結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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おまたせしました。

ビルドも世界情勢も、大変な事になってますね。(国内でも某人気歌手の件で荒れてますが)

人類の粛清として、奴らがこのタイミングで現れても不思議じゃなくなってる世の中です。


4:勇者部設立の真相

『非日常』に足を踏み入れてから、丸一日が経過し、本日の授業を全て終えた友奈達は、いつものように部室に集まった。

側から見ればのどかな雰囲気に包まれた、いつも通りの部活動が行われているように見えるが、これまでと違うのは、勇者部員に加えて、異形の存在が、あるものは腕に抱かれていたり、またあるものは頭の上に乗っかっていたりしている事か。

 

「その子懐いてるんですね」

 

樹が着目したのは、友奈の頭の上に乗っている牛型の精霊の、ノホホンとした表情だった。

 

「えへへ。名前は『牛鬼(ぎゅうき)』って言うんだよ」

「可愛いですね」

「ビーフジャーキーが好きなんだよね」

「牛なのに⁉︎」

「共喰いじゃないですか⁉︎」

 

牛がモチーフであるにも関わらず、好物がビーフジャーキーだと分かり、驚きを隠せない樹と昴。なお、昴の傍らには、昨日目の前に姿を現した亀型の精霊『天岩戸(あまのいわと)』に加え、土偶の姿をした精霊『磨破羅魏(まはらぎ)』、カッパの姿をした精霊『河伯(かわのかみ)』が彼のスマホから出てきていた。

そこへさらに、園子が自分の精霊達を自慢しに割り込んできた。

 

「フッフッフ。確かにゆーゆの精霊も可愛いけど、このセバスチャン達も可愛さなら負けてないのだ〜!」

 

そう言って指をパチンと鳴らして目の前に現れたのは、烏型の精霊『鴉天狗(からすてんぐ)』。いつのまにか『セバスチャン』というあだ名をつけられたようだ。この他にも、鴉天狗の両隣には鼠型の精霊『鉄鼠』や、豆腐型の精霊『豆腐小僧(とうふこぞう)』の姿もあった。

 

「おぉ! 園ちゃん凄い! 今の手品っぽかった!」

「まだ1日しか経ってないのにそこまでの連携を……。やっぱ園子はある意味逸材だな」

「いいなぁ。あたしの精霊も、園子みたいにユニークなやつだったらなぁ……」

 

羨ましげにそう呟きながら、目線をすぐ隣にいる姫型の精霊『鈴鹿御前(すずかごぜん)』に向ける銀。対する鈴鹿御前は宙に浮きながら一言。

 

『百花繚乱』

 

「わっ⁉︎ 喋ったッス⁉︎」

「へぇ。その精霊、言葉を話せるのか」

「逆にこれ以外の言葉を使ってくれないんだよ。喋れる精霊はこいつだけだし」

 

そう言って銀はスマホを操作し、仕舞っておいた他の2体の精霊を呼び出す。木魚型の『木魚達磨(もくぎょだるま)』と、竜型の『一目連(いちもくれん)』である。

 

「ま、ある意味個性の塊って事で、仲良くしてけばいいだろ」

 

椅子に座ってそう呟く巧の膝下には、黒い猫の形をした精霊『金華猫(きんかびょう)』が、本物の猫のように丸くなって気持ちよさそうに体を巧に擦り寄せている。そのすぐ側には、半月型の精霊『月読命(つくよみ)』と、鹿型の精霊『鹿丸(しかまる)』が居座っている。特に鹿丸は立派な角と立ち振る舞いが、その存在感を際立たせている。

そんな中、兎型の精霊『因幡(いなば)』を傍らに出現させている兎角がこんな疑問を投げかける。

 

「そういやさ。気になってたんだけど、何で巧の精霊って3体もいるんだ? 昴もそうだし、銀や園子も同じだけど」

「あ、確かに! どうしてだろう?」

「言われてみれば変ですね……。個人差でも関係あるんでしょうか?」

 

