結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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最近は風も強くなってる影響からか、肌寒い日が続いてるような……。体調管理には気をつけてくださいね。

話は戻りますが、いよいよ2回目のお役目です!


5:守り、守られる関係

樹海と化した世界にて、一際目立つ大木。それこそが今ある世界を守護する神々の集合体『神樹』。

そんな神木を破壊するべく、侵攻する影が3つ。

『蠍座』もモチーフとした、鋭い尾が特徴的な『スコーピオン・バーテックス』、『蟹座』をモチーフとした、ハサミのような尾が特徴的な『キャンサー・バーテックス』、そして2体の後方に見えるのは、『射手座』をモチーフとした、顔だけが縦に長い、『サジタリウス・バーテックス』。

 

「さ、3体同時ッスか⁉︎」

「これは……、モテすぎでしょあたし達」

「お前は何言ってんだ……」

 

風の真面目な表情でのボヤきに、呆れを隠せない藤四郎。両隣にいる樹と冬弥は、彼らとは正反対で緊張の面持ちだ。既に変身は完了しており、後はこの場にいない友奈達との合流を待つばかりである。

その頃、友奈達も樹海の中で敵の存在を確認していた。

 

「バーテックスが、3体……!」

「なるほど、そうきたか」

「複数で攻めてくるタイプもアリなのか……。気を引き締めていくぞ!」

 

兎角の呼びかけに応えるように力強く頷く面々。東郷と遊月を除く6人はスマホの勇者アプリをタップし、神樹からの加護を身に纏う。

変身を完了し、友奈は2人に顔を向ける。

 

「東郷さん、遊月君! 待っててね、倒してくる!」

「ま、待って、私も……!」

 

そう叫んでアプリを起動しようとする東郷だが、昨日の一件が頭をよぎり、恐怖心から、震えが止まらなくなる。同じく変身しようとしていた遊月も、東郷の事が気になって、変身を躊躇い、代わりに東郷の手を握る。すると、遊月に加えて友奈の両手が2人の手を優しく包み込む。

 

「大丈夫だよ、東郷さん」

「友奈、ちゃん……」

「そういうわけだ。遊月も、東郷の事、頼んだぜ」

「けど……」

「心配すんなって。2人の分まで、俺達がちゃんとあいつらをぶっ倒してくるから。それに、今の東郷を守ってやれるのは、お前にしか頼めないんだ。な、みんな」

「えぇ。ですから東郷さんについてあげてください」

「あたしらにかかればなんて事ないさ! 勇者は根性! 気合いで押し切る!」

「……分かった。気をつけろよ」

「じゃあ、行ってくるね!」

 

そう言って6人はあっという間に敵のいる地点へと跳躍する。東郷は一瞬だけ手を伸ばしたが、遠ざかっていく背中を見つめるだけしか出来ない。少し前まで明るさを取り戻しつつあった表情も、また暗い影が差し込んできている。

 

「(東郷……)」

 

遊月は、東郷の事を気にかけつつ、向かってくるバーテックスの姿を確認する。存在感のある、3体の巨大な生命体。

不意に頭痛が襲い、顔をしかめる。同時に体の芯に震えが走る。嫌な予感がする。漠然とではあるが、胸騒ぎが収まらない遊月であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊月同様、胸騒ぎに駆られている者は他にもいた。

 

「遠くのやつは放っておいて、先ずはこの2匹まとめて、封印の儀にいくわよ!」

「了解ッス! やってやるッス!」

 

風の指示で、先ずは現時点で神樹に近い位置にいる蠍型と蟹型を仕留める事に。

早速取り掛かろうとする友奈だったが、近くにいた巧が、傷のついた左目に手を触れているのを見つけ、話しかける。

 

「巧君、どうしたの? 目、痛いの?」

「いや、そういうわけじゃないが……。どうにも疼きが止まらん。あのバーテックスを見てるとな……」

 

巧が着目しているのは、3体の中で一番後方に位置する射手型だった。

 

