結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
まどマギ映画最新作が再延期となりましたが、10年以上新作を待ち続けていた私には、些細な事だと思えば……。願わくば、現在も上映中の、鬼滅の刃に匹敵するレベルの作画が観れればなと思っております。
今回はタイトル通り、あの漢が活躍します。
愛媛奪還の最中、突如として勇者部の前に立ちはだかった、赤嶺兄妹。未だに全容が掴めない事に、巫女達も頭を悩ませている様子だ。
「造反神がそこまでしてくるとは……。こちらが予想しなかった事態です」
「占いで大変な事が起こる、みたいな結果が出て、気にはなっていたのですが……。こんな事になるなんて」
数日前、若葉が犬吠埼家にやってきた時に、今後の事で占った樹もまた、唸るばかりだ。
「造反神側、か……」
「じゃあこれからは、造反神側の勇者と戦う事になるんだよね」
「実質、PvPって所ね」
「ぴーぶいぴー……?何スかそれ?」
「プレイヤー対プレイヤー。つまりは対人戦、今後はバーテックスだけでなく、私達と同じ人間を相手にするって事よ」
「バーテックスを倒すのは良いけど、対人戦かぁ……」
「どうにも……」
皆が苦悩するのも無理はない。神樹から与えられた力は、本来壁の外から侵攻してくる敵を退ける為の手腕。それを同じ勇者、武神に向ける、というのは良心が傷む。故に躊躇いの気持ちが晴れない。
そんな彼らの葛藤に水を差すかのように、一陣の風が室内に吹き荒れる。
「⁉︎いきなり突風⁉︎」
「まさか……!」
窓も扉も閉め切っているはずの室内に、突風が吹き荒れるとは考えにくい。もしやと思った藤四郎が何かを言おうとする間もなく、その人物は皆の中心地に忽然と姿を現した。
「みんなー。もしかして私の噂をしてたのかな?どーも、赤嶺友奈です」
「ど、どうも……って、赤嶺さん⁉︎」
「何しに来やがった!」
早速喧嘩腰の司を無視して、その目線は若葉の隣にいる人物に向けられている。
「あはは。どうせなら、上里ひなたさんも見ておきたくて」
「む!ひなたに何をするつもりだ!」
「ふむふむ。若葉さんと並ぶとお似合いだよ」
「お似合いって、そんな事言われなくても、自覚しています」
「……さすが、強力な伝説を残した人だね」
尚も堂々たる姿勢に、赤嶺友奈も一瞬だけたじろぐが、すぐに何ともないような姿勢となる。
「良い度胸してるわねーチミィ。この勇者でみーっちりの勇者ルームに乗り込んでくるなんて」
「およ。もしかして私を捕まえようと?無理だよ、捕まえる事はできない。私も攻撃意思はないけど」
「……どうにも分からないわ。敵と言いながら、今はあまりあなたから緊張感が伝わってこない」
東郷がそう呟くように、今の所、彼女に敵意は感じられない。
「今は戦う気ないから。私はね、試合開始ってなったら勝つ為に一生懸命になるけれど、ゴングが鳴る前から襲いかかったりはしないよ。今来てるのは、挨拶の続き」
「樹海化していない今は、戦闘意志がないという事か」
「はい!」
「なんか急に返事が良くなったな」
何故か棗からの問いかけに対しては、ハキハキとしている様子の赤嶺友奈。それを見て、球子は一言こう呟く。
「読めない奴だ。2タマポイント没収だな」
「どういう基準⁉︎」
「一つ知っておいて欲しいけど、私はあなた達を倒す気はあるけど、戦闘で殺めようとは思ってない」
「私達を殺める気がなくても、神樹様が分裂してしまっては、我らにとって死活問題ですが?」