当の本人達も首を傾げるばかり。まだ勇者になっていない遊月も眉をひそめる。一方で東郷は、今朝から一貫して優れない顔つきだった。

と、そこへ支度を済ませた風が声をかけてきた。

 

「その辺の疑問は後で解決するとして、そろそろミーティング、始めるわよ」

「はーい!」

 

そうして全員が会話を一時中断し、黒板の前に集まって椅子に座ったのを確認してから、改まった表情で風と藤四郎が、説明を始める。

 

「さてと、とりあえずみんな元気で良かったわ。早速だけど、昨日の事を説明していくわ」

「はい、よろしくお願いします」

「戦い方はアプリに説明テキストがあるから、今は何故戦うのかって話をしていくね」

 

そう言って風が指差した先には、歪な形をした顔のような絵が描かれていた。その下には『カベ』と記された線が。

 

「こいつは『バーテックス』。人類の天敵が、あっち側から壁を越えて、12体攻めてくる事が、神樹様のお告げで分かった訳で」

「あ……、それ、この前の敵だったんだ」

「これが、か……?」

「奇抜なデザインをよく現した絵だよね」

「友奈……」

 

友奈の褒め方に口を挟もうとする兎角だが、敢えて黙っておくことに。

そうしている間にも、2人の先輩からの説明は続く。

 

「目的は昨日も言ったが、神樹様の破壊、つまりは人類の滅亡だ」

「以前にも襲ってきたらしいけど、その時は追い返すのが精一杯だったみたい」

「以前にも……」

 

昨日目の当たりにした怪物が、以前にも侵攻してきている。その事を耳にした遊月が思わずそう呟いた直後、頭の中を締め付けられるような痛みが襲い、思わず顔をしかめる。

それに気づいた藤四郎が声をかける。

 

「遊月、大丈夫か?」

「……! は、はい。大丈夫です。続けてください」

「? わ、分かったわ。それで、大赦が造ったのは、神樹様の力を借りて『勇者』と呼ばれる姿に変身するシステム」

「そして、その勇者システムから派生して、改良を施して造られたシステムが、基本的に男子のみが纏う事の出来る『上位勇者』システム、通称『武神』システムだ」

「武神……」

 

兎角がそう呟いている間に、風は12本の棒印に丸をつけ始める。

 

「要するに、人智を超えた力に対抗する為には、こちらも人智を超えた力ってわけね」

「……その絵、私達だったんだ」

「げ、現代アートってやつだよ! 凄いよね風先輩のセンス!」

「友奈、無理にフォローする必要はないぞ」

 

やれやれといった表情で藤四郎がそう指摘し、兎角を初めとした周りの面々も、同情するように頷く。友奈は困り果てた感じで風を見つめる。

居心地の悪くなった風が咳払いを一つして、話を元に戻す。

 

「ちゅ、注意事項として、樹海に何かしらの形でダメージを受けると、その分日常に戻った時に、何かの災いとなって現れると言われているわ」

「(! それって、昨日の……)」

 

遊月は、昨晩漁師達から、隣町で不審な事故が起きた事を聞かされたのを思い出す。今朝の学活前も、クラスの何人かがその事を話題にしていた。やはり、あの事故は昨日の一件と関連していたのだ、と遊月は確信する。

 

「派手に破壊されて大惨事、なんて事にならないように、あたし達勇者部が頑張らないとね!」

「大赦側も、俺達が選ばれた事を知ってサポートに動き始めている。昨日の後始末が、その例だ」

「そういえば、あの後クラスに戻っても、先生から何も言われなかったッスね」

 

冬弥だけでなく、他の面々もその時の事を思い出す。戦いが終わって屋上に戻された後、教室に恐る恐る戻ってきたが、生徒達から多少は問い詰められたものの、先生から口を挟まれる事はなかった。裏で大赦が手引きしてくれていたのだろう。

