結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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今回は原作では叶わなかった2人の勇者のやりとりがメインとなります。

そして朗報です!
あの『ゆゆゆい』に、遂に! 『楠 芽吹は勇者である』、通称『くめゆ』の参戦が決定しました! 原作を読んで感動したので、素直に嬉しい! (最新話では、巫女の『国土 亜耶』が登場しており、防人達の参戦もほのめかしておりますので、彼女達の登場はそう遠くはないでしょう)
ますます盛り上がりそうですね! これからのゆゆゆいに期待したい!




8:双剣の勇者達

翌日。

夏の日差しが降り注ぐ中、友奈達のクラスは、男子がソフトボール、女子が水泳の授業を受けていた。

 

「良いわよ東郷さん。その調子」

「みもりん頑張れ〜」

 

足の不自由な東郷は、園子を中心にクラスメイト達に見守られながら、彼女なりにゆっくりとではあるが着実に泳いでいた。

そこから3つほど挟んだレーンでは、激しく水音を立てながら泳ぐ夏凜の姿が。誰の目から見ても分かるほど俊敏な泳ぎに、観戦していた者達の目は釘付けだ。プールの端に辿り着き、タイムを計っていたクラスの1人が唖然としている。

 

「す、凄い……! 三好さん、これ水泳選手並みじゃない⁉︎」

「鍛えてるから」

 

夏凜はプールサイドに上がりながら素っ気なく答える。

 

「タイムを見る限り、銀ちゃんとほぼ互角ね」

「いや〜参ったなぁ。あたしもウカウカしてらんないな!」

 

一足先にタイムを計り終えていた銀も、新たなライバルの登場に舌を巻く。

 

「ねぇ三好さん! ウチの水泳部に入らない? 三好さんがいれば心強いよ!」

「……興味ないから」

「悪いな。実を言うともう勇者部に入るって決まったんだ。まぁ助っ人の依頼があったらちゃんと紹介するからさ!」

 

銀が勝ち誇ったようにそう伝えると、不満げな表情のまま、その場を後にしようとする夏凜。銀も慌てて彼女の後ろを追いかける。そんな2人の前に、友奈が立ちはだかる。

 

「スッゴいね夏凜ちゃん! みんなビックリしてるよ! 凄いねって!」

「結城 友奈……!」

 

吟味した中では最も勇者としての自覚が足りないと思っている少女の登場を受けて、周りに関係者しかいない事を確認してから、友奈に物申す。

 

「良い? 勇者はね、スッゴくないと世界を救えないのよ! 勇者の戦闘力は、本人の基礎運動能力に大きく左右されるの。あんたも勇者だったら、自覚を持ちなさい!」

 

友奈や銀だけでなく、プールサイドに上がった東郷も、園子と共に聞く耳を立てている。

 

「いや〜、先月勇者になったばかりだから……」

 

ポジティブに笑う友奈を見て、夏凜は心底呆れた様子だ。

 

「……あんた、よくバカだって言われるでしょ?」

「アハハ! 実はそうなんだよねー」

 

恥ずかしげにそう告げる友奈。

 

「まぁ小難しい事は放っといてさ。あたしだって友奈と同じで勇者になったばかりだし、これから頑張れば良いんだよ! 勇者は気合いと根性があれば何とかなるだろ! なっ?」

「ちょっ、馴れ馴れしいわよ……!」

 

肩を組もうと密着してくる銀だが、夏凜は振り解こうとする。

 

「ったく……。そんなんでよく勇者に選ばれたわね。これなら真琴の方がずっとマシね」

 

あまりにも呑気すぎる勇者達を前に、夏凜は何故神樹が彼女達を選んだのか、疑問を浮かべるほどだった。

不意に歓声が聞こえてきたので、フェンスの外に目を向けると、真琴が高く舞い上がってから落下してきたボールに対し、ダイビングキャッチを決めたところだった。シャイな雰囲気とは打って変わった運動神経の良さに、皆の関心は彼1人に向けられている。オドオドしながらも、駆け寄ってきた同チームのメンバーからの激励にちゃんと向き合って、会話を成立させている幼馴染みを見て、夏凜の心の片隅にチクリと何かが刺さったような感覚を覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仕方ないから、情報交換と共有よ!」