須美が真面目な顔で詰め寄ってくる様子が面白おかしいのか、肩をすくめて呟く赤嶺友奈。
「……まぁ何が言いたいかって、対人だから暗くならず、全力でぶつかってきてねってこと。私とお兄様が負けを認めれば、私達友奈に関する謎も、造反神様の正体も、ぜーんぶ教えてあげるよ。だから存分に腕を競い合おうよ?こちらの数の不利は、疑似バーテックスで埋めるから」
「?何だか不思議な人だね〜。まるで対人に関しての不安を取り除くように……」
流石の摩訶不思議少女、園子(中)も、目の前の少女の思考が上手く掴みきれない様子だ。
「じゃあそういう事で、グッバイ。次の神託の日……樹海化がゴングだよ。そしたら全力でいくから」
「それでほいそれと逃がすと思ったか?」
だがそうは問屋が卸す筈もなく、照彦が背後に周り、首根っこを掴もうとする。その時点で、千景も足を掴んで逃すまいと行動を起こしていたが……。
「だから無理なんだってば。戦いの決着はしっかりと樹海でつけようよ。じゃあね」
「また突風……⁉︎」
再び突風が吹き荒れ、一瞬視界を遮ってしまった事で、彼女の姿を見失ってしまう。
「逃げられた……!こっちは足を掴んでたのに」
「……チッ」
「嵐のように去っていったわね。何なのよ一体……」
足取りも掴めない以上、これ以上の干渉は無駄だと悟った一同は、今し方起きた件を報告するべく、職員室にいた顧問、副顧問を呼び出し、赤嶺友奈からの宣戦布告を報告する事に。
「突風と共に出現……か。文字通り、掴みどころの難しい相手だな」
「はい。……何れにせよ、赤嶺兄妹に関しては、樹海で捕まえて話を聞く事で対応、というのが最適だと思います」
「うむ、それが最善だろう。素性も目的も分からない今、細かい事を考えていても仕方あるまい。安芸君は」
「私も、異論はありません」
という事で、2人の大人の了承も得て、次の戦いにて改めて柔軟な対応を、という結論に至る。
「敵である事は間違い無いと思うんだけど、一応友奈のわけだし、非道な感じには見えないのよね」
「夏凜ちゃんもそう思う?」
「早めに捕獲して、色々と教えてもらいましょう。そうしましょう、決まり!」
皆が俄然やる気になる中、同じ名を持つ2人は、こんな会話を繰り広げる。
「私達に関する謎だって、高嶋ちゃん」
「何なんだろうね〜。気になるね、結城ちゃん」
「でーんと構えてる辺り、流石だな」
現状、最も関係性の深そうな2人がさほど気にしていない様子に、いよいよ感心すら覚える誠也。
その一方で、晴人と須美はというと。
「須美、俺達も友奈さんの力になろうな」
「えぇ、それは勿論。晴人君、赤嶺……さんは競い合おうと言ってきたのだから、遠慮はしなくていいからね」
「おうよ。つーかそんなに心配する必要あるか?」
「晴人君は優しいから……」
「な、何照れるような事言ってんだよ⁉︎心配すんなって」
まさかそこまで気にかけて貰えるとは思っていなかったのか、顔を紅くする晴人。これも、未来の自分達のスキンシップを見続けてきた影響なのだろうか。
「私なんて敵である以上、気にせず槍を連射しちゃうけどな〜、ねぇ棗さん?」
「うん、普通に戦うが、対人なんだから、少しぐらいは相手を気にすると思う」
「そ、そうだよね勿論。あ、さっきの発言は取り消しで。私の爽やかなイメージが危ないから」
「……今更?」
そう呟く調の声色は、周囲のざわつきに掻き消されたのは、言うまでもない。
「なぁ、友奈」
「?どしたの、照くん」
解散後、寮へ戻る前に、買い出しに出かける事となった照彦と高嶋。不意に照彦が、周囲に人がいない事を確認してから、口を開く。
