結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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やっぱり日常系アニメは癒しだとつくづく思う今日この頃。

では、本編始まります。


1:変貌する日常

 

「起立、礼。神樹様に、拝」

 

先生と生徒で互いに礼をした後、窓の外に向かって、この世界の恵みでもある神樹に感謝するように、拝をする。それが、この時代特有とも言うべき作法だ。

そこまでやり終えて、先生からのさよならの合図と共に、生徒達は解放されて、それぞれの部活動に足を運んだり、或いはどこかに立ち寄ろうと話し合ったりと、和やかな空間が広がる。

中には、こんな光景も。

 

「ZZZ……。ん〜……。ミノさん、メガチキン食べすぎ……。みもりんは、芸人……」

「あのー、園子ちゃん? もう寝ちゃったんですか?」

「たった今号令したばかりなのにもう睡魔にやられるとか、園子らしいと言えばらしいが……」

「さすがに放ってはおけないよな……。ってなわけでウェイクアップだ園子!」

「うぅ〜ん……。ミノさん……?」

「寝ぼけてないで、部室に行こうよ。今日もミーティングあるって風が言ってただろ?」

「……ハッ! そうだった〜。みもりん達も連れて行かなきゃ〜」

 

銀に叩き起こされた園子は、数秒ほど寝ていたにも関わらず、シャキッとした様子で、同じクラスの部員の元へ向かう。その行動力を前に、銀や巧、昴は呆れたり苦笑したりしながら後に続く。

そうして園子達が向かった先にいたのは、4人の少年少女。

 

「友奈。今度の郊外試合。助っ人をお願いしたいんだけど、良い?」

「オッケー。行くよ」

「あ、銀ちゃん! 予定が空いてたら、再来週の親善試合の助っ人、お願いしても良いかな?」

「おうよ! この三ノ輪 銀様に、任せときな!」

「頼れるなぁ、銀ちゃんは!」

「おーい兎角。こないだの件、どうだった?」

「剣道の練習相手になってほしいってやつだろ? 一応空いてたから、遊月と一緒に顔出すぜ。遊月もそれでいいか?」

「あぁ、正直体は訛ってるからどこまでお役に立てるか分からないが、参加させてもらうよ」

「人気者だね〜」

 

といった様子で、他の部活動から助っ人を依頼されるなど、彼らの存在意義はクラスの中でも上位に食い込んでいると見て間違いない。事実、学級新聞でも彼らの所属する部活は大々的に報道されていた。

 

「そういえば、今日もそっちの部で忙しいの?」

「えっと確か……」

 

クラスメイトからの問いに、集結した8人のうち、友奈と東郷、そして昴が代表して答える。

 

「勇者部だよ!」

「そう、勇者部」

「はい、勇者部です」

「うーん、なんか何度聞いても変な名前よね」

「そっか? あたしは結構気に入ってるけどな! カッコイイし!」

「ま、普通は妙ちきりんな部活としか思えないけど、結構やってる事は堅実だと思うぜ?」

 

といった会話を交えた後、一同は部室へと向かっていった。2年生に進級し、何の偶然が働いたのか知らないが、同じ学年の部員同士で同じクラスになったのはかなり珍しいケースだと思われる。友奈曰く、神樹様か起こした奇跡なのでは、とか。

そうして東郷が座る車椅子を交代で押しながら、他愛のない会話で時間を潰しているうちに、部室の前に到着し、友奈が先んじて扉を開けた。

 

「こんにちは〜! 2年生一同、入りま〜す!」

「ちわーっす!」

「「「「こんにちは」」」」

「こんにちは〜」

「……どうも」

「あ、先輩!」

「お疲れ様です」

「お、来たわね〜」

「おう」

 

中には他の4人の部員がすでに待機しており、樹はタロット占いを、藤四郎は新作のチュッパチャプスを咥えながら、風や冬弥と共に作業をしていた。

部室に入ってすぐに、友奈が昨日の部活動を話題にした。

 

「昨日の人形劇、大成功でしたね!」

「えぇ? 何もかもがギリギリだったわよ」

「むしろNGだった気もするぞ」

 

