結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
これで鬱エンドになったら、『のわゆ』のアニメ化はほぼ無いでしょうね……。
そして迎えた、遠足本番。
神樹館小学校の遠足場所は、晴人達の街から少し離れた場所、県庁所在地にある。そこには国内最大級の庭園や、裏山のアスレチックコースなどが目玉スポットとして点在している。最大の観光地、という事もあって、クラスメイトの中には何度か訪れた事がある者もそれなりにいた。それでも皆は初見の如くはしゃいでいた。
晴人達も例外ではなかった。
「勇者としては、アスレチックコースで遊ばないと!」
という、銀の謎理論はともかくとして、鍛錬がないので体を動かすのには丁度いいと判断し、晴人達は先ず、アスレチックコースで遊ぶ事に。
度重なる実戦と訓練の連続で、晴人達の体はその華奢な外見からは想像できないほどに漲っており、故に中学生向けのコースですら、体操服姿の6人は軽々と踏破している。
「ま、これくらいどうって事ないな!」
「こういうのも面白いわね」
「昴はどうだ? あまりこういうのは慣れてないと思うが」
「だ、大丈夫です。源道先生のご指導と比べれば、さほど楽な方かと」
元々体を動かすのはそれほど得意ではなかった昴は、緊張で汗を拭いながらも、どうにかしてゴールにたどり着く。彼らの身軽な動きに、部外者達は驚いている。
その一方で、この少女だけは時折苦戦していた。
「み、みんな早いよ〜! ちょっと待って〜! あわわ、揺れる〜!」
「の、乃木さん、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
クラスメイト達が園子を励ます。園子は顔を青ざめながらこう語る。
「落ちたら奈落の底って考えると、結構なスリルがあるんだよ〜……」
「何故自分にそんな枷を?」
巧が首を傾げながら呟く。園子が危なっかしくも今一度渡り始めようとしたその時、園子や周りにいたクラスメイト達の耳にこんな声が。
「5本目のタイヤを決して踏んではいけません……」
『えっ⁉︎』
「触ったが最後、落ち武者の霊が夜な夜な枕元に現れて、『田んぼを返せ〜』と……」
「ヒィィィィィ⁉︎」
須美の脅迫を間に受けてしまった園子は、前に進む闘志が燃え尽きかけた。
「うぉい! 怖がらせてどうすんだよ!」
「スリルを求めているなら提供しようかと……」
「言葉の意味間違えてんぞー」
「さすがは須美だな」
などと晴人達が口々に言い合う中、昴が両手を広げて園子に話しかけた。
「園子ちゃん! もう少しだから、頑張ってここまで来てください! 勇者は気合いと根性ですよ!」
それを聞いて、園子は目を爛々と輝かせて、一気にスパートをかけた。
「勇者は! 気合いと、根性〜!」
「うわっと⁉︎」
駆け込むようにゴールした園子は落下してきたが、慌てて昴がキャッチする。そして園子を地面に下ろしてから、その頭を右手で優しく撫でた。
「よしよし。よく頑張りましたね」
「慣れたから、次はスムーズにいくよ〜」
「む〜」
「何してんだ須美は……」
不意に須美が晴人に体を寄せてきたので、銀がすかさず反応する。
「仲良くしてるのを見てると、私もって」
「犬かお前は」
「きっとわっしーもイッチーに頭撫でられたいんだよ」
「ただの甘えん坊か」
晴人は苦笑しつつも要望通り、須美の頭を撫でる。須美が何も言わずに、顔を赤くしながら撫でられている姿を見て、遠くから成り行きを見ていたクラスメイト達は、普段の彼女からは想像もつかない様子に驚きを感じていた。
「銀ちゃーん! 私達も受け止めてー!」
「よぉし、バチこい!」
女子達の要望に応えるように、銀が他の面々の補助を行う。
「人気者ね、銀は」
「だな!」
「元々、クラスメイトからも一目置かれていましたからね」
「そうだね〜」
「……」
皆が銀の人気ぶりを賞賛する中、巧だけはジッと彼女を見つめている。
次のコースで遊んでいると、別の女生徒が銀にこんな事を話しかけてきた。
「ねぇ、実は銀ちゃんやみんなのサインが欲しいって、妹に頼まれてて……」
「えっ?」
「大きなお役目についてるって聞いて、憧れてるんだと思う」
これを聞いて、銀はハッとした表情になる。
