結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
今回はいよいよ勇者であるシリーズの醍醐味(?)、精神世界での一戦となります。原作よりは少し端折っている箇所もありますが、ご了承ください。
……それにしても、キュアアルカナ・シャドウの人気は相当なものですね。もうこれセーラームーンやまどマギの登場に匹敵するレベルの社会現象ではなかろうか……。
突如として勇者達の前に出現した、変身前の分身。赤嶺 友奈曰く、今回は精神的な戦いが待ち受けている事となるが……。
「今度は自分との戦いってわけか……」
「よく分からない所もあるけど、成せば大抵何とかなーる!」
「何だろうと打ち破ってやるわ」
友奈や千景を初め、皆が何処からでもかかってこい精神で身構える中、赤嶺 友奈が最初に選んだターゲットは……。
「それじゃあ、いってらっしゃーい」
「……⁉︎うぅ、あぁ⁉︎」
「!須美!」
「おいどうした⁉︎」
不意に赤嶺 友奈の隣にいた須美の分身が、予備動作なしに接近し、オリジナルと重なったかと思うと、須美の目から光が消え、直立したまま動かなくなってしまう。晴人や銀(小)からの呼びかけに応じていないのを見て、遊月は息を呑む。
「まさか、これが……」
「そう。精霊との対話が始まったんだよ。彼女の意識は今、ここじゃなくて精神世界にいる」
「戻ってくるには、問いかけに答えるか論戦に打ち勝つか、だ」
「何とも奇妙奇天烈な妖術……!」
流星が妙に関心する中、銀(小)は怒りを隠せない。
「こんのぉ!須美を解放しろ!」
「無駄だ。自分の事は、自分でケリつけろ」
そんな彼女の、斧による攻撃を難なくいなす来人。
「これ以上攻撃しても無駄って事か」
「だろうな。ずっとこの罠を作る為に、時間を割いていた事を踏まえると」
到底外からの物理的な干渉で、どうにかなるものではない。
ならば、と小学生武神の隊長は、迷う事なく武器を手放し、須美の手を握る。
「俺は……信じるぜ!」
『無』一色の世界。
目を開けた鷲尾 須美の第一印象が、それだった。周りには晴人達の姿はない。つまりは。
「……!ここが、私の精神世界」
『その通りよ。私は貴方の合わせ鏡。問うわ、鷲尾須美』
眼前には、造反神側の精霊という、自分の分身。赤嶺兄妹の言葉を信じるなら、相手は論議によって仕掛けてくる類だ。どんな攻撃を仕掛けてくるのか身構えていると、彼女の口から出た質問は、オリジナルを困惑させるのには充分だった。
『貴方にとって、市川 晴人とは何?目の上のたんこぶかしら?』
「な、何をいきなり……。晴人君は、友達よ」
『そう、それが解答ね。もし今の意見が偽りであった場合、貴方の魂に寄生させてもらう』
妙な脅し文句だ、と思いつつ、身構える須美。対する精霊は、ジッと目線を合わせている。それが逆に不気味で仕方がない。
『私は今、貴方の精神世界にいる。だから貴方が体験した記憶を映画のように眺める事が出来るの。……そうだったわね。お役目が本格的に始まってすぐに、勇者と武神から各一名ずつ、隊長を決めた事があった。先ずそのっちが選ばれた時、それは血縁によるものだと思い込んでいたけど、続いて武神の隊長に晴人君が選ばれた時、貴方はさぞ困惑したでしょう。何故富も地位も格下の彼が選ばれたのか』
「……」
『程なくして、その理由が実力、そして精神力の強さからの査定だと分かった。……その時からだった。己の実力不足を嘆き、貴方が彼に劣等感を抱き始めたのは』
「何を言うの。晴人君は凄いのよ。ただそれだけよ。だから何度でも言うわ。晴人君は、大切な友達よ」
『……6人でお役目を果たす時、自分が一番足を引っ張っているかもしれないという恐怖がある。その恐怖を与えているのが、ある意味出来のいい仲間達に他ならなくて?だから貴方は彼らを妬んでいるのでしょう?その負の感情。向ける相手を、それでも友達とい』