 

放課後、勇者部の部室には真琴だけでなく、夏凜の姿もあったのだが……。

 

「分かってる? あんた達があんまりにも呑気だから、今日も来てあげたのよ?」

「いやその前に、ツッコミどころがありすぎるというか……」

「……ニボシ?」

 

風と藤四郎が着目したのは、眉間にしわを寄せている夏凜の手に握られている、煮干しの袋詰めだった。すでに半分ほどが彼女の胃袋に収められている。

 

「何よ! ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPA、DHA……、煮干しは完全食よ!」

「お、おう……」

「まぁ良いけど……」

「言っとくけど、あげないから!」

「い、いや別に無理してもらうつもりはないが……」

「では、私のぼた餅と交換しましょう」

 

煮干しの素晴らしさを力説していると、東郷が重箱に詰められていたぼた餅と煮干しを交換しようともちかける。

 

「わぁ! 美味しそうですね!」

「何それ?」

「さっき、家庭科の授業で」

「東郷さん、お菓子作りの天才なんだよ!」

「まぁ、料理全般が得意な昴君には劣ってしまうかもしれないけれど、和菓子なら味は保証するわよ」

「すばるんの作るご飯、とっても美味しいんだよ〜」

「は、恥ずかしいですね……。それはともかく、僕からもおススメしますよ。お2人もどうですか?」

「そ、それじゃあお言葉に甘えて!」

「わ、私はいらないから!」

 

昴に誘われて、真琴はぼた餅を受け取り、夏凜は拒んだ。

そうして夏凜以外の面々にぼた餅が行き渡ったところで、夏凜と真琴を中心に、お役目に関する会議が始まった。黒板には夏凜がこれまでの経緯を書き記しており、5体目の襲来を示すところには、『私達が撃破!』と強調されている。

 

「バーテックスの出現は、同期的なものと考えられていたけど、相当に乱れている。これは異常事態よ」

「大赦によれば、帳尻を合わせるために、今後は相当な混戦が予想されています」

「確かにな……。1ヶ月前も、3体同時に侵攻してきた事があったから、可能性としては十分ありえるな」

 

巧がぼた餅を半分に切りながらそう呟く。

大赦によれば、バーテックスは平均的に20日に1回ほど襲来すると予測されていたそうだが、これまでの事を思い返せば、信憑性は遥かに薄い。

 

「私と真琴は、そういった事態にでも対処できるように訓練は受けてきているから良いけど、あなた達はそうじゃないんだから、気をつけなさい。命を落とすわよ」

 

さすがは『最強の勇者』と自称するだけあって、言葉に強みがある。そういった事態を想定して、訓練を受けてきたのだろう。

 

「他に、戦闘経験値を貯める事で、勇者と武神はレベルが上がり、より強くなる、それを、『満開』と呼んでいるわ」

「そうだったんだ!」

「アプリの説明テキストにも書いてあるよ?」

「そうだったんだ!」

「お前、絶対サラッと読んだだけだろ……」

 

説明テキストには目を通してきたと豪語していた友奈だが、この分だと怪しい。夏凜だけでなく、兎角も呆れ顔だ。

 

「因みにですが、満開が行使できるかは、黒板に描かれてあるように、『満開ゲージ』というものを見れば分かります。ゲージが満タンになれば、本人の意思で発動が出来るものです。皆さんの勇者服、武神服のどこかに刻まれているはずですが、どこにあるかは把握されていますか?」

「えっと、あったかな……?」

「樹のは首の後ろね。私は太ももよ」

 

犬吠埼姉妹が、自分達の満開ゲージの箇所を確認する。なお、友奈と兎角は右手の甲、東郷は左胸、遊月は右胸、銀と夏凜は右肩、巧は左肩、園子はお腹、昴は左手の甲、藤四郎は後ろの腰、冬弥は右膝、真琴は左膝に刻まれている。

 

「満開を繰り返す事で、より強力になる。これが大赦の作った勇者システムと、武神システム」

「へぇ〜、凄い!」

 

友奈がメモ帳に書き込むほど関心している中、昴が質問をした。

 