話がひと段落ついたところで、昴が手を挙げた。

 

「質問いいですか? この勇者部も、先輩方が意図的に集めた面子だった、という事でよろしいんですか?」

「……そうだよ」

「適正値が高い人は、大赦を通じて知らされていたからな」

 

昴の質問に、重々しい表情を見せながらそう語る2人。

樹や冬弥に関しては、姉や兄貴分がついていたいという名目のもとで何の違和感もなく入部し、友奈や銀は自分から率先して入ろうとしていたから話は別になるが、少なくとも兎角や東郷、巧は風と藤四郎から説明を受けて、半ば強引に勧誘を受けている。途中から入部してきた昴や園子、そして遊月の方は、2人の誘導もあって勇者部に入った経緯がある。今にして思えば、それも全て、この日のために集められたと言っても過言ではないようだ。

 

「とにかく俺は、神樹様を祀っている大赦から指令を受けて、この地域を担当、管理している浜田家の代表として、この讃州中学を拠点に、勇者部を創った。風の両親もこの地域で大赦に勤めていて、その縁あって、サポートに入ってもらっている」

「……知らなかった」

「俺もッス。兄貴も風姐さんも、おいら達に内緒で……」

 

初めて耳にした事実を前に、呆然とする樹や冬弥に対し、2人は頭が上がらない。

 

「黙っててごめんね」

「昨日も言ったが、当たらなければ話す事も無いだろうと考えてたからな」

「敵が次にいつ来るかは、分かっているんですか?」

 

兎角の質問に、2人は首を横に振る。

 

「それは……、分からないな。『神託』と呼ばれる、一種のお告げも一応あるらしいが、最近はそれもあてにならなくなってるって大赦から聞かされている」

「明日かもしれないし、1週間後かもしれないって事よ。つまり……」

「そう遠くはない、って事か」

 

壁に背中をあずけながら、巧が腕を組んでそう呟く。戦いは、まだ始まったばかりだと改めて思い知らされる一同だが、唐突に銀が立ち上がって叫ぶ。

 

「よぉし! それじゃあ敵がいつ来ても戦えるように、気合い入れてかなきゃな!」

「そうだね銀ちゃん! みんなで頑張ろう!」

「ゆーゆもミノさんも、張り切ってるね〜」

「まさに勇者部五箇条、一つ、なせば大抵なんとかなる、ですね」

「まぁ、驚きはしたけど、世界の平和を守れるのは俺達だけだってんなら、やるっきゃないよな!」

 

兎角も同意を示したその時、それまで黙っていた東郷が口を開いた。

 

「……なんで、もっと早く、勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか」

「東郷……? お前どうし」

「遊月君も、友奈ちゃんも、みんな、一歩間違えれば死ぬかもしれなかったんですよ」

「みもりん……」

「ちょ、東郷……」

 

2人を責め立てる東郷に、どう声をかけたらいいか戸惑う一同。対する風と藤四郎は、ただ謝るばかり。

 

「……ごめん。でも、勇者の適性が高くても、どのチームが神樹様に選ばれるか、敵が来るまで分からないんだよ。むしろ、変身しないで済む確率の方が、よっぽど高くて……」

「! そっか。各地で同じような勇者候補生が、……いるんですね」

「……あぁ。人類存亡をかけた一大事なのは、間違いない」

 

彼らなりに懇切丁寧な説明をしたつもりなのだろうが、それで納得する東郷ではないようだ。

 

「こんな大事な事、ずっと、黙っていたんですか……」

 

そう呟くと、自ら車椅子を動かして、静かに部室を去ってしまう。さすがに放ってはおけないと感じた2年生一同は、他の4人に断りを入れてから、東郷の後を追いかけるように部室を後にする。

 

「東郷……」

 

風は呆然と、もの悲しげに去っていく後ろ姿を思い返すように扉を見つめる。

藤四郎は、懐からタバコを吸う動作を真似して、チュッパチャプス(ピーチ味)を口に咥えて舐め始める。が、口の中に広がるのは、甘さとは程遠いものだけ。

 