「確かに変だな……。あいつだけ何で遠くに離れて……」

 

兎角も射手型の動向に違和感を覚える。そして具体的に危険を察知したのは園子だった。

 

「何か、仕掛けてくる……! すばるん、ふーみん先輩を!」

「は、はい!」

 

園子が着目したのは、射手型が向いている方向だった。進行方向には風の姿がある。それを見て昴に指示を出したのと、射手型の2つある口のうち、上部が開いて一本の巨大な針が光速で発射されてのはほぼ同時。

不意の攻撃に固まってしまっている風の目の前に、昴が盾を突き出す。

 

「くぅ……!」

 

凄まじい威力に押し返されて、風を巻き込む形で後ずさる昴だが、2人とも大事はないようだ。

 

「お姉ちゃん! 昴先輩!」

「す、昴……! 助かったわ!」

「良かったです……! 園子ちゃんの指示があっての事でしたね」

 

昴の言う通り、園子の指示が無かったら、無防備だった風は今頃、致命傷を負っていたに違いない。

 

「油断するな! また来るぞ!」

 

巧よ声を聞き、ハッとなる昴と風。見れば、射手型が下部の口を開き、土砂降りの如く、大量の針を飛ばしてきたではないか。

 

「い、いっぱい来たぁぁぁぁぁ⁉︎」

「早くこの中へ!」

 

昴が意識を集中させて、盾から発せられるバリアをなるべく広範囲に展開。近くにいた犬吠埼姉妹と藤四郎、冬弥はそこへ入り込み、射手型の攻撃をやり過ごす事に。だが、このままでは拉致があかないと思ったのか、友奈と銀が射手型に向かって攻め上がる。

 

「撃ってくるやつを、何とかしないと!」

「あたしもいくぞ、友奈!」

「! 友奈、銀!」

 

友奈と銀が2体の脇をすり抜けて、射手型の対処に当たろうとしたその時、蟹型の周囲に、6つの板のようなものが浮かび上がる。それを見て、敵の次なる一手だと察し、2人を呼び止めようとする。が、それよりも早く、射手型が次に発射した針は、蟹型の出した板に跳ね返される形で、友奈と銀の背後に迫り来る。

 

「! マズい!」

「反射板だったのか……!」

「2人とも、後ろだ!」

「「!」」

 

藤四郎に呼ばれて気づいた時には、回避が間に合わない位置まで迫ってきていた。とっさに身構える2人。

 

「危な〜い!」

 

そこへ割り込む形で、園子が槍を構えて穂先を展開し、昴と同じように盾として針による攻撃を防ぐ。全て防ぎ切り、地面に着地する3人。

ホッとなり、園子にお礼を言おうとしたその時、前方から勢いよく蠍型の、鋭く尖った尾が迫ってきた。園子の対処が間に合わず、3人は声を出す間も無く攻撃を受けてしまう。

銀と園子は地面を転がり、友奈は下から掬い上げられるように上空へ突き飛ばされる。防御の構えを取っていない友奈の無防備な腹に、尾が突き刺さっているのではないかと、肝を冷やす兎角だが、よく見ると、その間に牛鬼が必死になって主を守るべく、バリアを張っているのが確認できた。貫通はしていないので、致命傷には至らないようだ。

が、ノーダメージとまではいかないらしく、苦しげな表情を浮かべたまま落下していく友奈に、蠍型は無慈悲に尾で横手に吹き飛ばした。

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!」

「! 友奈ぁ!」

「友奈さん!」

 

兎角を初めとした一同が、友奈の安否を気にかけるが、蟹型の反射板によって跳ね返された、射手型の針が、今度は風達に標的を変えた。

 

「! この位置……! 防ぎきれない!」

「散開だ!」

「樹、気をつけて!」

 

各方位からの攻撃は防ぎきれないと判断し、藤四郎の指示でバリアを解除し、回避に専念する5人。次第に銀と園子の元へ駆けつけようとした巧の方も狙われ始める。それを見て、巧は兎角に声をかける。

