結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
『リリカルなのは』の新作、中々に面白いキャラクター関係やストーリーではありますが、古参のファンからしてみると、昔と比べるとやけに残酷描写が目立つようになって、若干戸惑っている自分がいるんですよね……。勿論映像技術も進化してるから、というのもあるのですが、Detonation辺りから妙に容赦がなくなったと言いますか……。
これもやはり『まどマギ』が、魔法少女アニメに一石を投じた事が関与しているのでしょうか?
まぁそれでも全体的に見応えがあるのは事実なので、この先何が待ち受けていようと観続ける事に変わりはありませんがね!
「目指せ入賞!」
「狙え県代表!絶対勝つぞー!」
「随分と盛り上がっておるが、何があるんじゃ?」
いつにも増してテンションが高い園子ズを目の当たりにし、依頼から戻ってきた童山達が訝しむのも無理はない。
そんな彼の疑問に答えたのは、同じく室内にいた昴(小)だった。
「あれ、知らなかったんですか?今月は写生大会があるんですよ」
「しゃ、写生大会⁉︎」
何故か上ずった声を上げる夏凜に構う事なく、須美や銀(小)からの説明が続く。
「県内全ての小中学校で同時期に行われるらしいのですが、校内で賞を取ると……」
「なんと!1年間うどん食べ放題!」
「⁉︎」
「とかだったらやる気になるんだけどな〜」
「???」
一瞬室内が騒然となる中、晴人が苦笑いを浮かべた事で、ワンテンポ遅れて首を傾げる面々。
「ま、県のコンクールに出品されるだけであって、それ以上の事は」
「だけって事はないわよ銀!入賞したら学校で1番って事だもの」
「学校で……1番……!」
1番、と言うワードを耳にして、ゴクリと息を呑む夏凜。
そんな彼女に構う事なく、西暦組がふと気になっていた事を口にする。
「そういえば、他の時代の皆の絵を見た事がないな」
「ホンマやな。ウチらん中やと、誰が優勝候補なんやろなぁ?」
「あ!若葉さんが園子のご先祖様って事は、若葉さんも上手いんじゃね?」
「ムムッ⁉︎ライバルはご先祖様⁉︎」
「時空を超えた戦いが今始まる!ご先祖様、お覚悟ぉ!」
何故かライバル視し始めた園子ズが、先祖にしがみつく。
しかし、この直後に呟いた若葉の一言が、今回の波乱を呼び寄せてしまったと言っても、過言ではない。
「わぁやめろぉ!離せ!私なんかよりも、夏凜の方が上手いんじゃないのか?」
「にぼっしー先輩〜?」
「文武両道の夏凜の事だからな。きっと絵も上手いんだろ?」
「えっ、あ、まぁ……」
曖昧そうに答える夏凜だが、晴人は納得したように頷く。
「うんうん確かに!夏凜さんは完成型勇者だし!」
「そ、そうよ!完成型勇者たるもの、芸術だってお手のもの!」
「やはり私の見立て通りか。まだ他の者の実力を把握していないとはいえ、現時点での入賞候補は夏凜で間違いなさそうだな」
「ま、任せなさい!」
表面上、胸を張る夏凜。もしもその内面を目視出来るようであれば、これでもかと冷や汗に覆われているに違いない。
賽は、投げられたのだ。
入賞宣言をした夏凜の翌日は、これまで以上に慌ただしかったと言えよう。
「ハァッ、ハァッ……!違う!ここもそこも、全然違う……!」
改めて写生大会のルールを確認した所、今回は風景画のみとの事で、自分の生活圏内で描写に最適な場所を探し回っているのだが、一向に自分の中で納得がいく箇所が見当たらないのだ。
「あ、夏凜ちゃん。一緒にか」
「ご、ごめん!ちょっと急いでるから!」
このように、買い物に出かけていた真琴達からの誘いも断わざるを得ない程、その表情から余裕が消えていた。
「何だか切羽詰まった顔をしてたわね」
「具合でも悪いのか?」
「違いますよ。夏凜さん、メチャクチャ気合い入ってるですよ」
「だな!あんなに汗だくになって場所探しするなんて、入賞宣言するだけの事はあるなぁ!」
様子がおかしい事に訝しむ東郷と兎角。
買い物に同行していた銀(小)と晴人の話を聞いて、ハッとなったのは、神世紀300年組だった。
「入賞……?ま、まさかそれって……」
「今度の写生大会の事、ですよね……?」
「あの子、そんな事言ってたの?」
「はい!完成型勇者の芸術作、みんな楽しみにしてるんですよ」