「その、本当に大丈夫か。自分と似た人間が、敵として現れてよ……」
「驚いたけど、赤嶺ちゃん悪い人に見えないし、何だか少し私に懐いてくれてたし。きっと色々と事情があるんだよ。だから早くお話したいな」
「優しすぎるっつうか……。まぁ、あの2人にも何か事情があるんだろうな」
「別に私が赤嶺ちゃんの先祖でも良いんだけどね。若葉ちゃんにベッタリな園子ちゃん可愛いし」
「……あいつはあいつで苦労してるんだよな」
徒労だったか、と心中で呟く照彦。
だが事情があるにせよ、仮にも隣を歩く彼女に危害を加えようものなら、例え相手が同じ顔であっても、容赦はしない。
「(ま、それもこれも、相手の出方次第だけどな)」
「……所で、友奈」
「?どしたの、兎角」
同時刻、次回の人形劇に使う備品の整頓をする為に、学校に残っていた兎角が、同じく残って手伝っている友奈に声をかけていた。
「お前、本当に大丈夫か?何ていうか、ちょい悪風味な赤嶺が出てきたけどさ」
「うーん……、色々と気にはなるけど、お友達になれる気もするし、大丈夫だよ!」
「相手側も競い合おうとか言ってたしな……。にしても、まるで漫画だな。河原で勝負して分かりあう展開ってやつ」
「あぁ、前に兎角が見せてくれた漫画にも、そんなシーンあったね!」
などと無邪気にはしゃぐ幼馴染みを見て、内心ホッと一息つく兎角。
「ま、お前がそこまで言うなら、無理して止めるつもりないけどさ。拳で語り合う、ってのも悪い話じゃない。お前のガツンとぶつかるやり方で、勇者部を繋げてくれたのは、俺が一番よく知ってるつもりだ。思いっきり、気が済むまでやってみろよ」
「ありがとう兎角!よーし、待っててね、赤嶺ちゃん!」
無論兎角とて、心配はしている。以前にも東郷の暴走を止める為、同学年の仲間達と共に対人戦となった経験はある。
だが今度の相手は同じ人間で、同じ顔。いざとなった時、果たして幼馴染みは、あの時のように迷わず拳を握れるのだろうか。
「(その時は、俺が前に出てやるしかない。友奈が曇る顔は、全員のポテンシャルを下げかねないし)」
そして『ゴング』は、丸一日経った頃に鳴らされた。
ある程度覚悟はしていた事もあってか、全員準備万端だ。
「さー皆の衆、出撃準備は出来たかな。愛媛奪還戦、新たなるラウンドよ」
「いつでもいけるぜ!」
「正直、高嶋さんに似た人への攻撃は気が進まないけど……」
「神託は激戦を予想しています。ご武運を」
「誠也、みんなも、気をつけてね」
「あぁ、行ってくる」
そうして勇者、武神を送り出す巫女達。その後ろ姿を見届けた後、彼女達の間で最初に繰り広げられる会話は、いつもと変わらぬものだった。
「もどかしいですね。戦いたいのに戦えないと言うのは」
「そう、だね。それに……」
「「?」」
ただし今回は、美羽の口からはそれに+して、この話題が出てくる事に。
「2人の友奈ちゃんは、それ程気にしてない雰囲気を出してるけど、内心赤嶺さんの事が片隅に引っかかってそうで……」
「さぁさぁ、讃州中学勇者部が来たわよ!赤嶺兄妹、いざ勝負!」
「はいはーい、そんなに大声出さなくったって、はい、バーン」
待ってました、とばかりに上空から降り立つ赤嶺友奈。一瞬怯みはしたものの、直ぐに臨戦体制に入る一同。
それを確認した赤嶺友奈が指をパチンと鳴らし、地響きと共に、敵影が姿を見せる。
「!12時の方角から、敵影多数!」
「遠くからバーテックスが沢山出てきた……!」
「これが敵の第一陣という事?」
「消耗させてから本命が来る気か」
「確か数の不利は、バーテックスで埋める、とか言ってたな」