 

「兎角! 友奈の方を!」

「分かった……!」

 

唯一射手型の射程範囲に入っていなかった兎角は、巧に背中を押される形で、先程蠍型から攻撃を受けていた友奈の元へ駆けつける事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、遥か後方で固唾を飲んで見守っていた東郷と遊月の目にも、蟹型と射手型の連携攻撃に晒されている風達や、それを避ける形で蠍型が2人の、正確には神樹がある方へと、着実に侵攻してきているのが確認できた。

 

「こ、こっちに……!」

「(このままだとここも危ない……! もっと遠くへ!)」

 

遊月が車椅子を押して、さらに遠ざかろうとしたその時、蠍型が尾を動かして、地面に倒れていた何かを吹き飛ばした。

友奈だった。

 

「友奈ちゃん!」

「友奈!」

 

親友がいたぶられている姿を目の当たりにして、足を止める2人。地面を転がり、倒れている友奈に向かって鋭い尾を上から突き刺そうとする蠍型。

 

「ウォォォォォォォォ!」

 

だがそこへ間一髪とばかりに、横から突き飛ばす形で、兎角がレイピアを突き出し、軌道を逸らした。

 

「友奈、大丈夫か⁉︎」

「と、かく……!」

「何とか間に合ったか……! とにかく下がってろよ!」

 

そうして友奈の前に立ち、レイピアを構え直す。

 

「こっからは、俺が相手になってやるぜ!」

 

蠍型は、兎角を排除するべく、尾を振り下ろし続け、兎角は同じくレイピアを振り回して、ひたすら防衛に徹する。彼の精霊でもある因幡も、必死に応戦している。

が、一つ一つの威力は、蠍型の方が圧倒的に上手だった。段々と表情を歪ませる兎角。それでも、引き下がるような事はしなかった。

 

「俺の後ろには、何が何でも守りてぇやつらが、いるんだ……! こんな所で、折れてたまるかってんだぁ!」

 

気合いを一つ入れて、再度レイピアで突きを入れようとする兎角。だがそれすらも、蠍型を倒すには至らず、脇腹を狙った攻撃をレイピアでガードした際、足を踏み外してしまう。

 

「……!」

 

その隙を逃さず、蠍型は兎角を軽く突き上げると、勢いよく地面に叩きつけた。

悲鳴があがり、近くに倒れていた友奈と、東郷の前に立っていた遊月は吹き飛ばされ、東郷の乗った車椅子も少し後退する。

砂埃が晴れて、見えてきたのは、地面に空いた大きな穴。その中心部に仰向けになって倒れ込んでいる兎角は、レイピアを盾代わりにして、尾を受け止めている。まだ仕留め切れていないと気づいた蠍型が、更に尾を兎角に向かって叩きつける。兎角も歯を食いしばりながら、必死に耐えているが、彼の方が押し負けるのも時間の問題だろう。友奈も早く起き上がって兎角を助けに向かうが、先程までのダメージが回復しておらず、思うように動けないからか、止めようとする前に風圧に押されてまた地面を転がってしまう。倒れている遊月も、すぐには起き上がれなかった。

一方で、無惨にも攻撃に晒されている兎角や、助けに行こうとして返り討ちにあっている友奈を見て、震えが止まらない東郷。

 

「……! や、やめ、て……!」

 

事故で、両足の機能と数年間の記憶を失い、不安に押しつぶされそうになりながら、新居に引っ越してきたあの日。隣に住む友奈と兎角が分け隔てなく話しかけてくれて、胸一杯な気持ちを迎える事が出来たあの日。東郷 美森にとって、太陽のように強い意志を持ち、月のように優しく包み込む2人は、かけがえのない、大切な人達だ。

その2人が窮地に晒されている今、自分に出来る事はあるのか……?

 

「やめて……!」

 

大親友の危機を前に、震えているだけが、今の自分に出来る事なのか……?

