結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

今回はタイトル通り、新たなメンバーが参戦します!


6:新参、現る

「えぇっと、あと買い忘れたものは……うん、ないな」

 

手提げカバンの中に入れた品物と、もう片方の手にあるチラシを見比べながら、銀は買い忘れがないか確認していた。

時は、彼女を含む、讃州中学校『勇者部』の面々が神樹によって本物の勇者となってから早1ヶ月半が経った頃。久々に部活動……もとい依頼がなく、休日という名の暇を弄ぶべく、銀は買い出しに出かけていた。現在は一人暮らしという事もあり、ありとあらゆるものは自分で調達しなければならない。が、元いた家でも率先して買い物をしていた記憶があり、さほど苦にはならない。

この日は近場の薬局で安売りしているものが沢山ある、というチラシを見つけた銀は早速財布と手提げカバンも持って、次々と生活用品をカバンの中に入れていった。

必要なものは一通り選び終わり、後は余ったお金で買っておきたいものを物色する事に。やがて銀の目に付いたのは、新発売のサプリメントが入った瓶。銀自身、サプリに興味があるわけではないが、周りのクラスメイトでも、運動部に所属している生徒などは、時たまに服用していると聞いており、一度買って試してみてもいいかも、と好奇心が湧いた。

瓶はあと1つ。銀は迷わず手を伸ばした。

が、済んでのところで自分とは別に、もう一本の腕が視界に入り、瓶を掴む寸前で止まった。向こうも銀が手に取ろうとしている事に気付いたようだ。

 

「「ん?」」

 

サプリを取ろうとした2人が同時に顔を互いに向ける。見えたのは、茶髪で、2本の赤いリボンで髪を留めている、銀とほぼ同じ身長の少女だった。

一方で茶髪の少女も、同じ品を取ろうとしている同い年くらいの少女を意外そうに見つめてから、一旦手を引っ込める。

 

「……別に良いわよ。それ取っても」

「い、いや……。別に特別どうしても欲しかったわけじゃないしさ。持ってって良いよ」

「あっそ」

 

と、銀が遠慮したのを見て少女は素早く瓶を手に取り、買い物カゴに入れた。見れば、少女が持っているカゴの中には、これでもかと言わんばかりに、サプリや健康ドリンクなどの商品が大量に入れられている。これはかなりの強者だ、と銀は直感する。

 

「サプリ、好きなのか?」

「ん、まぁね。最強を目指すなら、健康管理も大切なのよ」

「最強……? 何の?」

「か、関係ないわよあんたには! ……じゃあ、もう行くから。また同じやつが入荷したら、今度はそっちに譲るわ」

 

そう言って少女はそそくさとレジの方に向かって会計を済ませに行った。随分と面白いキャラだ、と思いつつも、何とも言えない不思議な感覚に見舞われた。どことなく、自分と同じ何かを匂わせたからだ。もちろん根拠などないが。

サプリを諦めて別の商品を手に取り、会計を済ませて店を出た後も、どうしても少女の事が頭から離れない。

 

「そういやあいつ、讃州中学の生徒なのかな……? でも、全然見覚えないっていうか……」

 

中学校に入ってから1年と数日が経っており、ある程度同級生とは顔を合わせてきたが、それらしい人物と合致しない。

もしかしたらあの少女は……、と考えていたその時、内ポケットに入れておいたスマホから、久々とも思える、けたたましい警報が鳴り響いてきた。慌てて手に取ると、『樹海化警報』と表示されている。と同時に、近場の公園でサッカーをしていた子供達の動きも、時が止まったように静止してした。

 

「……おいでなすったな!」

 

銀はもう見慣れたと言わんばかりの口ぶりで、世界が樹海化しないうちに、手提げカバンを邪魔にならない場所に置いて、1つ気合いを入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。サプリを大量に買い出ししていた少女は、立ち止まって壁のある方を見つめていた。周囲の木々や小鳥達は、文字通り固まったように動いていなかった。

 

「……いよいよ、私達の出番ってわけね」

 

にもかかわらず、少女は特別焦った様子もなく口を動かしている。否、動いているのは彼女だけではなかった。

 

「夏凜ちゃーん!」

 

横手から、アタフタしながら小動物のように駆け寄ってくる者がいた。フワフワした髪を揺らしながらやってくるその人物は小柄で、一見女と見間違うほどの可憐さが伺えるが、れっきとした男の子である。

