結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
最近、アニメ版『ライアーゲーム』の主題歌MVが配信されて視聴しましたが、こんなに面白いとは……。中々に癖の強い曲なので、アニメ諸々、観て聴いていただければと思います。
「はぁ……」
「のっけからテンション低いな」
「そりゃ憂鬱にもなるってもんだよ」
そう雪花がぼやいたのは、赤嶺兄妹による精神攻撃から数日たった頃。事の次第を聞いた源道の指示で、特に精神攻撃を受けた面々は念の為に、休息に専念すべきという事となり、次戦に備えて肩の荷を下ろす事に。
とりわけ最も影響を受けたであろう照彦も、ようやく本調子を取り戻したのか、好物のみたらし団子を口にしつつ、近日行われる保育園児向けの劇の台本に目を通している。
そんな中で雪花のため息を聞いたからか、球子がひょっこり顔を覗かせる。
「何だなんだ?悩みがあるなら、このタマ姐さんに言ってみそ?」
「……私達って、ここ最近ずっとバーテックスと戦ってるじゃん?」
「フム」
「多分明日もバーテックスと戦闘」
「フムフム」
「明後日も明明後日もバーテックスと戦闘」
「フムフムフム」
「毎日毎日、同じ事の繰り返しで、生きてる気がしないんですけどー!」
「ソンナコトナイヨ、雪花ぁ!」
雪花の嘆きに対し、球子も声を張り上げて励ますが、ここで照彦もみたらし団子を持つ手を止めて同情の意を示す。
「まぁ倒してもキリがないのは面倒だよな」
「でしょ!害虫と一緒だよね!」
「言えてるいえてる。けどまぁ今更ながら、バーテックスって虫じゃないんだよな?」
司の疑問に対し、答えたのは棗だった。
「『蟲』である可能性は、無きにしも非ずだ。沖縄にも奇蟲という、案外可愛いのがいて……」
「絶対に画像検索したくない感じの名前ね」
あからさまに嫌悪感を示す風に代わって説明すると、『奇蟲』とは見た目や生態が特に奇妙で、蠍や蜘蛛、ヒルなどの動物を指す造語であり、仮に風が興味本位で画像を調べようものなら、卒倒確実の見た目をしているのが大半であり、棗のいう可愛らしい部類がどれに当てはまるのか、皆目見当もつかない。
と、今度は友奈がこんな発言を。
「私、最初はバーテックスって魚みたいだなって思いました」
「魚……」
「あぁ確か……乙女型、だっけ?」
「確かに、空中を泳いでいるようにも見えたものね」
思い返せば、友奈達が初めて目の当たりにしたバーテックスがユラユラと侵攻してくるその様は、魚とも捉えられるかもしれない。東郷の場合、鷲尾 須美の記憶が残っていれば初めて戦ったのは水瓶型なのだが、東郷 美森としては乙女型の方が真っ先に脳裏に浮かんだようだ。
「ホントに魚だったら、あたし達日本人にかかれば例えバーテックスと言えど捌いて食べちゃうのに。そう思わない、昴?」
「へっ?ま、まぁ……」
曖昧そうに昴が返事をする中、ひなたが苦笑いを浮かべながら口を開く。
「そ、それで言いますと、実際にバーテックスを食べちゃった人が、ここにいまして」
その視線の先には、皆から目線を逸らす西暦勇者のリーダーが。あっという間にどよめきが部室内を支配する。
「いやぁ、参ったな……」
「若葉ちゃん、バーテックス食べちゃったんだ……」
「マジかよ」
「猛者だとは思ってたけど、まさかそれ程とは……」
「正気の沙汰とは思えんぞ」
「で、お味は?」
「いやはや、食えたものでは無かったよ。大味で水っぽくて……、少なくとも魚の味ではなかったぞ」
「うんうん〜。すばるんのお料理と比べるのも、おこがましい位にね〜」
「そうだな……って、どういう事だ園子?お前と私とでは時代が違うのだから、食した訳ではないだろう」
「あ、あの。その事なんですが、実は……」
「え。まさか……」
「そのまさか、なんだよな」
事情をよく知る東郷と銀(中)が、先程のひなたと同じ表情を浮かべる。そうして一同の目線は、先祖同様に目線を逸らす金髪の少女に向けられる。またしても騒つく部室内。