 

「……やめろ」

 

今の自分になら出来る事が、あるではないか。

それは……。

 

「やめろ!」

 

最初は低く、次第にはっきりと、その意志を示す。

 

「友奈ちゃんを……! 兎角君を……! 遊月君を……! みんなを……! いじめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

東郷の叫びを聞き、反応した蠍型は、その鋭い尾を兎角から東郷に狙いを定め、予備動作もなく振りかざし、突き刺しにかかる。

 

「! よせぇ!」

 

兎角が叫ぶよりも早く、蠍型の尾による攻撃が東郷を襲うが……。

 

「えっ……⁉︎」

「あれは……」

 

友奈と遊月が思わず声をあげる。蠍型の攻撃をすんでのところで止める存在がいた。それは東郷の右手にあるスマホから現れた、手が生えた卵型の異形。それが、東郷の持つ勇者システムに搭載されていた精霊だという事は、すぐに察した。

 

「私、いつも友奈ちゃん達に、守ってもらってた……」

「東郷、さん……」

「東郷……!」

「……」

「……だから! 今度は私が……! 勇者になって……! 友奈ちゃん達を、守る!」

 

その目に、もう迷いはない。

スマホの画面をタップし、花びらが強い意志に応えるように包み込む。

光が解けて露わになったのは、青を基調とし、豊潤なバストが目立つ、『朝顔』をモチーフとした勇者に姿を変えた、東郷 美森。

勇者服の背面から伸びている、リボンのような帯が触腕のように、両足が付随な彼女を支えていた。

 

「綺麗……」

 

友奈が思わずそう呟いてしまうほど、その容姿は神々しいものを感じさせる。後方にいる遊月も、思わず見惚れていた。

一方で、東郷は右手に短銃を構えると、その隣に、先程目の前に現れたのとは違う個体で、狸型の精霊『刑部狸(ぎょうぶだぬき)』が出現する。そして、自然と普段通りの落ち着きを取り戻している事に気づく。

 

「(どうしてだろう。変身したら落ち着いた……。武器を持っているから……?)」

 

だが今は何でも良い、というのが東郷の心情だった。戦う手段があるのなら、大切な人達を、この国を守れる力がその手にあるのなら、もう迷う必要はない。

振りかざしてくる尾の先端を、短銃で撃ち抜く東郷。

 

「もうみんなには、手出しはさせない!」

 

そう言って短銃を霧散させると、今度は青い炎の形をした精霊『不知火(しらぬい)』が出現。東郷の手には、新たに2丁の散弾銃が握られ、連射で蠍型の顔を狙い撃ちして、後退させる。

 

「す、凄い東郷さん……! これなら……!」

「あぁ、いけるかもしれないぞ……!」

 

手際よくリロードしながら、蠍型を圧倒する東郷を見て、安心感を覚える友奈と兎角。

だが、そんな彼女に向かって新たな脅威が。大量の針が、こちらに向かってきていた。射手型の放った流れ弾が、東郷達のいる地点に接近しているのだ。

 

「! 東郷さん!」

「!」

 

友奈に呼ばれて、不意の攻撃に気付いた東郷がとっさに散弾銃を向けるが、

 

「ハァッ!」

 

という、すぐ近場から聞こえてきた声と共に、光っている矢が針に直撃し、爆発。誘爆される形で、残りの針も消滅した。

ハッとなって3人が声のした方を振り向くと、そこには……。

 

「遊月、君……!」

「どうやら、先に覚悟を決めたのは東郷だったみたいだな」

「遊月、それ……!」

 

兎角が指さした先には、花びらに包まれようとしている遊月の姿が。すでに武神アプリを起動しているらしく、その手には、自身の背丈と同じ大きさの弓が。先ほどの攻撃は、遊月による一射だったようだ。

 

「なら、俺が戦わない理由はない。誰かを守りたい気持ちは、俺も同じだ。この力で、守ってみせる!」

 