「質問ですが、お2人の方は、満開は経験済みなんですか?」

「……いや、まだ」

「実を言いますと、僕達も使った事は一度も。切り札みたいなものですし、まだ実践も先日の件でしか発揮してませんので」

 

どうやらずっと前から特訓を受けてきた2人でさえ、満開の効力を理解してはいないようだ。それを聞いて、風がからかうように口を開く。

 

「なーんだ。あんた達もレベル1なんじゃ、私達と変わらないじゃない」

「き、基礎戦闘力が桁違いなのよ! 一緒にしないでもらえる⁉︎」

 

風に小バカにされて、ムキになって反論する夏凜。

 

「まぁ何にせよ、そこに関しては俺達の努力次第、ってところか」

「そうなりますね。……あ、それからもう一つ、僕から説明するものがあります」

「? 他にも何かあるの?」

「はい。これは武神の皆さんに関わる話でして……。アプリの説明テキストには記載されていないのですが、武神には満開とは別に、切り札があります。それが『精霊降ろし』と呼ばれるものです」

「『精霊降ろし』……?」

「読んで字の如く、皆さんのパートナーでもある精霊を、本人の高い集中力をもって、体内に取り込む事を指しています」

「それって、自分の精霊と融合するって事ッスか! 凄いッスね!」

「そんな機能があるなんてね……」

「ですが、この精霊降ろしを行使すると、体への負荷が過剰に深まるそうなんです。命を落とす、かどうかまでは分かりませんが、満開を上回るほどの強大な力を発揮できる反面、その代償も少なからずあるとだけは伝えられています。大赦からも、どうしてもという時だけ使用するように、と念を押されてます」

「そんなに危険なんだ……。でも何で兎角みたいな武神だけなの? 私達にはその機能はないの?」

「武神システムは、勇者システムの上位版。肉体的にも精神的にも屈強な男だけが扱えるからこそ、そういった機能の搭載が可能なんでしょうね。ま、私なら鍛え上げてきているから、使っても問題なさそうだけど」

 

夏凜が肩をすくめてそう呟く。

 

「そうなると、実質、満開の方がクリーンで安全、という事か」

「そうかもしれません。ただ、そういった機能が武神にはある、とだけお伝えしたかったんです」

「まぁ、そんな有事にならないようにするのが一番か」

 

兎角が自分を納得させる中、遊月だけは不思議な感覚に陥っていた。

 

「(精霊降ろし……。自分の体の中に精霊を取り込み、強大な力を発揮する……。言葉で聞くだけじゃ実感が湧かないはず……。なのに、どうしてだ? 俺には精霊降ろしを使う事の意味が分かっているような……)」

「遊月? どうした?」

「! いや、何でも……。まぁ、満開にしても精霊降ろしにしても、ちゃんと扱えるかどうかは、俺達の努力次第、ってところかな」

 

遊月の呟きに、真っ先に反応したのは友奈だった。

 

「じゃあじゃあ! これからは体を鍛えるために、朝練しましょうか! 運動部みたいに!」

「あ、いいですね!」

「うんうん〜。それも良いかも〜」

「あたしも!」

「俺もッス!」

 

友奈を初め、樹、園子、銀、冬弥も賛同する中、彼らをよく知る人物達からこんなコメントが。

 

「樹、あんたは朝起きられないでしょ」

「冬弥。朝の時間、ほとんど俺が起こしに行ってるのを忘れてないか?」

「友奈も、絶対起きられないだろ。俺か東郷に起こしてもらわないと」

「銀。毎朝遅刻ギリギリだろ」

「園子ちゃんは、スローライフを満喫してるから、さすがに厳しそうだと思いますよ」

「「「「うっ……」」」」

「しょぼ〜ん……」

 

あっさりと撃沈する5人。笑い声が部室に響き、真琴は苦笑いを浮かべ、夏凜は本日何度目かも分からないため息をつく。

 

「何でこんな連中が、神樹様の勇者に……」

「なせば大抵なんとかなる!」

「? 何それ?」

 

友奈の言葉に疑問を浮かべる2人。

 

「勇者部五箇条! 大丈夫だよ、みんなで力を合わせれば、大抵なんとかなるよ!」

「ほら、後ろに貼ってあるだろ? あれがこの部活のスローガンでもあるんだ」

 