「そ、そんなにハードル上げて、大丈夫なんスかね、兄貴?」
「う〜む……」
夏凜が焦っている理由が判明し、険しい表情を浮かべ始めた藤四郎達を見て、今度は事情を知らない小学生2人が首を傾げる番だった。
「……あれ?なんかみんなの反応が思ってたのと違う、ような」
「絵、上手いんですよね?」
『……』
ストレートな質問を受けて、反応に困る一同。
ややあって口を開いたのは、友奈だった。
「わ、私は好きだけどね。なんかフワーッとしててズシーンときて、オーってなるっていうか……」
「擬音が多すぎて余計分かりづらくなってるぞ……。ま、まぁ。個性的なのは事実だしな」
「あんたらぁ!何で話を盛るかねぇ!少しは夏凜の気持ちを」
「落ち着け風。2人だって一応嘘はついてないだろ」
「そ、それはそう、だけど……」
取り敢えず友奈と兎角を庇う事に専念する藤四郎。
その甲斐あってか(?)、2人に悟られる事なく、難を乗り切ったようで、俄然やる気に満ち溢れ始める。
「俺も負けてらんねぇ!てなわけで失礼します!」
「あ、待てって晴人!」
2人の後ろ姿を見送り、豆粒のように小さくなったのを確認してから、深く息を吐く一同。
いっその事、思い切って猫探しのポスター作成時に夏凜が『力作』と豪語した、妖怪改め迷い猫の画像でも見せてあげた方が良かったのではないか、と巧(中)が思う中、話題の中心人物が真琴達の所に戻ってきた。
「一体何処で……って、あんた達どうしたの?微妙な顔して」
「あ、夏凜さん。実は……」
樹が申し訳なさそうに事情を説明する。
対する夏凜は、何とも言えない表情を浮かべる。
「べ、別に謝る事じゃないでしょ!入賞すればいいだけの事だし」
「だけって言うけど……。あんた本当に大丈夫なの?」
「当然でしょ!完成型勇者に不可能はないわ!」
「ま、まぁ期待されるのは悪い事ではないものね」
「ぼ、僕も協力するよ!夏凜ちゃんならきっと……!」
「あんた達……」
強気な姿勢を見せていた夏凜だが、やはり内心は不安に満ちていたのだろう。慣れ親しんだ仲間達のエールを受け、心が軽くなる。改めて、勇者部の存在がどれだけ自分を変えてくれたのか、身に沁みている事だろう。
「となると、先ずは描きやすくて、絵になる場所を見つけられるといいですよね」
「そうそう!画力がイマイチでも、良い場所さえ抑えられれば、何とかなるってもんよ!」
「風に言われても説得力ないけど……」
「なにおぅ!折角励ましてあげたのに!」
「いやそう言うけど、何だかんだで風が1番夏凜のプライドを傷つけてるぞ……」
実際、風の画力レベルも夏凜に引けを取らないレベルである事は、同じ空間に長くいた面々は周知している。とはいえ先輩のアドバイスも無碍にする事はないだろう、と言う事で、先ずは皆の案に乗っかる事に。
「まぁ確かに、場所探しは重要なポイントね。絶対に最高の場所を見つけてやるわ!」
写生場所を吟味しているのは、夏凜に限った話ではない。
例えば夏凜達がいる商店街のとある一角では……。
「よし、決めた!タマはあのお店の店先を描かせてもらう事にする!」
「わぁ!可愛いドーナツ屋さん!看板もドーナツもカラフルで綺麗だね〜」
「だろ?それにここなら、揚げたてのドーナツの甘〜い匂いを嗅ぎながら絵が描けるからな!」
「お!中々に考えてるじゃねぇか!球子にしちゃあナイスアイデアだ!」
「……そっちが本命?」
「タマちゃんらしいにゃあ」
球子ら4人組の、和気藹々とした様子を見ていた雪花が近寄ってきた。
「雪花さんも良かったら一緒にどうですか?」
「んにゃ、私はやめとくよ」
「そうですか?この商店街、賑やかで色とりどりで、絵になりそうなスポットが幾つかありそうですけど」
「だからだよ。お店に店員さんにお客さんに花壇に看板。描くものがあり過ぎると疲れちゃうでしょ。私はもっとシンプルに、一面の大草原!とかそういう景色が良いんだよ」
成る程確かに、使う色が多過ぎても目移りするし、何より描き手も苦労する。本気で入賞を狙おうと考えるなら、その辺りも考慮して選択しなければならないようだ。
「そういやお前、元の時代だとだだっ広い大地に広がるラベンダー畑を好んでたっけ」
「雪花さんらしいですね」
「うん。そいじゃ私は行くね」
と言って球子達のいる商店街から離れて、比較的静かな場所に足を踏み入れる雪花。