そうして光に包まれ、解けた際には、その姿は一変していた。

白緑を基調とし、大きな弓矢を構える、『オリーブ』をモチーフとした武神姿に、小川 遊月は変身した。

そうして隣にモジャモジャの精霊『伊弉波(いざなみ)』を出現させ、東郷の隣に立ち、互いに目配せをする。

 

「遊月君も、変身できたのね」

「あぁ。……さてと、じゃあ傍観してた分、俺達も張り切ってやるか。頼りにしてるぜ、東郷」

「……分かったわ!」

 

そう言って東郷は再び散弾銃を撃ち始め、遊月は矢をセッティングして、弦をギリギリまで張って、一気に解き放つ。その一撃は凄まじく、散弾銃でも貫通出来なかった顔に、穴を開けた。

驚く友奈と兎角を尻目に、遊月は何を思ったのか、弓を構えたまま走り出し、蠍型に接近する。すると、伊弉波の代わりに、魚の形をした精霊『竜宮之姫(おとひめ)』が出現。弓が真っ二つに分かれて、それぞれを両手に構えた。

 

「えぇ⁉︎ 弓が折れちゃった⁉︎」

「いや違う、あれは……!」

 

友奈が驚いている中、兎角が予想した通り、遊月は分解した弓を逆手に持ち替えて、蠍型を斬りつけた。どうやらこの弓には、2つに分解して鎌のような武器としても使えるようだ。

 

「フッ! ハァッ!」

 

遊月の斬撃に加え、東郷が後方からの射撃で怯ませ、蠍型を追い込んでいく。ヒットアンドウェイ戦法が光っている証拠でもある。その連携の取れた動きに圧巻されている友奈と兎角だが、すぐに気持ちを切り替える。

 

「……ハッ! 私達も頑張らないと!」

「あぁ! 2人だけに任せてちゃ悪いからな。俺達も援護だ! 行くぞ友奈!」

「うん!」

 

そうして2人も、遊月と東郷を援護するべく蠍型に立ち向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、蟹型と射手型の連携攻撃を前に、風達は依然として苦戦を強いられていた。2年一同と、3年と1年の4人、この二手に分かれて走りながら回避したり、木の根を利用して物陰に隠れたりと、攻撃をやり過ごしているが、逃げ場所がなくなるのも時間の問題だ。

 

「あーもう! しつこい男は嫌いなのよ!」

「モテる人っぽい事言ってないで、何とかしようよお姉ちゃん!」

 

とは言うものの、攻めあがろうにも盤面がいかんせん整っておらず、思うように動けない現状だ。

 

「なかなか隙があかないな……」

「せめて、どっちかの動きが止まってくれればいいんだけど〜……」

「こうなったら……! あたしが行って何とかする!」

「よせ銀! お前1人では無理が……!」

 

といった感じで特攻しようとする銀を抑えていたその時、昴が視界に何かを捉えた。

 

「⁉︎ 何か降ってきますよ⁉︎」

 

その声に反応して顔を見上げると、巨大な何かが蟹型を押しつぶした。よく見ると、蠍型の巨体が横たわっているのが確認できる。

 

「あれは確か兎角達が対処してた……。という事は……!」

 

藤四郎が確信したと同時に、予想通り2人の影が姿を現した。友奈と兎角である。

 

「そのエビ運んできたよー!」

「蠍でしょ⁉︎」

「蠍だな」

「どっちでもいいよ……」

「! 何か近づいてるッス!」

 

不意に冬弥が、もう二つの影を発見し、指を指す。1人は白緑の服を纏い、巨大な弓を持っており、もう1人は帯を使って跳躍しながら向かってきて、友奈達と合流する。

 

「東郷先輩……!」

「遊月先輩もいるッス!」

「あの2人……! 変身したのか!」

 

隠れていた風達も、勇者や武神に変身した2人の元へ合流する。

 

「遊月、東郷」

「遠くの敵は、私と遊月君で狙撃します」

「みんなはその間に、封印の儀を!」

「東郷、遊月……! 戦ってくれるの?」

 