「ふふーん。さぁてどーかなー」
相変わらず思考が読みきれない部分もあるが、この大群を無視する事は出来ない。
「どの道敵は倒す必要があるわ。三ノ輪君、行きましょう」
「おっしゃあ!三ノ輪紅希様に、続けぇ!」
「三ノ輪銀がお供しますよ、ご先祖様!」
「あたしも!」
そうして4人を筆頭に、バーテックスの大群と衝突する一同。
「「ハァァァァ!」」
「うふふ。同じ友奈同士、拳で語り合うのも悪くないね」
「お生憎様!」
「俺達もいるぞ!」
「おぉっと、そっちも来ちゃったかぁ」
ダブル友奈だけでなく、兎角と照彦も援護する形で参戦し、4人で赤嶺友奈を囲む形となったが、対する彼女は臆する事なく、連携攻撃をいなしている。対人戦を経験してきたと豪語するだけあって、攻撃にまるで迷いがない。
しかし4人は、あくまで足止めに徹しているに過ぎず、残りの面々はさほど時間をかける事なく、バーテックスを殲滅している。
「よーし、敵撃破!これぞ業火の女子力!ってまだ来るの⁉︎粘着質は嫌われるわよ」
例の如く、モテる女らしさ感を醸し出す発言を、周囲に撒き散らす風を他所に、遊月は先程から感じていた違和感を口にする。
「可笑しいな……」
「?どうしたんスか、遊月先輩?」
「……赤嶺来人は、何処にいるんだ?」
「言われてみれば……」
遊月の指摘を受けて、ハッとなる樹。
どこを見渡しても、バーテックスの残党の他に、赤嶺友奈と対峙するダブル友奈、兎角、照彦。もう1人の、赤嶺の名を持つ者が、影も形も見当たらない。彼の性格上、高みの見物をしているのかと思ったが、それにしても、その気配すら感じられない。
不意に雪花が、不適な笑みを浮かべて呟く。
「これさー、消耗以外の……何か企んでいるよね。山がそう語りかけてる」
「山が語りかけてくるなんて、あまり考えられないが、凄いんだな」
「……一応、海といつも会話してる棗さんのネタだったのに」
「消耗以外の作戦……」
当の本人に拾ってもらえず、若干萎えた様子の雪花。
一方、そんな彼女の発言を受けて、1人唸っていた誠也だが、不意に表情を一変させるまで、さほど時間はかからなかった。
「やられた……!」
「へっ……⁉︎」
「うふふ。作戦成功ーっ。本命はこーっち」
そんな彼の表情を見て、赤嶺友奈も、してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべる。
不意に踵を返して、彼らの帰る場所に向かおうとする誠也だが、バーテックスの大群が、彼の進路を遮る。
「!邪魔すんなぁ!」
「ど、どうしたんだ誠也⁉︎」
「あいつら……!あからさまに宣戦布告したのは、俺達を樹海に誘い出して、足止めさせる為だったんだ!」
「足止め……って、あいつらの目的は何なんだ?」
「!まさか、赤嶺来人さんが今いるのは、ここじゃなくて……!」
「ピンポーン。でも気づくのにちょーっと遅かったかな」
杏も、赤嶺兄妹の真の狙いを悟ったのだろう。慌てて若葉に声をかける。
「若葉さん!2人の……赤嶺来人さんの狙いは、部室にいるひなたさん達です!急いで戻らないと!」
「何っ⁉︎」
「ワッツ⁉︎」
それを聞いて、背中合わせで敵と向かい合っていた若葉と歌野が、一閃で退路を開き、杏達と合流する。誠也と共に部室がある方へ向かおうとするも、バーテックスにその隙間を埋められてしまう。
「敵の狙いが本拠地への奇襲である可能性……!これは急いで戻らないと……!」
「でも、敵が意図的に東郷先輩ばかりを狙ってきていて……」
「カガミブネを使わせないつもりか!」
