結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました!

今回から『樹海の記憶』編を進めていきます! 諸事情で、週一のペースで更新していく方針です。



樹海の記憶編 EP.1 〜少年〜

「じゃあ、ここからは次の議題。樹、みんなにプリント配ってあげて」

「はーい」

「俺も手伝うッス」

「あたしも」

 

香川県の、海に面している讃州市にある讃州中学校の、とある部室。そこには他校とは一風変わった部活動が行われている。

 

「……というわけで、今週末は子供会のレクリエーションをお手伝いします」

「遊びたくてウズウズしてる、元気いっぱいの子供達が相手よ! みんな心してお手伝いに臨むように!」

「了解です」

「具体的には何をするんですか?」

「そう、だな。折り紙の折り方を教えるのと、一緒に絵を描いたりするのと……。まぁ、やる事はそこそこあるが、大体はこれまでと同じだな」

「またそれ? なんか飽きそうじゃないか?」

「マンネリってやつだな。まぁ確かにな」

「銀のいう事も一理あるのよね。まぁ、今回は間に合わないからしょうがないにしても、そろそろ新ネタを仕入れないと……」

 

部長や副部長である風、藤四郎を中心に、今後の活動を思案している。すると、部員の何人かが提案を始めた。

例えば樹や園子。

 

「あ、お姉ちゃん。今度、園子先輩と一緒に図書館に行くんだけど、紙芝居を借りて読み聞かせをするのってどうかな?」

「ナイスよ樹! じゃあ園子も頼むわね」

「お任せあれ〜」

 

例えば昴。

 

「準備が大変になるかもしれませんが、簡単な料理教室を開いてみるのはどうでしょうか? なるべく手間のかからない料理を、僕の方で調べておきますから」

「それも一応候補に入れておくか」

 

例えば東郷。

 

「でしたら、国防についての知識を、子供達にも分かりやすく」

「はいはい。それはまた今度ね」

 

例えば巧。

 

「国防はともかく、いざという時の為に、物の修理に関する知識はあってもいいかもな。ドライバーやペンチの使い方の講座を開いて」

「……えーと、巧? これ一応幼稚園児対象だからね? 小学生相手でもギリ無理そうなやつじゃないかな?」

 

例えば友奈。

 

「はいはい! 私、新しい押し花作ってきました!」

「またそれかよ……って、それめちゃくちゃ虫に食われてんじゃねぇかよ⁉︎」

「なんか怖いッス⁉︎」

「子供泣くに決まってんだろ⁉︎」

 

例えば夏凜。

 

「まだまだ詰めが甘いわね。元気いっぱいの幼稚園児を相手にするなら、実践を交えた鍛錬が合理的なのよ!」

「夏凜には、暴れ足りない子のドッジボールの的になってもらおうかしら」

「ちょっと! 私の意見無視してんじゃないわよ! 大体、やられっぱなしになんかならないわよ!」

「お前なぁ……。小さい子相手に大人げない事言うなよ」

「ぐぬぬ……」

「わ、わわっ⁉︎ 落ち着いてください! 夏凜ちゃんも先輩方も!」

 

例えば東郷(Take2)。

 

「はい! 私、みんなで踊れる国防体操を考えてき」

「いやしつこいな! 1人で2つ目の意見とかアリかよ⁉︎」

「どこまで布教させたいんだよお前は……」

「みもりんはブレないね〜」

「だな」

 

などと、和気あいあい(?)とした雰囲気が室内に充満しているこの部活動は、通称『勇者部』と呼ばれ、その知名度は市内はもちろんの事、聞くところによれば県内でも有名になりつつあるのだとか。

校内や地域住民に密着し、皆の為になる事を勇んで実施する。それが、讃州中学勇者部の『表向き』の活動方針ではあるのだが……。

 

「ひゃ⁉︎ じゅ、樹海化警報です!」

 

室内に何の前触れもなく鳴り響いた、警告を促すようなアラーム。途端に部員達の顔つきが一変する。

 

「……お役目の時間だわ」

「おいでなすったな!」

「今回も神託通りとはならなかったな」

「やれやれ……、忙しいわね」

「文句は後で! 行くわよみんな! 勇者部、出撃!」

『了解!』

 