そこまで聞き役に徹していた須美だったが、すぐに無駄だと悟るまで、時間はかからなかったと言えよう。
「……これでハッキリしたわ。貴方は痛い所を突いたつもりでしょうけど、記憶を眺めても、心情を読む事は出来ない。確かにみんなを眩しく思う時があるけど、それは敬意よ。自分の力不足を人のせいにしたりしないわ。下衆の勘繰りで私達の不仲は裂けない!私はこれからも、晴人君と共に未来を歩む。その先に避けられない残酷な未来が待っていても、私はもう、逃げたりなどしない!」
もしかしたら赤嶺兄妹は知る由もなかったかもしれないが、彼女は知った。二年後には、肉体的にも精神的にも傷を負い、それでも尚、未来に向かって戦い抜いた者達がいる事を。あの事実を聞かされていなければ、今の返答にも強く反論できなかったかもしれない。
だからこそ、未来の自分達が包み隠さず明かし、そして自分を受け入れてくれた事に感謝しながら、目の前に立ちはだかる脆弱な自分を振り払う。
不意に体を震わせ、辺りを見渡し始めた彼女を見て、小学生組の中で歓声が湧き上がる。
「!おぉ、戻ってきたんだな、須美!」
「どうやら打ち勝ったようだな」
「良かったです……!」
「流石わっしーだよ〜!」
「!ここは……、戻ってきたのね」
無事に戻って来れた事を確認して、ホッと一息つく須美。
「やったな、須美!」
「相手が晴人君をダシに使って、馬鹿な質問をしてきたのが運の尽きね」
「へっ?俺?」
精神世界でのやり取りを知る由もない晴人は首を傾げるが、その様子を見ていた赤嶺 友奈が感心した顔つきで、会話に割って入った。
「お〜、自分と決着をつけてきたね。小学生なのに凄いね。もっと迷うかと思ったよ」
「こんな方法では、私達は揺らがないわ」
「確かに君はそうみたいだね。でも、他はどうかな?」
彼女の言う通り、周囲にはまだ精霊が佇んでいる。ターゲットは須美だけではないようだ。
そんな中、藤四郎は唸りながら呟く。
「しかし、随分と手の込んだ攻撃を仕掛けてくるな……」
「あ、先に言っておくと、精霊に取り憑かれると、この世界では再起不能だけど、元の世界に戻れば精霊の影響は消えるから元通り。紳士的な攻撃でしょ?血を見ずに無力化だもんね」
「どこが紳士的なんだか」
元々バージョンアップした武神システムを使っていた兎角には、理解に苦しむ発言だ。
「既に他の勇者達にも、この攻撃が通じそうな皆さんには、精神攻撃を仕掛けてあるから」
「今まで攻勢だった分の反撃ってわけか」
「俺の偽物も出てくるかもって事か!」
「面白いわね、もう1人の私!さぁどっからでもカモン!連れ帰って農作業を手伝ってもらうわ!」
「(……流石に全員分作るのはダルいから、ある程度的を絞ってあるけど)」
俄然やる気になっている晴人や歌野とは対照的に、来人は気怠そうに次のターゲットへ目線で合図を送る。向けられた者達は、不意の一手に対処できず、その場に直立してしまう。
「って、もう仕掛けられてる!」
「主に西暦組が狙われたか……!」
「か、夏凜ちゃん!」
「夏凜も狙われたか……!」
「あれ?私は攻撃されなかったか……。我ながら意外だったり……」
見れば、若葉、夏凜、高嶋、調、千景、照彦の様子がおかしい。今度はこの6人が標的にされたようだ。一方、若干期待していた雪花のように、拍子抜けするメンバーも少なからず。
「グム〜……!調が狙われてしまうとは……!精神的にも大人なタマはそういうの平気だから良いけど……、みんな、心が危うい年頃だからな」
「こういう手はずるいぞ、赤嶺!正々堂々の競い合いをしろよ!」
「精神の競い合いだよ。私達なりに全力でぶつかってると思って欲しいな」