ニコニコしながら熱く語る友奈に対し、上級生組は呆れ顔だ。

 

「結果オーライですよ!」

「まぁ、皆さん喜んでましたからね」

「友奈ちゃんのアドリブが良かったわ」

「いや、あれを人は『無茶苦茶』と言うわけでな……」

「全くね。受ける私は、ゲキハラドキドキ丸よ」

「勇者はくよくよしていてもしょーがない!」

「いつも底抜けにポジティブですよね、友奈さん」

「こいつの場合、底抜けの度がすぎると思うのは俺だけか?」

 

肩を竦めるのは友奈の幼馴染みである兎角。

 

「まぁ昨日は昨日で、子供達の方に舞台が倒れた時はヒヤッとしましたけどね」

「そうッスね。当たらなくて良かったッス」

「今度は前に倒れないように補強しておく必要があるな……。次の活動までには手直ししておきます」

「あ、ならあたしも手伝うよ!」

「おう、そっちは任せたぞ巧、銀」

「はいはい。そんじゃあ今日のミーティング、始めるわよ」

『はーい!』

 

部長である風の号令と共に、作業を一旦中止して、黒板の前に椅子を並べる。藤四郎が黒板に貼ったのは、子猫が写った数枚の写真。これが今回の議題のようだ。

 

「うへぇ〜、可愛い!」

「これどうしたんですか? それも何匹も」

「こんなにも未解決の依頼が残ってるのよ」

「た、たくさん来たね……」

「飼い主探し、ですか」

「あの、風先輩。多分だとは思いますけど、この依頼ってやっぱり……」

「察しの通りだ。この子達の大半は例の如くそこの2人によって持ち込まれたものになる」

 

そう呟いた藤四郎の目線の先を辿ると、銀と巧の姿が。

 

「いや〜、だって構って欲しいオーラビンビンに発してたから、放っておけないじゃん!」

「まぁそういう事だ。さすがに俺達の家では飼えないからな」

「優しいね2人とも!」

 

友奈がそう賛美する中、風が早速部員達に指示を飛ばす。

 

「なので、今日からは強化月間! 学校を巻き込んだキャンペーンにして、この子達の飼い主を探すわよ!」

「おぉ〜!」

「学校を巻き込む政治的発想は、さすが一年先輩です!」

「あ、ありがと……」

「褒めてるのかそれ?」

 

東郷の言葉に、先輩達は戸惑うばかり。が、気を取り直して説明を続ける。

 

「学校への対応はあたしと藤四郎でなんとかするとして……。先ずはホームページの強化準備ね」

「ここは東郷に任せるとしよう。それから、遊月もパソコンをイジるのは得意だったな。可能な限り手伝ってやってくれ」

「承りました」

「携帯からもアクセス出来るように、モバイル版も作ります」

「おぉ、詳しいな」

「んでさぁ、風。あたしらは何すれば良いんだ?」

 

東郷と遊月が、パソコンが置いてある机に向かい、作業を進める中、今度は銀が質問をする。先輩であるにも関わらず、風や藤四郎には基本的に呼び捨てなのが、三ノ輪 銀という少女だ。

 

「えっと……。先ずは今まで通りだけど……。今まで以上に頑張れ!」

「アバウトだよお姉ちゃん……」

 

あまりにも大雑把な返答に、意気消沈気味な妹。そんな中、先ほどまで鼻提灯を膨らませていた園子が唐突に提案する。

 

「ピッカ〜ンと閃いた! 今度、海岸の掃除をしに行く時に、通りかかった人達に声をかければ良いんだよ〜」

「おぉ、それ良いッスね!」

「名案だよ園ちゃん!」

「それなら、ある程度掃除場所の配分を決めておくのも良いかもしれませんね。ばらければそれだけ人と接触する機会もあるでしょうから」

「確かにあそこ広いもんな」

「あたしも頑張らないと!」

「では、地図を持って来ますね」

 

と言いながら、下級生達も自主的に活動に意欲を持って取り組む姿を見て、穏やかな気持ちになる風と藤四郎。

そんな中、不意に東郷と遊月から声がかかった。

 

