結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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9:Happy Birthday

日曜日にもかかわらず、讃州中学のグラウンドでは部活動に励む学生達によって賑わっている。夏の大会に向けて、どの運動部も大忙しなのだ。

そんなグラウンドと打って変わって、校舎内はいたって静かだ。そんな静寂に包まれた廊下を、三好 夏凜はただ1人、勇者部の部室に向けて足を運んでいた。

部室の前にたどり着いた夏凜の表情は、若干緊張気味だった。幼児との交流がほぼ皆無だった彼女にとって、お役目よりも難しそうなミッションなのかもしれない。が、銀を初めとした面々の事を考えると、いつまでも手をこまねいているわけにもいかない為、ガラガラと扉を開ける。

 

「来てあげたわよ……!」

 

そう言って部室に足を踏み入れた夏凜だが、返事が無いことに気づいて顔を上げる。部室には誰1人としていなかった。パソコンの電源も付いておらず、扇風機も動いていない。つまりは、人がいた形跡がないのだ。

 

「……なによ。誰もいないの?」

 

スマホから時間を確認してみると、集合時間である10時の、15分前だった。

 

「早すぎたかしら……?」

 

そうして部室に居座り、彼らの到着を待つ事に。が、いつまで経っても姿を見せる気配もなく、遂には10時を迎えてしまった。

 

「だらしのない奴ら……」

 

悪態付く夏凜。こんな事なら真琴か銀の所に寄ってから来れば良かった、と思いつつ、勇者としてどう叱ってやろうか思案していた。

だが、予定時間から30分ほど過ぎると、夏凜の脳裏に別の可能性が浮かび上がってきた。

 

「これ、ひょっとして……」

 

まさかと思ってしおりを取り出し、内容を確認する。

 

「……しまった。私が間違えてた」

 

やってしまった、と天井を仰ぐ夏凜。しおりには『現地集合』と表記されており、見落としていたようだ。道理で誰も来ないはずだ。

 

「一報入れておいた方が良いわよね……」

 

そうしてスマホを操作していたその時、電話がタイミングよくかかってきて、夏凜はビクついた。

 

「⁉︎ こ、この番号って確か、三ノ輪 銀の……! あ、あっちからかかってきた……! ええと、えと……!」

 

かけてきたのは、この地に来てから僅かに交流のあった銀。こういった状況に不慣れな夏凜は、焦ってボタンを押し間違えて、電話を切ってしまった。

 

「切っちゃった……。ど、どうしよう……! かけ直した方が良いわよね。えぇっと、こういう時、なんて言えば良いの……」

 

気持ちを整理していた夏凜だが、不意に頭の中が冷静となり、スマホの電源を切ってからしまうと、ポツリと呟く。

 

「……何をやってるのよ、私は。……そうよ、関係ない! 私は別に、部活なんて最初から行きたかったわけじゃないし! ……そうだわ! 神樹様に選ばれた勇者が、何を呑気に浮かれてるのよ……! 真琴だって、その辺をもう少しくらい自覚しなさいっての……!」

 

溜まっていた不満を排出できたからか、落ち着きを取り戻し、部室を出た。

 

「私は、あんな連中とは違う。真に選ばれた勇者なんだから……!」

 

そうして夏凜は学校を後にし、向かった先はいつも鍛錬の場としている有明浜。予め持って来ておいた木刀を両手に持ち、孤独に乱舞を繰り返していた。夏の暑い日差しが降り注ぐが、夏凜は動じない。

 

「(あいつらは所詮、試験部隊。私は違う。この世界の命運を、背負わされている……! 期待されてるのよ……! だから……! 『普通』じゃなくて、いいんだ)」

 

『今度会う時は、目一杯楽しもうな!』

 

不意に、脳裏に銀の言葉が浮かんでくる。それが夏凜の心にモヤモヤを生じさせていた。今頃、園児達とワイワイはしゃいでいる事だろう。本来ならそこに自身の姿もあっただろう。