「やらせるかぁ!」
もう一つの移動手段を担う東郷にも、敵の刃が迫っており、遊月を初め、後衛組が対処にあたっているが、時間を稼ぐ間もなく、また休ませる間もなく、勇者達を翻弄している。
その光景を見て、勝負ありと悟ったのか、勝ち誇ったような表情を見せる赤嶺友奈。
「勝つ為なら、何でもやるって宣言してたもんね?だから卑怯だなんて思わないでねー。お兄様の方も、もう仕事も終わってこっちに向かってる頃だろうし、もう少しだけ相手してあげるからさ」
「確かに危機的状況だけれど……、私達だって、無策だったわけでは無いわ」
「ふぇ?」
今度は、彼女が表情を変える番だった。
意味深な発言をした東郷も、そしてその隣にいる遊月も、他の者達と比べて、少しばかり落ち着いているように見受けられる。
何かがおかしい。赤嶺友奈がその訳を問いかける間もなく、遊月の口から、こんな発言が。
「切り札は、こっちにもあるって事だよ。それも、とびっきり規格外のな」
「とびっきり……?向こうの戦力は全部こっちに引き寄せたし、今更あの子達に何が出来」
そこまで呟いた直後、不意に何かを感じ取ったのか、赤嶺友奈が顔をあげて、部室がある方の一点を見つめる。
「この感じ……!まさか、お兄様……!」
ここで、時は少し前に遡る。
勇者達の無事を祈っていた最中、不意に部室が大きく揺れ始めたのだ。
「わっ⁉︎何々⁉︎」
「何が起きたの……⁉︎」
最初は地震の類かと思ったが、それにしては揺れが断続的すぎる。まるで、大きな質量を持った何かが、こちらに迫ってきている。
そしてその感覚を、ひなたは知っている。天を覆い尽くすように、白い神の使いが世界に降り立ったあの時と、同じ感覚。
「これは、敵襲……⁉︎激戦という神託が出ていましたが、まさかこちらが襲われるとは……!」
「ま、そういうこった」
気怠そうな声が、彼女達の耳に響き渡る。ハッとなって振り返ると、窓枠に腰を下ろしている、ビオラの武神の姿が。二手に分かれて襲撃するのが、赤嶺兄妹の作戦だったようだ。
「こんな作戦を使ってくるなんて……!」
「予め言ってたろ?ゴングなったら、何でもアリだってよ。……来な」
「!バーテックスが……!」
「この世界なら、これくらいどうって事ねぇよ」
淡々とした口調で、窓の外を覆い尽くすようにバーテックスを呼び出す来人。造反神側とはいえ、人間にそのような芸当が可能だったとは。流石のひなた達も、茫然自失。相手が女だからといって、手加減する気はさらさら無いように見受けられる。無論、命乞いなど聞き入れる様子もない。
「(このままじゃ、ひなたちゃん達が……!私が、囮になる分には問題ないかもだけど、この数じゃ、2人を逃せない……!どうしたら……!誠也……!)」
ひなたと水都の前に立つ美羽が、一歩ずつ下がっていっても、直ぐそこには部室の壁。もう時間は稼げない。
絶望が、眼前まで迫り……。
「待ちな、赤嶺来人」
「……あ?」
されど、希望は舞い込む。
大きな音を立てて、扉が開き、そこから堂々たる姿勢で、巫女達と来人の合間に割って入る、筋骨隆々の、サンダル姿の男。
武神が駆けつけたのか。そう思っていた来人だが、目の前にいるのは、武装した様子が一切見受けられない、顎に髭を生やした大人。
「「「源道先生!」」」
「子供に手をあげるのはちとばかし気が引けるが……、うちの大切な部員に手を出そうってんなら、お前をぶっ飛ばす!」
「……何しに来た?死ぬ気か?」