「先輩、こちらの方も出来上がりました」

「ホームページの強化任務、完了です」

『え、早っ⁉︎』

 

想像以上の作業の速さに驚く一同は、パソコンの前に群がる。

 

「レイアウトの方は、遊月君に任せました」

「それ以外はほとんど東郷によって出来上がったものですけどね」

「おぉ、見やすいな」

「ワー、パチパチ〜」

「しかもよく出来てるし」

「凄い……」

「こりゃ参ったな……」

 

機械系に強い、新入部員を含めた2人の手際の良さに、舌を巻く園子以外の一同であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでこの日の活動を終えた勇者部一同は、昨日の打ち上げと称して、場所を部室から、行きつけのお店でもあるうどん屋『かめや』へと移した。

 

「はいお待ち」

「は〜い」

「さ、3杯目いった……」

「あ、相変わらずの大食感と言いますか……」

「うどんは女子力を上げるのよ〜」

「これ食べて男子力上がるなら、おいらももう一杯頑張れるんスけど……」

「張り合う必要ないぞ、冬弥」

 

本日3杯目の肉ぶっかけうどんを、躊躇なく口にする風を見て、他の部員達は口々にそう呟く。うどん好きの彼らといえど、さすがに短時間でこれだけの量を食べる先輩を前に、戸惑いを隠せないようだ。

 

「にしてもさぁ、さっきのホームページ強化、マジで凄かったよな。なぁ巧?」

「……あぁ」

「確かにあの短時間で仕上げるとか」

「プロフェッショナル〜」

「アハハ……。まぁ色々あって身につけた技術の賜物と言いますか……。あ、そうだ先輩。良かったらこの天ぷらどうぞ」

「私からも」

 

そう言ってまだ手をつけていない天ぷらを風に差し出す遊月と東郷。風は上機嫌にそれを受け取る。

 

「おぉ、気が利くね〜! 君達、次期部長の座も遠くないよー!」

「いえいえ、先輩見てるだけで、お腹いっぱいに……」

「俺の場合はもう結構満腹なもんでして、さすがにこれ以上は体に毒です」

「そういえば、遊月君っていつも少食だよね? 具合悪いの?」

「いや、元々そういう体質だったらしくて……。みんなみたいにたくさん食べれるわけじゃないんだ」

 

お腹をさすりながらそう語る遊月。

 

「あ、そういえば先輩。大事な話って……?」

 

不意に兎角が、かめやに立ち寄る前に風から告げられた事をそのまま口にする。対する彼女は丼の汁を全て胃の中に放り込んでから口を開いた。3杯目を食べ切ったのを確認してしまった、友奈を含めた数人がたじろぐ中、風は気にせず話し始めた。

 

「あぁそうそう。文化祭の出し物の相談なんだけど」

「えっ? まだ4月なのに……?」

「早くないッスか?」

「夏休みに入っちゃう前にさ、色々と決めておきたいんだよね」

 

どうやら秋に開催される文化祭の出し物を何にしようか、という議題だったらしく、東郷達も納得の表情を浮かべる。

 

「確かに、常に先手で有事に備えておく事は大切ですね」

「今年こそは、だな」

「そうでしたね。去年は僕や園子ちゃんの転入の時期と被っていたのもありますし、準備に手間取って間に合わなかったものですから」

「そうよ。今年は猫の手が3つも入った事だし」

「私⁉︎」

「俺もッスか⁉︎」

「3人……って事は俺もその1人か」

 

風に頭をワシャワシャされている樹、その隣に座る冬弥と遊月が反応を示す。

 

「う〜ん。せっかくだから、一生の思い出になるものが良いよね。園ちゃん、何か良いアイデアないかな?」

「そ〜だね〜。私1人で決めてもつまんないだろうから、思い出作りなら、みんなで話し合った方が良いと思うな〜」

「えぇ。尚且つ、娯楽性の高い、大衆のなびくものでないと」

「でも何をしたら……?」

「また随分と悩みどころのあるお題だな」

 