「ん〜。町外れまで来てみたけど、畑ばっかり。北海道みたいな牧草地ってないんだにゃー」
流石に土地の規模が小さい香川県と全てにおいて広大な北海道では、それらの条件を求めるのは無理があるかと思いつつ、散策を続ける雪花だが、不意に聞き覚えのある悲鳴が。
「オーマイガァ!私には選べないっ!」
「うたのん落ち着いて!どうしたの?」
「だって!こっちもそっちも私達が、ビッグなラブを注いで育てた畑達。全部を描いてあげたいけど、こんなスモールな画用紙じゃ、とてもじゃないけど収まらないわ!」
「別に実物大で描かなくても、遠くから描いたら良いんじゃないかな……」
「エクセレント!みーちゃん天才!畑を見下ろせる丘の上に行きましょう!」
「……歌野はブレないにゃあ」
ある意味らしさ全開の諏訪組を目の当たりにし、雪花も一つ気合いを入れ直して、写生に適した場所探しを再開する。
そうして数日が経過した頃、神託を受け取った巫女達からの情報で、世界はカラフルな土地へと変貌した。
「バーテックスのやつ、こっちが忙しい時に限って、襲撃してくるなんて……!これも赤嶺の仕業なの⁉︎」
「そうとは限らないだろうが……。そもそも何をそんなに焦ってるんだ?」
「まだピンとくる景色が見つかってないのよ。早く見つけないと……」
依然として最適な場所を見つけられず、焦りを隠せない夏凜。そんな彼女を落ち着かせるように、風が宥める。
「まぁそうあせんなさんな。あんたならきっと大丈夫よ」
「そう言う風は随分余裕そうだけど、もう描き始めてるの?」
「勿論よ。それにアタシが目指すのは、ナンバーワンじゃなくて、オンリーワンだからね」
「何よその都合のいい感じ⁉︎」
「まぁでも、独創的って意味じゃ、風先輩は敵なしなんじゃあ……」
「うんうん〜!芸術とは、唯一無二の個性を持つ事〜!思わぬ伏兵登場かも〜」
「何ですってぇ⁉︎」
そう叫んだ直後、何を思ったのか、急に考え込む夏凜。
「……ぁ、あぁ⁉︎」
「急にどうした?」
「見つけた……!何で今まで気づかなかったんだろう……!」
何か良案を見つけた様子の夏凜は、今まで以上に輝いていたと言えよう。
その内容はと言うと……。
「樹海よ!樹海を描けば良いのよ!」
『⁉︎』
「「「はいぃ⁉︎」」」
突拍子もない発想に、周りにいた神世紀組は驚きを隠せない。
「勇者しか見る事が出来ない非日常で幻想的な景色!誰も描いてくる人はいないはず!これで勝てる!」
「そ、それってまさか、戦闘中に写生するって事じゃあ……」
「んなわけないでしょ!ちゃんと戦うわよ!」
「だったらどうやって……?」
「スマホがあれば楽勝よ!」
「「……あ」」
作戦を聞いて、内2名が夏凜に手を伸ばそうとするが、時すでに遅し。スマホで撮影を終えており、早々に戦闘を終わらせるべく、戦場を駆け回っていた。
「……んで、何で写ってないのよぉ!」
戦闘が滞りなく終わり、部室に戻ってきて端末を確認した、夏凜の第一声がそれだった。
「えっ?写ってないって?」
それを聞いて、友奈達が両端から覗き込むと……。
「これ、学校の側の道と、勇者服のお姉ちゃん?こんな写真、いつの間に撮ったんですか?」
「か、夏凜。あんたもしかして、樹海の風景画と言いつつ、アタシの麗しい勇者服を描きたくて隠し撮りを……」
「そ、そんな訳ないでしょ!」
「モデルが良ければ入賞できるかも!って気持ちはよーく分かるけど……」
「そういや、今回は風景画限定であって、人物画はNGだった筈」
「と言うわけで、アタシの絵はまた今度ね」
「だから撮った覚えないんですけど!けどおかしいわ。代わりに樹海の写真が消えてるなんて……」
それを聞いて、今度は風が訝しむ番だった。
「?樹海の代わりにアタシの写真って?」
「私が聞きたいわよ!」
一同の疑問に答えたのは、樹海化したとの連絡を受けて部室にやってきた、副顧問の安芸だった。
「話は聞かせてもらったけど、三好さん。樹海の景色は端末に残りません。樹海は選ばれた勇者が敵と戦う為に、神樹様が創り出した結界そのもの。仕組みとしては、現実の人間や物質が、神樹様から伸びる樹となり、幻想的な光景を作り出すのよ」
「!じゃあこの風の写真はあの時の?」
どうやら樹海だと認識して写した場所は、現実世界における、学校付近の道。そして偶然風がいた方角にシャッターを切った事で、このような現象が発生したのだろうと、一同は考える。