「大人だって、ただ指を咥えて待ってるばかりじゃない。お前達がこれまでとってきた行動。そして先の宣戦布告。お前達がこうして奇襲を仕掛けてくる事は、大方気づいていた。そこで遊月君とも相談し、敢えてお前達の作戦に乗っかる事で勇者、武神を動かし、お前をいぶり出した!」
「目には目を、陽動には陽動、か。ダルい奴だ……」
だがこちらに向けられているその瞳には、強い意志が宿っている。本能的にそう感じた来人が、重い腰を上げた。
「……ただの顧問に、何が出来るってんだ?」
「漢にも譲れないもんがあるのさ。一汗かいた後で、風呂にでも浸かりながら、ゆっくり話を聞かせてもらおうか!」
「……やれ」
相手が誰であろうと容赦しない。
来人が指を向けると、窓ガラスを割って、星屑が部室に侵入する。思わず身構える巫女達。水都も悲鳴をあげそうになるが、
「フンッ!」
星屑が口を開けるよりも早く、振り上げた左拳が直撃し、入ってきた窓ガラスから、破片を撒き散らして押し戻される。
「ここは皆の拠点だからな。場所替えだ!」
そう叫ぶが早いか、来人めがけてタックルをかます源道。星屑が吹き飛ばされた衝撃もあってか、不意を突かれた来人と共に、割れた窓ガラスの空間から、外へと飛び出す。
一瞬固まっていた巫女達だったが、かなりの高さから地上へ落下した源道の安否が気になり、慌てて窓から下界を見下ろす。見ると、怪我をした様子のない源道が、来人と対峙している光景が。どうやら外にいた星屑をクッション代わりにして地上に降り立ったようだ。
「ま、まさか生身でバーテックスと⁉︎」
「!いけません!直ぐに源道先生を助けにいかないと……!」
「その心配は無用です」
慌てて部活を出ようとした巫女達の前に、もう1人の顧問、安芸が姿を見せる。彼女も敵が巫女達を狙っていると判断して、万が一に備えて待機していたようだ。
「……窓ガラスの修理代が嵩みますが、まぁいいでしょう」
「そ、そんな事気にしてる場合ですか⁉︎このままじゃ源道先生が……」
「時間稼ぎをするだけなら、源道先生でも問題はないはずです。あの人も武神を育てる傍ら、それなりに鍛えてはいらっしゃいますから。それに彼は、2年前の瀬戸大橋跡地の合戦後、何らかの要因で勇者、武神が反旗を翻した際に、その暴走を止める為の切り札として、大赦に隔離されていた経緯があります。当然、武神と対等に渡り合うだけの術を有している」
「そ、そんな事って……!」
にわかには信じ難いが、今更巫女が駆け付けても、彼の手助けにはなり得ない。そうなれば、後は勇者達が異変に気付いて戻ってくるまで、ここで源道が耐え切るのを祈るしかないのだろう。
「ウォォォォォォォォォォォ!」
向かってくる星屑を相手に、懐に潜り込んで吹き飛ばしたり、口を大きく開けて噛み付いてくる個体には、後ろに下がって回避し、カウンターとばかりに拳を当てる。吹き飛ばされて地面を転がる星屑は、消滅こそしないが、パンチを当てられて怯んでいるのか、直ぐには起き上がってこない。いつの間にか、数で覆い囲んでいた星屑に、綻びが生じつつあった。
舌打ちしつつも、今度は来人自らがトンファーを振り下ろす。が、源道はピンポイントで、左手でこれを掴む。ならば、と来人は左手に持つトンファーの、長い方を持ち、短い方を振り下ろす、鎌術の容量で攻撃を仕掛ける。対する源道は予備動作なしに、右足を振り上げ、逆にトンファーを上空に弾き飛ばした。
「!」
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