皆が腕を組みながら考え込むが、これと言った妙案が出てくる気配もなさそうなので、藤四郎が爪楊枝で歯の間を掃除しながら口を開いた。

 

「まぁ今すぐに答えを出すもんでもないし、宿題形式にして、各自で考えておくことにするか」

「そうね。それじゃあ今後の方針も決まった事だし、そうと決まれば……、すいませ〜ん、おかわりお願いしまーす!」

「よ、4杯目⁉︎」

「マジかよ」

「頼むから少しは自粛してくれ……」

 

その大食感ぶりに、さすがの藤四郎も頭を抱えてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現地解散となり、友奈達はそれぞれの方法で家に帰る事に。基本的にかめやで解散する場合は、犬吠埼姉妹と藤四郎、冬弥は自転車で。それ以外の面々は、東郷の家のヘルパーが運転する車、もしくは別荘で暮らす園子か昴の使用人が出す車に乗せてもらって帰宅する。

この日は、友奈と東郷、兎角、遊月がヘルパーの車で、銀、園子、巧、昴は乃木家の車で家路に着いた。遊月の場合は、途中下車してから、在住している漁師宿へ歩いて帰るのが基本だ。

自転車組も、途中までは一緒に並んで歩道を、自転車を押しながら歩いている。二手に分かれてから、犬吠埼姉妹は登下校の際に必ず差し掛かる、『三架橋』を渡っていた。有明浜に沈む夕日をバックに渡るので、2人にとって一押しのスポットだった。

 

「さてと……。夕飯何作ろうか?」

「えっ、まだ食べるの?」

 

あれだけ豪快な食べっぷりを披露しておきながら夕飯の献立を考え始める風を前に、樹は開いた口が塞がらない。それに対して風はしれっと答える。

 

「樹は少食ね。そんなんじゃ女子力上がんないわよ」

「お姉ちゃんが食べすぎなの」

 

ど正論を言い返す樹。

と、その時。風が持っているスマホに着信が入った。相手は藤四郎だ。普段、部員同士の連絡手段として使っている『NARUKO』を介さず連絡を入れてきたという事は、極秘内容とも見て取れる。樹に見られないように注意しながらメールを開くと、こんな文言が。

 

[大赦から連絡が入った。全員が高い領域で、適合値も安定しているとの事。今は神託の期間内だから、可能性は十分ありえるらしい。出来れば当たらない事を祈りたいが、念のため、お互いに心がけておこう。また何かあったら連絡する。 藤四郎]

 

これを見た風の表情は一気に険しくなる。それに気づいた樹が声をかけた。

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「あ、ううん。何でもない……」

 

そう言ってスマホをしまい、再び歩き出す風。が、その表情は先ほどよりも曇っている。気になって仕方がない樹は、声をかけようかと何度も自分に言い聞かせるが、その度に自信を無くして躊躇ってしまう。そんなもどかしい気持ちが連鎖する中、今度は風の方から、何か割り切った表情で話しかけてきた。

 

「……ねぇ、樹」

「? 何?」

「お姉ちゃんに隠し事があったら、どうする?」

「えっと、よく分からないけど……」

 

突然の事で返答に困る樹を尻目に、風は例え話を始めた。

 

「例えばね、甲州勝沼で援軍が来ないのに、戦えって言わなきゃいけなかったとして」

「えぇっと……」

「近藤 勇」

「いきなりどうしたの?」

「アハハ。何でもない」

 

質問の意図が分からず、頭を悩ませる妹を見て、苦笑いを浮かべながら何でもないと告げる姉。

が、ものの数秒もしないうちに、樹から返答が。

 

「ついて行くよ。何があっても」

「……」

「お姉ちゃんは、唯一の家族だもん」

「……ありがとう」

 

自然と心が軽くなった気がして、突発的にそう告げる風。

随分と変なお姉ちゃんだけど、隣で歩いているのは、やっぱり自慢の姉なんだ、と改めてそう思う樹であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうだよな。そうそう当たるものだとは思わないが」

 