「……ま、そりゃ怒るよな」

 

窓の外を見つめながら、目を細くしてそう呟く藤四郎。その表情は明らかに優れない。

 

「お姉ちゃん……」

「兄貴……」

 

下級生の2人は、風達が重苦しい事情をずっと抱えて勇者部を引っ張ってきた事を思うと、胸が締め付けられるような気分になる。

少しでも力になりたい。否、少しではダメだ。後ろに隠れてばかりではなく、隣を共に歩いていける自分になりたい。その為には何をするべきなのか、気持ちを切り替える2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部室を出た東郷は、人目につかない廊下で1人、頭を冷やしていた。外からは吹奏楽部の演奏が耳に入ってくる。美しい音色も、今の東郷を癒す薬とは成り得ない。

 

「東郷」

 

不意に聞き覚えのある男性の声に反応して、振り返ろうとした瞬間、横からお茶のパックが差し出される。紙パック越しに見えるのは、遊月の腕。その隣や後方には、友奈達の姿も。後を追いかけてきたのだろう。因みに牛鬼と鴉天狗を除く精霊達は、皆スマホの中に戻っている。

 

「遊月、君……」

「奢りだ」

「え、でも、そんな理由なんて……」

「さっきの事」

 

遊月はしゃがみ込んで東郷と目線を合わせる。

 

「あれは、俺達の事を想って、怒ったんだろ? なんとなくだけど、それは伝わってきたよ。優しいな、東郷は。みんなもそう思うだろ?」

「うんうん!」

「そうですね」

「あぁ!」

 

友奈達も同調して頷く。

 

「ありがとな、東郷」

「うんうん! 私からも、ありがとう!」

 

微笑みながらそう告げる遊月や友奈を前に、東郷は何かが吹っ切れたのか、頬に両手を当てて、恥ずかしげに口を開く。

 

「……あぁ。友奈ちゃんもそうだけど、遊月君も、眩しく見えちゃう……!」

「「?」」

 

首を傾げる2人。そして東郷は心を許したのか、心中を吐露し始める。

 

「えっとね……。私、昨日ずっと、モヤモヤしてたんだ……。遊月君は、もう覚悟を決めてるようだったけど、私は、そうじゃない。このまま変身出来なかったら、私は、勇者部の足手まといになるんじゃないかって……」

「そ、そんな事ないよ東郷さん」

「そうだぜ。怖いもんは怖いんだからしょうがないだろ」

 

友奈と兎角のフォローが入るも、東郷の表情は優れない。

 

「だから、さっき怒ったのも、そのモヤモヤを先輩方にぶつけてたところもあって……。私、悪い事言っちゃった……」

「東郷……。けどそれは」

 

銀が何かを言いかけたが、隣にいた巧に肩を掴まれ、それ以上語らない方がいい、と目線で訴えられ、引き下がってしまう。

すると、顔を隠すように頭を下げた東郷が、ブツブツと語り始める。

 

「友奈ちゃんも兎角君も、みんなの危機に変身したのに……」

「ん?」

「国が、大事な時なのに……」

「と、東郷さん?」

「みもりん〜?」

「私は……、私は、勇者どころか、敵前逃亡……」

「あの、もしも〜し、東郷?」

「お、おい東郷……?」

「と、東郷さん落ち着いて……!」

 

段々とネガティブめいた言葉が聞こえてきて、さすがの巧も気になり始める。

 

「風先輩や藤四郎先輩の仲間集めだって、国や大赦の命令でやっていた事だろうに、あぁ私はなんて……」

「ダァァァァァァァ⁉︎ 何でそこまでネガティブになっちまうんだよ⁉︎」

「そうやって暗くなってたらダメだよ東郷さん⁉︎」

 

もう見てられないとばかりに、声をかけて東郷を止めようとする一同。

 