「そうか! あたし達ってもう、サインする側だったのか!」
自分が有名人になっていると知り俄然やる気が出たのか、銀はペースを上げて、大胆にも前方大回転を加えてゴール地点に着地する。周りからは拍手が惜しみなく送られる中、近くで待っていた巧だけは腕を組みながら笑顔を見せる事はなかった。
その後もアスレチックコースを次々とクリアしていく一同。後半に差し掛かったところで、昼食時間が迫ってきたので、高台に登るコースが昼前最後のコースとなった。頂上までは太い縄一本だけで登らなければならず、クラスメイトの何人かも苦戦を強いられている。
「ここを登ればお昼だね〜」
「いや〜、ちょっと簡単すぎるよな〜。ってなわけで、片手で登りまーす!」
そう言って我先に銀が飛び出し、遅れて晴人も続く。先に登り始めた銀は宣言通り右手の腕力だけで縄を握って、足腰に力を入れて上へ上がっていく。当然危険な行為に変わりはないので、下方から須美達が警告を促す。
「こら、銀! ふざけないの!」
「危ないですよ⁉︎」
「平気へいき! ……っ! 豆が……!」
不意に銀が苦痛で表情を歪める。前日の鍛錬で手のひらに出来た豆に縄が触れすぎた事で、痛みを伴ったようだ。片手しか掴んでいなかった銀は、そのまま足を滑らせて、高い位置から無防備に落下していく。
「! 銀!」
「危ない!」
慌てて晴人が、助けようと手を伸ばすが、距離があってすり抜けてしまう。周りの面々の空気が凍りつく中、この男だけは身を翻して、銀の落下地点に素早くたどり着き、そのまま銀を受け止めた。銀は恐怖のあまり閉じていた目を広げて、抱き抱えている人物の名を思わず呟く。
「た、巧……!」
「だ、大丈夫ミノさん⁉︎」
「う、うん……。ビックリした……」
後から駆け寄ってきた園子達に対して、銀が呆然とした表情でそう呟く。巧が助けてくれなかったら、幾ら勇者として鍛えられていても、大惨事になっていただろう。そんな彼女を見て、巧がため息を一つついてから一言。
「楽しいのは分かるが、浮わついてるぞ。少しは周りの事も考えてほしいものだ」
「巧君の言う通りよ。お役目の重さもよく考えて」
巧に続いて須美も真剣な表情で注意する。さすがに身に堪えたのか、少しだけ縮こまった銀は口を開く。
「……借りは、返すよ。反省します……。口数を減らします! ……でさ、巧。えと、その……」
「何だ」
「そ、その……。助けてくれたのは嬉しいんだけど、その……。そろそろ、下ろしてくれても、良いかな〜、なんて……。いや、別に嫌じゃないんだけどさ……。その……、周りに見られてるってのが、ちょっと……」
顔だけでなく全身の肌を朱色に染め出している銀に指摘され、巧は全体に視野を広げる。
見れば、周りにいたクラスメイト達は恥ずかしげに目をそらしたり、或いは遠くから黄色い声をあげている。よくよく考えてみれば、今の銀は巧にお姫様抱っこされている状態であり、それがクラスメイト達に見られていると思うと、気になっている人からのご奉仕とはいえどうしても周囲の目線が気になって仕方がない。これ以上銀とこのポーズでいると、後々厄介な事に巻き込まれるかもしれないと思った巧は、銀を地面にそっと下ろした。
「あ、ありがと……」
「別に。昼からは気をつけろよ。何なら絆創膏でも貼っておくか?」
「お、おう。助かるよ」
普段は男勝りな女の子の乙女な一面、そして近寄り難い雰囲気を醸し出していた男の子のお人好しな一面。2つの意外性を感じとったクラスメイト達は、初めての発見に遊具で遊ぶ事さえ忘れてしまっていた。
その後は安芸から昼食作りの開始を告げられるまでは、巧と銀は男女問わず質問攻めにあう事に。銀はともかく、ほとんど一人でいる事の多かった巧にこれだけ人が群がる所を見ても、人が変わったようだ、と昴は後に語る。
そして待ちに待った昼食作り。班ごとに施設内の野外調理場を借りて焼きそばを作っている。お役目の事もあり、晴人ら6人は予め安芸の手配もあって同じ班になっていた。須美や銀といった、普段から料理を作る事の多い2人がいるだけでも事足りるのだが、今となっては2人はあくまで補助担当。本命は全て、『料理で笑顔を届ける』事に情熱を注ぐ昴によって出来上がっている。