風の問いに、2人は静かに、されど強い意志を持って頷く。その表情を見て安心する風と藤四郎。

だがいつまでも感動に浸ってはいられない。こうしている今も、3体のバーテックス達は体制を整えつつある。東郷はスナイパーライフルを出現させ、隣に先ほど彼女を守った卵型の精霊『青坊主(あおぼうず)』を、遊月は弓に3本の矢を装填し、隣に漠のような姿をした精霊『夢枕(ゆめまくら)』を呼び出す。

 

「援護は俺達に任せてください!」

「分かった! 頼むぞ遊月、東郷!」

「みもりんとゆづぽんがいるなら百人……千人力だよ〜!」

「じゃあ、手前の2匹、まとめてやるわよ! 散開!」

『OK〜』

「不意の攻撃には、気をつけて!」

『了解!』

「……あたしのより、返事が良いって」

「ボヤくな。それより、俺達もいくぞ。後輩達に遅れを取るわけにはいかん」

 

後輩に先を越された気がして軽くショックを受ける風を、肩を叩いて慰める藤四郎。

こうして遊月と東郷は遠距離攻撃による支援攻撃、それ以外の面々は近接戦で封印まで持っていく事に。

射手型が友奈達に向かって巨大な針を発射するが、そうはさせまいと、東郷の冴えたスナイピングで相殺。その隙に遊月が矢を連射して怯ませる。

 

「こいつがみんなを苦しめた……!」

 

なおも手を休めずに、射手型を狙撃していく2人。

 

「そこで大人しくしてな……!」

 

その頃、友奈達も着実に封印の儀に取り掛かろうとする。

 

「ハァッ!」

 

昴はワイヤーで繋がった盾を投げつけて、蟹型の尾に絡ませて、引っ張って地面に叩きつけると、そこに友奈や銀が間髪入れずに重い一撃を与える。

 

「フンッ!」

 

巧は先端に火の玉を形成し、バチを振り、蠍型に浴びせて怯ませ、園子が槍で、兎角がレイピアで地面に押し倒すと、冬弥のハンマーと共に巧も接近し、2人同時に打撃を打ち込む。

2体のバーテックスの動きが鈍くなったところで、一同は二手に分かれてバーテックスを囲み、封印の儀を始めた。蟹型は頭部から、蠍型は手に抱えていた球から、それぞれ御霊が出現した。

 

「出たよ〜!」

「こっちもッス!」

「私、行きます!」

 

友奈は我先にと、蟹型から出た御霊に向かって殴りかかる。

ところが、すんでのところで御霊が動いて回避。その後も素早く動き回り、必死に喰らい付こうとする友奈だったが、御霊の方が一枚上手だ。

 

「こ、この御霊……! 絶妙に避けてくるよ〜!」

「代わって、友奈!」

 

友奈に代わって前に出たのは風だった。大剣による風の一振りもかわしているが、彼女にとってそれは想定内だ。

 

「点の攻撃をひらりとかわすなら! 面の攻撃でぇ!」

 

そう言って腕に力を込めて、剣をさらに肥大化させ、面の部分を御霊に向けて振りかぶった。さすがの御霊も、巨大な質量の塊を前に回避できず、吹き飛ばされる。その先には、2丁の斧を1つにして待ち構えている銀の姿が。

 

「ナイスだ風! 野球は結構好きなのよねぇ!」

 

タイミングを見計らい、斧をバットのように振り、御霊が野球ボールの如く打ち上げられる。その軌道上に、飛び上がって大鎌を携える藤四郎の姿が。

 

「キェアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

雄叫びと共に大鎌を振り下ろし、御霊を一刀両断。粉々に砕け散り、光となって天に昇り、同時に蟹型も砂になって消滅。

 

「さぁ、次いくわよ!」

 