 

「さすがに普段はどんくさいあんたも気づいたみたいね。完成型勇者代表として、先遣隊のトーシロ共に見せつけてやりましょう。私達の戦い方を」

「え、えぇ……? 僕は、その、完成型なんて、目指してるわけじゃ……」

「うだうだ言ってんじゃないわよ! 要は、私の足を引っ張らないでって事!」

「う、うん。頑張ってみるよ……!」

「分かってるなら結構よ、真琴。……じゃあ、殲滅するわよ!」

 

夏凜と呼ばれた少女は、真琴と呼ばれた少年を叱咤激励し、真琴は1つ息を吐くと、次の瞬間には表情が一変。高く研ぎ澄まされた集中力を発揮するような顔つきに、夏凜も一応は安心した。

そして2人は同時にスマホを取り出し、タップすると花びらに包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、世界が樹海化した事に気付いた兎角達は、各々が勇者、武神に変身して、一箇所に合流した。

一番遅れて到着したのは、買い物に出かけていた銀だった。

 

「お、来たか」

「お待たせ! 買い物してたからちょっと遠くからの出動になっちまった!」

「大丈夫だよ、まだ敵も遠くにいるみたいだから! でも、お休みの日に1人で買い出しなんて、偉いね!」

「ヘヘッ。まぁあたしとかは自炊しなきゃならないからな」

 

などと、友奈と銀が会話をし、その場の空気を和やかにする。

が、それも束の間、遠くを観察していた昴の声が響く。

 

「! 皆さん! 敵の姿、確認しました! 北北東の方角です!」

「来やがったな……!」

「あれが5体目……」

「みたいだな」

 

友奈達とは少し離れた高台の位置に、遠距離型の東郷と遊月の姿もあり、彼らも戦うべき相手の姿を捉えた。

侵攻ペースはゆっくりとではあるが、その巨体に見合ったオーラから、威圧感を漂わせるその敵は、世界を滅亡するべく、この世界の恵みである神樹の破壊を目論む『バーテックス』の一種。『山羊座』をモチーフとした、足の部分が4本の鋭く尖った角で出来ている、『カプリコーン・バーテックス』だ。

 

「うはぁ……。ビジュアル系なルックスしてやがんの」

「尖ってるあの部分には気をつけないとね〜」

 

銀と園子が口々にそう呟き、武器を携える。

 

「敵は一体だけだ。ここで迎撃するぞ」

 

藤四郎の一言で、その場にいた全員が気を引き締めた。

勇者部は基本的にボランティア活動に専念している部活なのだが、こうして神樹が作った防御結界『樹海』の中で、人類の敵であるバーテックスを迎え撃つ。それこそが勇者部に課せられたお役目でもあるのだ。

風と藤四郎から受けた情報によれば、バーテックスは全部で12体。初陣で1体、翌日では3体を撃退しており、今回の敵で、東郷も口にした通り、5体目となる。12体全てのバーテックスを倒したら、お役目はそこで終了となる、との事。

 

「うぅ……。1ヶ月ぶりだから、ちゃんと出来るかな……」

 

3度目とはいえ、最後に戦った時から今日まで、間が空いていたと思うだけで、ブランクが響かないか心配な様子の友奈。他の面々も友奈ほどではないにしろ、それから特別何かを特訓したわけでもないため、やや不安が残っている。

そんな彼らの不安を解消するべく、冬弥がスマホを開いて樹と共に画面を覗きながら確認する。

 

「えっと、ここをこうして……」

「ほうほう」

「……で、この時はこうすれば良いッスね」

「そうだったそうだった!」

「……お前、前にアプリの説明テキスト読み終わったんじゃねぇのかよ?」

 

近くで3人のやり取りを見ていた兎角が呆れたように呟いた直後、今度は風が一喝した。

 

「えぇい! 成せば大抵なんとかなる! 四の五の言わずに、ビシッとやるわよ!」

「「「は、はい(ッス)!」」」

 

そして風は年長者の意地を見せるべく、一致団結とばかりに拳を突き上げて叫ぶ。

 

「勇者部ファイトぉ!」

『おー!』

 

全員がそれに応えて拳を突き上げたその時、戦況は大きく動いた。

上空から短刀らしきものが3本突き刺さり、加えて銃弾の雨あられが降り注ぎ、山羊型の頭部が爆発した。

 

