結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
先日の舞台版『結城友奈は勇者である 〜絆〜』から早数週間……。文字通りパワーアップした舞台を目の当たりにして、感無量です……!
願わくば円盤化してほしいところではありますが、向こうではその予定はないと言い切られてしまってますからね……。
でも、なるべく諦めない!ゆゆゆいのCS化もそうだったように、私達1人ひとりの声が積み重なって、結果的に実現する事だって無きにしも非ず、ですからね!
さて、時は少し遡り、樹海化警報が発令される少し前。
勇者部が所有する畑では、諏訪の勇者、白鳥 歌野が汗を垂らしながらも鼻歌交じりに手を動かしていた。その奥では3年近く諏訪で彼女を手助けしてきた童山も、力仕事をこなしている。
無論これだけ広大な土地を2人だけでほぼ毎日耕すのは困難を極める為、時折部員達が手伝いに来ている事も珍しくはない。
「いつにも増して上機嫌だな」
「大切な仲間と、大切な畑の世話をする。こんなに楽しい事って、他にあるかしら?」
「否!世の為人の為に仲間と苦楽を共にする!これに勝る宝物はないと見た!」
「いや、色々とあるとは思うけど……」
童山の同級生である流星を初め、この日は四国外出身の雪花、棗、そして流星に誘われた、子孫の昴(中)が手伝いに来ていた。
「しかし自信満々に言い切られると、不思議とそんな気がしてくるな」
「完全に歌野さんのペースに飲み込まれましたね……」
棗と昴(中)が苦笑いを浮かべる中、雪花が汗を拭きながら歌野に尋ねてきた。
「歌野、こっちの土も起こし終わったけど、次はどうするの?」
「ネクストステップはこれ!肥料を混ぜて土を作る工程よ。棗さんと雪花さんの方のエリアはこっちの肥料で、流星君と昴君は、そっちのを混ぜてちょうだいね」
「?何か違いでもあるの?」
「植える作物によって、必要な肥料が違うからね。これを間違えると大変な事になるのよ」
「農業って案外、奥が深いんですね」
普段は目の前に並べられた食材を調理する側の昴(中)が、野菜を作るまでの行程に舌を巻く中、歌野がここぞとばかりに力説をかます。
「そう、農業の世界は果てなきワンダーランド!肥料一つで作物の味も形も、全く別の物になるのよ。それから、肥料だけじゃなくて植える時期も重要!苗の状態や土の状態からベストなタイミングを」
「こ、こんなに語り出すなんて……」
思いがけないマシンガントークを前に、流石に責任を感じる昴(中)。
「これは誰の責任でもないような……。でも、ちょっと話題変えましょうか」
「そう、ですね。歌野さん、今日は何を植える予定なのですか?」
「今日植える苗は、ナスの予定よ」
「そうなのか……」
「?棗さん、ナス嫌いですか?」
「好き嫌いは良くないぞ!」
「いや、畑を見ていたら、沖縄のサトウキビ畑を思い出してしまってな」
「サトウキビ……?あぁ、確か、沖縄では砂糖の原料になる作物ですね」
この場で唯一神世紀育ちの昴(中)が、うろ覚えの知識を口に出す。
「沖縄はサトウキビ、北海道は甜菜。同じ砂糖の原料なのにね」
「地域の違いが作物にも出るのね。特に2人は全く逆の地域だものね!」
「確かに、北海道と沖縄では食べ物も全く違う」
片や広大な北国、片や島々が連なる南国。同じ日本でも文化を含め、南北で様々な違いが見受けられる事を聞いて、歌野の目は燦々と輝いている。
「2人の故郷の事、もっとたくさん聞かせてほしいわ!」
「ちょ、興奮し過ぎ!」
「プリーズテルミー!」
「ち、近すぎますよ⁉︎」
流石に危険と判断し、慌てて歌野を引き離す昴(中)。
「ソーリー、農業の事となると、つい熱くなりすぎちゃって……」