自分が普通ではいられない事は分かっている。家族に、何よりも兄に認められたくて、振り向いてほしくて、ここまで血を吐くような思いで、同世代の少女達との競争を勝ち抜いてきた。ここで立ち止まってしまっては、ならない。

だが。それでも。1人でいる事の寂しさが、ここにきて表面化してきているようにも見受けられた。練習相手がいないというのは、ここまで虚しいものなのか。そう思いつつも、感情を押し殺し、木刀を一心不乱に振り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……夏凜さん、来ませんね」

「兄貴、もう時間ッスけど……」

 

一方その頃、集合場所となっていた児童館では、中々現れない夏凜の安否を気にかける者達の姿が。

 

「夏凜は遅刻か……」

「道に迷ってるのかもしれません……! 僕だってまだ不慣れですし、あまり外に出歩いた事なんてなくて……」

「迎えに行きたいけど、子供達も集まりだしてるし……」

「もう少し様子を見るか」

 

そう言って集合時間になるまで子供達の対応をしていたが、やはり現れる気配はない。

 

「と、藤四郎先輩……! 子供達の興奮が最高潮に……!」

「これは、サボり確定か」

「一応電話してみようよ! 真琴は手が離せそうにないし、あたしが!」

「お願いね、銀ちゃん!」

 

銀の提案で、夏凜に電話をする事に。が、ものの数秒もしないうちに、怪訝な表情を見せる。

 

「……あれ? おっかしいなぁ。一瞬繋がったと思ったら切れちまった」

「えっ? 何も言わずに切ったのか?」

「もう一度かけてみたらどうですか? ひょっとしたら、シャワー中で出れなかったとか!」

「それなら、手が滑っちゃったとも考えられるからね!」

 

それならば、という事で再度リダイヤルをかけてみるが、今度は先ほどよりも早くスマホを耳から離した。

 

「んんっ? 今度は呼び出し音もならないぞ?」

「えっ⁉︎ 夏凜ちゃん、電話にも出ないんですか? まさか、外の暑さで、どこかで倒れちゃったとか……⁉︎」

 

ひと段落ついた真琴が、心配そうな表情を浮かべる。

 

「はわわ〜⁉︎ みんな落ち着いて〜!」

「ヤバイな……! 子供達の興奮がさらに増して……!」

 

園子が園児達の相手に手一杯な様子を見るに、この場にいる13人全員で対処しなければ難しいだろう。こんな事なら迎えに行けば良かった、と後悔する銀。

今からでも、と思って外に出ようとする銀や友奈、真琴だが、風に呼び止められる。

 

「気持ちは分かるけど、今は勇者としての任務に集中しましょう」

「ですが、もし夏凜ちゃんが倒れてたりしたら、僕……!」

「信じるしかない。あいつなら、多分大丈夫だ。最強の勇者って言うんなら、きっとな」

 

そう言われてしまっては、反論する術がないのか、3人も押し黙って、依頼を遂行する事に。

 

「せっかく色々買って来たのに、残念ですね……」

「そう、だな。今日は真琴にとっても初めての部活動って意味でそうだが、夏凜にとっても別の意味で特別な日だし」

 

兎角の目線の先には、カレンダーがあり、その中の本日の日付、『6月12日』に着目していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は、17時を少し回った頃。有明浜での鍛錬を終えた夏凜は、コンビニで夕食の弁当と煮干しを買ってから帰宅。シャワーを浴びた後、自宅にあるランニングマシーンで更に一汗かいていた。

 

「……滞りなし」

 

刹那、インターホンの音が聞こえてきた。家主か、宅配便か。宅配便だとしたら大赦からの仕送りだろうか。そう思いながらマシーンを止める。インターホンが連続で押されているのが分かると、次第に不安が押し寄せてきた。

明らかに扉の向こうの相手は普通じゃない。そう思って不安な面持ちで、万が一に備えて木刀を片手に持ち、ドアを勢いよく開けた。

 

「誰よ!」

『わぁっ⁉︎』

 