「そうそう、上手ね、神奈月君」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
「すばるんは将来、プロの料理人になるんだもんね〜。頑張ってね〜」
「あらそうなの。そういえば休養期間に入る前にそれらしい事言ってたものね。将来の夢を持つ事はとても素晴らしい事よ。頑張ってね」
「ありがとうございます」
「にしても、良い匂いだ! これ絶対美味いやつだ!」
「口数減らす発言はどこへ行った……」
銀が興奮しながらヘラを忙しく動かす姿を見て、巧はやれやれと呆れる。
「ミノさん、腕白だね〜」
「園子ちゃんも十分腕白ですよ」
昴がそう指摘するように、彼女の肩には一匹のカブトムシが止まっている。腕白少女(?)ならではの光景である。ふと、晴人が顔を須美のように向けると、少しだけ震えているのが確認できる。寒くて震えているとは考えられないので、晴人はある事を思い出して話しかける。
「そういや須美、お前って虫苦手なんだっけ」
「え、えぇ……。哺乳類程度は克服できたんだけど、まだ昆虫類はどうしても……」
「大丈夫だよ〜。わっしーもすぐに仲良くなれるから」
「そ、そう……」
2人の会話を聞いていたであろう園子が声をかけてきて、須美は園子に顔を向ける。みれば、園子の全身にはいつのまにか大量のカブトムシが集っており、その容姿は巨大なカブトムシそのもの。隣で昴がどう反応していいかたじろぐ中、辺りに須美の悲鳴が響き渡る。
「ギェアァァァァァァァァァァァァァァ⁉︎ Gにしか見えないぃぃぃぃぃぃぃ⁉︎」
因みに、園子に取り憑いていた大量のカブトムシは、晴人が施設の人から貰ってきたミツを木に塗って彼女から退かした事で、事なきことを得た。その際、『須美はこういう時だけ可愛いな』とからかわれてしまい、須美は頬を膨らませながらも、嫌な気分にはなれなかった。
一悶着あったものの、無事に焼きそばを完成させた一同は、席について昴特製の焼きそばを堪能する事に。
「んん〜っ! 最高! カブト味だな!」
「焼いてないから!」
先ほどの一件で軽くトラウマになった須美がそう叫ぶ。
「アハハ! でも冗談抜きに昴が作ったこの焼きそば、メッチャ美味いぞ! あたしも初めて食べる味だ!」
「あぁ、前に食べた昴のご飯並みに美味いぞ!」
「料理は違えど数段向上しているようにも感じる。また腕を上げたな」
「気に入ってもらえてなによりです」
素直に褒められた事で昴が照れながらも喜びを露わにする。中でも園子のガッつき具合は見ていて清々しい。
「美味しいよ〜!」
「でも、園子とかはもっと良い肉食べてるんじゃないのか? まぁそれを言ったら昴とか須美も、巧も同じだけど」
「だよな。どうなんだ園子?」
庶民派の代表格である晴人と銀が、園子に問いかける。対する園子は焼きそばに乗っけられた肉をマジマジと見つめる。
「このお肉の方が美味しいよ〜?」
「それは、みんなで食べてるからですよ。みんなの事を想って作る料理は、どんな隠し味にも勝るのですから」
「おぉ、今の良い感じのセリフだな! 園子の小説のネタになりそうだぞ」
「イイね〜! 今度の新作はそれでいってみようかな〜!」
園子が創作意欲を滾らせていると、口周りにソースがついているのを確認した昴が、タオルで拭ってあげた。
「園子ちゃん。口に付いてますよ」
「ありがとう〜。……はぁ〜っ」
「おいおい。随分と忙しいテンションだな」
銀がそう呟くように、突然園子がしょんぼりとした表情になり、移り変わりの激しい彼女に困惑していた。
「すばるんもそうだけど、みんなだってお料理できるでしょ〜? でも私は出来ないから、ふと自分が恥ずかしくなるよ〜……」
「焼きそばぐらいなら、園子ちゃんでも出来ますよ」
「本当⁉︎ じゃあ次の日曜はすばるんと一緒に、みんな教えて!」
『良いけど?』
「お、ハモったな」
園子への返事に、他の5人が息を合わせたのを確認し、笑みを浮かべた。仲の良い証拠である。
そんな中、巧がずっと言おうかと溜めていた言葉を口にする。
「……ところで、先生はいつになったらそのピーマンを口にするつもりですか」
「ヒッ……⁉︎ た、食べるわよちゃんと! ちょっと、苦手だけど……」
巧にジト目で指摘された安芸は体をビクッとさせる。その手に持つ箸には大ぶりのピーマンが挟み込まれているのだが、体は心なしか震えている。それを見て、晴人達はジッと安芸がピーマンを食べるのを待つ。
