結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
今回は千景の料理回となります。
料理といえば、最近YouTubeで『トリコ』が配信されてますが、皆さんはどれほどご存知でしょうか?『料理×バトルもの』という組み合わせが個人的に目を惹かれて、当時の週刊少年ジャンプで、『銀魂』と合わせて注目してた作品でした。グルメ界編に入る前にアニメが終了してしまった事が悔やまれますが、この配信を機に、『BLEACH』の時と同様にアニメの続編を考えてくださると良いのですが……。
何にせよアニオリ要素があるとはいえ、面白い事に変わりはないので、興味のある方は是非YouTubeで。
ほぼ毎日、学内外で部活動に勤しんでいる讃州中学勇者部の面々だが、決まって午後3時になる頃には、殆どの者が部室に戻っている。
その理由は、至極単純。
「結城友奈が、午後3時をお伝えします!」
「て事は〜」
「おやつ〜」
「いよっ、待ってました!」
「先生!今日のおやつは何ですかー?」
「今日のおやつは牡丹餅です。たくさん作ってきたから、皆さんで食べてください」
「イェーイ!」
中学生とはいえ、まだまだ育ち盛り。作業を一旦中断し、机の上に広がる、幾つものお重に入っている和菓子を取り囲むように群がる一同。
「んまい!」
「先日の、桜の形をした和菓子も美味しかったですけど、東郷さんの牡丹餅は格別ですね」
「んんー!やっぱりタマらん!」
「……!……!」
「食の世界遺産なんてものがあれば、候補には先ず挙がるだろうな」
などと、各々が舌鼓を打つ中、作り手である東郷は、次々と牡丹餅を他の面々に配給していた。
「はい、友奈ちゃん」
「ありがとう東郷さん!でもこれ、今日来てない遊月君の分は、残しておいた方がいいんじゃ……?」
「その心配は無用よ。彼の分は家に取ってあるから、後で家に寄ってから、民宿に届けるつもりなの。向こうに着く頃には、遊月君も大赦から戻ってると思うから」
「そうなんだ!優しいね東郷さん!」
「相変わらず東郷の女房っぷりには、頭が下がるわ……」
「だな!」
「そう言うわけだから、遠慮せずに食べてね。はい、そっちの友奈ちゃんも」
そう言って今度は、もう1人の友奈に牡丹餅を差し出す東郷。
「う〜ん!美味しい〜」
「いや〜いつ食ってもうめぇなぁ〜。虜になっちまうぜ。照彦もそう思うだろ?」
「……まぁ、悪くない」
ぶっきらぼうに返事しつつも、黙々と口を動かす照彦。その一方で……。
「……くっ」
何故か悔しげな表情の千景。東郷が残っている牡丹餅を差し出すが、その表情は芳しくない。見兼ねた紅希が声をかける。
「?どした千景?せっかくなんだし食べてみろよ。美味しいぜ」
「いただくわ」
不意に覗き込まれた事に驚いたのか、反射的に牡丹餅を手に取る千景。
「はぁ〜、幸せ〜」
「んめぇ〜」
「(高嶋さんも三ノ輪君も、こんなに幸せそうな顔をするなんて……)」
さも美味しそうに頬張る2人の姿を見て、胸の奥がチクリと痛む感覚に陥る。
それは、元いた世界でも何度か味わった感情。虐げられてきた自分の価値観が一変し、皆に認めてもらいたいが為に必死になって大鎌を振り回しても、たった一太刀で多くの敵を殲滅し、気がつけば自分以上に前に出て活躍している者達に対する、嫉妬心。
「(何だか……悔しい)」
そんな千景の複雑な心情を他所に、おやつタイムは終わりを告げた。
「幸せな時間はあっという間だね」
「ねぇ東郷、明日のおやつは何?」
「それは、ひ・み・つです」
「えぇ?勿体ぶらないで教えてくれよぉ」
銀(中)が答えをせがむ中、不意に園子(小)の寝言が室内に響き渡る。
「ZZZ〜。むにゃ……。わっしー先輩……作った……水羊羹……美味しい〜……」
「えっ、まさか……」
「東郷……?」
「……あ、当たってます。今朝のうちに仕込みをしてますので……」
「うそ〜ん……」
「予知夢か?」
思わぬ形でネタバラシとなってしまったが、毎日のこの時間を楽しみにしている面々にとって、さほど悪い情報ではないようだ。
「明日は水羊羹なんだ!」
「へぇ、楽しみだな!」
「……」
おやつタイムを終え、作業を再開する一同。とはいえ全員が作業に取り掛かるわけではない。買い出しに出かけたり、寮に戻って宿題を済ませたり、特に予定もないので校内をふらついたりと、自由に動き回る者も少なからずいる。
郡千景も、その1人であった。
「(色々な理由で、こっちの世界で特別な時間を過ごす事になったわけだし、どうせなら、高嶋さんと三ノ輪君にも、何かを作ってあげたい。けど……、料理なんて殆どやった事ないし、何を作ったら良いのか……)」