聞こえてきたのは、驚きに満ちた男女の声。えっ、と思って顔を上げると、見知った人物達の姿が。

 

「あ、あんた達……?」

「び、びっくりさせやがって……! 訪ねてきた客人に向かって木刀を突きつけてくるかよ普通⁉︎」

「な、何度もインターホン押してくるそっちが悪いでしょ⁉︎ っていうか、どうしてここに……⁉︎」

「どうしてって、決まってるでしょ⁉︎ あんたね、何度も電話してるのに、電源オフにしてんのよ! だから心配して見にきたのよ」

「……あ」

 

そこで夏凜は、今朝において銀から電話がかかってきて、その後電源を切ってそのままにしていた事を思い出した。夏凜が銀に顔を向けると、当の本人は怒っている様子もなく、むしろホッとした様子だ。

 

「見たところ寝込んでたわけじゃなさそうだし、良かったな、真琴」

「はい……!」

「元気そうで良かったぁ!」

 

真琴と友奈も力強く頷く。

バツの悪そうな表情の夏凜は、どう謝ったら良いのか試行錯誤していたが、そんな彼女を余所に、一同は銀の案内で家に入っていく。

 

「んじゃ、立ち話もアレだし、あがらせてもらうわよ」

「それもそうだな」

「お邪魔するぜ〜!」

「ここが夏凜の住んでる部屋か」

「みんな、こっちこっち! あたしについてきて!」

「って、ちょっと待ちなさいよ! 何勝手にあがってんのよ意味わかんない! それから銀も、実家の案内みたいな事してんじゃないわよ!」

 

夏凜が喚きながら阻止しようとするが、勝手に侵入してくる一同に押し返されてしまう。そしてリビングに入り、周りをチェックした風が、ため息を一つついて一言。

 

「……銀から話には聞いてたけど、ホントに殺風景ね」

「どうだっていいでしょ⁉︎」

「ま、いいわ。ほら、主役は座ってすわって」

「みんなで準備に取り掛かるぞ」

『はい!』

「ちょ、ちょっと何言ってんのよ⁉︎」

 

夏凜は座る事なく困惑している。その間、部屋を物色したり、手に持っていた大きめの袋から菓子や飲み物を並べたりする真琴達。

 

「これすごーい! プロのスポーツ選手みたい!」

「こ、これ後で使ってみていいか⁉︎ 1分ぐらいでいいからさ!」

「勝手に触らないで!」

 

樹と兎角は、ランニングマシーンに興味津々だ。一方で、キッチンから驚きの声が。

 

「わー! ……水しかない」

「ほ、本当に水しかないですね……」

「勝手に開けないで!」

 

冷蔵庫を開けて中を見ていた友奈と昴が、中身の少なさに目を見開いている。

 

「ほらな? 途中のコンビニで補充しておいて正解だったろ?」

「銀ちゃんの前情報がなかったら、確かにちょっと物足りなかったわね」

「冬弥、そこの紙皿を取ってくれ。ここにお菓子を広げたい」

「了解ッス!」

「コップも、それぞれ名前を書いておくか。これだけいると誰のか分からなくなるし」

「はい、これペンです」

 

といった様子で着々と準備が進められている中、当事者である夏凜は困惑しっぱなしだ。

 

「何なのよ……! いきなり来て何なのよ!」

「えっと、あのね。……はい!」

 

準備がほぼ整ったところで、真琴がテーブルの下に置かれていた大きめの箱を開けて、夏凜に中身を見せた。

そこにはチョコで『お誕生日おめでとう!』と書かれたチョコ板を中心に、イチゴや生クリームの塊が円状に敷き詰められ、いわゆるバースデーケーキなるものがあった。

 

「ハッピーバースデー、夏凜ちゃん!」

『おめでとう(ございます)〜!』

 

巧だけは声が小さかったが、一同から祝福の言葉をかけられて、豆鉄砲をくらったような鳩になっている夏凜。

 

「これ、どうして……」

「あんた、今日が誕生日なんでしょ? ここにも書いてあったし、真琴もそうだし、銀からも教えてくれたわ」

 