「別に謝る程の事じゃないけど。私は、普段は農業とか興味あるわけじゃないからなぁ。学校で習った知識と、近所で何を植えてたか位しか、分からないんだけど」
「良いのよそれ位で。教えて!」
「わっ⁉︎また近いから落ち着いて!」
どうにも人は興奮状態だと、視野が狭まって相手との距離感を見誤ってしまいがちだ。自分も気をつけよう、と昴が思う中、雪花が北海道の農作物について語り始める。
「私の地元だと、ジャガイモとかトウキビとか」
「サトウキビ、だとぉ⁉︎北海道にもサトウキビ畑があるというのか⁉︎」
「サトウキビじゃなくて、トウキビ。そっか、こっちではとうもろこしって言うんだよね」
「ほほぉ!とうもろこしにそのような呼び名があったとは驚きだ!」
「同じ作物でも、地域によって呼び名が違うんですね」
「これも気になる研究課題よね」
「研究熱心だなぁ、歌野は」
「他には?北海道ではどんな物が穫れるのかしら?」
「後は、メロンとか玉ねぎとか、人参とか」
「沖縄では獲れないものばかりだな」
世間的にはポピュラーな農作物でも、気候など様々な条件が合わなければ、その地で作物は育たない。とりわけ沖縄は、独特な文化の下で発展してきた関係上、農作物にもその影響は出ているようだ。
「それからそれから〜?」
「思い当たるのは、その位かな。でも個人的には、ラベンダー畑の方が好きだけど」
「食べ物ではないではないか!」
「食べ物から離れなさいよ流星!」
ある意味予測できた反応に、ツッコミも億劫になりつつある雪花であった。
「そういえば、歌野は畑は好きだけど、お花畑には興味ない感じ?」
「そんな事ないわ!お花だって好きよ。けど、食べ物以外を育てる事にはあまり興味がないの」
「しかし、何故歌野はそんなに食べ物への執着が強いんだ?」
「実家が農家で、生まれた時から農業の英才教育を受けてきた、とか?」
それは、この地に召還されてからずっと気になっていた、諏訪組における異様なまでの、農業に対する執着。勇者部は癖の強い面子が数多く集っているが、その中でも彼女らは異質を放っているといっても過言ではない。
雪花達の問いに対し、歌野は首を横に振る。
「小さい頃から畑仕事は好きだったけど、私の実家は農家じゃないわ」
「じゃあ何でそんなに?」
「農業に本気になったのは、バーテックスの襲撃で諏訪の食糧事情が悪化したのがキッカケね。大好きな街が壊されて、食べる物も少なくなって、落ち込むみんなを見ているうちに、気付いたの。食べ物が足りないなら、作ればいいって。諏訪にはまだ、綺麗な土と水が残ってるって。それで、農家の人達を励ましながら一緒に作業をしているうちに、どんどん夢中になっていったの」
それを聞いて、納得した様子の雪花達。特に西暦の時代、四国外で戦ってきた勇者達にはバーテックス襲来後の苦労が身に染みて理解できる。
そしてこの精神が、メンタルの強靭さにも影響している事だろう。事実、赤嶺兄妹が諏訪の勇者達に精神攻撃を仕掛けなかったのも、それを聞けば何となく頷ける。
「立派だな、歌野は」
「そうですね。ごめんね、何も知らずに」
「ん?どうしたのみんな?そんな暗い顔しないで。農作業に悲しい顔は似合わないわ!スマイルスマイル!」
底抜けのポジティブさも、彼女の取り柄のようだ。改めて、彼女が勇者に選ばれて良かったと思う昴(中)であった。
「さ、気を取り直して棗さん、沖縄の農作物の事、教えて!」
「そうだな……。沖縄はやはり、サトウキビ畑が一番多いな」
「他には?」
「後は、マンゴーやパイナップルのような、トロピカルフルーツを多く作っていた」
「おぉ!沖縄ではそのような果物も穫れたのか!」
「ワォ!知ってはいるけど、木になってる所は見た事がないのよ!」
流石に諏訪でも、果物の栽培まではしていなかった為、歌野も大いに驚いている。
「私も!本当、北海道とは全く違うんですね」