「これはどうにかして話題を変えないと……!」

「変えるったってどうすりゃ……」

「じゃあ、私のお気に入りを見せてあげるね! これ見たら凄く楽しくなるよー!」

「何を見せる気だ?」

 

友奈が懐から手帳を出して、とある一ページを東郷に見せる。他の面々も気になって覗き込む。

 

「ジャジャーン! キノコの押し花! 凄いでしょ! トウモロコシのやつもあるよ!」

 

自信ありげに突き出した手帳に挟まってあるのは、友奈の趣味の一つである押し花コレクションの一つ、近くの山で採ってきたとされるキノコで作った押し花(?)だった。

それを見た東郷は一言。

 

「……うん。綺麗、だね」

 

……それだけだった。

 

「気を遣わせてしまった……⁉︎」

「うん、まぁ予想はしてたけど」

 

予想通りの反応に、ツッコむ事さえ躊躇う兎角。周囲の何人かから痛い視線が向けられる中、友奈は次なる手を打つべく、園子を引き寄せる。

 

「園ちゃんヘルプミー!」

「待ってました! じゃあ、ヒソヒソ……」

 

何故か巻き込まれた事に一切抵抗する様子もなく、友奈と打ち合わせを始める園子。その神対応に驚く中、早くも2人の間で話がまとまり、並んで行動を開始する。

 

「1番、結城 友奈!」

「同じく1番、乃木 園子〜!」

「一発ギャグいきま〜す!」

 

どうやら即興のコントをするようだが、何を思ったのか、2人はそれぞれ外に出ていた牛鬼と鴉天狗を鷲掴みにして、自身の服の中、正確には成長期真っ盛りの胸の前に押し込み、両手で押し上げつつ、東郷に見せびらかした。

 

「見てみて! 私達のバスト、まるでホルスタイン〜!」

「みもりんとお揃いだ〜! やったぜフゥ〜!」

『…………』

 

東郷のメガロポリスを再現するべく、精霊をそれに見立てて笑いを生み出そうとしたようだ。

いつのまにか、周りに聞こえていた演奏も鳴り止み、一陣の風が8人の肌を撫でる。

やがて、東郷から一言。

 

「私の為に、こんなネタを……」

 

両手を顔に当てて、目線を逸らした。

 

「逆効果⁉︎」

「何というか、色々なものを通り越して、凄いとしか言いようがありません……」

「コレハヒドイ……」

 

幼馴染みのスベった瞬間を目の当たりにして、頭を抱える兎角。

やがて牛鬼と鴉天狗が、苦しくなったのか2人の胸から脱出。2人がお疲れ様、となだめる中、友奈達の頑張りが功を奏し(?)、ようやく気持ちの整理がついたのか、東郷がゆっくりと語り始める。

 

「……ねぇ、友奈ちゃんも遊月君も、みんなも、大事な事隠されてて、怒ってないの?」

「う〜ん……。そりゃ驚きはしたけど、私は嬉しいよ! この適性のお陰で、風先輩や藤四郎先輩、それに樹ちゃんや冬弥君。ここにいるみんなに会えたんだから!」

「適性……か」

「うん!」

 

それを聞いて、東郷を含め、ハッとなる一同。

適性が、この出会いを導いた。そう唱える友奈の言葉には深みがあったと見える。

気を許したのか、東郷はポツポツと、まだ誰にも明かしていない、こんな事を話し始めた。

 

「……私は。中学に入る前に、事故で足が全く動かなくなって、記憶も少し飛んじゃって……」

「「「「「……!」」」」」

 

その言葉に反応した者は、5人。

 

「学校生活を送るのが怖かったけど、友奈ちゃんと兎角君がいたから、不安が消えて……。勇者部に誘われてから、遊月君や銀ちゃん、園子ちゃん、巧君、昴君に出会えて、先輩や後輩にも恵まれて……。学校生活が、もっと楽しくなったんだ」