そう言って一同はスマホを片手に持ち、画面をタップする。様々な種類の花びらが、光と共に計14人の少年少女達を包み始める。地響きと共に、外の世界がその姿を変える。やがて光が解けて、兎角達の姿は『普通』ではなくなった。

勇者部の本当の使命。それは、このような事態に陥った際に対応し、文字通り国防に励む事。そういった事をやってのける者達を、人は、『勇者』、そして『武神』と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、周囲は先ほどまでいた部室ではなく、巨大な根や木々に覆われた、異質な世界へと変貌を遂げていた。そこは通称『樹海』と呼ばれ、この世界の恵みでもある神樹によって創り出された、いわば『巨大な結界』。この結界に入り込めるのは、神樹によって選ばれた勇者、武神のみ。そして彼らはこの結界の中で、ある敵と戦わなければならない、という使命を背負っている。

その敵というのは……。

 

「昴、バーテックスの姿は確認できるか?」

「いいえ。まだ壁のすぐそばにいるみたいで、肉眼では確認できません。レーダーにも映っていないようです」

 

兎角がその名を口にした『バーテックス』こそが、人類の天敵として彼らが暮らす日常を、人知れず脅かす存在。バーテックスの目的は、神樹の破壊。全ての動力源である神樹の消滅は、即ち世界の終焉を意味する。バーテックスに通常の兵器は通じない事が、神世紀以前の記録からハッキリと示されており、そんな敵に唯一対抗できる手段として、神樹を祀る一大組織『大赦』の手によって、戦う手段として勇者システム並びに武神システムが開発され、こうして兎角達の手に渡っている。

 

「あんた達! 遅れをとるんじゃないわよ!」

「こらこら、仕切るんじゃないの! 上級生の言う事に従うように!」

「こっからは実践! 部活動は関係ないでしょ!」

「まぁそう言うなって夏凜! 風も藤四郎も、あたしらのリーダーとして頑張ってくれてるんだからさ!」

「銀、あんたねぇ……」

 

銀にたしなめられて、何も言い返せない夏凜。

 

「とにかく、皇国の興廃は、この一戦にあります」

「よぉし! やってやるッス!」

「みんなぁ、いっくよ〜!」

「ふん、みんなやる気は十分ってわけね。だったら部長さん、さっさと指示出して」

「……随分と偉そうな部員がいるけど、まぁいいわ」

 

込み上げてくるムカつきをどうにか抑え込んだ後、リーダーよろしく、大きな声を張り上げる。

 

「勇者部、突撃! バーテックスを殲滅する!」

『了解!』

 

そして彼らは、神樹からなるべく離れた位置で侵攻を阻止するべく、壁のある方へ向かって前進する。

出発地点と海の間の陸地の、中間地点にたどり着いた時、先んじて様子を伺っていた昴が声を張り上げる。

 

「バーテックスの侵攻を確認しました! こちらに真っ直ぐ向かってきます!」

「でかしたぞ昴! なら、ここで防衛ラインを張るぞ!」

 

藤四郎がそう指示したその時だった。

 

「! 待ってください! バーテックスの周囲に、正体不明の物体が……!」

「何だって⁉︎」

「うわっ! なんか変なのが出てきた⁉︎」

 

昴に続き、他の面々も、目の前の『異変』に気がつく。

悠然とした様子で向かってきたのは、ピンク色の異形。『乙女座』をモチーフとした『ヴァルゴ・バーテックス』が、布状の物体を揺らしながら、侵攻している。生き物のようで、無感情な兵器を思わせる。それだけなら勇者達にとってみれば、さほど驚きもしない事例なのだが、彼らが気になったのは、乙女型と共に向かってくる存在だ。

乙女型と比較すれば、小粒サイズではあるものの、その姿に統一性が見受けられない。それが目視だけでも何百体も確認できれば、さすがの勇者達も驚きを隠せない。

 

「な、何あれ⁉︎ あれもバーテックスなの⁉︎」

「わ、分からん。あんなの今まで見た事ないぞ……!」

「レーダーにも詳細が出てこないとなると……。ひょっとしたら、大赦も把握していない、何らかの問題が発生しているのかも知れない」

「正体不明の取り巻きがいるけど、バーテックスと一緒にいる以上、敵よ! 行くわよ、みんな!」

『了解!』

「相手の出方が分からないが、いつも通りに行くぞ! 東郷と遊月、真琴は後方からの援護を! 他の面々は2人1組で散開して対処だ!」

「分かりました!」

「全力で支援します!」

 