「うむ!それぞれに良き所が見受けられる!」
「色んな違いが見えてきたね」
などと口々に感想を述べる中、普段は食材を調理する側の昴(中)も、広大な畑を見渡しながら呟く。
「ちょっと面白いかもしれませんね」
「まぁ昴君!遂に農業の魅力に目覚めたのね!」
「いや、ただちょっと興味を持っただけですが……」
「それで、他にはどんな作物が?」
「……」
更に情報を引き出そうとする歌野だが、どういう訳か、棗の様子がおかしい。先程と打って変わって、陰りが見受けられる。
「棗さん、どうしたんですか?そんなに暗い顔して」
「あ、すまない。ちょっと、な……」
「棗さん、農作業にブルーなフェイスは似合わないわ。良かったら訳を話してみません?」
「私らに話して楽になるなら」
「そうですね。勇者部五箇条一つ、『悩んだら相談』ですから」
「うむ!我々はいつでも相談に乗ってあげられるぞ!」
「心配かけてすまない。つい、あの時の事を思い出してしまってな」
「あの時、とは?」
「バーテックスが襲来したあの日、サトウキビ畑が奴らに踏み潰されてしまって……。お爺が大切に育てていた畑が、あの一瞬で全てダメになってしまったんだ」
世界中で発生したとされるパンデミックは、農作物にも悪影響が出ていたのは容易に想像できる。人類の粛清の為、それまで丹精込めて育ててきた作物など意に介さず、全てを蹂躙したのが、天の神なのだ。
到底、納得できる話ではない。粛清の為とはいえ、神様と言えど、人間の努力を一瞬にして無に返す権限は存在しないのだ。
「酷い話ね……」
「バーテックス、許せない!」
「もう一度……、美しく育ったサトウキビ畑が見たい……」
それを聞いた歌野が、落ち込みつつある棗を元気付けようと、こんな提案をもちかける。
「そこまで言うなら、作ってみましょうか!」
「?そんなに簡単に作るもの変えちゃっていいの?」
「ナスはナスで作るけど、結構畑は広いし、もう一つくらい増やしても大丈夫よ!それに、食べ物っていうのは希望の象徴なのよ?バーテックスに潰された畑を作り直す、いいじゃない!」
「逞しいな、歌野は」
「うたのんはいつもこうですよ」
「あ、水都さん!」
と、そこへ外に出ていた諏訪の巫女が、大きな荷物を持った童山と共にこちらへ向かってきた。どうやら荷物持ちとしてここまで運んでくれたようだ。
「お疲れ様、お弁当とお茶持ってきたから、休憩にしたら?」
「えぇタイミングで持ってきてくれたから、助かったのぉ!」
「丁度お腹が空いてきたとこだったの!」
「確かに、働きすぎてお腹ペコペコ!」
「うたのんの畑の野菜たっぷりだから、美味しいよ」
そうしてレジャーシートを広げて、中身が色鮮やかな弁当箱を並べる一同。
そんな中、何故か棗の前に弁当箱が集中している。
「棗さんは、特にたっぷりと召し上がれ!」
「何故、私?」
「この野菜には、希望がいっぱい詰まってるから!これ食べて、サトウキビ作り、頑張りましょう!」
「ありがとう。では遠慮なく……」
「いただきます!……んまい!んまい!」
「ちょ、流星がっつきすぎ!ってかそれ私の!」
棗の横から、これまた豪快に箸を使って野菜を口に運んでいく流星。棗も負けじと箸を動かし、自分の取り分が無くなる事に心配する雪花。
そんな彼らのやりとりを見つつ、昴(中)は今一度畑を見渡しながら、こう呟く。
「逞しく育つと良いですね」
「!そうね」
これからは、畑で農作物を作る工程にも目を向けながら料理に励んでいこう、と決意を新たにする昴(中)であった。
いよいよ『リリカルなのは』の新作が迫ってきてますね。楽しみです!
〜次回予告〜
「夫婦喧嘩、か?」
「生えてきたのは、バーテックスでしたね」
「何にでも例外はあるわ!」
「興味深い視点ね」
「お花見楽しみ〜」
〜桜が川沿いに多いのは、土手を守る為〜