 

そう語り始めた東郷の口調は、段々と明るみを取り戻しつつある。そして最後には、笑みがこぼれるほどだった。

 

「そう考えると、適性に感謝かも」

 

すると、友奈と遊月が彼女を安心させるべく、片方ずつ手を握る。

 

「これからも楽しいよ! ちょっと大変なミッションが増えただけで」

「だから、元気出せよ。俺達は絶対に誰も見捨てたりなんかしないし、忘れもしない。それが、俺達のいる勇者部のいいところなんだからさ。これからも頑張ろうな」

「……そっか、そうだね。友奈ちゃん、遊月君、ありがとう」

 

ようやく笑顔を取り戻した東郷を見て、2人だけでなく、成り行きを見守っていた兎角達もホッと胸をなでおろす。

 

「前向きだね〜。ゆーゆパワーも凄いけど、ゆづぽんパワーはそれ以上かも〜」

「だな。友奈の凄さは俺も知ってるけど、遊月も負けてないな」

 

園子と兎角が小声で語り合っていると、遊月がこんな事を口にする。

 

「……にしても驚いたな。東郷も、事故で記憶を無くしてるなんて」

「『も』って、どういう事だ、遊月?」

 

遊月の言い方に疑問を持つ巧。一同が注目する中、遊月は手すりにつかまりながら、外から見える海を眺めつつ、自身の事を語り始める。

 

「みんなには内緒にしてたんだけど、俺は、生まれてからここ12年間の記憶が、全部抜け落ちてるんだ。覚えてるのは、1年前からの思い出だけ」

『⁉︎』

 

その告白は、友奈達を驚かせるには破壊力十分だと言えよう。

 

「俺を拾ってくれた、漁師の叔父さんと叔母さんの話じゃ、全身傷だらけで海に漂ってたところを偶然通りかかって、助けてくれたらしいんだ。もちろんその時には、自分の名前すら覚えていなかった。いわゆる記憶喪失ってやつだな。この『小川 遊月』って名前も、叔母さんにつけてもらった名前なんだ。だから、さっき東郷が言ってたみたいに、不安はあったよ。何一つ覚えちゃいなかったんだからな。……でも、叔父さんや叔母さん、それに漁師さん達に支えてもらいながら、今だけを見据えて、自分なりに頑張ってきたんだ。そうしてたら毎日が楽しくなってな。学校に通えるようになって、東郷達と出会えたし、俺は、今の現状に満足してるんだ」

「遊月、お前……」

「ま、そういう事だ。多分東郷の言う事故とは全然関係ないけど、東郷が不安に駆られる気持ちは、俺にも分かるって事だけでも分かってもらえればいいんだ」

 

振り返ってそう呟く遊月。その一方で、ますます首を傾げる者が他に4人いた。

 

「東郷だけじゃなくて、遊月もそうだったのかよ。あたしらと同じ事が起きてんだな。なぁ巧」

「……あぁ。そうなるな」

「えっ? どういう事だ」

 

困惑する遊月に対し、銀が話し始める。

 

「いや、実はさ。あたしもこの街に来る前に、事故に遭ったらしくてさ。ちょっとの記憶もそうだし、耳も聞こえなくなっちゃって……。それに巧も、同じ風に記憶もそうだし……」

「この目も、両手の痛覚も、その事故でやられたと親から聞いている」

「そういや、そうだったな……」

「巧も銀も、俺と同じ……」

 

一度耳にしたことがある兎角や友奈、東郷は思い出すように首を振るが、遊月は驚きを隠せない。

そこへ今度は昴がおずおずと手を挙げて発言する。

 

「あ、あのですね。実を言いますと、僕も同じように、記憶を無くした節がありまして……。その時の事故で、記憶もそうなんですけど、右腕も切断して義手に取り替えたり、耳も難聴になりまして……。とにかく大変な事故だったって聞いてます」