元の世界でも、自分で用意する食事といえば、インスタント系以外に手を伸ばした試しはない。しかしせっかく料理をするのであれば、多少なりとも時間をかけて作った方が、美味しいしあの2人も喜ぶはず。だが今の自分にそんなノウハウはない。
はたと困っていたその時、近くのスーパーで買い出しをしに外出していた風と昴(中)が、怪訝そうに近寄ってきた。
「あれ、千景さん。そんな所で何してるんですか?」
「別に、何も……」
「待ちなさいって。何か悩んでるんでしょ」
「……」
以前にも水着の件で、風に見透かされていた事を思い返し、逃げ場を失いつつある千景。
「あたしでよければ相談に乗るわよ。うどん5杯で」
「……」
「ちょ、風先輩⁉︎さすがにうどんで釣るのはどうかと……」
「じょ、冗談よ冗談。千景、間に受けなくていいから」
「なら、お願いがあるわ」
「「お願い?」」
「私に料理を教えて」
勇者部五箇条『悩んだら相談』。
ましてや同じ勇者部員の悩みとあれば、二言はない。
早速3人は家庭科室へと向かう。この日は部活動がないのか、思った以上に静まり返っている。
「じゃあ料理を教える前に、先ずは千景の腕前を見せてもらうわ」
「腕前……?」
「はい。それによってこちらからどのレベルまで教えるべきか、分かりますので」
共に料理が得意な者同士、考える事は同じだったらしく、一先ず千景の力量を測る所から始まる。
査定内容は至ってシンプルで、先ほど購入したうどん玉を使いつつ、自分なりに調味料を施して出汁を作り、自己流のうどんを完成させる、といったものだ。
「そんなの簡単じゃない。鍋にお湯を沸かして……あら?おかしいわね、火がつかない……。仕方ないわね、こういう時は……」
早速小さな鍋に水を入れてコンロの上に置き、つまみを捻ってみるが、当然元栓を閉めたままなので、何度捻っても火がつくはずもなく。そしてため息をひとつついた千景がコンロから離れ、辿り着いたのは電気ポット。元々湯沸かしていたらしく、ボタンを押してすぐにお湯が出て、うどん玉を入れた器に半分ほど注ぎ、少しだけほぐしてから、風と昴(中)の前に差し出す。
「……これでどうかしら」
「……え、終わりですか⁉︎味付けもなし⁉︎釜揚げ……という感じでもなさそうですけど」
「それ何?」
「カップうどんだけど?」
「……え、それっていわゆるインスタント食品の……」
「あんた……もしかしてカップ麺も料理の内に入ると思ってるタイプ?」
「入らないの?」
素で即答する千景に、2人は軽く頭を抱えている様子だ。
手強い相手だが、勇者部部長として、料理に情熱を注ぐ者として、引き下がる事なく、どうにかしようと試みる2人。
先ず2人がレクチャーしたのは、うどんの茹で時間だった。
「茹で時間の目安は、釜揚げうどんなら10分、かけうどんなら12分、ざるうどんなら、15分程度と、食べ方によって微妙に異なります」
「茹で時間なんて、どれも変わりないと思うけど……」
「ふふん。そう言うと思って、茹で時間の違うものを用意したわ。食べてみて」
と、風が提供したのは、20分茹でたものと、10分茹でたものの2種類のうどん。器に入ったそれらを、味付けもない状態で啜る千景。半信半疑だった千景だが、僅かに目を見開く。
「!……長く茹でた方のは、美味しくないわね」
「そう。茹ですぎるとうどん独特の強いコシがなくなって、麺の旨みが逃げ出してしまうの」
「ただ茹でるだけかと思っていたけれど……、意外とうどんの調理は難しいのね」
改めて、料理の奥深さを知る千景であった。そんな彼女に向けて、風が胸を張ってこんな事を語り始める。
「『うどんは1日にして成らず、うどんを極めし者は世界を制する』わ」
「……や、あの。初耳なのですが」
「うどんを極めし者は世界を制する……」
「あ、あの千景さん?間に受けなくてもいいですからね?多分風先輩は、料理はすぐに上達できるものではない、という事を伝えたいだけだと思うので」
「……ゴホン。先ずは基本のかけうどんから。練習あるのみよ」
そう言って次のうどん玉を用意しようとしたその時、家庭科室の扉が開いて、樹と照彦が姿を見せた。
「あれ、お姉ちゃん?何してるの?」
「樹?それに照彦も。どうしてここに?」
「照彦さんに備品を運ぶのを手伝ってもらって、戻る時にお姉ちゃんの声が聞こえたから。……あ、うどん玉だ」
「犬吠埼さんに、料理を教えてもらってるのよ」
「千景が……?へぇ……」
どちらかといえば料理をするイメージとは程遠い印象がある千景が、料理に興味を示した事に、意外そうな表情を見せる照彦。
「お姉ちゃん、昴さん!私にもうどんの作り方を教えてください!」
「え?で、でも……」
すると樹も、俄然興味を示したのか、2人からの指導を志願。樹の料理スキルの程度を知る姉は、最初こそ難色を示したが……。