兎角が指さした先には、園子と昴が入部してから間もない頃に創り上げた、『勇者部五箇条』が貼られている。

 

「わぁ、こんな凄いのがあるんですね! 凄くいい文言だと思いますよ!」

「そう……? 『なるべく』とか『なんとか』とか、見通しの甘い、フワッとしたスローガンじゃない? ……全くもう。私の中で、諦めがついたわ」

 

夏凜の呟きに、巧や藤四郎は同情する。彼らも当初は夏凜と似たような気持ちだったからだ。それでも周りが気に入って多用するに従って、彼らも気にならなくなったばかりか、むしろ気にいるようになった経緯がある。

 

「あたしらは、その……あれだ。現場主義なのよ!」

「現場主義って……。それ、今思いついた言葉でしょ」

「はいはい。考えすぎると頭ハゲるわよ」

「ハゲちゃうんですか⁉︎ だ、ダメですよそんなの! 夏凜ちゃん!」

「ハゲるわけないでしょ⁉︎ 真琴も一々間に受けるなっての!」

 

涙目の真琴に、夏凜は慌てながらまた叩く。

 

「はいはい。冗談はこの位にしておいて、この話は今日はここまで。次の議題にいくわよー」

「……なんか、勝手に終わらされた気がするわね」

「勇者部はそれだけ忙しいんだ」

 

藤四郎が適当にそう結論づけてから、会議の主導権が部長と副部長に移り変わる。

会議の内容に際して、樹から、夏凜や真琴を含めた面々に、資料が配布された。『子ども会のお手伝いのしおり』というタイトルから始まり、目的や内容、日時、当日のタイムスケジュールが記されている。

 

「というわけで、今週末は子ども会のレクリエーションをお手伝いします」

「具体的には何をするんだ?」

「折り紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を描いたり、やる事は沢山ありますよ」

「わぁ! 楽しそう!」

「ね〜」

「楽しむのは結構だが、友奈。こないだみたいな失敗だけは勘弁してくれよ」

「うっ……。気をつけます」

「新入部員の2人には、そうね……。暴れ足りない子達の、ドッジボールの的になってもらいましょうか!」

 

風の意地悪そうな提案に驚く2人。

 

「ま、的ですか⁉︎ 僕に務まりますかね……?」

「大丈夫だって。今日のソフトボールを見る限りじゃ、全然問題なさそうだし。自信持てよ」

「は、はぁ……」

「っていうか、何で私まで⁉︎ 参加する事が前提になってるじゃない! 私はそういうのは……!」

 

また反対の意思を示そうとする夏凜だが、今度はそうはいかないと言わんばかりに、風が懐から取り出した紙を見せつける。『三好 夏凜』と記された入部届だった。

 

「昨日、真琴と一緒に入部したでしょ?」

「け、形式上、は……」

「ここに在籍する以上は、部の方針に従ってもらうからな。まぁつまりは、観念しろ、って事だ」

「それも形式上でしょ! それに、真琴はともかく私のスケジュールを勝手に決めないで!」

 

顔を真っ赤にして怒りを露わにする夏凜だが、すかさず他の面々がフォローに入る。

 

「じゃあ聞くけど、夏凜は今週の日曜日に予定でもあるのか?」

「い、いや、特には……」

「じゃあ親睦会も含めて、やった方が良いよ!」

「楽しいッスよ!」

「な、何で私が子供の相手なんかを……!」

「嫌?」

「……」

 

困惑する友奈の顔を見て、息詰まる夏凜。友奈の後ろでは、兎角や銀がほらほら、と促しているのが見える。一度、真琴の方もチラッと確認してみる。本人はすでに行く気満々らしく、タイムスケジュールをチェックしている。断ると、確実に面倒な事になりそうだ、と本能的に察した夏凜が、根負けしたように呟く。

 

「わ、分かったわよ。日曜日ね。丁度その日だけは空いてるわ……!」

「(……チョロいな)」

 

夏凜の反応を見て、巧は心の中でそう呟く。

 

「よっしゃあ! あたしも気合い入れてかないとな!」

「これでみんな揃ったな」

「頑張りましょうね!」

 

着々と日曜日に向けた準備が進められる中、

 