司には目も暮れず、大型バーテックスを呼び出したかと思うと、上空へ避難した。高みの見物と洒落込むようだ。
「くっ……。あそこは矢の射程外。大型のバーテックスもあそこまで自由に動かせるとは」
「どうにかして、今精神世界にいるみんなを援護出来ないのか?」
「須美の時は驚いている間に、自分でカタをつけて戻ってきたけど……」
この疑問に対し、堂々と解決策を見出したのは、我らが主人公、結城 友奈だ。
「応援するっていうのはどうだろう?」
「シンプルだが、今はそれが効果的かもな」
「調、心配するな!タマがついてるからな!」
「頑張って……!」
球子と杏が、両側から彼の手を握る。心なしか、調の表情が柔らかくなっている気がする。
他の面々も、それに習って手を握ったり励ましの言葉を送ったりする事に。
さて、精神攻撃を受けている者達がどのような反応を示しているか、少しばかり覗いてみよう。
『乃木 若葉よ、皆が泣いている。お前なら声が聞こえるだろ』
「皆?皆とは、一体……」
『あの日、バーテックスに殺された、お前を友と呼んでくれた者達。そして民だ。私達の仇をとってくれ、と』
「何を言う!私は今を生きている人々を守る為に戦うと決めた!」
『それがお前の主張ならば、それは虚言。「何事にも報いを」、乃木家の標語を忘れた訳ではあるまい。どれだけ綺麗事を並べても、お前に宿っているのは、復讐心だ』
「それは違う」
『では死んだ人の無念は忘れてしまうというのか?中々に薄情な奴だ』
「忘れはしない。一瞬たりとも忘れた事などない。その上で、私は未来の為に戦うと決めたのだ。丸め込もうとしても無駄だ。自分との決着は既につけたのだからな!」
「ここが、私の精神世界みたいなものね。何だろうと、打ち破ってやるわ!」
『……フン。自分を完成型勇者と言い張っているけれど、実は未完成もいい所だって気づいてるかしら』
「この問いかけ……。つまり自分は完成型勇者と認め続ければ勝ちって事ね。なら楽勝!」
『必殺技の名前は、勇者部の太刀。それだけ勇者部を大事にしているのが伝わってくるセンスね。勇者部はようやく手に入れた大事なもの。皆のためなら命を張れる位に』
「そうよ!……精神世界での対話だから断言できるけど、ちょっと恥ずかしいわねこれ」
『皆は大切な友達……。でも、その友達は貴方の事を、友達と認められているか、不安に思う時があるでしょ?』
「……は?」
『だって……私は人付き合いが下手だもんね。合流が遅くて、皆との積み重ねが浅いわけだし。ここまで待たされているのにどこか不安を感じている、精神が脆い未完成勇者……それが本当の三好 夏凜』
「っ!そんな事……![夏凜ちゃん!大丈夫、大丈夫だよ!僕が、側にいるから!だから、自分に自信を、持って……!]……フフッ」
『?何がおかしいの?』
「自分との対話だってのに、あいつの声が聞こえてくるなんてね。どんだけ心配症なのよ。でもだからこそ、あいつの為に私が完成型勇者として、胸を張って堂々としていなきゃならないのよ!あんたの指図なんて、受け入れるつもりはない!」
「おぉ!私も対話っていうのが始まったんだ!よーし、すぐに終わらせるよ!」
『それが良いね。長いと皆に迷惑かけちゃうし。私が聞きたい事は一つだけ。……貴方は、本音をちゃんと話せる人間なのかな?』
「え、本音?そ、そんなのは内容によるんじゃ、ないのかな?」
『内容に関わらず、本音を言えないのが、貴方。周囲に対して気を遣ってるもんね。だって嫌だから。本音を言って、意見がぶつかって喧嘩になって……。その結果、元の世界で皆がどうなったか、もう知ってるもんね?でもさ、本音でぶつかる事を避けていて。それで友達って、言えるのかなぁ』
「……確かに私は、あんまり自分の事を人に話してないけれど、だからって話せない訳じゃないから!ここにいる皆になら絶対話せるって、断言できるよ!」