「まぁ……。若葉ちゃんだけでなく、子孫にまでその精神が受け継がれているとは……」
「やっぱし血の繋がりはあるんだな」
「えへへ〜」
「別に褒めてないし」
「何だってまたそんな事に?」
「まぁ現場に居合わせてたあたしらからすると、報復ってやつ?昴の右腕をやられて、怒りで我を忘れてってやつだな」
「なるへそ……」
昴の右腕がバーテックスの攻撃で損失した事情は、部員全員が承知している為、何処となく納得してしまう一同。
「けど、今思い返してもあんなものを口に入れるなんて、正気とは思えないわ」
千景のこの発言に対し、東郷がふと思い出したように呟く。
「それを言ったら、正気ではない人がここにもいたわね」
「あ、そういえば……」
「へへ、ドモ」
「何故照れる」
「お前もかい!」
言わずと知れた火の玉ガール、三ノ輪 銀だ。
「あ、でもあたしは食べたわけじゃなくて、飲んだだけっすよ」
「の、飲んだって何を⁉︎」
「えーっと……、アレは水瓶型の水球だったから……。バーテックスの体液、的な?」
「食べたのとそう変わらないじゃない⁉︎」
流石の夏凜も、相方の奇行に畏怖している様子だ。
「で、肝心のお味は?」
「何ていうか……。サイダーのような、ウーロン茶のような……。多分喉がカラカラだったらまた飲めますね」
「そいつは美味そうだな!」
「俺も風も、奴の水球に閉じ込められた事があるが、流石に飲み込むなんて発想はなかったな」
チュッパチャプス(カラメル味)を舐めながら、当時を振り返る藤四郎。
「アメイジング……。でも、畑ワークのお供には良いかもしれないわ!」
「うたのん、感覚が麻痺してるよ」
「でも、3人とも元気に生きてるって事は、案外食べても人体に影響は無さそうかも」
実際にバーテックスを食した(?)であろう3人が健在であるのを良い事に、雪花も俄然乗り気になったようだ。
「これは調べてみる価値アリだね!」
「うむ!アレほど大きく食べ甲斐のある生命体!ただ消滅させるだけでは勿体無い!」
「そういう問題?」
「少なからず味があるようでしたら、調味料次第で何とかなるかもしれませんが……」
「子孫である昴さんまで……」
「塩とか胡椒とか……。あ、麺つゆで成せば大抵何とかなるよ、きっと!」
「何か……おかしな方向に舵きってるぞ?」
流石に度を越えすぎているのでは、と懸念する藤四郎だったが、既にバーテックス・3分クッキングトークという荒波を前に引き返せない所まで出航してしまっている。
「なら先ずは、食べられそうな形のバーテックスを生け捕りにしなくちゃね」
「魚っぽいのがいいね〜!」
「それの腹を裂き、腑を取り出して3枚に下ろして、後は炭火で焼くだけ!」
「お塩を振るのを忘れずに〜」
「もうそれ、バーテックスじゃなくてただの魚だ……」
巧(小)がげんなりする中、若葉がお腹をさすりながら呟く。
「魚、か。何だか魚が食べたくなったな」
「うむ。グルクンの唐揚げが懐かしい」
「ぐるくん……?何スかそれ?」
「沖縄の県魚なんだ。手頃な大きさだが、中々にすばしっこくてな」
「あ〜、私もどうせならすばしっこいのが食べたいな〜」
園子(中)の発言を受けて、不意に夏凜の脳裏によぎったのは……。
「すばしっこいバーテックスって言えば……。に、二足歩行のアイツとか⁉︎」
「それって確か、水着を買いに行った時に千景の水着を盗んだ個体の事?」
「……」
それを聞いて嫌悪感を示したのは、当時の被害者。その視線に気づく事なく、園子(中)のトークは止まる事を知らず。
「確かにアレなら知能も高そうだから、食べたら私の知能も上がるかも〜」
「……」
「痛っ!千景、どうして私の踵を小突くんだ」
「別に……。……アレは知能が高いんじゃなくて、ただの変態よ」
「あぁいう変態にはなりたくねぇな……」
「でもあれって、イヤらしい気持ちで水着を奪ったりしてたのかな〜?餌と勘違いとかじゃ〜?」
「まぁ知能の高い個体がいるなら、そういう邪な気持ちのヤツもいそうだな」