下手に時間をかけるわけにもいかない為、若干の不安を残しつつも、一同は戦闘に移った。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァ!」

「そりゃあ!」

 

友奈・兎角ペアは、真正面から拳やレイピアで弾き飛ばしていく。大雑把な動きで一掃する友奈を援護する形で、兎角のレイピアによる突きが掻い潜る形で敵を倒していく。

 

「ヘヘッ! 数は多いけど、威力は大した事ないな! このまま押し切る!」

「油断するな銀! どんな仕掛け方をしてくるか分かっていない以上、警戒心は捨てるな!」

「分かってるって!」

 

銀・巧ペアも正体不明の敵を相手にし、銀が2丁の斧で勢いよく切り刻んでいき、巧は火球を飛ばして討ち漏らしを片付けていく。

 

「数が多いなら、これで……! えぇーい!」

「まだまだッスよ!」

 

樹・冬弥ペアも正体不明の敵の殲滅に取り掛かっていた。特に樹の武器であるワイヤーは、一度の攻撃で複数体を倒すのに最適であり、その貢献度は高い。冬弥も負けじとハンマーを振り回し、敵を薙ぎ払っていく。

 

「やるわね樹! 自慢の妹だわ!」

「褒めるのは後だ。俺達もやるぞ」

「モチのロンよ! どんな敵か知らないけど、あたしの気高い女子力の前じゃ無力!」

 

妹や弟分に触発され、風・藤四郎ペアも大剣や大鎌を振り回し、敵を一掃する。

 

「大人しくなさい……!」

「このまま撃ち続けろ!」

「了解です!」

 

東郷・遊月・真琴ペアも、後方から正体不明の敵を攻撃しつつ、隙を見て乙女型にも銃撃を与えて、怯ませる形で侵攻を阻止する。時折、乙女型も反撃とばかりに尻尾から卵型の爆弾を飛ばして遊月達に攻撃を仕掛けるが、

 

「させません!」

 

昴が前に出て、バリアを張って爆撃を防いでいく。その隙に、

 

「完成型勇者の力、なめるなぁ!」

「えぇぇぇぇぇい!」

 

夏凜・園子ペアが双剣を振り回して斬撃を与えたり、槍で乙女型を押し返していく。

気がつけば、周りを取り囲んでいた取り巻き達は全滅しており、残るは乙女型となっていた。

 

「ようやく戦力を削りきったか」

「つ、疲れたッス……」

「けど、これであとはあのバーテックスだけだ! もう一踏ん張り行くぞ!」

「はい!」

 

取り巻き達を相手にしていた兎角達も、夏凜達を援護する形で、乙女型に攻撃を仕掛けていく。卵型爆弾も全て回避し、着実に攻撃を当て続けていくと、乙女型の動きが鈍くなった。好機と見た昴が叫ぶ。

 

「今です! 封印の儀を!」

「よぉし! 行くわよ、みんな!」

「了解しました!」

 

後方支援していた東郷達も加わり、14人の勇者、武神が乙女型を取り囲み、気合いを入れる。途端に乙女型の真下の地面が光り出し、顔の部分から逆四角錐の形をした『御霊』が飛び出てきた。地面には数字が表示され、徐々に数値が減っていく。

バーテックスはその驚異的な再生能力の高さ故に、通常の攻撃では倒せない。唯一の決め手として、『封印の儀』と呼ばれる手順があるのだ。勇者達の力でバーテックスを抑え込み、心臓の役割を果たす御霊を剥き出しにさせて、破壊する事で、初めてバーテックスを倒せるのだ。

 

「出てきたぞ!」

「一気に畳み掛けるわよ!」

 

御霊の姿を確認し、何人かが一斉に飛びかかる。が、御霊の破壊は、一筋縄ではいかない。

 

「硬ってぇ!」

「くっ……! そう簡単にはやられてはくれないか!」

 

それが証拠に、あらゆる角度から武器を振り下ろして攻撃をしてみるものの、御霊はその強固さ故に、ビクともしない。

 

「この程度の事で、引き下がるわけにはいかないのよ!」

「私達なら、出来る!」

 