「前世で何かあったのかな……?」
「好き嫌いはダメですよ」
「先生の意外な弱点、発見だな」
「そういう時はピーマンの精が夜中に会いに来てくれると思うと楽しいですよ〜」
「そ、それはユニークね……! ありがとう、スムーズに食べられるわ……多分」
「(その表情からしてすでに不安要素しかないんだが)」
園子のフォロー(?)もあってか、安芸は先ほどよりも顔を青ざめながらピーマンに挑戦しようとする。
「先生に褒められたわね」
「ご褒美に、最後のベルは園子が鳴らしなよ」
「ベル?」
銀にそう言われて初めは何のことか分からなかった園子だが、午後になって再びアスレチックコースに取り掛かり、最終目的地にて、たどり着いた先にベルが設置されていたのを見てようやく理解する。
「アスレチック、全面クリア〜!」
「遂にここまで来れましたね」
「そりゃあ俺達はそれなりに鍛えられてきたしな!」
「でもみんなで成し遂げたわね。良かったわ」
園子が鳴らしたベルの音は鳴らすのをやめるまで、達成感に満ち溢れた6人の心に響き渡った。
それから一同は休憩も兼ねて、山の斜面に沿って設置されている高台付近にある庭園に足を運び、展望台から見える街の景色を堪能していた。
「なぁ須美。俺達の住んでる街ってあっちか?」
「えぇ、合ってるわ」
「大橋やイネスはさすがに見えないな……」
銀が見慣れた施設を思い浮かべながらも辺りを見渡すが、距離があるので確認は出来なかった。
「ミノさんは本当にイネスが好きなんだね〜」
「イネスは良いよ! 何たって」
「公民館まであるから、だろ?」
「当たり!」
銀が口に出すよりも早く、巧が続きを述べた。ここ2、3ヶ月で銀の言動パターンが推測できるようになったようだ。
「まぁそれなら俺も分かったな」
「はい」
「私も分かったよ〜」
「もうパターン読まれてきたかぁ」
「私も読まれてる〜?」
園子が逆に聞き返すと、一同はほぼ迷う事なく答える。
「そのっちは……読めない」(by須美)
「きっといつまでも読めない」(by銀)
「読める自信がないぜ」(by晴人)
「ほぼ無理」(by巧)
「ごめんなさい。僕も、ちょっと……」(by昴)
「それはそれで寂しいよ〜……」
しょんぼりする園子に向かって、須美は軽くフォローを入れる。
「大丈夫よ。今の反応ぐらいならみんなでも読めるから」
「ヤッタァ! ヤッタぜ、フゥ〜!」
嬉しさのあまり、そこら中を跳ね回る園子。唐突なハイテンションっぷりは、5人を困惑させた。
「こっからの跳ね具合が予測不可能だ……」
「さすがはそのっちね」
「因みに、だ。須美については取り扱い説明書が書けるぐらいになら詳しくなったぞ」
「あら、最初のページには何て書いてあるのかしら?」
晴人の言葉を聞いて、自分自身がどんな評価か気になる須美。晴人は堂々と最初のページに書かれた内容を読み上げる。
「『結構大変な品物ですので、くれぐれもご注意ください』ってとこだろ?」
「注意書きから始まるんですね……」
「め、めんどくさい人みたいな言われ方ね……。でも納得してしまうわ」
「(納得するのかよ)」
と、今度は銀が口を開く。
「いいじゃん、奥行きがあってさ。あたしのなんて多分新聞のチラシ並みにペラいぞ〜」
「そうか……? 一言一言は単純だが、書ける要素はそれなりにあると思うんだがな」
「そ、そうなのか巧?」
巧に指摘されて、顔を赤くする銀。そこへ須美が茶々を入れるように、2人に話しかける。
「これからも銀の色んな一面を暴いていこうと思うわ。もちろん巧君の分もね」
「お、お手柔らかに……」
「俺もか? そんなに書く事ないと思うけどな」
「どうかしらね」
ニヤニヤする須美を尻目に、園子がしみじみとこんな事を話し始めた。
「実は私、初めはミノさんもたっくんも苦手だったんだ〜」
「唐突だな」
「私もよ」
「僕も、そんな感じでした」
「うぉい!」
銀と巧が戸惑う中、園子が理由を話し始める。
「ほら、ミノさんはスポーツできて明るくて、たっくんは無口でほとんど怖いイメージしかなかったから、何だか種族が違う気がしてね。でも話してみたら、こんなに良い人なんだもん〜」