「……緊張感のない奴ら」

 

世界を救う唯一の手段として、神樹に選ばれたはずの少年少女達のほんわかとした雰囲気に、夏凜は鼻を鳴らしながら毒づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ! ヤァッ! ハァッ!」

 

その日の夕方も、夏凜はただ1人、有明浜で木刀を2本振り回していた。勇者たるもの、いつ如何なる時にも即時動けるようにと、鍛錬は1人でこなしてきた。

 

「おーい!」

 

ただしこの日は、別の人物が割り込んでくる事になるのだが。

 

「! この声、確か……」

 

遠くから走ってくるような、砂を踏む音が聞こえてきたので振り返ってみると、予想通りの人物が駆け寄ってくるのが見えた。

 

「三ノ輪 銀……。何でここに?」

「買い物帰りにこっちに寄ったら姿が見えてさ。夏凜こそ、こんな所で何してんだ?」

「見ての通り、トレーニングよ。言ったでしょ? 私は最強の勇者。毎日の鍛錬は欠かせないのよ。だからレクリエーションとかに時間が割かれるのは不本意なんだけど、あんた達がどうしてもっていうから……」

 

最後の方の声はしぼんでおり、顔を紅く染めている。それに対し、銀は木刀に興味津々だ。

 

「それを使って毎日素振りしてるの?」

「まぁね。私は2丁の刀で戦うスタイルだから」

「へぇ、あたしも似たようなもんだけどな。武器は斧だけど、同じ2丁使いだな!」

「な、何でそんなに嬉しそうなのよ……」

「そっか? でもさぁ、1人で特訓とか寂しくないか?」

「そ、そんな事ないわよ。ここに来る前は真琴とやってた事もあるけど、そもそもあいつとは武器も戦闘スタイルも違ってくるし、正直、練習相手としては微妙なのよ」

「だったらさ!」

 

そこで、妙案を思いついたと言わんばかりに体を寄せて来る銀。

 

「だったら、あたしが相手になるのはどうだ? あたしも勇者に選ばれたんだから、体鍛えないといけないしな! 付き合ってやるよ!」

「そ、それは……。まぁ、良いわ。そこまで言うなら相手してあげる。時間もアレだから、今日のところは模擬戦一本だけにするわよ」

「おう!」

 

そう言って早速、夏凜の特訓相手になる銀。荷物を邪魔にならないところに置いてから、夏凜から木刀を一本拝借する。予備の木刀までは持ってきていないので、今回は互いに木刀を一本ずつ構えた状態から始まる。

 

「ハァッ!」

「ウォォォォォォ!」

 

先手必勝とばかりに攻め上がってくる銀に対し、夏凜は横に飛びながらカウンターを狙い、銀も負けじと応戦する。

序盤から激しい打ち合いが、有明浜で繰り広げられていた。木刀を振るう度に、2人の少女から玉のような汗が周囲に散った。

2人の戦い方は、極めてよく似ていたと言えるだろう。本来、武器を扱うにはそれぞれ型が存在するが、この2人の刀や斧の振り方は我流に近いものがある。本能と直感に任せて戦うスタイル同士のぶつかり合いは、結果として決着を遅らせている。

 

「リャア!」

「セェイ!」

 

どちらも歯を食いしばりながら攻撃を木刀で受け止め、押し返している。片方ずつしかないのが残念だが、それでも己のスタイルを崩さず戦う姿には、勇ましさを感じる。

2人の耳に、近場にいた猫の鳴き声が届いてハッとなった時には、すでに夕日が海岸線に沈みきっており、空が藍色に染まり始めていた。

 

「きょ、今日は、この辺に、して、おきましょう」

「そ、そだな! はぁ〜、疲れたー!」

 

2人はほぼ同時に、砂地に腰を下ろした。銀に至っては仰向けに倒れこむほどだ。そこからしばらく会話はなかった。それだけ全力を尽くして、疲れ切っている証拠である。

しばらくして、呼吸を先に整えた夏凜が立ち上がり、銀に近寄って手を差し伸べる。

 