空いた懐に、大きく振りかぶった右拳が直撃。妹のそれと大差ない一撃が、来人の体をくの字に曲げて、地面を転がった。砂埃が晴れて、体を震わせながら起き上がる来人。武神と言えど、精霊バリアのような機能は搭載されていないのか、大ダメージを受けたのは間違いない。
流石のクールな少年も、この展開に困惑の色を隠せない。
「あんた、何者だ……?」
その問いかけに対し、彼は鼻を鳴らしてこう答える。
「アクション映画鑑賞が趣味の、ただの体育教師だっ!」
「っ……。その肩書きは、無理あるだろ……」
ツッコミ、とも程遠いような呟きを見せる来人。
その様子を見守っていた巫女達も、只々圧倒されっぱなしだ。
「これ程とは……圧巻です。正に切り札、ですね」
「な、なんで神樹様は、あんなに強い人を武神に選ばなかったのかが、不思議に思えます……」
「こればっかりは分からないね……」
「……ダル」
いよいよ面倒事になってきたな、とボヤく来人。思わぬ伏兵の存在を見誤ったが故に、流れが向こうに傾いてしまっているようだ。
と、そこへ。
「お兄様ぁ!」
異変を察知して、持ち場を離れた赤嶺友奈が割って入り、その風圧で少し後退する源道。
「お兄様、大丈夫ですか⁉︎」
「皆、無事⁉︎みーちゃん!」
「うたのん!」
「美羽!」
「誠也っ!」
「ひなた……!良かった」
赤嶺友奈の抑えが止んだ事で、他の面々も学校まで戻ってくる事ができ、巫女達の無事を確認する。
「戻ってきたか……」
「しょうがないや。最大戦力プラスの……私達兄妹で相手だよ」
まだ勝負はついていない。
多少の計算違いはあれど、依然としてバーテックス達は健在。源道の攻撃で怯んでいたバーテックス達も再び戦況を立て直そうとしている。
一方、勇者達が帰還した事で、自分の役目は果たしたとばかりに後退する、今回の立役者。
「よく戻ってきてくれた!餅は餅屋に、現時点でバーテックスに対して最も有効な対抗手段を取れるのは、勇者、武神でしかないからな。ここからは頼むぞ!」
「礼を言うのはこちらの方だ!これだけの敵を前にして堂々と立ち向かう姿勢!正に勇者!」
「さっすが師匠!」
「俺達も負けてらんねぇ!俺達を出し抜いてひなたさん達に手ぇ出した事、後悔させてやる!」
「こちらも最大戦力で相手できそうだ。捕獲するぞ」
流れを引き寄せた事で、ガンガン攻め入る棗達。
校庭を舞台に、激しい撃ち合いが繰り広げられるが、結果は火を見るよりも明らかだった。
「全部……倒したぁ!」
「ん〜、今回はダメかなぁ。お見事だね」
「……樹海が戻るな」
流石にこれ以上の持ち合わせはなかったらしく、白旗を上げる赤嶺兄妹。
樹海化は解けたものの、依然として装束を解除しない一同。再び逃走する前に武力行使で止めに入ろうとしているのは明白だ。
「随分神妙にしているじゃないの。全くあんたらの作戦には肝が冷えたわよ」
「でも負けたよ。流石現実でも勇者をやってた人間は手強いね」
「あなた達は違うの?そんな服を着ているのに」
赤嶺友奈の言い方に、首を傾げる千景。
「私達は勇者服を着て戦ってたタイプじゃないんだ。神樹様から直接力をもらったというか。西暦時代に覚醒した勇者様なら分かるんじゃないかな?初めて勇者の力に目覚めた時、力が湧いてきたよね?」
「あぁ、その力で危機を乗り越えて、私達は巫女として覚醒したひなたの先導もあって、島根から香川まで戻ってきたんだ」
当時の事を思い返す若葉。他の面々も、思い当たる節があるらしく、軽く頷く。尤も、杏や調のように、力を得た感覚はあったものの、目の前の恐怖に支配されて殆ど発揮できずにいた2人や、運良く(?)戦いに巻き込まれなかった千景は、その実感はなかった様子だ。