風の指示で、続けざまに蠍型の御霊の破壊に取り掛かる一同。と、ここでも御霊に動きが見られた。回転し出したかと思うと、あっという間に同じ大きさの御霊がいくつも出現し、周囲に散らばり始めた。分身を作って撹乱させるのが、この御霊の能力のようだ。

 

「な、なんか増えた⁉︎」

 

困惑する友奈に対し、園子は冷静に判断をする。

 

「そっちがそうくるなら〜……! いっつん!」

「! はい!」

 

園子が前に出て、変幻自在の槍を上手く使って、散らばりつつある御霊をほぼ一箇所にまとめたところで、樹に合図を送る。それを見て樹は右手の花環状の飾りからワイヤーを飛ばし、御霊を全て縛り上げた。

 

「数が多いなら、まとめて〜! えぇ〜い!」

 

全ての御霊が拘束されたのを確認して、園子が飛び上がり、槍を突き立てる。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

鋭い突きが炸裂し、御霊は木っ端微塵に。が、一番中心にあった御霊だけは破壊できておらず、蠍型の本体も依然として残り続けている。つまりその御霊が本体なのだ。

 

「それなら、トドメはおいらに任せるッス! ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

間髪入れずに、冬弥がハンマーを構えて、自ら回転を加えながら力強く御霊を殴りつけると、御霊は光となって天に昇り、蠍型も消滅した。

 

「ナイス樹、冬弥!」

「これで残るは……!」

「遊月と東郷が足止めしてくれている奴だけだ!」

 

そうして射手型の方へ向かおうとしたその時、風の持っているスマホに着信が。相手は狙撃中の東郷だ。出てみると、真っ先に東郷の口から謝罪の言葉が。

 

『風先輩、部室では言い過ぎました。ごめんなさい。藤四郎先輩にも、そう伝えておいてください』

「東郷……」

『その代わり、精一杯援護します!』

 

それを聞いて、ほんの少し罪悪感が無くなり、肩身が軽くなった気がした風。

 

「心強いわ! あたしの方こそ……」

 

風の言葉が続くよりも早く、射手型の全身に銃弾や、矢が無慈悲に容赦なく撃ち込まれた光景を目の当たりにし、一気に青ざめる風。隣にいる藤四郎を苦笑いを浮かべている。

 

「えっと……。……ホントごめんなさい。ハイ」

「ほえ〜。一発必中……!」

「フルスロットルだね〜」

「こわい怖い……」

 

あの2人を怒らせるとどうなるか、身をもって知った一同の背筋が凍る。

とはいえいつまでも呆けてはいられないので、一同は射手型を囲むように立つ。

 

「よぉし! 封印開始!」

 

早速御霊の破壊に取り掛かろうとした矢先、射手型の口から出てきた御霊は出現と同時に、素早く弧を描く形で動き始めた。

 

「この御霊……!」

「速すぎるッス⁉︎」

「こんなん仕留められるのかよ⁉︎」

「くっ……!」

 

予想以上の速さに、風と藤四郎の顔も険しくなる。足元の数字も残り僅か。チャンスは一度きり。タイミングを逃せば封印が出来なくなってしまう。周りの木の根も枯れ始め、侵食が進んでいる。

そんな緊迫した空気が流れ始める中、突如として均衡が崩れた。周囲を高速で移動していた御霊が、遠くから放たれた弾に撃ち抜かれ、動きを止めた。

 

「東郷先輩……!」

「う、撃ち抜いた⁉︎」

「あの距離から狙えるのか……!」

 

皆にはそれがすぐに東郷が撃った弾丸だと分かった。更に、

 

「ウォォォォォォォォォォォォォ!」

 

取り囲んでいた友奈達の頭上を飛び越える形で、鎌に変形した武器を両手に持った遊月が、穴の空いた箇所に目掛けてクロス状に斬り裂き、御霊を破壊。射手型も砂となって消滅し、これで3体全てのバーテックスを倒した事になった。

 

「これが、武神の力か」

 

そう言ってトドメをさした遊月は、友奈達とは合流せずに、一旦東郷の元へ帰還。

 