「あんた、なかなかやるじゃない。私についてこれたやつを見たのは、あいつ以来ね」

「あいつ……?」

「『楠 芽吹』って奴よ。みんなには言ってなかったけど、私の勇者システムは、以前にも使われてたやつらしくてね。その後継者選びで、同じ訓練を受けてたのよ」

「へぇ……。そんな事あったんだ」

 

夏凜の手を掴みながら、銀も立ち上がる。

 

「……にしてもあんた、本当にちょっと前に勇者になったばかりなの? その割には、この私の動きについてこれるなんて、センスあるじゃない。戦い方もなんか私に似通ってるっていうかさ……」

「みんなそう言うんだよなぁ〜。あたしは、色々あって記憶が曖昧になってるところもあるけど、それだったら東郷とか園子もそうみたいだし。巧と昴もそうらしいぞ?」

「そうなの……? まぁ、あんたぐらいに動ける連中がいるなら、ちょっとは安心できるわね。全員がトーシロだったら困ってたところよ」

「心配しなくたって、あいつらなら頑張れると思うけどな」

「し、心配なんてしてないし! あいつらが足引っ張らないか確かめたかっただけだし!」

 

そっぽを向く夏凜。銀はニヤニヤしながら、腕を真上に伸ばす。

 

「さてと、んじゃあ帰るか。って思ったけど、結構暗くなっちゃったな……。うん! 折角だし、夏凜の家でご飯作るか!」

「ハァッ⁉︎ 何でそういう話になるのよ!」

「良いじゃん。食材とかは買ってあるから、キッチンを借りるだけだよ。一人暮らしなんだろ?」

「そ、そうだけど……」

「じゃあ決まりだな! 腹減ったから早く作って食べたーい!」

「……しゃ、しゃーないわね! 今日は、特別だからね!」

 

といった形で、夏凜の家にお邪魔する事となった銀。荷物をまとめると、空腹に耐えながら自転車を漕いで、夏凜の住むアパートに到着。鍵を開けて、部屋を一望した銀が最初に放った一言は……。

 

「……何て言うか、地味?」

「いきなり人の家に上がって第一声がそれ⁉︎」

「いやだってさぁ……。物とか全然置いてないしさ。そりゃあ、あたしの家だって物だらけってわけじゃないけどさ。さすがにこれは……」

 

部屋の隅に所々置かれている、大赦の紋章が刻まれた段ボールを見渡して苦笑する銀。

 

「う、うっさい! さっさとご飯作るわよ! ……で、何作るつもりだったの? カップ麺だったら家にも貯まってるけど」

「そうなのか? っていうか夏凜は普段何食べてんだ?」

「まぁ、サプリと煮干し、それからコンビニ弁当ってところかしら?」

「えっ⁉︎ じゃあご飯は自分で作ったりしないのか?」

「そんな面倒な事するぐらいなら、トレーニングに回してるわよ」

「っちゃあ……。そりゃあ勿体ない気がするな……。ならあたしがいて正解だったな。たまには自炊するのも良いと思うぞ!」

「そ、そう……?」

「てな訳で早速スタートだ! 今日の晩飯はこいつだ!」

 

そう言って銀がカバンから取り出したのは、インスタントのラーメン。

 

「お、うどんじゃないのね」

「たまにはこれも良いかなって。毎日うどんじゃ飽きるだろ? これなら作るの簡単だし」

 

そう言って手際よく作業を進める銀。調理道具を器用に扱い、次々と買っておいた食材を切って下ごしらえを済ませる。反対に不慣れな夏凜は、鍋にお湯を入れて沸かしたり、箸やコップなどの準備をしたり、稀に銀の補助をする程度だった。

20分も経てば、キッチン全体に良い香りが広がってきた。

 

「あとはどんぶりに乗せて、っと。完成!」

「何よ、中々美味しそうじゃないのよ」

「即席ラーメンみたいだけど、我ながら良い出来だな!」

 

出来上がったラーメンを見て、目を輝かせる夏凜。テーブルについて、いただきますと言ってから一口すする夏凜。表情は朗らかだった。

 