「私達はそういう力で戦ってたから、勇者装束はなかったんだ。私達の装束は、こっちの世界に召還された時に造反神が用意してくれたものだよ」
「……一体お前達は何者なんだ。赤嶺といえば、沖縄で見かける事が多い苗字だが」
それは、この場にいる勇者部員が最も気になっていた疑問。沖縄出身の棗が代表して問いかけると、兄妹はいともあっさりと答えた。
「……あぁそうだ。赤嶺は、元々沖縄の人間」
「沖縄を脱出する時に、ある勇者に守られて、無事に港を出て、四国へ生き延びた……」
「そうなのか……」
「いや、話の流れ的に、ある勇者ってのは、棗さんの事だと思いますよ」
「そうなのか……?」
雪花の指摘に思わず前のめりになる棗。確かに神聖なる沖縄に、天から異形の怪物が襲来した時も、多くの島人を安全な所へ戦いながら誘導した事はあったが、流石に全員の顔や名前を覚えているわけではない。
故にその時助けた島人の末裔と、こうして敵対している事に、複雑な心境ではあるだろう。
「正解。お姉様、お噂通り凛々しい。こうして話せて良かった」
「お、お姉様⁉︎」
兄同様に尊敬の眼差しを向けられて、珍しくたじろぐ棗。思わずメモを懐から出そうとする園子(中)だったが、それを察したであろう先祖に睨まれ、無言のまま戻してしまう。
「今回はそちらの勝ちだけど、次はもっと激しく攻めてみせるから」
「次って、まさかまた……!」
「今回は一本取られたから、幾つかの情報は話したけど、まだまだこれからだよ」
そう呟くと同時に、何処からともなく突風が。先日と同じ現象だ。
「撤退する気か!」
「させるかよ!」
そうはさせない、と兎角が素早く行動に移すが……。
「と、兎角!私だよ!」
「何これ変わり身⁉︎」
確かに手応えはあったが、目の前にいて、掴まれた腕を目線で辿った先には、困惑した様子の幼馴染み。
「それじゃ、まったね〜」
それだけ告げると、2人同時に姿を消してしまう。
「アカン!また逃げられてもうた!」
「おのれ妖の術……!一度負けただけでは分からないというの」
「こりゃ赤嶺が負けを心から認めるまで、とっ捕まえる必要がありそうね」
腕を組みながらそう呟く風。足取りが掴めない以上、向こうから現れた時を狙って仕掛ける他ないだろう。
「逃げられはしたけど、さしあたり愛媛の一部は解放されたわけだし、今回の作戦も成功だよ」
「不思議な敵が現れたが……、要は今後とも今まで通りにやっていけばいいわけだな」
「その通りだ!敵も手段を選ぶ事なく、こちらに牙を向けてきている。だが、どんな手を使ってこようとも、互いに支え合う事の出来る人間には、如何なる逆境においても立ち向かうだけの力を有しているのもまた事実。勇者……もとい人間の底力を、造反神に見せつける。それが必ず勝利への活路となる!先はまだ長いが、気を引き締めていくぞ!」
「「はい!師匠!」」
2人の弟子が、ここぞとばかりに声を張り上げる。
顧問が語るように、本当の戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
久々の長文となりました。
前書きで話したまどマギもそうですが、今年は『リリカルなのは』の新作、『魔法少女育成計画』の実質2期も放送されるので、魔法少女尽しの一年になりそうですね。改めまして、本年度もご意見・ご感想等、ドシドシお待ちしてます!
〜次回予告〜
「な、何で私を見るの……?」
「用意いいなオイ」
「ごめんなさいでした」
「あぁいうのって、大きい方が良いのかしら……?」
「諸君らの健闘を祈る!」
〜悪夢の身体測定〜