「なんか、美味しいところ持ってったみたいで悪かったな、東郷。でもナイスショットだったぜ」

「そんな時事ないわ。遊月君も果敢に攻めに出てて、カッコよかったわ。それに、弓技の腕前もね。どこかで習った事がある人みたいに、上手だった」

「習った……か」

 

両手に構えている弓を見て呆然とする遊月。彼自身、記憶をなくしている為、本当に弓矢を習ったかどうかは定かではないが、彼の中では違う見解も生まれていた。

 

「(けど、これはどっちかっていうと、昔誰かがやってたのを真似した、みたいな……。ずっと矢を放ちながら、そんな懐かしさも感じてたんだよな。でも、一体誰が……?)」

 

そこまで考えついたその時、激しい頭痛が襲いかかる。今までの中で一番痛い頭痛だ。

 

「遊月君? 大丈夫……?」

「! いや、大丈夫、だ。軽い偏頭痛だ。気にしなくても問題ないな」

「? そう……ならいいんだけど」

「それでいいんだ。さてと、そろそろ樹海化も解けるな」

「えぇ、状況終了。みんな、無事で良かった……!」

「あぁ」

 

そんな会話が繰り広げられているうちに、周囲が花びらに包まれ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が元の時間を取り戻し、再び『日常』が動き出す。

讃州中学の屋上に、勇者部の面々が集い、友奈ら2年生達は、此度勇者に、武神になった東郷や遊月を労った。

 

「東郷さん、カッコよかった! ドキッとしちゃったよ!」

「そ、そんな……。遊月君が、隣にいてくれたから、私は自身が持てたのよ。ありがとう、遊月君」

「別に俺は何もしてないけどな。でも、支えになったってんなら、まぁ素直にその気持ちは受け取っておくよ」

「遊月君……!」

「うんうん。いい一枚絵だよ〜!」

「園子のやつ、ちゃっかり写真まで撮ってるし」

「ま、こういう奴だからな」

 

風と藤四郎も、会話の中に入ってきた。

 

「でも本当に助かったわ、東郷、遊月」

「それで、だ。一応聞いておきたいが……」

「覚悟は出来てます。みんなと一緒なら、何も怖くありません。私も勇者として頑張ります!」

「右に同じく。ここからは、俺も武神として戦います。みんなの日常を、守る為に」

 

2人の覚悟を再確認した、3年生達の表情は柔らかい。

 

「……ありがとう、2人とも! 一緒に、国防に励もう!」

「国防……。……はい!」

 

そのワードを聞き、うっとりする東郷。こう言った言葉には濃ゆい一面を見せるのを、彼らは知っている。

いつも通りの東郷を見て、安堵の表情を浮かべる一同。

 

「(まだ、俺自身の中で、このお役目に対してモヤモヤしてるところはあるけど、今は東郷達を、この世界を守る為に、自分なりに精一杯頑張っていこうか)」

 

遊月も、気持ちを新たに、お役目への全力投球を心の中で誓う。

神世紀300年、春。12人の無垢なる少年少女達は、『日常』を守るべく、『非日常』へと飛び込み、戦いにその身を置く事となる。その果てに、彼らに待ち受けるものとは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば友奈ちゃん。課題は?」

「……あ。課題、昨日までだった……! アプリのテキストばっかり読んでて……!」

「ハハッ! 友奈らしいな!」

「そう言ってる銀はどうなんだ?」

「……ハハ。聞かないでくれ」

「やはり……でしたね」

「やっぱりだね〜」

「そこは守らないから、2人とも頑張ってね」

「「そんな〜……」」

「勇者も勉強も両立、だな」

 




次回は、新たな勇者と武神が参戦!



〜次回予告〜


「ここで迎撃するぞ」

「勇者部ファイトォ!」

「何も見えねぇよ⁉︎」

「ちょろい!」

「お前ら、一体……」

「み、皆さんの援軍として来ました!」


〜新参、現る〜


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