「え、ちょっと……⁉︎」

「今のってまさか、東郷と遊月か……⁉︎」

 

合図もなしに攻撃が始まった事に驚いて、一同は思わず上の方にいる2人に顔を向ける。

 

「……私じゃない」

「俺でもなかった……。今のはどこから……?」

 

当の本人達も予想外の攻撃に戸惑っている様子。一体どこから誰が攻撃したのかを探っていた一同だが、程なくして昴が叫んだ。

 

「! 見えました! あそこです!」

 

昴が指差した先は、もっと高くそびえ立っている木の根。その上に、人影が2つ。

1人は、赤を基調とし、2本の刀を両手に携えている、『サツキ』をモチーフとした勇者。

もう1人は、紫を基調とし、2丁のハンドガンを構えている、『オシロイバナ』をモチーフとした武神。

そして勇者の傍には鎧武者の姿をした精霊『義輝(よしてる)』が、武神の傍には七色の鳥の姿をした精霊『鳳凰(ほうおう)』が佇んでいる。

 

「着弾、確認しました!」

 

敵に命中したのを目撃した武神が隣の勇者に報告する。勇者はニヤリと余裕を醸し出している。

 

「ちょろい! これから私1人でも問題なさそうね!」

「油断は禁物だよ。僕がこのまま連射で怯ませておくから、その間に……!」

「封印の位置につく、ね。言われなくても分かってるわ!」

「では、行きます!」

 

そう言って2人と2匹は木の根を伝って降下する。兎角達は、見たこともない新参を前にして驚きを隠せない。

 

「あいつらも、勇者と武神なのか⁉︎」

「こ、これどうなってるんスか兄貴⁉︎」

「分からん。俺も風も、知らない者達だ」

 

大赦から何の連絡も貰っていない上級生組も困惑した様子だ。ただ1人、銀だけは降下してくる勇者の顔を見て、アッと表情を変える。

 

「あいつ、さっきの……!」

「銀、知ってるのか」

「さっき薬局でサプリを爆買いしてた奴だ……!」

 

見間違いでなければ、その少女は先ほど出くわした者と顔が瓜二つだ。彼女もまた、『こちら側』の人間だった事を察する銀。さらに気になるのは、彼女の容姿だ。花は違えど単に赤色が被っているだけではない。手に持っている武器といい、どことなく銀と酷似しているように見える。

そうこうしている間にも、2人は山羊型に接近していく。中でも、ハンドガンを常に前に突き出して連射し、山羊型をその場から一歩も動かさないように怯ませて戦う姿、そして空になったら目にも止まらない俊敏さでリロードを終える姿を見て、東郷は思わず、

 

「……あの子、できる!」

 

と呟き、射撃には自信のある彼女ですら舌を巻いている。

よく見ると、ハンドガンの小さな銃口は3つあり、ガトリングの要領で銃口が回転しながら連射しているようだ。

 

「封印、開始!」

 

そして2人が地面に降り立つ前に、勇者が刀を地面に突き刺し、山羊型の真下にカウントダウンを指し示す表示が浮かび上がった。バーテックスを倒すために必要な、封印の儀を行うようだ。

 

「思い知れ、私達の力!」

「まさか、2人だけでやる気⁉︎」

 

風が驚いている間にも、山羊型の、舌のような部分から御霊が出現する。

 

「御霊が出たぞ!」

「チャンスだ! 俺達も2人の援護に……!」

 

兎角が、謎の2人組が敵ではない事を理解した上で、友奈達を引き連れて封印の儀を手伝おうとした矢先、御霊側から彼らを阻害するべく、紫色の煙を噴き出した。

 

「ガス……!」

「みんな!」

 

大抵のガスは空気よりも重いため、高台にいた東郷と遊月には全く影響は無かったが、他の面々は、そうとはいかない。

 

「うわっ、何これ……!」

「何も見えねぇよ⁉︎」

「くっ……!」

 

精霊バリアのお陰で、人体にダメージはないものの、視界ジャックされては、前に進む事も、攻撃する事も叶わない。狙撃組の2人も、迂闊に手が出せないでいた。まさに目眩しだ。

だが、この2人だけは違っていた。

 

「そう来ましたか……! なら、これでぇ!」

 

そう叫んで、武神は腕を横いっぱいに広げる形で、銃弾を拡散させると、爆風でガスが晴れて、御霊の姿が確認できた。

 