「……うん! 美味いわね。いけるじゃないこのラーメン」

「卵も入れてるし、腹持ちもいいんだよな」

「即席ラーメンなら前にも作ったことあるけど、ここまで美味しくはなかったわ。一手間加えただけで、こんなにも変わるものなのね」

「それもあるけど、2人で食べてるから美味いんじゃないか? あたしも、たまに巧と一緒に食べる事あるけど、その時の方が美味いし」

「へぇ。巧って、片目に傷がついてる奴よね? 知り合い?」

「この街に来て間もない時に、有明浜で知り合ったんだ。色々とフォローしてくれるし、助かってるんだ」

「そう……。真琴は頼りないし、そう考えるとあんた達が羨ましく見えるわ」

「そっか? 可愛い感じするし、割と面白いキャラじゃね?」

「可愛いって……。あいつは割とそういうのにコンプレックス感じてるのに、災難ね」

 

夏凜が苦笑しながら汁をすする。誰かと食べるのは、真琴と一緒にいた時の事を思い返しても、いつぶりだろうか。箸が止まらなかった。

よほど美味だったのか、ものの数分もしないうちに、ラーメンは全て胃袋の中に収まった。

洗い物を済ませた後、銀の提案で、折り紙を折る練習をする事に。

 

「この非常時にレクリエーションだなんて……」

「文句言ってる割には、ちゃんとやってるじゃん」

「そ、それは……。完成型勇者として威厳を見せたいし、風とかにバカにされたくないし……」

「ヘヘッ。そりゃあそっか。じゃあナメられ無いように頑張らないとな!」

 

折り紙の折り方が載っている本に目を通しながら、見よう見まねで手先を動かしているのに対し、銀の指先は止まる事なく動き続ける。

 

「随分と折り方が上手ね……。作り慣れてるの?」

「まぁね。実家にいた時も、弟達に作ってあげてたし」

 

それを聞いて、夏凜の表情が変わった。

 

「へぇ、弟がいるのね」

「おっ、興味ある? じゃあ見せてあげるよ」

「ちょ、そこまで求めては……」

 

夏凜は止めようとするが、その時には端末の画面を見せびらかしていた。縁側で両親に挟まれる形で立っている、2人の弟らしき人物が写っている。

 

「ジャーン! これがマイファミリー! 父ちゃんと母ちゃんの間にいるのが、大きいのが鉄男、隣にいるちっこいのが金太郎だ。鉄男が8歳で、金太郎がもうすぐ3歳になるんだ」

「じゃああんたは長女なのね」

「そゆこと。金太郎とか可愛いだろ? 鉄男も含めて、自慢のマイブラザーさ」

「弟推しが凄いわね……。家族の写真を待ち受けにしてるとか、よっぽど大切なのね」

「当たり前じゃん。週一で連絡は取ってるよ」

「そうなの⁉︎ それはもう筋金入りね……」

 

銀の、家族に対する徹底ぶりに感嘆する夏凜。

と、今度は銀から質問が。

 

「逆に聞くけど、夏凜には弟とかいる?」

 

それを聞いて、夏凜の表情が一瞬曇るが、意を決したように口を開く。

 

「弟はいないけど……。兄貴はいるわ。歳の離れてる」

「へぇ。じゃあ夏凜は妹か」

「そうなるわね……」

「で、どんな兄貴なんだ?」

「……」

 

話すべきか、悩む夏凜。だが、この数時間一緒にいただけで、彼女になら心を許し、明かしても良いと思い始め、思い切って話してみる事に。

 

「兄貴は、『三好 春信』って言ってね。優秀な兄貴でさ。早くも大赦の内部で働いてるし」

「おぉ、それってめっちゃエリートじゃん。自慢の兄貴だな」

「優秀すぎてね……。成績は常にトップだったし、品行方正で所属してたサッカー部はインターハイ優勝に貢献してるし、俳句を詠んだ時は県の大賞に選ばれてるし。……だからだと思うけど、家の廊下には、兄貴の描いた絵は飾るけど、私の描いた絵は飾らないの。そりゃあ兄貴と違って褒められたもんじゃないけど……」

「そっか。それ悲しいな。普通1枚ぐらい飾ってあげてもいいのにさ」

「まさにその通りよ。ま、そんな風に親が完璧超人の兄貴ばっかり目をかけててさ」

 

と、ここで折り紙から手を離して、顔を俯かせる夏凜。

 