「(樹が料理に興味を持つ事はいい事だし……、うどんだったらまぁ、多少茹で時間に失敗しても食べられない事はないし、大丈夫よね)」
「(そうですね。何事も経験が大事かと)」
小声で話し合い、樹もレクチャー相手に加わる事に。
「分かったわ。一先ずお出汁は昴に作ってもらうから、樹は千景と一緒に、うどんを湯がいてちょうだい。照彦も、乗り掛かった船で悪いけど、追加の買い出しを頼めるかしら?」
「……了解(また面倒な仕事、引き受けちまった)」
そうして各々が役割分担を決めて作業に取りかかり、開始から2時間が経過した所で、ようやくそれらしい形には仕上げられるようになった。
「どう?」
「……えぇ、コシがあって美味しい」
「大分上達したわね」
「お姉ちゃん、こっちも湯がき終わったよ〜」
「うん、順調ね。じゃあそこにあるお出汁をかけて、完成よ」
「連れてきたぞー」
そうして茹で上がったうどんに、シンプルな出汁をかけ終えた所で、照彦に頼んで連れてきた、高嶋と紅希が姿を現す。
「どうしたんだ千景?照彦に呼ばれてここに来たけど……」
「わぁ、うどんだ!これ、ひょっとしてぐんちゃんが作ったの?」
「そうですよ。お2人に振る舞う為に作った力作です」
「ただの、かけうどんだけど……」
「何だっていいぜ!丁度腹減ってきたとこだったし!んじゃ、いただきまーす!」
「私も!」
席についた2人は、箸を使ってうどんを掴み、音を立てて啜る。緊張の面持ちで2人を見つめる千景。
「おぉ、んめぇ!美味いぞ千景!」
「……うん、美味しい!ぐんちゃんが作ったうどん、とっても美味しい!」
「ほ、本当に?」
「ほんとに美味しいよ〜、幸せ〜」
「んめぇ〜」
その表情は、牡丹餅を口に含んで見せた表情と瓜二つ。2人の舌を満足させられた事に対する安堵と、2人の笑顔を見られた事による達成感が入り混じり、口元が緩む千景。
その様子を後方で見ていた風と昴(中)も、満足げに頷く。
「良かったです。僕達も教えた甲斐がありました」
「これにて一件落着ね」
風がそう締め括ったその時、妹がツンツンと二の腕を突いてきた。
「お姉ちゃん、こっちも出来たよ」
「はいはーい……って、これ、何?」
「何って、かけうどんだよ?同じのを作ってたんだから」
「いや、かけうどんって言うけどあんた……」
「何故に紫色……?」
風の様子がおかしい事に気づいた照彦が覗き込んだ先には、何故か紫色の液体に沈む、白い麺が入った器が。
「ど、どうしてお出汁が紫色に……?」
「えへへ。せっかくだから、自分なりに美味しくしようと思って、照彦さんが追加で買ってきてくれた調味料を足してみたの。どうかな?」
「(し、しまった……!僕が目を離した隙に、手を加えてたなんて……!)」
「(うぅ……、せっかく樹が作ってくれたもの……、食欲の湧かない色目だけど、食べないわけには……)えぇい!女は度胸!勇者は、根性!」
何故か後輩の口癖を引用しつつ、樹特製のかけうどんを啜る風。昴(中)と照彦が見つめる中、彼女の反応はというと……。
「……え?美味しい」
「なん、だと……⁉︎」
「?何でそんなに不思議がるの、お姉ちゃん?」
「ぼ、僕にも一口……!……ほんとだ。色んな味が混ざって最初は混乱こそしますけど、決して飲み込めない味じゃない……!」
「私も一口ください!……うん!今までに食べた事ない味だけど……!」
「おぉ!これはこれで美味いな!」
高嶋と紅希、照彦も2人に続いて試食するが、見た目さえ気にしなければ、悪い出来ではない。
彼らに続いて試食した千景も、その意外性に驚いている様子だ。
「見た目が奇抜でも美味しいなんて、うどんって奥が深いのね」
「いや、それはちょっと違うとは思いますけど……」
「ま、この際美味しければいっか」
妹の密かな進歩に感心する風とは対照的に、どんな化学反応が起これば、見た目とは裏腹にあそこまでの味を出せるのか、料理の探究者として軽く頭を抱える昴(中)であった。
先日、半年前の聖地巡礼で購入した『樹のカレー』を実食しましたが、奥の方でリンゴの風味があり、まずまずの味でした。母親に見せた時は、その色合いに目が点になってました(笑)。
因みに、購入したその日の事ですが、友人と一緒に高屋神社でご来光を見にきた際、『樹のカレー』のパッケージ部分を企画担当されている方と偶然出くわし、開発に関する貴重なお話を聞けたのは良い思い出です。
とまぁ思い出話はこの辺にして、次回はいよいよ謎大き2人組との会合です。
〜次回予告〜
「攻撃と防衛の両立ねぇ……」
「何故、東郷ばかりが……?」
「私が命令しているからだよ」
「何奴!」
「中学生だもん」
「造反神側の武神だからな」
〜新たなる敵〜