風へのメールを送信し終えた藤四郎が、冬弥と別れて1人、寺の前でポツリと呟く。その手には、道中で買った花束が。

不意にNARUKOを通じて連絡が入った。友奈からのメッセージだった。

 

友奈:『日曜どうします?』

昴:『買い出しに出かけます』

銀:『あたしも買い出し! 一緒に行かない?』

昴:『良いですよ』

巧:『道具の手入れだな』

遊月:『水揚げの手伝いをする事になってる』

冬弥:『遊月先輩、漁師の家に住んでたッスね』

風:『ゴロゴロする〜』

園子:『私も〜』

友奈:『私も〜』

東郷:『トドですか⁉︎』

兎角:『むしろセイウチ?』

 

などと、他愛のないチャットが繰り広げられているのを見て、いつも通りの日常だ、と胸をなでおろす藤四郎。

 

藤四郎:『ラッコとも言えるな』

 

と返事をしてから、花束を片手に、寺の一角へと足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日も、よく晴れた日和だった。

国語の授業が行われており、兎角や遊月、東郷、巧、昴といった面々は真剣にノートを取っており、銀は授業の内容についていけずに苦戦しているのが、顔色から伺える。園子に至ってはもう夢の中にダイブしていた。

そんな中でただ1人、友奈は全く別事を考えていた。

 

「(勇者部らしい、文化祭の出し物かぁ……。園ちゃんばっかに頼りっぱなしも良くないし、何かないかなぁ……)」

「「……?」」

 

眉間にしわを寄せる友奈を見て不思議に思った兎角と東郷が、同時に彼女に注目する。遊月は慌てて声をかけたが、それが命取りだった。

 

「な、何でもないよ」

「結城さーん。何でもなくないですよ」

「す、すいません……」

 

先生に注意されて、教室内に爆笑が渦巻いた。東郷達は苦笑し、兎角や巧は呆れ顔だ。園子だけは、未だに目が閉じられたままだ。

 

「じゃあ、教科書を読んでもらおうかしら、今のところを」

「は、はい! えぇっと……」

 

慌てて立ち上がって教科書を手に取る友奈。その表情から察してどこを読めば良いのか見当をついていないと感じた兎角が、仕方なしにと助け舟を出そうとした。

……教室内に、アラームとも思しき音が鳴り響くまでは。

 

「えっ⁉︎ わ、私の⁉︎」

「携帯ですか? 授業中は電源を切っておくように」

 

聞き慣れない音の発信源が自分の鞄の中からだと察した友奈が手を突っ込んでスマホを手に取る。先生に注意されながらも電源を切ろうとする友奈だが、不意に「あれっ?」と呟いてしまう。電源はちゃんと切られているにも関わらず、アラームが鳴り止む気配がない。そもそも、彼女のアラーム音はここまで物騒なものではなかったはず。

加えて、似たような現象が起きて戸惑う者達が、クラスから続出した。

 

「……ん? まさか俺のも?」

「俺も……だと?」

「あ、あたしも⁉︎」

「な、何で……?」

「……はれ〜?」

「えっ? 何、これ……」

「『樹海化警報』……?」

 

兎角、巧、銀、昴、園子、東郷、そして遊月のスマホにも同等の現象が発生。園子も寝ぼけ眼でアラームに気づく。遊月が、画面に赤く表示されたその文字を読み上げた瞬間。

世界は、静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……!」」

 

その異変に対し、真っ先に行動を開始したのは、風と藤四郎だった。スマホから『樹海化警報』なるものが発せられた瞬間、鳥肌が立った。それと同時に、世界は文字通り静止し、教室内で動けるのは、この2人だけ。

 

「まさか……! まさか、そんな……!」

「そのまさか、みたいだな」

 

軽くパニックになりかけている風に対し、藤四郎は比較的冷静な口調だった。その表情は優れないが。

教室を出て彼らが階段を駆け上がって向かった先は、妹や後輩がいるクラス。そこからオロオロした様子の男女2人が出てきたのを確認した2人は声をかけた。

 