『本音を言えばぶつかり合うかもよ、怖くないの?』
「それは、正直怖い……、でも、皆となら大丈夫!」
「……!ここ……が」
『調。貴方はこう思ってる。現実の世界にバーテックスが襲ってきて、両親を失った。悲しい想いはしたけど、総合的に見ても、襲ってきてもらえて良かった』
「!どう、して……」
『シャイで引っ込み思案で、親の愛情無しでは生きていけなかった鳴沢 調。そんな貴方が勇者となって、皆と仲良くなれたのはバーテックスのおかげ』
「……違う」
『貴方の尊敬するタマとは、バーテックスが襲って来なかったら出会えなかった。なら、そのバーテックスが来なかったら、貴方の価値は』
「……そんな攻撃、無駄。タマとは、絶対会うって、決まってた。理由なんて、いらない。これからだって、タマと一緒……!だから……!自分の価値を、勝手に決めつけないで……!」
「……ここが、私の精神世界」
『そう。いるのは私と貴方だけ。三ノ輪君の手助けはないわよ』
「……物理的な攻撃は無効だったわね。ならばさっさと用件を済ませなさい。私に議論なり質問するなり、……大方、昔の事や家族の事を引き合いに論破するのでしょうけど、そんなものは今更」
『三ノ輪 紅希や高嶋 友奈、久我 照彦との関係性についても?』
「……」
『あの3人には心を許している、つまりは一番の親友だと思っているようだけど、向こうはそう思っているのかしら?貴方が最も妬んでいる、乃木 若葉と同列の大事な仲間じゃなくて?』
「……」
『……質問を絞りましょうか。貴方は三ノ輪 紅希が本当に自分だけを見てくれていると思っているの?』
「……そうやって私が肯定する事自体が、罠のようね。随分といやらしい質問の仕方。……その答えは、『分からない』だわ。そうであって欲しいけど、彼は誰に対しても優しいから。でもだからこそ、私は彼を尊敬するの。こんな私でも分け隔てなく、接してくれる彼の事を」
『……驚いた。過去を見るに、もう少し精神が不安定だと思っていたけれど』
「私は勇者よ。強く在る事が、結果的に彼の為になるのだから」
「あっ!分身が……」
樹がそう呟くように、次々と正気を取り戻す姿が確認できる。
「どうやら自分に打ち勝てたようだな。今回ばかりは、向こうも付け入るタイミングを測り違えた事が要因だろう」
「うむ!よくぞ言った!」
「やったね夏凜ちゃん!」
「ふ、ふん!当然でしょ!完成型勇者ナメるなっての!」
「あ〜ら随分早かったわね。おかえり」
「……いま」
「ん?何か言った?」
「う、うっさい!」
「ほら見たか赤嶺ぇ!どんどん対話とやらに、調達が打ち勝ってるぞ!しかも何人かはスッキリさえしてるし、逆効果だったなお前らの攻撃は!」
精霊攻撃を受けていない球子が、調を抱きながら威張るが、当の本人達は気にもしていない様子だ。
「……まぁそういう話はあと1人、貴方の仲間が危機を乗り越えてから聞くよ」
「へっ……?」
何故か余裕な表情の赤嶺 友奈に訝しむ銀(中)だが、その答えは周りを確認していた杏の口から出た。
「!照彦さんが……」
「(息が荒い……!こんな症状、他の皆には見受けられなかったものだ……)」
見れば、照彦の様子がおかしい。他の皆は直立不動だったのに対し、彼の場合は息も荒く、汗が噴き出ている。時折体を揺らしており、明らかに精神攻撃が通用しているように見受けられる。男なら精神的にもタフだと思い込んでいたのが間違いだったのか。
「て、照彦!」
「!いかん!呑まれ始めておる!」
「本命がどう反応するか、楽しみだなぁ」
「照くん!」
正気に戻った高嶋が、真っ先に彼の手を握る。それでも尚変化がない彼の表情に、若干の不安を覚えつつ、彼の帰りを待つ高嶋。
「……!何だここは」