そう言って懐から部員届を取り出して見せる風。確かに自身の誕生日も記載されている。ましてや、真琴は夏凜の幼馴染みであるが故に、彼女の誕生日の事も周知している。ただ、何故に銀が彼女の誕生日を知っていたのか。その答えは銀が指をさした先にあるカレンダーにあった。

 

「あの曜日だけ赤マルだったのが気になってさ。レクリエーションだけだったらそこまでする必要ないから、多分誕生日かなって思って真琴に確認したら、案の定ってやつだよ」

「えへへ。本当は、僕1人だけなのは寂しいでしょうし、せめて今年だけでも、勇者部の皆さんとお祝いできたら、と思ってたんです。でもそうしたら、友奈さんがもっと良いアイデアをくださいまして……」

「結城 友奈が……?」

 

夏凜は友奈に目線を向ける。

 

「うん! 誕生日が行事と被ってたのを知ってから、あ、って思ったの」

「歓迎会も含めて、誕生日会を開こうって事で、向こうにも事情を説明したりはしたんだぜ」

「そうですね。本当は子供達と一緒に児童館でやろうとは思ってたんですよ」

「サプライズで祝おうとしてたんだけどな」

「けどまぁ、主役が来ないんじゃ話にならないし」

「そうよね。焦るじゃないのよ」

「一応家に迎えに行こうとはしてたんだが、思った以上にヒートアップしてな」

「もうヘトヘトだったよ〜」

「それでこの時間まで開放されなかったって事だ。すぐに来れなくて、悪かったな」

 

まぁ、これでおあいこだろ、と結論づける藤四郎。夏凜には、彼らが詫びる意味が理解できなかった。そして、自分の誕生日を、真琴以外の人達が祝ってくれるなど、想像だにしていなかった。そもそも、良い歳頃なのにこうまでして盛大に祝ってくれる事は、記憶する限りでは、先ずなかった事だ。

 

「? どうした?」

「固まっちゃったぞ?」

「夏凜ちゃん……?」

「あれあれ〜? ひょっとして自分の誕生日も忘れちゃってたとか?」

「そ、そんな事はないと思いますけど……! 大丈夫、夏凜ちゃん?」

 

俯いた夏凜を気にかける一同。やがて、彼女の口から出た言葉はというと……。

 

「……アホ。……バカ、ボケ、オタンコナス……!」

「えっ?」

「何よそれ?」

「急にどうした?」

 

罵詈雑言を浴びせられるとは思わず、面喰らう一同だが、次の瞬間に見えてきたのは、全体的に朱色に染めた少女の顔。

 

「た、誕生日なんて、真琴以外に、祝ってもらった事なんて、全然ないから……! な、なんて言ったら良いのか、分からないのよ……!」

「ビュオォォォォォォォォォォォォォォ! ツンデレ〜」

「う、うっさい!」

 

目を輝かせている園子の評価に、火を吹いたように叫ぶ夏凜。部屋に笑い声が響き渡る。それから、兎角が目配せをして、真琴に定番の一言を促す。それを察した真琴は、真っ直ぐに幼馴染みを見つめ、そしてニッコリと微笑みながら、毎年この日にかける言葉を口にする。

 

「お誕生日おめでとう、夏凜ちゃん」

「……」

 

幼馴染みに見つめられて恥ずかしくなったのか、すぐに視線を逸らす夏凜。とはいえ拒んでいる様子もない。多少の紆余曲折はあったものの、サプライズバースデーは成功したようだ。

ひと段落ついたところで、一同は乾杯して、宴を大いに楽しんだ。

 

「冷えたコーラは格別ッス!」

「ほーら、夏凜も飲めのめー!」

「コーラで酔っ払うんじゃないわよ!」

「こういうのは気分よ、気分! 楽しんじゃえるのが、女子力ってもんじゃない?」

「俺達もいるって事も忘れてほしくはないけどな……」

「まぁ放っておくか。……ん、あの折り紙は」

 