「樹!」

「冬弥!」

「! お姉ちゃん!」

「兄貴! 兄貴も無事だったんスね!」

「あ、あのねお姉ちゃん! クラスのみんなの様子が変なの……! へんなアラームが鳴ってたら、動かなくなっちゃって……!」

「なんかもう、とにかくヤバいってのは分かったんスよ!」

 

非日常的な状況に追い込まれたからか、2人は矢継ぎ早だ。そんな2人を落ち着かせるように、それぞれの肩を掴む風。

 

「樹、冬弥……。よく聞いて」

「「?」」

「私達が、当たりだった……!」

 

そう呟く風の表情は苦々しい。

 

「あ、当たりって、何の事ッスか……?」

「ッ、それは……」

「! 来るぞ」

 

不意に窓の外に目を向けていた藤四郎が、強張った表情を見せて呟いた。窓の外の向こうに見える海、正確には四国を覆うようにそびえ立っている、樹木の壁の辺りを中心に、異様な空間が広がり始めていた。それは住み慣れた街を侵食し、遂には風達のいる学校へと迫ってきた。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん……!」

「……!」

「な、何スかあれ⁉︎」

「手を離すんじゃないぞ」

 

4人が密着し続けたまま、光は彼らを包み込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、友奈達はというと……。

 

「あ、すいませんでした。とま……り……」

 

ようやく鳴り止んだ事でホッとしていた友奈だったが、いつまで経っても声が聞こえてこない事に違和感を覚え、周りに目を向ける。見れば、先生やクラスメイト、窓の外を風に舞っていた木の葉がピタッと静止していた。まるで、時そのものが止まったかのように。

 

「あ、あれ……?」

 

キョトンとした表情を見せる友奈。そんな彼女へ声をかける者達が。

 

「友奈、動けるのか?」

「友奈ちゃん……」

「他にも動ける人がいたか」

「! 兎角、東郷さん、遊月君……!」

「なぁ、これって……!」

「みんな、止まってる……⁉︎」

「何が起こって……」

「銀ちゃん、昴君、巧君……! もしかして園ちゃんも……!」

「……あれ〜? ……夢かぁ〜、むにゃ……」

「「「いや寝るなよ!!!」」」

「うひゃあ⁉︎」

「やっぱり園ちゃんも動けるんだ……」

 

周囲の異常な空気を察したにも関わらず、再び寝ようとする能天気な園子を呼び戻す面々。

クラスの中で動ける面子を確認した一同は、一先ず一箇所に固まる事に。

 

「これ、どうしたのかな……?」

「見たところ、動ける面子に共通してるのは、勇者部の一員って所ぐらいか」

「でも、何であたしらだけ?」

「惹かれ合う何かがあるとか〜?」

「そんな曖昧な……」

 

不可解な現象を前に、次のアクションに移せれない一同。そんな彼らの足元が揺れ始めたのはその直後だった。

 

「な、何⁉︎」

「地震……⁉︎」

「それにしては大きいぞ……!」

「! な、なんか光ってる……!」

 

不意に兎角が窓の外に目を向けて、光が迫ってきている事に気づく。

 

「! ヤバい、こっちに近づいてる!」

「みんな掴まれ!」

 

誰かの叫びに対し、反射的に8人は隣にいる面々の体にしがみつき、光はそのまま彼らを包み込んだ。

 

『……!』

 

ゆっくりと目を開けて、広がった世界の光景に唖然とする一同。

そこは教室どころか、讃州市の街中とはかけ離れた、異質の世界。どこを見渡しても、樹木が生い茂ってばかりいる、カラフルな空間。

 

「何だ、ここは……」

「こ、これって」

「何が、起きたの……」

「俺達、一体……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、勇者部に所属する一同の『日常』は、一旦終わりを迎えた。

 

 




次回から本格的な戦闘回です。


〜次回予告〜


「ここ、どこなんですか……?」

「隠し機能〜?」

「ついてくよ、何があっても……!」

「これ凄いな!」

「俺は、この場所を知っている……?」

「勇者……」

「俺は……変身する!」


〜私(俺)は、勇者になる〜

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