だが、夏凜や友奈がそう叫ぶように、一同は諦める事なく攻撃を展開していく。

 

「ミノさん!」

「? 何だ?」

 

すると、園子が近場に降りた銀を呼び止める。

 

「敵の硬さは石像並みだから、全体から打ち付けるよりも、一点集中が良いと思うよ〜」

「なるほどな! それなら、この三ノ輪 銀様に、任せときなぁ!」

「待ちなさい銀! あんた1人に良い格好させないわよ!」

 

銀に続いて、偶然近くにいた夏凜も並び立つ。

 

「なら、2人同時にやろう! せーので!」

「……ふん! なら遅れをとるんじゃないわよ!」

「おう!」

 

そうして2人は同じ一点を見つめ、武器を握る手に力を込める。

 

「「せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇの!」」

 

鋭い斬撃が御霊を襲い、一つの面だけではあるが、僅かに亀裂が入ったのを、遊月は見逃さなかった。

 

「このまま押し切る!」

 

遊月は突撃し、手に持っていた弓を2つに割って、鎌として持ち替える。

 

「ハァァァァァ!」

 

そして飛び上がり、先ほど銀と夏凜がつけた傷をなぞるように、鎌を振り下ろす。亀裂は遠くから見ても分かるほど入り、これを見た遊月が叫ぶ。

 

「トドメは任せたぞ、友奈!」

「うん! 任せて!」

 

比較的攻撃力の高い友奈に合図を送り、当人は待ってましたとばかりに拳を固め、飛び上がる。

 

「オォォォォォォォォ! 勇者ぁ! パァァァァァァァァァンチ!」

 

渾身の一撃がストレートに決まり、御霊に付いていた傷は更に広がった。そして、衝撃が全体に行き渡ったところで御霊は粉々に砕け散り、光と共に昇天。それに伴って、乙女型も砂となって消滅していった。

 

「やったッス!」

「バーテックスの消滅、確認!」

「みんなよくやったわ!」

「今回も大勝利だね! ブイ!」

「ふん! まぁこの私がいれば、勝利は必然なのよ!」

 

戦闘の終了を確認した一同は、ホッと一息つく。

遊月もまた、地面に降りて東郷のいる所に向かって労おうとする。

 

「!」

 

不意に、視界の隅に人影らしきものが映りこみ、ハッとなって顔を右に向ける。一瞬ではあったが、何かが樹海の奥へと走り去って行くのが見えた。呼び止めようと、口を開くよりも早く、その存在は姿を消してしまった。

 

「あれは……」

 

遊月は立ち止まり、呆然と樹海の奥を見つめる。

 

「(あれは、気のせいなんかじゃない。間違いなく、人間だった)」

 

背を向けていた為か、顔までは確認出来なかったが、人の形をしていた事には確信が持てる。

 

「(背丈は、俺よりも小さかった……。樹や冬弥ぐらいか。どちらかといえば小学生にも見えたな……。それに雰囲気からして、男の子だ。でも、そもそも樹海の中で動けるのは、神樹様に選ばれた俺達だけのはず……。だとすればあの子は……)」

 

僅かに見えた姿を思い出す遊月だが、その人物像に心当たりはない。それに、気になる事は他にもあった。

 

「(今日のお役目、どうにも分からない事がある。さっきのあの巨大なバーテックスと共に侵攻してきた生命体……。初めて見る敵だった。何で今回になって出てきたんだ……? 何かの前触れなのか……?)」

「遊月君……?」

「!」

 

不意に声のした方を振り向くと、東郷が怪訝な様子で顔を覗き込んできた。いつのまにか向こうから寄ってきたようだ。

 

「東郷か」

「どうしたの……? ひょっとして……」

「いや、大丈夫だ。何でもない。それよりみんなの所に行こう」

「……そうね」

 

そう返事をした東郷は、一瞬だけ遊月に気づかれないように、彼が見ていた方角に目をやり、首を傾げながら、遊月と共に友奈達の元へと戻っていった。

 

 

 

 

だが、彼らはまだ知らない。

遊月を初めとした、勇者部一同が今回の件で感じた『違和感』は、あくまで序章に過ぎないという事に……。

 




最近は全国各地で猛暑日が続いておりますが、体調管理には充分お気をつけてください。


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