「夏凜ちゃん!」

「OK! ……ま、目眩しを外したところで、最初から気配で見えてたんだけど、ねっ!」

 

そうして勇者は、目の前の御霊を一刀両断。

 

「殲……滅!」

『諸行無常』

 

隣にいた義輝がそう呟き、御霊が消滅したのと同時に山羊型の胴体も砂となって天に昇っていった。

 

「やったね夏凜ちゃん! 良かった〜」

「ま、当然の結果ね。あんたこそ何で緊張してんの?」

「そ、それは、本格的な戦いはこれが初めてだったから、やっぱり緊張して……」

「……フン。まぁあんたじゃ無理ないか」

 

などと、先ほどとは打って変わって気の抜けたような会話を繰り広げる2人。

かくして3度目となるお役目は終了。5体目のバーテックスも無事撃破した事になるのだが、兎角達の中でもまだ実感が湧かない。突然乱入してきた2人組の正体を探るべく、東郷と遊月も下界に降りて合流し、銀が先んじて2人に話しかける。

 

「な、なぁ」

「ん? あんたさっきの……。なるほど、あんたも勇者だったわけね」

「あ、み、皆さん! 勇者部の方々ですね!」

 

武神が、大人数と対面して緊張しつつも、笑顔を零す。一方で勇者の方は真逆の反応だ。

 

「揃いもそろってボーッとした顔してんのね。こんな連中が、神樹様に選ばれた勇者に武神ですって? ……本当なのかしら?」

「か、夏凜ちゃん……!」

「何よ、事実を言ったまでよ」

 

慌てて嗜める武神に、勇者はケロッとした様子だ。上級生組は思わずムッとなる。それでも歳上の威厳を保つべく、表情を元に戻す。

 

「お前ら、一体……」

「あの、その……」

「何よチンチクリン」

「チン……」

 

友奈が問いかける前に、勇者が呆れた表情で一蹴し、友奈は口ごもってしまう。さすがに空気が悪いと思った武神が割って入って自己紹介を始める。

 

「え、えっとじゃあ、先ずは自己紹介しますね! ぼ、僕は『一ノ瀬(いちのせ) 真琴(まこと)』と言います! 中学2年生です! そしてこちらが……」

「『三好(みよし) 夏凜(かりん)』よ。私達は、大赦から派遣された、正真正銘、正式な勇者と武神。……つまりあなた達はもう『用済み』なの。はい、お疲れ様でしたー」

『はい⁉︎』

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎』

 

勇者……夏凜からサラッと言われた一言に目を見開く勇者部一同。それを見て武神……真琴は慌てて弁解する。

 

「アワワワ……⁉︎ か、夏凜ちゃんダメだよ! これから一緒に頑張っていく仲間なのに……!」

「どーだっていいじゃない。こんなトーシロ共に世界を守るなんて出来そうにないわよ」

「そ、そんな事は……。あ、あの皆さん! 夏凜ちゃんの事、怒らないであげてください! 夏凜ちゃんはちょっと口が悪いかもしれませんが、とっても優しい子なんです! 幼馴染みなので、そこはちゃんと保証しますから!」

「な、何どうでもいい事口走ってんのよあんた!」

「アゥフ⁉︎」

 

顔を赤くして真琴の頭を叩く夏凜。その光景に理解が追いつかない兎角達はたじろいでいた。

 

「と、とにかく! 僕達は、み、皆さんの援軍として来ました! こ、これからもどうぞ、よろしくお願いいたします!」

「全くもう……」

 

頭を深く下げて挨拶をする真琴。夏凜は威厳が損なわれたような気分に陥り、やれやれと頭を掻く。先ほどまでの戦闘時の様子からは、想像もつかないような態度の急変に困惑はしたものの、少なくとも敵対心は2人にない事だけは感じ取れた一同であった。

バーテックスとの戦いの最中、突然姿を現したかと思えば、目にも留まらぬ速さで撃退した勇者と武神。彼らの正体とは一体……?

 

 

 




もう間も無く、銀魂の実写映画第2弾が上映される事になりそうですが、どのシリーズが基になるのでしょうね? その辺はあまりよく知らない作者であります。


〜次回予告〜

「完全勝利よ!」

「最強の勇者……?」

「不吉だね〜」

「ケンカしないで!」

「凄いですね!」

「ある意味尊敬するわな」

「ようこそ、勇者部へ!」


〜ようこそ勇者部へ〜

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