「私もね〜。ここに来る前は入院してた時期があって〜。この右目もそうだし、記憶も吹っ飛んじゃったんだって〜。すばるんと初めて出会ったのも、その病院だったよね〜」

「はい」

 

園子が右目につけられた眼帯を指差しながらそう告げる。そんな中、兎角は疑問を口にする。

 

「不思議……っていうか、奇妙、だよな。同じ勇者部員で、それも6人も同じ時期に事故に遭って記憶を無くして……」

「そ、そうだね。ひょっとして、何か関係でもあるのかな……? どう思う、東郷さん?」

「分からないわ……。親にも尋ねてはみたけど、全く関係ないって押し通されて……」

「単なる偶然か、それとも……」

 

新たに判明した、2年生6人の共通点。該当していない友奈と兎角が唸っていたその時、各々の懐に入っていたスマホが、けたたましい音を響かせ、一気に緊迫した空気が張り詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、勇者部の部室では……。

 

「いかにしてお姉ちゃん達と東郷先輩が仲直りするか……」

「頼むッスよ、樹。こうなったら神樹様頼みッス!」

 

樹がテーブルにシャッフルしたタロットカードを並べ、冬弥が自身の精霊でもある、孔雀型の『彦孔雀(ひこくじゃく)』と、樹の精霊でもある、毛玉型の『木霊(こだま)』と共に、固唾を飲んで占いの結果を待ち望んでいた。

そのすぐ近くでは……。

 

「えっと〜。『説明足りなくてごっめんね〜!』」

『……』

「……軽すぎて、もっと怒っちゃうかな」

 

風が、目の前に漂う、自身の精霊でもある犬型の『犬神(いぬがみ)』を東郷に見立て、どのように謝罪するかを検討していた。

 

「『本っ当に、ごめんなさい!』。……低姿勢すぎるなぁ。困った〜、どうやって仲直りしよう……。藤四郎、あんた何か名案ある?」

「俺に聞かれてもなぁ……」

 

大赦からのメールをチェックしながら、チュッパチャプスを堪能する藤四郎の反応はそっけない。

そこで今度は樹に助け舟を求める。

 

「樹、どうするべきか占えた?」

「今、結果出るよ」

 

そう言って最初にめくったカードに描かれていたのは、正位置の『恋人』。意味は『明るい、人間関係の向上』。

 

「おっ、なんかモテそうな絵じゃない。他のは?」

「えっと……あれ?」

 

不意に樹が素っ頓狂な声をあげたのを聞き、藤四郎がハッと顔を見上げる。見れば、めくったカードが不自然に宙に浮いたまま、静止していた。

時が止まっている。そう直感した藤四郎や風の表情が強張っていると、藤四郎の側に、人型の鬼を模した精霊『夜叉(やしゃ)』が出現し、同時に皆のスマホから警報のような音が鳴り響く。

スマホに表示された『樹海化警報』。そして樹が最後にめくったカードに目をやり、緊張が走る。

 

「まさかの連日⁉︎」

「いくら神託がズレ始めてるからといって、これは……!」

 

めくられたのは、逆位置の『吊るされた男』。意味は『裏目、試練』。

お役目に選ばれた無垢なる少年少女達を待つ事なく、『試練』は静かに迫ってきていた。

 

 

 

 




5月に入って『マギアレコード 』で、『月読 調』の南條愛乃さん、『姫河 小雪(スノーホワイト)』の東山奈央さん、『八神 はやて』の植田佳奈さんが、『すずねマギカ』のキャラとして遂にまどマギ界に登場してましたね! あれは個人的に盛り上がりました。どのキャラの声優もよく知ってますので。

次回は、いよいよ彼らが……!


〜次回予告〜


「待っててね、倒してくる!」

「国防……」

「手出しはさせない!」

「この御霊……!」

「今度は私が……!」

「……ホントごめんなさい」

「やってやるッス!」

「これが、武神の力か」


〜守り、守られる関係〜

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