「本能だろうと知能があろうと、水着を奪われるのは嫌すぎるでしょ」
「た、確かに……」
尤もな事を呟く風。
「バーテックスに知能なんてあるわけない。餌と勘違いしただけ……そうよ、きっと」
「あ、あの……。バーテックスの話はこれくらいにして」
高嶋が千景の身を案じて話題を遮ろうと試みるが、それで止まるほど勇者部トークは容易ではない。
「でもさ、本当にバーテックスに知能があったら、いつか喋る個体なんかも出てくるかもね」
「成程……。この間赤嶺兄妹が仕掛けてきたやつは、言語を話せる精霊らしいけど、バーテックス側にもそう言った言語機能を搭載してくる可能性も否定できないって事か」
「叫び声を上げるのはいるけど……、もしそうなったら、喋る事が出来たら、今まで通りに倒せる……のかな?」
「意思の疎通が可能になれば、倒す事に躊躇いが生じてしまうかも、って事か」
「うん……。バーテックスにも、何か事情があるのかも。そしたら、戦えるのかな……」
「お前らしいな」
友奈の事を誰よりも熟知している兎角は、彼女のらしい発言に頷く。
「実際に何を喋ってくるかによるかも」
「『ヘイヘイお嬢さ〜ん、水着プリーズ!』とか〜?」
「……」
「痛っ!千景、どうして太ももに膝蹴りを⁉︎私が何かした訳ではないだろう⁉︎」
「どうでも良いじゃない。後、それだったら躊躇なく殺れるわね」
「『ち、違う!そんなつもりじゃないんだ』って抵抗してきたら〜?」
「じゃあどんなつもりなのよ……」
「痛っ!千景、足を踏むな!今のは園子に向けるべきだろう⁉︎」
「『まぁ待て!話せば分かる!』」
「問答無用……!」
「お、落ち着け千景!若葉は無実だろ⁉︎」
何故か右腕を握りしめられる、完全にとばっちりを喰らっている若葉が可哀想に思えたのか、慌てて引き剥がそうとする紅希。
「まぁでも、現に俺達の戦術に対応してきたり、巫女を狙ったりしているのは事実だ」
「こっちの好みに合わせて、奇策を仕掛けてくる可能性もありそうだな」
「……え」
「私達の、好みに……?」
これを聞いて、東郷と千景が2人の少年に一度目線を向けるが……。
「「……ないわね」」
「「??」」
一体何を想像したのか、見当もつかない2人は当然ながら首を傾げる他ない。
ともあれ、先日の勝利をきっかけに、愛媛の奪還もそう遠くはない。愛媛の奪還によって、四国の大半を取り戻した事になる。
ようやく終着点が定まりつつある中、彼女はただ一人、神樹が祀られている祠がある屋上でため息をついていた。
「……はぁ」
「み〜と先輩」
「そ、園子ちゃん?」
「昨日から暗い顔してたから、気になって〜」
「……」
そこへ、普段から昼寝スポットとしてこの場所を利用している園子(小)が、何事かと寄り添う。
「私でよければ相談に乗りますよ〜」
「でも……」
「大丈夫ですよ〜。お昼寝すれば聞いた事みんな忘れちゃうから〜。あ、でもそれじゃダメか〜。寝ないように頑張ります〜」
「……」
「胸のモヤモヤ話してくれませんか?」
と、催促するものの、頑として口を開こうとしない水都。
そんな彼女に変化が起きたのは、園子(小)の叫びだった。
「イネスのジェラートが食べた〜い!」
「……」
「ふぅ〜スッキリ〜」
「そ、園子ちゃん?いきなりどうしたの?」
「胸のモヤモヤは声に出せば、スーッとしますよ〜」
不意の奇行に驚きつつも、自然と笑みが溢れる水都。
「……フフ。園子ちゃんって面白いね」
「次は水都先輩の番ですよ〜。モヤモヤ聞かせてくださ〜い」
不思議な事に、先程より心が軽くなったような気がして、水都もようやく心中を吐露する事に。
「……偶にね、思うんだ。私は、何で神樹様に呼ばれたんだろうって」
「……」
「私は勇者でも武神でもないから、バーテックスとの戦闘を見守ることしか出来ないし……。ひなたさんや美羽さんみたいに、勇者のみんなに上手くアドバイスが出来るわけじゃない。うたのんや童山君は兎も角、他の勇者達が遠い存在に思えて……、ちゃんと話せなくて……」
「……」