巧が目線を外した先には、テレビの下の棚に置かれている、折り紙の鶴や、折り紙専用のガイドブックが。他の面々も、その存在に気づいた。

 

「夏凜さん、折り紙練習したんですか? 凄い上手です!」

「ヘヘッ、一応あたしとつきっきりで折り方練習してたしな!」

「へぇ、銀と一緒に」

「仕上げてきてはいたみたいだな」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ! み、みみみみみ見るなぁ!」

 

今日一の叫び声と共に、折り紙を隠すように立ちはだかり、背を向ける。犬吠埼姉妹や銀、園子はニヤついている。

一方で、友奈と兎角はいつのまにか立ち上がっており、カレンダーの日付に丸印を書き込んでいた。

 

「えっと、勇者部の予定と、私達の遊びの予定、と! えっと後は……」

「コラーッ! 勝手に書き込まないで!」

「勇者部は、土日に色々な活動があるからな」

「忙しくなるぞ」

「勝手に忙しくするな!」

 

次々と予定を埋められていき、頭を抱える事さえ忘れてしまう夏凜。

 

「そうだよ忙しくなるよ! 文化祭でやる『演劇』の練習もあるし!」

『……』

 

不意に全員の思考が一旦停止する。

 

「……あれ?」

「演劇……?」

「それ、いつ決まったんスか?」

「誰もそんな事提案してないぞ?」

「あ、あれれ? ひょ、ひょっとして、私の中のアイデアを勝手に口走っちゃっただけ、かも……!」

「バカなの?」

「すまんな。これが友奈ってやつだ」

 

苦笑いを浮かべる友奈に対し、間髪入れずにそう告げる夏凜。兎角も申し訳程度に謝る。すると、彼女の提案に賛同する者が。

 

「良いわね、演劇」

「へっ?」

「決まり! 今年の文化祭の出し物は、演劇でいきましょう! 藤四郎も園子も、それで良いわよね?」

「俺は構わないぞ」

「私も〜。そうなると、台本作りのネタ集め、頑張らないとね〜」

「結構軽いノリで決まったな」

「す、凄いですね、勇者部の皆さんは……」

 

真琴は終始、関心しっぱなしだ。

 

「というわけで、良い役を期待しててね〜、みよっし〜」

「いや、勝手に私を話に巻き込まないで!」

「いいじゃない。暇だったんでしょ?」

「い、忙しいわよ! トレーニングとかあるし……!」

「それ1人で⁉︎ 暗っ⁉︎」

「そう思うだろ? だからこないだは、あたしと合同練習してたんだ。模擬戦1本だけだけど」

「へぇ! もうすっかり仲良しさんだね!」

「う、うるさい!」

 

などと盛り上がる中で、遊月が真琴に声をかけた。

 

「良かったな、真琴」

「……はい!」

 

感極まったような様子で呟く真琴。こんなにも幼馴染みを盛大に祝ってくれた事に感謝が尽きないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくの間、宴は続き、頃合いとなったところでお開きとなった。静かになったところを見計らって、夏凜はブツブツ文句を言いながら、今回のパーティーで出たゴミを外に出しに向かう。

 

「ったくあいつら、ゴミを大量に増やしていって……。全く、どれだけ食べるのよ」

「あそこにいる大半は、大食感だしな。これくらいの量、造作もないんだろ」

「やれやれ、ね。その点、こうやって後片付けを手伝ってくれる人もいるから、色々と助かるわ」

「巧さん、銀さん、ありがとうございます」

「勇者は助け合いだしな! 遠慮するなって!」

 

なお、真琴と銀、巧はパーティーが終わっても、後片付けの為に居残ってくれていた。今日1日、疲れたとはいえ、夏凜の表情はまんざらでもない様子だ。銀と巧は目配せして、サプライズ成功を密かに喜んだ。