その問いかけに答えたのは、目の前にいる自分自身。だがその目つきは、目の前の自分とは違って、嫌に鋭い。獣のソレに近しい眼光を受け、一瞬怯む照彦。
『お前の精神世界。ここではどんな物理攻撃も通用しない』
「っ!俺に精神攻撃の類なんて」
『そうやって常に気を張っているその姿勢。……兄さんに対する対抗心の表れだな』
「!それがお前の手口か……!」
それは、まだ高嶋達にも打ち明けていない、一族……基兄との関係性。自分の中で留めておこうとしている、コンプレックスそのものだ。
『お前は元の世界で、久我家の代表として勇者に選ばれた。嬉しかっただろう、さぞ気分が良かっただろう。幼い頃から久我家の次期当主として、大社の幹部として、常に皆から尊敬の眼差しを受けていた、何でもこなす完璧超人だった兄さんに、唯一対抗できる武器を手に入れたのだから』
「……!」
『それでも、父は、母は、一族はお前に振り向いてくれなかった。ただ一言、お前を送り出しただけで、それ以上は干渉していない。……結局親の愛情なんて、そんなものさ。誰もお前に期待などしていない。選ばれるのは、常に前を走り続ける者。兄さんには、何をしたって勝てない。そう、自覚しているんだろ?』
「黙れ……!」
想像以上に陰湿な口撃に、視界がブレ始める。
『どれだけバーテックスを討伐しても、どれだけ新聞やニュースで活躍を取り上げられても、お前は満たされない。兄さんの存在があり続ける限り、全ては無駄に終わる』
「……」
『そんなお前が現状を脱却する方法。本当はもう知っているはずだ。お前が手にしているその力。目の前に立ちはだかる者を引き裂く力。繋がりを断ち切る為のそれを向ける相手を、変えれば良い。そしてその先に』
「……気に入らねぇ」
『?』
「俺の心に土足で踏み込んでくるそれは、友奈達のそれとは、全然違ぇんだよぉ!」
もう限界だった。迷う事なく、手につけられた手甲鉤を突き出し、精霊を貫く。だがそれは、自分のアイデンティティを否定し認めるものではない。自分の信念を捻じ曲げようとする相手に対する怒り。現し身である自分をよく知っていると言って、論破しようと仕掛けてくる相手への拒絶。それらを右手に込めて呟く。
「俺は……俺のやり方で今を変える!そんなくだらない方法しか考えられないお前の御託を聞く気はねぇ!」
目に光が戻り、呼吸が安定してきたのを確認し、西暦組が歓声を上げる。
「!照くん!戻ってきた!」
「やったで!これで全員帰還やな!」
「さぁさぁ見たか赤嶺兄妹!これがオールスター勇者部の精神力ってもんよ!」
私達の勝ちだ、と言わんばかりに胸を張る風。
今の彼らには精神攻撃も通用しない。流石の赤嶺兄妹も、舌を巻いている様子だ。
「……どこまで抗うんだよ」
「……お見事。まさか全員戻ってくるなんて。じゃあここからは力を溜めた私が」
「白狼ぉ!」
だがそれを遮るかのように、高嶋の手を振り払った照彦が、神樹にアクセスし、その身に精霊を宿す。そしてその髪を白銀に染め上げると同時に、目にも止まらぬスピードで赤嶺兄妹に鉤爪を突き立てる。
「おっとっと」
「おぉ、凄いぶつかり合い」
雪花は感心したように呟くが、他の面々は彼の豹変ぶりに驚きを隠せない。今まではどちらかと言えばクールに捌いている印象が強かっただけに、これほどまでに荒々しい照彦は、見た事がない。
「ど、どうした照彦!攻め急ぎすぎだろ⁉︎」
「ていうか、向こうも前より強くなってる⁉︎」
「当然、そうでなければここまで土地を奪還された意味が無くなっちゃうからね」
パワーアップした赤嶺兄妹が難なくいなしている間も、照彦の動きは俊敏になっていく。その姿勢からは、野性の獣に近しいものを感じさせた。
「……つーかダル」
「とっても怒ってるね。ま、当然かな」