「でも、勇者になった風姐さんの姿が写ってるッスよ?」
「アタシの溢れ出る女子力が、本来なら写らない筈の勇者服を写真に残してしま」
「折角誰も描けない景色を描いて、1番になれると思ったのにぃ……」
何故かセクシーポーズを取りながら語り始める風を無視して、一気に項垂れる夏凜。
そんな彼女を見て、苦笑いを浮かべたのは……。
「分かるな〜その気持ち。あたしも初めてのお役目の時にさ、遊月……じゃなくて晴人と一緒に樹海の風景記録しときたかったんだけど、終わってみたら、瀬戸大橋しか写ってなくて」
「そういえばそうだったな」
神世紀298年4月。遊月改め晴人が編入初日にお役目を迎えた時のやり取りを思い出した、先代の勇者達。それを見て、夏凜の中で怒りのボルテージが最高潮に達した。
「って!アンタらねぇ!知ってたならあの時止めてくれれば良かったんじゃないのぉ⁉︎」
「うぉ⁉︎急に飛び火してきたぁ!」
慌てて逃げ惑う銀(中)と遊月を、猫のように引っ掻こうと手を伸ばす夏凜。
安芸が注意するよりも早く、畑作業を終わらせた諏訪組が部室の扉を開けて、3人はピタリと足を止めた。
「夏凜さんどうしたの?銀さんと遊月君を追いかけ回して」
どうにかして落ち着いた所で、遊月の口から現場が明かされる。
「なるほど、それは仕方ないね。三好さん、樹海の風景は諦めて、私達と一緒に描かない?」
「気遣いありがとう。でもね、完成型勇者に、『諦める』と言う3文字はないのよ!写真なんか無くたって、こうなりゃ記憶で……」
「随分拘っとるのぉ」
「……」
逆にプライドを燻られたのか、先ほどまでの怒りを忘れて、部室を飛び出す夏凜。童山が関心する中、1人だけ、心配げな表情を見せる者が。
場所が変わって、ここは誰もいない放課後の図書室。
「えーっと、こんな、だったかしら……?いや、もう少し……」
ようやくスケッチブックと対面して筆を持った夏凜だが、その表情は苦悶に満ちている。
と、そこへ……。
「あれ?夏凜ここで描いてたのか?樹海を諦めて、図書館の風景をスケッチ、とか……?」
「違うわよ!記憶を頼りに描くだけだからね。静かな場所で、1人で集中してたのよ。私の記憶力とセンスがあれば、案外楽勝に……で、あんたは何しに?」
「いや〜、あたしも実は何描くか全然決まんなくてさ」
「あんたも……?」
えへへ、と苦笑いしながら、銀(中)が見せたスケッチブックは、空白が目立っていた。
「見ての通り、スケッチブック真っ白け。あたしも全然絵とか上手じゃないし、取り敢えず良い景色探そーって思っても、何かしっくりくるのが全然見つかんなくてさー。っていうか、夏凜もおんなじじゃん」
「う、うるさい!あんたと違って私の脳裏には鮮明に……」
これ以上は構っていられない、と言わんばかりに目線をスケッチブックに向ける夏凜。
そんな彼女を見て、銀(中)からこんな提案が。
「!だったらさ。いっその事、勝負してみるとか?」
「勝負?何の話よ」
「だからさ。どっちが上手く樹海を描けるかって話。その方がやる気出るだろ?んで、負けた方が次の買い出しでサプリとか煮干しを奢るとか」
「何よそれ……。でもまぁ、ふ〜ん……」
確かに、何かを描く上でライバルの存在は、自分にとって良くも悪くも都合が良いのかもしれない。苦手分野とはいえ、勝負事であれば、負けたくないし、とことん挑んでいきたい。夏凜のそんな気持ちを汲み取って、銀(中)もそんな提案をしたのかもしれない。
バカみたい、と思いつつも、相手への感謝の気持ちが上回り、不適な笑みを浮かべるまで、さほど時間はかからなかった。
「良いわよ、その勝負乗った!」
「へへっ!あたしも負けてらんないな!」
早速並び座って、スケッチブックに描写していく2人。
そんな2人のやり取りを、陰から様子を伺っていた巧(中)と真琴が、内心ホッとしながら静かにその場を後にした事に、気づく事なく。
夏凜みたいに皆から期待されると余計に断り辛くなる気持ち、もの凄く分かるわぁ、と思いながら執筆した、今日この頃でした。
〜次回予告〜
「そんな心理テストが……」
「間に受けなくていいですよ?」
「どっちを向いてるんだ?」
「……フォロー台無し」
「侮れんなぁ……」
〜心理テストって、割と当たるから怖い〜