「あ、ごめんね。こんな話されても仕方ないよね」
謝る水都の話を聞いた園子(小)は、すぐに彼女が何に対して悩んでいるのかを察したようだ。
「自信がなくなっちゃったんですか?」
「そう……、自分に自信がないんだ。ひなたさんは大赦と対等に渡り合って、勇者をしっかり導いてるし、美羽さんは自分の役割を理解してると同時に、勇者でなくても、身体能力に優れていて……。私一人が、みんなの足を引っ張ってるみたいで……」
この世界に召還されてからの、同じ巫女達との言動を比較すればする程、彼女自身の心に陰が差し込まれていく。
「だから思うんだ。別に、私がいなくても、みんなは」
「水都先輩」
「……あ、あれ?泣くつもりなんてなかったのに、どうして……」
遂には感情のコントロールが上手くいかなくなり、両目からは取り留めもなく水滴が零れ落ちていく。
されどそれは、相談役を買って出た彼女もまた然り。
「うぅ……」
「え?園子ちゃん?」
「水都先輩の気持ち想像したら、何だか涙が出てきました〜……。先輩の気持ち、分かります〜」
「……分かるわけ、ないよ」
「……」
「園子ちゃんは勇者として、立派に闘ってるじゃない。偉いよ。それに比べて……」
同情される筋合いなんてない。
頬を拭う水都がそう拒絶するも、それで引き下がる程、彼女は弱くなかった。
「私だって……未来の自分の力を見て、それから、未来の事を知って、色々考えましたよ〜。どうすれば、あぁなれるんだろ〜?とか、どうすればすばるんが悲しまずにいられるんだろ〜?とか。考えれば考える程不安になって……、しょぼ〜んってなります〜。それに、今は双子の姉妹みたいだって言われてるけど、みんなだって私達の違いに気づくはず。園子先輩にできる事が、今の私に出来ないから……」
「同一人物って言っても別の個体なんだから、それは当たり前じゃないかな?」
「そうそう。同一人物でさえ、そうなんですよ〜。水都先輩が、ひなた先輩や美羽先輩とは違うのは、当たり前じゃないですか〜?」
「……」
「みんな違って、みんな良いと思うんだけどな〜」
園子(小)の話を聞いて、自然と耳を傾けている自分がいる。気がつけば、陰は薄れていった。
「勇者はね〜、神託を受けられないから、巫女という存在に感謝してるんです〜。それに、巫女さんは内省的な性格の方が、神格に近づけるって、安芸先生から聞いた事があるんですよ〜」
「え、そうなの?」
「だから〜、お悩みがちな水都先輩はきっとすっごく質の高い能力を持ってるんじゃないかな〜?」
「それって、ウジウジしてる方が神樹様の声を聞きやすいって事?」
「そういう考え方もあるんじゃないですか〜?」
「やだなぁ。それじゃあ私、ずっと悩み続けないといけないの?」
「もっとウジウジしましょ〜。ナメクジみたいに〜」
「や、やだなぁそれは……」
カエルは兎も角、ナメクジに例えられるのは流石に否定する他ないようだ。が、彼女の中で自然と決意が湧き立っていた。
「でも、いつかはお二人に負けないような……ううん。勇者部のみんなを助けられるように、私も私なりに頑張らないと、だよね」
「うんうん。前向きが一番ですよ〜」
「ありがとう園子ちゃん。元気が出たよ」
「どういたしまして〜」
「(神樹様。どうか、どうか私に、力をください。みんなを、神樹様をお守りできる力を。何よりも、大切な2人を守れる力を)」
屋上を離れる直前、祠の前で拝む水都。
大切な人達を守る事、即ち自分自身が彼らの支えになれるように努力する事。その一歩を踏み出す為、今日も球子や流星らの指導の下、マウンテンバイクに慣れるようにペダルを漕ぐ。
舞台版『結城友奈は勇者である』の再演が決まり、抽選の結果も着々とXで報告がなされていますが、私も当選しましたので、同じく当選した友人共々、今一度楽しんで参りたいと思います!
〜次回予告〜
「サバイバルだな」
「負けてられん!」
「綺麗だね……」
「点かなかったらどうするんだろう……?」
「もう、見られないかもだけど」
〜星空の下で〜