ゴミを出し終え、帰宅する3人を見送ってから、リビングに戻ると

テーブルに置かれてあったスマホに、着信メールが届いている事に気付いた。風からのメールで、『NARUKO』への招待、というタイトルがあり、URLも表示されている。

首を傾げた夏凜は、寝る支度を整えた後、メールの指示通りに登録を済ませる。インストール完了後、風を筆頭にメッセージが表示されてきた。

 

風:『あんたも登録しておいてね。今日みたいに連絡の行き違いがないように』

樹:『これからも仲良くしてくださいね』

冬弥:『よろしくッス!』

園子:『よろしくね〜』

真琴:『こちらこそ、よろしくお願いします!』

東郷:『次こそはぼた餅食べてくださいね。有無は言わせない』

 

「ぼた餅って……」

 

東郷のコメントを見て、思わずそう呟く夏凜。遊月も似たような心情らしく、コメントをしてくる。

 

遊月:『よほど未練だったらしいな、あの時の事』

兎角:『東郷らしいな』

昴:『そうですね』

藤四郎:『そうだな』

友奈:『ハッピーバースデー夏凜ちゃん! 学校や部活の事、分からない事があったら何でも聞いてね!』

銀:『勇者部五箇条一つ、悩んだら相談!』

 

ここで一旦コメントを入れた方がいいだろうと考え、夏凜は入力し始める。

 

夏凜:『了解』

 

すると、一息ついただけの僅かな時間を介して、多数のコメントが寄せられてきた。この連投には夏凜も驚きを隠せない。

 

友奈:『わー返事が返ってきた』

風:『ふふふ、レスポンスいいじゃない』

友奈:『わーーーい』

樹:『わーーーい』

冬弥:『わーーーい』

園子:『わーーーい』

銀:『わーーーい』

真琴:『わーーーい』

東郷:『ぼた餅』

遊月:『何でぼた餅⁉︎』

銀:『何でぼた餅なんだよ⁉︎』

藤四郎:『何故そこでぼた餅なんだ……』

冬弥:『何故そこでぼた餅なんスか⁉︎』

園子:『何でぼた餅なの、みもりん〜』

巧:『ぼた餅に反応し過ぎだ……』

兎角:『ぼた餅に反応し過ぎだろ』

 

東郷のコメントを皮切りに騒がしくなり、夏凜は慌ててツッコミを入れる。

 

夏凜:『うっさい!』

風:『ぶははははははははは!』

銀:『www』

冬弥:『www』

園子:『わらわらわら〜』

昴:『園子ちゃん……』

東郷:『ぼた餅』

兎角:『だから何でぼた餅⁉︎』

藤四郎:『兎角も反応してるし』

銀:『何でぼた餅なんだよ⁉︎』

昴:『何ででしょうか?』

遊月:『ひょっとして寝ぼけてないか?』

真琴:『もう遅い時間ですからね』

 

といった感じでぼた餅騒動(?)は幕引きとなり、代わりに友奈からメッセージが。

 

友奈:『これから全部が楽しくなるよ!』

真琴:『ありがとうございます!』

 

真琴からのメッセージの後、友奈から全員宛に写真が送られてきた。開いてみると、先ほどの誕生日会で撮った写真が表示されていた。中央には恥ずかしげな様子の夏凜が座っており、両隣りには真琴と銀がいる。改めて見返すと、恥ずかしさがぶり返してくる。

 

「全部が楽しくなる、か……。世界を救う勇者だって言ってるのに……。バカね」

 

電源を切り、仰向けになって目を閉じようとする夏凜。その表情には、自然と笑みがこぼれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、夏凜の誕生日会は、一応は成功となった。そしてこの日以降、夏凜の勇者部での様子は劇的に変わっていった。

 

「わー、夏凜ちゃん、1番乗りだ!」

「ここ最近は、早く来てるみたいだな」

「凄いですね!」

「……私は時間通りよ」

「その割には、その手にある煮干し入りの袋の中身が、半分も無くなっているようだな」

「待ってる間、ずっと食べてたようですね」

「う、うるさいわね! 前にも言ったけど、煮干しは完全食なのよ! 栄養バランスもいいし、健康にもいいじゃ……」

「いや、学校の中で煮干しを貪り食うのは、中学生なら夏凜ぐらいだろ」

 