「……そうか(確かに、あの頃の俺は周りを見ようともしなかった。銀のやかましさにも嫌悪感があった。でも、今は違う)」
1人納得する巧。銀の持ち前の明るさ、そして晴人が気軽に話しかけてくれた事が、今の自分を作り出してくれた。血の繋がりは無くとも、家族の大切さにも気づかせてくれた。
「それに、わっしーもイイキャラだし」
「私はキャラ⁉︎」
「まぁまぁ。でも、僕としては本当に凄いのは、晴人君だと思うんです」
「へっ? 何で俺?」
「晴人君、転校してきてまだ1日も経ってないのに、お役目でも恐れる事なく立ち向かったり、僕や巧君に分け隔てなく話しかけてくれたりしてくれて……。お陰で僕も、巧君への苦手意識がなくなって、嬉しいんです」
「そうね。やっぱり晴人君は、隊長に相応しい人材だと改めて実感したわ」
「そんな大袈裟な……」
「なるほどね。でも確かに話してみないと分からないよな、こういうのは。気に入ってもらえたなら、良かった」
そう言って銀は、絆創膏が貼られている手のひらを上にして突き出す。
「これからもダチコーとして、よろしくって事で!」
「おう! これからも一緒だな!」
「こちらこそ〜!」
「えぇ!」
「はい! よろしくお願いします!」
「フン……」
巧は渋々と、右手を皆と同様に重ねる。互いに力を込めて、しっかりと密着させており、その光景だけでも強固な絆を物語っていた。
その後も展示室を周ったり、お土産を買ったりと、充実した遠足を彼らは楽しんだ。
帰りのバスの中では、目一杯はしゃぎまわったクラスメイト達が寝息を立てていた。鍛えている晴人ら6人も、例外ではなかった。窓際の巧だけは、時折晴人達に気を配りつつ、寝ないように窓の外の夕焼けをジッと眺めていたが、最後には睡魔に負けてぐったりとなった。そうしてバスは、何事もなく神樹館小学校にたどり着き、6人は夕暮れの中、帰途につく。
「楽しかったな〜」
「珍しくテンションが高いな」
「バスの中でよく寝たのもあるのでしょうけど、よほど遠足が楽しかったのでしょうね」
「転ぶわよ、そのっち」
先頭を歩く園子に注意する須美。その隣で銀や晴人がボヤく。
「毎日遠足なら良いのにな〜!」
「俺も同感! 勉強よりもこうやって外で体動かす方が、お役目を担う勇者としても割に合うと思うぜ」
「それ賛成〜!」
「揃いもそろってこれだものね……」
「如何にも子供じみた感想だな」
「便宜上はまだ僕達も子供ですから、まぁそう言いたい気持ちも……」
昴が夕暮れの空を見上げ、羽ばたく鳥達の動きを眺めていた。が、その鳥達が静止したのを見た瞬間、昴のみならず、一同の足がピタッと止まった。
「!」
「鳥が……ってか、時が止まってる!」
晴人も昴が見上げていた鳥を見て叫んだ。
「これって……!」
「敵だ!」
巧がそう叫ぶと同時に、肉眼からも僅かに確認できる瀬戸大橋を中心に、一閃の光が見えて世界を覆い始めた。樹海化の始まり、即ちバーテックスの襲来を意味する。一同は先ほどまでの気楽な表情から一変して、端末を片手に緊迫した表情を浮かべる。そんな中、園子だけはこのタイミングでのお役目に不満を垂らした。
「も〜、せっかく楽しい遠足だったのに、最後の最後でこれなんて無粋ってやつだよ〜。意地悪だよ〜」
「まぁ遠足終わってから来た分、まだマシじゃね?」
「晴人君。家に帰るまでが遠足よ」
「お前は先生か⁉︎」
真面目に答える須美に対し、即座にツッコミを入れる晴人。そんなやりとりを尻目に、銀と巧は人一倍気合いを入れる。
「さっさと終わらせて、弟達に買ってきたお土産持ってかないとな!」
「あぁ、あまり遅くなっても心配するだろうからな」
「なら、行こうぜみんな!」
武神の隊長が皆に呼びかけ、5人は頷く。
端末を起動し、勇者や武神に姿を変えた一同は、いつものように大橋で陣取る為に跳び上がる。
そして、彼らはまだ知らない。
この一戦が、神に選ばれた少年少女達にとって、運命の大きな転換期になろうとは……。
次回から、いよいよ皆が1番気にしていたであろう、決戦が幕を開ける……!
〜次回予告〜
「やってやるぜ!」
「何だよこれ……!」
「あいつが、矢を……」
「根比べ、です……!」
「逃げられない〜!」
「死なせは、しない……!」
「またね」
「あいつら……!」
「俺(僕)達が、守るんだぁ!」
〜吼えよ、漢よ〜