは腰を抜かして倒れてしまう。

 

「しっかりしろ球子ぉ!」

「息はしているのか⁉︎怪我は⁉︎」

「怪我、は……。へっ?」

 

不意に素っ頓狂な声を上げる杏。見れば、球子の更地に近しい胸元辺りが、服の色と違って変色しているようにも見える。それも、まだ乾いていない。

 

「そ、それってまさか、血……⁉︎」

「球子さん、何処かに傷を⁉︎」

 

先の2人以上に、目に見える被害の大きさに、高嶋と東郷も動揺を隠せない。球子の小さな体を抱き抱えながら、杏は声を震わせる。

 

「こ、これって、呪い……?私が、ロマンチックだなんて、言った、から……?イ、イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!」

 

自責の念に駆られた、ストックの勇者の悲鳴が辺りに木霊する中、エリカの勇者の視界が歪み始める。音も遠のいていく。

助けられなかった。間に合わなかった。守れなかった。その手を掴めなかった。

あらゆる感情が渦巻く中、少年は、歪みつつある情景を受け入れられぬまま、意識を手放した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そういえばこのストーリーが配信されてた時期は、『勇者の章』辺りで、アニメだと重苦しい時期だったが故に、このストーリーも、それなりに観てて苦しかった思い出があります……。


〜次回予告〜


「普通じゃないわ……」

「何がどうなって……」

「どうしてこの部屋にいたの〜?」

「……大っ嫌い」

「解き明かしてやろーじゃねぇか!」


〜血吸い紅葉殺人事件 〜新たなる犠牲者〜〜

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