すると、園子は目を輝かせてこんな事を。

 

「ピッカーンと閃いた! これからは、みよっしー改め、『にぼっしー』って呼ぼうよ〜! そっちの方がずっといいと思うから〜」

「賛成!」

「それは悪くなさそうだな」

「呼びやすい名称ですね」

「ゆるキャラみたいなネーミングをつけるなぁァァァァァァァァァァァァァァァァ! ……全くもう」

 

夏凜のシャウトが響き渡るが、観念したかのような表情に戻る。その様子を見て、藤四郎はさも安心したような顔つきになる。

 

「あだ名はともかく、夏凜もようやく、勇者部員としての自覚が出てきたみたいだな」

「……ふん! また頼んでもいないのに、勝手に真琴とかに心配されたら迷惑だもの。お節介なあんた達に」

「……フ。まぁ、そういう事にしておくか」

「何よその含み笑い……。バカにしてるでしょ?」

「そうかな?」

 

兎角は平然とそう答える。

 

「それじゃあ、勇者部14名全員が揃ったところで、今日も張り切っていくわよ! じゃあ先ずは依頼内容からだけど、これは現地に向かうついでに説明するから、外に出る準備してね」

 

そうして外出の準備を始める一同。そんな中、夏凜が銀にソッと歩み寄ってきた。

 

「ん? どしたの夏凜?」

「えと、その……。これ」

 

しどろもどろに話しかけてきた夏凜が、誰にも気づかれないように、銀にある物を手渡した。

 

「……これ、鍵?」

「い、家の合鍵よ。一人暮らしだし、好きな時に使ってくれても良いから」

「でも良いの? こんなの貰って」

「い、一応、特別なんだからね! 銀なら、まぁ、色々考えて大丈夫そうだし……。でも、サプリを大量に取ってくのだけはダメよ!」

「いや、そんな事はしないけどさ……。でも、ありがとな! じゃあ今度行く時は、なんか作ろっか! レパートリー増えると楽しいぞ!」

「そ、そう……。あ、あとさ、もし時間が空いてたら、で良いんだけど……」

「分かってるって。鍛錬に付き合ってくれ、だろ? ロチモンよ! あたしでよければ、何なりと」

「助かるわ。あんたとなら他の連中よりかは上手くやってけるかもしれないし」

「夏凜には、真琴っていう最高のパートナーがいるだろ?」

「! う、うっさいわね! それはそれ、これはこれよ!」

「はいはい」

 

軽くからかう銀と、恥ずかしげな表情の夏凜。そんな2人の様子を見守っていた風だったが、頃合いと見て、話しかける。

 

「銀、夏凜! ガールズトークは後にして、みんなもう準備できてるから、さっさと校外活動を始めるわよ!」

「分かってるわよ! ったく、せわしない先輩ね」

「ハハハッ! でもああいうところが、風の良いところなんだけどな!」

 

そう言って、2人は友奈達の後を追いかける。家の合鍵を渡したという事は、それだけ銀の事を信用しているのだろう。銀は嬉しさ半分、そしてその期待に応えられるようにと、俄然ハッスルを露わしながら、今日も勇者部の活動に励んでいく。

三ノ輪 銀と三好 夏凜。この2人の息の合った掛け合いが、後に勇者部のみならず、校内においても『最強のコンビ』と謳われる事に繋がるだが、それはまた別のお話。




今回は予定よりも早く、園子の、夏凜に対するあだ名の変更を行いました。その方が後々の展開を考えると都合がいいかと思いまして。

……未だに謎なのですが、東郷は何故に『ぼた餅』を執拗に連呼していたのだろうか? (寝ぼけていたのか、それとも……)

それはともかく、次回からは、PSP版のゲーム『樹海の記憶』を基としたストーリーを進めていきます。(次回予告等は作りません)
大体6話編成でやっていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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