「ちょ、ちょっと落ち着いて照くん!そんなに暴れちゃって大丈夫なの⁉︎」
「こ、これ止めなくても大丈夫なのか⁉︎」
「正直、人に精神攻撃してきた罪も重いでしょうし、その報いと思えば……」
同じ精神攻撃を受けていた千景がそう呟くも、昴(中)には、目の前で激しい攻撃を繰り広げている仲間の暴れっぷりに、危機感を拭えない。この世界は神樹が作った特殊な空間である以上、力の代償を気にせず戦える利点があるものの、これ以上の攻撃は、土地はもとより、彼自身を傷つけてしまうのではないだろうか。
「……嫌な予感がします!早く止めましょう!樹ちゃん!」
「は、はい!という訳で、大人しくしてくださぁい!」
見兼ねた昴(中)が盾を、樹がワイヤーを操作し、照彦を雁字搦めにして身動きを封じる。暫くもがいていた照彦だが、落ち着きを取り戻したのか、両膝をつくと同時に元の勇者姿に戻った。
「照くん!」
「……止まったか」
「あらら、もう終了か。ま、私達の方もタネ尽きちゃったから、今回もお手上げだね」
高嶋に抱き抱えられた照彦の攻撃が止んで、ようやく肩の力を抜く兄妹。依然として余力は残っていそうだが、精神攻撃が無駄だと悟ったからか、それ以上の事はしてこない様子だ。それを見て、杏は疑問を感じずにはいられない。
「……分かりません。確かに精神攻撃は嫌なものだとは思いますが、それでもキチンと抜け出す説明はされていた」
「そうなんです。貴方達は何というか、まるであの手この手で私達を試しているかのような……」
当事者である須美も疑問を投げかける中、赤嶺 友奈は答える。
「重要なのは、そっちが勝ったっていう事だよ。天の神に近しい力の持ち主でえる、造反神の勇者と武神相手に」
「そ、そんなに強い存在なんスか⁉︎」
「うん。もう一体、いや柱か。もう一柱。同じぐらいの格の神様もいるけど、これ中立でね」
「そこまで強いなら、初期の段階であそこまで押し込められていたのも納得がいくな」
「四国も、敵の色で真っ赤でしたからね」
「でも、それならば先ず天の神に負けはしなかったのでは?」
「天の神は周囲も強いからね。それに……」
更に何かを言いたげな妹を遮るように、兄は大きな欠伸を一つして、肩を鳴らす。
「とりあえずその辺にしとけ。今日は疲れた」
「そうですねお兄様。それじゃあまた作戦を練り直す所から始めよっかな」
「そう何度も逃すか……!」
「もう無駄だって薄々分かってるのに動いてる辺り、流石お姉様♪」
そう呟くと、2人は残像を残す事なく消えてしまった。
「また消えた⁉︎」
「やはり心を折るしかないようだな……!」
地団駄を踏む球子。どうにかして敵の新たな攻撃をやり過ごしたが、やはり油断はできない。この一件で改めてそう認識せざるを得ないようだ。
「でも、これで愛媛も殆ど奪還できたね!」
「天下分け目の決戦も、そう遠くは無さそうだな」
「関ヶ原ってわけね。女子力も俄然高まるわ!」
「よーし、次も頑張るぞぉ!どんな手段で妨害してこようが、負けないよぉ!」
友奈が拳を突き上げ、皆がそれに続く中、照彦は深く深呼吸をするに留まった。
「……」
「照彦さん、精神攻撃を皆より長く受けてたみたいですし、この後は少し休んだ方が……」
「……そうさせてもらう」
昴(中)の不安げな問いかけに、静かにそう呟く照彦。
土地の奪還という目的は着々と遂行しつつあるのに、何かがおかしい。
彼の心中に抱えているものの一端を垣間見たような気がして、何故か無性に気にかけてしまう昴(中)であった。
ここに来て寒暖差が激しい日が続いておりますが、皆さんも体調管理には気をつけて、ゴールデンウィークをお迎えください。
〜次回予告〜
「正気の沙汰とは思えんぞ」
「魚……」
「ナメクジみたいに〜」
「「……ないわね」」
「どうか私に、力をください」
〜深まる謎 とある巫女の独白〜