「……正直、悔しかった。凄くね」

「夏凜……」

「兄貴は兄貴で、出来すぎてたから色々フォローしてくれるんだけど、それがまた、なんか精神的にきたわ。……でも、そんな私にも、こうして勇者としての資質があるって分かった時は、嬉しかった」

 

そう呟く夏凜の表情は、段々と明るみを取り戻している。

 

「だから、あぁやって毎日特訓を?」

「そうよ。才能の塊でもある兄貴に並び立つように認められるには、努力でカバーするしかないし。真琴に手伝ってもらいながら、ガムシャラに頑張ってきたわ。そうやって、選抜試験を乗り越えて、やっと掴んだのよ」

 

目の前の少女が歩んできた道のりを聞いていた銀は、息をする事も忘れるほど、話に聞き入っていた。

 

「ここまで来たら、あとは結果を出すのみ。私は勇者として、一体でも多くのバーテックスを殲滅するの」

 

拳を握りしめて、そう宣言する夏凜の覚悟をひしひしと感じ取った銀は……。

 

「そっか。でも目標の兄貴が大赦の内部で働いてるって、結構心強いじゃん。会って話したりはしてたのか?」

「全然連絡は取れてないわ。大赦の中枢なんてトップシークレットの中のトップシークレットだしね」

「そっか。それはちと寂しいな」

 

いつのまにか、折り紙を折るために動かしていた指が、止まっていた。不意にハッとなる夏凜。

 

「! な、なんか熱く語っちゃったわね。だから何だって話だし、忘れてくれてもいいわ」

「気にすんなって。もうダチコーだろ、あたし達はさ。あたしも話聞けて良かったと思う」

「と、友達になったつまりはまだ無いし、誰にも話さないって決めてたけど、まぁ、あんたなら良いかなって」

「へぇ、なんか恥ずかしいような嬉しいような……」

 

羞恥のあまり、後頭部を掻く銀。

 

「じゃあ、バーテックスを倒せば親にも振り向いてもらえるかもって事で戦ってるんだな。なら決まりだ! あたしもフォローするよ。同じ勇者なんだし、助け合えば何とかなるし!」

「そ、そう……? まぁ、何が何でも殲滅してやるって気持ちは誰にも負けないから」

 

改めて決意を固める夏凜。

良い時間になったのを見て、帰宅の準備を始める銀。ふと、カレンダーに目をやると、一つの赤い丸印が目に付いた。ちょうどレクリエーションをする日なのだが、銀にはもう一つの意味合いが含まれているように感じた。

 

「……どうしたの?」

「あ、いや何でも。じゃあ、今日はありがとな、キッチン貸してくれて!」

「こっちこそ。ご飯美味しかったわ。折り紙の方もある程度マシになったから」

「じゃあ、今度会う時は目一杯楽しもうな! お役目もそうだけど、勇者部の活動も忘れんなよ!」

「はいはい。帰り道は気をつけなさいよ」

「あいよー! じゃあお休み!」

 

そう言って夜にもかかわらず、勢いよく部屋を後にする銀。

シャワーを浴びる前に、マシーンで体を動かした後、大赦にメールをする事に。

 

『現勇者達に対して、一から指導。一部を除いて、あまりにも頼りなさが目立ち、今日まで無事だった事が奇跡に思える。 三好 夏凜』

 

「ふぅ……」

 

先ほどまでの銀とのやりとりもあり、文言を考えるのに、今まで以上に苦労した気がする夏凜。

 

「目一杯楽しむ、か……。私にそんな資格、あるのかしら……」

 

数時間前に食べたラーメンの味を思い返しながら、時計に目をやり、明日に差し支えないようにと、そそくさとシャワーを浴びに立ち上がった。

日曜日までには、もう少し折り紙の練習をしておいた方がいいな、と思いつつ。

 

 

 




この2人の絡みをやりたくて、結構詰め込んじゃいましたけど、今後も温かくこのコンビを見守ってあげてくださいね。


〜次回予告〜


「『普通』じゃなくて、いいんだ」

「ツンデレ〜」

「忙しくなるぞ」

「演劇……?」

「特別なんだからね!」

「お誕生日おめでとう、夏凜ちゃん」


〜Happy Birthday〜
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